古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2016年04月

 古村治彦です。

 

 2016年米大統領選挙の共和党予備選挙はドナルド・トランプが大きくリードしています。先日行われた出身州である大票田ニューヨーク州でも大勝を収めました。また、2016年4月26日にコネティカット、デラウェア、メリーランド、ペンシルヴァニア、ロードアイランド各州で行われた予備選挙でもトランプは圧勝し、代議員を109名獲得しました。2番手につけているテッド・クルーズは代議員を3名しか獲得できず、ジョン・ケーシックも5名の獲得に留まりました。ニューヨーク・タイムズ紙によると、これまでの獲得代議員数はそれぞれ、トランプが954名、クルーズが562名、ケーシックが153名となっています。

 

 代議員の残りは502名となっています。代議員数の過半数は1237名ですから、クルーズはこれから全部を取っても過半数には届きません。トランプは約56%の代議員を獲得すれば過半数に届きます。反トランプ派としては、メリーランドとペンシルヴァニアでトランプの勢いを止めて、まずトランプの得票率を50パーセント以下に抑え、クルーズの得票率を20%以上にして、代議員の獲得を目指しましたが、これに失敗しました。

 

 クルーズとケーシックは、「大同団結」して、トランプ阻止のために協力すると発表しましたが、これについて、トランプは「共謀・馴れ合い(collusion)」だと批判しています。「株式の世界では共謀は許されないのに、政治の世界では許される。そして、既得権益を持つ政治家たちが共謀しているのだ」とトランプは勢いよく主張しています。

 

 4月26日の東部5州での予備選挙ではトランプの優勢が伝えられていましたが、ここまでの圧勝は予想外であったと言えます。3月末から4月上旬にかけてのユタ州とワイオミングの予備選挙でクルーズが勝ったことで、反トランプが勢いづき、トランプ旋風も一頓挫という感じになりましたが、出身のニューヨーク、そして東部5州の結果で息を吹き返しました。

 

 それには、トランプの「変身」という理由もあったようです。日本でも「トランプの言動が大人しくなった」という報道がなされましたが、過激な物言いが少なくなりました。『ワシントン・ポスト』紙のクリス・シリザ記者は、これを「トランプ2.0」と呼んでいます(いつまで続くか分からないという留保はつけていますが)。

 

 「トランプ2.0」党大会担当のポール・マナフォート、全国選挙運動責任者リック・ワイリーの功績であるとシリザ記者は分析しています。トランプ陣営は、11月の本選挙に向けて、少しずつ穏健モードにシフトしているようです。ロケットの打ち上げのように、まず過激な物言いで、既存の政治に不満を持っている人たちの支持を集め、それをブースターにし、そのブースターを切り離して、安定飛行に入るという戦略が見事に当たっていると思います。

 

 こうしたトランプの戦略に共和党の主流派の人々は翻弄されてしまっていると言えるでしょう。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

The Fix

The new Donald Trump should scare the hell out of the GOP establishment

 

By Chris Cillizza April 20 at 9:32 AM

Washington Post

https://www.washingtonpost.com/news/the-fix/wp/2016/04/20/the-kinder-more-disciplined-donald-trump-should-scare-the-hell-out-of-the-gop-establishment/

 

Gone was “Lyin’ Ted.” In its place was “Senator Cruz.” Gone was the long-winded speech that went nowhere. In its place was a succinct recitation of states and delegates won. Gone was the two-day vacation as a reward for winning. In its place was an early morning trip to Indiana followed by another planned stop in Maryland.

 

Donald Trump 2.0 made his official debut Tuesday night following his sweeping victory in New York, a win that looks to net him 90 delegates and reestablishes him as the man to beat in the Republican presidential race.

 

After winning the New York GOP presidential primary April 19, Republican front-runner Donald Trump told a crowd at Trump Tower in Manhattan that he planned to celebrate for a night, then "go back to work" the next day. (Associated Press)

That version of Trump was markedly more disciplined, gentler and more appealing than the version of Trump we've seen for much of the last year. And, that fact should scare the hell out of establishment Republicans who believed that their efforts to keep Trump from the 1,237 delegates he needs to formally capture the GOP nomination was beginning to catch on.

 

Why? Because it’s clear, at least for now, that Trump is listening to his new political advisers — chief among them convention manager Paul Manafort and national field director Rick Wiley. Trump’s change in tone on Tuesday night was absolutely unmistakable to anyone who has paid even passing attention to his campaign to date.  The man who had built his front-running campaign on a willingness to always and without fail take the race to its lowest common denominator — was suddenly full of respect for the men he beat and full of facts about the state of the race.

 

 We have won millions of more votes than Senator Cruz, millions and millions of more votes than Governor Kasich,” Trump said. “We’ve won, and now especially after tonight, close to 300 delegates more than Senator Cruz.”

 

The change in tone is absolutely necessary if Trump wants not only to find a way to 1,237 delegates but also unite the party behind him in any meaningful way heading into the general election campaign this fall. The truth is that Trump has to play an outsider and an insider game from here on out. The outsider game is to keep winning primaries by convincing margins like he did in New York. The insider game is to show unbound delegates as well as party leaders and influencers that he can be magnanimous, that he can be a uniting force within the party.

