古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

 古村治彦です。

 アメリカ連邦議会は新しいセッション(第118期)が始まった。始まって早々、連邦下院では新議長選出を巡って大騒ぎとなったことは日本でも報道され、記憶に新しいところだ。前回のセッションまで連邦議会共和党の少数党(共和党)院内総務を務めてきたケヴィン・マッカーシーが新しい下院議長に選出されることは通常であれば当然のことであった。 

しかし、共和党内から造反議員が出て、何度も何度も否決され、15回目の投票でようやく過半数の得票となり、新議長に選出された。その過程で議場ではつかみ合いの喧嘩騒ぎも起きた。民主党側からは造反してマッカーシーの議長就任に賛成票を投じた議員は出なかったので、今回の騒動は共和党内部の争いということになった。

 マッカーシー議員は2014年から連邦下院共和党の最高幹部であり、2014年から2019年までは連邦下院多数党(共和党)院内総務、2019年から2023年まで少数党(共和党)院内総務を務めた。ドナルド・トランプ政権下では、連邦議会で過半数を失って少数党となった共和党を指揮し、トランプ大統領と協力して議会運営に当たった。トランプ派と目される人物の1人である。

 共和党内でマッカーシー議員の議長就任に抵抗したのは、フリーダム議連(Freedom Caucus)のメンバーたちである。フリーダム議連とはティーパーティー運動が源流の議員連盟であり、「保守系」もしくは「リバータリアン系」と評される議員たちの集まりだ。彼らの考えを簡単に述べれば「反福祉・反税金・反大きな政府」ということになる。彼らの資金源となっているのがコーク・インダストリーズという巨大企業を率いるチャールズ・コークだ。コーク一族の歴史と動きについては拙訳『アメリカの真の支配者 コーク一族』(講談社)を是非お読みいただきたい。

 簡単に言えば、フリーダム議連のパトロンであるチャールズ・コークは反ポピュリズム、反トランプの立場を取っている。トランプのポピュリズムは、彼から見れば「貧乏人にバラマキを約束している」ということになる。トランプ派と目されるマッカーシーの議長職就任を妨害したい、もしくはフリーダム議連が議会活動で有利になるような条件を受け入れさせたい、ということでフリーダム議連を使って妨害活動としい活動を行ったということになる。コークとフリーダム議連は共和党内部のエスタブリッシュメント派とも対立しており、フリーダム議連、エスタブリッシュメント派、トランプ派という形で共和党は分裂しているということになる。フリーダム議連とエスタブリッシュメント派が共同してトランプ派をけん制し、トランプの大統領選挙での復活を阻止したいという動きになっている。そのために、フロリダ州のロン・デサンティス知事やニッキー・ヘイリー元国連大使の名前を、2024年の大統領選挙の共和党側の有力候補として主流メディアは出している。

 2023年、2024年のアメリカは、2024年の大統領選挙に向けて政治の季節となる。共和党内部の争いはますます激化するだろう。

(貼り付けはじめ)

5つのポイント:マッカーシーは如何にして連邦下院議長職を勝ち取ったか(Five takeaways: How McCarthy won the Speakership

イアン・スワンソン筆

2023年1月7日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/3803662-five-takeaways-how-mccarthy-won-the-speakership/

ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)が新しい連邦下院議長に就任した。この1週間、議場では15回もの投票が行われ、党内分裂が誰の目にも明らかな異常事態となった。

しかし、この騒動は、マッカーシー議員が分裂した共和党をどのように統率していくのか、また、政府予算や国の債務上限(debt ceiling)引き上げの時期が来た時、国にとってどのような意味を持つのか、それらについて疑問が生じている。

ここでは、これまで誰も見たことのないような狂騒のうちに誕生した連邦下院議長選挙について5つのポイントを紹介する。

(1)マッカーシーは反対派をけん制する(McCarthy picks them off

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第118期連邦議会で連邦下院議長に選出されたケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)が人々の歓声に応える。2023年1月7日。

マッカーシーはこの1週間、民主、共和両党の有権者や批評家たちから、連邦下院で最も大きな丘を登る能力を疑問視され、次々と批判されてきた。

マッカーシーに対する反対派は動じる気配もなく、次々と票を失う中で、彼が必要な過半数を獲得できるのかどうか、多くの人が疑問に思った。

マッカーシーの戦術のいくつかは成功しなかったし、批判されるには理由があった。

2023年1月2日の非公開の会議で反対派に圧力をかけても誰も動かず、マッカーシー議員が批判派に対して議長の座を獲得するに決まっていると話すと、ローレン・ベイバート議員(コロラド州選出、共和党)が「くそ野郎!」と叫ぶなど激しい票読みの始まりとなった。

1回目の投票で19人の共和党所属の議員たちがマッカーシーに反対票を投じ、3回目の投票でバイロン・ドナルド連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)が反対者に加わり、その数は20人に膨れ上がった。

しかし、マッカーシーはこの間、実にたくましく対応しており、火曜日には「次から次へと投票がある中で戦うことを恐れていない」と発言していたが、その通りとなった。

マッカーシーは「戦う準備はできている」と公言し、週半ばには反対勢力との取引に向け、味方の議員たちとともに水面下で猛烈に働きかけた。その努力が実り、金曜日には、12回目の投票で反対派20人のうち13人が賛成に代わり、14回目の投票では更に1票が反対派から賛成に変わるという劇的な投票が行われた。 

その数時間後、連邦下院の議場で歴史的な前代未聞の瞬間が訪れた。

(2)マット・ゲーツが注目を集めた瞬間(Matt Gaetz gets his moment)

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2023年1月5日(木)、第118期議会の3日目に連邦下院民主党の議員たちと話すマット・ゲーツ連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)

マッカーシーの政治的将来が、金曜深夜に近づくにつれ、マット・ゲーツ連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)の投票にかかるようになるとは、誰も予想しなかっただろう。

ゲーツ議員とマッカーシー議員との間の反目は、この1週間の投票の底流にあり、金曜日には、フロリダ州の共和党員であるゲーツは、マッカーシーを連邦下院議長職に就くために裏取引をしたと非難し、より個人的な反感が高まっているように見えた。

ゲーツはまた、「これは、計算し、集計し、絶対に回避できることをこの機関に課している人物の虚栄心の表れなのか?」と問いかけた。

しかし、マッカーシーは議長選挙で216票を確保し、あと1票で当選というところでゲーツの投票を待っていた。当時、マッカーシーが連邦下院で過半数を獲得するには217票が必要だった。

ゲーツは「賛否を示さない出席(present)」と発言した。結果として、マッカーシーが投票者の過半数を獲得するための基準を引き下がることになったが、ゲーツの投票では勝利するのに十分でなかった。

ゲーツと同席していたマッカーシーの信頼する盟友パトリック・マクヘンリー連邦下院議員(ノースカロライナ州選出、共和党)を含む議場の共和党所属議員たちは、マッカーシーのマジックナンバーをまだ確保していないことにすぐには気づかず、立ち上がって拍手喝采を送った。

ゲーツは考えを変えなかった。ゲーツの投票は「賛意を示さない出席」だった。

当初、マッカーシーにとって完全な災難に見えたが、その味方は月曜日まで議会を閉会させる投票に動いた。しかし、その閉会投票が行われると、別の切り替えが行われた。どうやら、共和党側のマッカーシーを非難する最終グループの6人全員が「賛否を示さない出席」票を投じるという取引が成立したようだ。

マッカーシーと他の共和党議員たちは閉会日に票を入れ替え、新たに議長選の投票が行われ、マッカーシーは再び216票を獲得したが、今度はそれで十分であった。ゲーツをはじめとする4人の共和党議員がベイバート議員に加わって「賛否を示さない出席」票を投じたことで、マッカーシーが過半数を確保した。

ゲーツは政治的なショーマンであり、カメラに映る時間を多く獲得し、その中心的存在となった

(3)この人たちはどうやって付き合っていくんだろうか?(How are these people going to get along?

