古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2015年07月

ダニエル・シュルマン
講談社
2015-09-09



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 安倍晋三首相が今年の8月15日、日本のポツダム宣言受諾を昭和天皇がラジオを通じて国民に知らせ(玉音放送)、日本が太平洋戦争に敗れたことを宣言した日に発表する、節目となる70周年談話について、以下のような報道が出ました。戦後70周年談話に関する有識者会議である「21世紀構想懇談会」で、談話内容に関する報告書が出されました。その報告書では、談話の中身には、これまで節目節目の談話の中に盛り込まれてきた「謝罪」を盛り込まず、「積極的平和主義」による未来志向の内容にすべきということになったそうです。

 

 この報告書で言いたことを私なりにまとめると、「まず謝罪という言葉は使いたくないし(まだ生まれていなかった、もしくは子供だった私たちに何の関係がある?)、侵略という言葉だってできたら使いたくない(侵略という言葉を入れた方が良いとしたのは一応アメリカに対する配慮であってアジア諸国に向けてじゃない、ということを岡本行夫辺りが言っていそう)。ODAで対中国に役に立ちそうな東南アジアとかアフリカの発展途上国などにカネや原発をばらまいてやって(それなら西室さんの出身企業である東芝も儲かるでしょ)、それで未来志向ということで良いじゃねぇか」ということになります。

 

 ここまで身勝手な談話を発表することが「積極的平和主義」にかない、日本の国益にかなうことなのでしょうか。そもそも、この談話が記念する70周年とは、日本がポツダム宣言を受け入れて、戦争での敗北を認めたことの70周年です。それを「私たちは間違っていなかったのだから、侵略などしていなかったのだから謝らない」「今はカネを配ってやっているんだから文句を言うんじゃねぇ」となったら、それは居直りであり、世界の不信を招くことになります。ただでさえ、安保法制で「more active role in military(軍事面においてより積極的な役割を果たす=海外派兵までやる)」ということになっている訳です。

 

 私は、「21世紀構想懇談会」にはどんな人たちがいるのかが不思議だったので、その構成を見てみました。構成員は以下の人々です。なるほど、こうした人々ならばこんな身勝手極まりない報告書を出すよなと改めて実感しました。

 

(貼り付けはじめ)

 

20 世紀を振り返り 21 世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための

有識者懇談会(21 世紀構想懇談会)

・西室 泰三 日本郵政株式会社取締役兼代表執行役社長 【座長】・日本国際問題研究所会   

      長

・北岡 伸一 国際大学学長 【座長代理】

・飯塚 恵子 読売新聞編集局国際部長

・岡本 行夫 岡本アソシエイツ代表

・川島 真 東京大学大学院教授

・小島 順彦 三菱商事株式会社取締役会長

・古城 佳子 東京大学大学院教授

・白石 隆 政策研究大学院大学学長

・瀬谷ルミ子 認定NPO法人日本紛争予防センター理事長・JCCP M株式会社取締役

・中西 輝政 京都大学名誉教授

・西原 正 平和・安全保障研究所理事長

・羽田 正 東京大学教授

・堀 義人 グロービス経営大学院学長・グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー

・宮家 邦彦 立命館大学客員教授

・山内 昌之 東京大学名誉教授、明治大学特任教授

・山田 孝男 毎日新聞政治部特別編集委員

 

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/21c_koso/pdf/meibo.pdf

 

(貼り付け終わり)

 

 マイケル・グリーンやリチャード・アーミテージの息のかかった元外交官たち(岡崎久彦系でもある)やジャパン・ハンドラーズのトップに位置するリチャード・サミュエルズの日本における代理人である白石隆、アメリカがバックにいながら、日本国内では馬鹿右翼言論に終始している、堀義人といった人々が入っています。ジャパン・ハンドラーズは、アメリカ軍とアメリカ経済が縮小を余儀なくされている現状で、日本のお金と人員にその肩代わりをさせたいと考えており、その代理人たちがこの懇談会に入っています。彼らは「お勇ましい日本」を鼓舞させようとするでしょう。しかし、ジャパン・ハンドラーズにとって難しいのは、余りに日本の場形を舞い上がらせると、「日本は悪くなかった(アメリカに騙されて開戦させられた)」と言い出します。ですから、今回の報告書のように「謝罪という言葉はいらないけど、侵略という言葉は入れろ(そうしないと、アメリカが日本をやっつけた大義名分が立たない)」ということになります。

 

 戦後70年、2015年の夏はとても「危険な」夏になりそうです。

 

 

(新聞記事貼り付けはじめ)

 

●「21世紀懇 70年談話、謝罪盛らず 報告書「侵略」調整残す」

 

産経新聞 722()755分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150722-00000077-san-pol

 

 安倍晋三首相が8月に発表する戦後70年談話に関する有識者会議「21世紀構想懇談会」(21世紀懇、座長・西室泰三日本郵政社長)は21日、報告書のとりまとめに向けた最終会合を官邸で開いた。報告書では、70年談話には旧来の「謝罪」を盛り込まず、未来志向の文言に重点を置くべきだと提言するとみられる。ただ、先の大戦について「侵略」という文言を明記すべきだとの意見もあり、調整を急ぐ。西室氏らは8月初旬にも首相に報告書を提出する。

 

 会合では、西室氏と座長代理の北岡伸一国際大学長が取りまとめた素案が提示された。「20世紀の経験からくむべき教訓」「戦後の欧米や中国・韓国との和解の道」「21世紀の日本の国際貢献のあり方」といったこれまで6回にわたる議論を踏まえ、最後に国際貢献の推進や歴史教育の充実などの提言が盛り込まれた。

 

 会合では、提言に盛り込むべき内容や表現、「侵略」をめぐって委員から注文があったが、最終的には報告書作成を西室、北岡両氏に一任した。会合には首相と菅義偉(すが・よしひで)官房長官も出席した。

