古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

 古村治彦です。

 

 2020年の米大統領選挙予備選挙の有力候補となっているピート・ブティジェッジについては何度もご紹介しています。ブティジェッジは支持率ゼロ%のところから数字を上げて、今や有力候補となっています。現在、ジョー・バイデン前副大統領が独走状態、バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ-モント州選出、無所属)がそれに続くという状況になっています。

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 ブティジェッジの弱点は非白人の支持率が低いところです。これまでご紹介した世論調査の結果では、白人の高学歴、高収入の層には人気が高いのですが、非白人の人々の支持率は他の有力候補に比べてだいぶ低いという結果が出ています。これから選挙戦を進めていく上で、非白人の有権者の支持を拡大していくことが重要になってきます。ブティジェッジは多言語話者でスペイン語が話せるので、ヒスパニック系への浸透はこれから可能であろうと思われます。問題はアフリカ系アメリカ人層です。ブティジェッジの華麗な経歴と能力は逆に言えば、エリート臭が強すぎるということで、反感を買うという弱点もあります。




 そこで、ブティジェッジは先月末、ニューヨークのハーレムを訪問し、アフリカ系アメリカ人共同体の指導者アル・シャープトン師と会談を持ちました。他の候補者たちもシャープトンを訪問していますが、ブティジェッジは自分のエリート臭の強さを意識して、ハーレムまで地下鉄で向かい、シャープトンとの昼食ではフライドチキンを手で食べる姿を見せました。また、食事の前にお祈りをしましたが、シャープトンは「地下鉄でここまで来た、そして食事の前にお祈りをした唯一の候補者だ」と述べました。


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 シャープトンに嫌われるとアフリカ系アメリカ人有権者からの得票を望めないということになりますが、この点でブティジェッジは第一関門を突破できたということになります。アフリカ系アメリカ人指導者に辞を低くして教えを乞いにニューヨークのハーレムまで地下鉄まで行ったというのは少なくとも悪い印象は与えず、まぁ少しやりすぎというてんもあるでしょうが、よくやったということになります。

 

 ブティジェッジは1981年生まれで、ミレニアル世代と呼ばれる若い世代に属しています。このミレニアル世代は、自分たちは祖父母や両親の世代よりも恵まれていないという思いを持っており、より平等主義的、分配を求める傾向にあります。その代表がアレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)です。

 

 ブティジェッジは自分の信仰心について選挙演説で述べていますが、「信仰心、信仰の深さは右派だけのものではない」として、「宗教左派(religious left)」という言葉を使っています。シャープトンとの昼食の前に祈りを捧げたのも信仰心が篤いということを人々に示すことになります。アメリカの有権者、特に穏健な民主党支持者たちや年齢の高い人たちの中には、信仰心の篤さを大統領選挙の投票の際の条件にしている人たちもいます。ブティジェッジはそうした人々にアピールしようとしています。


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 そして、「自分はミレニアル世代に属しているが、信仰心の篤い(=嘘をつかない)穏やかな人物だ」ということをアピールするためもあって、「元祖宗教左派」と言うべき人物、ジミー・カーター元大統領の地元まで行き、カーター元大統領の家で食事をし、サンデースクールに出席しました。戦闘的なミレニアル世代とは違う、というイメージづくりにとって、カーター元大統領と会うということは非常に重要なことです。アメリカ南部の信仰心の篤い民主党支持者たちには大きなアピールになります。



 

 このように、ブティジェッジは自身の弱い部分を強化しようとして動いています。今回の大統領選挙予備選挙ではジョー・バイデン、バーニー・サンダースを追い抜くことはできないでしょうが、この2人にはない、年齢という最大の武器があり、これから経験を積み、名前を売っていくことで明るい未来がある、ということを人々に示すことが出来ています。

 

(貼り付けはじめ)

 

ブティジェッジと彼の配偶者がジミー・カーターと会談を持ち、サンデースクールの授業に出席した(Buttigieg, husband meet with Jimmy Carter, sit in on Sunday school class

 

エミリー・バーンバウム筆

2019年5月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/442194-buttigieg-husband-sit-in-on-jimmy-carters-sunday-school-class