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2023年1月6日(金)に連邦下院議長選挙の14回目の投票が実施された後、マイケル・D・ロジャース連邦下院議員(アラバマ州選出、共和党)は、ローレン・ベイバート連邦下院議員(コロラド州選出、共和党)とマット・ゲーツ連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)から引き離されている。

1枚の絵は1000の言葉に匹敵する(百聞は一見に如かず、Sometimes a picture is worth a thousand words)ということがある。

リチャード・ハドソン連邦下院議員(ノースカロライナ州選出、共和党)がマイク・ロジャース連邦議員(アラバマ州選出、共和党)の体をつかまえている写真(片手を肩に、片手を顎に置き、レスリングに近い動き)は、そうした写真の1つである。

この時のロジャースは、ゲーツと現在の自身の投票について話し合うか、彼の首を絞めるかのどちらかに興味があるように見えた。

この100年間、連邦下院議長の投票では見られなかった光景に、多くの共和党員たちが互いにどれほど不満と疲れと苛立ちを感じていたかを示す象徴となった。

今、連邦下院共和党は僅かな差で、この違いを埋めて、彼らがやりたいこと、監視、支出削減、国境警備強化のための戦い、これら全て行うために協力しなければならない。

1月15日の投票でマッカーシーが新議長に決まった後、団結をするようにと訴えられていた。

しかし、この連邦下院議長選出の戦いは、今後、法案や規則をめぐって共和党内で更なる争いが起こることを予感させるものでもある。

今週、マッカーシーが強いられた屈辱や、ゲーツなどの議員たちの行動に見られた大義名分に対して怨嗟の声が上がるだろう。

マッカーシーがこの騒動をどう処理するかは今後直面する厳しい試練の一つになるだろう。

(4)マッカーシーは勝利を収めるために多くのことを諦めた(McCarthy gave up a lot to win

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2023年1月6日(金)、連邦下院議長選挙の14回目の投票中のケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)。

連邦下院議長の座を勝ち取るために、マッカーシーは多くのルール変更と反対派への譲歩を提示しなければならなかった。特に、新議長の投票を強制することができる議長退任動議を1人の議員が出すことができるようにすることが重要だった。

マッカーシーと提携する委員会は、共和党の予備選挙における委員会の役割を制限すると述べ、保守派議員たちは、議場に提出される全ての法案を審議する連邦下院規則委員会を含む、より多くの委員会の割り当てを受けることになる。

マッカーシーはまた、歳出法案を公開規則で審議することに同意したが、これは実質的に基本的な予算措置の可決を得ることをかなり難しくするものである。

今週マッカーシーに反対していた共和党議員の多くは、政府支出(国内支出と国防総省の予算の両方)の削減を望んでいる。今回の規則改正は、理論的には彼らにそれを実行する力を与えることになる。

この譲歩はマッカーシーの力を弱めることになりそうだが、彼は公の場で、この譲歩によって連邦下院議長が弱体化するとの見方を否定した。

(5)債務上限をめぐる戦いが注目の戦いだ(The debt ceiling fight is the battle to watch

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2023年1月5日(木)、ワシントンの連邦下院議会で10回目の投票中に、ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)と話すアンディ・ビグス連邦下院議員(アリゾナ州選出、共和党)(右)。

連邦政府は歳入を上回る支出をしているため、連邦議会は長年にわたり、社会保障や医療保険から軍事費まであらゆる資金を調達するために、国の借入限度額を定期的に引き上げる必要がある。

債務上限を引き上げること自体は、新たな連邦政府支出の増加や承認にはならないが、連邦政府がより多く支出することを可能にする。

もし、債務上限が引き上げられなければ、連邦政府は支払いをすることができない。

2011年には、当時のバラク・オバマ大統領と共和党が過半数を握る連邦下院が何とか合意に至るまで、政府はデフォルト(default、債務不履行)に近い危険な状態に陥った。

次に債務上限を引き上げなければならないのは今年8月である。どのようになるかは誰にも分からないが、今後数カ月、ワシントンやウォール街では多くの神経がすり減ることになりそうだ。

今週、マッカーシーの議長選に反対していた共和党側議員の1人であるラルフ・ノーマン連邦下院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)は水曜日、「マッカーシーは債務上限を引き上げるより、連邦政府を閉鎖することを望んでいるのだろうか?」と語った。ノーマンは更に「これは交渉の余地がない」とも述べた。

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マッカーシーの譲歩による連邦下院議長職獲得は驚きとなった(McCarthy concessions to win Speakership raise eyebrows

マイク・リリス、マイケル・シュニール、アル・ウィーヴァ―筆

2023年1月7日

『ザ・ヒル』

https://thehill.com/homenews/house/3803315-mccarthy-concessions-to-win-speakership-raise-eyebrows/

ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)は、歴史的な投票失敗の週を経て、議長の当選に必要な支持を得るために、反対派からの一連の要求に屈することを余儀なくされた。

ほとんどの共和党連邦議員たちはマッカーシーの譲歩の重要性を軽視しているが、この変更はマッカーシー自身の指導力を犠牲にして一般議員に権限を与えるものであり、連邦下院の統治機能を麻痺させかねないという懸念も出てきている。

特に、1人の議員が下院議長を追放するプロセスを開始できるようにする今回の変更は、保守派の強硬派グループがマッカーシーに圧力をかけて重要な必須法案を維持するために繰り返し使用することを恐れている民主、共和両党の議員に胸焼けを与えている。

その結果、連邦政府が閉鎖され、債務不履行に陥り、連邦下院の事業が急停止するリスクが高まると彼らは言う。

ドン・ベーコン連邦下院議員(ネブラスカ州選出、共和党)は、「これは恐ろしい決断だ」と述べた。

ベーコン議員は「1人でも議場から退席の動きを推し進めればまたやることになる。毎週こんなことをするのはいかがなものか?」と、マッカーシーの下院議員当選を数日遅らせた内部抗争を引き合いに出してこのように語った。ベーコン議員は「こういう人が何人かいると将来的にそうなるのではないかと思う。連邦下院議長が弱体化し、最小会派が強化されることになるのだ」と語った。

マッカーシーの保守派の批判者たちの中には、国の債務上限(連邦政府が債務を支払うためにお金を借りることを認める)を引き上げるいかなる動きも、社会保障やメディケアなどの国の権利プログラムの削減を伴わなければならないと要求している者もいる。そして、新しい連邦下院規則パッケージの条項では、債務上限引き上げについて別途投票を行うことが義務付けられている。

チップ・ロイ議員(テキサス州選出)は、木曜日に連邦議会議事堂で記者団に対して、「債務上限引き上げには具体的な支出制限が必要だと考えている」と語った。

マッカーシーの反対派で、今回の譲歩で最終的に支持に回ったスコット・ペリー連邦下院議員(ペンシルヴァニア州選出、共和党)も「何事もなく進められる債務上限引き上げはありえない、それは間違いない」と述べた。

この要求は、民主党側の議員たちからの反発を招いた。民主党議員たちは、国のセーフティネット・プログラムを守りたいが、マッカーシーが保守派の意向に従えば、連邦債務不履行のリスクが高まることを恐れているのだ。

民主党側のある議員は、「もし彼らが債務上限を設定したら私たちは終わりだ」と述べた。

今週の長丁場の交渉を通じて、中道派の共和党所属の議員たちにとってもう1つの大きな懸念は、保守派が小委員会の権限を自分たちのものにしようとすることで、この案は既に小委員会の席についている議員たちを激怒させた。

ベーコンはこれを「成功の見込みがない(non-starter)」だと形容した。特に小委員会の委員になるために努力してきた穏健派共和党員の間で怒りが広がっている。

ベーコンは次のように語った。「連邦下院議長職やそのようなものについて話すのであれば、彼らはまだそれを獲得しなければならない状況にあるのだ。私はそれを獲得していないにもかかわらず指導的役割を担わせるという、最も小さな議連に対するアファーマティブ・アクション同様だと考えている。私たちは共和党側の実力を基礎にしたシステム(merit-based system)を信じている」。

