古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2014年10月





アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



 古村治彦です。

 今回は、2014年11月2日に発売となります、副島隆彦先生の最新刊『官製相場の暴落が始まる――相場操縦しか脳がない米、欧、日 経済』(祥伝社)を皆様にいち早くご紹介したいと思います。

kanseisoubanobourakugahajimaru001今の日本政府がやっていることは相場操縦(そうばそうじゅう)である。すなわち、政府による市場の価格操作(マーケット・マニピュレーション market manipulation )である。こんなことを一体いつまで続けられるのか。

 法律違反である相場操縦を、金融市場で政府、国家自身がやっている。先進国、すなわち今のアメリカ、ヨーロッパ、そして日本の3つがそろってやっている。① 株式と、② 債券(金利)と、③ 為替(円・ドル相場、ドル・ユーロ相場)の政府自身による価格操作と統制が行なわれている。明らかに統制経済( controlled economy  コントロールド・エコノミー)である。

 今のところは、この先進国3つの地域の思うがままである。だからこのあとも円安(1ドル=116円ぐらいまで)が進み、株高(日経平均1万7000円台


 アメリカのジェイコブ・ルー財務長官の行き過ぎた円安の是正を求める発言を受け円高が進み、期待外れのアメリカの経済指標によるアメリカの株式市場の下落の影響を受けた株安が起きています。

 2012年12月に成立した第二次安倍晋三内閣は、「アベノミクス」を掲げ景気対策を行ってきました。その効果もあって株式市場が持ち直し、景気は良くなりつつあるということになっていました。しかし、その実態は、全く別ものであったということが暴露されつつあります。

 大きくは世界経済や日本経済、小さくは家庭の経済状況に関心のある多くの方々にとって、本書は導きの書となります。是非、お読みください。

===========

kanseisoubanobourakugahajimaru001


まえがき

 

 今の日本政府がやっていることは相場操縦(そうばそうじゅう)である。すなわち、政府による市場の価格操作(マーケット・マニピュレーション market manipulation )である。こんなことを一体いつまで続けられるのか。


 法律違反である相場操縦を、金融市場で政府、国家自身がやっている。先進国、すなわち今のアメリカ、ヨーロッパ、そして日本の3つがそろってやっている。①
株式と、② 債券(金利)と、③ 為替(円・ドル相場、ドル・ユーロ相場)の政府自身による価格操作と統制が行なわれている。明らかに統制経済( controlled economy  コントロールド・エコノミー)である。


 今のところは、この先進国3つの地域の思うがままである。だからこのあとも円安(1ドル=116円ぐらいまで)が進み、株高(日経平均1万7000円台まで)が演出される。しかし、はたして金利(国債の値段)までを操
(あやつ)ることはできるだろうか。

来年に入ったら、ニューヨークで株式の暴落が起きるだろう。無理やり作ったNYダウ平均株価1万7000ドル台は、1万5000ドル台まで落ちるだろう。


 アメリカのFRB(米連銀準備
(リザーブ)制度理事会)のジャネット・イエレン議長は、金融政策における〝タカ派〟の本性をついに露(あら)わにした。金融緩和(クオンテイテイテイブ・イージング)をこの10月でやめる、と終了宣言した(7月9日)。世界的に強いドル、すなわちドル高、株高演出の政策を強行しつつある。同時に「金利を徐々に上げる」と言う。はたしてそんなことができるのか。

「量的緩和をやめることなんか、できるものか。イエレンを痛めつけてやれ」という動きがニューヨークで起きている。アメリカにも、企業経営者たちが本業ではない〝金融バクチ〟で会社の利益を捻(ねん)(しゆつ)している者たちがたくさんいる。経営者たちは金利が少しでも上がると資金繰()りに響く。
 

実は、アメリカの経済政策(財政政策(フイスカル・ポリシー)と金融政策(マネタリー・ポリシー)の2つで経済政策(エコノミツク・ポリシー))の本当の主役はイエレンではなくて、米財務長官(トレジヤリー・セクレタリー)のジェイコブ・ルーだ。真犯人は、こっちなのだ。私たちは騙(だま)されている。いつもいつも、白髪の老婆のイエレン議長の、顔と声明文だけをニューズで見せられて、囮(おとり)作戦(レッド・へリング red herring )に引っかかっているのである。
 

