古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2014年10月






アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 古村治彦です。

 

 今回は、11月に行われる沖縄県知事選挙について考えてみたいと思います。選挙の構図は、三選を目指す現職の知事・仲井眞弘多氏に対して、元那覇市長の翁長雄志氏、前衆議院議員で郵政担当大臣も務めた下地幹郎氏、前参議院議員で民主党県連の代表でもあったミュージシャンの喜納昌吉氏が新顔として立候補する予定です。

 

 仲井眞氏に対しては、自民党が応援で政権与党の公明党は自主投票となっています。翁長氏には那覇市議会で自民党会派から脱退した市議たちと、共産党、社民党、生活の党が支援を決めています。下地氏、喜納氏には特定の政党の応援はないようです。保守系の組織や団体の多くが仲井眞氏を支持し、革新系は翁長氏ということで、翁長氏は「保革協力」候補となります。幅広い人たちを自分の傘の下に集められると考えられると一般には思われると思います。

 

仲井眞知事は、普天間基地の移転に関して県外移設を訴えながら、任期中に辺野古への移転に賛成と立場を変えました。翁長氏は辺野古移転に反対、下地氏はまずは県民投票で是非を決める、喜納氏は辺野古移転に反対です。県経済の振興という点ではそこまでの違いはないでしょうから、辺野古移転が大きなテーマとなります。

 

 自民党本部は11月の沖縄県知事選挙を重要な選挙と位置付けています。福島では、民主党が推す候補に後から乗るという、不戦敗に近い形の相乗りで、惨敗を防いだ訳です。沖縄では、人気のない仲井眞氏を立てて、しかも普天間基地移設問題が最大のテーマの選挙ということで、自民党は苦しい戦いになりそうです。これに加えて、公明党も自主投票という形になり、更に苦しくなりました。

 

 しかし、今回の選挙のポイントは、立候補者の顔ぶれです。私はこの顔触れを見ていて、ふと、今年の2月に行われた東京都知事選挙を思い出しました。スクリプトが完全に同じわけではありませんが、あの選挙では、宇都宮健児氏と細川護煕氏が票を食い合いました。その結果、舛添要一氏が圧勝しました。今回の沖縄県知事選挙についてこれを敷衍して考えてみたいと思います。

 

 仲井眞氏は、経済振興を旗頭に選挙戦を展開するでしょう。「経済振興策や予算を中央から引っ張ってこられるのは、私だけ」と訴え、普天間基地移設に関しては、「世界一危険な基地をこれ以上放置できない」と訴えることでしょう。これで少しでも票が流れることを阻止します。もちろん、自民党所属の国会銀と地方議員、そして組織にはサボらないように徹底した締め付けが行われます。

 

 翁長氏は幅広い、保守(の一部)と革新が陣営にいる訳ですが、それぞれ下地氏と喜納氏に票を食われるということになります。翁長氏が本当に辺野古移転で一貫して頑張れるのかという不安、はしごを外されるのではないかという不安が一部にはあるようです。私もこのブログで指摘しましたが、翁長氏と菅義偉官房長官は法政大学法学部で2年違いの先輩後輩になります。仲井眞氏が上京して菅官房長官に面会した時、翁長氏は同席していました。

 

 こうなると、仲井眞氏以外の3候補は票を食い合って共倒れ、基礎票と組織を固めた仲井眞氏が有利となります。さらに穿った見方をすれば、翁長氏は、政府にとって許容可能な保険ということになります。いざとなれば、振興策と予算で締め上げ、菅氏との関係も使って懐柔し、はしごを外すこともできるだろうと考えた場合、仲井眞氏が余りにも不人気でダメだった場合には翁長氏が次善の選択ということになります。

 

 下地氏についても、普天間基地の辺野古移設では、V字案というものを提案していたこともありますし、県内第2位の大米建設が彼の実家なのですから、辺野古移設については、翁長氏よりも説得しやすいということもあると思います。

 

翁長、下地両氏とも元々は自民党所属だったということもここではよく考えるべきだと思います。私は、翁長、下地両氏の立候補を自民党側も促したのではないかと疑っています。

 

 こう考えてくると、自民党は、①候補者を乱立させて、仲井眞氏の当選を図る、②仲井眞氏が駄目でも、他の候補でも辺野古移設賛成に変更させる可能性は高いと踏んでいるのだと思います。