 

米大統領選挙民主党予備選挙候補者であるインディアナ州サウスベンド市長ピート・ブティジェッジと配偶者チャステン・ブティジェッジは日曜日、ジョージア州南部を訪れ、ジミー・カーター元大統領主催のサンデースクールに出席した、とブティジェッジ選対が発表した。

 

選対が発表した声明によると、2020年大統領選挙のライジングスターであるブティジェッジはジョージア州プレインズのカーター元大統領の自宅で会談し、昼食を共にし、その前にはマラナサ・バプティスト教会での礼拝とサンデースクールに出席した、ということだ。夫人のロザリン・カーターも一緒だった。

 

ブティジェッジ選対の声明は、「皆が信仰や選挙運動の厳しさなどの多くの話題での会話を楽しんだ」と述べている。

 

AP通信が報じたところによると、カーターは満員のサンデースクールの出席者に対して、「私はハビタット・フォ・ヒューマニティ・プロジェクト(訳者註:住宅支援などを行うヴォランティア団体)でインディアナ州においてヴォランティアをしていた時にピート市長と知り合いました」と述べたということだ。

 

AP通信は、ブティジェッジがカーターの求めに応じて聖書を朗読したと報じている。元大統領は、コーリー・ブッカー連邦上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)とエイミー・クロウブッシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出、民主党)も以前にサンデースクールに出席したことがあると語った。

 

ブティジェッジはツイッター上で次のように書いた。「今日、ジョージア州プレインズでカーター大統領とお目にかかれて光栄でした。カーター大統領は本物の公僕であり、彼の指導が今も続いていることにアメリカは喜びを持っています」。

 

ブティジェッジの配偶者チャステンはブティジェッジの選挙運動の重要な要素となっている。2人が一緒にインタヴューを受けたり、選挙集会に参加したりする際に、チャステンはスポークスマンや助言者の役割を果たしている。

 

ブティジェッジはアメリカ史上初の同性愛者であることを公表した大統領選挙の有力候補者であり、カミングアウトするまでの苦闘を公の場で語っている。そして、彼の人生にとって配偶者との関係が最も重要な要素の一つとなっていると述べている。

 

チャステンは今週初めに同性愛者であることをカミングアウトする苦闘について語った。彼は、『ワシントン・ポスト』紙に対して、彼自身の家族からの敵意に直面したことを語った。

 

チャステンは同紙に、「私の母は泣きました。そして、最初に尋ねたことは私が病気かどうかということでした。そのことをよく覚えています。母は私がエイズになっているのではないかと考えたのだろうと思います」と語った。

 

チャステンは両親が最終的に彼の性的志向を受け入れてくれ、昨年の結婚式にも出席してくれたが、自分の兄弟たちは「まだ乗り越えられていない」と述べた。

 

ブティジェッジは彼自身のキリスト教徒としての信仰がいかに人生に影響を与えているかについて精力的に語っている。ブティジェッジは、マイク・ペンス副大統領と同性愛者の諸権利に対する副大統領の姿勢について言葉の応酬を展開した。ペンス副大統領はブティジェッジが副大統領自身の信仰を攻撃したと批判したが、ブティジェッジは「私は彼の信仰を攻撃していない。私は悪い政策について攻撃しているのだ」と反論した。

 

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ブティジェッジに関するアル・シャープトンの発言:「私が考えていたよりも印象深い事物だった」(Al Sharpton on Buttigieg: 'More impressive than I thought he would be'

 

ザック・バドリック筆

2019年5月6日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/442371-al-sharpton-on-buttigieg-more-impressive-than-i-thought-he-would-be

 

アル・シャープトン師は月曜日に発表されたインタヴューの中で、インディアナ州サウスベンド市長ピート・ブティジェッジ(民主党)について、考えていたよりも「より印象深い」人物であり、アメリカはいつの日か同性愛者の大統領を選ぶことになるという確信を持ったと述べた。

 

