アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。今回も日本の政局について書いていきたいと思います。

 

 前回は、9月3日に行われる内閣改造で、石破茂・自民党幹事長が自民党幹事長を退き、無役になるという前提で文章を書きました。しかし、石破氏は無役にはならずに(反主流派にならずに)、内閣に入るのではないかという話が大きくなってきました。

 

 石破氏にしてみれば、「閣外に去ることは、反主流派ということになって、自分にはその気がなくても倒閣運動をするように見える。また、党内の安倍政権に反対する勢力に祀り上げられることもあるが、この勢力は小さいために、倒閣も失敗に終わるだろう」という考えがあるようです。「閣外に去って倒閣を目指して失敗するよりも、閣内にいて協力した、挙党一致体制作りに腐心したという方が次につながる」ということもあるでしょう。

 

 安倍首相は、「石破氏は幹事長として総選挙を指揮し、一年生議員を中心にある程度の勢力を保持している。無役にして、反安倍勢力の旗頭にしてしまうと、どういうことが起きるか分からない。だから、幹事長の留任は飲めないが、何とか大臣として閣内に留めておきたい」という考えがあるようです。

 

 安倍政権は、内閣は菅義偉官房長官、党内は石破茂幹事長が何とか抑え、睨みを利かせることで、ここまでやってこられた印象があります。安倍氏や周辺の補佐官や大臣の一部が余りにもアホなのを菅氏、党内の劣化し、つまらない問題を起こしがちな若手議員の一部を石破氏がそれぞれ何とか面倒を見ることで続いてきました。安倍体制はこれといった強力な反対勢力が党内にも、そして党外にもいないために、盤石なように見えます。

 

 しかし、どんな世界でもそうですが、好敵手や油断ならない相手がいることでこそ、気を引き締め、警戒し、実力を高めようと努力するものです。そうした存在がいないことは、安倍氏にとって幸せではありますが、同時に不幸せなことです。そして、自民党で考えてみれば、大臣になるためにおとなしくはしていますが、なれなかった場合にはその不満が一挙に執行部に向かうことになります。そういう健全ではない嫉妬心から、ほころびが出てくるということも考えられます。

 

 自民党の幹事長という存在は、党総裁が内閣総理大臣になる場合、党の全てを取り仕切る最重要ポストです。自民党幹事長を経験することは、総理総裁ポストへの切符です。これまでの政治史を見ていると、自民党幹事長に就任した政治家は3つのタイプに分けられます。①派閥の領袖クラスで、次の総理総裁への良い位置取りを狙う、②派閥のナンバー2タイプで、領袖が出られない時にお目付け役となる、③軽量級で、総裁の意向に絶対服従、です。石破氏は①のタイプに分類されると思います。

 

 安倍氏にしてみれば、石破氏は仕事だけして、自分の次として自分を脅かすような存在にはなって欲しくないのです。そして、2012年からこれまでやってきましたが、実はかなり煙たく思っているようです。そこで、①のタイプの石破氏から、③のタイプに変更したいという意向なのです。そして、できたら女性を登用して、目先を変えたいということも考えていて、それで、小渕優子氏の名前も出ているのでしょう。

 

 この煙たい存在の重要なポストからの排除はしかし、諸刃の剣で、やりやすくなりますが、同時に実力不足の幹事長は党勢を低下させる危険性もあり、そうなるとその影響が政権にまで波及し、任命責任者である安倍氏の責任問題ということになります。

 

 石破氏が②のタイプだったら、総理総裁を目指さないという立場であれば、恐らく続投もあったでしょうが、前回の総裁選では、一回目の投票では安倍氏は石破氏に大差で敗れています。

 

 安倍氏にとっては決断を迫られる週末ということになるでしょう。ここで、石破氏がどれくらい条件闘争をして、自分に有利になるように動けるかがカギになると思います。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「<内閣改造>新幹事長、どんな顔? 自民役員人事」

 

毎日新聞 2014年8月29日

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140829-00000005-mai-pol

 

 安倍晋三首相と自民党の石破茂幹事長は29日、内閣改造・党役員人事について会談する。石破氏は幹事長続投を希望しているのに対し、首相はあくまで入閣を求める構え。秋の福島、沖縄両県知事選と来春の統一地方選、さらには次期衆院選も指揮する可能性がある新幹事長には、選挙実務にたけたベテランを推す声と、首相に次ぐ「党の顔」の待望論が交錯している。【高本耕太、水脇友輔】

