古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2015年08月



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 アメリカ外交こぼれ話を皆様にご紹介します。USAIDについては、拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)、2つ目の記事に出てくるヴィクトリア・ヌーランドについては副島先生の『日本に恐ろしい大きな戦争が迫り来る』(講談社、2015年)をお読みください。

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オバマは側近ゲイル・スミスを
USAIDの運営のために送る(Obama Taps Insider Gayle Smith to Lead USAID

 

デイヴィッド・フランシス筆

2015年4月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/04/30/obama-taps-insider-gayle-smith-to-lead-usaid/?utm_content=buffer5a164&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

 バラク・オバマ大統領はヴェテランのアフリカ専門家で、側近でもある人物に米国国際開発庁(USAID)の運営を任せると発表した。この動きは、スキャンダルにまみれた支援専門の政府機関をホワイトハウスに近づけようとするものだ。

 

 ゲイル・スミスは現在、国家安全保障会議(NSC)開発問題担当上級部長であり、長年にわたり大統領国家安全保障問題担当補佐官スーザン・ライスと一緒に仕事をしてきた。元ジャーナリストのスミスはビル・クリントン元大統領とも深い関係があり、クリントン政権では国家安全保障会議のアフリカ担当上級部長とUSAID顧問を務めた。

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ゲイル・スミス

 

 連邦上院の承認を受けた後、スミスは、ここ数年スキャンダルが頻発している、予算総額220億ドルの巨大政府機関を運営することになる。また、USAIDは世界規模の災害に対してうまく対応できなくなっている。

 

 昨年、USAIDは、ソーシャル・メディアのアカウントを使ってキューバの若者たちに向かってカストロ政権を転覆するように訴えたと批判されている。同時期、オバマ政権はキューバとの外交関係を再構築しようとしていた。その数カ月後、USAIDのラジヴ・シャー長官はアメリカとキューバとの間の歴史的な展開が発表される数時間前に辞任した。この際、辞任理由は発表されなかった。シャーは5年にわたりUSAID長官を務めた。

 

 2013年、複数の捜査の結果、2006年から2012年までの間にUSAIDによってアフリカに送られたマラリア薬の20%(6000万ドル分)が裏市場に流れたことが明らかになった。

 

 しかし、医者でもあるシャーは実績も残した。彼は昨年アフリカで猛威を振るったエボラ出血熱に対する対応に成功した。その際にいくつかの医療上の新展開も起きた。その中には医療従事者向けの新たな防御スーツも含まれている。現在、USAIDは世界中に展開しており、チベットの大地震からシリアの難民問題など様々な危機に対処している。

 

 木曜日に発表された声明の中で、オバマ大統領は、スミスの「エネルギーと情熱はアメリカの国際開発政策を主導する力となってきた」と述べた。ジョン・ケリー国務長官はスミスの「責任感は変革の時期に必要なものであり、変革を起こすために必要なものだ」と述べた。

 

 各支援団体はスミスのUSAID長官の指名を歓迎している。スミスは連邦上院の承認を受けられると確実視されている。USグローバル・リーダーシップ・コアリションのリズ・シュレイヤー会長は、「共同体、アメリカ政府、世界各国と彼女は良好な関係を持ち、尊敬を集めている。それによって、USAID指導部はスムーズに交替し、うまく運営していくことが出来るだろう」と述べた。オックスファム・アメリカ政策とキャンペーン担当副会長ポール・オブライエンもスミスの指名を賞賛した。

 

 スミスはアフリカの専門家であり、彼女の専門性はUSAIDの新たな展開にとって必要なものだ。オバマ政権は二期目のスタート当初、予算70億ドルを割いてパワー・アフリカ・イニシアティヴを始めると発表した。パワー・アフリカ・イニシアティヴはアフリカ大陸全体で電気使用を拡大させようとする計画であるが、完全な成功を収めてはいない。

 

(終わり)

 

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米国務省幹部外交官はトルコの政府官僚たちとの間で「アホなブロンド」事件を起こした(Senior U.S. Diplomat Raises ‘Dumb Blonde’ Incident with Turkish Officials

 

ジョン・ハドソン

2015年5月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2015/05/01/victoria-nuland-raises-dumb-blonde-incident-with-turkish-officials/?utm_content=buffer11424&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

トルコの首都アンマンの市長は、警察の暴力について選択的に批判を行った米国務省報道官マリー・ハーフを「馬鹿なブロンド」と呼んだ。これに対して米国務省は非難とユーモアの混ざった対応を行った。

 

 悪役を買って出たのはヨーロッパ・ユーラシア問題担当国務次官補ヴィクトリア・ヌーランドだった。金曜日、ワシントンDCフォギー・ボトムにある米国務省の報道官はヌーランドが「トルコの政府高官たちについて不適切なコメントをした」と述べた。

 

