古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2016年01月

  古村治彦です。

 

 今回は、アメリカ大統領選挙に関して、「2016年の米大統領選挙は外交問題が大きなテーマ、争点になるだろう」という内容の記事を皆さんにご紹介します。

 

 アメリカ人は外国のことに無関心だと言われます。これは確かにその通りですが、一般的に普通の人々はどこの国の人でもそこまで外国のことに興味関心を持たないものです。今年2016年は米大統領選挙が行われ、新大統領が誕生します。大統領選挙の争点はほとんどの場合、経済でした。具体的には雇用・失業問題、収入の増加と言ったことがテーマになってきました。外国のことや外交政策が最大の争点になったことはほぼありませんでした(冷戦初期は除く)。

 

 そんなアメリカ人でも、現在の中東やヨーロッパの情勢は他人事ではないようです。それは、彼ら自身の生活にテロ攻撃という形で大きな影響を及ぼすと考えるようになっているからです。

 

 何事も始めるのに遅すぎることはない、という言葉はありますが、アメリカ人が自分たちの国アメリカが外国にやってきたこと、これからやろうとしていることについてやっと目を覚ましたのは良いことかもしれません。

 

しかし、アメリカの対外政策はどちらにしても強硬なものになるということは言えるでしょう。民主党のヒラリーが大統領選挙に勝利して、きれいごとを建前にして、外国に介入していく、ということはすでに既定路線となっています。

 

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問題は外交政策なんだよ、バカ野郎(It’s the Foreign Policy, Stupid

 

大統領選挙はほとんどの場合、経済が争点となる。2016年の場合はその例外となるかもしれない

 

ブルース・ストークス(Bruce Stokes)筆

2016年1月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/01/05/its-the-foreign-policy-stupid/

 

 これまでのアメリカ大統領選挙で、外交政策が重要な問題として取り上げられたことは少ない。多くの場合、「問題は経済なんだよ、バカ野郎(it’s the economy, stupid)」ということで、経済が最重要問題となってきた。しかし、2016年の米大統領選挙は例外となるかもしれない。ホワイトハウスの主を目指すレースが過熱しつつある中で、アメリカ国民は、外交政策、特にテロリズムについて考えるようになっている。そして、有権者の多くは、2016年のアメリカが直面している最重要の問題は、経済ではなく、国家安全保障だと考えている。

 

 2011年12月、2012年の米大統領選挙の直前にピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、55%のアメリカ人たちが、失業、貧困、不平等など、経済に関する不安を最も重要な問題だと考えていた。国防やイラク戦争のような国際問題を最重要だと考えた国民は6%だけだった。2014年12月の時点では、アメリカの抱える問題について、9%の国民が外交政策を挙げ、34%の国民が経済問題を挙げた。しかし、2015年12月の時点では、32%の国民が国際問題を最重要の問題だと捉える一方、23%の国民が経済問題を最重要だと考えるという結果が出た。

 

 アメリカ人が現在の世界で懸念を持つ場合、その多くの部分を占めるのはテロリズムだ。サンベルナルディーノでの銃乱射事件が起きる直前、パリでテロ攻撃により、多くの人々が殺傷された。この時、18%のアメリカ人が、アメリカの直面している問題の中で最も深刻な問題がテロリズムだと考えているという結果が出た。2014年12月の段階では、この数字は1%であった。25%のアメリカ人は2016年にイスラミック・ステイトやイラクとシリアの戦争がアメリカにとって最大の問題となると答えている。

 

 しかし、テロリズムとイスラミック・ステイトは、人々の中で混同されているかもしれない。ロシアにおいて確立されつつある権威主義的政治体制から世界規模の気候変動まで、アメリカの存立にとっての潜在的な国際的脅威のリストについて尋ねられた場合、83%のアメリカ人がイスラミック・ステイトを「大きな脅威」だとして、リストのトップに挙げている。2014年8月の段階で、この数字は67%であった。その他の国際的な問題に関してはこれまでとそんなに変化はしていない。国際的な脅威について考える場合、アメリカ人はテロリズムとイスラミック・ステイトを混同している。

 

約6割(62%)のアメリカ人がイランの核開発プログラムをアメリカの存在にとっての深刻な脅威だと見なしている。そして、ほぼ同じ割合(59%)のアメリカ人が北朝鮮の核開発プログラムに懸念を持っている。興味深いことに、これら2つの懸念は、中国の世界大国としての勃興に対する不安(49%)やイスラエル・パレスチナ紛争(43%)を超えているのだ。

 

 今回の大統領選挙で言えば、外交政策の重要性について共和党支持者と民主党支持者との間で分裂が起きている。共和党支持者の42%、民主党支持者の24%が、アメリカが直面している諸問題の中で国際的な懸念が最も深刻だと答えている。

 

 アメリカの存立にとっての国際的な脅威に関して、同様の党派的分裂が存在する。共和党支持者、民主党支持者両方ともイスラミック・ステイトについて懸念を持っている。しかし、両者には14%の温度差がある。共和党支持者の93%、民主党支持者の79%が懸念を持っている。共和党支持者の約8割(79%)、民主党支持者の約5割(52%)が、イラクの核開発プログラムを深刻な問題だと考えている。イスラエル・パレスチナ紛争と中国の超大国としての台頭に関しては、18%の温度差が存在する。これらの問題の場合、共和党支持者の方が民主党支持者よりも懸念を持っている。

 

 この党派による違いは、テロリズムとイスラミック・ステイトに関してどのように考えるかについての違いを生み出している。

 