 

 「人事を決めるのは首相だ。党が一致団結して今後の政治運営にあたりたい」。自民党の大島理森前副総裁は28日、大島派の会合で、首相と石破氏の会談を念頭に、人事を巡って党内で不協和音が高まらないよう引き締めた。首相は幹事長ら党三役を全員交代させる意向とみられ、石破氏が留任するとの見方は党内にほとんどない。いきおい、後任の幹事長人事に注目が集まる。

 

 新幹事長の最初の関門は、東日本大震災の復興政策が問われる10月の福島県知事選と、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設が争点になる11月の沖縄県知事選だ。

 

 与党は7月の滋賀県知事選で敗北し、首相の求心力を低下させないために「3連敗は絶対避けたい」(自民党幹部)のが本音。その先には統一選が控えており、ベテラン議員は「党内の根回しなど実務能力が高いことが次の幹事長の条件だ」と指摘する。

 

 このため、石破氏の後任候補には党内で人望がある河村建夫選対委員長が浮上。首相と同じ町村派の出身で「首相を裏切らない」(同派幹部)と評される細田博之幹事長代行の起用も取りざたされている。各派閥や党OBとパイプが太い二階俊博元経済産業相の名前も挙がるが、首相官邸サイドは「党の力が強くなり過ぎる」と慎重だ。

 

 2012年9月の党総裁選の際、党員投票でトップだった石破氏は知名度の高さが武器で、メディアへの露出も多い。それでも首相が石破氏を交代させるなら、安倍内閣の支持率が頭打ちになる中、「調整型」の幹事長で勢いを取り戻せるのかと不安視する向きもある。中堅・若手議員には「統一選や国政選挙の『看板』になれる人がいい」と、サプライズ人事を期待する声が根強い。首相の「女性活用」方針もあって、その一番手に挙がるのが小渕優子元少子化担当相だ。ただ、ある党幹部は「知名度優先の『空中戦』に頼って、重要政策や選挙が乗り切れるほど甘くはない」と慎重な見方を示している。

 

●「安倍首相:石破氏処遇に苦慮「総務相兼創生担当相」案浮上」

 

毎日新聞 2014年8月29日

http://mainichi.jp/select/news/20140828k0000m010182000c.html

 

 9月3日の内閣改造・自民党役員人事を巡り、安倍晋三首相が安全保障法制担当相への就任を辞退する意向を表明した石破茂幹事長の処遇に苦慮している。石破氏は幹事長の続投を希望しているが、重点政策の安保法制で自説にこだわる石破氏を続投させるのは困難との見方が強い。ただ、無役になれば石破氏が党内で安倍政権への批判勢力を結集する懸念があり、総務相として起用し、新設する地方創生担当相も兼務させる構想が浮上している。

 

 「人口減少、超高齢化という構造的な課題に正面から取り組み、現状を変えていかなければならない」。首相は27日、首相官邸で開いた地方創生に関する有識者懇談会で、内閣改造後に人口・地方対策に取り組む意欲を強調した。

 

 首相は当初、石破氏が安保担当相への就任を辞退すれば、「無役」にして政権運営の中枢から外す構えだった。7月の滋賀県知事選で与党系候補が敗北したことや、11月の沖縄県知事選に向けた候補者調整の失敗などで「首相は党運営に不満を持っている」(閣僚経験者)とされ、後任幹事長には自らに近い議員を起用する意向とみられる。

 

 続投希望を明言した石破氏を巡っては、自民党内に「首相の人事権に口を出すのはおかしい」との批判が強まっている。一方、首相周辺には来年9月の党総裁選を見据え、有力な対立候補となる可能性のある石破氏を別ポストで閣内に取り込み、政権運営の「連帯責任」を負わせた方が得策との考えがある。

 

 石破氏は首相と顔を合わせた26日の政府・与党連絡会議後、国会内で菅義偉官房長官と会談。菅氏は人事に関して石破氏の感触を探ったとみられる。石破氏周辺では、総務相での起用案について「安保法制の所管外の閣僚ならば断る理由は少ないのではないか」(ベテラン議員)との声がある。石破氏を総務相に起用する場合、地方創生担当相を兼務させるか、目玉人事として別の閣僚に担当させるかも焦点になるとみられる。

 

 このほか、内閣改造を巡っては、遠藤利明元副文部科学相の文科相か「スポーツ担当相」での起用や、山口俊一前副財務相の入閣が有力になった。【木下訓明】

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

(終わり)