古村治彦です。
今回は、オバマ政権の外交政策の新方針が発表されたことについての論稿をご紹介いたします。この新方針についてより考えていきたいと思います。現実主義的な外交政策を強めようとするオバマ政権と介入主義的な外交政策を主張する議会のタカ派との戦いがあるようです。
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ホワイトハウスが新しい外交政策攻勢を発表するためにウエストポイントでの演説を利用(White House To Use West Point Speech To Launch New Foreign Policy Offensive)
ジョン・ハドソン(John Hudson)筆
2014年5月27日
フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)誌
http://thecable.foreignpolicy.com/posts/2014/05/27/white_house_to_use_west_point_speech_to_launch_new_foreign_policy_offensive
バラク・オバマ大統領は外交政策に関して左派と右派両方から攻撃を受けている。この攻撃に対して、オバマ政権は、ウェストポイント(米陸軍士官学校)での大統領の演説を使って反撃をしようとしている。この演説の中で、アフガニスタン、シリア、アフリカでのイスラム教民兵への対処について語る予定である。
水曜日に行われるウエストポイントの卒業式でのオバマ大統領の演説の内容は、議会の強硬派を満足させるものではないだろう。強硬派はホワイトハウスに対して、シリアの反政府勢力により多くの武器を送り、ロシアと対峙しているウクライナに軍事支援を行うように圧力をかけている。また、アルカイーダの復活を予防するためにアフガニスタンに米軍を駐留させるように圧力をかけている。しかし、オバマ政権が発表する新しい外交政策方針は、主にパートナーとなる国々の軍隊を訓練することに重点が置かれている。この新方針は、世界各地で煙が上がっている状況下で、ホワイトハウスは何もやっていないという批判に対する反論となるだろう。オバマ大統領は嫣然の中で、政権の外交政策の中心となる考えを明らかにするだろう。この考えは、「コストがかかり、流血が伴う制限のない戦闘に関わる危険性を最小化することが可能となる代理勢力を使用する、そして中程度の目的を設定する」というものだ。オバマ政権は、ジョージ・W・ブッシュ大統領時代の野心的な目的(最終的な達成されなかった)とは異なる目的を設定している。
水曜日の演説の中で話される内容の中で最も重要な発表の一つは、シリア国内の反政府勢力の穏健派に訓練と装備の供与を行うという新しい軍事プログラムになるだろう。これまでの報道によると、ウエストポイントでの演説の中で、オバマ大統領は、シリアの反政府勢力への支援を拡大し、同時にシリアの近隣諸国に対する支援も拡大するという方針を発表するようである。このような新方針は、米上院議員のボブ・コーカー(テネシー州選出共和党所属)やジョン・マケイン(アリゾナ州選出共和党所属)のような、オバマ政権に対して強硬な批判を続ける人々を黙らせることはないだろう。しかし、シリアの反政府勢力からは珍しく賞賛を受けている。
この数カ月、反政府勢力の指導者たちはより強力な武器を供与するように要求している。戦闘機を撃墜できる肩掛けのミサイル発射装置の供与とアサド政権側の優位な火力から反政府勢力を防衛し、シリア国内の急進的な反政府勢力と戦うための訓練を行うように要求している。国防総省とCIAの高官たちは対照的に、アメリカが供与した武器がイスラム急進派の手に落ちて、西洋諸国に対して使われることを心配している。CIAは、指紋のスキャンとGPSを使うことでこの問題に対処しようとしている。
オバマ政権がシリアの反政府勢力にどの程度の支援を与えるのか明らかになっていないが、最近オバマ政権の関係者たちと会談したシリアの反政府勢力のメンバーたちは、新しいプログラムを賞賛した。反政府勢力であるシリア連合のスポークスマンのオウバイ・シャーバンダーは、『フォーリン・ポリシー』誌の取材に対して、「新しいプログラムの導入は潜在的に大きなチャンスとなる」と答えた。シャーバンダーは続けて「訓練プログラムの拡大は反政府勢力がアメリカ側に要求していたものの一つである。私たちはこの点を楽観している」。アメリカ議会はこの点では楽観的な姿勢を取っていない。連邦下院議員クリス・スミス(ニュージャージー州選出共和党所属)は下院外交委員会のヴェテランメンバーである。スミスは、シリアの反政府勢力に最終的な支援が与えられるまで安心はしていないと語っている。彼は、あるインタビューで次のように述べている。「欺瞞の後に現実はやってこない。シリアで殺戮が始まったばかりの段階で私たちは何もしなかった。その結果、私たちは殺戮が行われているのを、指をくわえて見続けるしかできなくなった」
