古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。よろしくお願いします。

 古村治彦です。

 

 今回は『代表的日本人』(内村鑑三著、鈴木範久訳、岩波文庫、1995年)を皆様にご紹介します。この本は1908年にRepresentative Men of Japanとして刊行されたものの翻訳です。

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内村鑑三

 内村鑑三(1861~1930年)は、明治期から活躍した宗教家であり、教育家です。内村鑑三は1877年に第二期生として札幌農学校(現在の北海道大学)に入学し、翌年にキリスト教の洗礼を受けました。1884年に渡米し、アマースト大学とハートフォード神学校で学びました。帰国後、複数の学校で教鞭を執ります。1891年に当時食卓で勤務していた第一高等中学校(現在の東京大学の前身校)で不敬事件を起こしました。これは教育勅語奉読式において、明治天皇のご親筆である署名に最敬礼しなかったということ非難を受け、退職を余儀なくされたという事件です。貧窮生活の中、その後著作活動に入ります。また、宗教的には、無教会主義を主張し、聖書研究会を始めます。


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代表的日本人 (岩波文庫)


 『代表的日本人』は内村鑑三の代表作です。日本歴史上の偉人を5名選び出して、その生涯を紹介しています。口語体で大変わかりやすい文体です。教会で聖職者が参会者に話しかける口調を文章にしているのだそうです。5名の偉人は西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人です。内村は日本で生まれ育ったキリスト教徒として、この5名を選び出し、西洋世界に日本の精神性の高さを紹介することを目的にして本書を書きました。

 

 ここに出てくる西郷隆盛と中江藤樹は陽明学の学徒として知られています。陽明学は儒学の一派で、「知行合一」を基本概念にして、実践を重視する学派です。江戸末期から明治維新にかけて活躍した人々の多くが陽明学を学んだ人々でした。内村鑑三が西郷隆盛と中江藤樹を偉人の中に選び出したのは、陽明学とキリスト教の親和性の高さを物語っていると思われます。「日本にはキリスト教はなかったが、それによく似た道徳はあり、それに基づいて行動した偉人たちがいる」ということを西洋社会の読者たちに訴えたかったのだろうと思います。更に言えば、中国で生まれた陽明学の中にキリスト教の影響はあるのだろうと思います。

 

 内村鑑三が選び出した5名、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人に共通することは何かということであれば、その精神性の高さであると思います。内村もその精神性の高さを評価し、それを西洋社会に訴えることで、日本は遅れた国ではないし、逆にこの精神性の高さがあったので、短期間で西洋諸国、列強と伍するところまで発展できたのだと訴えたかったのだと思います。

 

 その精神性の高さは「誠意」という言葉に集約されます。誠意を内村鑑三はどのように訳したのか分かりませんが、sincerityとでもしたのでしょうか。『西郷南洲翁遺訓』でも誠意を強調しています。ここで言う誠意とは、天の道に従うことを一心に一身を賭けて行うということで、ひとりよがりの善意ということではないようです。天意を知り、それを実行するということのようです。

 

 ここで言う「天」、西郷隆盛が好んだ言葉である「敬天愛人」でも使われている言葉ですが、これは神、超越的な存在ということになります。「敬天愛人」という言葉は儒教にもあるようですが、西郷隆盛は中村正直が訳したスマイルズの『西国立志編』に出てくる、キリスト教の諸原理を表現した言葉である「敬天愛人」に感動し、使うようになったということです。また、西郷は「人を相手にせず、天を相手とせよ」という言葉も遺していますが、ここで言う天も神ということになります。

 

 また、日蓮上人が取り上げられているのは、内村鑑三の無教会主義、聖書重視の姿勢と、日蓮上人の法華経に対する帰依が重なっているからだと思われます。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の信者は「啓典の民」と呼ばれるように、それぞれに経典、聖書が存在し、人々はそれを学び、敬います。日本の仏教は様々な宗派に分かれますが、日蓮は法華経こそが仏教の根本経典であるということで、それに帰依することを決心した、根本経典に立ち返るという点で、内村にしてみれば、マルティン・ルターにも匹敵する人物ということになったのでしょう。

 

 本書『代表的日本人』は、『武士道』(新渡戸稲造著)、『茶の本』(岡倉天心著)と並ぶ、英語で書かれた日本紹介の古典的名作です。わかりやすい日本語と訳注がついています。是非お読みいただければと思います。

