古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。よろしくお願いします。

2016年11月

  古村治彦です。

 

 今回は、外交政策の世界で使われる常套句の裏の意味についての記事をご紹介します。堅苦しくない記事ですので、気楽にお読みいただければと思います。

 

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ワシントンの住人のように外交政策を語るには(How to Speak Foreign Policy Like a Beltway Native

―「地上軍の派遣」から「ご尽力に感謝します」まで、ワシントンでよく使われる外交政策の言い回しを翻訳してみる

 

ローザ・ブルックス(Rosa Brooks)筆

2015年7月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/07/10/how-to-speak-foreign-policy-like-a-beltway-native/?utm_content=buffer4b643&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

 夏がやって来た。ビーチでリラックスし、色々と考えてみる時だ。そこで、あなたが二度と使うべきではない言い回しについて考えてみるというのはどうだろう?

 

 私は国家安全保障や外交政策の専門家たち数十人に、彼らが好む(もしくはもっとも好まない)言い回しや表現を挙げてもらった。そして、それらの本当の意味を翻訳してもらった。これらの言い回しや表現は各種文書によく使われているが、より意味のある言葉に置き換えられるべきだが、そうなってはいない。これらの言葉は意味を明確にするよりも、曖昧にするようにできている。これらの言い回しや表現は私たちの語彙から除外されるべきだ。

 

ここからは、彼らが挙げてくれた表現とその翻訳(本音)を掲載していく。読者の皆さんには、コメント欄にお好きな言葉を書いてこのリストを豊かにして欲しい。

 

「恐怖に対する戦争」「テロリズムに対する戦争」

・翻訳:「私たちは彼らが何者なのか知らないし、彼らの動機も分からない。しかし、彼らのことは大嫌いだということははっきりしている」

 

「我々にとっての重要な国益が脅威にさらされている」

・翻訳:「私は何が脅威にさらされているのかをはっきりさせることはできないが、何かをやるためには理由が必要なんだ」

 

「私たちは所有しているすべての手段を使用する必要がある」

・翻訳:「これは本当に骨の折れる仕事になるだろう。恐らく完結することはできないだろう」(これとよく似た表現:国力が許す全ての手段→これもまた使うべきではない)

 

「この問題については、政府全体の努力が必要だ」

・翻訳:「この問題の解決には奇跡が起きねばならない。私たちの力ではどうしようもない」。この翻訳の前には「これは他の誰かに任せるべきだ」とつく。

 

「こうした前進は微妙ですぐに逆戻りしてしまう」

・翻訳:「もしそうした前進がきれいさっぱり消えてしまっても、俺を責めるなよ」

 

「軍隊を投入しての解決はない」

・翻訳:「えっ、軍隊を投入してそれがうまくいくと思っていたの?」

 

「私たちは歴史の正しい面にいる」

・翻訳:「そこまで考えてくれて、ありがとう」

 

「地上軍は出さない」

翻訳:「破壊力抜群だが、効果の薄い空爆を行うようにしよう。そうすれば特殊部隊や“軍事顧問”を戦闘地域に派遣しなくて済む。しかし、彼らが本当にそこにいないということを皆で装いましょうよ」

 

「私たちはこの問題の解決を地元のパートナーによって、もしくは一緒に行う」

・翻訳:「地上軍は派遣しない」

 

「穏健派(シリア人、スンニ派などなど)」

・翻訳:「彼らは私たちと協力することにやぶさかではないだろう。彼らは中東にいる人々のような恐ろしい人たちではない」

 

「民兵」

・翻訳:「私たちは彼らが何者なのか知らないが、何か怪しく見えるから、彼らを殺しても良いんだ」

 

「思想間の戦争だ」

・翻訳:「私の会社に、不格好な、下手な翻訳をされたリーフレットとニュースストーリーを出すためのお金をください。これらを配れば外国の人たちをイライラさせるでしょう。私たちは語り口を確立しなくてはいけない」

 

「ここから変化していく」

・翻訳:「何も起きない。誰もそれが何を意味するか知らない」

 

