古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

 古村治彦です。

 

 トランプ政権のジャレッド・クシュナー上級顧問について、FBIが捜査を行っているという報道が出ました。トランプ政権とロシアとの関係を捜査するということで、マイケル・フリン前大統領国家安全保障問題担当補佐官やポール・マナフォート元選対委員長といった、現役ではない人々の名前が出ていましたが、政権の中枢を占める重要人物クシュナーの名前を、ワシントンのエリートたちはマスコミを使って、「出してきました」。

 

 ジェイムズ・コミーFBI長官が解任されたのは記憶に新しいところです。コミーは昨年の大統領選挙で政治に影響を与えたことを理由に、司法省のジェフ・セッションズ長官、ロッド・ローゼンスタイン副長官から激しく批判されました。このような状況下、FBIの捜査情報がマスコミに漏れるなどということが起きて良いはずがありません。このようなリークは、FBIの中の反トランプ、エリート集団が意図的に行ったと考えるのが自然でしょう。

 

 反トランプグループは懇意のマスコミ(ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙)を使って、まず政権内の内部闘争について、あることないことを書かせまくりました。トランプ政権内部に亀裂を生じさせて、内部分裂を誘うためです。これがうまくいかないと見るや、今度は、現在トランプ大統領が厚く信任しているクシュナー攻撃を始めようとしています。

 

 しかし、ここまでマスコミを使って激しく攻め立ててみても、トランプ政権内部に動揺は見られません。反トランプ側は今は勢い良く攻撃をしていますが、そのうち弾切れになって、「それじゃクリントン財団とオバマ政権時のヒラリー・クリントン国務長官の関係はどうなるんだ」「権力に近いことを利用して便宜を図ったりしなかったのか」ということになるでしょう。

 

 ただ、現在のところ、攻撃の勢いは大変に強く、不快さを増しているのは間違いのないところです。

 

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ロシア関連捜査でジャレッド・クシュナーが捜査対象に(Jared Kushner under FBI scrutiny in Russia probe: reports

 

マックス・グリーンウッド筆

2017年5月25日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/policy/national-security/335234-jared-kushner-under-fbi-scrutiny-in-russia-probe-report

 

トランプ大統領の義理の息子で上級顧問であるジャレッド・クシュナーに対して、トランプ選対とロシアとの間の共謀に関するFBIの捜査で詳細な捜査が行われていると報じられた。

 

NBCニュースは、「FBIがクシュナーの捜査を行っているが、これは彼を犯罪の容疑者として疑っているということでも、FBIのロシア関連捜査の利害当事者と考えられているということを必ずしも意味しない」と報じた。

 

『ワシントン・ポスト』紙は、政権移行中の昨年末、クシュナーが駐米ロシア大使セルゲイ・キシリアックとロシアのある銀行幹部と会談を持ったことについて捜査が行われていると報じた。

 

ワシントン・ポスト紙は先週、FBIが、ロシアのアメリカ大統領選挙に関する介入を行った容疑の捜査で、現役のホワイトハウス幹部が、関連を持つ捜査対象者としてピックアップしていると報じた。しかし、この時は捜査対象者の名前と身分は明らかにされなかった。

 

クシュナーは現在のホワイトハウスの中で、トランプ大統領に対して最も大きな影響力を持つ側近で、トランプ政権の政策遂行の責任を任されている。

 

クシュナーがロシア関連捜査で対象者となっていることが明らかにされた。今から2週間前、トランプ大統領は、ジェイムズ・コミーFBI長官を曖昧な理由で解任した。当時、コミー長官は捜査を監督する立場にあった。

 

先週、ロッド・ローゼンスタイン司法副長官は、ロバート・ムラー元FBI長官をロシア関連捜査の監督のための特別検察官に任命した。これとは別に、ロシアに関する問題について、連邦議会には少なくとも4つの委員会が設置されている。

 

これまでFBIは、フリンやトランプ選対の委員長だったポール・マナフォートに集中して捜査していた。クシュナーは、ホワイトハウスの現役幹部の中で初めて、捜査対象となっているということが明らかになった人物だ。

 