 圧倒的な軍事力を使用してテロリズムを抑止するか、もしくは軍事力の使用によって更なるテロ攻撃を生み出す憎悪を作り出すか、について国家は分裂している。しかし、このアメリカ国内の分裂は、深刻な党派分裂を包含している。共和党支持者の72%は軍事力の使用が解決策だと答えている。一方、民主党支持者の66%は、軍事力使用が更なるテロリズムの種となるという懸念を持っていると答えている。

 

 同様に、共和党支持者の75%がイラクとシリアにおける軍事行動について懸念を持っているが、アメリカはイスラム民兵組織を掃討することはできないと答えている。一方、民主党支持者の61%は、アメリカが中東に関与し過ぎることに懸念を持っている。

 

 アメリカの有権者が11月の大統領選挙で投票ブースに入るまでに、テロリズムやイスラミック・ステイトをはじめとする国際問題の懸念が、アメリカ国内で大きな関心を持たれ続けるかどうかは、その時の状況次第だ。その時の状況は誰にも予測できない。景気後退や国内政治のスキャンダルが人々の耳目を再び惹きつけることになる可能性もある。しかし、現在のような危機に瀕した状況の中で、外交政策の分野における「ブラック・スワン」と呼ばれるようなリスクが存在しないなどということはできない。アメリカ国内でのテロ攻撃、シリア、イラク、アフガニスタン、ロシア、中国で状況が悪化することが起きるかもしれない。2016年の米大統領選挙がこれまでの大統領選挙のように、外交政策が最重要のテーマとなっても、驚くには値しない。

 

(終わり)




 
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 古村治彦です。

 

 今回も、2016年1月22日に発売された『BIS(ビーアイエス)国際決済銀行 隠された歴史』(アダム・レボー著、副島隆彦監訳・解説、古村治彦訳、成甲書房、2016年)の海外での書評を皆様にご紹介します。


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 是非、これらの書評を参考にしていただいて、お買い上げいただけましたら幸いです。宜しくお願い申し上げます。

 

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ニューヨーク・タイムズ紙2013年7月19日

 

http://www.nytimes.com/2013/07/21/books/review/tower-of-basel-by-adam-lebor.html?pagewanted=all

 

「彼らにはある秘密があるのだ:アダム・レボー著『バーゼルの塔』」

 

マイケル・フィアーシュ(Michael Hirsh)筆

 

アダム・レボーは最新刊『バーゼルの塔』で国際決済銀行(BIS)の歴史について書いている。この『バーゼルの塔』は、トム・ストッパードの戯曲『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』に似ているところがある。『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』では、『ハムレット』にほんの少しだけ登場する脇役ローゼンクランツとギルデンスターンが主役になり、『ハムレット』の劇中で起きる重要な出来事は背景の役割を果たしている。レボーは、BISはスイスのバーゼルに本拠を置く「中央銀行のための銀行」という曖昧な存在だと書いている。BISは1930年に創設され、ドイツの第一次世界大戦に関する賠償金支払いをスムーズに進めることをその使命とした。そして、BISは、80年以上にわたって、世界経済において重要ではあるが、秘密の役割を果たしてきた、とレボーは主張している。レボーは、「BISは現在、世界で最も重要な銀行となっている。説明責任を全く果たしていないのに、資金、力、隠然たる影響力の世界的なネットワークの中心に君臨している」と書いている。

 

BISは、大恐慌、第二次世界大戦、欧州通貨同盟の創設といった大きな出来事に関して、その裏面に深く関わった。BISには興味深い、そして秘密の歴史を有している。しかし、実際には、BISは歴史の創造者と言うよりは歴史の目撃者であり、スーパーマンと言うよりはフォレスト・ガンプのような存在なのである。レボーは、本書の副題に、陰謀論で出てきそうな「世界を動かす秘密銀行」とつけている。しかし、現在のBISは、そのような存在ではなく、中央銀行関係者たちの会談場所、クラブのような役割を果たしている。国際金融の世界は、今や世界規模で活動する巨大銀行、連邦準備制度、欧州中央銀行、その他の各国中央銀行によって動かされている。そして、各国中央銀行はBISのメンバーなのである。たいていの場合、各国中央銀行は各国の利益、もしくは地域の利益を最優先にして政策を立案する。

 

このような状況であるからこそ、BISについて詳しく書かれた本が必要なのである。ブタペストを本拠として活躍しているジャーナリスト、アダム・レボーはBISについて大変素晴らしい本を出版した。この本を読むと、金融は非道徳的な面を持っており、BISはそうした非道徳的なことを行ってきたこと、そして、国際的な資本移動に関してBISはより説明責任を果たす必要があることを教えてくれる。ウォール街の金融機関の重役たちがサブプライムローンの証券化を行い、それがもたらした厄災に対する責任を回避している現代にとってBISが教えてくれる教訓は重要なものである。

 

BISは1930年に秘密裏に創設された。そして多くの罪を犯しながら存続してきた。BISは、大恐慌時代のイングランド銀行総裁モンタギュー・ノーマンのアイディアから生まれた。ノーマンはメフィストフェレスのような外見であり、肩マントを着用し、ヴァンダイク髭を蓄えていた。また、2009年にピューリッツァ賞を受賞したライアカット・アハメドの『世界恐慌(上・下) 経済を破綻させた4人の中央銀行総裁』(吉田利子訳、筑摩書房、2013年)にもモンタギュー・ノーマンは出てきて、重要な(そして不幸をもたらす)役割を果たしている。ノーマンは「世界初の国際的な金融機関」として機能する新銀行の創設を望んだ、と書いている。そして続けて次のように書いている。「新銀行は、中央銀行総裁たちの会談場所となる予定であった。そこでは政治家からの要求や鵜の目鷹の目のジャーナルリストたちの詮索から自由になって、銀行家たちは世界金融システムが必要としている秩序と協調をもたらすべく話ができることになっていた」