 好漢、より正確には道化役を演じたのが駐トルコ米大使ジョン・バスだ。バスはSNSのインスタグラムに加工した写真を掲載した。その写真はバスが金髪になった写真でその下に「アメリカの外交官:私たちは全員金髪です」とキャプションが付けられていた。

 

 バスの連帯を示すための滑稽な行動に対して、アンカラ市長メリウ・ゴチェックは今週初めにソーシャル・メディアを使って、米国務省に対してボルティモアでの警察の暴力に関する偽善を批判した。

 

ハーフと米国務省の幹部たちは2013年にイスタンブールで起きた抗議活動に対するトルコ政府の厳しい弾圧を批判した。フレディ・グレイの死に対して抗議活動が今週ボルティモアで発生した。これを受けてトルコの与党である「正義と発展」党の幹部であるゴチェックはツィッターで、トルコの政府系新聞が掲載したハーフの写真と記事のタイトルを掲載した。そのタイトルは「トルコの警察が過大な暴力を行使していると述べたアホなブロンド女はどこにいる?」というものであった。

 

ゴチェックは英語で次のようなコメントを付けた。「ブロンド女よ、今すぐ答えろ」。

 

 今回の事件について木曜日に定例記者会見で質問された時に、ハーフは、「私は何か反応を示すことで、彼らの行為を際立たせるようなことはしたくないのです」と述べた。

 

(終わり)









 
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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-09-09



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




 

 古村治彦です。

 

 米軍制服組のトップである米軍統合参謀本部議長(Chairman of the Joint Chiefs of Staff)が今年の秋にマーティン・デンプシー陸軍大将からジョー・ダンフォード海兵隊大将に交代となります。今回は米軍制服組トップの交代についての記事をご紹介します。

 
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マーティン・デンプシー(1952年―)
 

 米軍統合参謀本部議長は、陸、海、空、海兵隊、州兵参謀総長(陸海)、作戦部長(空)、総司令官(海兵隊)、総局長(州兵)と副議長からなるアメリカの軍事部門(制服組)のトップに位置する期間であり、昔の日本で言えば、統帥権を担う参謀本部(陸軍)と軍令部(海軍)が合わさったような組織で、文民である大統領に属しています。

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ジョー・ダンフォード(1955年―) 

 

 現在のデンプシー議長は米軍の大規模派遣に抑制的で、オバマ政権のリアリスト的な対外政策によくあっている人物だったようです。交代が予定されているジョー・ダンフォード海兵隊大将はタカ派的で、攻撃的な考えを持っているようです。気になるのはロシアが「アメリカの存在を脅かす脅威」になるという発言です。ヒラリーが大統領になれば、この制服組トップのダンフォードと軍事面でコンビを組んで何をするのか、分かりませし、たまったものでもありません。ウクライナと北朝鮮で何かを起こす可能性があると思います。

 

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米軍統合参謀本部議長候補者:ロシアはアメリカにとっての「存在を脅かす脅威」となり得ると発言(Joint Chiefs Nominee: Russia Could Pose ‘Existential Threat’ to the U.S.

 

ポール・マクリー筆

2015年7月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2015/07/09/joint-chiefs-nominee-russia-could-pose-existential-threat-to-the-u-s/

 

現在、アメリカの国家安全保障にとって最も深刻な脅威は何か?アメリカの軍のトップと情報機関のトップそれぞれにこの質問をしたら、それぞれが別の答えを出すだろう。

 

 木曜日の朝、議会の承認を受けるための公聴会に、バラク・オバマ大統領が次の米軍統合参謀本部議長に指名したジョー・ダンフォード米海兵隊大将が出席した。そして、連邦上院軍事委員会において、ウラジミール・プーティン率いるロシアが最大の脅威だと述べた。

 

 ダンフォードは「ロシアの行動は警戒を要するところまで来ています。ロシアは我が国の安全保障に対する最大の脅威となっています。アメリカの存在を脅かす脅威となる可能性もあります」と述べた。

 

 ロシアはウクライナ東部に進行し、他のヨーロッパ諸国に対しても脅威となっているとダンフォードは述べている。その結果としてロシアはアメリカにとっての脅威となっているのだ、と言う考えになるが、これは革新的な考えではない。しかしながら、このような評価に対して全く別の評価をしているのが、国家情報長官ジェイムズ・R・クラッパー(アメリカ空軍退役中将)だ。クラッパーは今年初めに連邦上院軍事委員会で証言を行った。2月に行われた証言で、クラッパーはインフラに対するサイバー攻撃こそがアメリカにとっての最大の脅威となると主張した。

 

 クラッパーは、「サイバー・アルマゲドン」のようなことはないと述べたが、「長年にわたり、低度から中程度のサイバー攻撃が様々なインフラに対して行われています。こうした攻撃はゆっくりとではあるが、アメリカの自信と競争力を蝕んでいきます」と述べた。

 