シャープトンは『デイリーメール』紙の取材に応じ、4月に行われた37歳の大統領選挙候補者ブティジェッジとの会見について質問された。シャープトンは次のように語った。「彼が何に賛成し、何に賛成しないかについて話をし、私は感銘を受けました。彼が実力以上の評価を受けているとは感じませんでした。彼は私が賛成しないであろうと分かっていることでも自分の考えをしっかりと述べ、お互いが賛成できるであろうことについてもしっかりと発言していました」。

 

シャープトンは続けて次のように述べた。「最も印象深かったのは、彼が自分のあるがままの姿に違和感を持っていないように見えたことです。私はこれまで多くの政治家と会いました。政治家の多くは自分自身に違和感を持っていたり、目の前にいる人に好かれようと装ったりします。彼はあるがままの姿を受け入れているように見えます。これがとても印象深く、新鮮に感じました」。

 

シャープトンは更にアメリカは後々同性愛を公表している大統領を選ぶだろうと述べた。

 

シャープトンは「私はアメリカ国民がそうするだろうと思います。それがピートなのかどうかは分かりませんがね。しかし、同性愛者を大統領に選ぶことになると思います」と述べた。

 

ブティジェッジは同性愛者の男性としての経験を選挙演説の中で触れることが多い。今月初めには『タイム』誌の表紙を配偶者のチャステンと共に飾った。

 

シャープトンはブティジェッジに対して支援表明を行わなかったが、デイリーメール紙の取材に応じたある人物は、シャープトンは刑務所改革とインナーシティの雇用の維持を主張する候補者を支援することになるだろうと述べた。この人物は、ブティジェッジは「正しいボタンを押す場面が多かった」と述べた。ブティジェッジは次のように語った。「シャープトン師との昼食後、私たちは私の選挙運動の核となるであろう政策課題、特に住宅所有、起業家精神、医療、教育、司法改革について語り合いました」。

 

=====

 

ブティジェッジはシャープトンと会いアフリカ系アメリカ人への浸透を図る(Buttigieg meets with Sharpton seeking inroads with black voters

 

ジョナサン・イーズリー筆

2019年4月29日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/441208-buttigieg-meets-with-sharpton-seeking-inroads-with-black-voters?fbclid=IwAR1PRhxaefoSSsuO-oJUsMQwNSd-Q2_VwtIKhYxua-Ca2M1IeOWcU-4PYTM

 

月曜日、ピート・ブティジェッジはニューヨーク市でアル・シャープトン師と会談を持った。ブティジェッジは民主党に現れたライジングスターだ。ブティジェッジはアフリカ系アメリカ人有権者への浸透のために、その助けとなるであろう公民権運動の指導者シャープトンに相談をするためにニューヨークを訪問した。

 

インディアナ州サウスベンド市長ピート・ブティジェッジは大統領選挙民主党予備選挙の各種世論調査で急激に支持率を上げ、数百万ドルの資金を集めるようになっている。しかし、民主党予備選挙の結果に影響を与えるアフリカ系アメリカ人有権者に対してアピールできているかという点には疑念が出ている。

 

ブティジェッジは彼自身の支持基盤の多様性を拡大する必要性を認識している。そして、ブティジェッジの市長としての決断がサウスベンド市内の非白人の各コミュニティにマイナスの影響を与えたという批判に対して防戦する状況となっている。

 

ブティジェッジはシャープトンに対して次のように述べた。「私が抱えている問題は、何かの機会に私について見聞きして、選挙集会や資金集めに来てくれるようになる人が増えているのですが、私が直接話せるのはこうした関心を持ってくれた人々だけで、それだけでは多様性が広がらない、ということなのです」。

 

シャープトンは、「それであなたはアフリカ系アメリカ人に自分の考えを届けたい、働きかけたいと思っているのですね」と述べた。

 

ブティジエッジは「そう考えています」と答えた。

 

ブティジェッジは、ハーレムにあるシルヴィアズ・レストランでシャープトンに会うために、地下鉄3号線に乗ってハーレムを訪問した。

 

ブティジェッジはフライドチキン、付け合わせのコラードグリーン、マカロニアンドチーズを注文した。そして、シャープトンに手を使ってフライドチキンを食べるのは正しい作法なのかどうか指摘して欲しいと述べた。