「これからの6カ月が重要になる」

・翻訳:「これまで何の進展もなかった」

 

IS、アルカイーダ、タリバンなどは、驚くべき程の復元力を持つことを証明した敵対勢力だ」

・翻訳:「私たちの計算は間違っていた」

 

「これは受け入れがたい」

・翻訳:「そうだな、どうでもいいや」

 

「私たちはこれを許さない」

・翻訳:「不快なことを言いますけどね、心配しないで。私たちは何もしないから」

 

「ここが重要な分裂線(レッドライン)だ」

・翻訳:「私はレッドラインとは言っていない。私は、“あの立派なアカマツを見てごらんよ”と言ったのだ」

 

「前進させる、私たちは事態を次のレヴェルに進めるだろう」

・翻訳:「私たちは失敗が続くのを何とか止めようとしている」

 

「私たちは指導力と決意を示すことになる」

・翻訳:「私たちは指導力と決意についてもっと語ることになる」

 

「オフショア・バランシング戦略に移行しなければならない」

・翻訳:「私たちはこれをやってくれる人を探さないといけない」

 

「同盟諸国とパートナーたち」

・翻訳:「俺たちではなく、あんたたちがそれをやるべきだぜ」

 

「高官」

・翻訳:「ホワイトハウスにいる誰か」

 

「マスコミに話すことを許されていない匿名の誰か」

・翻訳:「情報漏洩者」

 

「スノーデンのような人物」

・翻訳:「私たちが大嫌いな情報漏洩者」

 

「少ない労力で多くの成果を」

・翻訳:「おはよう。予算を減らすよ。泣くんじゃない」

 

「軍隊を支持する」

・翻訳:「私は実際に軍人に会ったことはない。しかし、そんなことを少しも気にしない」

 

「ご尽力に感謝します」

・翻訳:「お前イカレてるな、バカ野郎が」

 

「私は軍服に身を包んだ勇敢な男女の犠牲と英雄的行為を心に留めておきたい」

・翻訳:「私は選挙に出ます」

 

「私たちは国土を防衛しなければならない」

・翻訳:「私はファシズムの時代に思い焦がれている」

 

「人間地勢学」

・翻訳:「私たちがよく知らないし、殺害すべきかもしれない人々」

 

「彼らの好意を勝ち取らねばならない」

・翻訳:「彼らを殺してはいけない」

 

「私たちはアジアに軸足を移す必要がある」

・翻訳:「中東全体が機能不全に陥っている」

 

「私たちには政策がある」

・翻訳:「私たちには戦略などない」

 

「私たちはまだ戦略を構築していない」

・翻訳:「私たちはまだ戦略を構築していない」

 

(終わり)





 

 古村治彦です。

 

 ドナルド・トランプに共和党エスタブリッシュメント側で反対した人々の代表と言えば、ポール・ライアン連邦下院議長(ウィスコンシン州選出、共和党)と、2012年共和党大統領選挙候補者ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事です。他の人たちはともかく、この2人には「恩赦(アムネスティ、amnesty)」はない、というのは、トランプ支持者たちの共通認識です。

 

 ライアン下院議長に対して、トランプは人事で抑えを置くことに成功しました。大統領首席補佐官に、レインス・プリーバス共和党全国委員会委員長を抜擢しました。プリーバスはウィスコンシン州出身で、これまで議員選挙に出て落選した経験を持っています。プリーバスは、共和党全国委員長としてトランプ当選に貢献しました。また、プリーバスの出身州ウィスコンシン州では、トランプが勝利し、トランプ当選の原動力となりました。ライアンは当然のことながら、トランプ当選に貢献しませんでした。

 

 こうした状況を受けて、トランプはこれから脚光を浴びるポジションにまだ44歳のプリーバスを持ってきました。プリーバスはこれから4年勤め上げても、48歳、働き盛りです。2年後の中間選挙に出るとなると、ライアンにとっては大きな脅威となります。特に大統領首席補佐官として名前を売った後となると、ライアンにとっては危険極まりないライヴァルとなります。このようにして、トランプは人事でライアンに報復することに成功しました。