しかし、演説に先立ってマスコミにリークされた政権の外交政策における新方針はこれだけではない。北部および西部アフリカのリビア、ニジェール、モーリタニア、そしてマリに特殊部隊の兵員を送り、対テロエリート部隊の訓練を行うということもオバマ政権は決定している。これによって、イスラム急進テログループであるボコ・ハラムのようなテログループが活動している国々の軍隊が対テロ部隊を創設し、テロの脅威と対峙できるという希望が生まれている。ボコ・ハラムは最近約300名のナイジェリアの少女たちを誘拐したことで人々に知られるようになった。『ニューヨーク・タイムズ』紙は、米陸軍のグリーンベレーとデルタフォースの要員がアフリカ諸国の軍隊を訓練するために派遣され、国防総省の機密費から資金が送られると報道している。オバマ大統領の目標は、コストのかかる地上戦にアメリカ軍を直接投入することを避け、同盟諸国の軍隊を訓練して、各国の対テロ能力を向上させるというものなのである。
大統領の演説の前に出されたもう一つの大きな発表は、アメリカ軍のアフガニスタンからの撤退である。オバマ大統領は火曜日、アメリカ軍のアフガニスタンでの任務は2014年いっぱいで終了すると発表した。同時に、オバマ大統領は、アメリカ軍の兵員9800名を2014年以降もアフガニスタンに駐留させ続けることも明らかにした。この目的は、アフガニスタン軍の訓練とアルカイーダに対する対テロ作戦の支援である。ホワイトハスのローズガーデンでオバマ大統領は演説を行った。その中で次のように語っている。「私たちは始めた仕事を仕舞おうとしているのだ」
オバマ大統領はここでも直接戦闘を行うのではなく、同盟諸国の軍隊を訓練することを選んでいる。しかし、オバマ大統領の決定は、議会におけるタカ派、ハト派両方を満足させるものではない。
カリフォルニア州選出の米連邦下院議員で進歩的な人物であるバーバラ・リーは次のように語っている。「戦争が始まって13年経った。この期間で分かったことは、アフガニスタンでは軍事力を使っても問題は何も解決できないということであった。もっと早く決定すべきであったが、アフガニスタンにいる米軍は全て撤退させる時期だ。アフガニスタンにこれからも米軍を駐留させ、予算を使うのなら、少なくとも議会で議論をし、採決すべきだ」
クローカーのような共和党内の保守派の多くはオバマ大統領が2014年以降も一定の兵員をアフガニスタンに残すと決定したことを歓迎した。しかし、共和党の一部からは、オバマ大統領がアフタニスタンからの米軍の撤退の日にちを明確にしたことに対して批判が出ている。
米下院議員で米下院軍事委員会の委員長ハワード・“バック”・マキノン(カリフォルニア州選出共和党所属)は声明の中で次のように述べている。「アフガニスタンでの任務に恣意的に期限をつけるというのは戦略的な感覚に欠けた行為であると言わざるを得ない。アフガニスタンの人々がテロの脅威に対処できるようになってからアメリカは撤退すればよいのであって、政治的な事情で期限を決めて、我が国の安全保障をないがしろにして、それで支持率を挙げようとするのはおかしい」
民主党内のタカ派は右派からの批判を非難した。米下院外交委員会の幹部委員であるエリオット・エンゲル(ニューヨーク州選出民主党所属)は次のように語っている。「率直に言って、共和党はオバマ大統領が何をやっても批判しかしない。オバマ大統領が米軍をすべて撤退させても、批判するだろう。その期日を決めても、批判するだろう。米軍の駐留を続け、その後に撤退期日を決めても、優柔不断だとして批判するだろう」
アメリカ議会はオバマ大統領の抑制的な外交政策姿勢に対してかなり批判的であるが、最近の世論調査が示しているように、アメリカ国民の多くは介入主義的なアプローチに
反対している。2014年4月末、ウォールストリート・ジャーナル紙とNBCの共同世論調査によると、ほぼ半数の人々が「アメリカが世界においてあまり活動的である必要はない」と答えている。より積極的な関与に賛成したのは5分の1にも満たない数であった。
(終わり)