民主党全国委員会はホワイトハウスに対して、クシュナーに与えられている機密情報取り扱い許可を停止するように求めた。昨夏、民主党全国委員会は、ロシアが関連していると考えられているコンピューター・ハッキングのターゲットとなった。

 

民主党全国委員会コミュニケーション部副部長エイドリアン・ワトソンは木曜日、声明を発表した。声明の中で、ワトソンは、「FBIによるロシア関連捜査はトランプの裏庭にまで及んでいたが、ついに家の中にまで達した。クシュナーに対する機密情報取り扱い許可は、FBIの捜査が完了するまで、停止されねばならない」と述べた。

 

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クシュナーが特別検察官に対して攻撃的な対応をするようトランプに主張(Report: Kushner urged aggressive Trump response to special counsel

 

レベッカ・サヴランスキー筆

2017年5月18日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/administration/334056-report-kushner-urged-trump-to-attack-after-special-counsel

 

トランプ大統領の義理の息子であり上級顧問であるジャレッド・クシュナーは、水曜日に召集されたホワイトハウスの会議の席上、より抑制された反応に関して、「攻撃」的な反応をするように主張したと報じられた。

 

元FBI長官ロバート・ムラーが米大統領選挙に対するロシアの介入とトランプ選対とロシアとの間の共謀に関する司法省の捜査を管轄する特別検察官に任命された後、ホワイトハウスで会議が召集された。会議の結果、ムラーの任命に対するホワイトハウスからのメッセージが矛盾する内容になった。

 

トランプはムラーの任命を知り、クシュナー、シーン・スパイサー報道官、マイケル・ドゥブキ広報部長、レインス・プリーバス大統領首席補佐官、スティーヴン・バノン首席ストラティジストといった側近たちを召集した。

 

側近のほとんどはトランプ大統領に対して司法副長官の決定を受け入れる内容の声明を発表するように促した。しかし、クシュナーはこの意見に同意しなかった、とニューヨーク・タイムズ紙の取材に対して2人の政権幹部が述べた。

 

クシュナーだけは大統領に対して反撃するように促した。

 

ホワイトハウスは水曜日夜に声明を発表し、新たに任命された特別検察官が連邦捜査機関の捜査を主導し、トランプ選対とモスクワとの間に共謀は存在しないということを発見するだろうという信頼を表明した。

 

トランプ大統領は水曜日、声明を発表した。声明の中で、トランプは次のように述べた。「徹底した捜査によって、私たちが既に知っていることが正しいことが証明されるだろう。私の選対と外国との間に共謀など存在していない。私はこの問題が即座に終結することを望んでいる」。

 

木曜日、トランプ大統領は毎朝の恒例になっているツイートの中で、前日の抑制された反応とは全く違う反応を示した。

 

「これは一人の政治家に向けられた、アメリカ史上最大の魔女狩りだ!」とトランプはツイートした。

 

「クリントン選対とオバマ政権で行われた全ての違法な行為に対して、特別検察官が任命されたことはなかった」とトランプは別のツイートの中で述べた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)



アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22




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 古村治彦です。

 

 今回は、『タイム』誌が発表する今年の100人(小池百合子都知事も選ばれました)の中に選ばれたトランプ政権関係者6名についての分を抜粋してお伝えします。イヴァンカ・トランプ、ジャレッド・クシュナー上級顧問、ドナルド・トランプ大統領、レインス・プリーバス大統領首席補佐官、スティーヴン・バノン首席ストラティジスト、レベカ・マーサーです。面白いのは、それぞれの紹介文を書いているのが大物であり、味方、敵(元敵)である点です。

 

 興味深いには、ジャレッド・クシュナーを紹介しているのが、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官です。キッシンジャーは、共和党から民主党、民主党から共和党、とホワイトハウスの主が変わるときの大変さを指摘し、クシュナーは大統領の補佐役としてうまくやっていくだろうと書いています。昨年のトランプとキッシンジャーの会談をセットしたのがジャレッド・クシュナーですが、クシュナーとキッシンジャーが初めて会ったのが2015年であるとも書かれています。キッシンジャーはクシュナーがハーヴァード大学出身であることも書いており、そこにも信頼を置いているという感じです。

