古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2016年07月

 古村治彦です。

 

 今回は、Unionという言葉の意味について考えてみたいと思います。Unionを辞書で調べてみれば、結合、団結、連合といった意味が書かれています。

 

 私たちが知っている使い方では、労働組合はlabor unionがあります。これは労働者が団結して、労働に関する権利を守り、団体交渉を行うためのものです。最近、イギリスで国民投票が行われ、イギリスが脱退することが決まったのが、ヨーロッパ連合ですが、これはEuropean UnionEU)です。

 

Unionの動詞がUniteです。団結する、連合するという意味になります。50ある州(state)が連合している国です。イギリスは、United KingdomUK)です。イギリスの正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」です。ブリテン島にあるイングランド、ウェールズ、スコットランド、そして、アイルランド島の北部が連合して王国を形成しています。私はラグビーが好きですが、古くはファイヴ・ネイションズ、今はシックス・ネイションズという、ラグビーの6カ国対抗戦があります。これに「イギリス」ティームは参加していません。イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、フランス、イタリアが参加して、ホームアンドアウェイ方式で戦います。

 

イギリスの国民投票で興味深かったのは、投票の結果に地域差があって、スコットランド、北アイルランド、大都市ロンドンではEU残留が大勢を占め、ロンドンを除くイングランドとウェールズはEU脱退が大勢を占めたことです。そして、スコットランドでは、スコットランドだけはEUに残留できるようにしたいという動きになっています。「イギリスって昔連合王国って習ったけど、実際にそうなんだなぁ」と改めて思いました。

 

 国際連合はUnited Nationsです。これは中国では「聯合國」となります。第二次世界大戦時に、枢軸国(Axis)と戦った連合国(Allied Powers)が戦後の枠組みとして、自分たちを常任理事国として作った組織ですから、「連合国」と訳すべきですが、今は世界のほとんどの国々が参加していますから、諸国連合ということになります。

 

 アメリカ合衆国はUnited States of AmericaUSA)です。これは全米50州(state)が連合した国ということです。独立した時は13州でしたが、それがどんどん拡大していきました。Stateという言葉は、国家を意味することもあります。全米各州には外交権と通貨発行権はありませんが、州兵(national guard)はいますし、ほぼ国のような機能があります。カリフォルニア州の州旗には、「Republic of California」と書かれています。

 

 アメリカ合衆国のUnionが崩れそうになったことがあります。それが1861年から1865年にかけて起きた南北戦争です。南北戦争といいますが、英語では、The Civil Warで、「内戦」という意味になります。Theがつきますので、特別な、これからもないであろうというくらいのことになります。アメリカが、北部各州のアメリカ合衆国と南部各州のアメリカ連邦(Confederate States of America)に分かれて戦いました。

 

 アメリカ史上最高の大統領は誰か、という質問があると、いつも一番になるのが、エイブラハム・リンカーンです。日本でも奴隷解放を行い、「人民の、人民による、人民のための政府」という言葉を残した人物として有名です。しかし、彼がアメリカ史上最高の大統領と言われているのは、アメリカの分裂を阻止することが出来たからです。これは、故小室直樹博士の著作に繰り返し書かれていたことです。

 

 アメリカで毎年1月に大統領がアメリカ連邦議会で演説を行いますが、これを一般教書演説と言いますが、英語では、State of the Union Addressと言います。State of the Unionというのは、「連邦国家(United States)であるアメリカの現状(state)」を述べるものであり、The Unionとはアメリカを示す言葉です。元々は大統領が演説をするということはありませんでした。アメリカ大統領は連邦議会への出席は認められていません。ですから、教書(message)を議会に送付して、アメリカの現状を報告するということになっていました。それが20世紀になって連邦上院と下院の議員たちと行政府、立法府の最高幹部たちが集まって、その前で演説するという一大イヴェントになっています。この時は、全米のテレビやラジオはほぼ全て生中継します。

 

 私がなぜこんなにUnionという言葉にこだわって文章を始めたかというと、United KingdomEuropean UnionUnited Statesで、Unionが崩れていく状況になっているからです。簡単に言うと、分離や反目、亀裂に敵対が蔓延する状況になっています。EUは、「20世紀前半に2度もヨーロッパを破壊し尽くした戦争を再び起こさないためにも、ヨーロッパが1つになるべき」という理念のもとに20世紀後半をかけて作られたものです。

 理念と裏腹にある現実は、「何かあれば対外膨張主義に陥りやすいドイツを抑える」というものでしたが、今や
EUはドイツを中心に回っています。イギリスはEUの主要なメンバーですが、ドイツやフランスほどの存在感がありません。そうした中で、「EUなんかにいてもいいことないし、かえっておカネを取られて、嫌なこと(移民の流入)はやらされる」という感情がイギリス国内にあり、大接戦ではありましたが、イギリスはEuropean Unionから脱退することになりました。


 もっと言えば、ナチス時代に既にドイツは「ひとつのヨーロッパ」という構想を立てていました。EUはその現代版ですが、ナチスの考えたヨーロッパ連合は、ヨーロッパ諸国がドイツに奉仕するための構造(日本の大東亜共栄圏とよく似ています)ですが、今は、名目上はそうではありませんが、現実はドイツを盟主にしている構造になっています。
 

 先ほども書きましたが、興味深いことに、イギリスの国民投票では、地域差がはっきり出ました。スコットランド、北アイルランド、ロンドン大都市部ではEU残留が多く、ウェールズとロンドンを除くイングランドはEU脱退が多くなりました。そして、スコットランドはEU残留を求めて独自に動こうという動きが出ています。ここでUnionが崩れそうな動きになっています。スコットランドでは以前に、連合王国から脱退するかどうかで住民投票があって僅差で否決されていますが、こうした動きも再び活発化するでしょう。連合王国の一部が脱落するということになります。Unionが壊れるかもしれないということです。

 

 アメリカではこのように州で分離独立の動きはありませんが、以前、このブログでもご紹介しましたが、カリフォルニア州南部、ロサンゼルスからさらに50キロほど南にあり、ディズニーワールドがあるアナハイムを中心とした地域で、「カリフォルニア州から離れて、アリゾナ州に入りたい」という動きが起きて、住民投票がありました。カリフォルニア州から離れたいと主張した人々の理由は、「カリフォルニア州はリベラルな政策ばかりだ。そのために税金が高い。自分たちは保守的な考えを持っている。年収も高い分、税金をたくさん取られて嫌だ。だから、保守的なアリゾナ州に入りたい」というものでした。

 

 アメリカでは、共和党と民主党が強い、レッド・ステイトとブルー・ステイトと呼ばれる州に分かれています。レッド・ステイトは共和党(イメージカラーが赤)、ブルー・ステイトは民主党(イメージカラーが青)が強いです。これが顕著に出るのが大統領選挙です。アメリカ南部から中西部にかけてはレッド・ステイト、西海岸、東海岸の大都市がある州はブルー・ステイトとなっています。もちろんそれぞれには反対の考えを持つ人々も多く住んでいますが、大勢ではこのようになっており、「アメリカの(イデオロギー上の)分裂」が語られます。ですから、2000年以降のアメリカの大統領選挙では、勝者も敗者も「分裂ではなく、団結を」という演説を行っています。また、オバマ大統領が無名の存在から飛び出してきたのは、「アメリカは、アフリカ系、アジア系、などに分裂しているのではなく、United States of Americaなのだ」という演説をして注目されるようになってからです。

 

 しかし、アメリカの政治家たちがアメリカ国民のUnionを強調するのは、現実では様々な亀裂が入っていることを示しています。著名な政治学者であった故サミュエル・ハンティントンは、最後の著書『分断されるアメリカ』の中で、「アメリカはホワイト・アングロサクソン・プロテスタント(White Anglo-Saxon Protestant)の国なのだ」ということを書きました。そして、文化相対主義(移民してきた人々の元々の文化や伝統を尊重する)を批判しました。それは、「アメリカがアメリカではなくなる」という危機感でした。アメリカで人口が増えているのは、ヒスパニック系やアジア系です。白人(白人の中でも区別があって、イタリア系やアイルランド系、ポーランド系はカトリック教徒が多いということあって非WASPということで差別されました)の人口に占める割合はどんどん小さくなっています。恐らく過半数を割っているでしょう。

 

 私が小さい頃は、アメリカは「人種のるつぼ(melting pot)だ」と習いました。これは、どんな人種の人でも、アメリカ人になるのだということでしたが、今は、アメリカは「サラダボウル(salad bowl)だ」ということになっています。レタス、トマト、きゅうりとそれぞれ違う野菜が一つのサラダを形成するので、それらが溶け合って姿を消してスープになるのではなく、個性を主張するのだということになっています。

 

非白人の人たちが身体的に肌の色を変えることはできませんし、そんなことは全くもって何も要求しないが、アングロサクソン・プロテスタントの文化やそれを基礎にした制度(今のアメリカの政治や経済、社会制度)を受け入れることを、アメリカ白人は求めています。ですが、良く考えてみると、非白人の人たちは何もアメリカの政治、経済、社会制度を乱そうとしている人などほとんどいません。それどころか、デモクラシーや三権分立は素晴らしいし、世界に誇れることだと思っています。

 

 だから、「制度や文化を身に着けてほしいだけ」という綺麗ごとをはぎ取ると、「自分たちの分からない言葉で書かれた看板が街中にあることや、自分たちの分からない言葉で、大声で会話することを止めて欲しい、それはとても恐いことだから」ということになります。フランス語やドイツ語、スペイン語であればまだアルファベットですし、同じ単語を使っていたり、類推できる言葉があったりで、まだ許容できるが、アラビア語や漢字、ハングルで書かれたものが街中にあるのは怖いことです。自分たちが理解できないものが身近にあることで誰でも違和感を持ちます。それは当然のことです。

