古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

 古村治彦です。

 

 先週、アメリカがシリアの空軍基地に59発のトマホーク・ミサイルを撃ち込みました。これは、シリア国内で起きた化学兵器を使用した攻撃で、子供を含む民間人に多数の死傷者が出た事件を受けての報復攻撃でした。アメリカ政府は化学兵器使用をシリアのバシャール・アサド政権の責任だとしています。しかし、私は、化学兵器使用は事実だと認めますが、誰が使ったのかについて、シリア軍だと断定するのは間違っていると思います。また、シリア軍が使ったとしても、そこにアサド大統領の命令があった、もしくは許可があったということにも疑問を持たざるを得ません。

 

 今回のアメリカによるミサイル攻撃に合わせて、トランプ政権の高官たちは、一斉に、ロシアを非難しています。非難の内容は、簡単に言うと、「ロシアは2013年にアサド政権に化学兵器をすべて廃棄させるとアメリカに約束した。しかし、今回のようなことが起きた。これはロシアが責任を果たしていないからだ」という非難です。

 

 アメリカはロシアがシリアや中東の情勢が安定するように支援してきたことに対して、失敗だと非難しています。大変身勝手な主張であると言えます。アメリカは世界の警察官を自認しながら、シリア情勢を改善するための動きは何もしていませんし、中東の情勢やテロ攻撃に関しては、アメリカ自体が「問題」であり「原因」です。

 

 2011年の「アラブの春」からリビアのムアンマール・カダフィ大佐殺害からベンガジ事件まで、アメリカの火遊びのせいで中東情勢は混沌化し、ISが出現しました。そもそも論を言えば、アメリカの失敗をロシアが何とかしようとしていることに対して、アメリカは厚顔無恥にも文句を垂れ流すという状況になっています。呆れてしまってものも言えません。

 

 下に掲載した記事では、ニッキー・ヘイリー国連大使、レックス・ティラーソン国務長官、H・R・マクマスター大統領国家安全保障問題担当補佐官がテレビに出て、ロシアを非難している様子を伝えています。また、米国防総省でも、ロシアの責任を追及する構えであることが伝えられていますが、最高責任者であるジェイムズ・マティス国防長官は直接的には何も発言していません。

 

 ここまで身勝手なことをロシアに対して言うというのは、少し芝居じみているとも思いますが、表に出てきている閣僚たちの発言を見ていると、トランプ政権の行動に関しては失望してしまうというのが感想です。国家安全保障会議の再編も含めて、もうしばらく様子を見て、何が起きており、何が意図されているかを見極めねばなりません。

 

(貼りつけはじめ)

 

トランプ政権の最高幹部たちがロシアに対しての批判を激化させる(Top Trump officials turn up heat on Russia

 

レベッカ・サヴランスキー筆

2017年4月9日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/administration/328019-top-trump-officials-turn-up-heat-on-russia

 

トランプ政権の最高幹部たちは日曜日、先週シリアで起きた化学兵器を使った攻撃で多くの死傷者が出た事件を受けて、ロシアに対する批判を激化させた。

 

トランプ政権の幹部たちは過去に結ばれた化学兵器に関する合意履行に関するロシアの責任について疑義を呈し、アメリカはロシアがシリアのバシャール・アサド政権を庇うことは許さないと強調した。

 

アメリカは先週、シリアの空軍基地1か所にミサイル攻撃を行った。これは、シリア北部で起きた化学兵器を使った攻撃で民間人に死傷者が出た事件に対する報復であった。この事件では、アメリカはアサド率いるシリア軍に責任があると断じ、非難していた。

 

日曜日、トランプ政権の幹部たちは、批判の矛先をロシア政府に向けた。ロシア政府は、シリアで内戦が勃発して以降、アサド政権の支援者となってきた。

 

米国連大使ニッキー・ヘイリーは、あるインタヴューの中で、アメリカのミサイル攻撃はロシアに対してメッセージを送ること目的に遂行されたと述べた。

 

ヘイリーはNBCの「ミート・ザ・プレス」に出演し、「トランプ政権は全員一致で何かをやらねばならないと考えていました。アサドに対してメッセージを送る必要があると考えていました」と語った。