 

Calling Cruz “Lyin’ Ted” is a great laugh line at a Trump rally but accusing the Texas senator of holding up the Bible and then putting it down and lying isn’t exactly the sort of rhetoric you need or want from a candidate who needs to bring the party together behind a common enemy in Hillary Clinton. It’s the difference between being voted “class clown” and being elected student body president. The former delights in taking the low road for cheap laughs. (I speak from experience.) The latter takes the high road even if it’s against his or her own natural instincts.

 

Can Trump keep it up?  Discipline on a single night or even a single week is one thing. Discipline over several months amid what will be continued attacks from both Cruz and the “stop Trump” movement is something else. And, listening to your new advisers when they are, well, new is easier than listening to them when it’s been a few months of biting your tongue and fighting back some of your natural attack instincts.

 

But, Trump has shown — both on Tuesday night and over the past week or so — an ability to rein himself in that suggests he understands that this new and improved version of himself is the one that can actually win the Republican presidential nomination.  Be scared, anti-Trump forces. Be very scared.

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

(終わり)



 

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 古村治彦です。

 

 昨日、2016年4月24日に北海道第5区と京都第3区で衆議院議員補欠選挙が行われました。北海道では自民党の 京都では民進党の がそれぞれ当選しました。

 

 今年は夏に参議院議員の通常選挙が行われます。また、政界では、安倍晋三首相がそれに合わせて衆議院を解散して、いわゆる「ダブル選挙」を行うのではないかという話も出ています。ダブル選挙で勝利を収めた場合、政権基盤はますます強固になります。ですが、ダブル選挙となると与野党ともに準備が大変ですし、与党が敗北した場合には安倍首相の退陣にまで話が及ぶという危険もあり、大きな賭けとなります。

 

 1986年の衆参ダブル選挙では、公職選挙法改正もあって、「衆議院の解散はない」と当時の中曽根康弘内閣の後藤田正晴官房長官が「煙幕」を張っていたこともあり、「抜き打ち」解散によるダブル選挙が成功し、野党側は準備をしていなかった(民社党の春日一幸最高顧問は見抜いていたが執行部が油断していたという話もあります)ために、与党が圧勝し、派閥の規模が小さく、田中派の影響下にあった(田中曽根内閣と呼ばれた)、中曽根政権の基盤強化につながりました。

 

 話が飛んでしまいました。私は、選挙の結果と共に、両選挙区での投票率を見ていたのですが、北海道で約57%、京都で約30%いう結果になりました。北海道の結果を先に見て、「かなり注目された選挙だったけど、ちょっと低かったな」と思ったのですが、京都の結果を見て、大変驚きました。確かに補選が行われる理由が理由でしたし、自民党は候補者を出せないという状況ではありましたが、それでも30%そこそこ、あやうく30%を切ってしまうという数字でした。「プロ野球の打者だってもっと高い打率を残す選手がたくさんいるのに」と、野球好きなもので、思ったほどでした。

 

 この低投票率については、何も今回のことだけではなく、また、北海道や京都に限った話ではありません。これまでも多く目にしてきたことです。政治に参加することは、これまで人類の歴史において、多くの血が流された結果、獲得された権利ですから、それを行使すべきだということを声高に叫んでみても、それで投票率が上がるということは残念ながらありません。それは、私たちの中に「政治に参加する権利を人々が多大な犠牲を払いながら獲得したもの」という意識や、「自分が当事者である」という意識が欠如しているからだと思われます。

 

 このことについて、思い出されるのは、戦後日本政治学の泰斗であった丸山眞男(1914~1996年)です。丸山は、1944年に『国家学会雑誌』第58巻3・4号に「国民主義理論の形成」という論文を掲載しました。この時、東京帝国大学法学部助教授であった丸山は応召し、再び帰って来られないという気持ちを抱きながら、この論文を発表したといわれています。この論文は後に、「国民主義の『前期的』形成」と改題され、『日本政治思想史研究』(東京大学出版会、1952年/新装版:1983年)に収められました。また、法政大学教授・杉田敦編『丸山眞男コレクション』(平凡社ライブラリー、2010年)にも入っています。

 

 この論文で丸山は大略次のようなことを主張しています。かなり乱暴ですが、大まかにまとめます。

 

ある集団が国民となるには、国民意識が必要である。日本の場合は、西洋列強の来航によって、国民意識が醸成された。それまでは、日本国内に住む人々は、支配階級(侍)と被支配階級(侍以外)に分けられ、地域的にもそれぞれの藩が大きな権利を持っていたために、国内で統一的な意識が無かった。この分裂状態を江戸幕府は支配のために利用した。江戸時代、被支配階級は政治に参加することは許されず、その権利は与えられなかった。

 

 幕末には海外列強の来航により、危機感が醸成され、国防のための統一的な国家が必要だという主張がなされるようになったが、江戸幕府は自分たちの支配の前提が崩れることを恐れてこれを弾圧した。しかし、こうした集権的な国家論が拡大していく。そして、尊王攘夷論に結びついていくが、上層武士は体制変更を望まない形、下級武士は体制変更、つまり討幕まで主張するようになった。そして、倒幕が実現した。

 

 統一的な国家、つまり明治新政府が誕生したが、その過程で、政治の中央集権化と国民意識の拡大という2つの動きがあったが、政治の中央集権化は成功し、国民意識の拡大は中途半端に終わった。資本主義の発展段階になぞらえて、これを国民主義(ナショナリズム)の「前期的』形成と呼ぶ。

 