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 今回は戦闘的左派antifaに関する論稿の後半部をご紹介します。著者のベイナートはここで重要なことを書いています。それは、暴力肯定、戦闘的であることは、自分たちを反対者と同じ存在にしてしまうという批判です。私はこの指摘ができるベイナートを尊敬しています。

 

 戦闘的左派antifaは若者を中心にして勢力を拡大しています。人種差別主義者や白人優越主義者たちが集まっている場所に出て行って、その集会の開催を阻止し、そのためには暴力を使います。これに対して、人種差別主義者や白人優越主義者、そして、トランプ支持者たちは自分たちの権利が侵害されているという意識を持ち、さらに先鋭化し、激しい行動に出ます。そして、被害者意識から更なる暴力をふるい、殺人事件まで起こしています。私は、白人優越主義、人種差別主義、ネオナチには一片の理解も共感もありません。しかし、こうした考えを信奉する人々とトランプ大統領を支持し、投票した人々をいっしょくたに扱うことには反対です。

 

 暴力は何も生み出さない、というきれいごとを言うつもりはありません。しかし、自分の権利が侵害される、生命が脅かされるといった場合に緊急的に暴力をふるうことは仕方がありませんが、それも過剰であってはなりません。

 

 ベイナートの論稿によると、antifaの活動家たちは、「人種差別主義者や白人優越主義者が集まって考えを述べることは、ひいては少数派に対する暴力を生み出すから、それを事前に阻止しているのだ」と述べているそうすが、これはアメリカの予防的先制攻撃(preemptive attack)の論理と変わりません。私は彼らの暴力肯定は、こうした論理から認められるものではないと考えます。

 

 また、antifaの活動家たちは、「どのアメリカ人が集会を行うことが許され、誰には許されないのか」を決める権威を持っている、と主張しているそうですが、これは大変思い上がった考えであると言わざるを得ません。何が正しいのかを決めるのは自分(たち)だ、という考えを持ち、それが実行されたとき、どれほどの悲劇が起きてきたかは人類の歴史を見れば明らかです。

 

 こうして見てくると、「正しさ」を自分たちで決めて、そのうえで反省がない場合、大きな失敗が起きるという人類の歴史でみられる現象が、現代のアメリカでも起きていると言わざるを得ません。トランプ支持者の中に人種差別主義者や白人優越主義者が混ざっていることは間違いありません。しかし、「トランプ支持者たちは人種差別主義者で、白人優越主義者で、ファシストだ」などと言うことは間違っています。彼ら全員がそうではないからです。そこをいっしょくたにして暴力をふるう対象にする、という行為は左派の持つ、寛容性や多様性というプラスの面を大きく損なうものです。

 

(貼り付けはじめ)

 

ポートランドはこうした状況を生み出すうえで最も重要な場所と言えるだろう。アメリカの太平洋岸北西部は長年にわたり、白人優越主義者たちを魅了した場所であった。白人優越主義者たちは複数の人種が共に生活する東部や南部からすると安息所のような場所だと考えた。1857年、オレゴン(当時は連邦直轄領)は、アフリカ系アメリカ人の居住を禁じた。1920年代まで、オレゴン州はクークラックスクラン(KKK)のメンバーが人口に占める割合が全米で最も高い州であった。

 

1988年、ポートランドのネオナチがエチオピアからの移民を野球のバットで殺害した。その直後、ポートランド州立大学の講師で『ファシストたちに抗して』の著者アレックス・リード・ロスは、「反ナチスのスキンヘッズたちが人種偏見に反対するスキンヘッズ(Skinheads Against Racial Prejudice)の支部を立ち上げた。その直後、ポートランドで反ファシスト行動(Anti-Fascist Action)グループが結成された」と書いている。

 

トランプ時代の現在、ポートランドは反ファシズム闘争の砦となっている。トランプ当選後、数日にわたって、覆面をした活動家たちはデモ行進をしながらショーウィンドウを破壊した。今年の4月初旬、antifaの活動家たちは、ワシントン州に属するヴァンクーバー(オレゴン州の都市ポートランドの都市圏を形成している)で行われた「トランプと自由のためのラリー」に対して発煙筒を投げ込んだ。地元紙はこの時の大乱闘について、ライヴ会場での観客同士の押し合いへし合い(モッシュピットと呼ばれる)のようであったと書いた。

