古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。よろしくお願いします。

2016年06月

 古村治彦です。

 前回に続いて、『トランプ大統領とアメリカの真実』を皆様にお読みいただきたく、ご紹介いたします。

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 ドナルド・トランプがアメリカの二大政党の一つ、共和党の予備選挙を勝ち抜き、アメリカ大統領選挙の本選挙の候補者になるなんて誰が予想できただろう。私は、政界や財界に人脈を持つ、ジェブ・ブッシュが共和党の大統領選挙候補者になるだろうが、本選挙では、ヒラリー・クリントンに負けてしまうだろう、そして、ヒラリー・クリントンが大統領になると考えていた。民主党ではヒラリー以外には、有名な候補者はいなかった。現職のジョー・バイデン副大統領が予備選挙に出ないと表明した時点で、2016年のアメリカ大統領選挙は、ヒラリーが楽に圧勝する、そういうシナリオで展開すると考えた。

 しかし、2015年後半からトランプの勢いが加速していった。彼は「イスラム教徒の入国を禁止しろ」「アメリカとメキシコの間の国境線にメキシコの負担で壁を作れ」と叫んだ。「こんなことを言ったらダメだ」と思った。
「こんな差別感丸出しのことを言ったら有権者から総スカンを食うはずだ」と私は考えた。しかし、トランプ支持は
どんどん拡大していった。トランプを支持しているのはどんな人たちなのか、とアメリカのマスコミは調査を行った。そして、「テキサス州を除く南部から東部沿岸部の衰退しつつある工業地帯に住む、学歴が高くない白人男性」がトランプを支持している、ということが明らかになった。そして、あれよあれよというまに、共和党の予備選挙で並み居るライヴァルたちを打ち倒した。私は、自分の人間観の甘さと先入観を反省した。

 イギリスのEU離脱といい、トランプといい、「怒れる白人たちの反乱」と言える。

 トランプ支持が根強いのは、「彼がワシントンに、そしてアメリカ政治に、アメリカ経済に“チェインジ(Change)”
をもたらしてくれる」と多くの有権者が考えているからだ。あれ、と思った。どこかできいたことがあるぞ、と。「チェインジ(Change)」「イエス・ウイ・キャン(Yes, Wew can)」のスローガンで大統領選挙を勝ち上がった人物が既にいる。日本に住む私たちも好感をもって迎えた、バラク・オバマ現大統領だ。人々は、黒人のオバマが変革をもたらすとして熱狂した。この時に民主党予備選挙で圧倒的に有利だったはずのヒラリーは、一敗地にまみれた。

 新しい人物が大統領になるとき、アメリカの有権者は「変化」を求める。既成の体制を壊して、何か全く別の新しいものが出てきてほしいと願う。2008年に無名のオバマがヒラリーを倒したときから、「外国を助けるのをやめたい、アメリカ国内が大変なのに、外国まで戦争をしに行ってお金ばっかり使ってどうする」という考えが広がっていった。これが「アメリカ・ファースト!」となった。「アメリカ国内の様々な問題を解決することを優先しよう、一番最初にやろう」ということだ。この流れの中に、つまり、トランプの方がオバマの後釜にふさわしいとも言えるのだ。

 本書『トランプ大統領とアメリカの真実』は、アメリカ政治“今”“最前線”を知るために最適に一冊だ。

 トランプが何かパッと出てきたように、またアメリカ国民がふざけているかのように、日本人には見えているかもしれない。しかし、トランプが共和党の大統領選挙候補者になるには、その背景がある。それはとても重層的だ。

 その幾重にも積み重なったアメリカの「今」を俯瞰(空の上)から、水平(地上)のレヴェルまで、あらゆる要素で説明している。アメリカ白人たちの持つ危機感、アメリカの政治思想上の戦い(ややハイブラウな)、トランプという人物のこれまでの人生などが網羅されている。

 トランプはアメリカのテレビ番組(リアリティ・ショーと呼ばれる)で、経営者として応募してきた人たちに「お前はクビだ」という決め台詞で人気が出た。しかし、彼はこの決め台詞を言う前に、その人たちに、どういう点が良くて、どういう点が改善点で、ということをきちんと説明していた。そうしなければ、ただの暴君である。この部分があって「だから、君はここにふさわしくない」となって、「お前はクビだ」ということになった。この前段階はあまり注目されないが、ここで彼の経営者としての手腕と人を見る観察眼の確かさが発揮された。

 トランプの経営者としての手腕が2000年代にテレビ番組を通じてアメリカに浸透していった。そして、今回の大統領選挙だ。自分の力で1兆円もの資産を築き上げたような叩き上げの経営者・資産家がアメリカ大統領に出馬したことは過去に例がない。「多くの人々の雇用を自分の力で生み出した経営者」という、アメリカ人が賞賛し、ロールモデルするタイプはこれまで政治家を支援することはあっても自分が政治家になることはなかった。

 オバマ大統領が「黒人初」の大統領という形容詞がつくのと同じく、トランプが「経営者・資産家初の」大統領と
なるその一歩前まで来ている。

 現在、10ほどある激戦州(Battleground States、Swing States)の世論調査では、ヒラリーとトランプは互角である。これらの激戦州の動向いかんでは、トランプ大統領の誕生の可能性は高まる。

 アメリカが世界に提示した、ドナルド・トランプとトランプ現象、これを理解せずして、時代の空気を理解することはできない。

 そのための最良の一冊となることは間違いない。

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 古村治彦です。

 