ジェイコブ・ルー率いるアメリカの財務省にしてみれば、絶対に金利を上げることはできない。金利が少しでも上がると、巨額の米財政赤字(ファイナンシャル・デフィシット)を返済することができなくなる。利子分の支払いができなくなる。予算が組めなくなる。だからイエレンが言う「アメリカ経済を正常化させるために金融市場に金利を付ける」とは、ウソである。金利を上げれば企業経営者たちが嫌がる。資金が株式市場から逃げる。すると株式の暴落が起きるはずなのだ。

 

日本では8月20日から急に円安・ドル高が起きて、1ドルは=110円になった。2003年4月のブッシュ・小()(いずみ)の時とそっくりだ。イエレンは10月末で金融緩和策(じゃぶじゃぶマネー)を全面停止(終了)して、「政策金利(短期金利、FFレート)を来年中には(相当の時期に)上げる」と言い出した。米、欧、日の先進国3つは、もがき苦しむように今のデフレ経済から脱出しようとしている。が、できるはずがない。財政赤字の額が巨大すぎる。イエレンの判断はどう考えても筋が悪い。慎重に慎重に、そろりそろりと「金利が上がっても株式が暴落しない」ようにしている。真犯人の米財務省は金利が上がると困る。日本財務省も同じだ。相(あい)()(じゆん)した愚(おろ)かな政策に突っ走っている。


 アベノミクスの安倍晋三(あべしんぞう)首相が、いくら「デフレ経済からの脱却」と言っても、できるわけがない。今年いっぱい年末までは、〝官製(かんせい)株バブル〟で株高にして投資家や経営者たちを浮かれ騒がせる。それで
12月中旬に消費税の追加増税(10%へ)を決める。だから来年は株が暴落する。どれだけGPIF(ジーピーアイエフ)の弾(たま)が保つかである。


 アメリカは、アメリカ市場に、ヨーロッパからの資金と新興国や日本の資金も吸い上げて、掻
()き集めることで自分だけ生き残ろうとする。イエレン(アメリカ)は異常な金融緩和策をやめて、形(かたち)(じよう)だけ正常な経済に戻ろうとする。しかし内心はビクビクものである。今のような超低金利(ゼロ金利)で、やっとのことで経済を回している仕組みが、いつまでも続くわけがない。彼ら自身が死ぬほど分かっている。それでもデフレ(不況)と低金利は続く。
 

だから年末までは、日本でも低金利(ゼロ金利)を原因とする株式値上がりの浮かれ騒ぎが続く。それを安倍政権自身が〝相場操縦〟で、価格操作して吊り上げる。


 私は、資産家と投資家の皆さんに、暴落が来るので利益が出ている今のうちに、ガラが来るまえに上手に売り逃げてください、と助言する。

 

 金融・経済の本が、書店の棚にトンと並ばなくなった。金融本の書き手たちが読者の信用を失()くして全滅したのだ。私はただひとり、金融予測本を書いて世に問い続ける。

 

 2014年10


副島隆彦

 

 

あとがき

 

 今年はゆうちょ・かんぽの資金を30兆円ぐらいアメリカに送った。今やボロクズ債である米国債を買った形にして、だ。だから円安が起きたのだ。私以外の言論人は、誰もこのことを書かない。


 私はこの本で、米、欧、日の3つの先進国の政府自身による、違法な市場操作の実態を暴き立てるように書いた。彼らのやりたい放題の悪
(あつ)(こう)を徹底的に説明した。日本政府(安倍政権)が喧伝(けんでん)する「景気回復」はなかった。私たちの暮らしは苦しいままだ。日本はますます貧乏になっている。
 

この本の英文タイトルは、 Governments(ガヴアメンツ) Market(マーケツト) Manipulation(マニピユレーシヨン) である。マニピュレーションとは、①機械や飛行機を巧(たく)みに操縦すること。② 事件、問題をうまく処理すること。③ 人々や世論を操(あやつ)ること。④ 株式や通過を人為的に操作すること。⑤ 帳簿や報告をごまかすこと。⑥ 医学用語としては、患者を触診すること、だ。このように)修館『ジーニアス英和辞典』にも書いてある。
 