 

反ファシズム活動家たちがポートランドの82番街でのパレードを中止するように圧力をかけてきたとき、トランプ支持者たちは「マーチ・フォ・フリー・スピーチ」デモで対応した。デモの参加者の中に、ジェレミー・クリスティアンがいた。クリスティアンは屈強な男性で犯罪歴があり、アメリカ国旗を振り回していた。クリスティアンは人種に関する罵詈雑言を喚き散らし、ナチス式の敬礼を繰り返した。それから数週間後の今年5月25日、クリスティアンだと思われる男性がantifaを「パンクファンの尻軽女たちの集まり」と呼んでいる映像が公開された。

 

翌日、クリスティアンは電車に乗り、「有色人種」が都市を破壊していると叫び始めた。彼はたまたま乗り合わせていた10代の少女2人に絡んだ。1人の少女はアフリカ系アメリカ人で、もう1人はイスラム教徒であることを示すヒジャブをかぶっていた。クリスティアンは2人に対して、「サウジアラビアに帰れ」「自殺して果てろ」と言い放った。少女たちは電車の後ろに逃げ、3名の男性がクリスティアンと少女たちの間に立った。1人が「どうぞ、この電車から降りてください」と言った。クリスティアンはこの3人をナイフで刺した。1人は電車の中で出血多量で亡くなった。もう1人は病院に運ばれた後に死亡宣告された。1人は何とか命を取り留めた。

 

このサイクルは続いた。クリスティアンの事件から9日後、トランプ支持者たちはポートランドで再びデモを開催した。このデモでは、バークリーで反ファシズム活動家を殴打したチャップマンも姿を現し、参加者たちの称賛を受けた。antifaの活動家たちは警察が介入し、スタンガンと催涙ガスを使って解散させるまで、デモに対してレンガを投げつけた。

 

ポートランドで失われたものは、マックス・ウェーバーが国家が機能するために不可欠なものと考えるものそのものである。それは正当な暴力の独占である。antifaの構成員のほとんどがアナーキストであるため、反ファシストの人々は白人優越主義者たちが集まることを政府が阻止することを望まない。彼らは、政府の無能さを声高に叫びながら、自分たちで阻止したいと望んでいる。他の左派グループの活動家たちからの支援を受けて、彼らは政府の邪魔をすることに一部成功している。デモ参加者たちは今年2月、市議会での会議に何度も乱入した。それは会議が非公開で行われていたからだ。2017年2月と3月、警察の暴力とポートランド市役所のダコタ・アクセス・パイプラインへの投資に抗議している活動家たちはテッド・ウィーラー市長を徹底的に追い回した。家まで付け回し、市長はホテルに避難した。パレードの主催者に送られてきたEメールには憎悪に満ちた言葉が書き連ねられていた。その中には「警察は私たちが道路を封鎖するのを阻止することはできない」という言葉もあった。

 

こうした動きをトランプ支持者たちは恐怖感を持って受け止めている。彼らはリベラル派の拠点では、彼らの言論の自由を守ることが拒絶されているのだという猜疑心を持っている。トランプ支持者であるジョーイ・ギブソンは6月4日のデモを組織した人物である。ギブソンは私の取材に対して、「私が最も不満に思っているのは、リベラル派の拠点となっている町の市長や町長たちが警察を出動させないことです。彼らは保守派の人々が集まって話すことを望まないのです」。デモの安全を守るために、ギブソンは極右の民兵組織「オース・キーパーズ」を招いた。今年6月末、マルトノマウ郡共和党代表ジェイムズ・バカルもまた安全のために民兵組織を使うだろう、それは、「デモ参加者はポートランドの町中は安全ではないと考えている」からだ、とバカルは述べた。

 

antifaの支持者たちは権威主義に反対しているantifaの活動家の多くは、中央集権化された国家という概念に反対している。しかし、立場の弱い少数派を守るという大義名分の下に、反ファシズム活動家たちは、どのアメリカ国民が公共の場で集まることができ、誰ができないかを決定する権威を持っていると自認している。彼らが持つという権威は民主的な基盤の上には立っていない。彼らが避難している政治家たちと違い、antifaに参加している男女は投票で追い出すことはできない。彼らは選挙の洗礼を受けていないし、そもそも彼らは自分たちの名前も明かしてはいないのだ。