 副島隆彦先生の最新刊『トランプ大統領とアメリカの真実』(日本文芸社、2016年7月)が発売となります。

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 今回の副島先生の最新刊は、先生の専門であるアメリカ政治の最新分析です。

 

 今年2016年は新しい大統領が誕生するアメリカの大統領選挙の年です。民主党はヒラリー・クリントン、共和党はドナルド・トランプがそれぞれ候補者に内定しています。現在までの各種世論調査の結果ではヒラリーがやや優勢ですが、全く予断を許さない状況です。

 

 本書をお読みいただき、今回の大統領選挙とアメリカ政治の理解を深めていただけますように、宜しくお願い申し上げます。


=====

 

はじめに──「次はトランプ」だ


「次の米大統領はトランプで決まりだ」と、私はこの2016年5月
22日に決めた。

 

私の政治分析に基づくこの予測(予言)は、この本が出る7月の初めでもまだ誰も公言できないことだ。


私の専門は、現在のアメリカ政治思想の諸流派の研究である。


「トランプが当選する」と私は誰よりも早く決心して書いた。

 

私が主宰するインターネット上のサイトである「副島隆彦の学問道場」に書いて載せた。それはなぜか?


このあと7月
18日の共和党の党大会で、ドナルド・トランプが党の候補者としての指名を獲得する。

 

そして、そのあとの11月8日の本選挙までさらに3カ月ある。


その間にトランプがどのように勝ち進むか。

 

この本を読めば、「トランプ勝利に至り着くアメリカ政治の真実」が大きくわかる。


なぜ「トランプで決まり」なのかの理由説明を次の第1章でする。

 

なぜ私が、トランプが民主党の候補者であるヒラリー・ロッダム・クリントンを打ち負かして当選勝利すると断言するか、わかるだろう。


そしてトランプが来年2017年1月
20日(と決まっている)に、アメリカ合衆国の第45代大統領に就任する。


そうなると「トランプ大統領の時代」が来年(2017年)からほぼ確実に始まる。それは世界に大きな影響を与える。

 

当然、あれこれ日本にも大きな変化が現れ、打撃を与える。その中心は、本書第4章で説明するトランプ発言の「日本からの米軍撤退」問題である。


帝国の軍隊は
70年も外国(即ち日本)に居座ったら、「もう帰ろう」で撤退するものなのである。そのとき日本はどうするか、どうなるかだ。


思い起こせば、今から8年前の2008年の米大統領選挙で、「次はオバマという黒人だ。ヒラリーは負ける」と一番乗りで予言した。

 

私はその前年(2007年)にそのことを自分の本に書いた。


これを国家情報官である佐藤優氏が評価してくれて、「副島さんが誰よりも早かったですね。次はオバマだ、と決め打ちしましたからね」と、褒めてくれた。


私にとって評論家業(言論人)は、学者と違って、これからの近未来を予測しなければいけない。

 

「これから世界はどうなる。その次はこうなる。そのとき日本はこうなる」という冷酷な予想、予言(占い)までもやらなければいけない、と確信している。


私はこのように自分が言論予言者業をやり、予言をこれまでにたくさん当ててきた。その実績を誇りに思っている。今度も当ててみせる。

 

それでも私の「次はトランプだ」、「そしてアメリカはこうなる。世界はこうなる」が果して当たるか否かは、この本の読者になってくれる皆さんが冷静に判断する。


2016年6月 副島隆彦

 

=====

 