 

ヘイリーは続けて次のように語った。「よろしいでしょうか、それに加えて、ロシアについても知らせねばならないことがあるとも考えていました。それは、あなた方はこれ以上、アサド政権を庇うことはできないだろうということを伝えねばならないと考えていました。私たちは、無辜の人々に対してこのような出来事が起きることは許しません」。

 

ヘイリーは、アメリカは「穏健なアプローチ」を取ったが、更なる手段を取ることができると述べた。彼女はロシアを批判し、化学兵器攻撃に対するロシアの反応はシリア政府の擁護になっていると述べた。

 

ヘイリーは「ロシアはどうしてそんなに早くシリア政府を擁護したのでしょうか?」と疑問を呈し、「死傷者への気遣いは後回しになっていました」と述べた。

 

ヘイリーは、アメリカは「ロシアがこれ以上アサド政権を支援すること」を許さないと述べた。

 

「私たちが言いたいのは、“化学兵器使用問題で違反があり、国連安保理決議を何度も破り、この戦争犯罪人であるアサド大統領を守るために7回も拒否権を発動しましたね、そんなあなた方を私たちは糾弾しますよ”ということです」とヘイリーは述べた。

 

「私たちは、化学兵器使用という事実とそれを隠蔽しようとしているあなた方を糾弾します」とヘイリーは語った。

 

国務長官レックス・ティラーソンもヘイリーと同じくロシアを批判し、ロシアは責任を果たしていないと述べた。

 

2013年、ロシアはアメリカと交渉し、シリアが貯蔵していた化学兵器をすべて破壊するという合意を結んだ。ティラーソンは、ロシア政府がこの合意内容の遂行に失敗している、もしくは無視していると非難した。

 

ティラーソンは日曜日、ロシアが「安定したシリアを実現するプロセスを支持する」ことを希望すると述べた。

 

ティラーソンは、ABCの「ディス・ウィーク」に出演し、「シリアにおける本当の失敗は、2013年の化学兵器を巡る合意内容をロシアが守ることができなかったことにあると考えており、私はこのことについて失望しています」と述べた。

 

ティラーソンは、「シリア国内の化学兵器の管理、破壊、監視の継続という役割はシリア政府とロシア政府が行うべきものです」と述べた。

 

ティラーソンは、シリア国内での化学兵器を使った攻撃は「大きな部分で、ロシアが国際社会に対する責任を果たさなかったこと」に原因があると断じた。

 

ティラーソンは、「私は、ロシアがバシャール・アサドとの同盟関係の継続について注意深く考慮することを願っています。このような恐ろしい攻撃が起きるたびに、ロシアの責任はどんどん重くなっていくのです」と述べた。

 

このティラーソンの主張は、大統領国家安全保障問題担当補佐官H・R・マクマスターも繰り返している。マクマスターはロシア政府に対して、アサド大統領に対する支援について再考するように求め、「問題解決」にはロシアが参加すべきだと主張している。

 

マクマスターは日曜日、フォックス・ニュースに出演し、「ロシア政府は“自分たちはここで何をしているんだろう”と自問自動すべきです」と述べた。

 

マクマスターはまた次のように語った。「自国民を大量に殺害し、最も憎むべき武器を使用する殺人者が率いる政権を私たちはどうして支援しているのだろう、と考えてみるべきです」。

 

マクマスターは、アメリカのシリアに対する姿勢の見直しは、ロシアにとって行動の見直しのための良い機会になるとも述べた。

 

「ロシアは問題解決に参加できます。現在のところ、世界のほぼすべての国々はロシアが問題の大きな部分を占めていると考えています」とマクマスターは述べた。

 

マクマスターは、ロシア政府がどのような形の米ロ関係を望んでいるのか、という疑問を発した。

 

マクマスターは「彼らは競争と将来は衝突が起きるかもしれない形の関係を望んでいるのでしょうか?私はそれがロシアの利益になるとは思いません。それとも、相互利益となる協力できる分野を見つけることができる関係を望んでいるのでしょうか?」と述べた。

 