米、欧、日の政府による金融市場の価格操作、すなわち相場操縦は、すでに限界に達しつつある。


 市場
(マーケツト)を支配(コントロール)しようとする者たちは、必ず市場から復讐される。どんな権力者でも、独裁者でも、ローマ皇帝でも、市場を支配しつくすことはできなかった。日本の徳川(とくがわ)八代将軍吉宗(よしむね)は、米(こめ)相場を管理しようとして「米将軍(こめしょうぐん)」と呼ばれたが、大失敗した。

 

 最後に。この本も祥伝社の岡部康彦編集長と二人三脚で作った。夜を日に継いで書き続けて、18日間で書き上げた。記して感謝します。

 

副島隆彦


(終わり)

 












このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック







アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



 古村治彦です。

 今回は、2014年11月16日(土)に開催される、副島隆彦を囲む会主催・定例会(講演会)を皆様にご案内いたします。

 日本国内、国外の政治、経済を取り巻く状況が激しく動いております。こうした状況下、私たちはどのような考えを持って臨むべきか、ヒントが見つかる講演内容になると思います。六城雅敦研究員の講演も必見です。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

==========

第33回「副島隆彦の学問道場」主催定例会
「日本のこれからの政治の動向について」
講師:副島隆彦先生、六城雅敦研究員

※お申込みはこちらからどうぞ。

開催日 2014年11月16日(日曜日)
会場 「東京国立博物館 『平成館』」

アクセス

■JR山手線「上野駅」公園口、または「鶯谷駅」南口下車 徒歩15分
■東京メトロ 銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅下車 徒歩20分
■京成電鉄 京成上野駅下車 徒歩20分

※お申込みはこちらからどうぞ。

tokyonationalmuseummap001

会場住所 〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9

※定例会の予定等についてのご質問は、囲む会(042-529-3573)へ、お問い合わせをお願い致します。

【当日の予定】

開場  12:15
開演  13:00
終了  16:30

※開場、開演時間以外は、あくまで予定です。終了時刻等が変更になる場合もございます。
※お席は全て「自由席」になります。お手荷物・貴重品等はお客様ご自身で管理をお願い致します。

※今回は事前に「皆様がご希望する講演で聞いてみたいテーマ」というものを募集したいと思います。早い段階でお申込みいただいた方の分につきましては、その質問の内容を出来る限り講演会の構成に運営側の方で反映して行きたく存じます。

お申込みフォームの中の「自由記入欄」に、興味のあるテーマを是非お寄せください。よろしくお願いします。 (例:中間選挙後のアメリカ政治の行方、中国の権力闘争、ウクライナ情勢の分析、BRICS開発銀行の今後、エネルギー問題、FRB金融緩和後の影響・・・・などなんでも構いません。ただ、すべてのテーマを取り上げると事前にお約束は出来ませんのでご了承ください)


お問い合わせ先:
「副島隆彦を囲む会」
〒190-0012 東京都立川市曙町1-24-11 橋本ビル5F
Tel.042-529-3573 Fax.042-529-3746
メールアドレス:snsi@mwb.biglobe.ne.jp

※お申込みはこちらからどうぞ。

==========










このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック




アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 今回は、難波利三の小説2冊をご紹介します。難波利三はその名前が示すように、大阪、関西を舞台にした小説を数多く発表し、『てんのじ村』で直木賞を受賞しています。今回は最近、読み返した代表作とも言うべき2冊の小説、『小説吉本興業』と『てんのじ村』を皆様にご紹介したいと思います。

 

 私は、関西に親戚もおらず、大阪には縁がない生活をしてきました。しかし、今、とても興味を持っています。大阪とはどういうところなのかということを知りたいと思っています。今回ご紹介する2冊は大阪の一つの部分を知るための良い手引書であると思います。
 

 古本であればまだ手に入るようですので、読書の秋に是非手に取っていただければと思います。

 

 

==========

 

『小説吉本興業』(難波利三著、文春文庫、1991年)

 