 

 西室氏は会合後、記者団に「首相が掲げる『積極的平和主義』の方向付けについて、われわれとしてまとまった考えを出せる段階に近づいたことに、首相のねぎらいの言葉があった」と述べた。

 

 これまでの21世紀懇の会合では、技術協力や政府開発援助(ODA)といった国際貢献に今後も取り組む決意を談話に盛り込むべきだとの意見が目立った。中韓との和解については、中韓の歩み寄りも不可欠だとの認識を共有し、談話では「謝罪」ではなく、未来志向の文言に重きを置くべきだとの意見が大勢を占めている。

 

 首相は報告書の内容を踏まえつつ、来月15日の「終戦の日」の前に70年談話を発表するとみられる。

 

 首相が21世紀懇を立ち上げたのは、自身が目指す未来志向の談話発表に向けて環境を整える狙いがあり、報告書を踏まえた未来志向の談話となる公算が大きい。

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

(終わり)







メルトダウン 金融溶解
トーマス・ウッズ
成甲書房
2009-07-31 

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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-09-09



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





 古村治彦です。

 今回は副島隆彦先生の最新作『中国、アラブ、欧州が手を結びユーラシアの時代が勃興する』(ビジネス社、2015年7月25日刊)を皆様にご紹介いたします。

 本ブログでもご紹介しましたが、現在ロシアと中国が中心となって「ユーラシア連合」結成の動きが出ています。この動きはやがて南米にも拡大し、「アメリカ包囲網」となるでしょう。ただ、アメリカを攻撃して没落させようというものではなく、「アメリカは今まで勝手気ままに好き勝手やってきたけど、世界唯一の超大国として大変な所も担ってきてくれてどうもありがとう、ご苦労様」ということで、アメリカを普通の大国にするためのショックアブソーバーの役割を果たすものになると思います。

 副島先生の最新刊、世界の流れを捉えた名著の予感がします。夏休みに是非お読みいただければと思います。

 どうぞよろしくお願い申し上げます。


==========

eurasia_obi

 


(貼りつけはじめ)


中国、アラブ、欧州が手を結び ユーラシアの時代 が勃興する 目次

 

 

  まえがき

 

第1章 今こそ人民元、中国株、中国金を買うべき

  中国の株はどん底の今が買い時

  1人民元= 20円の時代

  上昇する人民元の実力

  中国がロンドンの金価格決定に参加

  金価格の決定権をめぐる闘い

  台湾人の不動産"爆買い"

 

第2章 中国が目指新しい世界

  ユーラシア大陸の時代が到来する

  AIIBで中国、アラブ、欧州がつながる

  中国はアラブ世界とも連携していく

  中国の幹部たちの腐敗問題

 

第3章 「一帯一路」で世界は大きく動く

  広大な砂漠でも、水さえあれば人は生きていける

  日本企業の海水真水化プラント

  中国が打ち出した大きな世界戦略「一帯一路」

  中国は、戦争をしない。する必要がない

  インドと中国の問題もいずれ解決する

  中国と敵対する日本の反共右翼たち

  戦争は帝国を滅ぼす

  アメリカの危険な軍産複合体

  ウクライナ危機の行方とプーチンの手腕

  2007年に中国はイスラエルとの関係を切った

  帝国は民族の独立を認めない

  「香港の一国二制度」は中国民主化へのステップ

  中国の南米戦略と焦るアメリカ

  人類の歴史は理想主義では進まない

 

第4章 南沙諸島をめぐる紛争の火種

  中国が南沙諸島での実行支配を着々と進めている

  南沙諸島はもともと各国の主張がぶつかり合う紛争地域だ

  中国が南沙諸島の領有を主張する根拠

  フィリピンは中国に対抗できるのか

  日本が中国を強く非難できない理由

  領土問題は話し合いと調停で解決すべき問題である

 

第5章 欧州とアジアをつなぐアラブ、イスラム教徒の底力

  副島隆彦のイラン、ドバイ探訪記

  遊牧民が築いた帝国

  中国は大清帝国の自信を取り戻す

  イスファン(エスファハーン)とテヘランの位置関係

  アラビアのロレンスとは何者か?

  アラブ世界を分断したアメリカの力

  ペルシャ湾岸の豊かな国々

  アブダビで見たオイルマネーの威力

  アラブもヨーロッパもアメリカに騙された

 

  あとがき

 

巻末付録 主要な中国株の代表的銘柄32


まえがき

 

 世界の経済が急激に変動を始めた。この612日まで中国の株式が暴騰していたのに、大きく下落した。だからこそ今こそ日本人は中国株と人民元(じんみんげん)を買うべきなのだ。日本の株式(証)やニューヨークの株なんか買うものではない。


 中国はこれからもますます隆盛(りゅうせい)する。私は孤立無援の中でずっとこのように書いてきた。 この本は私の中国研究本の7冊目だ。


 中国を中心に世界の流れが変わった。さらに一段階、突き抜ける感じで中国の存在感(プ レゼンス)が増している。中国は強い。中国は崩れない。だから中国を買え、である。


 私が書いてきたとおり、この10年間に中国株を買い、中国で金(きん)を買い、人民元預金をした人の勝ちである。

 

 3ページの人民元の表にあるごとく、1元=20円を突破した。


 20123月には1元=123円だった。201212月から急激な上昇トレンドが起きた。今や人民元は、16円、18円を突き抜けて、20156月に20円台に乗せた。


 人民元預金をした人の勝ちだ。このあとも人民元高(円安)は続き、1元=30円を目指す。だから今からでも私たち日本人は人民元預金をすべきである。この5年間で、日本の主要な銀行でも人民元預金はできるようになった(25参照)

 