 私たちが政治をどこか他人事としてとらえるのは、丸山の唱えた「国民主義の『前期的』形成」段階から、進歩していないからではないかと思います。ここで言う「国民主義」とか「国民意識」について簡単に定義するならば、「自身も国民として政治に参加する権利と責任を持つ」ということだと思います。この点で、私たちは、まだまだ進歩、発展、展開する余地を多く残しているものと思われます。

 

 TwitterFacebookなどのSNSの発達に伴って、かなり詳細な情報や個人の率直な感想や行動を目にすることが出来るようになりました。今回の補選を見ていて思ったことは、政治に関係する場合に、当事者と傍観者に大きく分かれるが、その分かれ方やその程度のために、政治に参加することが億劫に感じられてしまうことが出てくるということです。

 

 話は大きく飛びますが、戦国時代、合戦や戦があると、近隣の住民たちは、山の上などに避難し、そしてお弁当を持って見物に出かけていたという話を聞いたことがあります。戦の展開によってはとばっちりで巻き込まれることもあったでしょうが、スポーツ観戦のような感覚だったんだろうと思います。しかし、当事者たちは現在のスポーツとは大きく違って、命のやり取りをするわけですから、目が血走っていったり、極度に興奮したりしていたことでしょう。私は現在の日本の政治も同じだなと思います。

 

 選挙となった場合、立候補者と選挙の手伝いをする人々や応援をする人々は必死です。戦国時代の戦のように物理的に生命を取られることはありませんが、色々な思いや背景があって、当選しようと必死です。そして、その周囲には、遠巻きに見ている人たちがいます。彼らは選挙の結果にも影響を与える有権者ですが、傍観者であり、だれが勝つか負けるか(生き残るか)を冷ややかにかつ面白そうに見ています。当事者と傍観者の間に大きな溝があり、分裂があります。

 

 当事者たちは傍観者たちに投票を訴えるわけですが、その表情はこわばり、その訴える声はとても大きくなります。そうなると、傍観者たちは、恐怖感を感じます。自分たちは、何も被害が無いところで、面白いゲームを見せてもらいたいだけのことなのに、時に叱咤されるようなことまで言われて、不愉快だということになります。当事者たちは、自分たちの訴えは正しいのにどうして届かないのかということになって、途中で脱落する人やもっと力みあがってしまう人まで出てくることになります。

 

 そうなると、当事者と傍観者の間に溝はもっと大きくなり、政治に参加すること、つまり当事者になることは、ちょっとおかしくなることだ、普通ではなくなることだという間違った意識が出てきて、政治は怖い、ということになり、傍観者たちは本当に傍観するだけ、最低限の投票にすらいかないということになります。

 

 良く考えてみれば、当事者も傍観者にも政治に参加する権利は保障されており、かつその責任もあります。しかし、政治はとても特別な行為ということになってしまいます。

 

 そして、私たちの中に「政治は自分たちは関係ない」「空中戦を見ているようなものだ」という意識がある、「国民主義の『前期的』形成」段階から抜け出していないという状況となると、ますます、政治から足が遠のく人たちが出てくるのは当然です。

 

 それならどうしたらよいのかということになると、即効性のある妙案は浮かびません。「投票に行かなければ罰則」ということがデモクラシーに合った方式とも言えません。何かに強制されて投票するという行為は人々の自発的な行為を制限するということになります。

 

 これに近道は無いように思われますが、まずは政治にかかわることは怖いことであるとか、政治は玄人のものという意識を弱めることが必要ではないかと思います。そのためには、当事者の人たちは忍耐強くかつ穏やかに行動すべきでしょうし、傍観者の方もまた、ちょっとした勇気を出してみることではないかと思います。こんなことは当たり前で、もうやっているという方も多いと思いますが、投票率の低さということを考えると、こうしたことがもっと広がっていくべきではないかと思います。

 

(終わり)





 

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 古村治彦です。

 

2016年4月28日に副島隆彦先生の最新刊『マイナス金利「税」で凍りつく日本経済』(徳間書店)が発売になります。連休中の読書計画に是非お加え下さい。宜しくお願い申し上げます。

 

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『マイナス金利「税」で凍りつく日本経済』


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まえがき

 

 2016年に入って急にマイナス金利「税」の時代になった。

 

 マイナス金利とは新種の特殊な税金のことなのである。

 

 一体これからの世界は、そして日本はどういうことになるのか。

 

 この3月末までは日経平均株式相場は何とか1万7000円台を保っていた。為替(円ドル相場)も114円ぐらいで踏ん張っていた。大企業の決算の数字をよくするために、(とくに400社の輸出大企業の期末の決算を)どうしても株価を上げておかなければいけなかった。それが終わったので、4月に入ってから崩れ出した。もう1万5000円台(4月5日)に落ちた。これを5月末の伊勢志摩サミット(G7)まで引きずって、そのあと安倍首相が、「景気対策として消費税の上げ(増税。8%から10%へ)はやりません」と発表するだろう。それを合図にまたスルスルと株価の吊り上げをやる。そして1万8000円台ぐらいまで上げて、それで7月中旬の「衆参同日選挙」を自民党の勝ち、で乗り切るつもりだ。筋書きが透けて見える。

 

 国民生活は疲弊しきって、ヒドい景気の悪さ(デフレ不況)のまま続いている。日本はますます貧乏国家だ。立派そうなのは東京の都心に建ち続ける高層のタワー・レジデンス群だけで、それ以外は全国どこに行っても駅前さえシャッター通りで20年前、いや40年前のボロビルが建ったままである。