 しかし、問題は黒白はっきりするものではない。クラッパー自身もロシアのハッカーからの脅威は「私たちが以前に評価していたよりもより深刻だ」と認めている。しかし、公の場でそれ以上の詳細な説明をすることは拒否した。

 

 ダンフォードの連邦上院での証言においてサイバー攻撃の脅威はそこまで話題にならなかった。それでも証言の前に委員会に提出された文書の中で、ダンフォードは「ロシア、中国、イラン、北朝鮮のような、攻撃的なハッキング技術を有する国家主体からの挑戦に私たちは直面している」と書いている。

 

 興味深いことに、ダンフォードは、NATO加盟諸国に「最も欠けている点」はサイバー攻撃に対する防御だと強調している。

 

 ダンフォードは、ロシア以外の脅威として、中国、北朝鮮、そしてイスラム国を挙げた。一方、クラッパーはいわゆる「孤独な狼」のような攻撃者やアラビア半島におけるアルカイーダ(AQAP)による脅威に言及した。こうしたグループは、西洋諸国の民間飛行機をいつか爆破させる爆弾を作る技術者たちを仲間に入れるのではないかとアメリカ政府関係者たちは懸念を持っている。

 

 クラッパーとダンフォードは様々な潜在的な脅威を指摘している。アメリカ政府は現在、様々な国家安全保障に対する脅威と戦っているということをこれは示している。彼らはイランを脅威から除外している。イランは現在、将来の核開発を巡る交渉をオバマ政権と行っている。

 

ダンフォードは議会証言の中で、「イランとの間で合意が形成されても、イランは、イエメン、レバノン、シリア、イラクにおける反政府勢力を支援し、スンニ派とシーア派の分裂を深めさせるなど、中東地域において悪意に満ちた行動を続けるだろうと私は考えています」と述べた。

 

 ダンフォードは、イランはアメリカにとっての最大の脅威ではないとしながらも、「現在の中東を不安定にさせている最大勢力だ」と述べた。

 

(終わり)

 

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米軍統合参謀本部議長は反政府武装勢力、大規模な動員、ファストフードが嫌いだ(Joint Chiefs Chairman Doesn’t like Insurgents, Big Deployments, Fast Food

 

ポール・マクリー筆

2015年7月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/07/10/joint-chiefs-chairman-doesnt-like-insurgents-big-deployments-fast-food/

 

 『ジョイント・フォース・クォータリー』誌最新号で、退任間近の米軍統合参謀本部議長のマーティン・デンプシーに対する長時間のインタヴューが掲載された。その内容な衝撃的であった。デンプシー議長はワシントンにいるタカ派たちから、「リスクを避けようと汲々としている」「米軍の派遣を上申しない」と批判されてきた。デンプシーは記事の中で当意即妙な受け答えをしていたが、その内容は彼に対して否定的な評価をタカ派がするのは自然だろうと思わせるものとなった。

 

 軍隊を率いるリーダーがどのように作戦を立てるのか、そして、立てられたいくつかの作戦を全て文民の指導者に提示するのかそれとも成功の可能性が高いものをいくつか提示するだけなのかという質問が出された。この質問に答える際、デンプシーはイラク戦争とアフガン戦争におけるアメリカのやり方は拙かったと否定的な発言を行った。

 

 デンプシーは、反政府武装勢力や非国家主体と戦闘を行う場合、戦闘の規模を大きくすることは賢明な方法ではないと述べている。「非国家主体との戦闘に関して言うと、作戦はより多く作るようにする。それは、作戦決定は一時的なもので状況によって変化するからだ。様々な状況に対応したいと思う場合、兵員15万、12の大規模基地、TGIフライデーやバスキン・ロビンスが必要になる」。

 

 イラク国内のアメリカ軍基地やアフガニスタンのカンダハール空軍基地には、ピザハットなど様々なファストフィードチェインの店が完備されている。また、アイスクリームとケーキの並んだ棚がある24時間稼働している食堂も完備されている。こうした状況をデンプシーはチクリと皮肉っているのだ。

 

デンプシーはジョー・バイデン副大統領と同じ主張をしている。2009年、バラク・オバマ大統領はアフガニスタンに3万以上の米軍を派遣して「攻勢」をかけたいと望んだ。この時、バイデンは、数万規模の米軍の大部隊の派遣ではなく、小規模の特殊精鋭部隊と対テロ部隊の派遣を主張した。

 

 私たちは、デンプシーの退任の日までこうした発言を聞き続けることになるだろう。彼は議長として最後の海外視察を行い、メディアからのインタヴューに答える。それが10月1日に大統領の軍事面の首席アドヴァイザーの地位を退くまで続く。

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23




 
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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-10-28



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 先日、ある出版社の編集者の方とお話をしました。このところ、韓国や中国を批判する本ばかりで嫌になりますね、と話したところ、「読者の読みたい内容の傾向は少し変化しているようですよ」という話をしてくれました。確かに韓国や中国のことばかり、あんなにたくさん、短期間に一気に出れば、書かれていることは重複しているでしょうから、「この話も知っている」ということばかりになるでしょう。