 今も日本には中国を腐(くさ)して中国の悪口ばかり言っている人々がいる。


 そんなことでいいのか。中国で暴動が起きて共産・中国は崩れる、の中国崩壊論を唱えてきた人々の大合唱が出版界で続いた。この人々の頭は大丈夫か。中国は崩壊などしない。私たちは嫌がらないで中国を正面から見据えなければいけない。

                                    副島隆彦

 

あとがき

 

中国指導者の真意は16億人の国民を食べさせること

 

 中国についての本を、私はこの10年で対談をふくめると10冊書いた。この本はビジネス社から出す中国研究本の7冊目である。


 2007年に出した1作目の『中国 赤い資本主義は 平和な帝国を目指す』から8がたつ。まさしく私が予測(予言)したとおり、赤い資本主義(レッドキャピタリズム)である中国の巨大な隆盛は世界中を驚かせている。


「中国の不動産市場が崩れて、株式も暴落して中国は崩壊しつつある」はウソである。昨年末からの急激な中国株の上昇(2.5倍になった)のあと、612日から暴落が起きた。そして下げ止まった。だから今こそ日本人は中国株を買うべきである。外国人としての冷静な目で中国の今後を見るべきである。


 中国の不動産(高層アパートの価格)は高値のまま安定している。1割でも下げればそれを買う若い人たちのぶ厚い層がいる。2年前の私の中国本は、『それでも中国は巨大な成長を続ける』(2013年刊)であった。このコトバどおり今も巨大な成長を続けている。


 いちばん新しい中国の話題は、AIIB(エイアイアイビー)アジアインフラ投資銀行の設立である。そして中国政府が4月に打ち出した「一帯一路」(いったいいちろ)構想は、これからの世界に向かって中国が示した大きなヴィジョンだ。ユーラシア大陸のド真ん中に、10億人の新たな需要(デマンド)が生まれる。中国とロシアと、アラブ世界とヨーロッパ(インドも加わる)が組んで、新たなユーラシアの時代が始まるのだ。


 AIIBは今年の3月から急に大騒ぎになった。イギリスが参加表明したからだ。アメリカは「裏切り者」と思った。中国が音頭をとって世界中から参加国を募っている。57

国が参加を表明し(P59の表)、これらの国々は剏立メンバーになる。今年2015年の終わりから営業を始めるらしい。


 このアジアインフラ投資銀行の動きに取り残されたのが、アメリカ合衆国と日本である。ところが日本の財務省はコソコソと中国と裏取引をして、いつの間にかオブザーバー参加という形にするだろう。


 日本の安倍政権は、公然と中国ギライであり中国包囲網を敷いている。中国を敵視して対中国の軍事(安全保障)戦略まで敷いている。このように日本はアメリカにべったりとしがみついて中国と対決、対抗する姿勢のままである。日本国内は奇妙な選挙をやって国会議員の数で安倍政権が圧勝しており、彼らが国家権力を握っている。国民は身動きがとれない。日本の金持ち(富裕層)はどんどん外国に資金資産)を移し、住宅も買い、自分も逃げ出しつつある。


 不況(デフレ経済)のままの日本のことなどお構いなしに、中国の巨大な成長は続く。中国は、日本やアメリカとの敵対、対立など考えていない。そんなことをやっているヒマはない。自分が経済成長(エコノミック・グロウス)を続けることのほうが大事だ。南シナ海と東シナ海で軍事衝突を起こさないほうが、中国にとってはいいのだ。


 中国にとっていちばん大事であり、中国の指導者たちが本気で考えているのは、いますでにいる16億人の国民(公称は13億人。だが実際には17億人になるだろう)を食わせることだ。国民をなんとか食べさせて、自分たちがもっと豊かになってゆくこと。そのための大きな計画さえあれば中国の隆盛は続いてゆく。それが「一帯一路」でつくられてゆくユーラシア大陸の中心部の大開発である。ユーラシアの時代の幕開けだ。

 

  2015年7月                           副島隆彦

(貼りつけ終わり)














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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-07-29



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

ヌーランドとホワイトハウスとの間で考えは一致していないが、民主、共和両党に属する連邦議員たちは、ヌーランドの言っていることは正しいと確信を持っている。

 

 連邦下院外交委員会で民主党側を率いる議員でミュンヘン安全保障会議にも出席したエリオット・エンゲルは次のように発言している。「彼女の話を聞くと元気が出る。私たちはウクライナに対して防衛を目的とした武器を供与すべきなのだ。ロシアがいつもウクライナを打ち破るという主張に私は与しない。それは敗北主義的態度だと思う」。

 

 エンゲルのタカ派的態度は彼だけのものではなく、連邦議会上下両院の議員たちの多くの態度でもある。

 

 2014年12月、連邦議会は多くの議員の賛成により、大統領に対してウクライナに、弾薬、兵士が操縦する調査用のドローン(無人飛行機)、対戦車兵器を含む最終的な支援を与える権限を与える法律を可決した。オバマ大統領も可決された法案に署名することに同意した。それはこの法律は大統領にウクライナへの支援を強制する内容ではなかったからだ。連邦上院は今週、新しい戦術を試すために、法律の改正を行おうとしている。この改正は、対ウクライナ支援のための予算のうちの20%までが使われるまでの間、ウクライナの安全保障支援のための3億ドルの半分の執行を停止するという内容だ。この法律改正についてはホワイトハウスが反対している。それは、アメリカが最終的な支援を行うことでウクライナにおける流血の惨事がエスカレートし、プーティンには更なる暴力的な侵攻を行うための口実を与えることになるとホワイトハウスは恐れているのだ。

 

 アメリカ連邦議会とホワイトハウスの政策の違いが、ヌーランドと彼女に応対するヨーロッパ諸国の外交官たちの間の不和の原因だという説明もなされているが、彼女の厳しい姿勢もまた原因だと主張する人々もいる。

 

ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究所(SAIS)の上級研究員フェデリガ・ビンディは「ヌーランドの攻撃的な姿勢は、少なくともヨーロッパの外交界においては行き過ぎのように感じられている」と述べている。

 

 ヌーランドを擁護する人々は、ヌーランドの「厳しい愛情」という特徴こそ、昨年のロシアによるクリミア併合後のロシアに対するアメリカ政府の対応に必要であったと述べている。

 

 ホワイトハウスの戦略は、厳しいが非軍事的な方法を混合させた形の対ロシア政策を実施し、それによってヨーロッパの団結を図るというものである。この政策に含まれるのは、昨年9月に開始されたアメリカとEUによるロシアのエネルギー国営企業、武器製造企業、金融部門を標的とした経済制裁、G8からのロシアの除外、同盟諸国に対してプーティンをそれぞれの首都に招かないこと、もしくはロシアを国賓待遇で訪問をしないように求めることだ。

 

ヨーロッパの団結を維持するのは易しい仕事ではない。

 

 ロシアを軍事的に抑止する問題について、ヨーロッパは混乱している。バルト海沿岸諸国はより攻撃的な対応を求めているが、イタリアとギリシアは外交による対応を求めている。EUの中で最も力を持つドイツとフランスはこの2つの解決策の中間的な解決を求めている。

 

 制裁については、ヨーロッパ諸国の首脳はアメリカよりも腰が引けている。それは、ヨーロッパ諸国はロシアの各企業との間で長年にわたり、友好的な関係を築いているからだ。禁輸政策の結果、フランスの農産物輸出とイタリアの観光業は大きな痛手を蒙っている。

 

 ヨーロッパ諸国が対ロシア制裁から離脱する場合、ヌーランドに対してそれを伝えねばならない。これはなかなか荷厄介で一筋縄ではいかない。

 

 2015年3月中旬、ヌーランドはローマを訪問した。この時、イタリア首相マッテオ・レンツィは、ロシアがクリミアを併合して以来、ヨーロッパ諸国の首脳としてモスクワを初訪問し、プーティンと会談してイタリアに帰国したばかりであった。

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マッテオ・レンツィ 

 

 イタリアはプーティンを孤立させることを目指す西側の政策に批判的であった。ヌーランドはレンツィがロシア訪問を行った後初めてイタリアを訪れたアメリカ政府高官であり、レンツィに圧力をかけるという困難な仕事を行った。ある外交関係者によると、ヌーランドはレンツィに対して激しい言葉遣いで非難を行い、レンツィは侮辱されたと感じ、怒り狂ったということである。

 

 あるオバマ政権高官は、このメッセージはレンツィに届ける必要があるものだったと協調している。この高官は次のように述べている。「オバマ政権の政策は、同盟諸国がプーティンを首都に招かない、またプーティンから国賓待遇で招待されてもそれを受けないように求めることだ。アメリカ政府の高官たちは、イタリア政府に対して、レンツィ首相の訪露に対して懸念を持っていると伝えてきた」。

 

 ヨーロッパ諸国からの不信感があることは認めながらも、この高官は、ヌーランドのメッセージは「怒りではなく、失望をヨーロッパ諸国に与えた」と述べた。

 

 この厳しい姿勢を理由にして、アメリカ政府や連邦議会の人々はヌーランドを賞賛しているのである。

 

エンゲルは、「彼女は率直にあるがままに話す。何か守ろうとかごまかそうとかしない」と語った。

 

* * *

 

 ヌーランドはフランス語とロシア語を不自由なく操る。20代の頃、ロシア語を学ぶために数カ月にわたり、ソ連のトロール漁船に乗船したのだが、この時にソ連(ロシア)に対する激しい憎しみを抱いたと言われている。

 

ヴィクトリア・ヌーランドの父シャーウィン・ヌーランドは既に亡くなっているが、イェール大学教授として有名であった。ヴィクトリアの夫ロバート・ケーガンはネオコンに属する有名な評論家である。彼女の人生は力を持った、人々の心を動かす表現者たちに囲まれていると言える。

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 ロバート・ケーガン

 

 ケーガンは、新アメリカ世紀プロプロジェクト(PNAC)の創設者の1人であり、悲惨な結果に終わったアメリカ軍のイラク侵攻を最も強力に主張した人物である。枯れもまたヨーロッパの人々を苛立たせた人物として有名である。彼は外交政策分野におけるアメリカとヨーロッパの分裂について論稿を書いた。この中で、軍事力の使用について、「アメリカ人は火星から、ヨーロッパ人は金星から生まれたくらいに違いがある」と書いた。

 

 ヌーランドは宣誓式において、自分の結婚生活について、夫ケーガンの論稿に言及しながら次のように述べた。「彼は私の火星であり、金星であり、そして地球です」。

 

 昨年、ヌーランドとケーガンは、『ポリティコ』誌の取材に対して、最初の数回のデートで民主政治と世界におけるアメリカの役割について話したことで意気投合し、恋に落ちたと語った。

 

 ヌーランドがケーガンと結婚しているため、ヨーロッパ人の殆どは、彼女が共和党員だと思っている。しかし、彼女のロシアに対するタカ派的なアプローチはオバマ政権内部で彼女だけが採っているものではない。

 

 複数のアメリカ政府関係者によると、アメリカ政府の最高首脳たちも私的な場ではウクライナへの武器供与を支持しているということだ。その中には、ケリー国務長官、アシュトン・カーター国防長官、ジョー・バイデン副大統領、ミュンヘン安全保障会議でヌーランドと共にブリーフィングを行ったブリードラヴ空軍大将も含まれている。カーターは自分の考えを公然と話し、それが放送された。カーターは2015年2月の上院軍事委員会に出席し、「私はウクライナへの武器供与を支持する。それは、ウクライナが自国防衛をすることをアメリカが支援しなくてはならないと考えているからだ」と述べた。

 