 

ノーマンの提案を熱心に支持したのがヒャルマー・シャハトであった。シャハトもまた20世紀の金融の世界に出現したファウストのような人物であった。ドイツ帝国銀行総裁シャハトは新銀行をドイツの第一次世界大戦の賠償金の支払い負担の過酷さを緩和する役割を果たすものだと考えた。その後、ナチスが権力を掌握した時、戦勝国側をうまく出し抜いてドイツの賠償金支払いを完全に停止するのにBISが利用できると考えた。1930年代、シャハトは魔法のような手法を用いてドイツの財政を立て直した。これによってアドルフ・ヒトラーは戦争を行うことができるようになった。ずる賢いが、聡明な総統ヒトラーは、彼のために働く銀行家シャハトについて、「生き馬の目を抜く金融の世界でも、知性溢れるアーリア人がユダヤ人よりも優秀であることを示している」と称賛していた。

 

第二次世界大戦が始まった。この時期、BISは最も暗い時代を過ごさねばならなかったし、金融の歴史における最も恥ずべき出来事の一つがこの時期に発生した。スイスが中立であったために、バーゼルは「国際的なオアシス」のような存在となった。しかし、BISは中立などではなく、連合国側に対してよりもナチスに対してより協力的であった。チャールズ・ハイアムの『国際金融同盟―ナチスとアメリカ企業の陰謀』(青木洋一、マルジュ社、2003年)をはじめとする既刊の様々な本で描かれているように、BISの理事たちは、ナチスが占領した国々で略奪したり、強制収容所で殺害された犠牲者たちの遺体から取り出した金歯を溶かしたりして集めた金の売却を手助けした。そして、理事たちは、ドイツ第三帝国が金の売却で現金を得られるようにし、その現金で戦争遂行に必要な天然資源を購入する手助けも行った。BISはドイツを外の世界とつなぐ配水管のような役割を果たした。ドイツ帝国銀行副総裁エミール・プールはBISをドイツ帝国銀行の「唯一機能している海外支店」と評した。プールの友人トーマス・マッキトリックはアメリカ人で、戦時中BISの総裁を務めた。レボーはマッキトリックについて、「戦時中、ドイツ帝国銀行首脳部に経済面の、そして金融上の重要情報を繰り返し提供していた」と書いている。レボーは、マッキトリックが「ヒトラーのために活動したアメリカ人銀行家」と言う役割を果たしたにもかかわらず、それが問題にならなかったと書いている。確かに、マッキトリックは戦後、チェース・ナショナル銀行の副頭取に収まっている。

 

BISは戦時中、道徳に反した行為を行った。これに対して、1944年にアメリカのニューハンプシャー州ブレトンウッズで開催された会議の席上、米財務長官ヘンリー・モーゲンソーとアメリカ代表団を率いていた財務次官ハリー・デクスター・ホワイトはBISの解散と、新設の世界銀行と国際通貨基金による戦後の国際システムの構築を主張した。しかし、ジョン・メイナード・ケインズをはじめとするBISの後援者たちは有力者が多く、彼らの介入によってBISの存続が決まった。

 

BISは、顧客である中央銀行間の金と外貨準備の売買を仲介し、各国の中央銀行に対しての短期融資と資産管理サービスを提供するように設計されていた。しかし、現在、このような業務は必要ではなくなっている。BISはその変化に富んだ歴史や存在理由を2回も喪失するという経験を乗り越えて存続してきた。BISの存在理由はドイツの賠償金支払いとブレトンウッズ体制下での金本位制の維持であったが、これらは消失してしまった。1960年代以降、BISは欧州通貨同盟発足の準備を行ってきた。そして、続いてより重要な欧州通貨機関と欧州中央銀行の創設の準備に取り掛かった。

 

現在、BISは、啓蒙的な役割を果たすようになっている。BISは、銀行業監視のためのバーゼル委員会の開催場所となっている。バーゼル委員会は、国際業務を行う民間銀行が自発的に守る自己資本比率を決定することを目的にしている。そして、BISは金融に関する専門知識をも提供している。BISの経済調査・研究に従事しているスタッフたちは、1990年代後半に発生したアジア通貨危機やそれから10年後のサブプライムローン危機に対して警告を発していた。彼らは先見の明がある予言者のような役割を果たした。BISは2008年に発生した金融危機に向かう数年間に警告を発していた数少ない金融機関の一つであった。しかし、レボーが主張しているように、「BISは問題があることは知っていたが、各国の政策立案者たちが金融危機の発生を防ぐ方策を採る、もしくは衝撃を和らげる方策を採るように説得することはできなかった」のである。実際のところ、BISには動揺はなく、BISはただバーゼル委員会の開催場所でしかない。BISは各国の中央銀行の総裁たちが運営している。そして、BISは大きな影響力を持っている。

 

現在においても、BISは、理事会のメンバーとなっている18の中央銀行よりも情報公開が遅れている状態だ。BISの資産は差し押さえられることはない。民間銀行の自己資本比率の決定過程は曖昧である。そして、多くの批評家が述べているように、BISが行う勧告の内容は甘すぎるものだ。BISは国際機関を創設することは容易なことであるが、廃止することは困難という事実を示している。レボーは、結論として、「BISは21世紀を通じて信頼を醸成するだろう。しかし、BISの存在にとって信頼など必要なものではないのだが」と書いている。