 

 その編集者の話だと、「アメリカの占領時代に関心が移っているようですよ」ということでした。今年は敗戦70年で、8月15日が終戦の日ですから、今本屋さんに行けば、これまで出された太平洋戦争関係の本が一つの棚にまとめられています。また、映画で「日本のいちばん長い日」もリメイクされます。私がそういうことですか、と尋ねると、「いや、ちょっと違いますね」ということになりました。

 

 編集者の方の体感だと、「戦後占領したアメリカ軍に何をされたのか」ということに読者の関心が移っているということでした。確かに、その「されたこと」の最大のものが日本国憲法の制定で、現在参議院で審議されている安保法制は、この日本憲法の解釈変更なのかどうかが大きな争点になっています。

 

 私は、人々の興味関心の根底にある「戦後日本を占領したアメリカは日本に何をしたのか」という問いがあるのだと思います。戦後のアメリカの占領政策によって日本は良い方向に変えられたので、再び独立国となり、国際社会が暖かく歓迎し、経済発展を遂げ、大国となったというのが公式のストーリーです。ですから、このストーリーを信じるならば、「アメリカは日本によいことをしてくれた」という結論になります。

 

 この結論に対して「本当にそうなのか」という疑問が日本人の中で湧いているのだろうと思います。そして、「アメリカは日本を属国にして利用するために、占領政策を実行し、それに成功したのだ」という思いが出てきて、成功のストーリーに疑問を持つようになっているのだろうと思います。そして、これは政治的な見解やイデオロギーを異にする人々が共通に持っている「心性」なのだと思います。つまり、日本人が「日本はアメリカの属国なのだ」という前提から、物事を考えるようになったと思うのです。

 

保守派からすれば、「日本はアメリカの属国のままで、本当に独立したとは言えない。その最たるものが憲法だ。憲法のせいで他の国がやるように戦争ができない(専守防衛)。だから安保法制を成立させて自衛隊の海外派兵をしなくてはいけないのだ。都合が良いことに、憲法を押し付けたアメリカも望んでいることじゃないか。これを機会にして、軍隊を海外に派兵できる“普通の国”になるんだ」となります。この人たちは、「アメリカに不当に属国されて日本は誇りを失うことになった。アメリカは日本人を洗脳して、先の大戦が悪い戦争だったと思わせ、日本が戦争をすることは悪だと教え込んだ。だから、洗脳を解いて、普通の国になるには、軍隊の海外派兵ができるようにして中韓と戦わねばならないのだ」とも考えます。

 

リベラル派からすれば、「日本はアメリカの属国のままだ。だから安保法制のようなものを飲まされて、憲法の解釈が勝手に変えられて自衛隊を海外に派兵することになるのだ」ということになります。そして、「日本はアメリカの属国のままだから、アメリカの手伝いをさせられて、やりたくもないし、放棄している戦争に参加させられることになるのだ」と主張することになります。

 

 「日本はアメリカとの戦争に負けて、アメリカの属国となった、そして現在も属国のままだ」ということが国民的コンセンサスとまではいかないまでも、「そんなことあるか!」と顔を真っ赤にして怒り出すよりも、「そうかもしれないねェ」としみじみと語る人が多くなった、と私は思います。

 

 この前提に立つことが出来てはいるが、そこからが考え方の違いで結論が大きく異なることになります。しかし、大きく異なるように見える結論も実はそんなに違わないのではないかと私は思います。それはどちらにしても「アメリカ頼りではダメだ」ということになるからです。「反米」という言葉ほど激しくはないにしても、「離米」、アメリカから少しずつ距離を取ってみるということが起きているのだろうと思います。

 

 ただ、激しく対立している保守とリベラルの違いは何かということになるとそれもまたある意味で人間の中に含まれる要素のうちのある部分が大きく出ているということに過ぎないのではないかと思います。アメリカと戦争をしてコテンパンにやられた、歴史上初めて降伏文書に全権が署名したということ、戦争によって加害者になり勝被害者になったこと、これらは大きな傷(トラウマ)です。この傷に対する時、そのことを忘れようとするか、もしくは傷に薬を塗り続けるかということだと思います。どちらにしてもとても人間らしい反応です。

 話は急に飛びますが、私は先日、2冊の本を読みました。内田樹『最終講義』(文春文庫)と半藤一利述・井上亮編『いま戦争と平和を語る』(日経ビジネス文庫)です。この中で、内田氏は、戦後のヴェトナム戦争反対運動で行われた米軍艦(空母エンタープライズなど)寄港反対で反対運動の学生たちが旗を林立させ、木の棒を手に集まっていたのは、先の戦争末期に「竹槍で敵を迎え撃つ」ことの実行なのだと書いています。半藤氏は日本は幕末に開国した時から、「攘夷」がその根底にあると指摘しています。 明治時代からの対外膨張主義(国家の安全保障のための自衛に名を借りている)と戦争は攘夷の現れであるとみています。この2人が指摘しているポイントは、日本は近現代において対外関係の基礎には攘夷があるということであり、その目標はアメリカであり、そして太平洋戦争でアメリカに敗れてもなお、そのアメリカに対する戦う気持ちは継続しているということです。私は、戦後70年において、攘夷が再び顔を出しているのだと思います。