 

シャープトンはブティジェッジに対して是非手で食べるようにと述べた。そして、ブティジェッジは自分に会いに来るために地下鉄でハーレムまで来た唯一の候補者だと述べた。そして、食事をする前に祈りをささげた唯一の候補者であるとも述べた。

 

30分程度の昼食の中で、ブティジェッジはとシャープトンは刑事司法改革、マリファナの合法化、投票に関する権利について議論を行った。

 

シャープトンはブティジェッジが市長として、サウスベンド市の歴史で初めてのアフリカ系アメリカ人の警察本部長を解任したことと市の住宅政策について議論した。ブティジェッジを批判する人々は、ブティジェッジの都市開発政策のためにマイノリティの家族の多くが住み慣れた共同体から出ていかざるを得ない羽目に陥ったと主張している。

 

これらについての議論は非公開で行われたために、その内容は明らかになっていない。

 

しかし、シャープトンはブティジェッジに感銘を受けたように見受けられる。シャープトンはブティジェッジに対して、予備選挙では支援する準備はできていないが、会談は「良かった」と述べた。

 

シャープトンは次のように述べた。「私は彼が本物の人物であると思います。自分自身が何者であるかということと何を代表しているのかということについてしっかりとした考えを持っているようです。今日、彼が示したことは、ハーレムの中心部で適正に振る舞ったということです。彼はハーレムの人々に投票して欲しいと望んでいます。そこでうまく振る舞いました」。

 

ブティジェッジとシャープトンは同性愛についても長い時間話をした。

 

ブティジェッジはアフガニスタンで軍務に就いて帰国した後に自身の性的志向を公表するに至った経緯について語った。

 

ブティジェッジは次のように語った。「私にはその結果がどうなるか、どのようなことが起きるは分かりませんでした。私には町全体が私の側にいてくれるように感じられました。私はただ自分が何者であるかを明らかにすることと他の人と同じように扱ってもらおうとしただけです。醜いことも起きました。しかし、市長選挙の民主党予備選挙が実施され、私は78%の得票を得ました。そして本選挙では80%の得票を得たのです。選挙結果は、ほとんどの人は私が同性愛者であることを気にしていないということを示しました。これらの人々は支持してくれるか、気にしていないかのどちらかだったのです」。

 

シャープトンは自分の妹が黒人であることと同性愛者であることにどのように対処したかについて語った。そして、アフリカ系アメリカ人の中には、LGBT共同体のメンバーとなるであろう人々を受け入れない人たちがいるとも述べた。

 

シャープトンは次のように述べた。「宗教右翼と同性愛嫌悪の問題は私たちの共同体の中にもあります。これは私たちの責任です。私たちはアフリカ系アメリカ人共同体内における同性愛嫌悪に対処しなければなりません。人間は能力で判断されるべきです。性的志向を基盤とした偏見を持っているならば、人種を基盤とした嫌悪を戦うことなどできないのです」。

 

ブティジェッジとシャープトンは政治と民主党予備選挙においてブティジェッジが驚くべき台頭をしていることについて長い時間語った。

 

ブティジェッジは、早期に予備選挙が実施され、アフリカ系アメリカ人有権者が重要な位置を占めるノースカロライナ州での選挙運動についての助言を求めた。

 

シャープトンは次のように答えた。「何よりも重要なことは、人々はあなたを誠実なのか、それとも装っているだけなのかを見抜き、それが投票行動につながるということです。大統領になりたいから選挙に出るということ以上のことが必要だ。より高い目的のために選挙を戦うことで、エネルギーを保つことが出来るでしょう。あなたがより大きな何かを代表しているということを人々が感じるようにする必要があります」。

 

ブティジェッジは選挙戦の主要な戦略の詳細について明らかにした。資金集めは「大変に調子が良い」のだが、カリフォルニア州全体でのテレビCMにかかる料金は法外に高いと述べた。

 

カリフォルニア州の代議員数はほかのどの州よりも多く、今回の予備選挙から以前よりも早い時期に予備選挙が実施されることになっている。

 