トランプ大統領とアメリカの真実 目次


はじめに
              1


1 トランプ大統領の誕生

トランプが次の大統領に決まった    18

トランプがキッシンジャー宅を訪問したことの重大さ              18

キッシンジャーは今も超大物である              28

〝ダビデ大王〟に捨てられたヒラリー           32

トランプの凄さとアメリカ国民の熱狂           34

「私は低学歴の人たちが好きだ」発言           34

ヒラリーのものまねでアメリカ国民の空気が変わった              35

トランプは「落ちこぼれの真実」を知っている           37

リバータリアニズムの3つの原理    39


2 トランプ旋風とアメリカ大統領選の行方


泡沫候補トランプは、なぜ指名を獲得できたのか
       44

トランプ現象の始まり       44

スーパーチューズデー(3月1日)からの快進撃            49

トランプ陣営は「非エリート集団」              54

叩かれても人気が衰えないトランプ              56

ポピュリズムの嵐が吹き荒れる       59

本音をズバズバ言う正直なトランプ              61

アメリカ民衆の〝言葉狩り〟に対する反感    65

トランプを支持する共和党政治家たち           69

トランプの移民差別発言は、なぜ支持されたか           73

トランプを支持する高卒の白人たち              73

もうすぐ白人層はアメリカ全人口の半分を切る           77

ヒスパニックをもう受け入れたくないアメリカ国民    81

マルコ・ルビオの失速       83

共和党本部の抵抗              86

予定どおり勝ち上がったヒラリー    89

なぜ〝サンダース現象〟が起きたのか           89

ベンガジ事件を逃げ切ったヒラリー。しかし……       92

ヒラリー派が起こした宮廷革命       97

ヒラリーの側近フーマ・アベディン              100

ヒラリーは〝ロックフェラー家の嫁〟           103

もうトランプをつぶせない              108


3 ドナルド・トランプとは何者か


〝不動産王〟トランプの誕生
           114

トランプの資金はどれぐらいあるか              114

ドイツ系移民のトランプ    120

フェリックス・ロハティーンのニューヨーク再建       126

世界中に広がるトランプ・ブランド              129

ニューヨークとつながるフロリダ    130

〝カジノ王〟トランプの栄光と転落              134

アトランティックシティで大成功したトランプ           134

スティーブ・ウィンとの対立           136

映画『カジノ』と日本人ギャンブラー柏木昭男           142

カジノ、プロレス、裏社会とのつながり       146

1990年に最初の破産    149

トランプの盟友カール・アイカーン              151

トランプ一家が支える政界への進出              154

トランプの3人の妻           154

最初の妻イヴァーナとの離婚の泥仕合           157

娘イヴァンカがトランプの後継者    159

ニューヨーク正統派ユダヤ人社会をまとめるクシュナー家       160

1988年から大統領選への野心を見せる    164

2012年大統領選では、オバマの出生証明書問題を追及       166

ローリング・ストーンズに反撃したトランプ              167


4 アメリカのアイソレーショニストとポピュリストたち


トランプ大統領で日米同盟はどうなるか
       172

駐留米軍の撤退と日本の核保有を容認するトランプ    172

集団的自衛権の真実           180

米海兵隊はやがて沖縄からグアムへ移転する              183

日本は核武装をしてはいけない       186

駐留米軍経費と米国債       188

トランプ外交政策の基本はアイソレーショニズム       191

「アメリカ・ファースト!」という言葉の真の意味    191

チャールズ・リンドバーグの思想    198

ポピュリズム政治家トランプは、なぜ生まれたのか    204

ヒューイ・ロングと田中角栄           204

自由銀鋳造運動を唱道したウィリアム・ジェニングズ・ブライアン       209

アメリカのグローバリズムの始まり              213

ポピュリズムの嵐が荒れ狂うとき    215

反財閥を唱えたカフリン神父           218

KKKの思想の本質           219

白人保守層に支持されたジョージ・ウォーレス           223


5 リバータリアニズムとアメリカ政治思想


トランプを応援するアメリカ思想派閥
           228

アメリカの政治思想の見取り図──共和党7派と民主党4派    228

宗教右派を味方につけたトランプ    229

リバータリアニズム勢力とトランプ              234

アメリカの保守本流思想    236

ネオコンの正体はトロツカイト(トロツキー主義者)              239

リバータリアンたちが応援していた初期レーガン政権              241

今のネオコンは第3世代    244

強力な民主党ネオリベラル派           246

リバータリアン運動を乗り越えたトランプ    248

リバータリアンの資金源コーク兄弟              248

愛国右翼のジョン・バーチ協会       251

トランプとコーク兄弟の意地の張り合い       252

予備選で敗退したランド・ポール    254

2020年大統領選を狙うポール・ライアン              255

トランプに遅れてしまったリバータリアン運動           258


6 ヒラリーなら第3次世界大戦になる


サンダース現象から見えてくる大きな戦争
    262

〝大きな戦争〟への下層白人たちの危機感    262

女たちは息子や恋人が戦場に送られると感じている    265

米大統領選の裏側に貼りつく真実    266

アメリカと中東問題の闇    268

軍人たちはネオコンが大嫌い           268

IS(イスラム国)にどう立ち向かうか       270

ヒラリーが大統領になったら           274

トランプ大統領はフォートノックス基地に乗り込む    274

アメリカが抱える大借金    277

戦争を起こして帳簿を焼き尽くす    279

おわりに              281

トランプ大統領選挙日々の記録   110

ドナルド・トランプの人生の軌跡    284

 

=====

 

おわりに


果して私の予測(予言)どおりにトランプが勝って、トランプ米新大統領が来年誕生するか。


これは私にとっても賭けである。

 

思い出せば、私はこれまでに20ぐらいの言論の賭けをやってきた。あまり外れたとは思わない。今度も当ててみせる。
 

私は自分のドナルド・トランプ本を書き上げたが、トランプについて、1つだけ気になることがある。それは何か。

 

私がトランプの演説とテレビ・インタヴューをインターネットを通して見ていて思うのだが。トランプの表情をじっと見ていると、彼が時々、ペロッと舌を出すことがある。いや、ペロッという感じで、自分の干いた唇を舐める感じで舌を出す。


どうもあの感じには、何か一瞬いやな気になる。あのトランプのペロッと舌が出る感じは、トカゲかヘビか、ワニの舌の感じだ。

 

私はこうやって何でも食べてしまうゾー。また獲物をペロリと食べちゃった、という感じである。

これは相当に気持ちの悪いものであって、私はトランプという希代の交渉ごとと駆け引きの天才で、アメリカ大統領にまで成り上がろうという人物の独特の仕草を映像で見ていてゾクッとした。

 

私はトランプが嫌いでない。好きである。私はアメリカ人のこの自力で這い上がった大実業家のドナルド・トランプという男と、遠く日本にいる自分が同時代人(コンテンポラリー・マン)として同じ時代を生きたことを嬉しく思う。

 

私は日本のトランプになりたかった。だが私にはあれだけの才能はない。私には自力で金持ちになる才能もなかった。

 

今やますます貧乏国になりつつある日本で、しょんぼりと生きていくしかない(コラ、トランプ。日本がこんなに貧乏なのはアメリカのせいもあるんだぞ)。


トランプが大統領になっている来年からあとも、私は日本にいて日本語で「私のトランプ大統領本」を次々と書いていけそうである。

 