 

(終わり)

 

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ウォールストリート・ジャーナル紙 2013年6月24日

 

http://online.wsj.com/article/SB10001424127887324577904578555670685396736.html

 

「本棚:テクノクラートたちのクラブハウス(A Clubhouse for Technocrats)」

 

国際決済銀行(Bank for International Settlements)は、中央銀行関係者たちのために用意された議論の場という存在以上に、ある種の非民主的な倫理を体現した存在である。

 

フィリップ・デルヴェス・ブロウトン(Philip Delves Broughton)筆

 

中央銀行総裁たちに対しては、聡明で影響力はあるが、説明責任を果たしていないという批判がなされる。彼らはワシントン、ロンドン、そしてフランクフルトから出てくると、名言を口にし、頭の良さを私たちに示す。彼らのやることを調査することはできない。その結果、彼らのやることは魔法のように感じられる。ただ投票するしかできない有権者たちが、中央銀行の総裁たちが駆使する魔法を理解できるだろうか?そんなことは放っておくのがより良いことだと多くの人たちは考えるだろう。

 

アダム・レボーの新刊『バーゼルの塔:世界を動かす秘密銀行の隠された歴史』は、彼ら金融界の神官たちに対する挑戦というような内容になっている。レボーは、彼ら中央銀行総裁たちは 彼らは民主政体が最も恐れなければならない存在である。彼らは金融分野におけるルールを利用する暴君たちである。彼らは文民が統制する軍隊や議会がコントロールできる存在などよりも危険なのである。

 

国際決済銀行は、その何の面白味もない名前とは裏腹に、特別な存在であり、強力な野獣のような存在である。BISは1930年に創設された。ドイツが賠償金支払いの負担を何とか軽減しようと努力していた時、ヨーロッパ各国の中央銀行総裁たちが集まって協議して創設が決定されたのである。長年にわたり、BISはバーゼル駅の近くのホテルであった小さな建物に本部を置いていた。世界中の中央銀行の総裁たちは毎月BISに集まり、BISが提供する素晴らしい雰囲気の中で、最新の問題について私的に話し合い、夕食を楽しむ。BISは中央銀行の総裁たちのクラブハウスなのだ。

 

しかし、BISはただのクラブハウス以上の存在である。BISには600名の職員がおり、彼らはスイスに居住している限りにおいて外交特権を享受している。BISは中央銀行間の取引の決済を行う清算機関であり、同時に融資も行うし、資産管理に関するサービスも提供する。BISはまた研究機関でもあり、BISのアイディアからユーロが実現し、銀行業に対する規制も生み出された。BISの銀行業監視バーゼル委員会には法的な強制力は存在しないが、道徳的、そして知的な権威によって民間銀行の資本と流動性に関して必要な条件を設定している。BISは年間10億ドル以上の売り上げを記録している。この売り上げには税金がかからない。そして、彼らは株主である各国の中央銀行に配当を支払っている。

 

これこそが権力者共同謀議論を信奉する人々(陰謀論者とも呼ぶ)の抱く夢なのだ。

 

レボーが述べているように、BISは、「世界を最もうまく運営できるのはテクノクラートだ」という考えを象徴している存在だ。BISを政治家に任せてしまえば自分たちの権威づけのために利用するだろうし、そもそも一般の人々はBISになど興味を持たない。そこで、経済学の博士号を持っていて、何でもよく知っている人々に、秘密のうちに仕事をさせることになる。これがBISの現実なのだ。『バーゼルの塔』の説得力のある書籍だ。それは、彼がBISに対して異議申し立てを行うことを目的にして書いているからだ。この本からは、レボーがアイダホの片田舎の小さな家でこの本の原稿を書いていて、彼の子供を誘拐するために国連やゴールドマンサックスの職員がその家に侵入してくるのを待っている、そんなある種の気迫が感じられる。

 

レボーはBISの創設から欧州統一通貨ユーロの導入で果たした役割、その結果としてもたらされた現在のヨーロッパ経済の混乱を一つの線で結んでいる。また、BISがドイツ第三帝国と行った非難すべき取引についても多くのページを割いて書いている。レボーは、BISは金融の分野で重要な役割を果たしてきたが非道徳的であり、この非道徳性は大変に危険だと考えているようだ。

 

BISが背負っている恥ずべき原罪、それは、BISがドイツ第三帝国を他国と区別なく取り扱ったことだ。1939年、ナチス・ドイツはプラハに侵攻した。その直後、BISはチェコスロヴァキアの保有していた金をベルリンに移すことを手助けした。第二次世界大戦中、BISの幹部たちはナチスとIGファルベンのような企業群と深い関係を維持していた。IGファルベンのような企業群はナチスに協力し、ホロコーストが効率的に実行される手助けをした。BISの理事を務め、ナチス政権下でドイツ帝国銀行副総裁を務めたエミール・プールは、BISのことを「ドイツ帝国銀行の唯一の海外支店」と評した。

 

戦後、BISは、ハンナ・アーレントが「机上の殺人者たち」と呼んだドイツの銀行家と産業資本家たちのために経歴や評価のロンダリングサービスを提供した。彼らは、経済的に統合された新生ヨーロッパの柱石として再び表舞台に登場した。1946年までBIS総裁を務めたアメリカ人のトーマス・マッキトリックは、IGファルベンの重役たちが逮捕され起訴されて有罪になっても、短い刑期になるように行動した。ナチス政権下、ナチスと深い協力関係にあったIGファルベンのCEOだったヘルマン・シュミッツはその恩恵を受けた一人だ。シュミッツは戦後、ドイツ銀行の取締役となった。カール・ブレッシングは1930年代、BISに勤務していた。そして戦時中、ドイツのコンチネンタル石油の財務担当取締役を務めていた。コンチネンタル石油は、ドイツ第三帝国の強制収容所の収容者たちの重労働を頻繁に利用した企業の一つである。戦後、ブレッシングは逮捕され投獄されたのだが、国際銀行業の分野の古い友人たちの助けもあって、ドイツ連邦銀行総裁として表舞台に復帰した。

