アメリカ政治の秘密
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野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23




 古村治彦です。

 

 今回は、安倍晋三内閣の一員である小渕優子経済産業大臣の政治資金を巡るスキャンダルについて書きたいと思います。

 

 問題は、小渕氏の後援会が有権者を破格の安さで観劇をさせていた、後援会が本来払うべき代金の差額分を支払っていた、これは「有権者への利益供与」となり、公職選挙法に違反している可能性が高いということです。簡単に言うと、小渕氏の後援会が有権者に接待をした、それは恐らく選挙の時に投票してくださいということもあるのだろう、ということです。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「小渕経産相:政治資金「デタラメ」と週刊誌 16日発売」

毎日新聞 20141015日 1400分(最終更新 1015日 1729分)

http://mainichi.jp/select/news/20141015k0000e040230000c.html

 

 小渕優子経済産業相の関係する政治団体の政治資金を巡り、16日発売の週刊新潮(10月23日号)が、使途の不適切さを指摘する記事を掲載することが15日、分かった。

 

 タイトルは「小渕優子経産相のデタラメすぎる『政治資金』」。記事によると、東京・明治座で開かれた有名歌手らが出演する「観劇会」を巡り、地元の政治団体「小渕優子後援会」(群馬県中之条町)は2011年までの2年間で計約1690万円を明治座に支払った。一方、収入は約740万円しかなく、差額の約950万円を後援会が負担した形になっていると指摘。観劇会には有権者が招かれていることから、仮に収支が政治資金収支報告書記載の通りであれば、破格の安さで観劇させたことになり、有権者への利益供与を禁じた公職選挙法に違反する可能性があると指摘している。

 

 また、後援会など関係3団体が親族の経営するブティックに支出した資金について「秘書がネクタイやハンカチを購入し、ギフトラッピングして議員会館に送った」とする関係者の証言を紹介。さらに地元のネギ農家に支払った約100万円も、贈答用のネギ購入代だった可能性があると指摘している。

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

 経済産業大臣として原子力発電所の再稼働問題でも厳しい質疑に晒されているところに、今回のスキャンダルです。小渕大臣は針のむしろに座らされているような気持ちになっていることでしょう。

 

 私は、今回のスキャンダルを大変残念に思います。それは、一人の若い政治家が、しかも自民党の若手リーダーと嘱望され、また、田中角栄の率いた七日会の伝統に連なる政治家が葬り去られようとしているからです。

 

 第二次安倍内閣は内閣改造を行い、新たな大臣が任命されたのですが、スキャンダル続きです。松島みどり法務大臣、江渡明聡防衛大臣、山谷えり子国家公安委員長・内閣府特命担当大臣(拉致問題担当)がその対象となってきました。しかし、今回の小渕優子大臣のスキャンダルでこれらはすべて吹っ飛びました。私は山谷えり子大臣のネオナチ活動家とのつながり、社会的に問題を起こしてきたある宗教団体とのつながりの方がかなり大きな問題であり、また、2020年の東京オリンピック開催に向けて、早速、国立競技場の解体工事を巡り不正入札問題が起きていることの方が重大だと考えています。

 

 小渕優子大臣は最初からスケープゴートとして準備されていたのではないかというのは私の考えです。内閣改造の前、小渕優子氏の名前がマスコミを賑わせました。「将来の総理」「小泉進次郎と並ぶ期待の若手」「幹事長就任か?」などど。そして、実際には女性初の経産大臣となりました。私は、「安倍総理も自民党の将来を考えて、若手リーダー小渕氏を鍛えるために抜擢したのか」と考えていました。しかし、今回の件で、どうもそうではないのではないかと考えるようになりました。彼女の存在は、「野党の皆さん、どうぞここを攻めてください、国会審議でも(民主党の経産省・元通産省出身者や計算大臣経験者の方が小渕氏よりもずっと強い)、スキャンダルでも(宗教やネオナチでやられるよりは政治とカネの方が野党も攻めやすい)」ということだったのだろうと思います。

 

 政治とカネの問題は、国民の劣情を刺激し、政治家への反感を一気に高めます。「政治家は甘い汁を吸っている」「料亭に行っていいもん食ってんだろ、俺たちの税金で」ということになります。そして、マスコミを使えば、一気にリンチ的なところまで行きます。しかし、ここで少し冷静に考えてみる必要があります。

 

 日本の戦後政治は自民党の一党支配が長く続きました。そして、自民党政治に良くも悪くも活力を与えてきたのは派閥政治です。この派閥、大きなものとして、田中系、岸・福田系、大平系があります。戦後政治誌を概観してみると、不思議なことがあります。それは、スキャンダルで潰されていく政治家の多くが田中系であるということです。岸・福田系はほとんどいません。このことは知っておくべきことだと思います。

 

 そして、政治とカネを巡る問題で、私たちが改めて思い出さねばならないのは、故小室直樹博士の故田中角栄元総理に関する言説です。
 


 小室直樹博士は、1994年にクレスト社から『田中角栄の遺言 官僚栄えて国滅ぶ』という本を出版されました。これは、2011年にビジネス社から『日本いまだ近代国家に非ず 国民のための方と政治と民主主義』として新装版として出版されています。

 

 この本の中で、小室博士は、田中角栄のロッキード裁判のおかしさを書いておられるのですが、デモクラシーと政治家についても卓見を述べておられます。『田中角栄の遺言』から引用したいと思います。

 

(引用はじめ)

 

つまり、デモクラシーにはベラボウにカネがかかる。それは、デモクラシー諸国における常識である。デモクラシーを自然状態に放ったらかしておいても存続し続けるなんて、彼らはけっして考えない。まことに貴重なまのだから、膨大なおカネをかけても、これを維持する値打ちがあると思っている。

 

ところが日本人の考え方はまったくの逆。政治改革に関する議論は、金権政治はよくないから、カネがかからない政治にしようというのが、犯すべからざる大前提になっている。

 

これは、実はデモクラシーの否定につながる。カネをかけてでも守りたいのがデモクラシーなのに、カネがかからず、腐敗、堕落さえしなければいいという。思い出してもみよ。大正デモクラシー(当時、民本主義と訳された)が、相当に発達していたにもかかわらず、一気に崩れたことを。議会の政党が、政友会も民政党も金権政党に堕落して、汚職に次ぐ汚職、国民は、これに愛想を尽かしたからだが、その直後に軍部独裁政治が始まった。

 

すなわち、日本人には汚職をデモクラシーのコストと考えるセンスがなかった。膨大なカネがかかるものだということを国民が理解しなかった。そこで軍人と右翼が暴れて、滅明断事件、それから五・一五事件、二・二六事件が起こり、ついにデモクラシーは葬り去られた。ところが、その後にできたのが近衛文麿の政治であり、その後の軍人政権。(14-15ページ)

 

(引用終わり)

 

 この小室直樹博士の文章を今一度噛み締めたいと思います。政治家をカネを巡るスキャンダルで潰してしまうことは、結局、私たちの首を絞めてしまうことになる、と小室直樹博士は警告しているように思います。

 私たちは一時の激情に駆られて、多くの政治家たちを葬ってきました。その結果、デモクラシーは形骸化し、官僚が支配する国となりました。そして、現在のような息苦しさ、閉塞感に満ちた社会に生きています。今回の小渕大臣のスキャンダル、また同じことを繰り返してよいとは、私は思いません。

 

(終わり)