古村治彦です。
ヘリテージ財団が、ドナルド・トランプが選挙に勝利し政権を担うことになった場合に備えて、政権を支える人材を集めようとしているということです。
アメリカでは、大統領が交替すると、各省の局長クラスまでほぼ入れ替わる、猟官制度(spolis
system)が採用されています。政治任命される職種が日本に比べてかなり広範になります。その数は数千人にも及びます。もちろん、同じ党での政権交代でも行われます。
ヒラリーの場合は、これまでの経歴の中で知り合った人材、夫の政権時代の若手、オバマ政権の一部などが多くおり、局長クラスまで埋めることはそんなに難しいことではないでしょう。彼らは優れた人材であり、同時に豊富な経験を持っています。彼らの多くは大学やシンクタンクに勤務しています。その代表がブルッキングス研究所です。
一方、トランプ側を見てみれば、ワシントンでの経験が豊富な人材はいることはいますが、ヒラリー陣営に比べれば見劣りすることは否めません。それは、トランプがこれまで公職とは無縁の人生を送って来たことを考えれば、仕方がないことです。
シンクタンクは政権交代のたびに人材を政権に送り出し、旧政権の人材を引き受け、次に備えるという機能を果たしています。トランプの場合には、ヘリテージ財団がその機能を担うことになりそうです。
ヘリテージ財団と言えば、石原慎太郎が都知事時代に尖閣諸島の徒での購入をぶち上げた場所です。結局、野田佳彦首相が国で買い上げ国有化するに至り、日中関係を悪化させる原因となりました。この財団の日本担当研究員ブルース・クリングナーは、日中離間と安倍政権誕生などに関して多くの論文を発表しています。
ヘリテージ財団に関しては、共和党の重鎮ジョン・マケイン連邦上院議員(アリゾナ州選出)が「純粋なシンクタンクではなく、裏で政治的な動きをしている」と批判したことがあり、このブログでもご紹介したことがあります。ヘリテージ財団には、私が翻訳しました『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、講談社、2015年12月)の主役であるコーク兄弟も献金をしており、共和党系の富豪たち(日本でも何かと話題になるアムウェイの創設者も献金者の一人)が献金をしています。ヘリテージ財団は、シンクタンクとしてトランプ支持を表明していますし、トランプとの深い関係を持つという指摘もあります。
トランプ陣営はワシントンのアウトサイダーのために、政治の経験を持つ人材を多く集めることが出来ません。トランプが勝利するということになれば、時代劇時代風に言えば、「仕官を求め、満天下の人士が門前市をなす」ということになるでしょう。ネオコン派と目される人物たちでもトランプ政権に馳せ参じることになるでしょう。しかし、トランプの中核となる人々だけでは、政権の主要な地位とその下の地位を占めるだけでもう足りなくなるでしょう。ヘリテージ財団が肝いりというのはいただけないですが、トランプとしても背に腹は代えられないでしょう、「上品な」シンクタンクはトランプを支持していないでしょうから。
また、ヘリテージ財団としてもシンクタンクとして計算があるでしょう。「保守派」のシンクタンクとしての存在感を増す、恐らくオバマ政権の8年に続いて、ヒラリーが当選すれば少なくとも4年、合わせて12年も民主党政権が続くということになります。そうなれば、研究した政策を実際に実行するということはできません。そうなれば、存在感は薄くなりますから、人々の耳目を集めたいということもあって、今回の行動に出たということもあるでしょう。トランプを軸とするある程度の政治勢力(ティーパーティー運動のような)が出現することを見越していることもあるでしょう。ヘリテージ財団の大口献金者であるコーク兄弟は、ティーパーティー運動の金主であることは、拙訳書『コーク一族』によって日本でも知られるようになりました。コーク兄弟はトランプを支持しないと明言していますので、今回のヘリテージ財団の動きに関与しているのかどうかは不明です。
しかし、共和党内部の分裂、新たな政治勢力が生まれるという可能性が高いことを、今回のヘリテージ財団は示しているように思われます。ヘリテージ財団は政治的な動きをするシンクタンクで、トランプを軸とする勢力形成の役割を果たそうとしているとも思えます。具体的にはポピュリズムに基づいた、反エスタブリッシュメントの勢力(ティーパーティー運動もそういう面があります)ということになると思います。しかし、こうした人々の側からの運動は取り込まれ、手懐けられ、敗れ去っていく運命にある、特にアメリカのような硬直した先進国では、と私は悲観的に見ています。
(貼り付けはじめ)
ヘリテージ財団がトランプ政権に参画する人材集めを行う(Heritage
Foundation recruiting for potential Trump admin: report)
ニキータ・ヴラディミロフ筆
2016年10月22日
『ザ・ヒル』誌
http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/302325-heritage-foundation-recruiting-for-potential-trump
保守派のシンクタンクでもトップの「ヘリテージ財団」がドナルド・トランプ政権のメンバーとなり得る人々を積極的に勧誘している、と『バズフィード・ニュース』が報じた。
バズフィード・ニュースが入手したEメールには、ヘリテージ財団は、ヘリテージ財団がレストア・アメリカ・プロジェクトと呼ぶ計画の一部として、トランプ政権のメンバーとなる人々の経歴などを集め、調査していることを示している。
「ヘリテージ財団のレストア・アメリカ・プロジェクト(RAP)は次期大統領の政権に参画する人材として、保守派の人々を結集しようとしている。これらの人々はアメリカ国内の正しい心を持つアメリカ人からの推薦を受ける必要がある」とEメールには書かれている。
Eメールにはトランプの名前は書かれていないが、ヘリテージ財団は、「保守の信条を促進することになる政権」のために働く候補者を探している、ということを述べている。
Eメールには、レストア・アメリカ・プロジェクトに応募するための用紙の記入方法も掲載されている。
「RAP応募者フォームのリンク(レストア・アメリカ・キャンディデート・フォーラム)に行き、あなたの情報を書き込んでください。情報を書き終え、送信ボタンを押すと、あなたの情報は自動的に私たちのシステムに送られることになります」。
ヘリテージ財団と関係のある政治家の多くがトランプの政権以降ティームに参加している。
その中には、ヘリテージ財団の前会長エド・ファウルナーとロナルド・レーガン政権の司法長官だったエド・メッセが含まれている。
(貼り付け終わり)