 

 ここで考えてみたいには、喜納氏がなぜ立候補したかです。彼の立候補によって、翁長氏とのリベラル、革新票が割れることになりました。翁長氏の辺野古移設反対の主張にはっきりしないものを感じて、喜納氏は出馬を決心したのでしょう。しかし、彼自身もそう思っているでしょうが、喜納氏が当選する可能性は低いものです。しかも、今の時点では、明確に辺野古移転に反対している翁長氏の当選の可能性も低くしてしまうのに、です。

 

 私は、喜納氏が誰かに「翁長氏の態度ははっきりしない。彼は実は隠れ賛成派だ」と囁かれた可能性があると見ています。その誰かとはリベラル派の人だと考えます。そして、もっと言うと、大田昌秀元知事・元参議院議員ではないかと睨んでいます。大田氏は知事時代に仲井眞氏を副知事としていました。大田氏と仲井眞氏は、沖縄が日本から切り離された時代に、東京の大学にまで行けたエリート仲間です。二人には関係があると見るべきです。そして、大田氏と喜納氏との間もリベラルということで関係があると見るべきです。

 

 選挙を乱戦に持ち込むということで、自民・仲井眞氏側から何らかの働きかけがあって、大田氏が喜納氏の出馬を促したということがあるのではないかと私は疑っています。大田氏の昔からの戦略は、沖縄の政治状況を複雑怪奇なものとし、日本政府に手強い、もしくは理解不能と思わせて、交渉の主導権を沖縄に引き寄せるというものですから、喜納氏の出馬によって、乱戦や保革の対立のようなそうじゃないような、訳の分からない状況を作り出したいということになるのだと思います。

 

 一見苦しそうな自民党なのですが、既に布石を打っており、保険をかけた状態で選挙に臨んでいるのだと思われます。こうした状況を作り出したのは、菅官房長官であり、沖縄の複雑な政治地図を菅官房長官が利用したのだろうと考えています。

 

(終わり)









 

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 

 古村治彦です。

 

 今回は北朝鮮に関する論稿をご紹介します。金正恩が公の場に姿を見せなくなったことで欧米のメディアでは、北朝鮮の不安定化を懸念する声が上がっています。そのことを示す論稿です。

 

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一枚の絵から見る、北朝鮮の金正恩が権力を掌握する必要がある理由(One image shows why we need North Korea’s Kim Jong-Un in power

 

スー・チャン(Sue Chang)筆

2014年10月6日

MarketWatch

http://blogs.marketwatch.com/themargin/2014/10/06/one-image-that-shows-why-we-need-north-koreas-kim-jong-un-in-power/?link=sfmw_fb

 

 金一族は三世代にわたって北朝鮮において権力を掌握してきた。金一族が支配してきた北朝鮮は、天然資源の豊かな国家という地位から世界でも最も貧しい国の一つへと転落した。

 

 現在の最高指導者である金正恩が入院し、経験不足の妹である金汝貞が国家を運営していると報告されている。金正恩は2011年に父の跡継ぎとなり権力を掌握し、3年しか経っていないが、既に権力継承に関する疑問が出ている状況だ。

 

 北朝鮮はジョージ・オーウェルの小説に出てくるような国家であり、情報を得ることが難しく、分析も困難だ。この非合理的な破綻国家は韓国と日本に対して好戦的であるが、これだけが北朝鮮を非難する理由ではない。アメリカはこの孤立した国家が核兵器開発能力を手にすることを恐れているのだ。

 

 金正恩の健康回復により時間がかかり、権力の座に戻ることが遅れてしまうと、誰が彼の後に権力を掌握するのかという疑問が出てきて、北朝鮮政治の中心テーマとなる。

 

金正恩の不在が長引くことで無秩序が発生し、様々な派閥が権力を巡って争う可能性が高まり、一方で国際社会が北朝鮮国内の不確実な状況の継続を望まないという状況にある。こうした状況下、アメリカは韓国と日本を軍事的に防衛する義務がある。中国は大国としての地位を守るためにも、裏庭とも言うべき北朝鮮の安定を望む。

 

それでは誰が権力を継承し、国を支配するのか?金一族の家系図を見る限り、金正恩の後継者の有力な候補者は見当たらない。金一族の権力掌握の脆弱さだけが浮き彫りとなっている。