 日本は現在の覇権国であるアメリカと覇権国への階段を上りはじめている中国の間に存在するという点で特異な位置にあります。現在はアメリカの「不沈空母」のような役割を果たさねばならないようになっていますが、この2つの間に立って、特異な位置を占めることも可能です。2つの異なる勢力、争っている勢力の間にはそれらをつなぐ存在が必要であり、日本はそうした存在になることが可能です。そのためには日本がアメリカの属国であることを形式的にはともかく、実質的には止めることが必要です。戦後70年、それが少しずつできる環境になっているのではないかと思います。 


 それでは、「日本が属国の地位から脱するために自衛隊を海外派遣し、戦争に巻き込まれねばならないのか」というと、そうではないと私は考えます。自衛隊の「専守防衛」と経済における相互依存関係の強化以上に力強い防衛手法はありません。

 私は昔、「良い木こりは手に1つだけ傷を持っている」という話を聞いたことがあります。傷跡が残るほどの失敗を1度だけして、それ以降、慎重になって怪我をしない木こりは良い木こりだ、ということだそうです。この木こりは時にこの傷痕に触れることでしょう。また日常ふとした時に目にするのでしょう。そして、その時の痛みと後悔を思い出すのでしょう。日本では戦争を体験したことがない人間が国民のほとんどを占めるようになりました。そうした中で、私たちはふとしたときに自分たちの中にある傷跡に触れてみる、想像の翼を広げてみる、それが終戦の日なのだろうと思います。

 

(終わり)







野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 
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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-10-28



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 2015年8月14日、安倍晋三内閣総理大臣が戦後70年の内閣総理大臣談話(閣議決定)を発表しました。その全文は以下の首相官邸のウェブサイトで読むことが出来ます。

 

※内閣総理大臣談話の全文はこちらのアドレスから→

http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html

 

※首相談話の英語版はこちらのアドレスから→

http://japan.kantei.go.jp/97_abe/statement/201508/0814statement.html

 

 文字にすると4000字近くになる大変長い談話です。しかし、これは是非読んで、私たち1人1人が感じ、考えることが重要だと思います。

 

私がまず指摘したいのは、100年以上前に西洋列強がアジア地域を植民地化したことから談話が始まっている点です。この談話が太平洋戦争・第二次世界大戦の戦後70年の談話であることは明らかですから、西洋列強の帝国主義と植民地主義から話を始めるのは、「不幸の元凶は西洋列強にある」と宣言していることになります。

 

 そして、私が驚いたのは、司馬遼太郎による『坂の上の雲』史観とも言うべき、「日本は凄かった」「日本は素晴らしかった」「アジア発の云々」という自画自賛が続いたことです。日露戦争も出てきましたが、これだって朝鮮半島と満洲の支配権を巡る戦いであるのに、いかにも日本がアジア発の独立国、近代的な制度を備えた国としてロシアと戦ってやった、勝ってやった、それでアジアの人たちは喜んだじゃないかと肯定している訳です。ロシアにしてみれば「なんでそんなことを言うんだよ」となりますが、今はG8からも追放中の身ですから、これくらい言っても良いだろうという判断があったのだと思います。

 

 しかし、世界的な経済恐慌によってブロック経済化が進み、日本も経済的に苦しくなって「生存圏」を求めて、「国際秩序」に対する「挑戦者」となって世界の体制から孤立し、戦争への道を進んだ、と続きます。ここの部分は、現在の中国をそのように見なしていると言えます。「中国は戦前の日本のように、国際秩序に挑戦している存在なのだ」と言外に匂わせています。

 

 「戦争への道を進んでいきました」の次が「そして70年前。日本は、敗戦しました」となりました。そして、その後に反省が来ます。日本国民の被害、そして関係した国々の人々の蒙った被害に対する痛切な反省が表明されています。日本がこれまで謝罪の反省の意思を繰り返し表明してきたに言及しています。そして次のように続きます。

 

 

<寛容の心によって、日本は、戦後、国際社会に復帰することができました。戦後七十年のこの機にあたり、我が国は、和解のために力を尽くしてくださった、すべての国々、すべての方々に、心からの感謝の気持ちを表したいと思います。

 

 日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。しかし、それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません。謙虚な気持ちで、過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任があります。>

 

 