 『小説吉本興業』は、戦前から1980年代末のなんばグランド花月開場までの吉本興業の歴史を小説仕立てで網羅した作品です。主人公は林正之助です。林正之助は、吉本興業の創業者である吉本吉兵衛と結婚したせいの弟です。吉兵衛が早く亡くなったために、姉弟で、「演芸の吉本」の基礎を築きました。林正之助は初代桂春団治から明石家さんま、ダウンタウンまで扱った「プロモーター」「プロデューサー」でした。その迫力から「ライオン」と呼ばれ、芸人たちから畏怖され、尊敬されました。
 
 

 吉本は、「萬歳」を「漫才」とし、横山エンタツ・花菱アチャコの「しゃべくり漫才」を確立し、戦後しばらくは映画館経営やボーリング場経営に集中しながら、演芸部門にも再進出し、「吉本新喜劇」を創設し、笑福亭仁鶴や横山やすし・西川きよしが人気を牽引しました。

 

 吉本興業は今では多くの人々が知っている会社ですが、戦後すぐに園芸部門を解散し、所属芸人が花菱アチャコだけという状態になりました。その当時は松竹芸能の方が演芸部門ではかなりリードしており(中田ダイマル・ラケットや松竹新喜劇の藤山寛美)、吉本興業の名前はほぼ知られていない、そんな状態が続きました。しかし、演芸部門への再進出、テレビへの進出で今の栄光を築きました。

 

 吉本興業の首尾一貫した姿勢は、「赤字を出さずに新しいことに挑戦する」というもので、それを確立したのは、林正之助であったと思います。この小説を読み、様々なエピソードに触れると、吉本興業の面白さが分かると思います。

 

『てんのじ村』(難波利三著、文春文庫、1987年)

 


 てんのじ村というのは、大阪市西成区の一角にあった、様々な種類の芸人たちが肩を寄せ合って暮らしていた地域です。戦前から交通の便の良さと家賃の安さ、更に寄席や演芸場(一流の寄席や演芸場に出られるような人たちはてんのじ村には住みません)へのアクセスの良さなどから芸人たちが居住するようになりました。

 

 戦前から1980年代までのてんのじ村でのエピソードの数々が小説仕立てで収められています。このてんのじ村についてはそれまでも題材にして小説にしたいという作家はいたのですが、資料の少なさや住人達への聞き取りの難しさもあって、小説になっていませんでした。それを様々な聞き取りを通じて、エピソードを集め、小説として形にしたのが著者の難波利三です。

 

 戦後のラジオ、テレビブームに取り残された、昔ながらの芸人たちが助け合いながら、そして芸を磨きながら生活している様子は胸に迫るものがあります。「芸人になっていなければどんな人生があったのだろうか」という思いを抱えながら、それでも、「芸一筋に生き抜く」覚悟を決めた80歳を超えた芸人・シゲル師匠の姿に力を貰えます。

 

 「忘れ去られた日本人」の姿に、私たちの原型を見ることができると思います。

 

 

(終わり)









 

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック




アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23




 古村治彦です。

 

 今回は、安倍晋三内閣の一員である小渕優子経済産業大臣の政治資金を巡るスキャンダルについて書きたいと思います。

 

 問題は、小渕氏の後援会が有権者を破格の安さで観劇をさせていた、後援会が本来払うべき代金の差額分を支払っていた、これは「有権者への利益供与」となり、公職選挙法に違反している可能性が高いということです。簡単に言うと、小渕氏の後援会が有権者に接待をした、それは恐らく選挙の時に投票してくださいということもあるのだろう、ということです。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「小渕経産相:政治資金「デタラメ」と週刊誌 16日発売」

毎日新聞 20141015日 1400分(最終更新 1015日 1729分)

http://mainichi.jp/select/news/20141015k0000e040230000c.html

 

 小渕優子経済産業相の関係する政治団体の政治資金を巡り、16日発売の週刊新潮(10月23日号)が、使途の不適切さを指摘する記事を掲載することが15日、分かった。

 

 タイトルは「小渕優子経産相のデタラメすぎる『政治資金』」。記事によると、東京・明治座で開かれた有名歌手らが出演する「観劇会」を巡り、地元の政治団体「小渕優子後援会」(群馬県中之条町)は2011年までの2年間で計約1690万円を明治座に支払った。一方、収入は約740万円しかなく、差額の約950万円を後援会が負担した形になっていると指摘。観劇会には有権者が招かれていることから、仮に収支が政治資金収支報告書記載の通りであれば、破格の安さで観劇させたことになり、有権者への利益供与を禁じた公職選挙法に違反する可能性があると指摘している。