しめしめである。


この本を書くと決めたのは、3月
22日であった。

 

それから、日本文芸社の水波康編集長とグラマラス・ヒッピーズの山根裕之氏にどれだけの迷惑をかけたことであったか。


「類似本、競争本に負けないだけの良い本が出来なかったら、私は怒り狂うからな」と訳のわからない怒鳴り声を何度、
おふたりに上げたことか。


ここまで来ると恥入るばかりだ。

 

その結果、神経を集中してかなり上等の本が出来たと自負している。記しておふたりに感謝します。


2016年6月 副島隆彦 

 

(終わり)
 

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 古村治彦です。

 

 ネオコンの著名な評論家であるロバート・ケーガンが、ヒラリー・クリントンの政治資金集めのイヴェントを開催するという情報が入りました。たったこれだけのことですが、『フォーリン・ポリシー』誌では記事になりました。こんなことは、それだけ、「奇妙なこと、おかしなこと」なのです。

 

 共和党ではドナルド・トランプが大統領選挙候補者に内定していますが、これに対して、共和党内の外交政策専門家たち、特にネオコンに属する人々は、トランプに嫌悪感を示しています。このブログでもご紹介しましたが、共和党内の外交専門家たちは、3月にはトランプに反対する公開書簡を発表しています。

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ロバート・ケーガンとヴィクトリア・ヌーランド 

 

 ですが、ついに、ヒラリーの政治資金集めにまで協力するネオコンが出てきました。それは、ロバート・ケーガンです。ロバート・ケーガンは一家そろって、父親も夫人も、弟夫婦もネオコンという筋金入りです。奥さんのヴィクトリア・ヌーランドについても何度もご紹介していますが、こちらは国務省のキャリア外交官です。ヒラリーが国務長官の時にはヌーランドは国務省報道官を務めていましたし、ロバート・ケーガンは長官直属の超党派の諮問会議のメンバーでした。

 

 個人的には関係が深いというのは分かるのですが、資金集めをやるとなると、これは共和党に対する裏切り行為です。こういう動きが出てきているというのは、共和党内部に相当な亀裂とダメージがあるということの証拠になります。

 

=====

 

スクープ:共和党所属でネオコンとして有名な人物がヒラリー・クリントンのために資金集めを行う(Prominent GOP Neoconservative to Fundraise for Hillary Clinton

 

ジョン・ハドソン筆

2016年6月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/06/23/exclusive-prominent-gop-neoconservative-to-fundraise-for-hillary-clinton/

 

 著名なネオコン派の論客にしてイラク戦争を早くから主張していたある人物が、来月、ヒラリー・クリントンの選挙資金集めの集まりを開くことが『フォーリン・ポリシー』誌の取材で明らかになった。この動きはヒラリー・クリントン陣営が著名な共和党員や共和党支持者たちと協力する姿勢になっていること、更には共和党員や支持者の中にドナルド・トランプの大統領選挙当選阻止のためにかなりの禁じ手をやる人たちが出てきていることを示している。

 

 ブルッキングス研究所上級研究員で、シンクタンク「プロジェクト・フォ・ザ・ニュー・アメリカン・センチュリー」の共同設立者であるロバート・ケーガンは、7月21日にワシントン市内のローガン・サークル地区で「ヒラリー・フォ・アメリカ」の資金集めのための集まりを開く予定だ。本誌が入手した招待状には次のような文言が記載されている。「このイヴェントでは、アメリカのNATO、ヨーロッパの主要な同盟国とパートナー、そしてEUに対するこれからも続けられる投資に関してオフレコの会話も行われる予定です」。

 

 本誌はケーガンにコメントを求めたが返答はなかった。

 

 ヒラリー・クリントン陣営では、トランプの高い不人気と彼の攻撃的なコメントのために、伝統的な共和党支持者たちからの得票を期待できると考えている。そして、陣営では共和党支持者たちに積極的に働きかける動きが始まるだろう。

 

 ヒラリー陣営ではしかし、このような動きについては慎重になっていた。それは、民主党左派で予備選で激しく闘ったバーニー・サンダースや彼の支持者からの批判を受けたからだ。サンダースはヒラリーが上院議員時代の2002年にイラク戦争に賛成の投票を行ったこと、ヘンリー・キッシンジャーの様な批判が多い共和党側の人物たちやウォール街とも深い関係を持っていることを批判した。

 

 2月に行われた討論会で、サンダースは「ヒラリー・クリントン氏は著書と今回の討論において、ヘンリー・キッシンジャーからの推薦、もしくは支持をとりつけようとしている。私は驚き以上のものを感じている。それは、ヘンリー・キッシンジャーがアメリカ史上最もアメリカを破壊した国務長官であると私は考えるからだ」と述べた。

 

 共和党内の外交政策の専門家たちの多くがトランプを非難しているが、ヒラリーを支持すると公言している人の数はもっと少ない。しかし、亀裂は表に出始めている。

 

 6月22日、ヒラリーは共和党のブレント・スコウクロフトの推薦を取り付けた。スコウクロフトは、ジョージ・HW・ブッシュ(父ブッシュ)、ジェラルド・フォード両大統領の大統領国家安全保障担当補佐官を務めた。また、リチャード・ニクソン、ジョージ・W・ブッシュ両大統領には助言者として仕えた。