 

 私たち日本国民は怒らなければいけない。だが、その怒り方が分からない。「仕方がないなあ」で今日も過ぎてゆく。

 

 黒田日銀総裁が打ち出した(1月29日)、新手の金融緩和策であるマイナス金利政策(negativeinterestratepolicy)とは一体何なのか。

 

 それは、「もう景気回復(インフレ経済)なんかなくていい」だ。「もっともっと金利を下げて(え? ゼロより下)、日本を氷漬けの冷凍状態にする。日本国債さえ守れればいい」という政策である。黒田日銀と財務省官僚と自民党は、国民生活を犠牲にして、マイナス金利という焦土作戦で自分たち(国家)さえ生き残れればいいという肚なのである。自国を焼け野原にすることでそれ以上、敵に攻め込まれなくする焦土作戦 scorchedearthpolicy を決断したのだ。

 

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マイナス金利「税」で凍りつく日本経済──目次

 

まえがき─3

 

1    フリーフォール(底なしの下降)に陥った金融市場

世界の株式市場はフリーフォールに陥った─14

日銀のマイナス金利導入が逆噴射した─18

もう日本政府には株を吊り上げる資金がない─28

円安・株高のはずがなぜ円高・株安になったのか─29

世界中から日本国債買いに集中している─38

2    ユーロから金融崩れが起きそうだ

ドイツ銀行株価下落でユーロの銀行問題が浮き彫りになった─46

世界的な連鎖暴落はまだまだ起きる─60

マイナス金利とは新税のことである─62

いますぐ金のインゴットを買いに走りなさい─75

金の反撃がこれから始まる─84

産金コストが下がっている─86

3    マイナス金利の正体は新種の税金である

マイナス金利の黒田サプライズの波紋─90

マイナス金利で日銀は国債だけを守る─92

10年物国債までがマイナス金利に落ち込んだ─95

北欧を見ればマイナス金利が分かる─99

マイナス金利とは日本国債と抱きつき心中をしますということだ─105

元日銀副総裁の岩田一政が「マイナス金利」を推奨した─109

黒田の本当の狙いはフィナンシャル・リプレッション(金融抑圧)だ─121

日銀の出口戦略など不可能になった─127

黒田日銀総裁は山本五十六だ─130

「ゼウス・エクス・マキーナ」が世界で起きている─132

4    緩和マネーの罠に堕ちた世界

米FRBの利上げから緩和マネーの爆縮が起こった─136

イエレンFRB議長が「追い込まれ利上げ」をやった─146

利上げしたら世界の株式市場は暴落する─152

「緩和の罠」に嵌まった世界─153

緩和バブルが終われば世界はリーマン・ショックに戻される─155

これはマネタリストと合理的予測派の大敗北である─157

リーマン・ショックの何倍もの悲劇がこの世界で起きる─165

5    今の金融市場で何が起きているか

黒田日銀はついにマイナス金利という禁じ手まで動員した─168

地銀がマイナス金利の影響を一番受けている─171

GPIFがマイナス金利でふらふらになっている─175

MMFはなくなり、銀行が預金を取らなくなった─177

マイナス金利とは政府による税金徴収だ─179

日銀黒田のマイナス金利が逆噴射した─180

金融市場から流動性が蒸発している─184

金融相場でありながら金融相場的な上昇はもう起きない─186

GPIFの損失はどうやって消されているのか─189

国債がなくなってしまう─191

ネイキッド・ショート・セリングをしたくても資金が出てこない─193

ヨーロッパが撤退して中国系が日本に入ってくる─197

一番危ないのは国債─200

国債暴落のシナリオはどうなる─202

黒田総裁が恐れているのは国債のデフォールト─205

6    中国のIMF体制(アメリカ支配)への挑戦が始まった

イギリスが中国と組むと決めた─234

中国とアメリカの殴り合いが始まった─210

中国主導のAIIBがアメリカを怒らせた─214

ヨーロッパはアメリカを見限った─218

人民元のIMFのSDR(特別引出権)通貨入り─219

人民元による国際決済システムが始まった。CIPSの衝撃─222

7章 アメリカ大統領選はどうなる

どうやらヒラリーを大統領にするとロックフェラーが決めた─258

トランプの人気が沸騰しているが、最後に引導を渡されるだろう─247

北朝鮮の核実験(4回目)は何を意味するのか─253

ヒラリー「戦争の軸足をアジアへ移す」─256

ヒラリーのアジア・ピボットが意味するもの─258

迫り来る世界恐慌をアメリカは軍事力でコントロール下において覇権を握る─259

 

あとがき─277

 

巻末付録 地獄から這い上がる株38銘柄─263

 

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あとがき

 

 この本は、今年の1月、2月の異様な株崩れ、金融市場の混乱をずっと追いかけて、一体、この間に世界で何が起きていたのか、を謎解きした本である。それは、これから先どうなるか、の予測のための貴重な知恵となる。

 

 去年の8月に続く世界連鎖暴落の第2ラウンドは、ジョージ・ソロスと中国(習近平)の〝金融殴り合い〟であった。1月21日に、ダボス会議で中国株と人民元の暴落宣言を出したソロス(アメリカ)に対して、中国とサウジアラビアが組んで、ニューヨークで株と米国債売りの逆襲に出た。