 

 また、後援会など関係3団体が親族の経営するブティックに支出した資金について「秘書がネクタイやハンカチを購入し、ギフトラッピングして議員会館に送った」とする関係者の証言を紹介。さらに地元のネギ農家に支払った約100万円も、贈答用のネギ購入代だった可能性があると指摘している。

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

 経済産業大臣として原子力発電所の再稼働問題でも厳しい質疑に晒されているところに、今回のスキャンダルです。小渕大臣は針のむしろに座らされているような気持ちになっていることでしょう。

 

 私は、今回のスキャンダルを大変残念に思います。それは、一人の若い政治家が、しかも自民党の若手リーダーと嘱望され、また、田中角栄の率いた七日会の伝統に連なる政治家が葬り去られようとしているからです。

 

 第二次安倍内閣は内閣改造を行い、新たな大臣が任命されたのですが、スキャンダル続きです。松島みどり法務大臣、江渡明聡防衛大臣、山谷えり子国家公安委員長・内閣府特命担当大臣(拉致問題担当)がその対象となってきました。しかし、今回の小渕優子大臣のスキャンダルでこれらはすべて吹っ飛びました。私は山谷えり子大臣のネオナチ活動家とのつながり、社会的に問題を起こしてきたある宗教団体とのつながりの方がかなり大きな問題であり、また、2020年の東京オリンピック開催に向けて、早速、国立競技場の解体工事を巡り不正入札問題が起きていることの方が重大だと考えています。

 

 小渕優子大臣は最初からスケープゴートとして準備されていたのではないかというのは私の考えです。内閣改造の前、小渕優子氏の名前がマスコミを賑わせました。「将来の総理」「小泉進次郎と並ぶ期待の若手」「幹事長就任か?」などど。そして、実際には女性初の経産大臣となりました。私は、「安倍総理も自民党の将来を考えて、若手リーダー小渕氏を鍛えるために抜擢したのか」と考えていました。しかし、今回の件で、どうもそうではないのではないかと考えるようになりました。彼女の存在は、「野党の皆さん、どうぞここを攻めてください、国会審議でも(民主党の経産省・元通産省出身者や計算大臣経験者の方が小渕氏よりもずっと強い)、スキャンダルでも(宗教やネオナチでやられるよりは政治とカネの方が野党も攻めやすい)」ということだったのだろうと思います。

 

 政治とカネの問題は、国民の劣情を刺激し、政治家への反感を一気に高めます。「政治家は甘い汁を吸っている」「料亭に行っていいもん食ってんだろ、俺たちの税金で」ということになります。そして、マスコミを使えば、一気にリンチ的なところまで行きます。しかし、ここで少し冷静に考えてみる必要があります。

 

 日本の戦後政治は自民党の一党支配が長く続きました。そして、自民党政治に良くも悪くも活力を与えてきたのは派閥政治です。この派閥、大きなものとして、田中系、岸・福田系、大平系があります。戦後政治誌を概観してみると、不思議なことがあります。それは、スキャンダルで潰されていく政治家の多くが田中系であるということです。岸・福田系はほとんどいません。このことは知っておくべきことだと思います。

 

 そして、政治とカネを巡る問題で、私たちが改めて思い出さねばならないのは、故小室直樹博士の故田中角栄元総理に関する言説です。
 


 小室直樹博士は、1994年にクレスト社から『田中角栄の遺言 官僚栄えて国滅ぶ』という本を出版されました。これは、2011年にビジネス社から『日本いまだ近代国家に非ず 国民のための方と政治と民主主義』として新装版として出版されています。

 

 この本の中で、小室博士は、田中角栄のロッキード裁判のおかしさを書いておられるのですが、デモクラシーと政治家についても卓見を述べておられます。『田中角栄の遺言』から引用したいと思います。

 

(引用はじめ)

 

つまり、デモクラシーにはベラボウにカネがかかる。それは、デモクラシー諸国における常識である。デモクラシーを自然状態に放ったらかしておいても存続し続けるなんて、彼らはけっして考えない。まことに貴重なまのだから、膨大なおカネをかけても、これを維持する値打ちがあると思っている。

