アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 今回は、最近起きたマレーシア航空機撃墜事件を軸に世界情勢、アメリカの外交政策について書いてみたいと思います。大風呂敷を広げてしまいましたが、まぁやってみたいなと思っています。

 

 2014年7月17日、ウクライナ東部でマレーシア航空機(マレーシア航空17便)が撃墜され、乗員乗客298名が死亡しました。この飛行機はオランダのアムステルダムからマレーシアのクアラルンプールに向かっている途中でした。犠牲となられた乗客乗員とご親族や関係者の皆さんに心から哀悼の意を表します。

 

↓この事件についての「ヤフー」のニュース一覧ページのアドレスは以下になります。

http://news.yahoo.co.jp/list/?t=russia

 

 飛行機が撃墜された場所がウクライナから独立を宣言した「ドネツク共和国」であったことから、犯人は新ロシア勢力か、ウクライナかで批判合戦が起きています。また、日にちが経つにつれて、様々な情報や分析が出されて、かえって状況が分かりにくくなっています。

 

 私はこれまで全ての報道を見た訳ではありませんが、どうもロシアと飛行機を撃墜されたマレーシアは自制的な態度を取り、ウクライナとアメリカ(の一部)が攻撃的な態度を取り、ヨーロッパ諸国はボーっとしてしまっていると見ています。ウクライナとアメリカの一部の勢力が、事件発生当初からロシアを名指しで激しく非難しているのに対し、ロシア、新ロシア勢力、マレーシアは事件の解明の推移を見守る、そして解明に協力するという態度を取っています。

 

 私は、ロシア、ウクライナ両方の専門家ではありませんが、これまでの両国の動きを見ていて、これは、「アメリカがこの事件を使ってロシアを攻撃しているのだ」と考えるようになりました。

 

 この構図は日本と中国との関係と同じです。日本をウクライナ、中国をロシアに置き換えてみれば、ついでに現在のウクライナの国家指導者たちは、決して高潔な人々ではありません。ネオナチであったり、マフィアと関係があったりする人々です。彼らはアメリカから利用されて、ロシアに噛み付くようにけしかけられているのです。これは、現在の日本の状況ともよく似ています。と言うか、全く同じであると言ってよいでしょう。

 

 考えてみれば、ロシアや新ロシア派が民間航空機を撃墜する理由はありません。そんなことをすれば自分たちが不利な立場に追い込まれてしまうことは明らかです。また、現在はアメリカが偵察衛星を飛ばして(搭載されているカメラの精度は地上の人間を判別できるほどだそうです)、地上を監視しているのですから、それに残っている映像を解析してみたらよいのです。そういう作業もなしにロシアを犯人にしよう(ロシア領内で起きた事件でもないのに)という動きが見られます。

 

 ロシア国内では、自国の関与を認め、謝罪を行う集会が開かれたり、新聞に謝罪記事が掲載されたりしているようです。だからと言って、ロシアが事件に関与したという証拠にはなりません。ロシア国内にも親米勢力がおり、彼らが側面的にこうした動きをしている可能性はあります。

 

 ロシアを犯人してウクライナを使って、ロシアを攻撃し、暴発させようという動きがアメリカ国内にもあるようです。私は、ネオコンと人道的介入主義派について、デビュー作『アメリカ政治の秘密 日本人が知らない世界支配の構造』(PHP研究所 2012年)で明らかにしました。ネオコンというのはジョージ・W・ブッシュ政権の外交政策を牛耳った人々のことで、ネオコンについては日本でも知られています。

 

 人道的介入主義派(humanitarian interventionists)と呼ばれる人々は、民主党系で、リベラルなんですが、理想主義が高じて、「世界中の悲惨な問題を解決するためにアメリカが積極的に介入すべきだ」と考えるようになった人たちのことです。ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton  1947年)前国務長官はその親玉みたいな人です。

 

 ここで、2014年7月18日にアメリカの公共放送PBSで放送された「ザ・チャーリー・ローズ・ショー」に出演したヒラリー・クリントン前国務長官のインタビューをご覧いただきたいと思います。チャーリー・ローズ・ショーは、ジャーナリストのチャーリー・ローズが幅広い人々(政治家から実業家、俳優、スポーツ選手まで)を迎えて、インタビューする番組で、アメリカで長く続いている番組です。

 

 ヒラリーは、このインタビューの中で、「ウクライナでのマレーシア機撃墜を起こした犯人について知りたい」としながらも、「その犯人はウクライナによると新ロシア派勢力であるようだ」と語っています。事件がまだ日にちも経っていない、状況も分からない、分析も進んでいない状況で、このような発言をするというのは不可解なことです。自分が大物であり、2016年の大統領選挙の有力候補であるという自覚があれば、中立的な発言を行うはずです。しかし、私はかなり踏み込んだ発言のように感じました。

 


 

 人道的介入主義派とネオコンは党派こそ民主党と共和党で分かれていて、国内政策ではリベラルと保守で争っていますが、対外政策で言えば、アメリカ至上主義であり、アメリカが積極的に世界各国に介入すべきだという点で一致しています。「アメリカが帝国として世界を支配する」という本音のために、建前として、「世界平和と発展のためにアメリカが積極的に介入する」と考えているのです。ヒラリーの顧問をしていた人物にロバート・ケーガンという人物がいますが、彼はネオコンの理論家です。奥様は国務省報道官をしているヴィクトリア・ヌーランドです。このように、ネオコンと人道的介入主義派は人脈的につながりを持っているのです。

 こうした人々から見れば、
BRICSと呼ばれる国々(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は少しずつ邪魔になりつつあります。特に中国とロシアは邪魔で、この両国を抑え込めれば、BRICSは怖い存在ではなくなります。

 

ロシアと中国を押さえる為にアメリカ自身が動ければよいのですが、アメリカもお金が無いので、それぞれウクライナと日本を使っている訳です。

 

今回の事件は綱引きの上で、「新ロシア勢力が間違って撃墜してしまった」ということで決着するのでしょう。実行した人たちが処罰され、ロシアは武器を渡したことを認めて謝罪で幕引きということになるでしょう。

 

私は日中関係について考えてしまいます。日中の間には尖閣諸島の領有権を巡る問題が存在します。いや、最近になって急速に問題化されてきました。その一因となったのが、石原慎太郎元東京都知事による尖閣諸島購入提案でした。この尖閣諸島問題をめぐり何か事件が起きた場合に、今回のマレーシア機撃墜事件のようなことになるのではないかと考えています。

 アメリカの対外介入主義を標榜する凶暴な人々がアメリカの外交政策が牛耳る限り、アメリカの衰退は止まらないし、世界各国からの支持は減少していきます。そして何より、世界を壊していくのだと私は考えています。このいびつな国際関係と終わらない紛争はここに原因があると私は考えています。 

 
 そして、もっと怖いのは、人道的介入主義派のヒラリー・クリントンが2016年の米大統領選挙の最有力候補であり、大統領になってしまうかもしれないということです。そうなってしまえば、世界はもっと破壊の方向に進むことになるでしょう。
 

(終わり)