 

 このあと2月8日に、ドイツ銀行のCoCo債という金融デリバティブが暴落した。これがヨーロッパの全銀行の信用不安につながった。その4日後の2月12日に世界連鎖暴落が起きた。日本株も1200円の暴落を起こした。そして日経平均は1万4000円台に突っ込んだ。この時、「ノックイン債」というデリバティブ(劣後債、CBO)がノックインして破裂して、銀行の顧客たち(金持ち、富裕層)に大損をさせた。こういうことをこの本で詳しく種明しした。

 

「ミネルバの梟は夜飛び立つ」というヘーゲルの有名な言葉がある。1806年10月、ナポレオンはイエナ会戦で、全ドイツ人の連合軍を打ち破った。そのイエナの町の郊外のまだ死体が散乱している戦場で、焼け残った木にとまっていた梟は夕闇の中に飛び立った。

 

 戦いが終わったあと、悲惨な戦争の目撃者は冷酷に事件を書き遺す、己れの運命を知る、という意味である。

 

 この本も苦労した。ずっと付き合ってくれた徳間書店の力石幸一編集委員に感謝します。

 

  2016年4月

 

副島隆彦

 


(終わり)



 

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 古村治彦です。

 

 今月に入って、パナマの法律事務所から、租税回避地(タックス・ヘイブン、tax haven  ×heaven[天国])にペイパーカンパニーを設立していた人々や会社の名前が大量に流出する事件(「パナマ・ペイパーズ」事件)が起きました。ロシアや中国、ヨーロッパ各国の指導者たちの親族や関係者たちの名前が出てきて、大騒ぎになっています。日本からも多くの個人や会社の名前が出ています。

 

 今回の流出事件では「海外に資産を逃がして、税金の支払いから逃れるのは卑怯でずるい」という声が起きています。そして、各国、特に先進諸国では、資産の海外逃避を制限するための動きが既に出始めています。

 

 この事件で、「金持ちたちはずるい」「賃金労働者である自分たちは賃金をしっかり把握されて節税をすることすらできないで税金をしっかり取られているのに、払う余裕がありそうな金持ちたちが税金の支払いを逃れるとはけしからん」という、人々の劣情に訴えるような主張がなされています。しかし、この劣情に訴えるような主張に関しても注意深く見ておかねばなりません。

 

 今回の「パナマ・ペイパーズ事件」を最も喜んでいるのは、各国の財務官僚たちです。それは、「これで税金として取り立てるために、金持ちたちの資産の海外逃避を抑えることが出来る」ことになるからです。本来であれば、個人が自分の資産をどのように扱おうが国家は介入できないはずです。自分が国籍を持っている国で保有しようが、外国で保有しようが個人の自由のはずです。しかし、今回の事件を契機にして、この個人の自由を制限、もしくは完全に奪ってしまおうという動きになるでしょう。

 

 自分たちの劣情を満足させるために、個人の自由の制限なり奪取なりを受け入れてしまうと、それだけ個人の自由という現代社会の基礎となる前提が狭められてしまうことになります。そして、それだけ国家が個人の生活に介入するということになります。ですから、確かに「金持ちたちはずるい」という気持ちになるのですが、もう少し冷静に対応しなくてはならないと思います。

 

 今回の「パナマ・ペイパーズ事件」に関して、私はもう1つのことを申し上げたいと思います。それは、今回の事件が、今年の11月の米大統領選挙本線で勝利を収め、次の米大統領となる、ヒラリー・クリントンの「やりたいこと」を今回の事件は明確に示しているということです。

 

 下に貼りつけた、『ロシア・トゥデイ』紙の報道を読んでピンときました。以下の報道は、ウィキリークスがツイッター上に流した情報が基になっています。ウィキリークスは、「今回のパナマ・ペイパーズの流出事件を画策したのは、OCCRPOrganized Crime and Corruption Reporting Project、組織犯罪・汚職レポートプロジェクト)という機関であって、OCCRPを創設したのは、投資家ジョージ・ソロス率いるオープン・ソサエティ財団(Open Society Institute)だ。そして、アメリカの政府機関USAIDUnited States Agency for International Development、米国国際開発庁)がOCCRPに資金援助を行っている」という情報を流しました。

 

 ジョージ・ソロスはハンガリー出身の投資家ですが、10代でソ連の侵攻と占領を受けた母国を脱出し、ロンドンのLSE(London School of Economics、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)で高等教育を受けました。大学院時代の指導教官は、科学哲学者として有名なカール・ポパーです。カール・ポパーは、『開かれた社会とその敵(The Open Society and Its Enemies)』という本を書いて、共産主義を批判しました。ソロスの財団であるオープン・ソサエティ財団の名前はこのポパーの本のタイトルに由来しています。ソロスは、反共、そして反ロシアの立場から、東欧で様々な活動(大学を開設したり、民主化におカネを出したり)を展開してきました。ですから、オープン・ソサエティ財団が創設したOCCRPが「パナマ・ペイパーズ事件」を主導したということは、その背景には、ソロスの意向であるロシア、特にプーティン攻撃があることは明らかです。

 