 

「不愉快な、そして人々が話したがらない真実は、戦後ヨーロッパ経済に関するナチスの考えていた計画と実際のヨーロッパにおける通貨と経済統合計画が全く同じ内容だということだ。BISはこの2つをつなぐ糸のようなものだ」とレボーは書いている。

 

レボーは、BISの非道徳的、非民主的な思考様式はいまだに残っていると書いている。レボーは、BISとBISに所属している経済学者やエコノミストたちは「国家主権の消失」についての知的な土台とモデルを提示した。その結実がユーロ導入であった。レボーは次のように書いている。「ヨーロッパ統合プロジェクトとBISの使命両方にとって重要なのは、現在行われている決定、政策、行動が『技術的で非政治的』なもので、一般の人々は何も懸念する必要なないという主張である。しかし、実際のところ、その反対が本当のところだ。選挙で選ばれない人間たちが運営する国家を超える機関に国家主権を明け渡すこと以上に政治的な動きというものは存在しない。バーゼルにある秘密主義で説明責任を負わない銀行によって、国家を超える機関が必要とする財政に関するメカニズムが調整され、運営されるようになった」

 

同じことが金融危機についてでも言える。BISは、発表した2007年から2008年にかけての年度の年次報告書において、過度のレバレッジの危険性に対して警告を発した。しかし、BISは金融危機を阻止することはできず、発生後の状況を少しでも改善することしかできなかった。BISがより民主的な機関であれば、義務を放棄したことについてきちんと説明責任を果たしたことだろう。しかし、BISは説明責任を果たすことなく、特権的な権力を有する、官僚にとって理想郷のような存在なのである。私たちは、各国の中央銀行を通じてではあるが、BISの顧客なのである。しかし、BISに私たちの意見を反映させる手段は存在しない。現在、ギリシアの失業者たちは自分たちの家具を燃やして暖を取っているような状況だ。一方、民間銀行は大きな利益を上げ、中央銀行の総裁たちは緊縮財政を私たちに押し付けながら、自分たちはバーゼルで豪華な食事を楽しんでいる。これは醜い状況だ。そして、レボーはこうした状況をうまく描写して、私たちに伝えている。

 

(終わり)

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野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


メルトダウン 金融溶解
トーマス・ウッズ
成甲書房
2009-07-31

 
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  古村治彦です。

 

 昨年12月に刊行しました『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、古村治彦訳、講談社、2015年12月)はご好評をいただいており、まことにありがとうございます。2016年アメリカ大統領選挙もだんだん本番が近付いてまいりまして、盛り上がって来ております。

 


 私が講談社の運営しておりますウェブサイト「現代ビジネス」に2016年1月14日付で掲載させていただきました「「コーク一族」米大統領選の命運を握る大富豪ファミリーの正体」(
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47359)も多くのアクセスをいただいており、御礼を申し上げます。

 

 現代ビジネスの記事に間に合わなかったのですが、コーク兄弟については、昨年日本経済新聞が買収したイギリスの経済紙『フィナンシャル・タイムズ』紙にインタビューが掲載されました。この中で、コーク一族の総帥チャールズ・コークは、共和党の有力大統領選挙候補者であるドナルド・トランプとテッド・クルーズのイスラム教徒に対する発言やイスラム過激派組織に対する攻撃について批判を行いました。

 

 チャールズ・コークはアメリカのリベラルなメディアからは悪者扱いになっています。彼はバラクオバマ大統領を倒すためにティーパーティー運動に資金を出したり、共和党の政治家たちに多額の献金を行ったりしてきました。しかし、今回の大統領選挙ではまだだれを支持するのかを明らかにしていません。そして、このように、有力候補者であるトランプとクルーズを批判しています。

 

 そもそもコーク一族は、父フレッドが反共産主義であり(極右団体ジョン・バーチ協会の創設メンバー)かつ反中央政府的な人物であり、その影響でチャールズとデイヴィッドのコーク兄弟も反共主義からリバータリアニズムを信奉するようになりました。

 

 このリバータリアニズムはアメリカ保守思想の一潮流ですが、極右的、ナショナリスティックな思想とは違います。個人の自由を徹底的に主張する思想ですから、保守的な思想からすれば、「ラディカルな」考えになります。麻薬の使用や同性愛の結婚などについては、リベラル派と考えを同じくします。

 

 またリバータリアニズムは反中央政府であり、反大きな政府ですから、アメリカ軍の海外駐留に反対します。十字軍の騎士気取りで海外に出ていって戦争なんかするか、そんなものは金の無駄遣いだというのがリバータリアンの考えです。

 

 ですから、コーク兄弟は共和党の大口スポンサーですが、共和党を全面的に支持している訳ではありません。「民主党よりはまだ考えが同じ部分が多いし、民主党政権下では、連邦政府の規制や調査でひどい目に遭った」ということで、共和党を応援しているのです。

 

 彼らの信奉するリバータリアニズムはですから、共和党のネオコンや民主党の人道主義的介入派に対抗する思想にはなるのですが、「市場の機能」を強調し過ぎるために、共和党の中でも主流派になることは難しいのが現状です。

 

 それでもコーク兄弟が持つ資金力は大統領選挙において大きな意味と存在感を持ちます。彼らの動きにはこれから注目していかねばなりません。

 

(貼り付けはじめ)

 

January 8, 2016 2:45 pm

Charles Koch attacks Republican hopefuls Trump and Cruz

 

Stephen Foley in New York

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/4aa089e0-b58b-11e5-b147-e5e5bba42e51.html#axzz3xMagLixJ

 

One of the largest donors to the US Republican party has attacked Donald Trump and Ted Cruz’s anti-Muslim rhetoric, claiming that ideas floated by the frontrunners in the presidential nomination campaign could complicate the battle against extremist Islamists.