2013年から連邦下院議員を務めているアン・ワグナー議員(ミズーリ州選出、共和党)は、連邦下院議長職の「年功序列プロセス(seniority process)」だと強調した。

「誰もが年功序列のプロセスを経て、両委員会の役職や議長職などを獲得していかなければならないのだ」とワグナー議員は語った。

共和党が第118期連邦議会の開幕に際して採用したその他の変更点は、それほど議論の余地のないものである。その中には、全下院議員の任期制限を設けるための議場投票の保証、修正案の公開手続き、連邦政府機関に対する新たな権限を議会に与えるいわゆるホルマンルールの採用、議場に入る前に議員が法案を読むために丸3日間を必要とする72時間ルールなどが含まれる。

これらの変更は、全て過去の時点で採用されている。そして、ほとんどの共和党側議員たちは、マッカーシーが議員職の見返りに多くを捧げ過ぎたという説を否定している。

マージョリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党は)「そのようには感がない」と語った。グリーンは下院議長選でマッカーシーの最も有力な支持者の1人となった。

キャシー・マクモリス・ロジャーズ連邦議員(ワシントン州選出、ワシントン州選出)は、「これらの譲歩は私たちの話し合いで合意されたものであり、最終的には、より国民主導の立法過程につながると信じている。これは、より多くの権力と意思決定を議員に取り戻すことだ」と述べた。

ダン・クレンショー連邦下院議員(テキサス州選出、共和党)は、最初の規則パッケージの最小値である1人制と5人制の違いはほとんどないと述べ、1人制の空転動議についての懸念さえも軽視した。

クレンショー議員は「皆さん方はもう5人制で合意したのだろう。5人制と1人制で一体何が違うのか? 説明責任の問題だ。だから、みんなチームとして働こう、それが最善だ」と述べた。

マッカーシー自身も瀬戸際の交渉を擁護し、この重要な譲歩が彼を「弱い議長」にすることはないと断言している。

木曜日の夜、マッカーシー議員は記者団に対して、「これを恐れていたら、より弱い議長になるだけだ」と語った。「私は弱い議長になどならない」とも述べた。

マッカーシー議員は更に「前の議長を除いてはいつもそうだ。私はそれが結構なことだと思う」と付け加えて述べた。

しかし、民主党側は、カリフォルニア州選出の共和党議員であるマッカーシーが共和党右派対して提案したことは、彼の権威を低下させ、安定した統治を損なうと警鐘を鳴らしている。

前回と前々回の議会で下院議長として一人退席ルールを撤廃したナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は、その復活を「馬鹿げたことだ」と評した。

前多数党(民主党)院内総務のステニー・ホイヤー議員(メリーランド州選出、民主党)は、この協定は共和党の極右勢力にあまりにも大きな力を与えるものだと述べた。

ホイヤ―議員は次のように述べた。「彼は私が予想した以上のものを与えたと思う。この協定は、共和党の小さな、意志を持った一派、共和党の否定的な一派、ほぼ一様に妨害的な一派に、彼らが持つべき以上の権威を与えることになると思う」。

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「クラブ・フォ・グロース」とコークはフリーダム議連に資金提供(Club for Growth and Koch nurtured Freedom Caucus

アイザック・アーンスドーフ筆

2015年10月22日

『ポリティコ』誌

https://www.politico.com/story/2015/10/freedom-caucus-koch-club-growth-214973

最近、連邦下院をひっくり返した連邦下院保守派の反逆派の背後には、共和党の極右からおなじみの寄付者たちが何人か立っている。それが「クラブ・フォ・グロース(Club for Growth)」 とコーク・インダストリーズ(Koch Industries)だ。

非営利団体「センター・フォ・レスポンシヴ・ポリティックス(Center for Responsive PoliticsCRP)」と共同で行った本誌の分析によると、これらの強力な外部勢力は、ジョン・ベイナー連邦下院議長を追い出し、ケヴィン・マッカーシーが後継になることを阻止した共和党内グループである「連邦下院フリーダム連盟(House Freedom Caucus)」のメンバー37人の政治キャリアを育むのに一役買ってきた。

この分析によると、フリーダム議連のメンバーは、銀行や自動車ディーラーなど、伝統的に共和党候補を支持している業界から強い支持を受けてきた。しかし、議連のメンバー数は、共和党の重要な勢力として台頭し、時には保守的な原則をめぐって指導部と衝突する外部団体の影響力を示すものでもある。

各議員が報告した選挙運動およびリーダーシップPACへの寄付の金額を基に分析したところ、10万人の会員を持つ自由企業体制擁護団体「クラブ・フォ・グロース(Club for Growth)」の寄付額は177万ドルで、各議員が集めた総額1億7500万ドルの約1%に相当することが分かった。このクラブは、11人の議連メンバーにとって最大の寄付者であり、他のどの寄付者よりも多くのメンバーが寄付を受けた。

クラブ・フォ・グロースの広報担当者ダグ・サクトルベンは、本紙の取材に対して、最近の連邦下院での共和党指導部の混乱について、フリーダム議連に責任はないと述べた。サクトルベン「私たちの問題は、フリーダム議連の問題ではない。彼らは、選挙で訴えたことや有権者が投票したことを守っている。問題なのは、エスタブリッシュメントと指導部だ」と発言した。

指導者争いの中で、クラブはベイナー議員傘下のPACから「自分たちの信じる原則を守るために」攻撃を受けている保守派議員たちへの支援を公に表明していた。

カンザス州ウィチタに本社がある石油・ガス複合企業のコーク・インダストリーズは、現在フリーダム議連と提携しているメンバーたちに長期にわたり、総額で59万9400ドルを献金してきた。同社のPACとコーク社の従業員からの個人献金を合わせると、カンザス州選出のティム・ヒュールスカンプ連邦下院議員にとっての第2位の献金者となった。しかし、今回の分析では、フリーダム議連メンバーへの全体では2番目に大きな寄付をするのに十分な資金をばらまいていることが分かった。今回の分析では、コーク兄弟が築き上げた政治団体の幅広いネットワークはカヴァー仕切れておらず、これらはまとめて共和党候補への主要な資金源として発展してきた。

コーク PACのスポークスマンであるケネス・P・スペインは、同団体はフリーダム議連だけでなく、たくさんの共和党所属の議員たちに寄付していると述べた。CRPがまとめたデータによると、2014年のサイクルで1080万ドルを寄付していた。

この1カ月間、宮廷内の陰謀(palace intrigue)の中で、メンバーの名前を秘密にしているフリーダム議連は、党のどの派閥、グループが連邦下院指導部を支配するかをめぐる争いで影響力のある勢力として浮上してきた。連邦下院議長候補と目されているポール・ライアン連邦下院議員は、フリーダム議連が賛同し、ベイナー議員に対して脅した手続き上の戦術を諦めることに同意する場合のみ、連邦下院議長の座を望むと述べた。

共和党内部のエスタブリッシュメント派は、フリーダム議連が共和党のビジネス界の同盟者を軽視し、ひいては党の資金調達と多数派拡大への努力を軽視していると見て、不満を募らせている。しかし、クラブ・フォ・グロースやコーク・インダストリーズのような反体制的な資金提供者たちとの結びつきは、この集団がそれなりの資金基盤を持っていることを示唆している。

アメリカ商工会議所(UCC)は、この強力な勢力を排除するため、予備選挙の挑戦者を支援すると宣言している。

ベイナーのスタッフからロビイストに転身したある人物は次のように述べている。「昔は、党組織や経済界がもっと大きな影響力を持っていた。今、フリーダム議連は、ワシントンのグループは自分たちに献金しないと言って、ワシントン以外からもっと金を集められる。経済界は、この人たちと話をして、関係を構築する方法を考えるべきだ。今、彼らは共和党の未来を担っているように見えるからだ」。