 ここで、被害を与えた人々からの寛容の精神に基づいた行動に感謝しながら、いきなり、「それでも戦争に何らかかわりのない日本人が、謝罪を続ける運命を背負わされてはなりません」という言わなくても良い一言が入ってしまいます。「お前らもよ、寛容の精神でいつまでも謝罪、謝罪言うなよな、だいたい、お前らだって戦後生まれがほとんとで戦争と直接関係ないじゃないか」ということになりました。この一言でせっかく良いことを言っていたのに、ちゃぶ台返しで全てが水の泡になってしまいました。

 

 ここで「私たちの子や孫の世代」という言葉が使われていますが、これは、本当は自分たちを指していると思います。そして、国内保守派(日本会議系)にかなり配慮した部分だと思います。しかし、この部分は蛇足でした。

 

 安倍首相は直接、従軍慰安婦という単語を使うことを避けましたが、戦場の陰で虐げられた女性たちの存在に言及し(これには日本人女性も含まれるでしょう)、更にこれから女性の人権擁護や社会的活躍を積極的に支援していくと談話の中で明記しています。また、「自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ」とも述べています。

 

 ここの部分はアメリカと、現在、アメリカ大統領選挙でトップを走っているヒラリー・クリントン前国務長官に向けて書かれたものです。ヒラリーは私が書いてきましたように、人道主義的介入派として、世界各国の虐げられた人々を助けるためにアメリカの力を使うという考えを持っています。ヒラリーは特に女性たちを助けたいと考え、これは「ヒラリー・ドクトリン」と呼ばれています。安倍首相は、ヒラリー・ドクトリンを支持し、そして、アメリカが作り上げた国際秩序を守るために「積極的平和主義の旗を掲げる」と宣言しました。そして、先ほど述べたように、戦前の日本と同じ「国際秩序に対する挑戦者」である中国を「膺懲」するために「安保法制が必要だ」とアメリカにアピールしているのです。

 

 非常に複雑なことになるのですが、私の考えでは、この談話は「攘夷」を基調としながら、「以夷制夷(夷を以て夷を制す)」的な、アメリカと一緒になって中国をやっつけてやる、という心性が基になっていると思います。

 

 談話が植民地主義から始まっていますが、19世紀から20世紀にかけて世界中を植民地化したのはイギリス、大英帝国です。イギリスの帝国主義的植民地政策の結果として、中東やアフリカでは今でも国境や民族を巡り争いが絶えません。また、この談話でも述べているように、植民地主義が太平洋戦争のもともとの原因だった、不幸の元凶はイギリスの植民地政策だと述べています。アメリカはフィリピンを植民地化しましたが、イギリスほどの圧制や収奪はせず、また植民地主義には戦前でも公式に反対していました。ここで、アメリカは「免罪」される訳です。

 

 そして、この世界の不幸の元凶であるイギリスが、今度はAIIB(アジア投資インフラ銀行)を通じて、中国を助けようとしている、介添え役をやろうとしている、あの国際秩序に対する挑戦者を助けようとしている、許せないとなります。その結果、談話の中で、執拗に植民地主義という言葉を繰り返したのは、イギリスに対する不満を表明するものでした。安倍首相は「いつもお前ら西洋列強はアジアを食い物にしよとする」という「攘夷」的な心性になり、反英感情にまでなっていると思います。

 戦前も中国に関して言えば、イギリスも権益を持っており、日本と競合関係にありました。イギリスは中国の財政を立て直すために中国国内の貨幣流通を改善するための法幣制度を確立する手助けをしたのですが、日本側にも一緒にやろうと提案したにもかかわらず、日本はこれを拒絶しました。中国、国民党政府はあくまで弱いままである方が日本の利益になるという判断からでした。しかし、法幣制度によって中国の財政状況は改善されましたが、これに対して日本では反英感情が起こりました。日本の軍軍部がマスコミを使って煽ったこともあり、東京で反英的な看板も出ました。また、天津のイギリス租界の封鎖事件も起きました。中国が絡むと日本とイギリスは対立してしまいます。また歴史は繰り返すのかもしれません。 

 

 更には、植民地主義に反対して、自由主義や人権、デモクラシーを基礎にした戦後の国際秩序を構築したアメリカについていく、という宣言をしました。ここまで言われると、アメリカも「ちょっと歴史修正主義的かな」と思っても、強い非難はできません。

 

 こうやって見ていくと、この談話がどこに向けて出されたものかは明らかです。それは「宗主国」であるアメリカです。そして、この談話を読んで心に響かない、よく分からないとなるのは当然です。それは「攘夷」を秘めながら、アメリカについていくという宣言という、「複雑骨折」を起こした文章だからです。

 

(終わり)







野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 
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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-10-28



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 アメリカの外交誌『フォーリン・ポリシー』誌に掲載された、日本の謝罪についての記事を皆様にご紹介します。

 

 私がつまらないことを書くよりも、是非すぐにお読みいただければと思います。

 

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戦時中の行動について日本が謝罪するかどうかが問題であろうか?(Does It Matter Whether Japan Says Sorry for Its Wartime Behavior?