 

ところが日本人の考え方はまったくの逆。政治改革に関する議論は、金権政治はよくないから、カネがかからない政治にしようというのが、犯すべからざる大前提になっている。

 

これは、実はデモクラシーの否定につながる。カネをかけてでも守りたいのがデモクラシーなのに、カネがかからず、腐敗、堕落さえしなければいいという。思い出してもみよ。大正デモクラシー(当時、民本主義と訳された)が、相当に発達していたにもかかわらず、一気に崩れたことを。議会の政党が、政友会も民政党も金権政党に堕落して、汚職に次ぐ汚職、国民は、これに愛想を尽かしたからだが、その直後に軍部独裁政治が始まった。

 

すなわち、日本人には汚職をデモクラシーのコストと考えるセンスがなかった。膨大なカネがかかるものだということを国民が理解しなかった。そこで軍人と右翼が暴れて、滅明断事件、それから五・一五事件、二・二六事件が起こり、ついにデモクラシーは葬り去られた。ところが、その後にできたのが近衛文麿の政治であり、その後の軍人政権。(14-15ページ)

 

(引用終わり)

 

 この小室直樹博士の文章を今一度噛み締めたいと思います。政治家をカネを巡るスキャンダルで潰してしまうことは、結局、私たちの首を絞めてしまうことになる、と小室直樹博士は警告しているように思います。

 私たちは一時の激情に駆られて、多くの政治家たちを葬ってきました。その結果、デモクラシーは形骸化し、官僚が支配する国となりました。そして、現在のような息苦しさ、閉塞感に満ちた社会に生きています。今回の小渕大臣のスキャンダル、また同じことを繰り返してよいとは、私は思いません。

 

(終わり)









 

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック






アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 このところ、アメリカ政治物の翻訳が忙しく、国内政局に関して見落としていたり、考えたことをかけなかったりでフラストレーションが溜まっています。

 

 今回は、維新の党(Japan Innovation Party)について書いてみたいと思います。維新の党は2014年9月21日、日本維新の会と結の党が合併し、誕生しました。国会議員数50名以上を誇る政党です。維新という名前が付き、共同代表に橋下徹大阪市長、幹事長には松井一郎大阪府知事、代表代行に松野頼久氏が就任したことで、日本維新の会が優位な合併だと思われています。

 

 橋下氏は大阪維新の会と、石原慎太郎氏が率いていた太陽の党の合併で日本維新の会を設立しました。しかし、結の党との統一会派づくりから合併に関して、意見を異にし、石原氏らが次世代の党を結党して、党を出ていきました。そして、江田氏らを迎え入れました。

 

 思えば、橋下氏は、国政政治家に利用され続けている、そんな感じです。石原氏とヴェテラン政治家は太陽の党を作りましたが、選挙互助会にもならないような状況で、どうしようもない時に、うまく橋下氏を抱き込んで、日本維新の会を設立し、うまく選挙を乗り越え、ゾンビのように復活し、利用し終わったとばかりに、出ていきました。

 

 江田氏ら結の党の面々も同じように、ある種の「維新」ブランドを利用しようとしているのは、確かです。合併は日本維新の会優位と見えますが、共同代表には江田憲司氏、総務会長には片山虎之助氏、政調会長には、柿沢未途氏がそれぞれ就任しました。実際に党の政策を決定していく実務権力は結の党側が押さえています。松野氏は日本維新の会途中参加組ですし、そこまで日本維新の会大阪ウィングに忠誠心があると思えません。「利用してやろう」という感じなのだと思います。

 

 片山虎之助氏は、太陽の党から日本維新の会に合流し、次世代の党には行かずに、維新の党に入りました。ですから結の党系ではないように思われますが、江田氏とは岡山県出身、東大法学部の先輩後輩、キャリア官僚の先輩後輩という共通点があります。また、江田氏は故橋本龍太郎元首相の秘書官を務めましたが、片山氏へ政界進出を勧めたのが橋本氏であり、片山氏は長く橋本派(旧竹下派)に所属しました。こうして見ると、片山氏は江田氏に近い人物です。

 

 維新の党は、日本維新の党の時もあった、大阪ウィングと東京ウィング(国会議員団)に分かれ、主導権がどちらにあるのか分からない状況から、やがて結の党側に移っていくことが考えられます。