 更に、OCCRPにアメリカの政府機関USAIDが資金援助をしているということが重要です。拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)でも書きましたが、USAIDは、アメリカの「対外介入政策」の実施機関です。2011年の「アラブの春」に、USAIDと米国務省が絡んでいることは証拠が既に出ています。今回の「パナマ・ペイパーズ事件」にUSAIDが絡んでいるということは、米国務省とUSAIDにいるヒラリー派がロシアと中国に対する攻勢を強めているということを示しています。ヒラリーと彼女の支持者たちが考えていることは、「人道的介入主義(Humanitarian Interventionism)」というもので、これは、世界中の人々の人権を守り、非民主的な政府に対しては軍事介入をしてそれを転覆させても構わないというものです。この考え方は、ジョージ・W・ブッシュ政権時代に対外政策を牛耳ったネオコン派(Neoconservatives)と同じです。現在、アメリカ大統領選挙で旋風を巻き起こしているドナルド・トランプに対して、共和党内のネオコン派は危機感を覚え、「ヒラリーに投票する」ということを表明している人たちが続出していますが、これは、ネオコンと人道主義的介入派が同じであることをいみじくも暴露している動きです。

 

 ヒラリーが米大統領になると、何が起きるか、彼女は何をしたいのかということがここから分かります。彼女は、対ロシア、対中国で対決姿勢を強め、「民主化をしてあげて、それらの国々の国民を救ってあげたい」と考えています。そして、このためには強硬な手段(軍事衝突など)も辞さないと考えています。そして、国内的には金持ちたちの資産に対する課税を強化して、福祉の拡充などリベラルな政策を推進しようとしているのです。

 

 このように考えると、今回の「パナマ・ペイパーズ事件」には、ただの金持ちたちの汚い動きの暴露ということ以上の意味があることが分かります。

 

(新聞記事貼り付けはじめ)

 

US government, Soros funded Panama Papers to attack Putin – WikiLeaks

 

Russia Today

Published time: 6 Apr, 2016 17:02

Edited time: 11 Apr, 2016 19:51

https://www.rt.com/news/338683-wikileaks-usaid-putin-attack/

 

Washington is behind the recently released offshore revelations known as the Panama Papers, WikiLeaks has claimed, saying that the attack was “produced” to target Russia and President Putin.

 

On Wednesday, the international whistleblowing organization said on Twitter that the Panama Papers data leak was produced by the Organized Crime and Corruption Reporting Project (OCCRP), "which targets Russia and [the] former USSR." The "Putin attack" was funded by the US Agency for International Development (USAID) and American hedge fund billionaire George Soros, WikiLeaks added, saying that the US government's funding of such an attack is a serious blow to its integrity.

 

In a later tweet, WikiLeaks said that that the idea that the whole Panama Papers ordeal was aimed against Russia would be “nonsense,” but still blamed the US for titling media coverage in a way that would put Moscow in the line of fire.

 

Organizations belonging to Soros have been proclaimed to be "undesirable" in Russia. Last year, the Russian Prosecutor General’s Office recognized Soros’s Open Society Foundations and the Open Society Institute Assistance Foundation as undesirable groups, banning Russian citizens and organizations from participation in any of their projects.

 

Prosecutors then said the activities of the institute and its assistance foundation were a threat to the basis of Russia’s constitutional order and national security. Earlier this year, the billionaire US investor alleged that Putin is "no ally" to US and EU leaders, and that he aims "to gain considerable economic benefits from dividing Europe."

 

The American government is pursuing a policy of destabilization all over the world, and this [leak] also serves this purpose of destabilization. They are causing a lot of people all over the world and also a lot of money to find its way into the [new] tax havens in America. The US is preparing for a super big financial crisis, and they want all that money in their own vaults and not in the vaults of other countries,” German journalist and author Ernst Wolff told RT.

 

Earlier this week, the head of the International Consortium of Investigative Journalists (ICIJ), which worked on the Panama Papers, said that Putin is not the target of the leak, but rather that the revelations aimed to shed light on murky offshore practices internationally. "It wasn’t a story about Russia. It was a story about the offshore world," ICIJ head Gerard Ryle told TASS.

 

His statement came in stark contrast to international media coverage of the "largest leak in offshore history." Although neither Vladimir Putin nor any members of his family are directly mentioned in the papers, many mainstream media outlets chose the Russian president’s photo when breaking the story.

 

We have innuendo, we have a complete lack of standards on the part of the western media, and the major mistake made by the leaker was to give these documents to the corporate media,” former CIA officer Ray McGovern told RT. “This would be humorous if it weren’t so serious,” he added.

 

"The degree of Putinophobia has reached a point where to speak well about Russia, or about some of its actions and successes, is impossible. One needs to speak [about Russia] in negative terms, the more the better, and when there's nothing to say, you need to make things up," Kremlin spokesman Dmitry Peskov has said, commenting on anti-Russian sentiment triggered by the publications.

 

Panama Papers not 'responsible journalism,' should be released in full

WikiLeaks spokesman and Icelandic investigative journalist Kristinn Hrafnsson has called for the leaked data to be put online so that everybody could search through the papers. He said withholding of the documents could hardly be viewed as "responsible journalism."

 

"When they are saying that this is responsible journalism, I totally disagree with the overall tone of that," the co-founder of the Icelandic Center for Investigative Journalism told RT's Afshin Rattansi in Going Underground, when asked about his reaction to the ICIJ head saying that the consortium is not WikiLeaks, and is trying to show that journalism can be done responsibly by not releasing the papers in full.

 

"They should be available to the general public in such a manner so everybody, not just the group of journalists working directly on the data, can search it," Hrafnsson said.