―安倍晋三首相は第二次世界大戦における日本の侵略について重要な演説を行おうとしている。しかし、東京では歴史が歴史として受け止められていない

 

デニー・ロヤウガスト筆

2015年8月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/08/13/does-it-matter-whether-japan-says-sorry-for-its-wartime-behavior-shinzo-abe-world-war-2-china-south-korea/

 

 

どれほどの謝罪をすれば十分なのか?2015年4月、日本の首相安倍晋三は日本のテレビ番組に出演し、日本の過去の行動に関する過去の謝罪の基になっている「基本的な考え」は踏襲するとしながらも、「謝罪を繰り返す必要はない」と述べた。当然のことながら、この発言に対して中国と韓国の国民の多くは激怒した。彼らの親族や祖父母たちは、戦時中の日本の犯した過ちの犠牲となり、怒りを感じていた。2015年8月14日に第二次世界大戦がアジアで集結して70周年を記念する演説を安倍首相が行うことが予想されている。その前日、『フィナンシャル・タイムズ』紙は、安倍首相が「個人的には気に入らない言葉遣いではあるが、歴代首相が使ってきた言葉に極めて近い言葉を使って演説を行う可能性が高い」と報じた。中国と韓国、それぞれとの関係が悪化している中で、安倍は彼が基盤としている保守派と怒りを募らせている東アジアの近隣諸国との間で板挟みとなっている。

 

 中国と韓国に対して謝罪をすることの重要性は理解されている。両国は20世紀の日本の侵略の下で苦しんだ。日本政府は1895年から1945年の太平洋戦争終結まで朝鮮半島を支配した。この時期を朝鮮半島の人々は暴力的で、収奪的な暴政が行われた時期として記憶している。1920年代から、日本は中国東北部を植民地化し、1937年には中国の中心部に侵略した。その結果、数百万の中国人が亡くなり、日本軍は多くの暴虐を行った。特に、日本軍は数千の朝鮮と中国の女性たちを強制的に性的な奴隷労働に従事させた。こうした人々は「慰安婦」と呼ばれた。韓国人と中国人は今でも日本軍の行為に対して深い怒りを持っている。韓国と中国の人々は、アメリカが最近、過去の悪行を頑固に反省しない日本をアジア地域における、より積極的な戦略的アクターに仕立てようとしている動きに対して不快の念を持っている。

 

 日本が抱える歴史問題に関して言うと、部分的には1945年から1952年にかけてのアメリカによって占領されていた時期のアメリカの政策に一貫性を欠いていたことが原因となっている。ダグラス・マッカーサー大将の下でアメリカに占領されていた時期、アメリカの占領政府は、日本社会は戦時中の政治的な抑圧にうんざりし、祖国に災いをもたらした愛国主義的主戦論に幻滅していることを発見した。しかしながら、日本国内の保守派のエリートたちは、社会の安定性を維持し、国家の誇りを取り戻し、天皇崇拝のような伝統を維持することが日本の復興の基礎になると確信していた。

 

 占領当局は当初、政治的な自由化に集中した。アメリカは日本に市民の自由を導入した。そして、貧困者救済プログラム、女性の地位の向上、国家と宗教の分離、財閥の解体、労働組合結成の権利の保証、高質を中心とする国家主義的な要素を教育から排除することを通じて、民主的な公民文化を促進し

 

 アメリカとソ連の関係が悪化し続けていた1948年に、アメリカの占領当局は、日本を冷戦におけるアメリカの同盟国として強化する方向に転換した。財閥解体は中止され、新法によって経済に対する国家の統制は強化され、アメリカ政府は日本の戦時中の政府の要人たちの数人を表舞台に復帰させた。安倍の祖父、岸信介は戦時中、商工大臣だったが、戦争犯罪の容疑で収監されていた。彼は刑務所から出て10年もしないうちに首相の地位にまで登りつめた。

 

 アメリカの占領当局は不完全な革命を推進した。アメリカは日本に自由な報道システムと反軍事的な教育システムを設立した。しかし、保守主義者たちを権力の座に残した。そのため、日本はイデオロギー的に分裂し、左派と右派の間で長年にわたり争いが続いた。平和主義の諸原理と戦時中の行為の反省を主張し、アメリカとの同盟関係に反対していた日本社会党からの強力な挑戦に対抗するために、保守政党2党は1955年に合併し、自由民主党、つまり自民党を結成した。自民党は、日本の戦時中の歴史に関する修正主義者の避難所になっている。この自民党がずっと日本政治を支配している。結党以来、4年を除いて、国会の過半数を占め続けている。

 