 

 今回、もう1人の「戦犯」であるミット・ロムニーについては、トランプ周辺では、「能力があり、既存の勢力との関係改善に効果があることは、認められるので国務長官として登用してやっても良いが、そのためには前非を悔い、謝罪する必要がある」という声が出ているようです。この主張がトランプの考えを反映したものなのかどうかは分かりません。

 

 トランプは何のしがらみもないし、周辺人物たちとの関係では自分の方が上ですから、彼らの意向を無視して、自分の思う通りに人事を行うことができるでしょう。これはこれまでの大統領になかった、トランプの強みです。トランプとしては、能力がありさえすれば、敵であっても登用することに躊躇しないでしょう。

 

 しかし、トランプがロムニーを何の謝罪もなく閣僚に、しかも重要閣僚に据えるとなると、彼の周辺、更には支持者たち、有権者たちが怒ってしまうでしょう。だから、ロムニーには、謝罪をしてもらって、ということになります。しかし、ここで謝罪をするということは、ロムニーにとっては、トランプの軍門に下り、トランプに忠誠を誓うということになりますから、彼としては大変な屈辱ということになります。ロムニーが謝罪する場合には、「アメリカの国益のために自分ができることは何でもする」という大義名分を立てるでしょうが、これで、彼は完全に政治的には死んでしまうことになります。

 

 それでも良くて、国務長官になりたいということであれば謝罪をするでしょうが、逆に言うと、謝罪をしてしまった後で、「話が変わりまして」ということになってしまって、国務長官になれなかった場合には最悪ですから、ロムニーが謝罪をする場合には、「ロムニーが国務長官になる可能性が高いな」ということになります。

 

(貼り付けはじめ)

 

トランプの政権移行ティームはロムニーに謝罪を望む(Report: Trump team wants Romney to apologize

 

ハーパー・ニーディグ筆

2016年11月25日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/news/307521-report-trump-team-wants-romney-to-apologize

 

フォックス・ニュースは、ドナルド・トランプの政権移行ティームがミット・ロムニーに、選挙期間にトランプ次期大統領に対して攻撃を行ったことについて公式の場で謝罪するように求めている、と報じた。

 

政権移行ティームの幹部は、フォックス・ニュースのエド・ヘンリーに対して、トランプ周辺人物の中には、ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事を国務長官として起用することを考慮するにあたり、ロムニーに謝罪してもらいたいと考えている、と述べた。

 

トランプは、ロムニーかルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長のどちらかを国務長官に起用することを考えていると報じられている。

 

トランプに忠誠を誓う周辺人物と草の根運動の支持者たちは、ジュリアーニが望ましい候補者だと考えている。一方、ロムニーはエスタブリッシュメント系保守派にとって望ましい候補者である。

 

トランプの支持者マイク・ハッカビーフォックス・ニュースの水曜日の番組に出演した際に、「ミットについては個人的には何とも思っていない。しかし、ミットが、ドナルド・トランプを落選させようとして力を尽くしてくれたことに関しては面白くない」と語った。

 

ハッカビーは今年3月にミット・ロムニーが行った有名な「反トランプ演説」に言及して、次のように語った。「ロムニーが重要閣僚に就任するための唯一の方法は、公の場でマイクの前に立ち、彼がソルトレイク・シティーで行った有名な演説とそれ以降の発言の内容を全否定することだ」。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)








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 古村治彦です。

 

 私が所属しております「副島隆彦の学問道場」では2016年11月20日に鳩山由紀夫元首相をお迎えしての定例会を開催しました。多くの皆さまにご来場いただき、会場は満員と大盛況でした。裏方として準備をしてきまして、無事に終えることができてほっとしております。現在、収録しました映像を編集してDVDとして頒布できるように準備を致しております。

 

 定例会の疲れと残務のためにしばらくこのブログも更新が滞りました。本日から少しずつ再開して参りたいと思います。宜しくお願い申し上げます。

 