マクマスターは更に「今回のシリアでの内戦や中東全体の破滅的な状況が続くことが一体だれの利益になるのでしょうか?」と発言した。

 

シリアのイドリブ県で化学兵器を使った攻撃が発生した、これはアサド政権が実行したものだと批判の声が上がった。これを受けて、トランプ大統領は先週、シリアのシャイラット空軍基地にミサイル攻撃を行うように命令を下した。化学兵器攻撃によって子供を含む民間人の多くが死亡し、また負傷した。

 

国防総省(ペンタゴン)によると、59発のトマホーク・ミサイルが発射され、基地内の戦闘機、戦闘機格納庫、燃料貯蔵庫、武器貯蔵庫、レーダー、防空詩システムが標的となった。

 

トランプは今回の決定について土曜日に連邦議会に送付した書簡の中で説明している。彼は書簡の中で、攻撃実行の決断は、アメリカの「国家安全保障上、外交政策上の重大な国益」に基づいて行われたと述べた。彼はまた、必要とあれば、アメリカ政府には更なる軍事行動を取る用意があるとも述べた。

 

米軍幹部は金曜日、国防総省が、シリア国内の化学兵器攻撃について、また、病院に対する攻撃について、ロシアが参加、もしくは支援していたのかどうかを調査していると述べた。

 

ある米軍幹部は国防総省での取材に応じ、記者団に対して、「私たちは今回の化学兵器攻撃にロシアが関与しているのかどうか分かりません。しかし、私たちが調査を行うことで、その証拠が見つかるかもしれません」と述べた。

 

 

国防総省は、2013年にシリアで化学兵器を使った攻撃が発生したことについて、ロシアがアサド政権をコントロールすることに失敗したので起きたと主張した。

 

ある幹部は次のように語った。「当時、ロシアはシリアに既に介入していました。この時、ロシアはシリア政府の化学兵器能力を除去し、完全に消去することを保証すると述べました。その当時、ロシア政府は、シリア政府が所有する全ての化学兵器を集め廃棄したと報告してきました」。

 

この幹部は更に「ロシア政府は彼らを頼っているシリア政府をコントロールすることに失敗したのです」と語った。

 

もしロシアが化学兵器を使った攻撃に参加したことを示す証拠や合理的な告発が出てきたら、「私たちはそれらに基づいて、私たちの持つ能力を最大限に発揮することになるでしょう」とこの幹部は述べた。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)






このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 

 アメリカのシリアに対するミサイル攻撃と同時に、アメリカのマスコミで報道されているのは、国家安全保障会議(National Security Council、NSC)の再編成です。大統領首席ストラティジストのスティーヴン・バノンが最高会議の出席者から外され、大統領国家安全保障問題担当次席補佐官のK・T・マクファーランドが辞任を求められ、シンガポール大使へ転出という報道がなされています。

 

 国家安全保障会議は、アメリカの外交政策や軍事政策を決定する大統領直属の機関で、省庁間の縦割りを排する目的で創設されました。この会議を主宰する大統領国家安全保障問題担当補佐官は、補佐官(advisor)という肩書ですが、閣僚級の影響力を持っていて、大統領の側近中の側近ということになります。トランプ政権発足時には、マイク・フリンが補佐官でしたが、ロシアとの不適切な関係が指弾され、政権発足早々に辞任に追いこまれました。その後、現役の陸軍中将で米軍再編事業のトップであったH・R・マクマスターが補佐官に就任しました。

 

 マクマスターは「居抜き」で補佐官に就任したわけですが、少しずつ独自色を出しつつあるようです。NSCの再編もその一環で、フリン時代(ほぼありませんでしたが)の人々を転出させて、自分の影響力下にある人々をスタッフに登用するということになりそうです。

 

 マクマスターはバノンのNSCからの排除に関して自分の関与をしていますが、おそらくマクマスターの進言もあり、NSC再編の一環で排除が決定されたものと思います。

 

K・T・マクファーランドの転出は、重要な出来事になると思います。マクファーランドは、これまでの共和党政権でアナリストとして力を発揮してきましたし、ヘンリー・キッシンジャーの側近、片腕としても知られています。マクファーランドを政権中枢から排除するというのは、キッシンジャーの影響力を減少させることになります。