 

 トランプ政権内部で内部闘争が起きており、一方の旗頭がスティーヴン・バノンで、もう一方の旗頭がジャレッド・クシュナーと言われています。そして、バノンとクシュナーが激しく衝突したという報道もなされています。この2人を仲裁したのが、プリーバスです。この3人について紹介されています。

 

 レベカ・マーサーは共和党への大口献金者として知られている人物ですが、トランプ勝利のために、資金を提供し、バノンをトランプ選対に送り込んだ人物です。この人物についてはあまり知られていないと思われますので、この紹介記事は重要であると思います。

 

 5月28日に副島隆彦の学問道場主催の定例会で、同僚の中田安彦研究員がトランプ政権について講演を行いますが、それとも関連する記事ですので、出席される方は是非お読みください。

 

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『タイム(TIME)』誌 2017年4月20日

 

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イヴァンカ・トランプ(Ivanka Trump

 

ウェンディ・マードック筆

http://time.com/collection/2017-time-100/4742699/ivanka-trump/

 

 

世界はイヴァンカ・トランプをアメリカのファースト・ドーター、実業家、家族を大事にする妻であり母であることを知りつつある。私は彼女を親しい友人と呼べることを誇るに思っている。私と彼女が友人関係になって12年が経つ。私はニューヨークに住む隣人同士として知り合った。そしてすぐに親しくなっていった。お互い現代的な働く母親として、私たちは多くの挑戦と喜びを共有してきた。イヴァンカは私の人生において助言を与えてくれる信頼できる相談者である。

 

私はイヴァンカを尊敬し、賞賛の気持ちを持っている。それは、彼女が新しい役割の持つ影響力を如何に使うかを分かっているからだ。彼女は長年にわたり女性と少女の地位向上を訴えてきた。また、現在は教育の改善を訴え、人身売買のごく滅のために活動している。彼女は人身売買の悲惨さを知り、平穏な生活を捨てて、幼い家族とともにワシントンに移り、世界に良い変化をもたらそうとしている。

 

私の娘たちはイヴァンカに憧れつづけている。世界中の女性と少女たちもまた彼女に憧れを抱くことができると私は考えている。

 

※マードックは、映画プロデューサー、実業家、「アーツィー」社の共同創設者である。(訳者註:ルパート・マードックの元妻。中国系。気が強いことでも有名)

 

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ジャレッド・クシュナー(Jared Kushner

 

ヘンリー・キッシンジャー筆

http://time.com/collection/2017-time-100/4742700/jared-kushner/

 

アメリカ大統領が1つの政党からもう1つの政党へ交代することは、アメリカ政治におけるもっとも複雑な出来事の1つだ。このような変化が起きると、ワシントンを動かしている目に見えないメカニズムの中に大きな変化と不安定が生まれる。 新しくワシントンにやってくる大統領は既存の型式の構造について無知であり、その無知の程度が大きいほど、それを埋めることを期待されているアドヴァイザーたちの責任は重くなっていく

 

ここ4カ月、新大統領とワシントンのメカニズムの間をうまくつないでいるのがジャレッド・クシュナーだ。私がクシュナーと初めて会ったのは18カ月前のことであった。私が外交政策について講演を行ったその後に、彼は私に自己紹介をした。それが最初の出会いであった。私たちはそれ以降、率直に意見交換するようになった。トランプの親族の一員の中で、ジャレッドはトランプ大統領が何を考えているかも分かる人物だ。ジャレッドはハーヴァード大学とニューヨーク大学の卒業生であり、幅広い教育を受けている。実業家して、組織の運営についてもよく知っている。こうした長所によって、彼は太陽の近くを飛び回るという危険な任務を成功させることができるだろう。

 

※キッシンジャーは米国務長官を務めた

 

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ドナルド・トランプ(Donald Trump

 

ポール・ライアン筆

http://time.com/collection/2017-time-100/4736323/donald-trump/

 