 

スコウクロフトは声明の中で、「ヒラリー・クリントン氏は国際問題の分野の経験が豊富で、世界に対する理解も深い。これらの要素はアメリカ大統領に不可欠だと私は考えている」と述べている。

 

 しかし、スコウクロフトは共和党内のリアリストに属している。彼はリベラル派の中のグループと同じく、「アメリカはあまり外国に介入すべきでない」という世界観を持っている。一方、ケーガンはネオコンに属している。ネオコン派、軍事力の行使、独裁者の軍事力を使った排除、民主政治体制の世界への拡散を中心に据えたイデオロギーだ。

 

 民主党の大統領選挙予備選が熱を帯びていく過程で、サンダースを支持する有名人たちは、ヒラリーとケーガンやネオコンのよりタカ派的な政策を結び付けようとした。彼らはそのために、ケーガンのヒラリーに対する好意的な発言を引っ張り出してきた。

 

 2014年、『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材に対して、ケーガンは次のように述べている。「外交政策の面で、ヒラリー・クリントンと一致する点は多い。彼女がやりたいだろうなと私たちが考える政策を彼女がやったら、それはネオコン的な政策と呼ばれるものになるだろう。しかし、彼女の支持者たちはそれをネオコン的とは呼ばないだろう。何か他の言葉を付けるだろう」。

 

 ここ数年、ケーガンは、シリアにおける5年にわたる内戦にアメリカが介入していないことと、ウクライナ紛争においてロシアに対してより強硬な姿勢を取らないことに関し、オバマ政権を厳しく批判してきた。ケーガンはまた、連邦予算において国防予算の増額を求めている。ケーガンの考えは、彼が最近『ニュー・リパブリック』誌に掲載した論稿のタイトル「超大国は引退などできないのだ」に要約される。彼は論稿の中で、世界においてアメリカは更に外交的、軍事的存在感を増すようにすべきだと主張している。

 

 ケーガンはNATOの熱心な支持者であり、擁護者である。そのため、トランプの考えとは真っ向から対立する。トランプは軍事同盟を「時代遅れ」なものであり、ヨーロッパに同盟諸国には、自国のGDPの2%以上を防衛費として支出しないのなら、制裁を加えるべきだと考えている。NATOに加盟している28カ国でこの基準を満たしている国はほとんどない。ヒラリー・クリントンは最近の複数の演説でNATOを擁護している。

 

 ケーガンはヒラリー・クリントンが国務長官を務めていた時期に国務省報道官を務めたヴィクトリア・ヌーランドの夫である。ヌーランドは現在、ヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補を務めている。ヌーランドは、オバマ政権に対して、ウクライナでの紛争でアメリカはより積極的な役割を果たすように強く主張したことで知られる。

 

 カンブリアホテルで開催されるイヴェントの入場券の値段は1枚100ドルだ。イヴェントのスピーカーと主催者と話が出来るパーティーに出席できるVIPチケットは1枚250ドルだ。「主催者」の待遇を得るためのチケットは500ドルである。

 

(終わり)

 






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 古村治彦です。

 

 今回は、アメリカ大統領選挙の本選挙について書きたいと思います。

 

 共和党はドナルド・トランプ、民主党はヒラリー・クリントンがそれぞれの党の大統領選挙の本選挙の候補者に内定しています。7月にそれぞれの塔が開く党大会で、正式に党の候補者に指名されます。この時までに、副大統領候補を決めることになります。

 

 アメリカ大統領選挙は、各州の人口に合わせて割り当てられた選挙人(Electorates)の取り合いとなります。1つの州で一番の得票を得た候補者がその選挙人を総取りします。これをウィナー・テイク・オールと言います。ネブラスカ州とメイン州だけは総取り方式ではありませんが、州に属さない首都ワシントンDCを含む他の州では総取りとなります。

 

 現在のアメリカでは、共和党が強い州は党のイメージカラーから「レッド・ステイト」、民主党が強い州は「ブルー・ステイト」と呼ばれています。大体これらの州が40ほどあって、固定化されています。レッド・ステイトはアメリカ中西部、農業が盛んな地方の州、ブルー・ステイトは、東海岸と西海岸の工業が発達した大都会を抱える州と言うことができます。人口で言えば、やはり大都市を抱える州が多くなり、選挙人の配分は多くなります。

 

 選挙人は全米で539名となりますので、過半数は270名となります。選挙人270名以上を獲得した候補者がアメリカの大統領となります。この選挙の動向を決めるが激戦州(Swing States)です。激戦州としては次の各州が挙げられます。

 

激戦州(Swing States

・フロリダ州:29名

・ジョージア州:16名

・ノースカロライナ州:15名

・ヴァージニア州:13名

・ペンシルヴァニア州:20名

・オハイオ州:18名

・ミシガン州:16名

・ウィスコンシン州:10名

・合計:139名


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 アメリカの政治情報サイト「リアルクリアポリティックス(Real Clear Politics)」では、現在の情勢を見やすい画像にして公開しています。この画像では、現在のところ、ヒラリーが優勢のようですが、灰色の激戦州の状況によってはこの数字が十分ひっくり返り、トランプが過半数の270名の選挙人を獲得する可能性があります。


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 激戦州の現在の動向を知りたくなるわけですが、昨日、マンモス・ユニヴァーシティの世論調査の結果が発表されました。この世論調査は、2016年6月15日から19日にかけて行われたものです。下記のアドレスに調査結果の詳細が書かれています。