業種別では、フリーダム連邦の寄付者の7%が退職者、次いで医療従事者(5%)と分析されている。

『ポリティコ』誌とCRPの分析によると、このブロックで最も資金調達に成功したのはニューメキシコ州のスティーヴ・ピアース連邦下院議員で、キャリアを通じて1690万ドル(クラブ・フォ・グロースから34万7867ドル、コーク・インダストリーズから86000ドルを含む)を稼ぎ、現職下院議員の中で38位にランクされた。ニュージャージー州のスコット・ギャレット連邦下院議員は1360万ドル(コーク・インダストリーズから7万2500ドルを含む)で69位と続く。

この分析は、選挙運動へのハードマネーによる寄付のみを対象としており、これらのレースにおける候補者の賛否を問わない独立した支出は反映されていない。

フリーダム議連への献金者の上位5位は、アメリカ銀行協会、全米自動車販売店協会(連邦議会への寄付額ではトップクラス)、エヴリ・リパブリカン・イズ・クルーシャルPACEvery Republican is Crucial PACERICPAC)で、エリック・カンター連邦下院多数派(共和党)院内総務がヴァージニア州選出のデイヴ・ブラット連邦下院に失脚させられる前に協力していた諸団体である。

アメリカ銀行協会の連邦議会関係・政治問題担当のジェームズ・バレンティン執行副会長は次のように述べている。「アメリカ銀行協会は、新人議員から議会指導部、その間にいる全ての議員に至るまで、通路の両側の議員たち(民主、共和党両党)と協力してきた長い歴史がある。これらの議員の中には、偶然にも、全米の銀行にとって重要な数々の施策を支持している議員たちもいる」。

ケネス・P・ヴォーゲルはこの記事の作成に貢献した。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 2022年の世界規模の大きな課題は、中国と台湾とアメリカの関係とウクライナとロシアの関係であった。これらについては2021年の段階で既に火種がまかれていた。アメリカでジョー・バイデン政権が発足し、アメリカは対ロシア、対中国で強硬姿勢を鮮明にした。サイバー上でロシアと中国がアメリカに攻撃を加えているので、サイバー安全保障を早急に整えねばならないということをバイデン政権は述べていた。私はバイデン政権の動きから、中露両国とアメリカの間でサイバー上において激しい戦いがあると考え、拙著『』(秀和システム)を書いた。

 しかし、実際には人々の死と大規模な破壊を伴う戦争が起きた。ウクライナは欧米諸国(NATO)の対ロシア最前線であった。欧米諸国はウクライナに中途半端に強力な軍事支援を行ってロシアを挑発した。ロシアという国は敵対する勢力と直接国境を接することを極度に怖がるという習性をもっている。これは歴史的に見ても明らかだ。だから、ロシア本国の周りに緩衝国(buffer state)をつくってきた。

冷戦の終結で、ロシアは身ぐるみをはがされて裸にされた形になり、「冷戦に勝った、勝った」と浮かれた欧米諸国はロシアを馬鹿にするだけ馬鹿にして悦に入っていた。それでも旧ソ連時代からのロシア軍の実力を恐れ、何とか封じ込めようとしてきた。東欧まではロシアもまだ我慢した。しかそ、ウクライナと春と話は別だ。ウクライナが中立でなければロシアの南部国境は危うくなる、黒海周辺でのバランスが大きく変わるということになった。

 ジョー・バイデンがバラク・オバマ政権時代に副大統領としてウクライナを私物化し、軍事支援などを積極的に行ってきたことも今から考えれば、ロシアにしてみれば「バイデンが大統領になったらどういうことになるか分からない」という懸念を強めることになっただろう。国務省次官にヴィクトリア・ヌーランドを起用したこともその懸念に拍車をかけたことだろう。結果として、ロシアは誘い込まれるようにして、ウクライナに侵攻した。欧米諸国がロシアの懸念を理解し、ウクライナの中立化(欧米並みの機能する民主政治体制[ネオナチが排除され、汚職や腐敗が撲滅されたもの]ではあるが軍事力は限定的)を進めていれば世界は不幸にならなかった(軍事産業は不幸だっただろうが)。

 中国と台湾の関係はそのまま中国とアメリカの関係ということになる。「ウクライナの次は台湾だ。中国が台湾を攻める」というスローガンが2022年前半にはやかましかった。しかし、その後は静かになった。そもそもアメリカは中国と本気で事を構えることはしたくない。

ウクライナ戦争でアメリカ軍将兵の生命を損耗することなく、武器だけはじゃんじゃん送ってウクライナ人が命を落としながら、武器を大量消費して軍事産業がウハウハという状態になっているが、アメリカ軍自体の武器貯蔵が減ってきて、生産が追い付かないで困っているという状態である。ウクライナ戦争が終わって、武器の貯蔵が回復するまでは、まず中国軍と戦うことはできない。「アメリカ軍が本気で台湾のために戦ってくれない」ということを台湾の人々は良く認識するようになっているので、「アメリカから煽って火をつけないで欲しい」と窘められる始末だ。

2021年の段階で米中関係、中台関係は戦争まで行かないという予想が大半でそれは当たった。ウクライナ戦争については戦争が起きるだろうか、その目的と地域は限定的で、ロシア系住民の保護のためにウクライナ東部に集中するという予測がなされていたが、それははずれる格好になった。

今年に入ってもウクライナ戦争は継続されてもうすぐ1年ということになる。焦点は停戦合意に向けた話し合いになると私は考える。バイデン大統領が仲介をする形になるだろうが、ウクライナが素直に言うことを聞くだろうかという不安がある。バイデンは再選を控えている。

そうした中で、バイデンのバカ息子であるハンターのウクライナとの関係で、ウクライナ側が何か新事実を出すとか、ハンターと汚職企業の関係を調査するとかと言うことになると再選に響く。そうしたことを行わないことを条件にして支援を続けるように、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領が交渉する(脅す)ことくらいはやりかねない。困ったバイデンの選択はゼレンスキーの排除ということになる。飛行機事故でもヘリコプター事故でも交通事故でも反感を持つに至った側近による暗殺でも、アメリカのCIAがこれまでやってきたオプションから選ぶだけで良い。

属国の指導者の運命とははかないものである。それを私たちは昨年まざまざと見せつけられた。そして、国際政治は非情なものである。

(貼り付けはじめ)

過去を見返すことで2023年に向けて未来を見通す(Looking Ahead to 2023 by Looking Back

-昨年の外交政策の中で今年の外交政策について教えてくれることが可能なものとは。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年1月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/04/looking-ahead-to-2023-by-looking-back/

2023年に入る前に、2022年が私の予想通りであったかどうか、振り返ってみることにした。2021年の最後のコラムで、私は「バイデンの2022年外交政策やること(To-Do)リスト」を紹介した。何が正しくて、何が間違っていたのか、そしてバイデン政権はどの程度の成果を上げたのか?