 さて、トランプ次期大統領は1月の就任式に向けて少しずつ閣僚の人事を発表しています。あまり自分に近い人たちばかりに偏らない人事、バランスを考えた人事という印象です。

 

 トランプは今年に入ってこれまでに2度(公式に確認されている限りで)、アメリカ外交の重鎮ヘンリー・キッシンジャーと会談しています。ヘンリー・キッシンジャーはアメリカと中国のG2による世界の安定を目指すという考えを推進してきた人で、対中強硬路線とは一線を画している人物です。また、ロシアのウラジミール・プーティン大統領ともコンタクトを取っている人物です。

 

 キッシンジャーがCNNの番組に出演し、トランプはしがらみを持たない大統領になる、これは自分の経験上、初めてのことだと述べました。これは、トランプが特定の勢力の代表ではないし、自分の周囲に人物の傀儡でもないということを言っていると思われます。共和党の主流派エスタブリッシュメントの妨害にも遭いながら当選してきたことは大きくて、彼らと何でもかんでも争うことは愚かなことですが、彼らの世話になっていないということトランプにとっての武器になります。また、大富豪たちからお金をもらっていないという点も同じです。

 

 それでも新政権が出来れば、内部でどうしても分裂や争いが起きることでしょう。キッシンジャーはそのことも見越しているようです。

 

 外交政策の潮流で言えば、トランプは現実主義者(リアリスト)ということになります。そして、アメリカの力を冷静に見極め、アメリカが超大国の地位から落ちていくに当たり、大きな衝撃を伴う急激な墜落ではなく、少しずつ落ちていくということを考えながら、アメリカの外交政策を実施していくでしょう。アメリカ帝国の衰退を認めつつ、急激な地位低下を避けるという方針で、世界各国と協調していくという姿勢をトランプは取ると思いますが、これは日本にとって大きなチャンスになると思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

キッシンジャー:「トランプにはしがらみがない」(Kissinger: Trump has no baggage

 

マロリー・シェルボーン筆

2016年11月20日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/campaign/306949-kissinger-trump-has-no-baggage

 

ヘンリー・キッシンジャーは、彼の人生の中でドナルド・トランプこそは「最も独自性の豊かな、ユニークな」次期大統領だ、それは、トランプがいかなる特定のグループに対しても借りを作っていたり、恩義を感じていたりしないからだと発言した。

 

キッシンジャーはCNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」に出演し、次のように語った。「次期大統領について言うと、私の経験の中で最もユニークだということになります。彼は何のしがらみも持たずにホワイトハウスに入ることになります。彼は特定のグループに対して借りを返さねばならないという立場にはありません。それは彼が彼自身の戦略に基づいて選挙に勝利して大統領になるからです」。

 

キッシンジャーはリチャード・ニクソン大統領のもとで国務長官を務めた。トランプとキッシンジャーは11月17日に外交政策について議論するためにニューヨークで会談を持った。

 

キッシンジャーは、トランプは選挙戦での主張を保ち続けると主張していないのなら、選挙公約を全て堅持すべきではないと語った。

 

キッシンジャーは番組の中で次のように語った。「トランプが選挙戦で取った立場に彼を閉じ込めてしまうようなことを誰も言うべきではありません。彼が現在そのようなことを主張していなければ尚更です。トランプが現在でも選挙戦での主張を堅持しているのなら、それと彼の行動が違う場合には不同意を表明することは当然ですけれどもね」。

 

キッシンジャーとトランプは今年5月に外交政策と国際問題について議論するために会談を持った。

 

キッシンジャーは更に次のように語った「私たちはトランプに対して、明確な目的を持ってもらい、議論をする機会を与えるべきだと考えます。私たちはこれまで長い間、政権の中の分裂を目撃してきました。トランプ政権でも内部分裂が起きるかもしれません。しかし、明確な目的や議論もなしに分裂が始まってしまうのはよくないでしょう」。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)







 

 古村治彦です。

 