 

 そして、そういう自分たちの分からない言葉を使い、身近ではない文化を持っていて、それを手放そうとしない人たち、に対する反感が出てきます。それがアメリカとイギリスで起きていることの原因です。「分かり合いましょう」といくら口で言っても、あまり意味はありません。怖いと思っている方がわざわざ近づこうとはしませんし、思われている方は、思われている方同士で固まってしまいます。そして、敵対してしまう、分裂してしまうということになります。

 

 国家という枠組みが近代から現代にかけて出来ました。国家は国民がいて、国境線があって(国土があって)、政府があって成立します。そうした国家同士が戦争をしないようということで、20世紀には国際連盟(League of Nations)が作られ、戦後は国際連合が作られました。また、地域的な結合で言えば、ヨーロッパ連合ということになります。

 

 近代は、ナショナリズム(Nationalism)を基盤とした国民国家を生み出しました。そして、国家を超えるためのグローバリズム(Globalism)を基礎にして国際機関を生み出し、かつ人間や資本の移動の自由を追求しました。EUはその中間にあるリージョナリズム(Regionalism)の産物と言えるでしょう。

 

 ナショナリズムは加熱すすると他国との摩擦を生み出し、それが戦争にまで結びつくという考えから、国家を超える機関の存在が考えられるようになりました。

 

 現在、アメリカとイギリスで起きていることは、国民国家に大きな亀裂を生み出しています。保守とリベラルというイデオロギー上の亀裂はこれまでもありましたが、ナショナリズムと排外主義・差別主義が結びつくことで、ナショナリズムが変質してしまい、攻撃的・後ろ向きの面が強調されることで、それを支持する人とそうではない人で国が分裂しかねない状況になっています。アメリカで言えば、レッド・ステイトとブルー・ステイトの存在、イギリスで言えば、連合王国からの脱退を考えるスコットランドといった存在です。

 

 そして、こうしたナショナリズムの変質をもたらしたのは、グローバリズムとリージョナリズムの深化です。グローバリズムとリージョナリズムによって、人の資本の移動は自由になり、活発になることで利益を得られる人とそうではない人が出てきます。パナマ文書事件が起き、「大金持ちは支払うべき税金を逃れる手段を色々と持っており、それを利用してずるい、不公平だ」ということになりました。また、移民がやってきて、安い賃金できつい労働をやることで、自分たちに仕事が回ってこないという不満も高まりました。

 

 このような社会・経済・政治不安から、既存の枠組みに対する不信が出てくる、そういう時に、歯切れの良い言葉で自分たちの「敵」を教えてくれる人を指導者に仰ぎたくなる、その人に任せて自分たちの不安を解消したいという思いが出てきます。それを掴んだのがヒトラー(彼はユダヤ人が元凶だと言いました)であり、イギリスのEU脱退派のリーダーたち(彼らはEUと移民が悪いと言いました)であり、トランプ(不法移民とイスラム過激派とヒラリーこそが彼の言う敵です)です。

 自由主義の考えからすると、国家とは構成する個人の利益を追求するためのものですが、同時に、相互扶助ということも重要な要素となります。人間社会においては、どうしても能力の差(いわゆる頭がいいとか悪いとか、体の機能の差)が出ます。それを全て埋めて平等にすることはできません。しかし、最低限の生存(日本国憲法にある「健康で文化的な最低限度の生活」)は保障することが近代の成果です。そして、そのための機能として国家がリヴァイアサンではあるが、その必要悪として受け入れて、出来るだけ悪いことをさせずに構成する個人の利益に資するようにすることが政治家の役目です。その枠組みが崩れそうになっているのが世界各地で見られる現象から分かる現状であると思います。

 強いリーダーたちに任せてみたい、そして大きな変革をして欲しいというのはこれまでも起きたことですし、これからも起きるでしょう。しかし、実際には、何も大きな変革、革命などは起きません。革命が起きれば新たな抑圧と不満が出てくるだけです。ですから、今ある枠組みを、まるで古ぼけた、故障がちのエンジンを修理しながら車をのろのろと走らせながら、道を進んでいくことしかありません。毎日、ぶつぶつと愚痴を言いながら進んでいくしかありません。その最低限の枠組みが、現在は国家であり、民主的な政治制度ということになります。そして、これらを担保するunionを何とか保っていけるようにするしかありません。 

 

(終わり)





 
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 古村治彦です。

 

 2016年7月25日(日本時間だと26日)から民主党全国大会が始まりました。バーニー・サンダース支持者の野次とブーイングが響く中で、不穏な空気を伴いながら、演説が続きました。ミッシェル・オバマ大統領夫人、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員、バーニー・サンダース連邦上院議員が演説を行いましたが、この不穏な空気は払しょくされませんでした。ヒラリー・クリントン自身は姿を見せず、夫のビル・クリントン元大統領とティム・ケイン副大統領候補の姿がありました。

 

 これだけ不穏な空気になったのは、先週の金曜日にウィキリークスが、民主党全国委員会のEメール2万通をリークし、その中に、バーニー・サンダースの予備選挙での躍進を妨害したいという内容のものが含まれていたことが導火線になりました。サンダースの名前を出さないで、「候補者が困るような質問が出来ないか」といった内容のEメールがありました。こうしたEメール2万通は匿名の人物からウィキリークスに送られてきたということです。

 

 その中には、デビー・ワッサーマン=シュルツ民主党全国委員長(フロリダ州選出連邦下院議員)のEメールも含まれていました。彼女はヒラリーが勝つべきだという内容のEメールをヒラリー支持の全国委員会のスタッフに出していました。民主党全国委員会がヒラリーに肩入れをしているという非難は予備選挙中ずっとサンダース支持者たちから上がっていました。少なくとも公正中立であるべき予備選挙実施団体のトップがスタッフが、ヒラリーを支持していたということが明らかになって、サンダース支持者の怒りは頂点に達しました。

 

 ワッサーマン=シュルツは全国大会後の委員長辞任を発表しましたが、サンダース支持者はこれでは収まらないでしょう。民主党特有の制度である特別代議員制度の撤廃をはじめとする民主党内部の改革を求めるでしょう。そして、これが不十分に終わるなら、ヒラリーには投票しないということになり、ヒラリーの大統領選挙当選は危うくなります。

 

 民主党予備選挙は、伏兵のバーニー・サンダースが大躍進し、善戦し、ヒラリーを追い詰めました。サンダース支持者はヒラリーがイラク戦争に賛成したこと、国務長官時代にリビアのベンガジで失敗したことやISの台頭を許したことを批判してきました。これはトランプ支持者と同じ主張となります。ですから、彼らの中にはトランプへ投票する人たちも出てくるでしょう。もしくは第三党である緑の党のジル・スタインに投票する人が多くなるでしょう。共和党側で言えば、リバータリアン党のゲイリー・ジョンソンに投票する人たちが出てくるのと同じです。

 

 民主党としては、サンダース支持者に対して、改革を約束し、全国委員会の幹部スタッフを更迭するという低姿勢を見せながら、「皆さんはドナルド・トランプを勝たせて、大統領にしてもいいのですか」と訴えることしかできません。「ヒラリーとトランプでどちらがよりましですか」と彼らに聞くしかありません。しかし、彼らにとって恐ろしいことは、「ネオコンに近いヒラリーよりも、トランプの方がましだよ」と答える人たちが出てくるであろうということです。

 

 おそらく、サンダース支持者たちの過半数は、「トランプも酷いし、ヒラリーに入れるしかないか」といやいや、渋々、目に涙を浮かべながら、ヒラリーに投票するでしょう。

 

 私は「8対2」でヒラリー優勢だと考えてきましたが、2つ目のEメール問題で、「6対4」でヒラリーやや優勢の状況になったと考えています。トランプはここを先途と、サンダース支持者を対象に切り崩しの攻撃を行い、「サンダースと闘うはずだった、それならタフな闘いになっただろう。私はサンダースの敵ではない、サンダースの敵はヒラリーと民主党だ」「予備選挙自体が無効なのだから、ヒラリーを民主党の大統領選挙候補者としては認めない」という発言をするでしょう。

 

 民主党とヒラリーは防戦として、「差別主義者で生まれながらの金持ちであるトランプをあなたは支持するのですか」「女性を侮辱し続けてきたトランプを選ぶのか、女性でも大統領になれることを証明することに参加するのか、どちらですか」といった主張を行うでしょう。また、「人権抑圧国で、周辺国への侵略を行っているロシアに対してトランプは友好的だ。ヒラリーは厳しい態度で臨むと言っているので、このような謀略を仕掛けられたのだ。あなたは外国による選挙への介入を許しますか」という訴えも行うでしょう。

 

 私としては、民主党大会後の激戦州の世論調査の結果を注視したいと思います。その数字でまた私なりの予想を変えねばならないと思います。

 

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サンダースの支持者たちは、民主党全国委員会Eメールリーク事件で民主党の団結は崩れないと述べているが、抗議者たちはそうではないと叫んでいる(Sanders Backers Say DNC Leak Won’t Unravel Party Unity Bid — Protesters Say Otherwise

 

モーリー・オトゥール筆

2016年7月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/07/25/sanders-backers-say-dnc-leak-wont-unravel-party-unity-bid-protesters-say-otherwise/

 

フィラデルフィア発。民主党は、クリーヴランドで開催された共和党全国大会は決定的なものとなったと述べた。

 