 

http://www.monmouth.edu/assets/0/32212254770/32212254991/32212254992/32212254994/32212254995/30064771087/568faad2-81ab-4bd0-b373-8577326e76bd.pdf

 

 この世論調査では、前回2012年のアメリカ大統領選挙の結果で、民主党のオバマ、共和党のロムニーの差が7%以内だった州をマンモス・ユニヴァーシティは「激戦州(swing state)」と定義して世論調査結果を発表しています。激戦州として、コロラド州、フロリダ州、ルイジアナ州、ネヴァダ州、ニューハンプシャー州、ノースカロライナ州、オハイオ州、ペンシルヴァニア州、ヴァージニア州、ウィスコンシン州の10州が挙げられています。私がこの論稿で書いた激戦州とも符合します。2012年の選挙結果では、ロムニーがノースカロライナ州で勝利を収めましたが、それ以外の9州ではオバマが勝利を収めました。

 

 世論調査の結果では、激戦州では、「ヒラリー:47%対トランプ:39%」と言う結果が出ました。この数字は激戦州をすべて合わせた結果ですので、細かい数字でありませんが、大変参考になります。

 

 この世論調査では、「全てのイスラム教徒のアメリカ入国禁止を支持しますか」という質問には「支持:21%、不支持:70%」という結果が出ました。2015年12月の調査では「支持:26%、不支持:65%」という結果が出ていますから、不支持が伸びています。激戦州では「支持:14%、不支持:80%」となっています。

 

「西洋諸国に対するテロ攻撃を行った歴史を持つ国からの移民を禁止することを支持しますか」という質問には、「支持:34%、不支持:57%」となり、激戦州では、「支持:29%、不支持:63%」となりました。「オーランドの銃撃事件で使われたような攻撃力の高い武器の販売禁止を支持しますか」という質問の答えは「支持:52%、不支持:43%」となっています。激戦州では、「支持:55%、不支持:41%」となっています。

 

 本日、キュニピアック・ユニヴァーシティが激戦州のフロリダ州、ペンシルヴァニア州、オハイオ州に限定した世論調査の結果を発表しました。皆考えることは同じで、民主党や共和党がもともと強い州に関してはよほどのことがない限り結果は変わりませんので、関心が低く、激戦州の動向が知りたいわけです。

 

https://www.qu.edu/images/polling/ps/ps06212016_Sfw34kbm.pdf

 

 この3州は激戦州の中でも選挙人の配分が多い州ですから、特に気になります。結果としてはフロリダ州では「ヒラリー:47%、対トランプ:39%」、オハイオ州では「ヒラリー:40%、対トランプ:40%」、ペンシルヴァニア州では「ヒラリー:42%、対トランプ:41%」ということで、大接戦であるということが分かります。


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 激戦州は北米大陸五大湖沿岸の工業地帯で、「ラスト・ベルト(Rust Belt)」と呼ばれる地域にあります。Rustは油汚れやさびを意味します。トランプが共和党予備選挙で勝利を収めたのは、南部の保守的な州と共に、このラスト・ベルトに住む大学教育を受けていない労働者階級の白人男性たちの支持を獲得したことが理由に挙げられます。ですから、激戦州=ラスト・ベルトでトランプが勝利を収めることは十分に可能となります。

 

 11月の本選挙まで約5か月もある段階での本選挙の予測をすることは不可能ですが、ヒラリーがかなりリードしていたはずの選挙で、トランプが肉薄し、接戦になっているということが分かります。

 

(終わり)







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 古村治彦です。

 

 今回は後半部をご紹介します。

 

=====

 

オバマ大統領:最後の年と彼が残すものパート2

 

 国家安全保障会議を整理する、そして米軍から冷戦のままの時代遅れの考えを除去する。オバマ大統領には大統領在任最終年でやるべき重要な仕事がいくつか残っている。

 

ローザ・ブルックス筆

2016年2月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/02/25/obama-the-last-year-and-the-legacy-part-ii/

 

 私は前回のコラムで、バラク・オバマ大統領が彼の残すものをはっきりとさせ、それが続くようにするために、政権最後の1年でやるべきことについて書いた。私の関心は、シリアの平和や気候変動の解決などの短期的には実現不可能なことにはない。私は、大統領自身が持つ力で解決できるものに焦点を絞っている。それは、不明確な収容の停止と秘密の戦争と法律の廃止ということである。オバマ大統領は、このような改善点をそのままにして大統領の任期を終えれば、ヒラリー・クリントンは苦労することになるだろう。そして、オバマ大統領が敵だと見なした人間を秘密裏に収容したり、殺したりする力をドナルド・トランプに渡すことになったら、世界の為にはならないだろう。

 

 しかし、これでオバマ大統領のやるべきことリストが終わり、ということではない。彼がホワイトハウスを去る前、大統領として、破綻したアメリカの安全保障政策とアメリカ政府内部の破壊された構造と組織を改善する努力をすべきだ。特に、アメリカ軍、情報部門、ホワイトハウスの安全保障担当スタッフに関しては、改善すべき時期に来ている。

 

(1)破綻したアメリカの安全保障政策を改善する。

 