(1)中国と台湾。私の最初の予想は、「2022年に台湾をめぐる深刻な危機や軍事的対立は起きないだろう」であったが、これは正しかった。2022年8月にナンシー・ペロシ前連邦下院議長が無思慮に台湾を訪問したため、若干緊張が高まったが、冷静さ(cooler heads)が勝り、その後、北京とワシントンの双方が当面の温度を下げることを決定した。北京もワシントンも忙しいのだから、この判断は驚くには当たらない。少なくとも今のところ、ジョー・バイデン政権は中国に対する宣戦布告をせずに済んでいるように見えるが、この作戦が成功するかどうかはまだ分からない。アジア(およびヨーロッパ)の同盟諸国は、先端チップ技術の輸出規制や政権の広範な経済計画の保護主義的要素に不満を持っており、これは中国にとって好機となる可能性がある。私は、2023年に東アジアが平和になることを確信している。

(2)ウクライナ。この件に関しては、一部ではあるが、私は間違っていた。2021年12月下旬の記事で、私は、ロシアは侵攻しないと予想した。しかし、100%の確信があったのではなく、もしモスクワが侵攻してきたとしても、ドンバス地方を中心とした「限定的な目標(limited aims)」の侵攻であり、グルジアと同じような「凍結された紛争(frozen conflict)」になる可能性が高いと予想すると私は述べている。私はなぜそう考えたか? 限定的な作戦であれば、「西側からの強力で統一的な反応を引き起こす可能性が低い」からである。限定的な侵略は、ジョー・バイデン大統領とNATOを「勝ち目のない」状況(“no-win” situation)に追い込むことにもなる。「アメリカから遠く離れ、ロシアのすぐ隣にある地域で銃撃戦を行う意図をアメリカは持たないからだ。ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、大規模な侵攻はウクライナの激しい抵抗を引き起こし、「モスクワには到底払えないような費用のかかる痛み」を生じさせることを理解していると私は考えた。

プーティンはロシアの軍事力を過大評価し、ウクライナの軍事力を過小評価し、侵攻に踏み切ったことは私たちが全員知っていることだ。また、ロシアの当初の目的はドンバス地方に限られたものではなかった。しかし、私はロシアの行動がウクライナの激しい抵抗を招き、欧米諸国が「強力で統一された(strong and unified)」反応を示すと考えたがこれは正しいかった。しかし私は見誤った。それ以来、バイデン政権は、ロシアの自信過剰、度重なるロシアの失態、活発で創造的かつ英雄的なウクライナの抵抗に少なからず助けられながら、かなりの戦術的技術で西側諸国の対応を主導してきた。このバイデンの任務は、私の予想とは異なる結果となったが、戦闘が始まってからの彼と彼のティームの総合的なパフォーマンスは高く評価できる。

しかし、前途に見えているのは厳しい状況である。戦争はまだ終わっておらず、バイデン政権、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領が率いる政府、そして他のNATO諸国にとって、2023年は昨年以上に困難な年になると私は危惧している。ロシアによるウクライナのインフラへの攻撃は甚大な被害をもたらしてはいるが、その規模と人口からして、キエフが外部から支援を受けられる限り、消耗戦(war of attrition)が続くが、戦争状態は継続する可能性がある。私が「可能性がある」と言うのは、双方の実損害、予備戦力、将来にわたる戦力維持能力について、公表されている情報だけで信頼できる情報を分析することは困難だからである。ロシアもウクライナも妥協(compromise)しようとする様子がなく、双方が本気で望んでいたとしても、実行可能な取引(workable deal)を考案するのは難しいだろう。ウクライナの戦場での成功は今年も難しいだろう。膠着状態(stalemate)が長引くと、「欧米諸国の支援を強化し、ウクライナがロシアに直接戦いを挑むことを求める」という意見もあれば、「停戦を促すべきだ」とする意見も出てくるはずだ。どちらが勝つかは分からないが、来年もバイデンの話題はウクライナに集中することは間違いない。そして、戦争が長引けば長引くほど、傍観者であり続けた国々(中国、インドなど)が大きな受益者となるであろう。

(3)イスラエルとイラン。2021年、私はバイデンがイランに対する軍事行動への新たな圧力に直面する可能性があると警告した。2022年には、この問題は全く沸騰することはなかった。しかし、ベンジャミン・ネタニヤフがイスラエル首相に返り咲き、イスラエル史上最も右派的な政権を率いている。イランの核開発を制限する新たな合意に達する可能性は、今や夢物語のように思われる。ドナルド・トランプ前大統領は、当初の協定から離脱するという愚かな決断を下したため、テヘランは包括的共同行動計画が有効であったときよりもはるかに爆弾に近づいている。イランの現在の指導部は、新しい制限の交渉よりも、さらに高濃縮ウランの備蓄と核インフラの強化に関心があるようである。イランはウクライナに対抗するためにロシアに無人機(ドローン)を提供することを望んでいるため、この方面での外交的進展はさらに望めなくなった。ネタニヤフ首相はすでに、イランの核開発を阻止することが外交政策の最重要目標の1つであると語っており、それはバイデン政権がより積極的な行動を支持するよう後押しすることを意味する。中東での戦争は、おそらくバイデン大統領とアントニー・ブリンケン米国務長官が今一番望んでいないことだろうが、だからといってネタニヤフ首相とアメリカ国内の彼の同盟者たちが自分たちの主張を押し通すのを止めることはないだろう。何度も何度も繰り返し主張し続けるだろう。

一方、イスラエルの新内閣が占領地におけるイスラエルの不当な制度を深化させることを明確に約束したことは、既に進歩的な人々の間に警鐘を鳴らし、アメリカ国内のイスラエルの支持者の一部からは手厳しい声が上がっている。アメリカは、イスラエルの政策に「懸念(concern)」を表明し、「二国間解決(two-state solution)」という死語のようなお決まりの呪文を唱える以上のことを期待しない方がいい。ネタニヤフ新政権が何を決定しようとも、パレスチナ人の権利を擁護するとか、アメリカがイスラエル支援を縮小するとかと考える人間はネタニヤフ政権にはいない。このような状況は、バイデン政権の民主政治体制と人権に対する美辞麗句と実際の行動との間のギャップを更に露呈することになる。しかし、中東を相手にする場合、このような偽善は目新しいものではない。

(4)信頼性に関する懸念は続く。予想コラムで、私はバイデンには信頼性の問題があると述べた。それは、アフガニスタンからの撤退という彼の正しい決断をしたからではなく、アメリカが世界的な公約を全て果たすことは不可能であり、諸外国はトランプ流のアイソレイショニズム(isolationism)がいずれ再び勢いを増して戻ってくるかもしれないと懸念しているからである。良い点としては、ウクライナ問題への強力かつ効果的な対応と、バイデンがヨーロッパやアジアの伝統的な同盟諸国に働きかけを続けていることが、こうした懸念を一時的に和らげている。しかし、悪いことに、複数のより根本的な構造的問題が残っている。アジアのパートナーたちは、ウクライナが中国への対抗措置の妨げになることを懸念し、ヨーロッパは共和党内にトランプ主義がまだ残っていることを心配し、アメリカ国内のタカ派は、年間1兆ドルに迫る国防予算では米国の遠く離れたグローバルな公約を全て達成するためにはまだ十分でないと言い続けている。

皮肉なことに、アメリカの保護に対する信頼が多少低下しても、他国が自国を守るためにもっと努力するようになり、地域の安定にもっと関与するようになれば、それは有益なことであろう。したがって、バイデンの課題は、今後1年間、アメリカの同盟諸国に対し、もっと頑張るという公約を履行し、今日の決意を明日の能力に変えるよう説得することである。しかし、この目標は、世界的な不況下では、厳しいものとなる可能性がある。

(5)人道的危機(humanitarian crisis)が起きるか? 2021年、私は、人道的危機がどこで、どのような形で発生するかは分からないが、多く発生する可能性が高いと警告した。悲しいことに、これは事実であることが判明した。世界経済フォーラムの報告によると、現在、世界にはウクライナだけで790万人の難民(refugees)が発生し、国内の590万人が国内避難民となっている。ほぼ全ての大陸で悲劇が起こり、大規模な移民の流れ(アメリカ南部国境での危機継続も含む)を助長し続けている。バイデン政権はこれに対する具体的な答えを持っていない。救援物資(relief aid)を送ることしかない。他の誰も答えを持っていない。この問題が来年大幅に減少すると期待するのは、間抜けな楽観主義者だけだろう。この冬、ウクライナの電力網が完全に破壊されれば、本当に恐ろしい結果になる可能性がある。