 

The WikiLeaks spokesman also told RT he's not surprised that there have been no big American names in the leaked 11.5 million documents of the Panamanian law company.

 

"It seems to be skewed at least a way from American interest. There's always a possibility that it's not a journalistic bias but simply a bias in the documents themselves," Hrafnsson said, adding that Mossack Fonseca "is simply one law firm in Panama servicing and providing tax haven companies mostly out of the BVI [British Virgin Islands]."

 

"It doesn't even give the entire picture," he concluded.

 

(新聞記事貼り付け終わり)

 

(終わり)



 

 古村治彦です。

 

 今回は、中国の国際的な動きを分析した記事をご紹介します。タイトルに付けた通り、「既存の秩序をより良くする協力者となるか、新たな秩序を構築しようとする競争者となるか」が最大の関心ということになります。筆者自身は答えを出していませんが、私は、単純な二分法ではなく、この2つはそれぞれに当てはまると考えます。そして、前の記事でも書きましたが、中国が覇権国となる動きは止められないだろうと考えます。

 

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中国はどのようなタイプの大国になりたいのか?(What Type of Great Power Does China Want to Be?

 

ロバート・A・マニング筆

2016年1月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/01/05/what-type-of-great-power-does-china-want-to-be/

 

 アメリカ、日本、その他の同盟諸国である世界の諸大国にとって、中国の台頭に対する懸念は1つの流れとなっている。中国は世界経済と既存の国際機関に積極的に参加している。しかし、既存の地域的、世界的秩序に挑戦することになる代替の組織を創設することで大国としての役割を果たそうとしている。ここ数カ月の一連の動き、その中でも特に気になる中東において中国が始めた積極的な外交姿勢は、中国の世界戦略を判断を下す際に、それを複雑なものとしている。

 

 ここ最近の数カ月、世界は、中国外交の興味深い、そして少なくとも戦術的な動きを目撃している。2008年以降、中国は「喧嘩腰」の攻撃的な外交姿勢を取ってきた。それが、より穏やかで友好的な関与へと変わってきている。その一例が昨年の9月に開かれた中国の習近平国家主席とアメリカのバラク・オバマ大統領との間で行われた首脳会談である。この会談で、習近平は、米中間の間で争いの種となっていたインターネット上の安全保障に関してアメリカと協力することを表明した。また、アジア地域に対してはこれまでの姿勢とは全く逆の姿勢を取るようになった。習近平は日本の安倍晋三首相と2度にわたって会談した。また、日中韓の三国メカニズムを復活させた。そして、ヴェトナム、フィリピンとの間の関係を正常化させた。習近平の行動の中で最も創造的で、前例のないものとなったのが、シンガポールでの馬英九台湾総統との会見であった。

 

 ヴェトナム政府とフィリピン政府は南シナ海の南沙諸島をめぐり中国と激しく争っている。中国は友好的な姿勢を打ち出す魅力攻勢を行っているが、これは、攻撃的な姿勢は意図とは逆の結果しか生み出さないこと、そして、アジア地域全体、日本やインドといった国々がアメリカとの同盟やそれぞれとの間の同盟を強化する動きを見せるという、アメリカに対して思いがけない利益を与えてしまっていることに中国が気付いたということを示している。習近平の外交攻勢策の中核をなすのは恐らく、彼のアメリカのアジアにおける「勢力均衡の再構築」に対応するためのユーラシア大陸を西に進むという「軸足の転換」ということである。: 「一帯一路」計画によって、中国は近隣諸国に対して気前の良い援助を行うようになっている。

 

 ここで大きな疑問がわいてくる。それは、中国の気前の良い外交は戦術的な転換に過ぎないのか、それとも中国中心の秩序作りという自分の能力を超えた課題を行うことは困難でありそこから方向転換した方が良いということに気付いたのだろうか、というものだ。

 

 例えば、中国が初めてアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設を提案した時に起きた懸念は、世界銀行、IMF、アジア開発銀行のようなブレトンウッズ体制を構成する諸機関に取って代わることを意図したものではないのか、というものであった。中国は、AIIBは、基準を共有できる世界銀行とアジア開発銀行のパートナーとなり、競争者にはならないと主張した。AIIBが正式に発足してから、しかし現在までのところ、答えは出ていない。

 

しかし、AIIB、BRICS銀行、上海協力機構、習近平が進める「アジア人のためのアジア」という新しい安全保障の枠組み、世界の準備通貨としての人民元、ボアオ・フォーラム(ダボス世界経済フォーラムの代替になる)の存在は、既存の世界秩序と競合するものである。これらは中国が恥辱の世紀を過ごした後に世界においてふさわしい地位を得ようとする努力を示すものである。

 

 それともこうした中国の動きは危険分散戦略に基づいたものなのだろうか?最近の一連の動きは別の流れを示しているとも言える。それは、改革された国際システムの中江中国は、経済的、地政学的な地位にふさわしいより重要な役割を果たそうとしているというものだ。その一例が、IMFにおける中国の役割の拡大である。IMFは最近、特別引出権(SDR)と呼ばれる様々な貨幣のバスケットに人民元を加えることを決定した。その割合は、アメリカ・ドルに次いで第二位(10.9%)となり、イギリス・ポンド、日本・円、ユーロを超えるものとなった。加えて、アメリカ連邦議会が最終的に2010年のIMF改革案を承認したことで、中国はIMFにおける投票権の割合を7.9%にまで拡大させた。