 オバマ政権内でヌーランド以外にもウクライナ問題について発言している人物が2人いる。1人は国家安全保障会議ヨーロッパ問題担当上級部長チャールズ・カプチャンであり、もう1人はロシア・ユーラシア担当上級部長セルスティ・ワーランダーである。カプチャンとワーランダーの考えは、彼らの学問研究の成果から生み出されたものだ。カプチャンは長年にわたり、NATOに対して疑義を持っていた。彼は危機的状況の軍事力による解決に疑念を持ってきた。彼の存在と疑念によって、よりタカ派的な解決策が国家安全保障会議を通過することはなく、まさに知的な防波堤と言うことが出来る。

 

 ヌーランドは、国務省の人々の多くが持つウクライナ危機に関する主流の考えから逸脱してはいない。しかし、ヨーロッパの人々のヌーランドが大変なタカ派であるとい印象を和らげることはすぐにはできないだろう。それは彼女が取り返しのつかないことで有名になってしまったからだ。ウクライナ国内の反対勢力とウクライナ元大統領のヴィクトール・ヤヌコヴィッチとの間の政治的対立が大きくなっていた2014年、彼女の私的な電話での会話が録音され、何者かによって漏洩されたのである。

 

 皮肉なことに、この会話録音の漏洩によってヌーランドは有名になったが、彼女が国務次官補としてやってきた仕事を誰も理解しようとはしなかった。

 

 アメリカ、ヨーロッパの外交筋からの情報だと、その当時にさんざん報道された内容とは異なり、ヌーランドの余計なひと言は、EUのヤヌコヴィッチ政権に対する姿勢に対する不満、またはEUに対するヌーランドの日ごろの考えから出たものではないということだ。

 

 F爆弾(fuckという言葉を使ったこと)が世界を駆け巡ったのだが、これは2014年1月初頭まで遡る技術的な不同意の結果として生まれたことなのである。当時、数多くの人々がキエフの独立広場での抗議活動に参加し、ヤヌコヴィッチ大統領の辞任を求めた。ヤヌコヴィッチは親露的な人物で、多くの公約違反を犯したが、EUとの政治・貿易協定への署名を見送った。

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ウクライナ反対派(ネオナチ勢力)と仲の良いヌーランドとマケイン

 

 アメリカ政府高官たちは、ヤヌコヴィッチに対してその当時の政権を放棄して、反対勢力の指導者たちを参加させるテクノクラート政府の樹立を行うように求めた。数週間の抵抗の後、ヤヌコヴィッチは態度を軟化させ、反対勢力に対して新政府で2つの地位を与えると提案した。これは外交上大きな転換点となった。ずる賢い政治家ヤヌコヴィッチにしてやられることを恐れた反対勢力は、話し合いに第三者、理想的にはEUが加わることを求めた。EUが話し合いへの参加を拒絶したことで、ヌーランドは怒り、そして後に後悔することになった激しい言葉遣いとなってしまったのだ。彼女はヨーロッパ諸国を遠ざけ、国連に肩代わりをさせるとことを考えたのだ。

 

 ヌーランドは次のように語った。「これは良いアイディアなのよ。状況を改善し、国連にその手助けをさせるというのは。ああそうそう、その点ではEUはダメね、クソ喰らえだわ」。

 

ドイツのアンゲラ・メルケル首相はヌーランドの電話での会話内容を「全く持って容認しがたい」ものだと述べた。ジョン・ケリー国務長官はEUの首脳たちに対してヌーランドの発言内容について謝罪した。

 

 人々の殆どは、電話の録音はロシアの諜報機関が漏洩させたもので、その目的はEUとアメリカとの間の溝を大きくすることだと考えている。

 

 しかし、ここまでのところ、この戦略はうまくいっていない。アメリカとヨーロッパは禁輸政策で多少混乱はしたが、一致した行動を取っている。2015年6月17日、EUは対ロシア禁輸を更に6カ月延長することに合意した。ロシア政府は延長をしないように激しく働きかけを行ったが失敗に終わった。しかし、ロシアの諜報機関は、ヌーランドとヨーロッパ諸国の交渉相手との関係は悪化しているという鵜沢を流し続けている。

 

(終わり)







野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 
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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-09-09


アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




 

 古村治彦です。

 

 昨日、衆議院で安保法制が可決されました。安保法制についてアメリカ側でどのように受け止められているかについての記事をご紹介します。一言で言えば、「中国をけん制し、アメリカの防衛産業を潤すものだ」ということです。軍事協力だなんだと言いますが、軍事を通じた貢納であることが分かります。

 

==========

 

日本の軍事面での役割が拡大することはペンタゴンとアメリカの防衛産業にとって良いニュースとなった(Japan’s Expanding Military Role Could Be Good News for the Pentagon and Its Contractors

 

デイヴィッド・フランシス筆

2015年7月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/07/16/japans-expanding-military-role-could-be-good-news-for-the-pentagon-and-its-contractors/?utm_content=buffer24684&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

 日本は第二次世界大戦後に時刻から他国を攻撃する戦争をしないで来た。しかし、木曜日に海外での戦闘に参加する力を軍隊に与える法案を国会で可決させたことで、これまでとは全く道筋へと進む第一歩を踏み出した。これはアメリカ国防総省が長年にわたり望んできたことであり、アメリカの防衛産業にとっても良いニュースとなる。

 

 2015年1月、保守派の日本首相である安倍晋三政権は、約5兆円(約420億ドル)の防衛予算を通過させた。日本経済は10年にわたり衰退を続けていたが、防衛予算は3年連続で増加することになった。防衛予算の総額は日本のGDPの中では小さな割合しか占めていない。世界銀行の統計によると、防衛予算はGDPの約1パーセントを占めている。しかし、攻撃的な軍事行動は日本国憲法で禁止されているために、中程度の増加でも議論が起きる。水曜日、国会の外では抗議の意思を表すために人々が集まった。この日、議論を呼んだ11の安全保障関連法案が委員会を通過したが、これらによって日本の軍隊は防衛的な行動以上のことに参加する力を与えられることになる。