ブティジェッジは、このような変化のために、アイオワ州、ニューハンプシャー州、サウスカロライナ州、ネヴァダ州という4つの早期に予備選挙と党員集会が実施される各州で支持率を上げることが重要だと述べた。

 

ブティジェッジは次のように述べている。「早期で予備選挙が実施される各州での支持率が好調でそのためにメディアの関心を集めていることを利用しなくてはなりません。予測を上回ることによって、予備選挙が全国的な関心を集めるようになっている段階で、メディアで報じられることが多くなります」。

 

(貼り付けはじめ)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 今回は映画『椿三十郎』を見た感想を書きたいと思います。


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椿三十郎 

 映画『椿三十郎』のストーリーは次の通りです。藩上層部の不正に怒りを募らせる若侍たち。若侍のリーダー(加山雄三)は城代家老の甥で、城代家老に処分を訴えるが、うまくいきません。監察である大目付に訴えたところ、彼らと同調するという返事をもらい、喜んでいました。

 

 若侍たちが集まっている古い神社には先客がいました。それは一人の浪人者、椿三十郎(三船敏郎)でした。三十郎は若者たちの話を危険だ、大目付が実はワルなのだと忠告し、やがて参謀役兼助っ人として仲間に加わることになりました。大目付は、側近の室戸半兵衛(仲代達矢)を使い、城代家老を捕まえ、不正の罪を城代家老になすりつけようとします。

 

 若侍たちは三十郎たちに反発しながらも三十郎の慧眼に心服するようになります。最後には城代家老を救出し、大目付をはじめとする藩上層部の不正を暴くことに成功します。城代家老は祝宴を用意しますが、その席に三十郎が居並ぶことはありませんでした。

 

 『椿三十郎』と言えば、ラストシーンの椿三十郎と室戸半兵衛の居合抜きによる対決のシーンが有名です。人間を本当に斬ればあのように血が噴き出すというリアルさを描き切ったのは凄い、の一言です。白黒映画ですが、どす黒い血の感じがよく出ています。黒沢監督の色彩感覚と素晴らしさを改めて感じます。

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 この映画にはチェンジオブペースと言うか、デウスエクスマキナと言うか、そういう役割を果たす人物たちが出てきます。それが城代家老の妻と娘、そして、大目付の配下で若侍側に捕らわれた壮年の侍です。城代家老の妻はおっとりとした性格と行動で(今で言えば空気が読めない)、三十郎や若侍を困惑させますが、その一言は重いものがあります。

 

家老夫人は「良い刀とは鞘に入っているものですよ」という言葉を三十郎に発します。頭が切れて腕も立つ三十郎を一言で評した言葉です。そして、三十郎が最後に若侍に贈った言葉が「鞘に入っていろよ」というものでした。

 

 この映画は若者たちの正義感とその暴走がテーマになっていると思います。戦前の青年将校の暴走と1960年の安保闘争といった日本にとって重要な局面で、若者たちは正義感が強ければ強いほど、暴走して結果として悲惨な事件を起こしたり、状況を悪化させてしまうものです。

 

 城代家老は凡庸な人物として馬鹿にされているところもありますが、藩上層部の不正についてはきちんと把握しており、証拠を集め、この証拠を突き付けて当事者たちの隠居を迫る、という方針を持っていました。城代家老は穏便にかつ怪我人を出さないで事を収めるという大人の知恵を持っていました。しかし、若者たちからしてみれば、このような穏健なやり方は生ぬるく、かつ敵を利するとさえ思われるようなものです。

 

 この映画の主人公である椿三十郎は若い時に、若侍のような正義感でもって不正を正そうとして、大きな騒動を引き起こしてしまった、という苦い経験と傷を持っている、老革命家のように思われます。若者たちが道を踏み外して自分のようにならないように、という姿勢を貫いているかのようです。

 

 ラストシーンで、居合で室戸半兵衛を斬った三十郎に対して、若侍が「お見事」と声をかけたことに対して、「馬鹿野郎」と怒鳴ったところも印象深いです。三十郎はこれまでにも何十人も斬ってきたことでしょうし、映画の中でも何人も斬っています。しかし、人間を斬ってしまうというのは下策であって、褒められたものではない、ということもあって怒鳴ったのでしょう。

