古村治彦です。
先日、ピーター・ベイナートの記事をご紹介しましたが、その際に私は「外交政策が焦点になるべきだ」と書きました。ベイナートはその後、サンダースには外交政策が足りないとする記事を発表しました。これは私もまた言いたかったことです。
国内政策で民主党内に大きな相違点はありません。そうなると外交政策が焦点になるはずですが、ヒラリーの対抗馬バーニー・サンダースは外交政策が得意ではありません。ですから、私は連邦上院の外交委員長をやり、副大統領を務めているジョー・バイデンが対抗馬として出ることが、ヒラリーを抑えることになると考えました。
しかし、バイデンに対しての「包囲網」「待ちくたびれたという論調」が形成されつつありました。そして、ついにバイデンはふつしゅばを表明しました。今週木曜日のヒラリーに対するベンガジ委員会の質疑応答が分岐点になると思います。ここでヒラリーが乗りきってしまえば、アメリカ大統領選挙は終戦で、ヒラリーが大統領になるでしょう。そうなれば、ベイナートも書いているように、アメリカの外交政策は「タカ派的」になるのは間違いないところです。
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バーニー・サンダースに足りないもの(What Bernie Sanders Is
Missing)
―民主党の米大統領選挙候補バーニー・サンダースは外交政策を無視している。それによって、アメリカ国民が聞きたいと思っている外交政策に関する討論ができなかった
ピーター・ベイナート筆
2015年10月16日
『ジ・アトランティック』誌
http://www.theatlantic.com/international/archive/2015/10/bernie-sanders-democrats-foreign-policy/410917/
バーニー・サンダースは火曜日の夜に行われた民主党の大統領選挙立候補者討論会の準備をきちんとしていなかった。特に外交政策について準備ができていなかった。討論会ではそれが露呈した。
彼の準備不足が露わになったのは、アンダーソン・クーパーがヴァーモント選出の連邦上院議員であるサンダースに対して、「シリア内戦についてですが、もし大統領に選ばれたら、ヒラリー・クリントンとは違う政策を実行しますか?」と質問した時だ。サンダースは、「私たちは、アラブ諸国の連合を結成し、それが主体となって内戦終結を進めさせるべきだ。アメリカは支援をするだけに留まるべきだ。しかし、私はアメリカの地上軍派遣を支持しない」と答えた。彼の答えは良い。しかし、ヒラリーもまたアラブ諸国の連合という考えを支持し、アメリカの地上軍派遣に反対している。サンダースは質問に答えられなかったのである。
その後、CNNのダナ・バッシュがサンダースに対して、「どのような状況になったら、サンダース大統領は軍事力を実際に行使するつもりですか?」と質問した。サンダースはヒラリーとの違いを強調しようとして、「シリアにおける飛行禁止区域を設定することには反対だ。飛行禁止区域を設定するすると状況は大変危険になってしまう。そして問題はより深刻化してしまう」と述べた。サンダースは今度はクーパーの質問に答えたが、直近のバッシュの質問には全く答えないということになった。
そして、クーパーが再び質問した。「サンダース上院議員、貴方は質問に答えていません。どのような状況になったら、あなたは実際に軍事力を行使するのですか?」
これに対してサンダースは次のように答えた。「ビル・クリントン大統領が、“コソヴォにおける民族浄化を止めようではないか”と述べた時、私はその考えを支持し、介入に賛成した。私はオサマ・ビンラディンをアフガニスタンで捕えることに賛成票を投じた。我が国、もしくは我が国の同盟諸国が脅威に晒された時、我が国が直面する危機に対処するために、諸国連合を結成する必要があると考える。私は、アメリカが単独の行動を行うことを支持しない」。