 

 すでにご紹介していますが、先週の米中首脳会談の根回しは昨年12月から始められ、トランプ大統領の上級顧問である、義理の息子ジャレッド・クシュナーがキッシンジャーの支援と助言を受けて中国側と人脈作りを行い、首脳会談にまで漕ぎ着けました。

 

 クシュナーが穏健派を代表し、キッシンジャーの助言を受けながら政権内で行動するということになると、マクファーランドまではいらない、キッシンジャー系が多過ぎるということになって、それで転出という話になっているのもかもしれません。

 

 政権内部の再編成で、マクマスターの顔を立てつつ、バランスを取る作業をしているということになるのではないかと考えます。

 

(貼りつけはじめ)

 

マクマスターは国家安全保障会議からのバノンの排除を否定(McMaster downplays removal of Bannon from role on NSC

 

レベッカ・サヴランスキー筆

2017年4月9日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/administration/328026-mcmaster-downplays-removal-of-bannon-from-role-on-nsc

 

大統領国家安全保障問題担当補佐官H・R・マクマスターは日曜日にテレビ番組に出演し、マクマスター自身が大統領首席ストラティジストであるスティーヴン・バノンの国家安全保障会議(NSC)における役割を奪ったということを否定した。

 

マクマスターは、「フォックス・ニュース・サンデー」に出演した。その中で、バノンのNSCにおける役割を剥奪したのはどうしてかと質問され、「今回のことは言われているほど重大なことではないのですよ」と答えた。

 

マクマスターは「大統領がやったことは、NSCの常任出席者の件について言いますと、NSCの全ての会議に出席する常任出席者を明確にして、アメリカ国民の長期的な利益に基づいて助言を与える人を明確にすることであったと思いますよ」と述べた。

 

マクマスターは、「大統領は望む相手ならどんな人からでも助言を得ることができる」と述べた。

 

マクマスターは「大統領は実際にそうしていますしね」と語った。

 

マクマスターは更に次のように語った。「大統領は政策決定や政策決定を行った際のリスクや機会について、信頼する様々な人々に質問しています。その中にはスティーヴ・バノンも含まれています。こうしたやり方は何も変わっていないんですよ」。

 

NSCの中で一介の政治顧問が重要な役割を果たすのは不適切だと考えるかどうかと質問され、マクマスターは「大統領がそうした役割を果たしてほしいと思う人が誰でもそうした役割を果たすこと」は適切だと答えた。

 

マクマスターは「スティーヴ・バノンは様々な問題について大統領に助言を与えていますし、これからもそれは続くでしょう」と発言した。

 

トランプ大統領は先週、NSCにおけるバノンの役割を剥奪した。マクマスターがこの決定を行い、トランプが承認したという報道がなされた。

 

バノンは今年1月、NSC最高会議の常任出席者に昇格させられたが、この措置は多くの批判を浴びた。

 

土曜日の各紙の報道では、バノンは政権内で孤立を深めており、彼自身が協力的なアプローチを取ることができないので、首席ストラティジストから更迭される可能性もあるということであった。

 

=====

 

大統領国家安全保障問題担当次席補佐官K・T・マクファーランドが辞任(Deputy national security adviser K.T. McFarland to leave post: report

 

ポーリナ・フィロジ筆

2017年4月9日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/administration/328009-deputy-national-security-adviser-kt-mcfarland-asked-to-step-down

 

大統領国家安全保障問題担当次席補佐官K・T・マクファーランドは、トランプ政権の再編成の過程で、辞任を要請されている、と報じられている。

 

マクファーランドは、国家安全保障会議での仕事を始めて3カ月もしないで、駐シンガポール米国大使への就任が予定することになる、と日曜日に『ブルームバーグ』誌が初めて報じた。

 

マクファーランドは、これから2週間は今の地位に留まるだろうとも報じられた。

 

先週、大統領首席ストラティジストであるスティーヴン・バノンが国家安全保障会議の常任出席者から外されたが、これに続いて、マクファーランドへの辞任要請の動きが続くことになった。

 