 

 今年の防衛予算は、日本の軍事能力を改善させる長期計画の一部である。安倍首相は2014年から2019年にかけて24兆7000億円(約2400億ドル)をかけて、新しい戦闘機、海上艦艇、そしてドローンを整備すると約束している。その中には、アメリカ製のF-22、F―35、グローバル・ホーク(ドローン)が含まれている。安倍首相は、アメリカの国家安全保障会議をモデルにして、諮問委員会を設立した。この委員会の目的は、国家安全保障に関する諸問題について彼に助言を行うことである。

 

アメリカと日本は第二次世界大戦直後から同盟関係になった。今年4月、安倍首相はワシントンを訪問し、両国政府の幹部たちは日米関係の強化を訴えた。

 

 安倍首相は米連邦上下両院の合同の場で議員たちに対して次のように演説した。「歴史における奇跡と呼ぶ以外に私たちはこれを何と呼ぶべきでしょうか?激しく闘った両国が魂でつながった友人同士となったのです」。

 

 安倍首相の訪米中、アメリカと日本は新しい合意を発表した。これは合同防衛ガイドラインと呼ばれるもので、日米両国間の更なる軍事協力を促進するものだ。この合意の一部として、日本は、時刻が攻撃されていない状況で、アメリカの領土に向かうミサイルを撃ち落とすことに同意した。日米両国の防衛関者はより緊密に協力している。

 

 この合意が発表された際、ジョン・ケリー米国務長官とアッシュ・カーター米国防長官、日本側の岸田文雄外務大臣と中谷元防衛大臣は共同声明を発表した。その中で、新ガイドラインは「核兵器と通常兵器を含む、アメリカの持つ軍事能力すべてを使って日本防衛を行うアメリカの責務と決意」を示していると述べた。

 

 日米両政府は現在、アジア地域に対してより多くの軍事的資源を再配分しようとしている。日米両国が軍事協力を増強させようとしている理由、それは中国の存在である。日本政府は現在、東シナ海の尖閣諸島をめぐり、中国と激しく対立している。中国側はこれらの島々を釣魚島と呼んでいる。中国は更に、南シナ海で領有権を争っている海上で戦闘機を利発着させることが出来る滑走路を建設している。日中両国は現在刺々しさを増している激しい非難の応酬を行っている。中国政府は今週の法案可決について激しく反発している。

 

 中国外務省の華春栄報道官は木曜日の衆議院での可決の後に発表した声明の中で次のように書いている。「私たちは日本側に対して歴史から真剣に学び、平和的な発展の道を進み、アジアの近隣諸国の安全保障に関する懸念を理解し、中国の主権と国家安全保障を危うくしないようにし、アジア地域の平和と安定損なわないようにすることを求める」。

 

 現在のところ、日本が中国の主権を今すぐ侵害するなどと言う考えはお笑い草だ。複数の報告書によると、中国の2015年の防衛予算は前年に比べ10パーセント増加し、1450億ドルとなり、アメリカに次いで世界第2位となっている。

 

 しかし、2400億ドルをかけて日本政府は多くの最新の装置を買うことが出来る。それはアメリカの防衛産業にとって良い事である。テキサスに本社を置くロッキード・マーティン社製のF-35とヴァージニア北部に本社を置くBAEシステムズ社製の海兵隊用の水陸両用車両を日本政府は購入する予定だ。

 

 日本政府はまた、アメリカに本社を置くノースロップ・グラマン社製のグローバル・ホークの購入計画を持っている。日本政府は更にアメリカ政府と共同して、2隻のイージスレイダーを備えた駆逐艦とミサイル防衛システムの開発を行っている。これらはロッキード社製だ。

 

 ワシントンにある駐米日本大使館に木曜日の国会での採決についてコメントを求めたが返答はなかった。

 

安倍首相周辺の人間たちは変化を推し進めようとして、中国の軍事力の増強とアメリカ軍が弱体化しているのではないかという認識を前面に押し出している。昨年、安倍首相の安全保障担当補佐官の礒崎陽輔は、「アメリカは世界の警察官としての役割を既に果し得なくなっている」と発言した。

 

 礒崎は続けて次のように語った。「日本が何もせず、アメリカから守ってもらえるのを許されていた時代は既に終わった。私たちはアメリカと一緒になって自分たちの果たすべき役割を果たすことが極めて重要になってきている」。

 

(終わり)












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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-07-29

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 今回から2回に分けて、アメリカの恐ろしい外交官であるヴィクトリア・ヌーランドについての記事をご紹介したいと思います。

 

 ヌーランドについては、これまでにもこのブログでもご紹介しましたし、彼女の夫であるロバート・ケーガン(ネオコンに属する評論家)の本を私は訳しました。

 

 ヌーランド女史が怖いのは、民主、共和党のリベラル派(人道主義的介入派)、ネオコンそれぞれと良好な関係を持っており、2016年の米大統領選挙でどちらが勝とうがますますその重要性を増していく可能性が高い点です。

 

 それでは記事をお読みください。

 

==========

 

外交官らしくない外交官(The Undiplomatic Diplomat

 

アメリカ連邦議会内の対ロシア強硬派は、米国務省内の対ウクライナ政策の重要人物ヴィクトリア・ヌーランドを愛している。ヨーロッパ諸国の外交官たちの多くは彼女を嫌っている

 

ジョン・ハドソン(John Hudson)筆

2015年6月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/06/18/the-undiplomatic-diplomat/

 

6月のある暑い火曜日の午後、ジョン・マケイン連邦上院議員は、オバマ政権のウクライナ危機に対する対応について激しく苛立っていた。

 