 

antifaが自認する正当性は政府の正当性とは反比例の関係にある。トランプ時代において、antifa運動がこれまでにないほど勢いを増しているのはここに理由がある。ドナルド・トランプ大統領は、リベラルで民主的な規範を馬鹿にし、その消滅を望んでいる。こういう状況の中で、進歩主義者たちは選択することを迫られている。彼らはフェアプレイのルールを再確認し、トランプ大統領が行う心をむしばむような行為を制限しようとすることができる。そうした努力の多くは失敗してしまうだろう。もしくは、強い嫌悪感、恐怖感、道徳的な怒りの中で、人種差別主義者やトランプ支持者の政治的な諸権利を否定することもできる。ミドルベリー大学、バークリー、ポートランドにおいて、後者の方法が採用された。そして、特に若い人たちの間でそうした方法が拡大し続けている。

 

憎悪、恐怖、怒りは理解できる。しかし、一つ明確なことがある。ポートランドの町中で共和党員や支持者たちが安全に集まることを妨げる人々は、「自分たちはアメリカの右派の中で大きくなっている権威主義に強く反対しているのだ」と考えているのだろう。しかしながら、実際のところ、そうした人々は、その思いとは裏腹に、反対している相手である人種差別主義者、白人優越主義者、トランプ支持者といった人々に対しての同盟者、協力者となってしまっているのだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





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 古村治彦です。

 

 今回は、アメリカの現状を理解するうえで重要な論稿の前半分をご紹介します。次回に後半部をご紹介します。筆者は私も尊敬しているピーター・ベイナートです。

 

 この論稿で、ベイナートは暴力行為をいとわない左派グループの台頭について論じています。antifaという運動について取り上げています。「antifa」という言葉は、「反ファシスト(antifascist)」や「反ファシスト行動(Anti-Fascist Action)」を縮めた言葉で、ファシズムやファシズムを信奉するファシストに反対する、ということです。antifaの活動家たちは、人種差別主義者や白人優越主義者、ネオナチ、トランプ支持者たちを攻撃しています。それに対して、攻撃を受けている側も反撃しており、現在のアメリカの暴力的な雰囲気がこうして生み出されています。

 

 ベイナートは現在の戦闘的左派antifaと人種差別主義者や白人優越主義者、ネオナチ、トランプ支持者たちのぶつかり合いについて具体的なケースを取り上げています。ポートランド、カリフォルニア大学バークレー校、ミドルベリー大学で起きた事件を取り上げています。そして、戦闘的左派antifaが出現してきた歴史について概観しています。

 

 この論稿ではファシズム(Fascism)や権威主義(Authoritarianism)といった政治学上、大変に重要な言葉が使われています。しかし、その定義については書かれていません。これらの言葉を厳密に定義することは難しいのですが、難しいと言っているだけでは、この言葉を使うことができなくなります。ですから存在する以上は荒っぽくてもなんでも定義をして使わなければなりません。

 

 ファシズムは1920年代から1940年代半ばにイタリアやドイツで出現した政治体制を支えるイデオロギー(政治思想)です。反自由主義、反個人主義、反資本主義、反共産主義を掲げる思想です。権威主義という言葉は、戦後に政治学で出てきた言葉です。フアン・リンツという政治学者が、フランコ将軍支配下のスペインの研究から生み出した概念です。権威主義体制は、ファシズム体制や共産主義体制のようなイデオロギーはなく、政治的な動員も大きくないが、政治的多様性は低いものです。全体主義(Totalitarianism)という政治思想の言葉もありますが、これは個人が全体に従属する、という考えで、ファシズム政治体制と共産主義一党独裁体制は全体主義に分類されます。全体主義の対義語は個人主義です。これらすべての体制は非民主的体制(nondemoractic regimes)となります。

 

 antifaはファシズムと戦うということになりますが、具体的には、非民主的、自由主義、個人主義を否定する考えを信奉する人々と戦うということになります。ベイナートも論稿の中で書いていますが、ヨーロッパとは異なり、アメリカではファシズムや共産主義が大きな勢力になったことがないために、これらと戦うという伝統はありません。しかし、人種差別主義(Racism)や白人優越主義(White Supremacy)と戦う、公民権運動のような伝統は存在したので、まず人種差別主義との闘いが始まりました。その後、ヨーロッパとの反ファシズム運動との交流を経て、アメリカでも反ファシズム運動antifaが始まりました。