マクファーランドはフォックス・ニュースの国家安全保障問題担当アナリストを務め、これまで3つの共和党政権でもアナリストを務めた。そして、トランプによって大統領国家安全保障問題担当次席補佐官に起用された。

 

『ニューヨーク・タイムズ』紙は2月、大統領国家安全保障問題担当補佐官マイケル・フリンの辞任を受けて、マクファーランドも辞任するだろうと報じた。

 

しかし、マクファーランドは本誌に対して、大統領の要請を受けて、政権内に留まると答えていた。

 

「私は大統領に会ったばかりで、政権内に留まるように言われました。私はとても興奮しています」と2月に語っていた。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22
 
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 

 先週木曜日に、アメリカは、シリアの空軍基地へミサイル攻撃を行いました。シリア国内で化学兵器を使った攻撃が行われ、子供を含む多数の民間人に死傷者が出たことに対しての報復攻撃と、これ以上の化学兵器使用と拡散を防ぐための予防的攻撃ということでした。世界のほとんどの国々の政府は今回の攻撃を承認しています。

 

 私は今回のシリア国内における化学兵器を使った攻撃から疑問を持っています。化学兵器が使用されて、子供たちを含む民間人が多数死傷したことは間違いありません。問題は誰が化学兵器を使用したのかということです。全体として、「バシャール・アサド大統領が命じてシリア軍が使用したのだ」ということになって、それでシリア軍の空軍基地にミサイル攻撃がなされました。私は、化学兵器使用の責任が誰にあるのかはっきりしていないではないかと思っています。

 

 米軍の攻撃についてですが、トマホークという有名なミサイルをシリア軍の空軍基地1か所に59発撃ちこんだということですが、その割に被害者がほとんどいない、報道されないというのは不思議です。空軍基地は広大な規模でしょうが、米軍が誇るトマホークが59発も撃ち込まれたら、一面火の海でしょうし、周囲にも甚大な被害が及ぼされるはずです。ただ鉄の塊を撃ち込んだだけなら、警告以上の意味を持たないものに高価なミサイルを59発も撃ち込んだことになります。アメリカが本気でアサド政権を倒そうとしていないことは明らかです。

 

 空軍基地には司令部、パイロット、整備部門で多くのシリア軍の将兵が勤務していたでしょうし、現在はロシア軍の支援を受けていますから、ロシア軍の将兵もいたでしょう。アメリカはロシア軍の将兵に被害が出ないように事前通告をしたということですが、それなら、現場でロシア軍将兵が退避するという動きが起きる訳で、ロシアが仮にシリア側に通報していなくても事態は察知できるでしょうし、ロシアはシリア側に通報していたでしょう。ですから、今回の攻撃はあらかじめ仕組んであった、ロシア、シリア、中国にあらかじめ話を通してあったものではないかと思います。

 

 米中首脳会談のタイミングでもあり、いろいろとシナリオが考えられています。対北朝鮮の危機を煽る報道も目立ってきています。アメリカのトランプ政権内の路線対立によって、政策がぶれる、もしくは行き当りばったりになるということも予想されています。

 

 アメリカと中国とロシアが関係を悪化させず、表向きは悪化させても裏できちんとつながって、話を通しておけば、深刻な事態になることは避けられるでしょう。今回のケースは米中露が「危機を演出」しているのではないか、と思います。戦争を本気でやりたい、やらせたいと考えている勢力に、「本当にやるのか、大変なことになるんだぞ、戦争とはそんなに甘いものじゃないんだぞ、甘く考えるな」という警告を与える効果があったと思います(日本政府には当然のことながら、アメリカから事前通告はありませんでした)。この効果が一番に効いたのは日本の安倍晋三政権ではないかと私は考えています。

 

(貼り付けはじめ)

 

トランプの対シリア政策における主要なプレイヤーたち(Key players in Trump's Syria policy

 

エレン・ミッチェル筆

2017年4月8日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/policy/defense/327926-key-players-in-trumps-syria-policy

 

トランプ大統領は木曜日、シリアの空軍基地へのミサイル攻撃を命じた。これは、バシャール・アサド政権に対するアメリカ初の攻撃であった。

 