 

 民主党代表の海江田万里氏と江田氏の階段で、海江田氏が「国会のことは江田氏と話していく」と語ったことに触れ、橋下氏が「江田氏には殴り返して欲しい」と言ったという記事が出ました。これは、海江田氏の失言ではありますが、中央政界では、橋下氏はもうそれくらい気を遣わなくてもよい存在になってしまったということを意味しています。また、昔の橋下氏であれば「殴り返して欲しい」なんてまどろっこしいことなど言わなかったでしょう。それほどに存在感と影響力を失っているのです。

 

 江田氏は共同代表なのですから、国会議員50名を実際に率いて国会にいる訳です。その存在感は大きくなっていくでしょう。そして、民主党の海江田代表と生活の党野沢一郎代表らと手を携えて、野党再建に動いていくでしょう。私が拙著『ハーヴァード大学の秘密』(PHP研究所、2014年)で書きましたように、江田憲司氏はハーヴァード大学での研究員としての体験があり、アメリカには幅広い人脈があります。そして、細野豪志、松野頼久と共に野党再建に向けたキーマンです。これから維新の党に注目していきたいと思います。

 そして、橋下氏が如何に国政政治家とアメリカに利用されて、政治家としての力を抽出させられて捨てられていくのかという姿を見ていきたいと思います。 

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「維新の党:結党大会…53人スタート、野党再編目指す」

 

毎日新聞 20140921日 2153分(最終更新 0921日 2209分)

http://mainichi.jp/select/news/20140922k0000m010064000c.html

 

 日本維新の会と結いの党は21日、新党「維新の党」の結党大会を東京都内のホテルで開いた。維新の橋下徹代表(大阪市長)と結いの江田憲司代表がともに共同代表に就任。衆院42人、参院11人の国会議員計53人が参加し、民主党に次ぐ野党第2党となる。党綱領で「政権担当可能な一大勢力の形成」をうたい、民主党やみんなの党の一部を巻き込んだ野党再編を目指す。【葛西大博、熊谷豪】

 

 橋下氏は結党大会で「安倍政権に緊張感を持ってもらうには、きちんとした野党をつくる必要がある」と強調。江田氏も「民主党、みんなの党、どこの政党でも基本政策の一致を前提にどんどん糾合していかなければならない」と述べた。

 

 新党の主要幹部は日本維新側が占め、幹事長に同党幹事長の松井一郎・大阪府知事が就いたほか、代表代行に松野頼久氏、総務会長には片山虎之助氏が就いた。

 

 結い側からは、柿沢未途氏を政調会長に起用。みんなの党に離党届を提出した大熊利昭衆院議員の入党も承認され、計53人でのスタートになる。

 

 結党大会で発表した党綱領では、統治機構改革で「この国のかたち」を変える▽「保守VSリベラル」を超えて改革勢力を結集する−−などと明記。道州制導入など65項目の基本政策を発表したが、消費税率10%への引き上げや、原発再稼働の是非に関する意見集約は間に合わなかった。

 

 法的には結いを解散し、日本維新を残す形を取る。新党の名称など総務相への届け出は22日に行う。

 

●「「海江田氏に殴られたから、殴り返して」橋下氏」

 

20141010 0729

http://www.yomiuri.co.jp/politics/20141010-OYT1T50027.html

 

 維新の党の橋下共同代表は9日、民主、維新両党の共闘をめぐり、民主党の海江田代表から「大阪軽視」の侮辱的な発言を受けたとして、大阪市役所で記者団に怒りをあらわにした。

 

 8日夜の維新の党執行役員会では、橋下氏が江田共同代表に「海江田氏に大阪サイドは殴られたのだから、殴り返してほしい」と伝えたことも明らかにした。

 

 橋下氏が問題視したのは、海江田氏の「国会のことは江田氏と話をすればいい」という記者会見での発言。橋下氏は「公党の代表と幹事長をないがしろにする発言。海江田氏が政治というものを心得ているのか疑問だ」とまくし立てた。

 

 橋下氏は、次期衆院選での民主党との選挙協力に否定的で、国会議員主導で進む「民維共闘」をけん制したとの見方もある。

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)








 

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