 ヴァ―モント州選出連邦上院議員バーニー・サンダースの支持者たちは、ブーイングと「ノー」の叫び声の大合唱を行った。これは予備選挙で次点に終わったサンダースが彼が獲得した代議員たちに対してヒラリー・クリントンを支持し、ドナルド・トランプを倒すために団結して努力しようと述べた時に起きた。民主党全国大会を前にしてこのようなことが起きているのは前代未聞のことだ。フィラデルフィアでの民主党全国大会のテーマが「団結してより強く」であるのはあまりにも皮肉めいている。

 

 先週金曜日にリークされた20000通の民主党全国委員会のEメールは、2016年の米大統領選挙について影響を与えるためにロシアのハッカーたちによってリークされたと考えられている。サンダースの主要な支持者たちは、民主党全国委員会がサンダースに対して妨害活動をしていたことをEメールが示しているが、他のサンダース支持者たちがヒラリー・クリントンに投票することを妨げないと述べている。しかし、フィラデルフィアに集結しているサンダースが獲得した代議員と講義をしている人々は全く別のことを叫んでいる。

 

 サンダースは、民主党全国大会が開催されるスタジアムから数キロ離れた集会場に集まった彼が獲得した代議員たちに対して「今まさに、私たちはドナルド・トランプを打ち倒さねばならない」と語った。サンダースは月曜日の夜に民主党全国大会で基調演説を行う予定だ。サンダースは更に「私たちはヒラリー・クリントンとティム・ケインを当選させねばならない」とも述べた。

 

 サンダースが発言を続ける中で、集まった人々は「兄弟たち、姉妹たち、これが私たちの生きている現実世界だ」と叫んだ。

 

 現実世界は、ウィキリークスが民主党全国委員会のEメールをリークしたことによって衝撃を受けている。サンダースが彼の代議員たちを前に演説している最中に、民主党全国委員会のデビー・ワッサーマン=シュルツは『オーランド・サン・センティネル』紙の取材に対して、月曜日の午後に4日間にわたって行われる民主党全国大会の開会宣言を行う大役を辞退すると述べた。フロリダ州選出の連邦下院議員であるワッサーマン=シュルツは日曜日に、全国大会でのいくつかの仕事をこなした後に委員長職を辞任すると表明した。

 

 民主党全国委員会と独立系のアナリストたちは複数のハッカーに対するEメールのリークは、ロシア政府との関係があるのではないかと疑いを持ち調査を行っている。ここ数時起きていることはまさにロシア政府が意図したことであると彼らは考えている。民主党内部の亀裂がどんどん大きくなることでヒラリーへの支持は下がり、トランプにとっては大きな後押しとなる。トランプは共和党の大統領選挙候補者で、彼の選挙戦とビジネスはロシアに対して友好的であった。

 

 フィラデルフィアで抗議活動をする人たちを鎮める方法はない。また、全国大会会場で、ヒラリーと民主党全国委員会に対する反対を明確に記録に残すために候補者指名方法に関して動議を出す計画をサンダース派の代議員たちが出すことを止めることもできないだろう。彼らはヒラリーが不当に依怙贔屓をされて予備選挙に勝ったと不公平感を強めている。

 

 ジム・ゾグビーはサンダースの外交政策顧問であった。ゾグビーは、「民主党全国委員会はEメールのリークにおけるロシアの役割ばかりを強調しているが、銀行強盗をやった人物が、自分を警察に密告した人に文句を言っているようなものだ」と述べた。

 

 「これはよくある行動パターンだ。民主党全国委員会側はこれまで私を非難してばかりきたが、私はそんなバカなことはしてこなかった、他人に自分の間違いの原因を押し付けたりしなかった」と本誌の取材に対して答えた。集会所の外にはサンダース支持者が多数詰めかけていた。

 

 ゾグビーは、アラブ・アメリカン研究所の所長で、フィラデルフィアには特別代議員としてやって来た。また、民主党政策綱領作成委員会の委員であった。彼は長年にわたり、民主党全国委員会のメンバーだが、彼は、サンダースの支持者がヒラリー支持に移る純部は出来ていないと述べた。

 

 「彼らは民主党内のエスタブリッシュメントではない。何が起きるかは分からない」とゾグビーは述べた。

 

 ゾグビーは、サンダースとヒラリーの間には多くの問題で相違点があることは明らかで、これがサンダースの熱心な支持者たちを動かしているので、彼らがドナルド・トランプを倒すことに力を傾けるようには今のところなってはいない」と述べた。

 

 ジャスティン・モリットは月曜日に開催されたサンダースの代議員たちの集会に参加した。モリットはロビン・フッドの帽子をかぶり、自分がサンダースの代議員であることを示していた。彼はコネチカット州の労働組合活動家だ。彼は、サンダース支持者がヒラリー支持に合流できないのは、Eメールスキャンダルのせいではなく、彼女の外交政策がネオコンと同じであることだと述べた。

 

 モリットは「ロシア人を非難するのは簡単だが、今は冷戦下の1985年ではない」と本誌の取材に対して述べた。「問題はリークされたかどうかではなく、Eメールの中身だ。もっと大事なことは、彼女の外交政策だ。彼女の政策によって中東は不幸に見舞われた」とも語った。

 

 ホセ・ナヴァレットは学生で、パートタイム警察官候補生だ。彼はカリフォルニア州サンフェルナンドヴァリーからサンダースの代議員としてフィラデルフィアにやって来た。ナヴァレットは11月には第三党の候補者に投票すると述べた。

 

 ワッサーマン=シュルツが委員長を辞任するだけでは十分ではないとナヴァレットは述べた。

 

 「もし彼らがサンダース支持者の支持を得たいと思うのなら、民主党を本当に改革しなければならない」とナヴァレットは述べた。

 

 「私たちの目を開かせるために外国の力を使うのはどういうことだろう?私たちに何が起きているかを教えるのがロシア人だったのは悲しいことだ」とも述べた。

 

 しかし、サンダースの外交政策ティームのメンバーであったジョセフ・シリンショーンは、サンダースの支持者たちの態度に衝撃を受けていると述べた。シリンショーンは、サンダースがこれほど困らされ侮辱されている姿を見たことがなかったと本誌の取材に答えた。

 

 シリンショーンは、フィラデルフィアでは抗議活動をする人々は大声で叫ぶだろうと予想した。しかし、と彼は続けて、「彼らはサンダース支持者の大部分を代表する人たちではなく、大部分はヒラリー・クリントンが木曜日に指名受諾演説を行う前に既に、彼女を支持するだろう」と述べた。

 

 彼らは民主党全国委員会のEメールのリークにばかり関心を払い、ロシアが後ろについているハッカーたちがEメールをハッキングしたという疑惑には関心を払っていない、とシリンショーンは述べている。

 

 「これは前代未聞のことだ。1800年代初めのフランスのようだ。私たちは大統領選挙に対するあからさまな外国からの干渉が行われているのを目撃している。ロシアが何を望み、ドナルド・トランプが当選することが何を意味するのかについて全てのアメリカ国民に対して警報を発するべきだ」とシリンショーンは語った。

 

(終わり)







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 古村治彦です。

 

 現在、民主党全国大会がペンシルヴァニア州フィラデルフィアで開催されます。予備選で何とか勝利したヒラリー・クリントンがティム・ケインを副大統領候補に従えて、いよいよドナルド・トランプとの直接対決に臨みます。

 

 今回は、ヒラリーが抱えるスキャンダルについてまとめた記事をご紹介します。ヒラリーに対する攻撃はこれらのスキャンダルを基にして行われています。これから選挙戦が佳境に入っていきますが、攻撃もますます厳しくなっていきます。

 

 その時に、ヒラリーのスキャンダルがどのようなものであるかを知っておくと大変便利(ヒラリーにしてみれば大きなお世話ですが)と思います。

 ここでは詳しく書かれていませんが、ホワイトウォーター疑惑(事件)は、ビル・クリントンがアーカンソー州知事時代に友人と共同経営していた不動産会社で不正な取引を行っていたのではないかという疑惑が持ち上がり、追及されましたが証拠不十分に終わるということになりました。記事の最後に書かれている「フォスターの事件」とは、大統領の次席法律顧問のヴィンセント・フォスターが拳銃自殺をした事件です。フォスターはクリントン夫妻の親友で、右腕、側近でした(ヒラリーと法律事務所の元同僚で愛人関係にあったのではないかとさえ言われました)。フォスターはホワイトウォーター事件やビル・クリントンとモニカ・ルインスキーのスキャンダルについて真相を知る人物と目されていました。自殺の原因はよく分からないままに事件は幕引きされました。

 こうして見ると、「政治に関わることは怖い」と改めて思います。私たちが普段見ている政治の世界は表側だけで、裏側ではどんなことが行われているのか、すこし考えてみるだけで、恐ろしくなります。外側で愚痴を言ったり、批判をしたりをしている分には良いのでしょうが、自分が当事者として巻き込まれてしまうと、最悪命を失うことだってある世界だと、考えすぎかもしれませんが、思ってしまいます。そうした世界に40年もいるクリントン夫妻は神経が図太いのでしょう。

 ドナルド・トランプが生きてきたビジネス、経営者の世界もまた、やるか、やられるか、油断のできない世界であって、失敗して自殺する人が出る世界です。この世界で40年以上生き延びてきたのですから、トランプは何があってもびくともしない神経を持つ人です。そういう人でなければ1年以上の選挙戦を戦って大統領選挙候補者になることはできません。