 

 そして、現在、活動を活発化させている白人優越主義者や人種差別主義者との闘いにantifaが参加しています。そして、antifaの活動家たちは、ベイナートの論稿のサブタイトルにもありますが、「アメリカの右派の中で勢力を増している権威主義と戦っている」と主張しているそうです。私は、antifaの活動家たちがファシズムや権威主義といった言葉をどれだけ真剣に定義づけしているのか、はなはだ疑問です。なぜなら、彼ら自身が主張していることを敷衍していくと、非民主的で、危険な考えにまで行きついてしまうからです。

 

 現在ある人種差別・白人優越主義や人種差別に伴って起きる事件について対応し、その改善や解決のために戦うということは素晴らしいことです。ファシズムや権威主義という定義の難しい、人によって定義が異なる言葉で、なおかつ大変に危険な感じを受ける言葉を使うということが大変危険なことであると私は考えます。

 

(貼り付けはじめ)

 

暴力を伴う左派の台頭(The Rise of the Violent Left

Antifaの活動家たちは、「私たちはアメリカの右派の中で大きくなっている権威主義と戦っているのだ」と述べている。彼らは権威主義の火に油を注いでいるのではないか?

 

ピーター・ベイナート筆

『ジ・アトランティック』誌

2017年9月号

https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2017/09/the-rise-of-the-violent-left/534192/

 

オレゴン州ポートランドでは1907年からローズ・フェスティヴァルというお祭りが始まった。2007年からはポートランドの82番街でのパレードが始まった。2013年からはマルトノマウ郡(ポートランドもここに含まれる)共和党がパレードに参加するようになった。今年になってこうした状況が変化することになった。

 

パレード開催の数日前、「ダイレクト・アクション・アライアンス」というグループは、「ファシストが町中を行進しようと計画している」と宣言し、「ナチスがポートランドの町中を何の反対もなく行進することなどできないだろう」と警告を発した。このグループは、マルトノマウ郡共和党自体に反対しているのではなく、人々の中に影響力を浸透させようと計画している「ファシスト」に反対しているのだと主張している。しかし、彼らは、参加者たちが「トランプの旗」と「トランプのかぶっていた赤い帽子(red maga hatsred “Make America Great Again” hats)」を持つことは非難すると述べた。そうした人々は女性に性的嫌がらせをし、ヘイト、人種差別、偏見を増長させているオレンジ色の肌をしている大統領への支持を普通のことにしてしまうことになるから、私たちは反対するのだと主張している。もう一つのグループである「オレゴン・ステューデンツ・エンパウアード」は、「ファシズムを壊滅せよ!ポートランドにナチスは存在させない!」と主張している。このグループはフェイスブックを通じて結成された。

 

続いて、パレードの主催者に一通の匿名のEメールが届けられた。そこには、「トランプ支持者」や「ヘイト的な言辞」を叫ぶ人間たちがパレードに参加する場合、「私たちは200名以上でパレードに乱入し、そうした人間たちをパレードから叩き出す」という警告が書かれていた。ポートランド警察ではパレードの安全をしっかり守れるだけの力がないと主催者側に伝えたので、パレードは中止されることになった。この出来事は次に起こることに兆候そのものであった。

 

進歩主義者にとって、ドナルド・トランプはただの共和党から出た大統領という存在ではない。サフォーク大学が昨年9月に行った世論調査の結果によると、民主党支持者の76%がトランプを人種差別主義者だと考えているということであった。昨年3月、ユーガヴが行った世論調査によると、民主党支持者の71%がトランプの選挙運動には「ファシズムの含意」が存在していると述べた。こうした中で、進歩主義者たちをイライラさせている一つの疑問が存在する。アメリカ大統領が影響力を持つ人種差別主義者で、弱い立場にある少数派たちの声明ではなく、諸人権を脅威に与えているファシスト運動の指導者だと確信するならば、あなたはそれを阻止したいとどれくらい望んでいるか?