 アリゾナ州選出のマケイン議員はホワイトハウスが犯したと考えられる間違いのリストを指さしながら、「余りにも恥ずかしく、情けない。怒りを何とか抑えている」と発言した。

 

 ある記者がマケインに「ウクライナ危機への対処を命じるべきアメリカの高級外交官について貴方はどう考えるか?」と質問した時、彼はバラク・オバマ大統領とイギリスのネヴィル・チェンバレン元首相を比較したばかりであった。

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ジョン・マケイン

 

 マケインは一瞬黙り、それから彼の態度は驚くほどに変わった。

 

 マケインは落ち着いた態度になり、「私は彼女の業績を高く評価している。彼女はとても頭が良い」と述べた。マケインは、アメリカのヨーロッパ担当外交官で最も高い地位にあるヴィクトリア・ヌーランドについて語ったのだ。

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ヴィクトリア・ヌーランド

 

 マケインはヌーランドを手放しで賞賛したが、彼以外にも連邦議員の中に彼女を評価する人々は数多くいる。その中には多くの民主党所属の議員たちも含まれる。しかし、世界で一カ所だけ彼女が賞賛されない場所がある。それはヨーロッパだ。ヌーランドの仕事はヨーロッパ諸国と協力で信頼に基づいた関係を築くことであるのだが、そうなっていないのが現状だ。

 

 『フォーリン・ポリシー』誌は、ヨーロッパ諸国の外交官たちに対して数多くのインタヴューを行ってきた。彼らはヌーランドについて、「軽率」「直接的」「強制してくる」「率直」「残忍」更には「外交官らしくない」という言葉を使った。しかし、純粋な外交政策の違いが彼女に対する不満の原因だとも強調した。ヌーランドは、ロシアが支援した反乱を鎮圧するためにウクライナに武器を送ることを支持したが、ホワイトハウスはこれを支持しなかった。

 

 あるヨーロッパの国の外交官は次のように述べた。「彼女は外交官の殆どが使う手法を使わない。彼女はよりイデオロギーを優先して物事に対処する」。

 

 現在、大西洋を挟んでアメリカとヨーロッパ諸国との間の関係は悪化しつつある。ヴィクトリア・ヌーランドはワシントンではスーパースターとして扱われている。一方、ヨーロッパではアメリカで彼女がスーパースターとして扱われるのと同じ理由で批判を受けている。これは大きな皮肉だ。

 

 ヌーランドは米国務省に外交官として入り、キャリアを重ねてきた専門の外交官である。そして、現在、ウクライナ危機に対処する重要なポジションにおり、更にはヨーロッパとユーラシアにある50のアメリカ大使館を統括している。東ウクライナで武力衝突が発生した結果6400名以上が死亡し、冷戦終結以来、米ロ関係が最も不透明になった時期、ロシアの侵攻に対する西側の一致した対応を形成し、それを維持するために、ヌーランドは数カ月の間、大西洋を何度も横断した。

 

 ワシントンにおけるヌーランドの人気の理由は、彼女がロシアを激しく非難し、ヨーロッパ諸国に対してより強硬な姿勢を取るように求める際に使う、攻撃的な激しい言葉遣いにある。

 

 2015年3月、ヌーランドはロシア政府がクリミアと東ウクライナで「恐怖支配」を実行していると糾弾した。その少し前、彼女はアメリカの政府高官では初めて公にロシアによるウクライナに対する攻撃を「侵略」と表現した。彼女は、「ロシアとロシアに操られた分離主義者の操り人形たち」が「言葉にできないほどの酷い暴力」を行使しているので、ロシアのウラジミール・プーティン大統領に対してこれ以上の事態の悪化を招かないように行動するように要求した。連邦議会における証言で、ヌーランドはヨーロッパ諸国との交渉過程を「猫を集めている」ようだと表現した。昨年、駐ウクライナ米大使との電話でのやり取りの録音が暴露され、ヌーランドが「EUのくそったれ(fuck the EU)」と言ったことは広く報道された。

 

 クリス・マーフィー連邦上院議員(コネチカット州選出、民主党)は「彼女は攻撃の手を緩めない。私はヴィクトリアのファンだね」と述べた。彼自身は進歩的な外交政策を標榜している人物である。

 

 ヌーランドの地位は「ヨーロッパ・ユーラシア問題担当国務次官補」という控え目なものだが、ここ数年、ヌーランドはアメリカの外交政策分野において重要人物として大きな役割を果たしてきた。彼女は、共和党のネオコンサヴァティヴ、そして民主党リベラル派と共に仕事をしてきた。ジョージ・W・ブッシュ前大統領の政権では、ディック・チェイニー副大統領の筆頭国家安全保障問題担当次席補佐官を務めた。現在のポジションに就く前は、ヒラリー・クリントン国務長官の下、米国務省報道官を務めた。

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ヒラリー・クリントン


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ヌーランドとディック・チェイニー 

 

 2013年9月に行われたヌーランドの宣誓式においてジョン・ケリー国務長官は次のように発言した。「独特な、いやこれまでにないグループと言える、ディック・チェイニー=ヒラリー・クリントン学校卒業生同窓会の最も重要な卒業生として、彼女は民主党側、そして共和党側両方から信頼を得ている」。

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ヌーランドとジョン・ケリー 


 彼女はヒラリー・クリントンと共和党の有力政治家たちと深いつながりを持っているので、専門家たちの多くは、2016年の米大統領選挙で民主、共和どちらの政党が勝利しても、ヌーランドは更に重要なポジションにつくだろうと予想している。彼女は更に目を離せない重要な外交官になる、という訳だ。

 

* * *

 

 ヴィクトリア・ヌーランドは現在のヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補になって様々な難しい仕事に直面している。

 