 

Charles Koch’s comments in an interview with the FT not only put him sharply at odds with both Mr Trump and Mr Cruz but reflect his disillusion with the broad field of Republican presidential hopefuls.

 

Billionaire Mr Koch, who along with his brother David controls a network of rightwing think tanks and political action groups that plan to spend $889m to promote free market causes and influence this year’s US elections, said Mr Trump’s idea for registering and banning the entry of Muslims would “destroy our free society”.

 

Breaking with many Republican candidates’ call for an intensified war on Islamist terrorism, Mr Koch argued that military interventions in Iraq and Afghanistan had failed to make the US safer. Referring to the number of countries hosting the world’s 1.6bn Muslim population, he added: “What are we going to do: go bomb each one of them?”

 

Mr Trump repeated his proposals for a ban on Muslim tourism and immigration to the US in a TV advertisement this week, his first of the campaign. The latest national polls give him a double-digit percentage lead over rivals and he continues to attract crowds of thousands to his rallies.

 

Questioned about Mr Trump’s proposals, Mr Koch asked: “Who is it that said, ‘If you want to defend your liberty, the first thing you have got to do is defend the liberty of people you like the least?’”

 

Other Republican candidates are also competing with Mr Trump to sound tough on Islamist terrorism, in the wake of shootings in San Bernardino, California, last month. Mr Cruz, leading in polls in Iowa, which holds the February 1 caucus that kicks off the presidential contest, vowed to carpet-bomb Isis strongholds at the most recent Republican television debate, which took place after the interview with Mr Koch.

 

I have studied revolutionaries a lot,” said Mr Koch, the chairman and chief executive of Koch Industries, the US’s second largest privately held company, and something of a hate figure for the American left.

 

Over a pulled-pork sandwich in the staff canteen of Koch Industries, the businessman at its helm talks about power-broking for the Republicans and reshaping his ‘evil guy’ image

 

Mao said that the people are the sea in which the revolutionary swims. Not that we don’t need to defend ourselves and have better intelligence and all that, but how do we create an unfriendly sea for the terrorists in the Muslim communities. We haven’t done a good job of that.”

 

Mr Koch said his political organisation had presented all the Republican candidates with a list of issues it wanted on the agenda — including an end to subsidies and tax breaks for corporations, cutting the red tape required to set up small businesses, a large deficit reduction plan, and criminal justice reform — but that “it doesn’t seem to faze them much”.

 

He added that Mr Trump was “not the only one that’s saying a lot of things that we disagree with...If we only supported organisations and politicians that we agreed with 100 per cent, we wouldn’t support anybody.”

 

(貼り付け終わり)

(終わり)

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  古村治彦です。

 

 今年1月11日付の『ニューヨーク・タイズム』紙に以下のような記事が出ました。タイトルは「ある本によると、コーク兄弟の父親はナチス・ドイツの石油精製施設建設に協力した」となります。内容は、共和党や保守的なグループに多額の献金を行っているアメリカの超富豪たちは元々後ろ黒いやり方で金儲けを行ったと主張する本が出て、その中で、コーク一族が取り上げられており、コーク兄弟の父親フレッドがナチスに協力した、というものです。

 

 記事が取り上げている本は、ジェイン・メイヤーというジャーナリストの『ダーク・マネー』という本で、2016年1月19日にアメリカで発売になります。ジェイン・メイヤーは、『ニューヨーカー』誌の記者で、コーク兄弟についての詳しい記事を全米初めて書いた人物です。

 

 私が翻訳しました『アメリカの真の支配者 コーク一族』でも、メイヤーの話が出てきます。しかし、メイヤーの本に出てくる、フレッド・コークがナチスの協力者であったという話は出てきません。メイヤーは何か新発見の文書などの証拠を見つけて書いたものと思われます。
 


 また、アメリカの富豪たちがナチスに協力した過去を持っているという話ですが、こちらは、私が翻訳しました『BIS国際決済銀行 隠された歴史』にはたくさん出てきます。フォード・モータースやスタンダード石油などの製造業や銀行がナチスの戦争遂行に協力しました。詳しい内容は是非本を手に取ってお読みいただければと思います。

 


 ジェイン・メイヤーの本がこの時期に出るというのは、アメリカ大統領選挙とも関係があると言えます。彼女がターゲットにしているコーク兄弟はこれまで共和党の政治家たちを応援してきました。彼らは父親から会社を受け継いで、それを自分たちの力で大きくしたのですが、その大本である父の会社がナチスに協力したということになると、法的には何もないにしても、道義的な責任を問われます。そして、そうした人たちからお金を受け取っていたとなると、批判や攻撃の対象になります。

 

 コーク兄弟と関係を持たなかった共和党系の政治家はほぼいないと言って良いでしょう。現在の大統領選挙で言えば、自己資金でやっているドナルド・トランプ以外は何かしらの関係があります。そうなると、これは大きな痛手となります。