彼は常に物事を達成するための方法を見つける。私を含む多くの人々が、彼はどうやって成功できるんだろうかと首をひねっていたが、ドナルド・トランプは歴史的な勝利を収めたのだ。トランプは第45代アメリカ合衆国大統領に就任し、政治のルールを書き換え、アメリカの方向性を設定し直した。実業家とは常に常識や現状に挑戦したいと考えているものだ。トランプはワシントンに激震をもたらし、これまでにない政策目標を掲げている。彼は決して戦いを恐れない。彼は自分など忘れ去られた存在だと感じている人々のために戦うことを自分に課している。他の人々が態度を変えるような場所でも、彼は自分が何者であるかという点を明らかにして態度を変えることはない。他の人なら退くところで、彼は一歩前に踏み出す。私は、トランプがアメリカをがらりと変えてしまうかもしれない、私たちを導く力を持つ指導者であると認識している。トランプは再び困難を乗り越え、目的を達成する方法を見つけるだろうと私は確信している。

 

※ライアンはアメリカ連邦下院議長を務めている。

 

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レインス・プリーバス(Reince Priebus

 

ラーム・エマニュエル筆

http://time.com/collection/2017-time-100/4736339/reince-priebus/

 

レインス・プリーバスと私の共通点は、中西部の生まれである点と変わった名前である点、そして政治を愛している点くらいだ。しかし、私たちは大統領首席補佐官として大統領の要望に応えてきた数少ない人物たちの仲間である。 私たちは、激しい選挙戦と一つの党から別の党への政権交代の後の新政権発足で、大統領首席補佐官を務めることになったという共通点がある。私たちは傷だらけの状態から仕事を始めた。

 

首席補佐官はホワイトハウスの職務の中で2つのタイトルを示している。首席とスタッフだ。首席が意味するのは、構造と説明責任だ。補佐官が意味するのは、大統領はアメリカ国民の投票で選ばれた人物だということを肝に銘じ、大統領執務室のドアを開ける前に自分のエゴが出ないようにチェックし、自分は大統領のために働くためにそこにいるということを理解し、彼の考えを実現するのだということを確かめるということだ。

 

私は大統領首席補佐官だったとき、金曜日のたびに次のようなジョークを言っていた。「やれやれ、月曜日まであと2日間だけ働けばいいんだ」。大統領首席補佐官は消耗するし、感謝されない仕事だ。1日の始まりから終わりまで、様々なことが起き、経験する。それがどんなに朝早く、夜遅く起きるにしても、私たちは神経を張りつめておかねばならない。 過ぎていく1日は、私たちが挑戦を始める1日となる。

 

※エマニュエルは、バラクオバマ大統領の大東翔首席補佐官を務めた。現在はシカゴ市長を務めている。

 

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スティーヴン・バノン(Stephen Bannon

 

マイケル・ダフィー筆

http://time.com/collection/2017-time-100/4736342/stephen-bannon/

 

スティーヴン・バノンは第45代大統領の大統領首席ストラティジストとして機能しないかもしれない。しかし、バノンほど、ドナルド・トランプの大統領選挙と就任後2カ月で影響力を発揮してきた人物は存在しない。アメリカ海軍とゴールドマンサックスに勤務した経験を持つ。彼は現在、トランプ政権の方向性を決める最高幹部となっている。彼は、既存の民主、共和両党に対して、怒りに満ちた、ナショナリスティックな、アメリカ第一主義の炎を向けている。バノンは政府機関、ビジネス界、マスコミのエリートを攻撃してきた。そして、トランプを支持した高齢の白人で、現状に不満を持つ人々を徹底して喜ばせてきた。バノンの語る内容は、これまでブライトバート社の会長として主張してきたもので、これは、トランプ政権発足後の75日間の明確な目標となった。しかし、これに対して激しい反対も引き起こした。しかし、トランプ自身は、バノンが連邦議会に対しての勝利を収めることよりも、トランプ支持者たちを離れさせるようなことをしていると認識している。トランプにとって、これは大変に危険で、彼を破滅させることになると考えている。

 

ダフィーは、『タイム』誌の副編集長である。

 

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レベカ・マーサー(Rebekah Mercer

 

テッド・クルーズ筆

http://time.com/collection/2017-time-100/4742759/rebekah-mercer/

 