 これからヒラリーとトランプの直接対決です。たとえると、お互いが超巨大戦艦で、お互いに大砲や魚雷を打ち込んで 、どちらが先に沈むかという一対一の戦いです。私は各種世論調査や大統領選挙のこれまでの結果(主に2000年以降)を見て、ヒラリーが優勢と見ています。

 しかし、ナチスドイツが持っていた超巨大戦艦ビスマルクは、イギリス海軍によって沈められました。ヒラリーを戦艦に例えると、既にベンガジ事件とEメール問題で損傷部分が出ていますから、ここを集中的に攻撃されると火事が起きて、その火事が延焼して、火薬庫に引火して大爆発、なることがあるかもしれません。私が「8対2」でヒラリー優勢と言っているうちの「2」はこの部分です。トランプはこの数字を増やしていきたいでしょうし、ヒラリーは何とか延焼を食い止めたいのです。

  民主党大会でも民主党全国委員会の幹部や委員長のEメールがリークされて(ロシアがヒラリーをけん制するためにやらせているということもあるでしょう)、大荒れになりそうです。民主党全国委員会側がヒラリーを贔屓にしてバーニー・サンダースを何とか脱落させようとしたという事件ですから、ヒラリーに直接関係がないと言えばそうですが、サンダース支持者は怒り心頭です。

 トランプとしてはここで民主党の団結に亀裂を入れて、ついでにサンダース支持者を何割かでも取り込みたいところです。サンダース自身がどのように動くかが注目です。しかし、表立って共和党のトランプ に投票しようと言うことはできないですから、大人の態度で、「謝罪や責任者の更迭、処分は要求するが、予備選をやり直すわけにもいかないので、ヒラリーを支持する」ということで一応は収まるでしょう。それでも失望したサンダース支持者が何割か離れていくでしょう。

 これからの注目は一対一の討論会です。8月、9月、10月にそれぞれ開催されますが、ここはまさに大砲、魚雷の撃ちあいです。私もこの討論会を見て、かつその時々の世論調査の結果を見ながら、情勢分析をしていきたいと思います。そこで、トランプ優勢となることは十分に考えられます。

 私が前回のブログ記事を書いた後に、ある友人から「あんなことを書かなきゃよかったのに」と言われました。私も少し後悔してします。情けない話です。しかし、前回の記事を書いたのは、あくまで、「7月のこの段階での世論調査の結果とこれまでの大統領選挙の結果を見ての情勢分析」のために書きました。 私は日本人ですので、ヒラリー、トランプどちらがなっても、日本にはまた一段と厳しい要求をしてくるだろうと思っていますので、そう考えると気が重くなります。ですから、ヒラリーに勝って欲しいと思って、前回の記事を書いたのではありません。勇み足で書いてしまいましたが、「現在の情勢と過去の大統領選挙の結果から見ると、8対2でヒラリー優勢だけど、これから100日以上もあるから情勢は変わる」と書くべきでした。

 長文になって申し訳ありません。ここまでお読みいただきありがとうございます。 


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ホワイトウォーターからベンガジまで:クリントン家のスキャンダル入門編(From Whitewater to Benghazi: A Clinton-Scandal Primer

―司法省がヒラリー・クリントンに対する捜査を打ち切ったが、国務省は彼女のEメールに関する捜査を再開している。

 

デイヴィッド・グラハム筆

2016年7月7日

『ジ・アトランティック』誌

http://www.theatlantic.com/politics/archive/2016/07/tracking-the-clinton-controversies-from-whitewater-to-benghazi/396182/

 

ヒラリー・クリントンはフライパンから飛び出して、火の中に入っている状況になっている。7月6日、ロレッタ・リンチ司法長官は司法省が民主党の大統領選挙候補者に内定しているヒラリー・クリントンが国務長官在任中に私的なEメールを使用していたことに関して、訴追しないと発表した。その翌日、AP通信は、刑事事件の捜査は終了したが、国務省は国務省で使われているEメールに関する調査を再開した、と報じた。

 

 国務省のジョン・カービー報道官はAP通信の取材に対して、国務省は、ヒラリー・クリントンとその当時の彼女の補佐官たちによって機密情報が適切に取り扱われていなかった可能性があると見ていると語った。ヒラリーと元補佐官たちは、秘密事項取扱の解除を含む行政処分を受ける可能性が高い。これは、ヒラリーの政治生命に傷をつけることになり、11月の本選挙勝利後に、彼女が国家安全保障政策ティームのメンバー選びを難しくすることになる。

 

 ジェームズ・コミーFBI長官は7月5日にヒラリー・クリントンの国務長官在任中の私的Eメール使用に関していかなる犯罪行為も見つからなかったので訴追には当たらないという声明を発表したが、ヒラリーが望んでいた完全な無罪放免とはならなかったことは記憶しておくべきだ。コミーはヒラリーのEメール使用に関して厳しく批判した。「クリントン国務長官と補佐官たちが機密情報の取り扱いに関する法律に意図的に違反していたことを示す証拠を見つけることはできなかった。しかし、極めて機密性の高い、取扱注意の情報を取り扱う際に、極めて不注意であったことを示す証拠は存在する」とコミーは述べた。ヒラリーは、同時機密であった情報のやり取りはしていないと主張していたが、FBIは彼女がやりとしたEメールの中で、110通の中に機密情報が含まれていたことを発見した。コミー長官は、ヒラリーのEメールがハッキングされたことを示す直接的な証拠はないと述べたが、同時に「合理的な人間がクリントン国務長官の地位に就いたら、攻撃されやすいシステムを使うべきではないことは分かるであろう」とも述べた。

 

 これらの発言はヒラリー・クリントンに関する判断は間違っていて、彼女の説明の前提が大きな矛盾を抱えていることを示している。コミーFBI長官は訴追できるだけの証拠は存在しなかったと述べたが、共和党はこの発表を、怒りをもって迎えた。コミーとリンチは連邦下院の委員会に召喚されている。連邦下院議長ポール・ライアンは、ヒラリーに非公開の公聴会を開催することを提案したが拒否された。トランプ旋風が吹き荒れる中、Eメール問題はとても珍しい現象を引き起こしている。それは、共和党が1つの問題で団結して行動している。ヒラリーは、不人気度が高く、信頼度が低い。そのヒラリーにとって、これらの動きはトラブルを増幅させることになった。この出来事を、ウォーターゲート事件で有名になった言葉「犯罪ではないが、もみ消しだ」の具体例だと評する人たちも多い。彼女は機密情報を送らなかったと主張したが、この主張はスキャンダルの解消には役立たなかった。犯罪ではなかったにしても、Eメールサーヴァーを巡ってダメージは蓄積した。

 

 コミー長官の一連の発言はヒラリーにとって悪いものであったが、Eメール問題についてあまり言いすぎるのは止めよう。ヒラリーにとって最悪のケースは、FBIが起訴を求めることであった。しかし、ほとんどの専門家たちは起訴されるべきではないと考えていた。もしリンチ司法長官が起訴提案を拒絶しても、起訴が提案された時点で、ヒラリーの選挙戦にとっては致命的なものとなったであろう。ヒラリーにとってこの2週間で2回目の一息つける時間ができた。2012年9月11日に発生したリビアのベンガジにあるアメリカ公使館の4名のアメリカ人殺害事件が発生した。事件を調査していた連邦下院特別委員会は6月28日に報告書を発表した。報告書で、在外公館の安全対策が不十分であったと批判しているが、ヒラリーが、攻撃があった夜にこれを無視していたことを示す証拠は見つからなかったとしている。

 

 まとめると、Eメール事件とベンガジ事件の調査は、ヒラリー・クリントンにすぐに降りかかりそうな危険(訴追)を取り除くことになった。しかし、ベンガジ事件の調査と底から派生したEメールスキャンダルは、ヒラリーの選挙戦を危うくする可能性がある現在進行形のスキャンダルだ。アメリカ国民はこれまでの数十年間、スキャンダルを見せ続けられることでそれが慢性通のようになり、そのためにビル・クリントンとヒラリー・クリントンを信頼できないとアメリカ人は多く存在する。多くのスキャンダルが火ではなく、煙の段階のものであり、中には全く費など存在しないものもあるが、スキャンダルによるダメージはリアルなものだ。

 

 連邦下院のベンガジ特別委員会はベンガジのアメリカ領事館攻撃に関してヒラリー・クリントンが国務長官として間違った行動を取ったことを示す証拠を発見できなかった。しかし、委員会の調査の過程で、彼女の私的Eメール使用問題が明るみに出た。これはクリントン一家のパターンといえるものであった。クリントン一家は1974年にビル・クリントンが初めて選挙に出て以降、人々の注目を浴び続けてきた。何か潜在的にスキャンダルの種になりそうなものが出てくるが、それは何でもないことが証明される。しかし、調査が進むと他の疑問となる行動が出てくるというのがクリントン一家のパターンだ。この典型例がホワイトウォーター事件だ。これは1978年にビルとヒラリーが行った不動産投資の失敗を巡る事件だ。操作では何も間違った行動がとられたことを示す証拠は見つからなかったが、捜査の過程でクリントン大統領の偽証と捜査妨害が明るみに出で、弾劾されることになった。

 

 ヒラリー・クリントンは民主党の大統領選挙予備選挙の過程で、ホワイトウォーター事件から国務省のEメール問題まで、クリントン関連のスキャンダル全てが細かく調べられている。汚職にまみれたニクソンや党派的な憎悪の対象となったジョージ・W・ブッシュなど含むあらゆるアメリカの政治家の中で、ビル・クリントンとヒラリー・クリントンほど、常に攻撃に晒され、それが一大産業になるほどにまでした人物たちは他に存在しない。それぞれのスキャンダルを追跡し、その発生原因、深刻度を見ていくのは詰まらない試みではない。ここに入門編としてこの論稿を書いていく。私たちは新しい情報が出てきたら更新していく。