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●金日成(Kim Il-Sung 1912-1994年):金正恩の祖父。金王朝の創設者。北朝鮮の初代国家主席。

 

●金正日(Kim Jong-Il  1941-2011年):金正恩の父。3人の女性との間に5人の子供たちをもうけたと言われている。

 

●金敬姫(Kim Kyong-Hui 1946年―):金正日の妹。夫である張成沢の処刑以降、公の場に姿を見せていない。

 

●張成沢(Jang Sung-Taek 1946-2013年):金正恩の叔父。有る時期、北朝鮮における最も有力な人物の一人。2013年に汚職のために粛清。

 

●金正男(Kim Jong-Nam 1971年―):金正日の長男であり、金正恩にとっては異母兄。父親から後継者として承認されず、現在は事実上の亡命生活を中国で送っていると言われている。

 

●金正哲(Kim Jong-Chul 1981年―):金正日の次男であり、金正恩の兄。彼もまた父親の後継者になることはできなかった。彼についてはほとんど情報がなく、金正恩が権力を掌握してからほとんど公の場に姿を見せていない。

 

●金正恩(Kim Jong-Un 1983年―):現在の北朝鮮の支配者。母親は側室、末っ子であったために、父の後継者になったことは予想外のことであった。

 

●李雪主(Ri Sol-Ju 1986年―):2009年に金正恩と結婚したと言われている。北朝鮮政府から発表された写真を見ると、若く、スタイリッシュな女性である。

 

●金汝貞(Kim Yo-Jong 1987年―):金正恩の妹であり、彼の執政を務めているとも言われている。情報はほとんどなく、最近まで人々の目から遠ざけられた存在であった。

 

●金ジュエ(Kim Ju-Ae 2012年―):金正恩の娘。彼女の存在は昨年北朝鮮を訪問したNBAの元スター選手デニス・ロッドマンによって確認されている。

 

(終わり)









 

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 先週の土曜日、神宮球場で行われた早大対東大の試合を観戦してきました。いつもは一般内野席で観戦するのですが、一緒に行った方たちの希望で、学生応援席に入りました。学生応援席は500円と割安ですが、写真撮影と飲酒が禁止となっており、応援部の指示に従った行動が求められます。学生ではなくても入れますので、レベルの高い六大学の応援を楽しみたい方や東京六大学入学を目指し興味がある方はこちらに入るとよろしいかと思います。

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 試合結果は早大11点-東大5点となり、早大が大勝と報じた新聞もありましたが、内容としては五分、早稲田にしてみれば負けに等しいものであったと思います。早稲田は昨年夏の甲子園に熊本代表の濟々黌高校のエースと活躍した1年生大竹投手が先発しました。4年生でドラフトの目玉と言われている有原投手は右肘の違和感で対法政戦は登板なし、明治戦は1試合だけ中継ぎで3イニング登板、無失点はさすがでしたが急速が上がらず、ということで、本調子ではありません。東大の先発は東京の私立・城北高校出身の2年生吉川投手が先発でした。吉川投手はこの試合までシーズン2試合9イニングを投げて無失点、投手ランキング1位となっている投手でしたので、ぜひ見てみたいと思っていました。




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 大竹投手も吉川投手もストレートが130キロ前後、変化球は95キロ前後と軟投派、コントロール重視、打たせて取るタイプの投手です。どちらもランナーがいない時のコントロールはなかなかのものです。吉川投手は、東大に臨時コーチで入った桑田真澄氏の教えである「外角のストレートのコントロール」が絶妙で、そこを軸に早めに追い込んでいく投球ができていました。5回を投げて与四球が1つというのは素晴らしいものでした。

 

 吉川投手は5回を投げて7点を失うのですが、投手の責任で失った点数を示す自責点は3点でした。これはどういうことかと言うと、守備がエラーを連発し、外野守備ももっと前に守っていたらヒットにせずに済んだ当たりが何本もあったということです。公式にはエラーが5つ記録されていますが、目に見えないエラー、守備位置エラーと言われるようなものを含めると10に迫るのではないかと思われました。その後の投手もホームランを打たれたのは仕方がないにしても、全体で自責点5、失点11から引くと、6点のうち何点かは防ぐことができたものと言えると思います。そう考えると、東大側は、投手陣の底上げができている状況で、守備が破綻をきたしているのは何とも残念です。

