放射能のタブー
副島隆彦+SNSI副島国家戦略研究所
ベストセラーズ
2011-10-26


 古村治彦です。


 今回は、「福島県内の各地方自体選挙で現職が軒並み落選している」というニュースについて考えたことを書きたいと思います。まずは下に貼り付けた、福島市長選挙の結果を報じる新聞記事をお読みください。


(新聞記事転載貼り付けはじめ)


選挙:福島市長選 新人が圧勝 原発対応、不満噴出 福島県で現職4敗

毎日新聞 2013年11月18日 東京朝刊
http://senkyo.mainichi.jp/news/20131118ddm001010209000c.html


 任期満了に伴う福島市長選は17日投開票され、東京電力福島第1原発事故に伴う除染の促進などを掲げた無所属新人の元環境省東北地方環境事務所長、小林香氏(54)が、自民、公明などの支援を受けて4選を目指した無所属現職の瀬戸孝則氏(66)に倍以上の票差をつけて初当選した。福島県では今年度、郡山、いわき両市長選に続き、現職が人口30万人前後の主要都市全てで落選し、全町避難が続く富岡町を含め4敗目。


 国策で進める事故対応への住民の不満が首長選に表れた形で、与党の復興政策にも影響を与えるとみられる。投票率は49・10%(前回38・18%)。与党は10月の川崎市長選で推薦候補が敗れるなど地方選で苦戦が続いており、政権運営にも影を落としそうだ。


 福島市は、国の資金で自治体が除染する「汚染状況重点調査地域」に指定され、2016年9月までに全住宅約9万戸を除染する計画を立てた。しかし、放射性廃棄物を一時保管する仮置き場や作業員確保で難航し、完了したのは2万936戸(今月1日現在)に過ぎない。市外への自主避難者は6000人を超える。


 小林氏は「仮置き場の選定を住民の話し合いに任せきっている」などと現市政を批判し、政党推薦を受けずに選挙運動を展開。行政主導の仮置き場設置や再生可能エネルギーによるまちづくりなどを主張し、市民の不満の受け皿となった。


 瀬戸氏は自民党福島市総支部や公明、社民両党の支部推薦を受け組織選挙を展開。自民の野田聖子総務会長や森雅子少子化担当相らが応援に入ったが、票を固めきれなかった。共産新人の党福島相馬地区委員長、山田裕氏(58)は「原発ゼロ」を国に求めていく姿勢を打ち出したが及ばなかった。


 福島県の汚染状況重点調査地域では、24日に二本松市長選と広野町長選があり、いずれも現職に新人が挑む構図。12月には相馬市長選が予定されている。【蓬田正志】


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 ■解説


 ◇市町村任せ、国に怒り


 原発事故との闘いが続く福島の県都で、地縁や知名度に乏しい新人の小林氏に現職の瀬戸氏が敗れた福島市長選は、原発周辺以外の除染を国が市町村に任せっきりにしてきた現状に異議を突きつける結果になった。ダブルスコアの票数で表れた福島の怒りを政府・与党は重く受け止めるべきだ。


 国のスキームに基づき、市町村が除染する汚染状況重点調査地域には東北・関東地方の8県で約100市町村が指定された。だが、福島市内の除染の進捗(しんちょく)率(今月1日現在)は、住宅23%▽市道1%▽住宅周辺の森林5%など。多くの市民が放射線への不安を抱える。相次ぐ現職の落選について、瀬戸氏の選対幹部は「原発事故対応は誰も経験がない。特に除染は対応が手探りになり、市民のバッシング対象になった」と吐露する。小林氏陣営の一人は「現職でなければ誰でもいいとの声があったのは事実だ」と打ち明けた。


 選挙戦で小林氏は現市政を批判したが、現状を打開する対案を示せたわけではない。除染などで出る放射性廃棄物を搬入するために国が建設する中間貯蔵施設のめども立っていないのが現実だ。自主避難者の支援や農産物の風評被害対策など課題は山積している。特効薬がない中で住民の期待に応えられるか、真価が問われるのはこれからだ。【蓬田正志】