 

 ここからは妄想になりますが、これはヒラリーを勝たせるための援護射撃ということになります。ドナルド・トランプ以外の政治家たちに打撃となると、共和党の大統領選挙候補者がトランプになる可能性が高まります。しかし、「さすがにトランプを大統領にできない」ということになると、ヒラリーに投票が流れるということになります。

 

 ジェイン・メイヤーが『ニューヨーカー』誌の記者であることを考えると、ニューヨークを拠点としている勢力がバックアップしているのではないかということも考えられます。

 

(貼り付けはじめ)

 

 

POLITICS

 

Father of Koch Brothers Helped Build Nazi Oil Refinery, Book Says

 

By NICHOLAS CONFESSOREJAN. 11, 2016

http://www.nytimes.com/2016/01/12/us/politics/father-of-koch-brothers-helped-build-nazi-oil-refinery-book-says.html?_r=1

 

The father of the billionaires Charles G. and David H. Koch helped construct a major oil refinery in Nazi Germany that was personally approved by Adolf Hitler, according to a new history of the Kochs and other wealthy families.

 

The book, “Dark Money,” by Jane Mayer, traces the rise of the modern conservative movement through the activism and money of a handful of rich donors: among them Richard Mellon Scaife, an heir to the Mellon banking fortune, and Harry and Lynde Bradley, brothers who became wealthy in part from military contracts but poured millions into anti-government philanthropy.

 

But the book is largely focused on the Koch family, stretching back to its involvement in the far-right John Birch Society and the political and business activities of the father, Fred C. Koch, who found some of his earliest business success overseas in the years leading up to World War II. One venture was a partnership with the American Nazi sympathizer William Rhodes Davis, who, according to Ms. Mayer, hired Mr. Koch to help build the third-largest oil refinery in the Third Reich, a critical industrial cog in Hitler’s war machine.

 

David H. Koch, left, and Charles G. Koch. Credit Paul Vernon/Associated Press; Bo Rader/The Wichita Eagle, via Associated Press

The episode is not mentioned in an online history published by Koch Industries, the company that Mr. Koch later founded and passed on to his sons.

 

Ken Spain, a spokesman for Koch Industries, said company officials had declined to participate in Ms. Mayer’s book and had not yet read it.

 

If the content of the book is reflective of Ms. Mayer’s previous reporting of the Koch family, Koch Industries or Charles’s and David’s political involvement, then we expect to have deep disagreements and strong objections to her interpretation of the facts and their sourcing,” Mr. Spain said.

 

Ms. Mayer, a staff writer at The New Yorker, presents the Kochs and other families as the hidden and self-interested hands behind the rise and growth of the modern conservative movement. Philanthropists and political donors who poured hundreds of millions of dollars into think tanks, political organizations and scholarships, they helped win acceptance for anti-government and anti-tax policies that would protect their businesses and personal fortunes, she writes, all under the guise of promoting the public interest.

 

The Kochs, the Scaifes, the Bradleys and the DeVos family of Michigan “were among a small, rarefied group of hugely wealthy, archconservative families that for decades poured money, often with little public disclosure, into influencing how the Americans thought and voted,” the book says.

 

Many of the families owned businesses that clashed with environmental or workplace regulators, come under federal or state investigation, or waged battles over their tax bills with the Internal Revenue Service, Ms. Mayer reports. The Kochs’ vast political network, a major force in Republican politics today, was “originally designed as a means of off-loading the costs of the Koch Industries environmental and regulatory fights onto others” by persuading other rich business owners to contribute to Koch-controlled political groups, Ms. Mayer writes, citing an associate of the two brothers.

 

Mr. Scaife, who died in 2014, donated upward of a billion dollars to conservative causes, according to “Dark Money,” which cites his own unpublished memoirs. Mr. Scaife was driven in part, Ms. Mayer writes, by a tax loophole that granted him his inheritance tax free through a trust, so long as the trust donated its net income to charity for 20 years. “Isn’t it grand how tax law gets written?” Mr. Scaife wrote.

 

In Ms. Mayer’s telling, the Kochs helped bankroll — through a skein of nonprofit organizations with minimal public disclosure — decades of victories in state capitals and in Washington, often leaving no fingerprints. She credits groups financed by the Kochs and their allies with providing support for the Tea Party movement, along with the public relations strategies used to shrink public support for the Affordable Care Act and for President Obama’s proposals to mitigate climate change.

 

The Koch network also provided funding to fine-tune budget proposals from Representative Paul D. Ryan, such as cuts to Social Security, so they would be more palatable to voters, according to the book. The Kochs were so influential among conservative lawmakers, Ms. Mayer reports, that in 2011, Representative John A. Boehner, then the House speaker, visited David Koch to ask for his help in resolving a debt ceiling stalemate.

 

Dark Money” also contains revelations from a private history of the Kochs commissioned by David’s twin brother, William, during a lengthy legal battle with Charles and David over control of Koch Industries.

 

Ms. Mayer describes a sealed 1982 deposition in which William Koch recalled participating in an attempt by Charles and David to blackmail their fourth and eldest brother, Frederick, into relinquishing any claim to the family business by threatening to tell their father that he was gay.

 

David Koch has since described himself as socially liberal and as a supporter of same-sex marriage.

 

Correction: January 12, 2016

An earlier version of a capsule summary for this article misspelled the surname of the author of a new book about the history of the Koch family. She is Jane Mayer, not Meyer.