 

 早稲田は有原投手不在でチーム全体のバランスが崩れていると感じました。前回の明治戦は完膚なきまでにやられ、連敗したのですが、「有原がいないのだから、自分たちがしっかりしないと」という気持ちが強すぎて、体ががちがちでバッティングもタイミングが悪い、守備も駄目という感じになっていました。東大戦は、大変失礼ですが、速球派が出てくるわけでもないし、長打を浴びる訳でもないのだから、攻撃、守備両方ともリラックスしてできるはずでした。しかし、軟投派の吉川投手に抑え込まれながら、相手のエラーにどうにか助けられて得点を重ねることが出来ました。しかし、手応えがあった得点と言うのは7点くらいのものでしょう。

 

 東大の攻撃力は格段に上がっています。早稲田の投手陣、二番手の竹内投手はまあまあとして、三番手高梨投手、四番手黄本投手は散々な出来でした。高梨投手は4年生で、先発の柱としてリーグ戦でも10勝を挙げ、東大戦ではノーヒットノーランを達成した投手ですが、昨年からの不調から復活できていません。久しぶりに見ましたが、球速はあるのですが、コントロールが良くなく、カウントを取りに行くところを痛打されるという感じ、下半身がうまく使えていないのか、ストレートに伸びが感じられませんでした。高梨投手は打者5人に対して被安打3、与四球1、自責点2、1アウトしか取れずに降板となりました。これでは残りの対立教、早慶戦で使えるかどうか分かりません。黄本投手は木更津総合のエースとして甲子園にも出場した投手ですが、高梨投手の後の異様な雰囲気でうまく力を出せなかったという感じでした。

 


 全体としては、東大はチャンスをつかむ前に、自滅してしまった、早稲田は相手のエラーに助けられて安全圏まで逃げ込むことができたのだが、力としては拮抗していたと思います。現在の東大は81連敗、100連敗も可能性として浮上している中、逆に言うと、どこが連敗ストッパーとなるのかということで、「出来るならうち以外で」とどこも思っている状況です。爆発寸前の爆弾を5校の中で回しているという感じです。そこの緊張感を利用すれば、東大にもチャンスがあるのではないかと思います。早稲田戦以外で是非勝利を挙げていただければと思います。

 

(終わり)









 

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
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2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


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イスラム国に関する5つの神話

 

ダニエル・バイマン筆

2014年7月3日

ワシントン・ポスト紙

http://www.washingtonpost.com/opinions/five-myths-about-the-islamic-state/2014/07/03/f6081672-0132-11e4-8572-4b1b969b6322_story.html

 

※ダニエル・バイマン:ジョージタウン大学安全保障研究プログラム教授兼部ブルッキングス研究所サバン記念中東政策研究センター研究部長

 

イラク・シリア・イスラム国(The Islamic State of Iraq and SyriaISIS)はロックバンドよりも頻繁に名前を変えている。 スンニ派の急進グループは、シリア国内で戦い、サウジアラビアとレバノン国内での攻撃を計画している。このグループは現在、戦う場所を変えて、イラク国内にも浸透し、「イスラム国(Islamic State)」と名乗るようになった。イラクとシリアにおいて、イスラム国はシーア派や他の宗教グループの人々を背教者として殺害している。また、同じスンニ派の人々をイラク政府の協力者として殺害している。彼らの残虐性は、彼らの目的と本当の危険性から人々の目をそらさせる効果がある。「汝の敵を知れ」精神を発揮し、本稿では、イスラム国についての神話を除去することにしたいと思う。

 

1.イスラム国はアルカイーダの一部だ

 

イスラム国とアルカイーダは長期にわたり、複雑な関係を築いてきた:かつては緊密な同盟関係にあったが、現在は敵意剥き出しの敵対関係になっている

 