今回のミサイル攻撃は、子供を含む民間人数十人が殺害された化学兵器を使った攻撃に対する対応であった。トランプ政権は、アサド政権が将来化学兵器を使用することを止めることを意図として今回ミサイル攻撃を行った。

 

発足して間もないトランプ政権において、今回のミサイル攻撃は最大の軍事的な決定となった。

 

ここにトランプの決断を導いた人々とトランプの対シリア政策に置いて重要な役割をこれから果たすであろう人々を紹介する。

 

●国防長官レックス・ティラーソン(Secretary of State Rex Tillerson

 

ティラーソンは国務長官就任以降、スポットライトを避けてきた。木曜日のミサイル攻撃は、アメリカの外交官トップとして初めての重要な瞬間であった。

 

攻撃前の最後の会議で、ティラーソンはトランプと一緒に机を囲んでいた。ガスを使った攻撃が国際的なニュースとなって以降、ティラーソンのシリアに対する発言内容は大きく変わっている。

 

つい先日、ティラーソンはトルコを訪問した。この訪問中、ティラーソンは「アサド大統領の任期が長くなるかどうかはシリア国民によって決定されるだろう」と述べた。

 

しかし、シリア空爆実施直前の午後、ティラーソンは次のように語った。「将来のアサドの役割は不明確だ。明確なことは、彼がこれまで取ってきた行動から考えると、彼がシリア国民を統治するという役割を与えられることはないだろうと思われる」。

 

トランプがシャイラット空軍基地に59発のトマホークミサイルを発射する命令を下した直後、ティラーソンは、「今回の行動は、必要とあれば、大統領は決定的な行動を取ることを躊躇しないということを明確に示した」と語った。

 

ティラーソンはロシアに対する厳しい姿勢を取っている。ロシア政府がアサド政権の存続を支援し、シリアに対する軍事攻撃を避けるために、ロシアとオバマ政権との間で結んだ2013年の合意内容をアサドが破らせたと批判している。ロシアはアサドが貯蔵している化学兵器を全て廃棄させることを確約していた。

 

ティラーソンは次のように語った。「ロシアは2013年の約束を実行する責任を果たせなかったことは明らかだ。ロシアがシリアと共謀しているか、ロシアは合意内容の目的を達成する能力を持っていないかのどちらかだ」。

 

ティラーソンはエクソンモービル社でのキャリアを通じてウラジミール・プーティンとの関係を築いた。ティラーソンは来週、モスクワを訪問する予定だ。アメリカによるシリア攻撃によってティラーソンのモスクワ訪問の緊張は高まることだろう。

 

しかし、ティラーソンは、トランプが、アサドを権力の座から引きずりおろそうという目的で攻撃をエスカレートさせる可能性を否定した。木曜日、シリアにおけるアメリカの軍事行動についてのアメリカの政策全体には変化しないと述べた。

 

●大統領国家安全保障問題担当補佐官H・R・マクマスター陸軍中将(National Security Adviser Lt. Gen. H.R. McMaster

 

マクマスターは学者政治家として知られる。彼は過去と現在に関する世界各地での紛争に対する知識が豊富である。マクマスターは、シリアとロシアがどう反応するか、アメリカが物事を進めるために何をすべきかについて、彼独自の視点を提供できる。

 

マクマスターは更迭されたマイケル・フリンの後任となった。マクマスターの補佐官就任は防衛分野における人々の多くに安心感を持った。そして、政権内部で急速に影響力を確立している。

 

マーアラゴでのシリアへのミサイル攻撃直前の最終会議には、トランプ大統領、ジム・マティス国防長官、ティラーソン国務長官、マクマスター補佐官が出席した。マクマスター補佐官は、「会議ではトランプと側近たちにシリアへの対応に関する3つのオプションについて議論した」と語った。

 

マクマスターは、ミサイル攻撃を行っても、アサド政権から化学兵器を使った攻撃を実行する能力を除去することはないだろうと語った。

 

マクマスターは、「アサド政権は化学兵器を使った大量殺人を行う能力をこれからも維持するだろうことは明らかだ。空軍基地を1カ所攻撃しても能力を削ぐことはないと考えている」と述べた。