 ヌーランドの外交のやり方についてヨーロッパ諸国は不満を持っている。これは明らかであり、どの国も同じ程度不満を感じている。一方で、彼女は大変に難しい課題をこなしている。

 

 ヌーランドは自分よりも地位の高いヨーロッパ諸国の首脳たちと頻繁に会談し、彼らにとって聞きたくないことを平気で口にする。

 

今回くらいの規模の危機の場合、非常に微妙で複雑な仕事が多くなり、それらはヌーランドの上司である、政治問題担当国務次官ウェンディ・シャーマンのところにあげられるのがこれまでの常識であった。しかし、シャーマン自身はイランの核開発を巡る交渉に参加する交渉ティームを率いるという重大な仕事に忙殺されていたために、ヌーランドには通常、次官補では持ちえない影響力が与えられることになった。

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ウェンディ・シャーマン

 

 ヌーランドには大きな自律性が与えられた。その結果、これは公平なことかどうか確かなことは言えないが、彼女はオバマ政権内部のタカ派の人々を動かす原動力になっているという印象を人々に与えることになった。

 

 ヨーロッパに詳しいある議会スタッフは次のように語っている。「ヨーロッパ諸国の政府の多く、そしてロシア政府はヌーランドを嫌っている。しかし、それが理由となって、アメリカ連邦議会の議員たちは彼女を賞賛しているのだ」。

 

 ヨーロッパでは、ウクライナ政府に武器を供与せよと訴えた人物の第一がヌーランドだと見なされている。この主張にはドイツ、ハンガリー、イタリア、ギリシアが反対した。これらの国々は、ウクライナに武器を供与することでロシアとの衝突が拡大することを恐れたのだ。

 

 ホワイトハウスもまたウクライナに武器供与を行うことに反対であった。それは、アメリカがどんな形でウクライナに援助を与えても、ロシアはウクライナ軍を圧倒する能力を持つ、「エスカレーション支配」と呼ばれる力を持っているからだ。

 

 オバマ政権内部でウクライナへの武器供与を支持したのはヌーランドだけではなかった。しかし、ヨーロッパにおいては、ヌーランドはこの政策の顔的な存在となっている。それは、2月に開かれたミュンヘン安全保障会議で起きたある重要な出来事が原因である。

 

 会議の冒頭、ヌーランドとフィリップ・ブリードラヴ米空軍対象はアメリカ代表団に非公式の、記録に残されないことを前提にしたブリーフィングを行った。代表団には、12名の米連邦議会上下両院の議員たちも参加していた。ヌーランドとブリードラヴは知らなかったのだが、ブリーフィングが行われた部屋には、ドイツの新聞『ビルト』紙の記者が入り込んでおり、内容を記事にした。この記事はドイツ国内では大きな反響を呼んだが、英語メディアはこの記事を取り上げなかった。

 

 記事によると、ヌーランドとブリードラヴは議員たちに対して、ウクライナに防衛のための武器を供与することを支持するように圧力をかけ、ドイツ首相アンゲラ・メルケルとフランス大統領フランシス・オランドがロシアに対して行っていた外交努力をバカにした、ということである。

 

 ブリードラヴは次のように発言したと伝えられている。「私たちはウクライナに対して、ロシアを打ち破れるほど多くの武器を与えることが出来る立場にはありませんし、私たちの目的もウクライナによるロシアの撃破ではありません。しかし、戦場においてプーティンの負担を増大させる必要があります」。

 

 この時の通訳によると、ヌーランドは次のように発言したと言われている。「私たちがプーティンの攻撃システムに対抗するためにウクライナに供与しようとしているものは、“防衛システム”と呼んでいただきたいものですわ」。

 

 あるオバマ政権幹部は、このブリーフィングの報道について疑義を呈したが、実際に部屋にいてブリーフィングを受けた議員の1人、マイク・ポンぺオ連邦下院議員(カンザス州選出、共和党)は、フォーリン・ポリシー誌とのインタヴューで、ビルと紙の記事の内容が正しいと認めた。ポンペオは次のように述べた。「ミュンヘン安全保障会議に出席したのだが、この時、オバマ政権の高官たちは、アメリカ代表団に向かって、ウクライナに対する防衛のための武器供与を明確に主張したのである」。

 

 アメリカ政府高官はフォーリン・ポリシー誌の取材に対して、ミュンヘン安全保障会議の目的は、対ロシア政策について「ヨーロッパを落ち着かせる」以上のものではなかったと述べている。この高官は、ブリーフィングを行った人々は「最終決定は何もなされていない」ことを明らかにしたのであり、「アメリカはウクライナに地上軍を送る可能性があるという、ヨーロッパ諸国で広がっていた噂を打ち消」そうとしたのだと語った。

 

 ニュアンスはどうあれ、ミュンヘン安全保障会議の後、ヨーロッパ諸国は、ヌーランドが彼らの持つ対ロシアにおいてエスカレートしていくのではないかと言う懸念を軽くあしらい、オバマ大統領の考えとは違うことを述べているという印象を強く持つことになった。

 

ドイツの雑誌「ディア・シュピーゲル」誌に掲載されたある記事には次のように書かれていた。「ヌーランドは強硬派で、武器供与を支持した。彼女の上司にあたるオバマ大統領とは違い、彼女自身は何をなすべきかについて明確な考えを持っている」。

 

 ホワイトハスはこの記事に関してコメントすることを拒否した。

 

 ヌーランドが早い段階からウクライナに武器を送るように主張したことについて質問したところ、国務省のジョン・カービー報道官はこれまでにない調子で彼女を擁護した。彼はフォーリン・ポリシー誌の質問に対して次のように答えた。「ケリー国務長官はヌーランド国務次官補に対して大きな敬意を払っている。またアメリカとヨーロッパ諸国との関係における重要な時期、特にウクライナに対する支援が必要になった時、彼女からの助言と彼女の考えを必要とした」。

 

(続く)









 
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