レベカ・マーサーは戦士であり愛国者だ。彼女は卓越した数学者で、大成功を収めた投資家の娘として生まれた。レベカは素晴らしい知識と直観力に恵まれている。彼女はそのまま恵まれた、安楽な暮らしをすることは簡単なはずだった。しかし、レベカは自由とわが国について深く考える人間だ。

 

レベカと彼女の父ボブは、これまで政治革命を推進するために莫大な資金を投じてきた。2人のアプローチは複合的だ。シンクタンク、公共政策研究組織、インターネット・メディア、データ分析会社への援助を通じて、レベカは政治の世界に変革をもたらしてきた。彼女は、ワシントンにおける民主、共和両党の腐敗に対する人々の不満を理解している。彼女は汚れた沼の水を抜くことを強力に主張している。

 

レベカは、新人や勝利の可能性が低い候補者たちの資金や選挙運動を支援してきた。その中には私の上院議員選挙や大党選挙が含まれる。ドナルド・トランプが共和党の大統領選挙候補者に指名された時、レベカは、トランプの選挙対策ティームに人員を集め、11月に世界に衝撃を与えた戦略を採用する際に重要な役割を果たした。

 

※クルズは、テキサス州選出のアメリカ連邦上院議員である。

 

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(終わり)







アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22



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 古村治彦です。

 2017年5月30日に発売となります、副島隆彦先生の最新刊『老人一年生 老いるとはどういうことか』(副島隆彦著、幻冬舎、2017年)を皆様にご紹介します。

 今回の本は、副島隆彦先生が自身の経験を基にして、年齢を重ね、老人になるとはどういうことかを書いています。私はまだ中年入口の年齢ですが、学生時代の友人たちと話すと、体重が増えて、おなかやあごに贅肉がついてきた、健康診断で数値が悪くなった、痛風が出た、血圧が高くなったなどなど、健康の話が多くなります。これが中年になるということか、と実感しています。これに痛みが加わるのか、体の動かなくなるのか、という少し暗い気持ちになりますが、老人になるということを追体験してみたいと思います。

 宜しくお願い致します。

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老人一年生 老いるとはどういうことか (幻冬舎新書)

(貼りつけはじめ)

まえがき

 老人とは何か。それは痛い、ということだ。老人は痛いのだ。

 年(とし)を取ると、あちこち体が痛くなる。毎日生きているだけでも痛い。本当に苦痛だ。人間、体の痛みぐらい嫌なものはない。

 私は半年間、痛風(つうふう)のせいで具合が悪く、足の裏(かかと)が痛くて歩くことが困難だった。トイレに行くだけでも大変だった。杖(つえ)をついたり、足をひきずりながら一歩ずつ歩いた。歩く一歩ずつが痛かった。今はもう治った。あれこれ努力したからだ。

 そして心からしみじみと思う。老人になる、とは体があちこち順番に痛くなることなのだ、と。自分のこの病気はそのうちまた再発するだろう。私はその痛みに耐えながら、やがて70歳になるだろう。そして、80歳になったら。きっともっとあちこちが痛くなるはずだ。

 私はまだ64歳だ。だから前期高齢者だ。75歳から後を、後期高齢者と言う。だから、もう私は初期の老人であり、「老人一年生」である。私はハッキリとこのことを自覚した。

 痛風(つうふう)のために起きる足の一歩一歩ごとの痛みは、小さな痛みだ。だが、それが続くと、もう、「これはたまらん」ということになる。歩きたくなくなる。やがて外に出るのも嫌に、となる。家の中でなんとか体を支えて、摑(つか)める所を摑みながら移動する。歩くと痛いからなるべく歩かなくなる。起きて歩きたくなくなる、ということは、ベッドから起き上がるのがいやになるということだ。ということは、寝たり起きたりで一日を過ごす、ということになる。今はまだなんとかなっている。

 だから、やがて寝込むようになるのだろう。いったん寝込んだら、もう起き上がれない。だから、老人同士は「寝込んだら終わりだよ」と、お互い励まし合いながら、「ちょっとぐらい痛くても起きて歩かなきゃ」と言い合って、元気を出している。これが本当の老人の姿だろう。