 

ワシントンでは、この疑問に対して、連邦議員たちがどのようにトランプの政策に反対できるのか、どのようにして民主党が連邦下院の過半数を再奪取するか、いつどのように大統領に対する弾劾を仕掛けるか、という形の反応が出ている。しかし、アメリカ全体としては、戦闘的な左派グループのいくつかが全く異なる形の答えを出している。大統領就任式当日、顔をマスクで隠した活動家が白人優越主義者グループの指導者リチャード・スペンサーを殴打した。今年2月、カリフォルニア大学バークレー校でマイロ・イアンノポウラスがスピーチが予定されていたところ、反対者たちが激しく抗議し、スピーチの邪魔をした。イアンノポウラスはブライトバートの編集に携わった人物だ。今年3月、保守派で過激な主張を行う政治学者チャールズ・マーレーがヴァーモント州にあるミドルバリー大学で講演を行ったところ、反対者たちは彼の体をこづき回し建物の外に押し出した。

 

こうした出来事が自分たちとはどんなに縁遠く、また別々の事件だと思われても、こうした出来事の間には共通する要素が存在する。ポートランドの82番街のパレードにマルトノマウ郡共和党が参加することに反対したグループのように、こうした活動家たちは「antifa」と呼ばれる運動に関連していることが明らかになっている。「antifa」は、「反ファシスト(antifascist)」や「反ファシスト行動(Anti-Fascist Action)」を縮めた言葉だ。この運動は秘密性が高く、その活動を分類することは難しい。しかし次のことは確かに言える。antifaの力は増大している。活動的な左派の反応次第ではトランプ時代の道徳を決定することになる。

 

antifaのルーツは1920年代から30年代にまで遡ることができる。この当時、ドイツ、イタリア、スペインの町中では戦闘的な左派の人々がファシストと戦っていた。第二次世界大戦後にファシズムが退場した時、antifaもまた退場していった。しかし、1970年代から80年代にかけて、ネオナチのスキンヘッドたちがイギリスのパンクの世界に浸透し始めた。ベルリンの壁が崩壊した後、ドイツにおいてネオナチが影響力を持つようになった。こうした状況に対して、左派の若い人々、その中にはアナーキストやパンクのファンも多くいたが、彼らはストリートレヴェルでの反ファシズムの伝統を復活させた。

 

1980年代末、アメリカ国内の左派のパンクファンたちは先例に従い始めた。彼らは自分たちのグループを「反人種差別行動」と称した。理論的には、アメリカ人はファシズムよりも人種差別主義との戦いに慣れている、ということである。出版間近の『ANTIFA:反ファシストハンドブック』の著者マーク・ブレイは、こうした活動家たちは1990年代に人気のあるバンドのツアーについて回り、ネオナチがバンドのファンを自分たちに勧誘しないようにさせた。2002年、白人優越主義者のグループ「ワールド・チャーチ・オブ・ザ・クリエイター」の代表のペンシルヴァニアでの講演中にこうした人々が乱入した。この時の乱闘で25名が逮捕された。

 

2000年代になって、インターネットが発達したことで、アメリカとヨーロッパの人々の間で交流が盛んになった。そうした交流を通じて、アメリカの活動家たちは運動をantifaと呼ぶようになった。しかし、戦闘的な左派にとって、antifa運動は中心的なものとはならなかった。クリントン、ブッシュ、オバマ時代の左派の多くにとっては、ファシズムよりも、規制が撤廃された国際資本主義の方がより大きな脅威であった。

 

トランプがこうした状況を変化させている。Antifaは爆発的に成長している。「ニューヨークantifa」によると、このグループのツイッターは2017年1月の最初の3週間でフォロワー数がほぼ4倍になったと発表した。今年の夏までに15,000を超えた。トランプの台頭によって、主流派左派の中にもantifaに対して新たに親近感を持つ人々が出てきている。antifaにつながる雑誌『イッツ・ゴーイング・ダウン』誌は、「左派全体から厄介者扱いされ、脇にどかされていたアナーキストとantifaが突然、リベラル派と左派の人々から、“あなたたちが正しかったのだ”と言われるようになった」と書いている。『ザ・ネイション』誌に掲載されたある記事の著者は、「トランプ主義をファシスト的だと言うためには、氷人的なリベラル派がトランプ主義に対して成果が上がるような戦いをしていないし、結果としてトランプ主義を封じ込めることに成功していないと認識することだ」と書いた。またAこの著者は急進左派は「この政治的に重要な局面において実践的でまじめな対応を行っている」と主張している。

 