 イスラム国の様々な名前は、アルカイーダとの間の緊張関係を示している。ジハーディスト・グループは、2003年のアメリカによるイラク侵攻直後にイラクを離れた。そして、その多くがアブ・ムサブ・アル=ザルカウィの下に集結した。ザルカウィはヨルダン出身で、アルカイーダとは協力関係を保っていたが、その一部ではなかった。ザルカウィは2004年10月にオサマ・ビン・ラディンに忠誠を誓った。そして、ザルカウィのグループはイラクでアルカイーダという名前を使うようになった。この当時、さるかうぃのグループは、アルカイーダの指導者の一人、アイマン・アル=ザワヒリと衝突を起こしている。ビン・ラディンはアメリカを攻撃対象にするように主張したが、ザルカウィと彼の後継者たちは地域での戦いに集中するように主張した。ザルカウィはイラク国内のシーア派と戦い、スンニ派に対しては、味方に引き入れるのではなく、テロ攻撃を敢行した。

 

 アルカイーダとイスラム国との間には、戦術、戦略、指導者層に関して違いを持った。イスラム国の指導者アブ・バクール・アル=バグダーディは、斬首と磔という手法を採用している。そして、バグダーディは中東諸国の政権やライヴァル関係にある諸グループを攻撃対象にし、ザワヒリが主張した「遠くにある敵」、アメリカへの攻撃しようという主張を完全に無視した。

 

 これらの相違点がシリアで明らかになった。ザワヒリは、比較的抑制的なジャブハット・アル=ナスーラをアルカイーダの代理人に任命した。バグダーディは、自分のグループがイラク、シリア、レバノン、ヨルダンでジハーディスト運動に参加すべきだと考えた。ナスーラとバグダーディがそれぞれ率いる2つのグループはお互いを刺激し合い、数千人を殺害していると言われている。

 

 イラク国内での劇的なキャンペーンの成功によって、バグダーディはザワヒリを追い越すことになった。アルカイーダは無人攻撃に追いかけ回されている。一方、バグダーディは、自分は背教者たちとの戦いを指導しているのだと主張している。彼の主張は中東地域の人々の人気を得ることになった。

 

2.イスラム国の建国の意味するところは、このグループが統治する準備ができている

 

 イスラム国は現在、シリア東部とイラク西部をコントロールしている。これらの地域の大部分は砂漠地帯である。しかし、イスラム国はシリアのラッカ、イラクのモスルといった重要な都市を統治している。イスラム国は、イスラム法の過激な解釈に基づいた統治によって正統性を増加させようとしている。そして、それによってより多くの志願兵と財政上の支援者を募ろうとしている。

 

 イスラム教徒のテロリストたちは各地で統治に成功している。ハマスは7年間にわたりガザを支配し、ヒズボラはレバノンの一部を何十年にわたり実質的に支配している。これら2つのグループは学校、病院、基本的な住民サーヴィスを運営している。しかし、イスラム国の前身組織が10年前にイラク西部を支配した時、その統治は破滅的な失敗に終わった。彼らが示した残虐さと無能さによって、イラク国内のスンニ派は遠去かった。スンニ派はジハーディストを除去するための「覚醒運動」に参加した人々であった。

 

 イスラム国は、バグダッドにあるシーア派が支配するイラク政府からの差別的取扱いに恐怖をいただいているスンニ派にアピールする可能性が高い。しかし、イスラム国から逃れている中流階級のビジネスオーナーや技術者たちであって、彼らは基本的な社会サーヴィスを運営する人々である。最終的に、イスラム国は略奪をしたり、闇市場で石油を売却したり、大規模な飢饉が阻止するための基本的なサーヴィスを作ったりした。しかし、混同してはならないのは、イスラム国が効率的な国家ではないということである。

 

3.シリアのアサド政権はイスラム国にとって憎き敵である。

 

 シリアの大統領バシャール・アル=アサドの政府は、テロリストとの戦争を宣言した。一方、イスラム国は自分たちをシリア国内のスンニ派イスラム教徒の守護者と自認し、アサド政権のような「背教者」政権と戦うと主張した。しかし、両者ともにシリア国内の穏健な反体制派の存在を敵視している。アサド政権は、この穏健派の勢力を弱めることで、政権にとって長期にわたる脅威を弱めることができる。

 