 

●ヒラリー・クリントンの私的Eメールサーヴァー問題(The Clintons’ Private Email Server

 

・内容:ベンガジ事件の調査が行われている最中に、『ニューヨーク・タイムズ』紙のマイケル・シュミット記者は、ヒラリー・クリントンが国務長官在任時に私的なEメールアカウントを使用していたと報じた。このスキャンダルは、ヒラリーのニューヨークにある邸宅内に設置された私的なEメールサーヴァー使用にまで話が大きくなった。ヒラリーとスタッフはどのEメールを公的な記録して国務省に提出し、どれを提出しないかを決定した。彼らは、自分たちが私的なEメールだと判断したものはすでに廃棄したと述べた。

 

・期間:2009年から2013年まで(ヒラリー・クリントンの国務長官在任時)。

 

・人物:ヒラリー・クリントン、ビル・クリントン、フーマ・アベディンを含むヒラリーの側近たち。

 

・深刻度:深刻だが、大変深刻というところまではない。国務省の独立調査官は、5月に公表した報告書の中で、ヒラリー・クリントンのEメール使用は深刻な誤りであったと述べた。しかし、ロレッタ・リンチ司法長官は7月6日、司法省は刑事事件として起訴しないと発表した。これによって起訴されないということになり、ヒラリーの選挙戦にとって大変重要な出来事になった。しかし、Eメール問題は、これからも彼女にずっとまとわりつくスキャンダルとなるであろう。ジェームズ・コミーFBI長官は、ヒラリーの行動について厳しい発言を行った。「クリントン国務長官と補佐官たちが機密情報取り扱いに関する法律を意図的に破ろうとしたことを示す証拠を発見することはできなかったが、取扱に注意を要する極めて機密性の高い情報の取り扱いに関して極度に注意不足であったことを示す書庫は存在した」とコミー長官は述べた。この発言は、選挙期間中、ずっと繰り返されることになるだろう。ヒラリー・クリントンの使っていたサーヴァーがハッキングされたのかどうかという疑問にはまだ答えがない。コミー長官は、FBIはハッキングされたことを示す証拠を発見できなかったと述べたが、「“直接的な”証拠は発見できなかった」とも述べた。最近になって公表された宣誓証言書の中で、フーマ・アベディンはEメールの脆弱なセットアップについて不満を漏らしており、「このシステムは良くない」と言っていたということが明らかにされた。

 

●ヒラリー・クリントンの国務省Eメール問題(Clinton’s State Department Emails

 

・内容:ヒラリー・クリントンの私的なEメールサーヴァーの問題を別にして、ヒラリーが国務省に提出したEメールには何が書かれていたのかということも問題になっている。ベンガジ問題に関するEメールのいくつかが公表されたが、公的記録法によってその他のEメールは公表されていない。しかし、これらも公表に向けての過程の中にある。

 

・期間:2009年から2013年まで

 

・深刻度:深刻だが、そこまで深刻ではない。政治関係者たちはEメールの中からヒラリーにダメージを与えるような文言を見つけることを期待していたが、そのだいぶ部は退屈な内容であった。中にはシドニー・ブルーメンソールからのEメールのように興味深い内容のEメールが発見されることもあった。よりダメージが大きいのは、110通のEメールの中に、当時は機密指定された情報が書かれていてやり取りされたという事実だ。ヒラリーはずっと機密情報のやり取りはしなかったと主張していた。一方、いくつかのEメールは徐々に公開されつつある。国務省は、裁判所の命令を受けて、ヒラリーが提出したEメールを少しずつ公開している。しかし、彼女が提出しなかったEメールも存在するが、これらは裁判闘争の中で明らかにされつつある。特に、保守派のグループであるジュディシャル・ウォッチが行っている裁判で、ヒラリーが提出しなかった160通余りのEメールが公表されつつある。そして、どうしてこれらのEメールが国務省に提出されなかったのかという疑問が湧いて出てくる。 有る機会に、ヒラリーは、彼女の提出したEメールがどのように取り扱われるのか知らないと語った。「私は私の書類が国務省でどのように取り扱われているか知らなかったことに気付いた。誰が私の個人的なファイルと職務上のファイルを管理しているのだろうか?」と述べた。

 

●ベンガジ問題(Benghazi

 

・内容:2012年9月11日、リビアのベンガジにあるアメリカ領事館に攻撃が行われ、クリス・スティーヴンス大使と3名のアメリカ人が殺害された。事件発生以降、共和党は、ヒラリー・クリントンがアメリカの在外公館の安全対策を怠った、また、彼女はテロリストが攻撃を計画していたことを知りながら、攻撃が自然発生的なものだったと思わせようとした、として非難している。ヒラリーは2012年10月22日に最初の議会諸言を行った。

 

・期間:2012年9月11日から現在まで。

 

・深刻度:6月28日に連邦下院ベンガジ問題特別委員会は報告書を発表した。これ以降、ベンガジ事件に対する関心は低下している。報告書では、ベンガジのアメリカ領事館を含むアメリカの海外公館の防御態勢が準備不足であると批判している。しかし、確固とした証拠も攻撃があった夜にヒラリーが行うべきであったことについての失態も新たに発見できなかった。保守派の人々は彼女をベンガジ試験で攻撃し続けたいのであろうが、彼女にとっての最大のダメージはクリントン一家のパターンが繰り返されたことで起きた。連邦下院のベンガジ事件調査の過程で、ヒラリーにとって大きなダメージであるEメール問題が明らかにされたのだ。

 

●国務省における利益の衝突(Conflicts of Interest in Foggy Bottom

 

・内容:ヒラリー・クリントンの国務長官首席補佐官に就任する前、シェリル・ミルズはニューヨーク大学に勤務しながら、4カ月無給で国務省でも勤務をした。彼女はこの時、ニューヨーク大学がアブダビに進出し、キャンパスを建設するための交渉においてその地位を利用したとされている。2012年6月、当時の国務長官次席補佐官のフーマ・アベディンの地位が「特別公務員」に変更された。これによってアベディンは、ビル・クリントンの右腕と呼ばれた人物が経営しているコンサルタント会社「テネオ」に勤務することが出来た。アベディンはクリントン財団からも給与をもらい、同時にヒラリー・クリントンから直接お金をもらっていた。これらのケースとは別に、クリントン財団への最大の献金者であるラジフ・フェルナンドは国務省の国際安全保障顧問会議のメンバーに選ばれていた、とABCテレビが報じた。フェルナンドは他のメンバーに比べて委員会のメンバーにふさわしくないことは明らかであったが、国務長官オフィスの強い要請でメンバー入りとなった。内部のEメールのやり取りでは、国務省の職員は最初、ヒラリーのためにこのことを隠そうとしたことが明らかになった。ABCの報道から2日後、フェルナンドは会議のメンバーを辞任した。

 

・人物:シェリル・ミルズとフーマ・アベディンはヒラリーの長年の側近である。アベディンは現在、ヒラリーの大統領選挙ティームに参加している。また、アベディンはアンソニー・ウェイナーと結婚している。

 

・期間:2009年1月から2013年2月まで。

 

・深刻度:これは不思議な内容のスキャンダルだ。そこには利益の衝突に関する疑問が起きる。例えば、アベディンがテネオと国務省両方に勤務していた時、テネオの顧客は国務省から特別な取り扱いを受けたのかどうか、という疑問が出てくる。簡単に言うと、クリントン財団とビル・クリントンとヒラリー・クリントンの役割との間で利益の衝突があったということなのである。

 

●シドニー・ブルーメンソール(Sidney Blumenthal

 

・内容:ブルーメンソールは元ジャーナリストで、第2期ビル・クリントン政権で大統領補佐官を務めた。この時代に様々なスキャンダルに見舞われたクリントンを助けた。ブルーメンソールは2008年のヒラリー・クリントンの大統領選挙ティームの顧問を務めた。そして、ヒラリーが国務長官に就任した時、ブルーメンソールを国務省に迎えようとした。オバマの側近たちは、選挙期間中にオバマ候補に対する激しい攻撃を企図したのはブルーメンソールだったことを知っていたので、ヒラリーの要請を拒絶した。そこで、ヒラリーは、ブルーメンソールを非公式に顧問として迎えた。同時期、ブルーメンソールはクリントン財団から給与を貰っていた。

 

・期間:2009年から2013年まで。

 

・深刻度:中程度。ヒラリーは既にある程度のダメージを受けている。「ベンガジ領事館への攻撃は自然発生的なものだった」というシナリオのアイディアを出したのはブルーメンソールであった。しかし、このアイディアは間違いで、ヒラリーとオバマ大統領に対する政治的攻撃の道具となってしまった。ブルーメンソールはこの他にも様々な問題について国務長官であったヒラリーに助言を行った。北アイルランド問題や中国問題など様々な問題でもアドヴァイスを行った。また、ブルーメンソールは、息子のマックスを通じて自分の分析をヒラリーに届けていた。マックスはイスラエル政府を激しく批判している人物で、保守派からは嫌われている。しかし、公開されたEメールによると、ヒラリーの外交政策に関する首席アドヴァイザーのジェイク・サリヴァンは、ブルーメンソールの分析を否定し、ヒラリーがブルーメンソールの判断に信頼を置いていることに疑問を呈していたことが明らかになった。

 

●各種講演(The Speeches

 

・内容:ビル・クリントンが2001年に大統領職を退いてから、クリントン一家は講演を行って数千万ドルを稼ぎ出した。

 