 

これはまた、若者にありがちな「頭でっかちな」言葉遣い、地に足がついていない実感のない空虚な言葉遣いに対するメタファーということも言えるでしょう。60年安保や学生運動に参加した若者たちが聞きかじりのマルクスの言葉を振り回していたことに対する皮肉ということになるのでしょう。1962年公開の映画ですから、60年安保が沈静化していく中で、黒澤監督が時代の雰囲気をとらえて撮影したのが『椿三十郎』ということになるでしょう。

 

 スピード感のある映像と展開で見ていて大変面白い映画です。

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 「1つの言葉しか話せない人のことを何と言いますか?」「アメリカ人です」という冗談が外国にあります。日本人も同様でしょうが、英語の場合は、世界中に話者が多くいるので、日本以外に話者はあまりいない日本語しか話せない日本人よりはまだ世界中を旅行するときに便利でしょう。日本だけで暮らしていく場合には日本語だけで十分ではありますが。

 

 アメリカ国内で、特に白人が外国を話している人たちに因縁をつけ、トラブルになる出来事が増えているようです。たまにインターネット上にトラブルの様子を撮影した映像が拡散されています。「ドナルド・トランプ大統領時代になって、一気に排外主義が拡大した」という解釈もありますが、外国語嫌い、外国人嫌いはその前から連綿としてアメリカ文化の中に流れているものだと思います。サミュエル・ハンチントンの『分断されるアメリカ』(鈴木主税訳、集英社、2004年)は、アメリカの多文化主義に警告を発しています。

 

 アメリカでもヒスパニック系の数と人口に占める割合が大きくなっていく中で、スペイン語が公の場に出てくることは多くなっています。テキサス州出身の政治家たちはスペイン語を話すことが出来る場合もあります。ジョージ・W・ブッシュ元大統領も弟のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は2人ともスペイン語を話すことが出来ます。今回の大統領選挙民主党予備選挙の有力候補ビトー・オローク前連邦下院議員(テキサス州選出、民主党)も国境の町エルパソ出身ということもあってスペイン語を話せます。そして、このブログで何度もご紹介しているピート・ブティジェッジは7か国語を話せる人物です。




 しかし、「1つの言葉しか話せない」ということがアメリカ人のアイデンティティになっているようで、外国語を聞くとイラっとくるようです。大都市で旅行者らしい人たちがそれらしい格好をして(ポーチをつけたり、外国語のガイドブックを持っていたり)、外国語を話すのは旅行者だからということで目くじらを立てる人はアメリカでもいないでしょう。

 

 アメリカ白人たちの多くが、旅行者の外国語に文句を言わないのに、アメリカで暮らしていると思われる人々が外国語を使うことに対して因縁をつけるというのは、元々が世界中からやってきた移民の国であるアメリカの成り立ちと矛盾するのではないかと思います。しかし、英語を話すことは、こうした白人たちにとっては、アメリカの歴史である専制と戦い、自由と平等(あくまで理念的なものですが)を勝ち取ったことを象徴しており、「お前たちはこの歴史を受け入れないのか、アメリカの価値観を受け入れる気がないのか」という気持ちになり、爆発してしまうのだろうと思います。

 

 また、ヒスパニック系の場合はカトリックということもあって貧乏人の子沢山というイメージもあり、また不法移民が多いという状況で、英語を話さない人間たちは、税金を納めないどころか、自分たちが納めた税金が原資の福祉を食いものにしている、フードスタンプや学校教育などをずるく利用している、という感情もあるのだと思います。


 非白人、特にヒスパニックで移民第一世代の人々は社会的な地位の高い、報酬の高い仕事に就ける訳ではありません。厳しい肉体労働や日雇い労働が主となります。そうした中で仲間同士で助け合うということになれば、英語を話す必要はないということになります。アメリカは社会体制として、理念としては自由と平等を謳いながら、実際には非白人に対する差別は構造として残り、住む場所も人種別で固定化されるなどしてきました。そして、こういう非白人マイノリティは安い労働力として利用されてきました。安い労働力を再生産するために、人種グループを固定化し、際立たせてきたということもあるでしょう。