 

マクマスターはしかしながら、アメリカによる空爆は「アサドの計算に大きな変化」をもたらすだろうとも述べた。

 

今回の攻撃の目的は、メッセージを送ることだったのか、それともアサド政権の軍事能力にダメージを与えることだったのかと問われ、マクマスターは次のように答えた。「今回の攻撃は、現アサド政権、そして彼の父親の政権時代を含めて、アメリカによる初めての直接的な軍事行動であった。今回の大規模な殺人に対応するという大統領の決断が行われたことは重要であるし、2013年に国連決議が発行して以降、起きた50以上の化学兵器を使った攻撃に対処することになるという点で重要である」。

 

マクマスターは続けて次のように語った。「従って、質問に対する答えは、その両方ということになる。攻撃目標は化学兵器を使った大量殺人を行える能力であった。しかし、そのような攻撃能力に関連する施設全体を攻撃する規模と広がりを持つものではなかった」。

 

●国防長官ジェイムズ・マティス(Defense Secretary James Mattis

 

マティスもまた、トランプの意思決定プロセスにおいて、重要な、しかし静かな役割を果たした。

 

アメリカ中央軍の元司令官として、マティスは中東地域に関しては豊かな知識と深い洞察を持っている。そして、攻撃が引き起こす結果についても十分な考察と予測を立てている。マティスは空軍基地に対する「集中攻撃(saturation strike)」のためのアメリカ中央軍の計画をトランプに説明した。

 

マティスはまた注意深くロシアに対応する方法を知っている。また、オバマ政権時代に中央軍司令官として経験したリスクの現実化ということも理解している。ロシア人に死傷者が出る危険性にマティスはこだわったと報じられている。また、中東地域にいるアメリカ軍や外交関係者が報復攻撃の標的になることを懸念していた。

 

木曜日の夜に国防総省は攻撃の詳細を発表した。ロシアとシリアの軍関係者と民間人へのリスクを最小限にするための用心深い計画が立てられていたことを国防総省は強調した。

 

マティスは、攻撃後の記者会見で、マクマスターとティラーソンと一緒に姿を現すことはなかった。また、攻撃以降、一切発言していない。

 

●米国連大使ニッキー・ヘイリー(U.S. Ambassador to the United Nations Nikki Haley

 

シリアでの化学兵器を使った攻撃に対するアメリカのミサイル攻撃に関して、ヘイリーは国連の場で徹底的に正当性を主張している。そして金曜日、アメリカはシリアに対して更なる軍事行動を取る準備をしているという警告を発した。

 

ミサイルによる空軍基地攻撃後、ヘイリーは国連安全保障理事会の席上、「アメリカは昨晩、入念に準備された行動を取った。私たちは更なる行動を取る準備をしている。しかし、そのような行動が必要とならないことを願っている」と述べた。

 

シリアにおける化学兵器を使った攻撃が起きた後、ヘイリーはホワイトハウスを代表して、もっとも多く発言してきた。ヘイリーは空軍基地攻撃についてトランプ政権の立場を主張し、攻撃は「完全に正当化できる」と述べた。

 

ヘイリーはティラーソンと同様に、アサドに対する姿勢を急速に変化させてきた。先週、ヘイリーは、アメリカの優先順位について、「ただ座っているということは終わり、アサドを追い落とすために注力することになる」と木曜日の記者団の取材に答えたとAFPが報じている。

 

ヘイリーは、化学兵器使用の停止は、アメリカにとっての「安全保障上の重要な国益」であると主張している。

 

ヘイリーは国連安保理理事会で苦しんでいる子供たちの写真を掲げた。ヘイリーは金曜日、ロシアがアサド政権を支援してきたと非難した。

 

ヘイリーは次のように語った。「アサドが化学兵器を使った攻撃を行ったのは、それによって報復攻撃を避けることができると考えたからであろう。彼が報復攻撃を避けることができると考えたのは、ロシアが後ろにいると考えたからであろう。彼の計算は昨晩で変化しただろう」。

 

=====

 