・期間:2001年から現在まで。

 

・人物:ヒラリー・クリントン、ビル・クリントン、チェルシー・クリントン

 

・深刻度:一時的には危険だ。しかし、ぱっと燃え上って、鎮火するだろう。バーニー・サンダース連邦上院議員は、2016年初めに、ヒラリー・クリントンはゴールドマンサックスのような大銀行で講演を行っており、彼女はウォール街に妥協的だと批判したが、この攻撃は有効であった。ヒラリーは講演記録を公表すべきだという要求が今でもなされている。彼女はこの要求を拒否した。「他の全ての候補者がこれまでの講演の記録を公表するなら、私も従う」と述べた。クリントン一家は、スキャンダルにまみれ、司法の調査を受けながらホワイトハウスを後にした。そんなクリントン一家にとって、元大統領という肩書を使ってのお金儲けができる講演会は、富を再形成するためにはうってつけの方法であった。しかし、こうした講演会については様々な疑問が出てくる。ビル、ヒラリー、チェルシーはどこで講演を行ったのか?講演料の金額はどのように決まったのか?彼らは講演で何を語ったのか?彼らはどの講演がクリントン財団を通じた慈善事業のもので、どの講演が個人の収入となる公演となるかをどのように決定したのか?ビル・クリントンが以前に国務省とビジネスを行った顧客のために講演を行うというような、利益の衝突や利益供与のケースは存在するのだろうか?

 

●クリントン財団(The Clinton Foundation

 

・内容:ビル・クリントンは1997年に財団を創設した。しかし、実際には彼が大統領職を退いてから、クリントン財団が彼にとっての主要な活動組織となった。ビル・クリントンは財団を通じて様々な活動を行っている。人々の健康改善から象牙密猟、中小企業の支援、子供たちの成長まで様々なプロジェクトを行っている。クリントン財団は様々なプログラムを通じて、巨大な国際的慈善活動団体となっている。2013年にヒラリー・クリントンが国務長官を退任してから、財団の名前はビル・ヒラリー・チェルシー・クリントン財団に改められた。

 

・期間:1997年から現在まで。

 

・人物:ビル・クリントン、ヒラリー・クリントン、チェルシー・クリントンなど。

 

・深刻度:クリントン財団の強みは、ビル・クリントン大統領の知的な雑食性にあるが、弱点は、飽きやすさと詳細に対する関心がないことである。慈善事業のレヴェルでは、クリントン財団は外部の評価団体からは高い評価を受けている。批判する人々は、クリントン財団が余りにも手を広げ過ぎで様々なプログラムに関わっているが、財団のお金は目的を達成するには足りないと批判している。クリントン財団は税務申告で間違いを犯し、それを訂正しなければならなかった。しかし、クリントン財団に関する根本的な問題は、2つの関連した問題に分けられる。一つ目の問題は、利益の衝突の問題だ。クリントン一家が行っている慈善事業が彼らの有料の講演にどれくらい関わっているのか?彼らの講演がヒラリー・クリントンの国務長官の仕事とどれくらい関わっていたのだろうか? アメリカの政策に絡んでお金を儲けたのだろうか?クリントン財団はクリントン家の友人たちの会社に不適切な形でお金を流していたのか?二つ目の問題は、情報開示に関わる問題だ。ヒラリーが国務長官に就任した時、ヒラリーはクリントン財団の情報をある程度開示することに同意した。しかし、そうした情報開示は行われていない。ヒラリーの国務長官時代の私的Eメール使用問題もあって、これらの諸問題に答えを出すことはより困難である。

 

●過去の悪夢の日々(The Bad Old Days

 

・内容:クリントン夫妻は長年にわたり批判の的になってきた。特に保守派のメディアで今でも取り上げられるスキャンダルが数多く存在する。ホワイトウォーター事件、トゥルーパーゲート事件、ポーラ・ジョーンズ、モニカ・ルインスキー、トラヴェルゲート事件、ヴィンス・フォスターの自殺、ジュアニタ・ブロードドリックなどが取り上げられている。

 

・期間:1975年から2001年まで。

 

・人物:ビル・クリントン、ヒラリー・クリトン、脇役たち。

 

・深刻度:常識では、これらはそこまで危険ではない。フォスターの事件は不幸なものだ。その他のルインスキーとホワイトウォーター事件は既に調べ尽くされており、ヒラリーにこれ以上のダメージを与えることはできない。実際のところ、ルインスキースキャンダルは支持率を高める効果があった。しかし、2016年1月に再び浮上したジュアニタ・ブロードドリックに対する婦女暴行事件は、常識が本当に賢いのか、ただ常識的なのかどうかを試すケースとなる。5月23日、ドナルド・トランプはブロードドリックスの事件を強調するヴィデオを公表している。

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 今回は、ヒラリーとトランプ、どちらかが勝つかということについて、アメリカの記事を基にしながら、見ていきたいと思います。

 

 私は今のところ、「8対2」の割合で、ヒラリーが勝利を収めると考えます。もちろん11月までに、何か大きな事件やスキャンダルがあれば大きく変わりますが、今のところはヒラリー優勢だと思います。トランプが昨年出馬表明した段階ですと、「99対1」でヒラリーでしたから、トランプはかなり追い上げてきたということが出来ます。

 

 こう書くと、私がヒラリー支持だと受け止める方がいると思いますが、私はヒラリー支持でも、トランプ支持でもありません。どちらになっても、日本には厳しい状況になるのは変わらないと思います。日本へのあたりが表面上やわらかいか、の違いだけです。お金も取られて、兵隊も出させられる、そしてこれらのことが糊塗できなくなるまで、騙されつつづけるふりをしながら、日本国民の多くは、「仕方がない」と諦めながら、「野党がダメだから、仕方なく自民党を応援するしかない」と自分を騙しながら生きていくしかありません。

 

 映画『華氏911』で知られ、著書『アホで間抜けなアメリカ白人』で知られ、突撃取材で有名な映画監督のマイケル・ムーアが「大統領選挙はトランプが勝つだろう(残念ながら)」という予想をあるテレビ番組で述べました。その内容が、下に貼り付けた記事に詳細に説明されています。

 

 このテレビ番組は観客を入れて収録されたもので、コメディアンでリベラルな論客、政治討論番組の司会者でもあるビル・マーが司会だったので、観客たちはリベラル、反トランプの人々で、このムーアの発言に一斉にブーイングをしました。

 

 しかし、ムーアの発言は根拠があるものです。彼は、「怒れる白人有権者がトランプに投票する」し、「6月に行われたイギリスのEU脱退の是非を決める国民投票で脱退派が勝利をしたことの衝撃がある」と発言しています。アメリカの怒れる白人とイギリスでEU脱退に賛成した人々に共通するのは、「アメリカの没落と不法移民とに対する恐怖心」です。この不安や恐怖を拭い去ってくれる人物としてドナルド・トランプを選びました。

 

ムーアの説明で重要なのは、彼がアメリカ五大湖周辺のラストベルトの重要性を強調している点です。彼はラストベルトのミシガン州(自動車の都と呼ばれたデトロイトがあります)に住んでいます(ミシガン州立大学のスポーツキャップをいつもかぶっていて、トレードマークです)。ミシガン州は、激戦州(スイング・ステイト、バトルグラウンド・ステイトと呼ばれます)です。激戦州は他には、ウィスコンシン州、オハイオ州、ペンシルヴァニア州があります。

 

 ムーアの分析によれば、イギリスでEU脱退(Brexit)を決めたのは多くがイングランド中西部(ウェールズを含む)の地域です。ラストベルトがまさにイングランド中西部になるということです。上記の4州の選挙人の数は64名です。この4州をトランプが制した場合には勝利を収めることになります。

 

 2012年の米大統領選挙では、オバマ大統領が共和党のミット・ロムニーに126人の差で勝利を収めました。下に貼り付けた記事によると、この中には前述の4州での勝利も含まれていましたが、この4州全てをロムニーが制していたら、結果は270対268でロムニーの勝利でした。

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マイケル・ムーアの予言を基にした場合 

 

 更には、ムーアは「トランプはバカではない、人々の操り方をよく知っている。バカな人々が彼に操られている」と述べています。

 

 2016年7月21日(日本時間では22日)に4日間にわたって続いた共和党全国大会が終わりました。トランプは「法と秩序(Law and Order)」を強調し、ヒラリー・クリントンをベンガジ事件とEメール問題で激しく批判しました。この週末の世論調査でどんな数字が出てくるかが注目されます。「私は皆さんの声です、代弁者です(I am Your Voice)」「グローバリズムではなく、アメリカニズム、アメリカ・ファーストだ」という言葉がとても印象的で、内向き志向を示していますが、同時に中国やテロに対しては厳しい姿勢で臨むということも述べています。

 

共和党の政策綱領の中には、イスラエル・パレスチナ問題について、「二国共存による解決(two-state solution)」という言葉が入っていません。イスラエルに対してかなり肩入れした内容になっており、ここにネオコン(イスラエル・ロビー)の影響が見て取れます。ネオコンの主要な人物たちはトランプに対して不支持を表明していますが、アメリカ連邦上院でネオコンとして知られる、トム・コットンがトランプを支持しました。トランプが当選した場合に、どれだけネオコンが入り込んでくるのか、そしてそれをどれだけ抑えられるか、ということが注目です。

 

 トランプが自分の姿を投影しているロナルド・レーガン政権も選挙中は、リバータリアニズムを基礎にした政策を訴えていましたが、政権発足後にはネオコンが外交政策に影響を与えるようになり、減税と軍事力増強という相反する政策を実行したために、貿易赤字と財政赤字という双子の赤字を抱えることになりました。ソ連崩壊(冷戦の勝利)があっために、レーガンは偉大な大統領と呼ばれますが、トランプが目の前の敵であるテロ組織と中国を屈服させることはできません。

 

(インターネット記事貼り付けはじめ)

 

July 21, 2016, 02:06 pm

Michael Moore: Trump is going to win

By Joe Concha

http://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/288715-michael-moore-trump-is-going-to-win

 

The liberal filmmaker shared his presidential prediction at the Republican National Convention in Cleveland during a special edition of the longtime HBO political panel program "Real Time with Bill Maher."