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 確定得票数次の通り。


当 72441 小林香 <1>無新

  32851 瀬戸孝則(3)無現

   7620 山田裕    共新


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小林香(こばやし・かおる)54 無新<1>


 [元]環境省東北地方環境事務所長[歴]財務省課長補佐▽英サセックス大院


(新聞記事転載貼り付け終わり)


 今回の福島市長選挙は、投票率が10パーセント近く上昇しました。そして、新人が現職候補の2倍の得票で圧勝するという結果に終わりました。マスコミは、進まない復興に対する有権者の怒りが爆発し、与党(自民党と公明党)が支持した現職たち(本来であれば選挙戦で有利に戦えるはずにもかかわらず)が大差で敗れるという結果になったと分析しています。


 2011年3月11日の大震災以降、福島県では、福島第一原発の事故のこともあり、復興が遅れがちです。放射能の問題がなければ「復興の槌音高く」という感じになるのですが、そうもいきません。私は2011年4月11日に大震災後福島県を初めて訪問し、当時あった20キロ圏内立ち入り制限区域にも入り、福島第一原発の周囲を師である副島隆彦先生と一緒に調査して回りました。その後、福島県を数回訪問しただけで、偉そうなことは言えませんが、今回の福島市長選、またそれ以前の郡山、いわき、富岡各地方自治体の選挙結果は、現職に対する不満、そして国の復興政策に対する不満が多いのは確かです。

 しかし、それははっきり言って、「自分の懐にいくらお金が入ってくるか、政治家が中央からいくらお金を持ってこられるのか」ということに集約されます。地元の皆さんに話を聞くと、「うちの町長は何もできない人だが、隣の●●町の町長はやり手だ。だから全然違うだろう」ということをよく言われました。ここで言うやり手とは、「中央(政治家や官僚たち)とパイプを複数持ち、どうにかして、お金を地元に持ってくる人」ということになります。ですから、「今の町長や議員はダメだな。次の選挙は落ちるな」と言われてしまうのです。お金を引っ張ってくるのが政治家のお仕事、ということで、それができない人間は外すというのが今の流れなのです。当選された方々の経歴を見ると、中央官庁のエリート官僚だったり、国会議員の秘書だったりという経歴です。彼らは中央との太いパイプを期待されているのです。


 除染作業について考えてみると、これははっきり言って無駄な作業です。山間部が多い福島県で無数にある山の全部の木を一本一本洗い清めることなどできません。住宅や道路の周辺の
土砂を削り取ったり、建物に水をかけたりといった作業になるのですが、見ていて効果があるとは思えません。それでも除染作業には人手が足りず、遠く九州からも業者が参入している
のです。そして、地元の方々を雇用し、山裾などで怪我をしてしまうこともあるようですが、簡単な作業を行っているのです。そうしてお金を地元に流しているということになります。


 私が見た中で、川内村は復興が進んでいるようでした。ここは「村長がしっかりしている」と近隣からも評価されているところで、天皇陛下がご訪問になり、コンビニも開設されるなどのニュースが全国的にも取り上げられたところです。私は数回訪問したのですが、行くたびに路線バスが再開し、地元の商店が再開し、やがてお寿司屋さんが再開し、ラーメン屋さん、定食屋さんが再開し、除染作業に従事する方々でお昼時は賑わうというところまで「復興」してきました。除染作業や復興予算がなくなった時に、この賑わいが続くのかどうか、恐らく続かないで、また元に戻ってしまう可能性の方が高いですが、今はとりあえずこのままでいくしかありません。


 限界集落、過疎化が進んでいた地域で原発事故が起きました。これから自力で何かできるという地域ではありません。お金、人の数、人の力がこれまで細ってばかりにいた場所です。そして、中央から復興のための資金が流れ込むことになりました。そこで起きるのは資金の分捕り合戦であるのは、とても自然なことです。どこでもそれは起きます。問題はそれでは資金がある程度公平に人々のところまで届くのか、本当に復興のために使われることになるのかということです。今の状態を見ていると、その可能性は低いのではないかと思わざるを得ません。


(終わり)