(6)優先順位を決めそれを守る。2021年、私はバイデンの最後の課題は「最新の危機に巻き込まれないようにすること」だと提案した。その点では、既に手一杯だったという理由だけで、政権はまずまずの成果を上げたといえる。アメリカは今、同時に2つの大国に決定的な敗北をもたらそうとしていることを忘れてはならない。ウクライナがロシアに軍事的敗北を与えるのを助け、中国には先端技術の輸出規制、アメリカ半導体産業への補助金、台湾への軍事支援の強化、そしてアメリカの同盟諸国のほとんどをこれらの取り組みの背後に配置するキャンペーンを通じて、経済的に大きな敗北を与えようと試みている。これらはかなり野心的な目標であり、追加的な聖戦の余地はほとんどない。バイデンはまた、ロシアのウクライナ侵攻の後に、同様の重大な問題が発生しなかったという点で、幸運でもあった。野球選手の故レフティ・ゴメスの「善良であるよりも幸運である方がいい」という言葉には含蓄がある。バイデンの幸運が続くことを望むのみだ。

(7)国内での戦争。国内の機能不全(domestic dysfunction )について私が最も恐れていたことは現実化しなかった。2021年後半、インフレは上昇し、トランプは再出馬の準備を始め、ほぼ全員が中間選挙での「赤い波(red wave)」を予想し、連邦最高裁は、ほとんどのアメリカ人の意見と大きく対立する保守派に取り込まれ、中間選挙が選挙違反や選挙後の悪ふざけで汚されるのではないかという懸念が広がっていた。このような懸念は、私1人だけのものではなかった。私は、この腐敗を解決するには、大幅な憲法改正しかないとまで言い切った。

ここで、私の考えが間違っていることが証明されたことを喜んでいる。中間選挙は深刻な問題なく終了した。トランプの新しい選挙運動はまだ燃えておらず、法的問題は山積みで、彼が支援した候補者の多くは大敗した。共和党は連邦下院で過半数を僅差で獲得したが、連邦上院では過半数を獲得できず、連邦下院での民主党との僅差の議席差と党内の分裂により、大きな害を与える(あるいは大きな利益をもたらす)には限界があるかもしれない。インフレは徐々に抑制され、アメリカ経済は他の先進資本主義諸国を凌駕している。ジョージ・サントスやその他誰であろうとも、選挙やその他の政治的なふざけ合いが思い出させるように、アメリカはまだ危機を脱したとは言えない。しかし、焦土と化した(scorched-earth)政治を終わらせ、建設的で現実に基づいた党派間競争に戻ることを切望する人々は、昨年起こったことに勇気付けられるはずである。それでも心強くはあるが、満足はしていない。

そして、いつもになく明るい雰囲気の中で、私は皆さんにとって幸せな年となることを願っている。理想を言えば、より平和で豊かな年でありたいものだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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バイデン:アメリカはサイバー安全保障を改善するために「緊急的な」ステップを進んでいる(Biden: US taking ‘urgent’ steps to improve cybersecurity

マギー・ミラー筆

2021年2月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/cybersecurity/537436-biden-says-administration-launching-urgent-initiative-to-improve-nations/

ジョー・バイデン大統領は木曜日、ロシアと中国による悪意のある取り組みへの懸念を指摘し、政権が国家のサイバー安全保障(cybersecurity)を向上させるための「緊急イニシアチヴ(urgent initiative)」を開始すると述べた。

バイデン大統領は、国務省で行われた国家安全保障に関する演説の中で、「私たちは政府内でサイバー問題の地位を高めてきた。私たちは、サイバースペースにおける私たちの能力(capability)、即応性(readiness)、回復力(resilience)を向上させるための緊急イニシアチヴを立ち上げている」と述べた。

バイデン大統領は、サイバーと新興テクノロジー担当の国家安全保障問題担当大統領次席補佐官の新しいポジションの創設を含む、政権による進歩を指摘した。先月、国家安全保障局のサイバー安全保障局長を務めていたアン・ノイバーガーが同職に任命された。

バイデン大統領は、自身の政権が具体的に講じる他の措置について詳しく説明せず、ホワイトハウスは本誌が更なる詳細についてコメントを求めたが答えなかった。

バイデン大統領はこれまでにも、特に最近発覚したロシアによる IT グループ「ソーラーウィンズ(SolarWinds)」社への侵入事件に関するコメントを通じて、サイバー攻撃から国を守ることへの関与を強調しており、連邦政府の大部分に1年以上にわたって危険が及んでいたことを明らかにした。

バイデンは12月の講演で、このハッキングが「国家安全保障に対する重大な脅威(grave threat to national security)」であると述べ、更に同月下旬には、新たなリスクに対処するために国の防衛力を近代化(modernization of the nation’s defenses)することを要求した。

バイデン大統領はまた、1兆9000億ドルの新型コロナウイルス復興提案の一部として、100億ドル以上のサイバー安全保障と情報テクノロジーの資金を盛り込み、提案では国家のサイバー安全保障を「危機(crisis)」と形容している。

バイデン大統領は木曜日午後の演説で、ロシアと中国からの挑戦など、国際的なサイバー安全保障の懸念についても言及した。

バイデン大統領は特にロシアを取り上げ、就任後の最初の電話会談で、ロシアのウラジミール・プーティン大統領に対し、様々な干渉行為に対してバイデン政権が反撃することを強調した。

バイデンは、「私はプーティン大統領に、前任者とは全く異なる方法で、アメリカが攻撃的な行動、選挙への干渉、サイバー攻撃、市民の毒殺に直面する時代は終わったと明言した。私たちは、ロシアに対するコストを引き上げ、私たちの重要な利益と国民を守ることに躊躇しない」と述べた。

バイデン大統領はまた、自身の政権がロシアと中国の両政府と協力できることを望む一方で、彼が「我が国にとっての最も深刻な競争相手(our most serious competitor)」と形容した中国の責任も追及すると指摘した。

バイデンは「私たちは中国の経済的濫用に立ち向かい、人権、知的財産(intellectual property)、グローバルガバナンスに対する中国の攻撃を押し返すために、その攻撃的で強制的な行動に対抗するが、アメリカの利益になるときは北京と協力する用意がある」と述べた。

バイデン大統領のロシアに関する発言は、その日のうちに国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンがホワイトハウスで記者団に語った、選挙妨害やソーラーウィンズ事件のような大規模なハッキングなど、「行われた様々な悪質行為についてロシアの責任を問うための措置をとる」という発言に呼応したものだ。

サリヴァンは「そして、そのようなコストと結果を課すことが、今後のロシアの行動に影響を及ぼすと信じている。もちろん、そうではない。もちろんそうではない。しかし、ロシアの侵略や悪行に対して、より強固で効果的な一線を画すことができるようになると私たちは信じているのか? そのように信じている」と述べた。

ロシアはアメリカの各情報機関からも厳しく監視されており、バイデンは先月、選挙干渉やソーラーウィンズ社へのハッキングの影響などの問題について、ロシアの悪意ある取り組みを分析するよう命じた。

国土安全保障省(DHS)の元長官のグループは木曜日、バイデン大統領に対し、ロシアに対して強い姿勢を取るよう求め、ロシアがサイバースペースにおいて脅威を与え続けていることを強調した。

ジョージ・W・ブッシュ大統領に仕えたマイケル・チェルトフ前国土安全保障長官は、カリフォルニア大学バークレー校が主催したインターネット上のイヴェントで、ロシアに言及し、「次期バイデン政権の大きな問題の1つは、私たちは暴力に苦しむことなく、私たちの統一やシステムを破壊する努力に力強く対応するという非常に明確なメッセージを送ることであろう」と述べた。

バラク・オバマ政権時代の国土安全保障長官ジェイ・ジョンソンは、アメリカが過去1年間選挙の保護に固執していた一方で、ロシアのハッカーたちは、ソーラーウィンズ社へのハッキングを通じて別の方法で連邦政府を攻撃したと指摘し、外国の敵が干渉しうる様々な方法に焦点を当てる必要があることを強調した。