このサンダースの回答に関してはいくつも問題がある。第一に、サンダースは「我が国、もしくは我が国の同盟諸国が脅威に晒された時、諸国連合を結成する」と述べた。しかし、サンダースはNATOによるコソヴォに対する介入を支持したと述べた。ユーゴスラヴィアのスロボダン・ミロシェヴィッチ大統領はアメリカやアメリカの同盟諸国に何の脅威も与えなかったが、人道的な観点からアメリカは戦争に参加したが、サンダースはこれを支持したのだ。第二に、「私はアメリカ単独の行動を支持しない」とサンダースは高らかに宣言したが、これは大変に評価すべき発言だった。そうなのだ、多くの国々に参加させることがより賢いやり方なのだ。しかし、もしアメリカが直接的な脅威にさらされる場合、他の国々が参加するまで、軍事的な対応をしないことがサンダース大統領に出来るだろうか。911事件は彼の主張を適用できる事件であろうか?彼の発言を素直に読めば、彼の答えは「イエス」ということになるだろう。
討論会の中で、サンダースは「プーティン氏は、現在彼がシリアで行っていることを後には後悔することになるだろう」と述べた。クーパーが「プーティン氏は深く後悔するタイプの人間には見えませんが」と述べたところ、サンダースは「彼は既にクリミアとウクライナでやったことを後悔していると思う」と答えた。しかし、様々な事実が示しているのは全く逆のことだ。ウラジミール・プーティンの支持率は、ロシア軍がクリミアに進攻した2014年初めには上昇した。その年の夏になっても、ウクライナでの軍事衝突や西側諸国のロシアに対する経済制裁があったにもかかわらず、プーティンの支持率は高い水準を保った。ロシア専門家ディミトリ・サイメスは、ロシア国民の3分の2が西側の経済制裁は「ロシアの弱体化し、侮辱する」ためのものだと考えているので、ロシア国民は、「ロシア国旗を」押し立てて行進し、プーティンを支持している、と述べている。
サンダースは、「プーティンのシリアでの行動は彼を苦しめることになるだろう」と発言したが、これは正しいだろう。サンダースは、「アメリカが中東を支配しているのはロシアではなく、我々だということを示すだけの目的のためにシリアにさらに介入するのは間違っている」と述べたが、これは正しい。しかし、クリミア併合で、プーティンが「侵略は割に合わない」という教訓を得たということなない。
サンダースは、民主、共和両党の中で唯一、「オバマ政権下、アメリカの世界からの撤退が行われ、そのために世界中で混沌と無秩序が生み出された」という主張に真っ向から反対している人物だ。
サンダースが外交政策を得意としていないのはこれまでに既に知られていることだ。9月初め、サンダースは『ザ・デモイン・レジスター』紙主催の討論会に出席したが、席上、外交政策に関してより洗練された案を出せなかったことを聴衆に謝罪した。9月になるまで、サンダースの選挙陣営のウェブサイトには外交政策について何も掲載されていなかった。
この外交政策の不得意ぶりは問題である。それはそれによって彼が大統領選挙で不利になるということばかりではない。ヒラリー・クリントンは、国内問題全てに関して政治的に左派の立場に移動している。しかし、外交政策に関しては、バラク・オバマ大統領の右側に位置している。そのために、ヒラリーが大統領になれば、オバマ政権時代に比べて外交政策がタカ派的になることは間違いない。しかし、それは民主党員や支持者たちのほとんどが望んでいることではない。ピュー・リサーチ・センターが今年初めに行った世論調査の結果によると、「アメリカはイラクとシリアに関わり過ぎている」という心配をしている民主党員は、「アメリカはイスラム武装勢力を止めるために十分なことをしていない」と考えている民主党の員の2倍いる、ということであった。サンダースがヒラリーに対して、外交政策で対抗するためには、シリアとイラクの脅威がアメリカにとってどれだけの脅威であるのか、アメリカの軍事介入が中東地域を安定化させるのか、それとも不安定化させるのかについて公開の場で討論しなければならない。サンダースは、民主、共和両党の中で、多くの人々に受け入れられているが、私はそれが真実だとは思わない、「オバマ政権下で、アメリカの撤退によって、世界中に混沌と無秩序が広がっている」という主張に反対している人物である。
さて今から次の討論会までに、サンダースがもっと研究をすることを祈ろう。
(終わり)