 

"I'm sorry to have to be the buzzkill here so early on, but I think Trump is going to win. I'm sorry," the 62-year-old Moore proclaimed to gasps and boos from the progressive live audience. "Boo if you want."

 

Moore's rationale for a Trump victory includes angry white voters and the United Kingdom's vote to leave the European Union — known as Brexit — that sent shockwaves around the world in June.

 

"I live in Michigan. Let me tell you, it's going to be the Brexit strategy," Moore said.

 

"The middle of England is Michigan, Wisconsin, Ohio and Pennsylvania," he continued. "And Mitt Romney lost by 64 electoral votes. The total number of electoral votes in those states in the Rust Belt: 64. All [Trump] has to do is win those four states."

 

President Obama won by 126 electoral votes over Mitt Romney in 2012. But if the aforementioned four states and the 64 electoral votes that go with them collectively were to be flipped, Romney would have won that election 270-268.

 

Earlier in the day, Moore was much more pointed in his backhanded praise of Trump.

 

"He knows how to manipulate a dumbed-down population," he said at a press conference.

 

"The population of schools has been wrecked, and the news media is just insipid and stupid and doesn't give the people the facts about what's going on," he explained, calling American voters, "easily manipulated."

 

 "He's [Trump's] not as stupid as he looks. You should take it very seriously," the director of "Fahrenheit 911" and "Roger and Me" warned. "He knows the manipulation that's going on here, and the use of propaganda and the way he's doing it is just brilliant in the way that he is succeeding and has succeeded."

 

According to the RealClearPolitics average, Hillary Clinton and Donald Trump are in a statistical dead heat nationally with 109 days to go until Election Day. Clinton's lead is down to 2.7 points, within the margin of error.

 

(インターネット記事貼り付け終わり)

 

 次にご紹介するのは、私が知りたいと思っていた、統計上の資料がふんだんに使われている記事です。ニューヨーク・タイムズ紙が、全米50州+ワシントンDCのこれまでの大統領選挙での結果や世論調査からヒラリーが勝つ確率は74%だということを述べています。私がこのブログでも何回も書いていますが、アメリカでは共和党が確実に勝つ州と民主党が確実に勝つ州がはっきり分かれるようになってきました。ジョージ・W・ブッシュ前大統領の頃から、「レッド・ステイト(共和党が強い州)」と「ブルー・ステイト(民主党が強い州)」がある程度固定化され、それに分類されない「スイング・ステイト、バトルグラウンド・ステイト(激戦州)」の取り合いが大統領選挙の帰趨を決めることになりました。赤と青でオセロゲームをやっている感じです。


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青がヒラリー、赤がトランプ(NYタイムズから)


 アメリカ大統領選挙の特徴は、単純に得票数で結果が決まるのではなく、各州に割り当てられた選挙人を取り合って、その合計数で結果が決まるというものです、選挙人の数は州の人口に沿って割り当てられており、最大の州は55名のカリフォルニア、最少の州は3名のノースダコタやサウスダコタです。その州で投票の過半数を取れば、選挙人は勝者が総取りとなり、得票数に応じて配分ということではありません(いくつかの州で配分にする動きが出ています)。

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青が民主党が強い、赤は共和党が強い、真ん中は激戦州(NYタイムズから。州の数は赤が多いが、選挙人の数は青が多い) 

 

 今回の大統領選挙の副大統領候補選びで見えてくるのは、ヒラリー、トランプ両陣営の思惑です。ヒラリーはティム・ケイン連邦上院議員(ヴァージニア州選出)を選び、トランプはマイク・ペンスインディアナ州知事を選びました。民主党側は、ティム・ケインが地盤とするヴァージニアは激戦州ですが、アメリカ南部の「入り口」であるヴァージニア州とできれば、まだ何とかなりそうなノースカロライナ州を逆転させたいとおもっているようです。共和党側は、前述したように、ラストベルト、五大湖周辺部の64名を取りに行って、勝利に結び付けたい、また、ペンスは最近まで6期連邦下院議員を務めていたので、中央政界でも顔が利くので疎遠なトランプの助けになるという思惑があります。

 

 私がだいたい考えていたようなことがこの記事では書かれています。トランプがラストベルト4州で全勝すれば勝利となりますが、ここの出身者を民主党側が選ばなかったというのは、彼らは恐らく独自の世論調査をやっているでしょうが、「4つ全部落とすことはないし、1州くらいは落としても何とかなるし、それどころか、4つ落とすことはない」という手ごたえをつかんでいるのだろうと思います。トランプ側はここを崩さないと勝利はないので勝負をかけてきたということだと思いますが、4つを逆転するためには、ヒラリー側に相当な失態やスキャンダルが起きなければ厳しいです。


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ヒラリーが何人の選挙人を獲得して勝利するかの確率が固いかを1人毎に示しているグラグ(NYタイムズから。538名中347名を獲得して勝利というパーセンテージが高い)
 

 まだヒラリーとトランプの直接対決前ですので、どうなるか分かりませんが、今のところの状況では「8対2」でヒラリーが優勢だと私は考えています。私が今のところ考えている結果予想は次の図の通りです。

 

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(新聞記事転載貼りつけはじめ)

 

Who Will Be President?

 

By JOSH KATZ  UPDATED July 21, 2016

Last updated Thursday, July 21 at 8:08 PM ET

http://www.nytimes.com/interactive/2016/upshot/presidential-polls-forecast.html?src=twr&smid=tw-nytimes&smtyp=cur&_r=1

 

Hillary Clinton has about a 74% chance of winning the presidency.

 

 

The Upshot’s elections model suggests that Hillary Clinton is favored to win the presidency, based on the latest state and national polls. A victory by Mr. Trump remains quite possible: Mrs. Clinton’s chance of losing is about the same probability that an N.B.A. player will miss a free throw.

 

From now until Election Day, we’ll update our estimates with each new poll, as well as collect the ratings of other news organizations. You can chart different paths to victory below. Here’s how our estimates have changed over time:

 

 

State-by-State Probabilities

 

To forecast each party’s chance of winning the presidency, our model calculates win probabilities for each state. In addition to the latest state polls, our forecast incorporates a state’s past election results and national polling.

 

The table below shows our model’s estimate for Democrats and Republicans in all 50 states and Washington, D.C. We have put the states into five groups based on their voting history relative to the nation since 2004.

 

Our estimates in states that tend to vote ...

 

 

How Other Forecasts Compare

 

The New York Times is one of many news organizations to publish election ratings or forecasts. Some, like FiveThirtyEight or the Princeton Election Consortium, use statistical models, as The Times does; others, like the Cook Political Report, rely on reporting and knowledgeable experts’ opinions. PredictWise uses information from betting markets.

 

We compile and standardize these ratings every day into one scoreboard for comparison. First, every organization’s estimate for who will win the presidency:

 

 

Which Outcomes Are Most Likely

 

Some combinations of electoral votes are much more common than others. The chart below shows the estimated likelihood of each outcome.

 

 

Donald Trump’s Difficult Path to the White House

 

The interactive diagram below illustrates Mr. Trump’s challenging path to the presidency. Here, we assume Mrs. Clinton and Mr. Trump will win the states where we believe they are most strongly favored, and we let you control the outcome of the 10 most competitive states. Above all, this diagram illustrates how important Florida is to Mr. Trump. It is extremely difficult for him to win without it.

 

Select a winner in the most competitive states below to see either candidate’s paths to victory.

 

(新聞記事転載貼りつけ終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 ゲームで遊んだことないので、勉強不足で知らなかったのですが、ポケモンGOというゲームが流行っていることはニュースで知っていましたが、「なんじゃそりゃ?」と思っていましたが、世界中で大人気になっているそうです。

 


 ポケモン
GOは、スマートフォンを使って、地図上にいるポケモン(ポケモンは知っています、昔テレビアニメで目からの光線が強すぎて子供たちにてんかん症状が出た時に知りました)のキャラクターを実際の場所に行って捕まえるというものだそうです。

 

 その場所が人が入りにくければ入りにくいほど、珍しさが高まるようですが、原子力発電所や地雷原がその場所になっている場合もあるそうです。実際にポケモンの大冒険をやってしまうと、怪我をしたり、最悪事故死したりしてしまうことも考えられます。また、普通の街中でも、ゲームに夢中になり過ぎて自動車事故や通行人にぶつかるということもありそうです。

 

 今回は、ポケモンGOに絡めて、日本の「かわいい」文化・美意識について書かれた論稿をご紹介します。アメリカの外交・国際関係専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に掲載されたものです。FP誌が日本の参院選の結果に関する記事ではなく(こちらの方が雑誌にふさわしい話題だと思いますが)、ポケモンについての記事を掲載するのですから、これが国際的な出来事なんだということが分かります(任天堂もこのおかげで売り上げが上がり、株価も上がっているそうです)。

 