昨年12月に私が書いたように、平均的な1年でテロリストたちに殺害されるアメリカ人の数は、牛に殺害されるアメリカ人の数よりも少ない。しかし、世論調査と人々のヒステリーが示しているように、かつてのアドルフ・ヒトラーとヨシフ・スターリンの脅威を合わせたものよりも、現在のイスラム過激派グループのテロの脅威の方が大きくなっていると感じている人は多いだろう。この根拠のない脅威の認識によってアメリカ政治、政策、予算は捻じ曲げられている。そして、テロ攻撃よりも深刻な長期的な脅威に目を向けないようになっている。私たちは戦略的に一貫しない軍事介入を中東やその他の地域で行ってきている。それはまさにこのような馬鹿げたことの為なのだ。

 

 アメリカが優柔不断の国になったことはオバマ大統領の失政のせいではない。しかし、彼は優柔不断さを何とかしようとはしなかった。オバマ大統領はアメリカ人がイスラム教とテロリズムを同一視するという間違いを気付かせるために良い仕事をしている。彼はまた、シリアに対する全面的な介入を伴うイスラミック・ステイトへの対応を求める馬鹿げた要求を一貫して拒絶してきた。オバマ大統領はアメリカ人たちにいくつかの重要な事実を思い起こさせている。それは「911以降にテロリズムによって殺害されたアメリカ国民の数は100名以下だ。同時期に銃を使った暴力で亡くなったアメリカ国民の数は数万を下らない」というものだ。しかし、オバマ大統領もまた政治的な圧力に負けて、テロリズムを黙示録的なおどろおどろしい言葉を使って表現している。「憎しみに満ちた見方」対「全人類」というものであって、これは、現在続く「テロリストたちとの戦争」にとって利益となるものだ。

 

 オバマ大統領が「永続的に続く戦争」を真剣に望まないのなら、テロリズムを人類の進化にとっての深刻な脅威として扱うことを辞めるべきだ。テロリズムは数千年にわたり、数千もの組織によって採用されてきた戦術のひとつだ。テロリズムは野蛮で、不快で、違法な戦術だ。しかし、テロリズムによって西洋文明が崩壊させられる訳ではない。私たちは深刻なテロリストからの攻撃のリスクを最小限にすることが可能だし、そうすべきだ。しかし、アメリカのその他の重要な国益や課題を犠牲にしてまでそれをする必要はない。

 

(2)軍を立て直す

 

オバマ大統領は「私たちは歴史上最強の軍隊を持っている」と述べている。軍事力を他の国の軍隊よりもより速やかに人や建物や物を吹き飛ばす能力だけで測定するならば、オバマ大統領の発言は正しい。しかし、物を吹き飛ばすという行為において重要なことは、それが政治的な目的を実現するということである。そして、アメリカが破壊力を戦略的な成功に結びつけているかということは、どっちとも言えないのだ。

 

 多くの点で、アメリカ軍(と国防に携わるその他の機関)は、現在においても冷戦世界に対応するように構成されている。現在、私たちが直面している世界規模の複雑な問題に対応するようには出来ていない。軍隊の指令責任は地理上の線でいくつかに区分されている。その結果、いくつかの地域をまたがるような脅威に対処することが難しくなっている。アメリカ軍内部の陸海空海兵、そして安全保障に携わる諸機関の間にはライヴァル関係が存在する。そのために、必要のない非効率が生まれ、資源が無駄遣いされてしまう。一方、時代遅れの武器システムは、予算のかなりの部分を食いつぶしてしまう。

 

 募集、訓練、人材についての政策もまた時代遅れなままだ。装備と技術は20世紀中盤の戦争に対応するようになっており、インターネット上の諸問題、気候変動、伝染性の高い疾病、政治的な不安定から派生する脅威に対応することは難しい。軍の幹部は一人の例外もなく、アメリカ軍はより即応性と順応性を高める必要があると認めている。軍の構造に関するすべてが即応性とは真逆となっているのだ。

 

 良く考えられた、そして大胆な内容の改革案は既にたくさん発表されている。議会の協力を必要とするものもあるし、行政府内の対応だけで実現するものもある。こうした改革に関しては基本的に予算の増額は必要ではない。国防予算が大きくなったからと言って、そのお金のほとんどが組織の現状維持や更なる利権のために使われるなら、軍隊の効率性を高めることにはならない。逆に、国防予算が小さくなっても、正しい行動が最優先されるなら、軍隊の効率性を損なうことにはならない。

 

オバマ大統領が残された任期内で軍の改革と再構築を完成させることは不可能だ。しかし、彼は最後の1年で改革案を明確にすることはできる。そして、国防総省の官僚組織と連邦上下両院の軍事員会の議員たちに危機感を持たせることは可能だ。軍の改革は党派の絡む問題ではない。そして、オバマ大統領は連邦議員たちの中で味方を見つけることが出来るだろう。

 

(3)情報・諜報部門の改善

 

 「情報・諜報共同体(the intelligence community)」という言葉に私は違和感を持っている。共同体という言葉から、私はアメリカにある17の情報・諜報機関の職員たちが一緒になってお祭りをやったり、バーベキューをやったりしている、そんな姿を連想してしまうのだ。実際には、17の機関はそれぞれ別の方向性で仕事を行っている。911事件の後に国家情報局が創設された。しかし、各機関の協力と情報共有は進まず、官僚的なままとなっている。

 