 アサド政権は、イスラム国が支配している地域での軍事行動を控えている。そして、空軍を使って、イスラム国と戦っている穏健派反体制グループに対する空爆を行ったり、イスラム国から石油を購入したりしているもしイスラム国が存在しなければ、アサド政権はそのような存在を作り出したことであろう。実際には、アサドはそのような行動を取ったのだ。3年前にシリア国内で内戦が始まった時、この戦いは、残虐さと不正義に嫌気が差した市民による蜂起だと言われた。アサド側は、この戦いはテロリストたちに対する戦いだと主張した。そして、アサド側の表現と戦術によって、内戦を変容させたスンニ派イスラム教徒たちの間で反動が起きた。イスラム国のようなグループが台頭したのだ。シリア国民は、アサド政権か、急進的なイスラム主義か、いずれかを選ばねばならないという悲惨な状況に追い込まれた。

 

 イスラム国はイラク国内で勢力を伸ばしている。これに合わせて、イスラム国とアサド政権との間の戦術上の同盟関係は終結を迎えることになるだろう。アサドはイスラム国が強大になり過ぎていると考えることだろう。イラク政府はアサドの同盟者であり、シリアとイラクとの間の国境地帯の支配権を失うことで、イラクからアサド政権に供給されていた物資や兵員の補給をイスラム国が遮断することになった。

 

4.イスラム国は手に負えない戦闘集団である

 

 イスラム国はモスルを掌握し、バグダッドに向けて進軍している。イラク国内におけるイスラム国の成功は、イスラム国の強力な軍事組織を基礎にしている。実際にはイスラム国は1万人の戦闘員しか有していない。モスルのような都市を攻撃した時は、1000人以下しか動員しなかった。

 

 イスラム国が軍事的な勝利を収めることができたのは、イラク軍の脆弱さとノウリ・アル=マリキ首相の政策の失敗があったからだ。アメリカは、イラク軍に対して数億ドル規模の軍事援助を行った。数字上はイスラム国を圧倒しているはずだった。落とし穴だったのは、イラク軍は戦わない存在であったことだ。マリキ首相は、能力のある人物ではなく、自分に忠実な人々を政治的に重要な地位に就けた。マリキ政権はイラク国内のスンニ派を差別しているので、イラク軍のスンニ派兵士の士気は低下している。彼らは自分たちを差別する政府を守るために戦いたくないと思っている。

 

 イラク軍にシーア派教徒が参加することで、多くの地域でイスラム国の進撃が止められている。イラク政府がより多くのグループを取り込み、穏健なスンニ派を味方に付けることができたら、そして、イラク軍がより統一性が取れるようになったら、イスラム国の拡大は止まり、縮小に進むようになった。これらは大きな仮定なのではあるが。

 

5.イスラム国はアメリカを攻撃したがっている。

 

 2009年にイラク国内の刑務所から釈放された後、バグダーディはアメリカ軍の刑吏たちに対して、「ニューヨークで会おう」と語った。この発言にアメリカ政府関係者は凍りついた。2014年5月25日、アメリカ市民でアブ・マンスール・アムリキと自称したモネル・ムハマド・アブサルハはシリア国内で自爆攻撃を行った。イスラム国の幹部たちの中には、ヨーロッパ国籍の人々が多く含まれている。彼らは自分のパスポートを使えば、容易にアメリカ国内に潜入することができる。また、イスラム国に参加し、シリアに渡った100名以上のアメリカ市民の中の1人がアメリカに戻り、攻撃を実行する可能性が存在する。

 

 イスラム国は潜在的にアメリカに対する脅威となっている。諜報関係者や治安関係者たちは常に警戒を怠らないにしなければならない。しかし、現在のところ、イスラム国はアメリカを攻撃対象にしている訳ではなく、西洋諸国との戦いを重視している訳でもない。実際のところ、これがイスラム国をアルカイーダから分離させた理由なのである。「ニューヨークで会おう」と言ったバグダーディの発言は誤って伝えられたものである可能性が高く、冗談である可能性もある。彼を担当した看守たちの多くはニューヨークの出身者たちであった。より重要なことは、イスラム国の行動を見ていると、彼らが西洋諸国からの参加者たちを、中東地域での戦いに投入したいと考えていることが分かる。イスラム国にとって、イスラム国の創設と維持、そして背教者たちとの戦いが最優先なのである。

 

 イスラム国はイラクと地域の安定に対する脅威になっている。しかし、オバマ政権はイスラム国の謀略宣伝を鵜呑みにしないように気を付けるべきだし、イスラム国の勢力は増大していくということを前提にしなければならない。

 

(終わり)








 

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