 

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 今回は、昨年末に発表された、戦時中の韓国人慰安婦問題に関する合意に関する、ヘリテージ財団のブルース・クリングナー研究員の論説をご紹介します。

 

 目新しさのない、一般的な解説記事ですが、ヘリテージ財団とクリングナー研究員については今年もしっかり観察しておかねばならないと考え、論説をご紹介することにしました。

 

 世界情勢が不安定さを増している中、今回の日韓合意も世界と絡めて見る、言い換えると、アメリカの国益と絡めて見る必要があります。そうすると、今回の合意は、対中国、対北朝鮮という要素が大きいことが分かります。

 

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韓国と日本が「慰安婦問題」問題を解決(South Korea and Japan Resolve ‘Comfort Women’ Issue

 

ブルース・クリングナー(Bruce Klingner)筆

2015年12月28日

『ザ・デイリー・シグナル』誌

http://dailysignal.com/2015/12/28/south-korea-and-japan-resolve-comfort-women-issue/

 

月曜日、韓国と日本は長年にわたり、両国の間を引き裂いてきたいくつかの問題の解決に合意した。これは記念碑的な出来事だ。これらの諸問題は1910年から1945年まで続いた日本の朝鮮半島支配の結果として生まれたものだ。

 

 両国を最も感情的にしてきた複雑な問題として、「慰安婦」と呼ばれる制度例となることを強制された女性たちの存在がある。

 

 日本側は、この問題は、賠償を含めて、1965年に結ばれた、日韓の国交正常化のための日韓基本条約とそれ以降の複数回の謝罪声明で解決済みだと主張してきた。韓国側は、解決のためには更なる手段が必要だと主張してきた。

 

 韓国外相と岸田文雄・日本外相は、最終合意に向けて韓国の首都ソウルで会談した。合意内容の骨子は以下の通りである。

 

・日本政府は10億円(約830万ドル)を賠償として支払う。

・安倍晋三総理大臣は慰安婦に対して謝罪と反省を表明する。

・韓国政府は、市民団体に対して、ソウルの日本大使館近くに設置してある慰安婦の銅像の撤去を市民団体に要請する。

・日韓両国は、双方を批判しないことを約束し、今回の解決が「最終的で、覆されることのない」ものだと確認する。

 

 会談後の記者会見で日本の岸田外相は、日本は、女性たちを強制的に奴隷的労働に従事させたことに関して「責任を痛感」する、こうした強制的な労働によって「被害者となった女性たちの尊厳を傷つけることになった」と述べた。岸田外相は安倍首相が反省の意を表明し、「心からの謝罪」をし、今回の合理を誠実に履行することで、被害女性たちの尊厳を回復することに貢献したいと述べた、と語った。

 

憎しみの醸成

 

 日韓関係は、長年にわたり、度重なる緊張によって憎しみの醸成が行われ、常に良好な関係とは言い難い状態にあった。従軍慰安婦問題は、1990年代に生存者たちが初めて自分たちの苦難の物語を口にし始めてから、20世紀の日本による朝鮮半島支配に対する怒りの象徴となった。

 

 韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は、慰安婦問題を二国間の抱える諸問題のよう点であるとし、安倍首相との首脳会談を拒否した。そのために、慰安婦問題はこれまで以上に日韓両国にとって重要さを増した。しかし、安倍首相と朴大統領は2015年に両国関係を改善し、年末までに慰安婦問題の解決することを目指すと明言していた。

 

 今回の合意は、日韓両国の相互信頼を構築し、日韓関係を改善するために、慰安婦問題を解決するための効果的な基盤を提供するものだ。

 

●アメリカにとって日韓の合意が意味するもの

 

 アメリカは、アジアにおける同盟諸国が歴史における相違点を乗り越え、現在の北朝鮮と中国の脅威に対応することが出来ることになる今回の合意を歓迎するだろう。アメリカ政府は、歴史問題についての日韓両国の非妥協的な態度に苛立っていた。

 

 日韓関係の改善を阻害する要因を取り除くことで、悪化する北朝鮮の核の脅威を抑止するために、アメリカ、日本、韓国の間の軍事的な協力関係を増進することになる。2012年6月、韓国政府は日本政府との間で軍事情報共有に関する合意を拒絶した。この合意は、北朝鮮のミサイル攻撃に対しての三カ国の防衛体制を改善することに貢献するはずであった。

 

 今回の日韓合意によって、韓国は、安全保障に関する同盟諸国との合意を復活させることになるだろう。そして、自国の弾道ミサイル防衛システムを同盟諸国とつなげることによって、より包括的で効果的なものとすることが出来る。

 

今回の合意は、安倍首相と朴大統領の外交上の粘り強さと勇気がもたらした成功である。これによって両国間の克服しがたい相違を乗り越えることが出来た。しかし、合意がなされたことで、日韓両国の指導者はそれぞれの国のナショナリスト的な要素を押し返さねばならなくなっている。

 

 日本帝国陸軍の戦時中の残虐行為への関与を否定している日本の極右グループは、今回の日韓合意を骨抜きにしようとしている。韓国の非政府組織は日本側の反省の意を評価せず、日本側の更なる譲歩を求めている。

 

 韓国の市民団体が日本大使館前に設置した慰安婦の銅像を撤去する、もしくは将来の抗議運動を止める、といったことを拒否する場合、日本は合意内容を履行しないこともあり得る。また、戦時中の日本の行為に対する法的責任に関する解釈の違いでまた更なる困難が出てくることもあるだろう。

 

※ブルース・クリングナー:ヘリテージ財団付属アジア研究センター北東アジア担当上級研究員。CIAと国防情報エージェンシーの情報畑で20年勤務した。

 

(終わり)


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