 アメリカの情報・諜報機関は多額の予算を食いつぶしている。アメリカの情報・諜報部門の諸機関が持つ技術的な能力の卓越性は疑いようがない。世界の通信を傍受することができる。世界各地で行われる秘密のミサイル発射テストの種類を全て分類することが出来る。またその他様々な能力を持っている。こうした卓越性を持つので、アメリカ国民は、アメリカの情報・諜報部門にはこれもまた素晴らしい予測能力を持つはずだと考えている。しかし、情報・諜報部門は911事件、アラブの春の発生、イスラミック・ステイトの台頭を予測することが出来なかった。また、ロシアのウクライナ侵攻、パリでのテロ攻撃なども予測できなかった。彼らは居心地の悪さを感じているだろう。

 

ニューヨーク・ヤンキースの名捕手だったヨギ・ベラはかつて、「予測をすることは難しい、特に将来に関する予測は」と語った。それはその通りだ。しかし、情報・諜報部門の予測に関するこれまでの記録は失望するものだ。特に、多くのNGOとジャーナリストたちと比べるとその酷さは際立つ。

 

そんなことがどうして起きるのか?ひとつには、官僚制の中で見失ってしまう重要な証拠をNGOやジャーナリストたちが手に入れることは簡単なことなのだ。情報を収集するためのプログラムは存在するのだが、問題は改善されておらず、更にひどくなっている。データが多くなれば多くなるほど、より雑音が多くなる。分析をすればするほど、点と点を結び付けづらくなり、予測が難しくなる。

 

 一方、CIAが対テロリズムのための準軍事的な作戦実行を行うようになり、エネルギーと物理的な資源が分析と長期的な戦略立案・遂行から奪われてしまっている。また、冗長・諜報部門の人材に関して、必須の言語能力を備えている職員は払底している。2013年の報告によると、アメリカの情報・諜報部門全体で中国語を話せる人材はわずか903名であり、アラビア語を話せる人材は1191名に留まった。アメリカは国内に多様性を持つ数少ない国のひとつだ。国内には世界各国からの移民がやって来て、活動的な移民共同体を形成している。家ではアラビア語を話す人たちは100万人以上いるし、中国語を話す人々は300万人もいるのだ。しかし、情報・諜報部門に在籍する職員の大多数は白人男性のままだ。世界人口の約4分の3が非白人で、約半数は女性であるのに、そんなことで世界を理解することはできない。

 

 アメリカ軍の改革と同様、情報・諜報機関の中身のある改革には数十年という時間を要するだろう。それにもかかわらず、オバマ大統領は最低限、現在の諸問題に関する明確な分析結果と変革のための具体的な青写真を残しておくべきだ。青写真には、重複する部門の廃止が含まれるべきだ。具体的には、CIAの準軍事部門の廃止(軍部門がうまくやっているのにCIAがそれをやる理由はどこにある?)、テロリズム対策プログラムの再構成、優先順位の明確化(情報・諜報に関する優先順位を決定する際の政治的な影響を小さくする)、外部からの監視の改善、政策立案者へ少数派の考えを伝達する方策の改善と最新化、そして言語的、文化的に多様な人材の採用のための新しい試み、が挙げられる。

 

(4)ホワイトハウスの国家安全保障会議の改革。

 

 民主、共和両党の国家安全保障問題の専門家たちを団結させる問題があるとすれば、それは、オバマ政権の国家安全保障担当スタッフに対する不満の共有ということになる。国家安全保障会議は規模が大きくなりすぎており、政治家と経験不足の選挙スタッフばかりが入っており、低いレヴェルのマネイジメントばかりやっている。各政府機関から大統領への政策案を伝達するよりも、政策立案にばかり集中している。ロバート・ゲイツ元国防長官が回顧録の中で述べているように、「私、クリントン国務長官(当時)、パネッタCIA長官(当時)や他の人々は、オバマ大統領のホワイトハウスが国家安全保障問題に関する全ての政策とその実施を厳しくコントロールするという決心を思い知らされた。オバマ大統領は、国家安全保障に関してホワイトハウスに集中させ、コントロールした。これはリチャード・ニクソンとヘンリー・キッシンジャー以来のことであった」。当然のことだが、国家安全保障会議に関しては超党派で合意できる実質的な解決策がある。それは、国家安全保障会議をより小さく、風通しを良くし、硬直性と情報の集中を緩和させ、更に現場に近いレヴェルで効率的な問題解決を行うようにすべきだ。ホワイトハウスに何でも集中させるのではなく、行政府の各政府機関に任せるところは任せるべきだ。

 

 軍と情報機関の実効性のある改革には、議会による関与も必要となるであろうが、大統領自身でこの改革をしっかりと進めることが可能だ。確かに、こうした改革を次の大統領に押し付けてもよいだろうが(もちろん次の大統領もすぐに改革をしなくてはならないと気付くだろうが)、今からでもすぐに国家安全保障会議の改革をスタートさせ、次の大統領の負担を少しでも減らすべきではないか?

 

これまでに挙げた「やるべきことリスト」に載せるべきものの中で、派手なものはないし、オバマ大統領の支持率を上昇させるようなものもない。しかし、彼はこれからどんな公職にも立候補して選挙戦を戦うということはない。だから、大統領、残された仕事をどんどん片付けていきましょう。

 

 

※ローザ・ブルックス:ジョージタウン大学法科大学院教授、ニューアメリカ財団シュワーツ記念上級研究員。2009年から2011年にかけて政策担当米国防次官顧問を務めた。また、米国務省の上級顧問も歴任した。

 

(終わり)






 
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