ジョンソンは「私が就任時に国土安全保障省の職員に伝えた考えは、前回の攻撃を想定するのではなく、次の攻撃を想定し、敵の次の動きを予測することだった」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 以下の論考は、リアリズムの立場から、アメリカの外交政策に関与することになった人たち、具体的には連邦議会議員やそのスタッフたちに対する「アドヴァイス」である。著者ハーヴァード大学スティーヴン・M・ウォルト教授だ。彼のアドヴァイスの要諦は「現実を認識すること」である。それこそがリアリズムの要諦でもある。アメリカ国内の状況、国際社会の状況とアメリカの国際社会における地位について、自分の先入観やこれまでの歴史にこだわるのではなく、現実の世界を直視するということだ。

 アメリカは第二次世界大戦後には世界の超大国となった。ソ連との冷戦で勝利を収め(ソ連が崩壊したがアメリカは繁栄した)、世界で唯一の超大国となった。西洋社会の普遍的な価値観である民主政治体制、人権、資本主義、法の支配の擁護者にして伝道者を自任して、世界中にそれらを拡散することをアメリカの使命・アメリカの運命と心得ていた。「世界の警察官」という異名を奉られ、世界最強のアメリカ軍を各地に派遣して、敵対勢力を駆逐してきた。これが「素晴らしいアメリカ」の「イメージ」である。

 しかし、アメリカの国力は衰退し、中国が追い上げている。アメリカの軍事力の優越は変わっていないが、最近の介入は失敗続きである。アフガニスタンやイラクと言った国々を見れば分かる。ジョー・バイデン政権は対中、対ロシア強硬姿勢を続けている。対ロシアで言えば、ウクライナという対ロシア最前線でアメリカと西洋諸国、NATO加盟諸国が「火遊び」をした結果として、ウクライナ戦争が勃発した。バイデンは、バラク・オバマ政権の副大統領時代からウクライナに関わってきた。

今回ウクライナ戦争が勃発したことで、明らかになったことは、国際社会の分裂線である。西洋諸国(the West)対それ以外の国々(the Rest)の分裂である。沈みゆく先進諸国と勃興する新興諸国という構図である。GDPを見てみても、先進諸国であるアメリカ(第1位)と日本(第3位)は力を落とし、新興諸国である中国(第2位)とインド(第5位)が伸びている。興味深いのはドイツ(第4位)だ。ドイツは西洋諸国に所属しているが、新興諸国との関係も深めている。どちらの側とはっきりと色分けしにくい。そうした中で、ドイツが日本を再逆転して3位に浮上するのではないかという報道が出た(1968年に日本が当時の西ドイツを抜いて世界2位になった)。アメリカが中国に抜かれ、日本がドイツとインドに抜かれるのは時間の問題ということになっている。

 アメリカは「自分たちは特別なのだ、神に選ばれた国なのだ」という「例外主義(exceptionalism)」という「選民思想」を捨てて、より現実を見なければならない。中露と敵対関係を継続することが果たして国益に適うことなのかを考えねばならない。そして、アメリカの下駄の雪である属国日本もまた同様に良く考えておかねばならない。

(貼り付けはじめ)

おめでとう、皆さんは連邦議会のメンバーになりました。それでは聞いて下さい(Congrats, You’re a Member of Congress. Now Listen Up.

-アメリカ立法部の新しいメンバーたちに対してのいくつかの簡潔な外交政策面でのアドヴァイス

スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年1月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/11/congrats-youre-a-member-of-congress-now-listen-up/

アメリカでは新しい連邦議会が開会されている。少し手間取ったが、連邦下院の新議長が選出され、連邦上下両院の新連邦議員86人(共和党48人、民主党38人)も誕生した。このコラムは、彼ら(より正確には実際の仕事をするスタッフたち)のために書いたものだ。

まず、皆さんの多くは国際情勢にそれほど関心がないだろうし、有権者の多くもそうだろう。アメリカの外交政策分野のエスタブリッシュメントたちは、世界を管理するために(そして機会があればリベラルな価値観を広めるために)長時間労働をしているかもしれないが、ほとんどのアメリカ人は、911同時多発テロ事件のような悲劇的な事件の後を除いて、外交政策の問題について無知であり、ほとんど関心を持っていない。世界情勢における「積極的な役割(active role)」を広く浅く支持しているが、ほとんどのアメリカ人は国内の問題の方が重要だと考えている。アメリカは世界で大きな役割を果たし、連邦予算の大部分を外交政策と国家安全保障に割いているにもかかわらず、国民の関心は通常、自国内部や自国に近いところに釘付けになっている。このようなパラドックスが存在する。

私は皆さんに再選の方法を教えるようというのではない。皆さんの方が私よりも票を獲得する方法については詳しいということは既に証明されている。その代わり、私は自分の専門にこだわり、より広い世界とその中でのアメリカの位置づけについて、皆さんが知りたいと考えるだろう、いくつかのことに焦点を当てる。もしあなたが資金調達に参加しなければならず、時間がないのであれば「国際関係学の学位を5分で取得する方法」という私の以前のコラムを読んで欲しい。

ここで、最初によく理解して(wrap your brain around)欲しいことがある。世界におけるアメリカの地位は、かつての地位とは違うということがそれだ。誤解しないで欲しいのは、アメリカは依然として世界で最も強力な国であり、国内外で多くの過ちを犯さない限り、その見通しは明るいということだ。アメリカの軍事力は依然として強大であり(1990年代に見られたような全能感[omnipotent]はないにしても)、アメリカ経済は他の多くの国よりも優越な地位を保ち、世界の金融秩序に不釣り合いな影響力を保持している。アメリカの支援と保護は、かつてほどではないにしても、多くの場所で歓迎されている。

それでは相違点はどこかということになる。1990年代初頭にソヴィエト連邦が崩壊した時、アメリカは前例のないほどの優位な立場(unprecedented position of primacy)にあることを認識した。おそらく、皆さんの多くが職業人生を歩み始めた頃、あるいは政治に関心を持ち始めた頃だと思う。この時代、アメリカは他のどの国よりもはるかに強く、ロシアや中国を含む世界の主要諸国全てと比較的良好な関係を持っていた。ロシアが復活し、中国が急成長を続け、アメリカが愚かな戦争で何兆ドルも浪費するなど、「一極集中の時代(unipolar moment)」がなぜ短かったのか、後世の歴史家が正確に論じることになるだろう。しかし、私たちは再び競争的な大国間関係(competing great towers)と利害関係が高まり(rising stakes)、間違いを犯してしまったら本当に深刻な結果になる世界に戻ってきたことを理解しなければならない。このような世界で効果的に競争するためには、自国の利益を明確に理解し、優先順位を決めてそれを守る能力、そしてアメリカのパワーで何ができ、何ができないかを冷静に認識することが必要である。また、国内の分裂を抑制する(within bounds)ことも重要である。党派的争いは決して良いことではないが、そのレヴェルは私たちが受け入れられないほどに深刻化している。

第二に、他国には他国の利益と目標があり、友好諸国の利益と私たちの利益が常に一致するとは限らないことを認識する必要がある。たとえばインドはインド太平洋地域における有用なパートナーだが、ウクライナ紛争については断固として中立を保ち、今でもロシアの石油とガスを大量に購入している。イスラエルとサウジアラビアはアメリカの長年の同盟国だが、どちらもウクライナを助けるために指一本動かそうとしない。サウジアラビアは最近、中国の習近平国家主席を招いて一連の首脳会談を行った。アメリカは、ロシアの戦力低下とインフレ抑制のために石油生産の削減を避けるようにサウジアラビアに求めたが、サウジアラビアはアメリカの要求を拒絶した。ヨーロッパとアジア地域のアメリカの同盟諸国は、世界第2位の経済大国である中国との経済関係を悪化させる恐れがあるため、中国との「チップ戦争」が賢明なことなのかどうかについて疑問を抱いている。

私のアドヴァイスは次のようなものだ。それは「慣れること」だ。出現しつつある多極化する世界(emerging multipolar world)では、私たちが自国の利益を追求するのと同じように、他の国も自国の利益を追求する。もし、私たちが他国からの支持を望むなら、実際望んでいるのだが、私たちは彼らの利益が何であるかを理解する必要があり、彼らが単に一線に並ぶことを期待しないようにしなければならない。