 理念としての自由と平等などこうした人々からすれば何の感慨もないということになります。だからと言って、アメリカに反逆をするなどということもないのですから、目くじらを立てるのも狭量と言いたくなりますが、アメリカ白人のアメリカの国際的な地位と経済力の低下、国内的には多数派からの脱落などに対する恐怖心があるのだろうと思います。

 アメリカは現在割合は小さくなっていつまで続くかは分からないとは言え、世界一の経済大国であり、唯一の覇権国であることは間違いないところです。そうなれば、世界中から人々が押し寄せる、特に発展途上国や貧困国から移民が押し寄せるのは当然の話で、そうした人々全てにアメリカの歴史と英語を完全にマスターせよ、ということは不可能です。アメリカは変質を余儀なくされるということになります。

 

 アメリカで非白人が人口に占める割合がやがて5割を超え、将来的に6割に近づくということにもなっていくでしょう。英語が共通語にして公用語ということは変わらないでしょうが、やがて上記のような冗談は実態にそぐわない、そんな時代になっていくのではないかと思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

共和党支持の白人の約半数、民主党支持の白人の18%が公の場で外国語を聞くと気になると答えた(About half of white Republicans, 18 percent of white Democrats would be bothered to hear foreign language in public

 

アリス・フォーリー筆

2019年5月8日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/news/442749-about-half-of-white-republicans-18-percent-of-white-democrats?fbclid=IwAR3Z6KPCAMkJTVT2dO1hQ16H0uAuAmDq6rqu1qYA91nJZfq-GBsk0fpnOGQ&fbclid=IwAR1mam9-C3gkXQns36hbCIO4ZLcnoOPg0cJbmi8bsmTrj070Pk3nq15eyBI

 

ピュー・リサーチセンターが水曜日に発表した最新の世論調査の結果によると、アメリカ国内の共和党支持の白人の約半数が公の場で外国語を話す人がいると気に障ると答えた、ということだ。

 

世論調査の結果によると、調査に答えた共和党支持、もしくは共和党寄りの白人の47%が公の場で英語ではない言葉を話す人物がいると「いくらか」もしくは「大いに」気に障ると答えた、ということだ。一方、民主党支持、もしくは民主党寄りの白人の18%が気に障ると答えた。

 

民主党支持の白人の58%は公の場所で外国語を話す人たちがいても気にならないと答えた。共和党支持の26%は同様の答えをした。


 
こうした分類を別にすると、白人全体の31%が公の場所で外国語を話す人がいると気に障ると答えた。アフリカ系アメリカ人の24%、アジア系の24%、ヒスパニック系の14%も気に障ると答えた。


ヒスパニック系の68%は、公の場所で英語ではない言葉を話す人がいても気にならないと答えた。アジア系の約半分も同様の答えであった。アフリカ系アメリカ人の48%、白人の41%も気にならないと答えた。

 

ヒスパニック系については、アメリカ生まれではない人の場合は76%が気にならないと答え、アメリカ生まれの61%が気にならないと答えた。

 

最近、白人が公の場で英語以外の言葉を話す人たちに高圧的な態度を取りトラブルとなっている様子が撮影され、インターネット上で拡散される出来事が続いている中で、今回の調査は実施された。

 

今年初め、カリフォルニア州のガソリンスタンドで、従業員が、客に対してスペイン語を話したことで因縁をつけ、アメリカ市民であることを証明するように求めた様子が撮影され、その映像がインターネット上で拡散し、この従業員は解雇された。

 

昨年、ダンキン・ドーナッツも謝罪に追い込まれた。従業員がソマリア語を話す家族と口論になったが、その理由は家族が母国語を話していたからというものであった。

 

2018年5月、ニューヨーク市の弁護士が店員と客がスペイン語で会話しているところに詰め寄って、移民関税捜査局(ICE)に通報してやると脅す様子が撮影された映像がインターネット上で拡散し、この弁護士は激しい批判を浴びた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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