 

 中国は気候変動分野でアメリカと緊密に協力してきている。最近、パリで締結されたCOP21気候変動に関する協定においても重要な役割を果たした。中国は、アメリカとその他のG7諸国が受け入れられる合意内容を認めるように発展途上諸国に対して様々な働きかけを行った。気候変動に関するアメリカの交渉責任者トッド・スターンは後に、「中国以上に我々と協力した国は存在しない」と述べた。

 

 より興味深い動きは、中国が新たに中東全域でより積極的な外交を展開していることである。中国は、アメリカ主導の国際システムの中で、アメリカに対してタダ乗りをすることを中核的な外交指針として正当化してきた。ASEAN加盟諸国がそうしているように、他国の国内問題には不介入という原理を堅持してきている。しかし、2015年12月26日、北京でシリア政府関係者とシリアの反体制の各グループの代表者たちが一堂に会した。この時、中国はシリアの内戦の解決に貢献するという決意を内外に示した。シリア内戦では30万人以上が死亡し、数百万の難民がシリアから避難している状況だ。

 

 国連安全保障理事会は昨年12月に、シリアの和平プロセスの道筋を示すロードマップとなる決議を可決した。その直後、中国はシリア政府関係者を中国に読んで、和平プロセスについて協議した。この動きは、習近平が国家の最高指導者に就任して以降の、中国の積極的な外交姿勢の一環と言える。習近平は、中国の偉大な指導者であった鄧小平の遺した指導方針である「韜光養晦(低姿勢で長時間耐えて力を蓄える)」を明確に否定した。

 

 同様に、アメリカがアフガニスタンからの撤兵を進めている中、中国は、タリバンとアフガニスタン政府との間を仲介しようとしている。中国はより積極的な役割を果たそうとしている。10年前、アメリカと同盟諸国はアフガニスタンで戦った。この時、中国は傍観者としての立場を崩さなかった。そして、アフガニスタンの鉱物生産分野に数十億ドル規模の投資を行い、目立たないようにして利益を得ていた。

 

 中国が中東で果たす役割は大きくなっているが、これは国際社会における地位を高めたいという希望だけではなく、中東における経済的利害が大きくなっていることを反映している。中国は国内で消費する石油の60%を輸入に頼っている。そのほとんどは中東から輸入している。中国の国有石油企業は各社とも中東、特にイラクとイランにおいて油田やガス田に対して積極的に投資を行っている。

 

 中東における中国の新たな積極的外交姿勢は良い結果を生み出すかと言うと、それは難しいと言わざるを得ない。シリアで始まっているが、中東での政治プロセスは大変に難しく、骨の折れるものとなるであろう。そして、イラン、ロシア、サウジアラビアといった内戦に介入している諸大国がそれぞれ受け入れることが出来る結果となるものが生み出されるまで、中国が主導しての内戦終結は難しい。同様に、アフガニスタンにおける内戦状態も終結の気配を見せていない。実際のところ、状況はより複雑化している。それは、イスラミック・ステイト勢力が争いに加わっているからだ。更に言うと、争いが絶えないこれらの地域における中国の影響力は現在のところ限定的なものにとどまっている。

 

 しかし、重要な点は、シリアとアフガニスタンでの中国外交は、アメリカの外交政策に沿ったものとなっているということだ。中東では、複雑に入り組んだ形で民族と宗教を基にした争いがこれからの10年も続くであろうと考えられている。そして、中国がこれからも新しい外交姿勢を堅持すると仮定する。そうするとその結果は、アメリカ外交にとって悩ましいものを中国が肩代わりしてくれるということになり、望ましいということになる。

 

 より大きな疑問は、中国の中東におけるより積極的な動きから、中国の世界システムに対する意図を読み取ることが出来るか、何か結論めいたものを導き出せるのか、というものである。それ以外にも様々な疑問がわいてくる。中国は、既存のシステムの中で更なる力を自国に与えてくれる現在の流れをそのまま受け入れるだろうか?それもと、中国の積極的な外交姿勢は、見直された、中国主導の秩序構築に向けた踏み石なのであろうか?AIIBは世界銀行とアジア開発銀行のパートナーとなるのか、それともその懸念は解消されていない競争者となるのか、どちらだろうか? 南シナ海における争いにおいて中国は妥協の方向に進むのだろうか?中国政府は、アメリカとの間で二国間の投資協定を結び、国内最優先の政策からアメリカ企業が中国市場に参加しやすくするだろうか?また、その中でも特に気になる疑問は、中国は争いが起きやすい分野である、インターネット、航空、宇宙、海上において、国際的な規範を受け入れるだろうか、というものである。

 

 アメリカと日本にとって、何が中国の意図を示す重要な指標となるのかを決定することは重要だ。これまで述べてきた諸問題は、そうした指標策定の手始めとなる。中国の動きのいくつかは、アメリカが推奨している、国際システムにおける「責任ある利害保持者」としての動きとしてはふさわしくないものであるように見える。中国の積極的な動きは、既存の秩序の見直しを求めていることを明確に示している。しかし、現在の時点で、何か結論を出すということは困難である。それは、状況は複雑であることを示しているからだ。この複雑な状況はこれからの20年の間にはっきりと理解しやすいものになっていくだろう。

 

(終わり)

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