ここでもう1つ知っておいて欲しいことがある。アメリカは関与しないとか、「自制(restraint)」の大戦略(grand strategy)を採用するとか、アイソレイショニズム(isolationism)に退くとかそんなことはまったくない。その逆なのである。アメリカは今、2つの大国に対して同時に決定的な敗北をもたらそうとしている。ウクライナがロシアに軍事的敗北をもたらすのを助けようとしている。戦争が始まった直後にロイド・オースティン米国防長官が言ったように、「ロシアがウクライナに侵攻したようなことができない程度に弱体化することを望んでいる」のである。同時に、中国に経済的、技術的敗北を与え、中国の台頭を遅らせ、今後数十年にわたりアメリカの支配を維持しようと考えている。世界経済を混乱させたり、台湾への攻撃を誘発したり、中国との経済的な関係を維持したい同盟諸国を混乱させたりすることなく、中国を弱体化させようとしているのである。この戦略が何であれ、それは「縮小(retrenchment)」ではない。

ウクライナ戦争は、軍事力を含むハードパワーが引き続き重要であること、そして国家がそれを不用意に使用すると厄介なことになることも明確に示している。軍事力は、国家を守る最高機関が存在しない現実の世界では残念なことではあるが必要なものである。しかし、その効果を予測しにくい粗雑な手段でもある。ロシアのウラジミール・プーティン大統領の不適切な侵攻は、指導者がいかに誤算(miscalculate)を犯しやすいかを示している。しかし、成功した軍事作戦でさえ、意図しない結果を生み出し、それが解決しようとした本来の問題と同様に、新た田事態に対しての処理が困難になる可能性も出てくる。

この問題に言及したのは、連邦議員、行政府の幹部職員、利益団体のロビイスト、外国の大使、あるいはシンクタンクの権威ある専門家などが、一刻も早く対処しなければならない危機が迫っていると言ってくる可能性があるためだ。彼らは、何もしない無策の危険は重大であり、武力行使のリスクは最小であり、今行動することのメリットは非常に大きいと説得しようとしてくる。そして、彼らが正しいということもかろうじてあり得る。

しかし、私からのアドヴァイスは 「懐疑的(skeptical)になること」である。たくさん質問すべきだ。バックアップの計画はあるのか、計画した作戦が完了した後にどうするつもりなのか、といった質問をしてみて欲しい。反対派や第三者がどのように反応すると考えているのか? その予測の裏にはどのような証拠があるのか? 他の選択肢が検討されたかどうかを厳しく追及して欲しい。彼らの評価の根拠となる情報について質問してみる。予防戦争(preemptive war)は国連憲章(U. N. Charter)の下で違法であり、かつてオットー・フォン・ビスマルクが予防戦争を「死を恐れて自殺すること(committing suicide for fear of death)」に例えたことを思い出して欲しい。最近のアメリカの軍事介入は、最初はうまくいったが、結局は金のかかる泥沼状態(quagmires)に陥ったことを指摘することもできるだろう。彼らがオフィスを去った後、スタッフに頼んで異なる見解を持つ人物たちと連絡を取り、そうした人々の言うことに耳を傾けてほしい。アメリカは実際、非常に安全な国であり、武力行使は最後の手段(last resort)であって、第一に起きるべき衝動(impulse)ではないことを忘れてはならない。アメリカは、好戦的・攻撃的(trigger-happy)に見える時よりも、自制と忍耐(restraint and forbearance)をもって行動する時にこそ、他国からより多くの支持を集めることができるという傾向がある。

もう1つ、心に留めておいて欲しいことがある。それは、私たちは相互依存の世界(interdependent world)に生きている、ということだ。確かにアメリカは依然として世界最大の経済大国であり、他の国々に比べれば対外貿易への依存度ははるかに低い。しかし、「依存度が低い(less dependent)」ということは、他国との経済交流から大きな利益を得られないということではない。保護主義(protectionism)が拡大すれば、アメリカ人はより貧しく、そしてより弱くなる。

同様に重要なことは、自国での愚かな政策(boneheaded policies)が、外国や企業に、そして何百万人ものアメリカ人にとって事態を悪化させるような対応を取らせる可能性があるということだ。連邦議会が国家債務上限(debt ceiling)を引き上げられず、アメリカが債務不履行(default)に陥ったとしても問題ないと同僚が言った時、このことを心に留めておいて欲しい。もし、あなたや同僚議員たちが劇的な景気後退を引き起こす手助けをすれば、一見、安全な議席を持つ現職議員でさえ、職を探す羽目に陥ることになるかもしれないのだ。

新しいオフィスや配属された委員会に慣れたら、緊急性の高いものと本当に重要なものを区別するようにして欲しい。24時間365日のニューズサイクルは残酷な愛人(cruel mistress 訳者註:良い面と悪い面の両方があるという意味)である。また、皆さんは既に再選のことを気にしていることだろう。このような状況下では、その時々の危機に対応する誘惑に抗うことは困難だろう。しかし、危険なのは、私たちの長期的な未来に最も大きな影響を与えるトレンドや関係性を見失ってしまうことだ。

私が言いたいのはこういうことだ。現在、ロシアのウクライナ戦争はより直接的な問題であるが、より長期的な課題としては中国が挙げられる。アメリカの経済的将来と安全保障全体は、クリミアやドンバスを誰が最終的に支配することになるかで決まるものではない。個人的にはキエフであって欲しいが、モスクワになったとしても、アメリカにとってはそれほど重要ではないだろう。重要なのは、アメリカが最も重要な先端技術の分野でリードしているかどうか、アメリカ国内の大学や研究機関が依然として世界の羨望の的であるかどうか、そして平均気温が1.5上昇するか2上昇するか、あるいはそれ以上上昇するかということであろう。もしあなたやあなたの同僚たちが、アメリカがこれらの大きな問題で正しい側に立つのを助けることができれば、あなたは将来の世代に大きな恩恵を与えることになるだろう。

最後に、アメリカが政治的に深く対立していることは、今さら皆さんに言わなくても分かっていることだろう。しかし、連邦議員に就任した以上、世界が皆さん方を見ているということを忘れないで欲しい。自分の住む州や地区では良いが、海外では国のイメージに大きなダメージを与えるようなふざけた態度を取ってはいけない。分極化(polarization)と行き詰まり(gridlock)は、アメリカに残された優位性を維持し、アメリカ人がより安全で豊かな生活を送るための政策を実現することを難しくしてしまう。連邦下院の議場でのささいなしかもふざけたじゃれ合い(あるいはそれ以上のもの!)は、アメリカのブランドを汚すことになる。アメリカの指導者たちは、自国の政治システムがこれほどみすぼらしくそして機能不全(tawdry and dysfunctional)に陥っているというのに、どうして他国にその改善策を指示できるだろうか? アメリカの外交官たちが他国に政府を説得し、アメリカの公約と引き換えに行動を修正させることは、次の選挙後もその公約が守られるかどうか分からない状況では、ほぼ不可能である。民主政治体制国家はこの問題を完全に回避することはできないが、最近この国で見られたような極端な気分の変動(extreme mood swings)は、同盟諸国と協力したり、ライヴァル諸国に対して効果的に対処したりする能力を損なうものだ。

私の主張の内容がナイーヴに聞こえることは承知している。政策の違いを真剣に議論し、党派的な大言壮語(grandstanding)、陰謀論(conspiracy theorizing)、裸の自己顕示欲(naked self-promotion)を否定することを期待するのは、絶望的なまでに理想主義的だ。しかし、皆さんの中から、狭い私利私欲を乗り越え、自分のエゴや役得(perquisites)よりも国家を優先してくれる人が出てくることを期待して、とりあえず言っておきたいことがある。マーク・トウェインがかつて忠告したように、「正しいことをしなさい。正しいことをすれば、一部の人は満足し、残りの人は驚くだろう(Do the right thing. It will gratify some and astonish the rest)」。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

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ビッグテック5社を解体せよ

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