 「かわいい」文化・美意識が日本の主流の文化になり、「かわいい」が蔓延している。それは、人々の心を和ませる効果があるが、何でもかわいい表現をしてしまうために、現実逃避、問題に対する無関心を引き起こすという内容になっています。

 

 それではお読みください。

 

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ポケモン、日本の女子高校生パンクバンド、コカインに共通するもの(What Pokémon, Japanese Schoolgirl Punks, and Cocaine Have in Common

―かわいい(kawaii)がなければピカチュウは存在しなかっただろう。かわいいは、日本の中毒性のあるかわいさのカルトである

 

ソフィー・ナイト筆

2016年7月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/07/18/what-pokemon-japanese-schoolgirl-punks-and-cocaine-have-in-common/

 

「ポケモンGOモバイルゲームはどうしてそこまで魅力的なのだろうか?」という疑問に対する簡潔な答えは、「ポケモンが中毒になるくらいにかわいくデザインされているから」というものだ。世界中の多くの人々が走り回り、アニメ化された生物を捕まえようとしている。彼らは「かわいさのカルト」の最も新しい被害者だ。このカルトは、ポケモンと同様、その起源を日本に持つ。私たちがこのカルトの最も暗い底流を理解したいと望むなら、日本を見なくてはならない。

 

ポケモンはポケモン・カンパニーの専有物であり、ポケモン・カンパニーの一部は、日本の多国籍企業の任天堂の所有である。ポケモンは日本で長い伝統を持つ「かわいい」の一部である。「かわいい」は日本の現代文化における美的感覚であり、これからあなたの携帯電話の「絵文字」やコスチュームパーティーで着ようかなと思っている着ぐるみが生まれた。

 

「かわいい」は全てを魅力的な子供っぽさにするものだ。日本政府は、「かわいい」を文化輸出の主要な商品であり、「ソフトパワー」戦略の柱と位置付けている。ポケモンGOを伴って、「かわいい」はアメリカ文化へ波状的に侵入を続けている。

 

ピカチュウとピカチュウの仲間が魅力的なのはどうしてか?最も基本的な答えは、発達心理学の中にある。人類は、大きな目、大きな頭、ぶにぷにした短い手足、よちよち歩きのような乳児に似たものを見ると、脳内の中央にある喜びを感じる場所に幸福感を生み出すのだ。脳の同じ場所で、食べ物、セックス、コカインのような薬物の摂取による快楽を感じる。この幸福感によって、人間はかわいい対象物にもっと接近し、関わろうとする。過去、この本能によって、人間は乳児に栄養を与え、守ろうとし、それによって種としての人間は続いてきたのだ。

 

今日、この本能によって、私たちは、大きな目で丸い形をしたポケモンに出てくるキャラクターたちと遊びたいと考えるようになっている。ポケモンで遊ぶたびに、私たちは脳内の「かわいい」レセプターを押し、麻薬に似た幸福ホルモンを出すことでリラックスできるのだ。ストレスを感じる時に、ユーチューブで子猫やドジな赤ちゃんパンダの映像を見ることでホッとできる理由として、この幸福ホルモンの流れが挙げられる。

 

しかし、脳科学とGIFコードによる説明を除いて、他に日本以外でのかわいい文化の隆盛を説明することは不可能である。ポケモンの「かわいい」感覚は、責任、質実剛健、自己抑制を強調する日本の伝統文化に対する反抗である。日本人は伝統文化に変わるものを探していた。無意識のうちに探していた。そして、「かわいい」は甘美な逃避の形となった。虐待のような長時間労働、不条理な上司、不幸な家庭生活にストレスを感じている人々は、かわいい絵のついたクレジットカードや弁当箱、食器洗い用のスポンジを見ることで、ひと時の安らぎを得ることができる。「かわいい」のアピール力を認識した日本政府は、世界にこの潮流を拡大するために、多くの「かわいい」大使を任命した。

 

しかし、「かわいい」文化は主流の文化であった訳ではない。「かわいい」文化は1970年代の女子中高生の反乱が起きた時に発生した。この反乱はイギリスのパンク文化の日本版であった。人類学者のシャロン・キンセラは、十代の少女たちは、教師たちの、そしてより社会の意思に反抗する方法として、子供じみた文字を書き、乳幼児のような話し方をし、かわいらしい服装をするようになった。教師や社会は、責任感の強い、成熟した、真面目な大人になるように少女たちを型にはめようとするのだ。

 

西洋先進諸国の十代は、喫煙、飲酒、ピアス、入れ墨といった彼らの実年齢を超える姿勢と習慣を取り入れて、親や社会の権威に反抗しようとする。しかし、日本の十代は、子供のように振る舞う。それは大人の寒々しさに捕まることを逃れ、大人になるまでの時間を延長するためであった。大人になってストレスを感じることを避け、ピーターパンのように大人になることを拒絶したのだ。

 

しかし、反抗として始まったものは、現在では現状維持の分かとなっている。ハローキティのメーカーとして知られるサンリオは最初、大きな目をしたカエルの絵がついた筆箱を売っていた。最初はこのような一時的な試みに過ぎなかった。これが長い年月を経て変化したのだ。「かわいい」は、社会の全ての局面で実用的な美意識となっている。日本では現在、癌検診のお知らせ、津波の警告、保険の案内にも漫画のうさぎが書かれている。

 

外国人から見れば、このようなことをすれば、深刻な問題を軽いものだと思わせてしまうのではないかと考えてしまう。しかし、日本では、かわいさは実践的なものだと考えられている。「かわいい」によって、味気ない話題を受け入れやすくし、理解しやすくすると考えられている。大人は、アニメ化されたウサギが頼むことで、子宮癌の検査を受け、保険を新しくするだろうと考えられている。

 

日本企業以外の各企業も「かわいい」の心理的効果を認めている。ここ数年、国際的な自動車企業はそれぞれかわいい形の自動車を発表している。BMWは、丸い車体と優しい目のような丸いヘッドライトを持つミニマークを発表した。グーグルは昨年、ロゴの文字の「かざり」とフォントをより子供っぽくした。また、赤ちゃんコアラのような形をした自動運転自動車の原型を発表した。これはロボット装置の最新形態となりうるものだ。

 

 各自動車メーカーは、人々がかわいいものについてより関心を持ち、注意を払っているという調査結果に基づいて合理的な決定を行うはずだ。これが意味するのは、かわいい車体であれば後続の車のドライヴァーが無理に突っ込んできて衝突することはない、ということだ。かわいい顔を見ると守ってあげたくなるという感情の動きによって、ゆっくりとした運転に対して、他のドライヴァーが怒りを持ったり、イライラしたりするのを防ぐ効果も期待できる。

 

「かわいい」、もしくはかわいい対象物にはプラスの側面がある。「かわいい」によって、私たちはよりやさしく、怒りを和らげ、集中力と生産性を高めることができる。かわいい対象物は治療にも利用されている。その代表例が、ふわふわした表面のアザラシ型ロボット「パロ」だ。パロは、認知症の人々の気分を改善し、社会参加を促す効果があることが分かっている。

 

従って、うつ症状や不安神経症に苦しんでいる患者たちがポケモンGOをプレイすることで心理的に改善が見られる人たちが出ているという報告がなされているのは驚くべきことではない。そうした人たちが外に出て、歩き回って、他の人たちと関わるきっかけになることに加えて、大人の姿に似たキャラクターに比べて、ポケモンのキャラクターたちのかわいさは気持ちを明るくさせる効果があるのだ。

 

しかし、「かわいい」にはマイナスの面もある。「かわいい」が生み出す幸せホルモンは、合理的な思考や感情を圧倒する。ポケモンGOの場合、共感を高め、自動車などへの注意を高める以上に、プレイヤーたちは、視野狭窄に陥ってしまうことだろう。彼らはより珍しいキャラクターであるヴァポレオンやアイヴィザゥアーを捕まえるために夢中になって道路を掘り返し、他人の家に入り込むことになるだろう。つまり、キャラクターたちはかわいいので、プレイヤーたちは、彼らが捕まえようとしているキャラクターと競争相手以外のことは目に入らなくなり、その結果、周囲の人たちにとっては危険なことをしてしまうことになるだろう。

 

「かわいい」が抱えるもう一つの問題は、物事を簡単に理解できるようにする傾向にあり、深刻な問題と脅威を曖昧にしてしまうことである。シュレックの映画に出てくる、暗殺者の長靴をはいた猫は、純粋無垢の、眼の大きな見た目で敵の警戒感を弱めてしまう。「かわいい」は現実の危険なそして動揺する要素を曖昧にし、和らげることができる。たとえば、東京の警視庁のマスコットであるぴーぽ君は、警察権力の人々を威嚇する面を隠している。肺癌をかわいらしく描く漫画は、黒ずんだ内臓器官という現実を隠し、禁煙しようという決意を鈍らせてしまう。私たちは自分たちが歴史の分岐点に立っていることを認識している。この状況で、ポケモンGOを楽しむことで、私たちは、人種の分裂、海外におけるテロの増加、激しい大統領選挙といった現実からの楽しい逃避をすることができる。更には、ポケモンGOによって、私たちは注意を払わねばならない現実の諸問題から逃げることもできるのだ。

 

ドナルド・トランプの大統領就任、イギリスのEU離脱、核兵器、警察の暴力に対する恐怖は将来にとってどんな意義があるだろうか?心配はいらない。ただポケモンGOをプレイして、こうした不安が消えていくことを感じる。「かわいい」トレンドを始めた日本の十代の若者がしているのと同じく、ポケモンGOという視覚に訴えているマッサージに耽溺することは、自分を取り巻く現実からの逃避を意味するのだ。

 

(終わり)







 
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