トランプが連邦議会にシリア攻撃を説明する書簡を送付(Trump sends Congress letter explaining Syria strike

 

マックス・グリーンウッド筆

2017年4月8日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/administration/327962-trump-sends-congress-letter-explaining-syria-strike

 

トランプ大統領は土曜日、今週行ったシリアへのミサイル攻撃を命じたことについて議会に説明と弁明のための書簡を送付した。書簡の中で、連邦議会の指導者たちに対して、アメリカ政府には必要であれば、更なる軍事行動を取る用意があると述べた。

 

トランプは書簡の中で、「安全保障と外交政策の分野におけるアメリカの重大な国益に基づいて私は行動した。合衆国憲法で大統領に認められた、外交を行う権威、アメリカ軍最高司令官、アメリカ連邦政府の最高責任者の職責に従った」と書いている。

 

彼は続けて、「アメリカ合衆国は、必要がありそれが適切であれば、重要な国益を更に追及するために、追加的な行動を行うだろう」と書いている。

 

トランプ大統領からの書簡は、アメリカ連邦下院議長ポール・ライアン(ウィスコンシン州選出、共和党)とアメリカ連邦上院仮議長(the Senate president pro tempore)オリン・ハッチ(ユタ州選出、共和党)連邦上院議員宛てに送付された。

 

戦争権限法では、大統領は軍事行動から48時間以内に武力使用に関する説明をしなければならないという規定がある。トランプ大統領の今回の行動に関しては、提出期限は土曜日夜までとなっていた。

 

トランプの書簡の内容は、木曜日の夜にミサイル攻撃から1時間後に行ったトランプの声明発表を繰り返したものだ。声明の中でトランプは、ミサイル攻撃をアメリカの「重大な安全保障上の国益」だと述べた。

 

トランプはフロリダ州マーアラゴにあるリゾートで中国の習近平国家主席を迎えていたが、トランプはミサイル発射後の声明発表で、「強力な化学兵器の拡散と使用を阻止することは、アメリカの安全保障にとって、致命的に重要な国益である」と発言した。

 

世界各国の指導者たちは金曜日になって、アメリカの攻撃を支持した。シリアのイドリ県で化学兵器が使用されたがその責任はシリアのバシャール・アサド大統領にあるという非難があり、化学兵器使用は、必要なそして適切な対応であったと各国の指導者たちは賞賛した。

 

シリア政府と、アサド政権を長年にわたり支持し軍事援助を与えてきたロシアは、ミサイル攻撃を非難した。ロシアのウラジミール・プーティン大統領の報道官は金曜日、ミサイル攻撃を「主権国家に対する侵略的攻撃」の行動と呼び、アメリカが国際法に違反したと非難した。

 

アメリカ連邦議会の議員たちは攻撃に対しておおむね支持を表明した。しかし、多くの議員はシリアに対する更なる軍事作戦を行う前には議会の承認を得るように求めている。

 

連邦上院共和党院内総務ミッチ・マコンネル上院議員(ケンタッキー州選出、共和党)は、トランプ大統領は軍事行動に関して更なる承認を求める必要はないと主張した。

 

マコンネルは、2001年9月11日の同時多発テロ発生後に連邦議会で通過し、2002年にも認められ、イラク戦争が容認された基盤となった武力行使容認決議によって、トランプ大統領の今回の行動は正当化されると主張した。

 

マコンネルは金曜日、保守派のラジオ番組に出演し、司会者であるヒュー・ヒューイットに対して次のように語った。「私たちは2001年と2002年に決議を通した。オバマ前大統領は中東で私たちがやってきたことを自分もできるのだということを認識していたと思う。私はトランプ大統領も同じように考えるように期待している」。

 

トランプは、もし必要であれば、シリアに対して更なる攻撃を実行する用意があると主張した。金曜日、アメリカ国連大使のニッキー・ヘイリーも同様の主張を行った。ヘイリーは、ロシアからの非難に反論し、トランプ大統領の行動を正当化した。

 

ヘイリーは「アメリカは昨晩、周到に準備された行動を取った。私たちには更なる行動を取る用意があるが、そうした行動が必要ではなくなることを願っている」と語った。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