 私がこの原稿を書こうと思った理由は、「老人は痛いのだ」「老人というのは、あちこち痛いということなのだ」ということを、何と若い人たちは分かってくれない、という、大きな秘密を明らかにするためだ。老人(になった人間)にとっては当たり前のことが、若い人たちには分からない。若い人たちは本当に、老人の体の痛みのことを分からない。

 若いといっても、40代、50代の人たちだ。なんとつい最近までの私自身だ。自分が元気なときは、老人と障害者と病人の気持ちが全く分からなかった。老人病になって初めて老人の気持ちが分かる。

 自分がその立場になって初めて分かる。私が自分の足の痛みをいくら周りの人に訴えても、家族も弟子たちも、編集者たちも、まったく分かってくれなかった。人は人(他人)のことを理解しない生き物だ。「かわいそうね」という言葉すらかけない。しょせんは他人事(ひとごと)なのである。

 人は他人のことを、そんなに同情したり、憐(あわ)れんだりする生き物ではないということがよく分かった。今の日本人はとにかくウソをつきたくないから、わざとらしく、相手をいたわる言葉など吐かない。わざとらしいウソは必ず相手に見抜かれてバレてしまう。そうすると自分の信用がその分、落ちる。だから、思ってもいないことをわざと口に出して言うことはウソになる。だから相手へのいたわり(同情)の気持ちなど、よっぽどのことがないと口にしない。それが今の日本人である。


老人一年生/目次


●まえがき


第1章 老人は痛い。だから老人なのだ
●若い人は残酷だ
●街中、白髪の老人だらけ
●痛風で、痛みのつらさが初めてわかった
●誰もが老人病になる。それが運命
●医者は「生活習慣病」と言うな。「老人病」だ
●ピンピンコロリは1%もいないだろう
●私の5つの老人病はこれ

第2章 私の5つの老人病
●私の「痛風」対処法
●痛風の薬は、私にはインテバンが合った
●「前立腺肥大症」は男の生理痛ではないか
●「高血圧(による頭痛)」は放っておいて我慢するだけ
●「腰痛」と「頸痛」がかなり問題だ
●私は自分が「椎間板ヘルニア」と「脊柱管狭窄症」だと信じていた
●「慢性気管支炎」なので私は熱海へ逃げ帰る
●頭痛と眼精疲労も60歳を過ぎて出てきた

第3章 「腰痛と首、肩の痛みは治るようである」論
●腰、首、肩の痛みへの私の対処法
●腰痛の定番の診断名「椎間板(ついかんばん)ヘルニア」「脊柱管(せきちゅうかん)狭窄症(きょうさくしょう)」
●腰痛治療でボルトを入れられてしまった中年女性の話
●腰痛は本当に、背骨からくる神経の痛みなのか?
●筋肉のことを学ばない外科医
●ケネディ大統領の腰痛を治した治療法
●ペインクリニックの「神経ブロック注射」には注意

第4章 痛みをとるのがいい医者だ
●患部の痛みとは何なのか
●痛みには「なんとかなる痛み」と「腐った痛み」がある
●「腰痛は、脳が勝手に作り出した説」はおかしいだろう
●「痛み」の正体が明らかになりつつある
●医者は「当時はそれが最善の治療法だった」と逃げる
●医者は老人病の痛みを軽減してくれればいい
●70代、80代で手術する人は医者の稽古台だ
●手術は素朴なものだけやる
●医者たちも大変な時代になった

第5章 目と歯も大事だ
●私の体の通信簿を載せる
●インプラントは恐ろしい
●歯周病は歯磨きで少し改善した
●歯磨きの大切さが今頃わかった
●レーシック手術も私はやらない

第6章 いい鍼灸師、マッサージ師は少ない
●鍼灸師(しんきゅうし)は3~5人の口コミで確かめる
●柔道整復師(ほとんどのマッサージ師)に気をつけなければならない
●椎間板ヘルニアについて、ある内科医の告白
●形成外科はいいが、整形外科はひどい

●血液&尿検査項目解説

(貼りつけ終わり)

(終わり)





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ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22
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