こうした対応は流血を伴っている。「antifa運動」は主にアナーキストたちによって構成されているので、活動家たちは国家の存在を信頼していない。彼らは「国家はファシズムと人種差別主義と共犯関係にある」と考える。antifaの活動家たちは直接行動を好む。彼らは白人優越主義者たちが会合を開きそうな場所に対して圧力をかけ、会合を阻止しようとする。彼らは雇い主に対して白人優越主義者を解雇するように、また家主に対して彼らを追い出すように圧力をかける。 人種差別主義者やファシストが集会を開くと思われる場合に、antifaの活動家たちはその場に行って集会を破壊しようとする。阻止活動には時には暴力が伴う。

 

このような戦術に対して主流派左派から実質的な支援が行われている。大統領就任式当日にスペンサーを殴った覆面のantifa活動家の映像が撮られた。『ザ・ネイション』誌は、この活動家のパンチは「活動的な美しさ」から出た行為と描写した。『スレイト』誌は、この行為を褒めたたえる面白おかしいピアノバラードを紹介する記事を掲載した。ツイッター上では、様々な曲がつけられた映像が拡散された。バラク・オバマ前大統領のスピーチライターを務めたジョン・ファヴロウはこの映像の拡散について次のようにツイートした。「リチャード・スペンサーが殴られる映像にどれくらいの数の歌がつけられるか分からないけど、どの歌で映像を見ても私は笑い続けるだろう」。

 

暴力は、スペンサーのような人種差別主義を公言している人物たちにだけに対して振るわれているわけではない。昨年6月、カリフォルニア州サンノゼでのトランプの選挙集会において、それに反対するデモ参加者たち、その中には「antifa」に関係している人たちがいたが、彼らがトランプの選挙集会で興奮している人々を殴りつけ、卵を投げつけた。「イッツ・ゴーイング・ダウン」誌のある記事では、この暴力を「道徳的に正しい殴打」と呼んだ。

 

反ファシズム運動の活動家たちはこうした行為を防衛的だと主張している。弱い立場の少数派に対するヘイトスピーチは、少数派に対する暴力にまでつながると彼らは主張している。しかし、トランプの支持者たちと白人優越主義者たちは、antifaの攻撃を自分たちの自由に集まる権利の侵害であると考え、権利を守ろうという動きに出ている。結果として、1960年代以降、アメリカ国内でみられることがなかった町中での政治的の激しい闘いが続くことになった。サンノゼでの乱闘の数週間後、白人優越主義の指導者の一人が、トランプの選挙集会における攻撃に抗議するためにサクラメントでデモを行うと発表した。「サクラメント反ファシズム活動」はこのデモに対する反対デモを行うと発表した。結果として乱闘が起き、10名がナイフで刺されて負傷した。

 

同じような事件がカリフォルニア大学バークレー校でも起きた。今年2月、カリフォルニア大学バークリー校で計画されていたイアンノポウラスの講演に抗議する覆面をした反ファシスト活動家たちがデモ行進中、商店のショーウィンドウを破壊し、警備をしていた警察に対して火炎瓶と石を投げつけた。大学当局は「聴衆の安全に懸念がある」ことを理由にして講演を中止した。この出来事の後、白人優越主義者たちは、「言論の自由」を支持するために「バークリーでの行進」を行うと発表した。当日のデモ行進に、41歳になるカイル・チャップマンが参加していた。チャップマンは、野球のヘルメット、スキーのゴーグル、すね当て、覆面を身に着けていた。チャップマンはantifaの活動家の頭を木の杭で打った。トランプ支持者たちはこの様子を収めた映像を拡散した。極右グループが運営するクラウドファンディングのあるウェブサイトでは、チャップマンの裁判費用のために瞬く間に8万ドル以上を集めた。今年1月、このウェブサイトは、白人優越主義者の指導者スペンサーを殴った反ファシズム活動家の身元を明らかにするために報奨金を提供した。政治現象化した闘争文化が出現しつつある。antifaと白人優越主義者の両社にそれぞれ応援団が付き、闘争を彼らが煽り立てているのだ。『イッツ・ゴーイング・ダウン』誌の編集者ジェイムズ・アンダーソンは、『ヴァイス』誌の取材に対して、「この胸糞悪い闘いは傍観者たちにとっては面白いのだ」と述べた。

 

(貼り付け終わり)

 

(つづく)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

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