 今日、自民党所属の国会議員のほとんどと安倍内閣の閣僚の大多数は、日本会議に加入している。日本会議は超国家主義者たちのグループであり、第二次世界大戦における慰安婦の役割と日本の犯罪について修正主義的な立場を取っている。日本の保守派は、彼らが「自虐的な(masochistic)」歴史と呼ぶものを非難している。彼らは、日本は戦争に負けただけなのに、不当に非難を浴びていると主張している。戦時中の日本政府の行動は、実際には西洋諸国の植民地主義からアジアを解放するためのものであったが、日本の敵たちは戦時中の暴虐を誇張したり、でっち上げたりしていると主張している。

 

 これまで保守派からの抵抗もあったが、日本の重要な地位にある人々は、外国からの圧力を受けて、複数回にわたり、戦時中の日本の侵略と暴虐について謝罪をしてきた。過去の謝罪で重要なものは2つある。1つは1993年に官房長官であった河野洋平が行った謝罪と1995年に首相であった村山富市が行った謝罪である。これらは安倍の演説に対する評価の基準となっている。河野談話は、「自分の意思に反して」慰安婦となることを矯正された人々に対する「心からの謝罪と反省」を表明した。しかし、河野は、女性たちの誘拐について、日本政府ではなく、「民間の業者」に責任があるとした。村山談話では、日本の「植民地支配と侵略」を認め、そのためにアジア地域に対して「多大な被害と苦しみ」を与えたと明記した。これについて、村山は「深い後悔」を感じ、「心からの謝罪」を行った。「侵略」という言葉を使用することは、日本の謝罪において重要であり、日本の植民地支配の下での苦しみに言及することは朝鮮の人々にとって重要だ。

 

 こうした主要な表現を繰り返すことは、歴代の首相にとって基準となった。しかし、この自分に鞭打つような態度に対して、国内の人々の中で怒りを持っている人たちがいる。日本の保守派は繰り返し、日本を批判する人々に対していくら謝罪をしても許してもらえないのだ、と不平を漏らしている。日本側が謝罪をしたとしても、2012年に起きた日中関係の急激な悪化を止めることが出来なかった。

 

 しかし、第二次世界大戦中の日本の行動が、東アジアにおいて戦略的な転換をしようとする際に、日本の足かせとなっている。共に民主国家である日本と中国は中国の地域支配を恐れている。しかし、韓国民の多くが日本とのより深い防衛関係の構築に反対している。韓国の朴槿恵大統領と安倍首相はこれまで2人だけで首脳会談を行っていない。中国政府は歴史問題を利用して、米韓と日本を分裂させようとしている。歴史問題が存在することで、中国政府は日本が地域の指導者となることに不適格だと主張し続ける機会を得ている。更に、中国は軍事志向の外交政策を採用し、それによって近隣諸国は不安を覚え、国家安全保障の面での協力関係を構築しようとしている。中国政府は日本の歴史問題を利用し、こうした状況から人々の関心をそらすことが出来る。日本叩きを行うことで、中国の国家主席である習近平は、中国国民のナショナリスティックな感情を背景にして、国内において強力な指導者として自分の正統性を強化している。

 

 アメリカにとって、安倍の主張は痛しかゆしのところがある。アメリカ政府は、長年にわたり、日本政府に対して集団的自衛の原理を採用するに求めてきた。これによって、っク最適な紛争において、日本の自衛隊がアメリカ軍と一緒になって戦うことができるようになる。これまでは日本に対する防衛のみであったが、それを越えることになる。2014年7月、安倍内閣は日本国憲法の新解釈を採用し、これによって、日本は同盟国の防衛を援助できるようになった。この安全保障に関する姿勢を明文化した2つの法案が最近衆議院を通過した。参議院で否決されてもそれを覆せるだけの議席数を安倍の率いる自民党は有している。アメリカ政府は集団的自衛の実施を歓迎しているが、安倍が進めるプログラムに付随している歴史修正主義はアメリカ政府の頭痛の種となっている。韓国の国民は日本の集団的自衛に関して反対している。歴史問題の激化はアメリカ政府を更に困難な立場に置いてしまう。米中間の緊張に対処することがより困難になってしまう。日本の再軍備に対して、中国はアメリカ政府に対して苦情を申し立てている。日本の再軍備は、安倍のような歴史修正主義者の政権の下で行われていることが、これは中国政府にとってより脅威となっている。

 

 しかし、お先真っ暗と言うことでもない。韓国メディアの中には日本に対して激しく怒りを持って報道をしているものもあるが、朴槿恵は歴史問題をもっと重視することはないと述べている。中国政府は経済状況が減速している中で、日中間の経済関係を再び重視する動きが出ているように見える。習近平と安倍が9月初めに首脳会談を行う可能性がある。

 

 日韓関係、日中関係はそれぞれ継続的に回復させるためには、安倍は少なくとも河野談話と村山談話の主要なポイントを再確認する必要がある。そしてできるならば、日本にとってより居心地の良い国際環境ができることの方が日本にとって利益になり、それによっていくら保守派を怒らせることになっても、それを正当化することが出来るのである。

 

(終わり)







野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23
 

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