古村治彦です。


 今回は、柳田邦男編『心の貌(かたち) 昭和事件史発掘』(文藝春秋、2008年)を皆様にご紹介します。私がこの本を手に取ったのは、偶然からで、友人が要らなくなった本を処分するということで、貰ってきた本の中にあり、特別意識して読もうという意図を持たずに読み始めました。この本は、各章で昭和時代に起きた事件や出来事を取り上げ、編者である柳田邦男が指揮者たちを対談をしているという内容の本です。


 私が特に気になったのは、「第6章【造船疑獄】」です。この章で柳田は内田健三(元共同通信政治部長・論説委員長、元法政大学・東海大学教授)と堀田力(元東京地検特捜部検事でロッキード事件を担当、さわやか福祉財団理事長)と対談をしています。この対談の内容は、典型的な「吉田学校卒業生(官僚政治家)良いもの・党人派政治家悪者」説で構成されています。日本の戦後の政治論壇の典型的な姿がそのまま展開されています。


 官僚派である池田勇人、佐藤栄作には構想力があり、指導力があり、国の利益のために動いたが、党人派は選挙に当選することが第一で、地元利益第一主義で、金に汚いというコントラストが展開されています。


 この章に出てくる内田・柳田と掘田が代表する戦後マスコミ(新聞、民放、マスコミ)と戦後法曹界(検察)が、アメリカの意向を受けて、アメリカの言いなりになる政治家を持ち上げ、そして田中角栄の「政治的な抹殺」に加担したことは明らかです。彼らは東大、京大を出たエリートであり、内田は池田、佐藤の旧制五高の後輩にあたります。彼らが「仲間うち(クローニーcronyと言います)」を刺すようなことなどしません。彼らが展開している「党人派(田中角栄)悪玉説」に対しては少しずつですが、批判や疑問が投げかけられるようになっています。


 堀田は、対談(鼎談)の中でロッキード事件の公判中に被告の小佐野賢治が彼に向かって「日本の経済発展は特捜部のお蔭です」と言われた、「言われて気分は悪くはなかったけど、あなたが言うかという感じがした」と発言しています。。特捜部の努力によって「会社は社業に懸命に取り組まねばならない。政治にお金を渡してもダメなのだ」ということになったのだという内容なのです。それなのに、「サラリーマン的な小さな人物だけが政治家になって、気宇壮大な人物が政治家になれなくなった、そういうジレンマもある」などとふざけたことを言っています。

 柳田が描く「昭和史」について、疑問を持ちながら、そして批判を加えながらこの本を読むと(柳田の意図には反するでしょうが)、全く違った読み方法ができて、昭和史に対する理解が深まると思います。


(終わり)