 舞台は1980年の東北地方の寂れた廃村。この村は満洲引揚者が戦後に入植してできただ。無償提供された土地は農耕に適していなかったために、入植後約30年が経ち、村に残ったのは、主人公のユミエ(大竹しのぶ)と娘のエミコ(伊藤歩)だけだった。夫は東京に出稼ぎに行き、そのまま蒸発してしまった。他の家族は、村を捨てて出て行ったり、一家心中をしたりした。

 

 2人は誰からも見捨てられ、生活は困窮し、餓死寸前にまで追い込まれる。そこで、二人は身なりを整え、「客」を取ることにした。それから次々と男たちがやってくる。最初は山の向こうのダム建設現場で働く、東京からの出稼ぎ者(木場勝己)であった。彼は2万円払い、ユミエと寝る。そのアフターサービスに出されたのが、猛毒入りの焼酎。一気飲みした彼はそのまま泡を吹いて死亡する。母娘は死体を一輪車に乗せて外に運び出す。喜納昌吉&チャンプルーズが1980年に発表した『花〜すべての人の心に花を〜』を歌いながら。

 

 2人目は、電気代を支払ったので、電気再開のためにやってきた技師(六平直政)。電気を復活させた後、ユミエの客となる。3人目はこちらも代金を払ったために確認にやってきた水道職員(田口トモロヲ)。4人目は1人目の客となったダム工事の現場監督の助手(柄本明)。彼は行方不明になった男を探しにやってきた。5人目は、電気技師の上司(魁三太郎)、6人目は、ダム工事の監督(原田大二郎)。前半部は「語り→セックス→死(殺害)」の繰り返しであった。それをずっと見ていたのは、森に棲むふくろうであった。

 

後半部になると、とたんにシリアスな話になっていく。前半部は「語り→セックス→死(殺害)」の繰り返しであったが、警察官、県の職員である引揚者援護課の男、エミコの幼馴染が出てきてからは、大変シリアスな話になる。彼らもまた死を迎える。ユミエとエミコは全てを片付けて、朗らかに村を出る。

 

 私がまず思ったのは、1980年の日本でこのような困窮者が存在するんだろうか、警察が月に1度巡回して、その生活の困窮ぶりを見ている訳だから、生活保護なり、他の手段なり、行政が何らかの手段を講じるのではないか、という点が疑問に残った。野暮なことは言いっこなし、あくまで芸術だからと言われてしまえばそうなのだが。電気を止められ、水道まで止められてしまって、木の根を食べるというのはどうかと思うが、この村が戦後の入植地であり、本村から七曲りの峠を登ってこなければならないということになると、親戚はいないだろうし、地元の人たちからすればヨソモノであって、心配をしてやる必要なんかあるものかということもあったかもしれない。

 

 映画の中で「リストラ」という言葉を使っていたが、この言葉が1980年に人口に膾炙し、寂れた寒村に住むような主婦や少女に理解できたとは思えない。1980年と言えば、私は6歳であったが、そのような言葉が「会社からの解雇」の意味で使われていたという記憶はない。「レイオフ」とか「解雇」という言葉ならあったように思う。

 

 前半部の登場人物たちは、ほとんどがセックスをして、その余韻の中で死んでいくのだが、それぞれのスケッチでは、登場人物たちの人生と日本の戦後史が語られていく。この点が重要なのではないかと思う。

 

 後半部は、停滞した物語を終わりに向かわせるために、急に動きが早くなる。それは物語を終わりまで運ぶために取ってつけたような感じになりかけるが、最後にユミエとエミコが朗らかに村を出る決心をするところで、それもまたよしだなぁと思わされた。主人公のユミエ役の大竹しのぶは怪演と言ってよいくらいに様々な表現をしていた。その他のキャストも十分に素晴らしい演技であった。監督の要求に応えているのだろうと思う。

 

 私は映画をほとんど見ない。詳しくない。だから、映像がどうとか、俳優がどうとかということは分からない。難しいことは分からない。しかし、この映画は面白かった。こんな話はあり得ないよ、だって連続殺人で出てくる主要な男性キャストはほとんど殺害されるんだよ、しかも、殺害した母娘が捕まらないんだし、と思った。しかし、そんな無粋なつっこみを跳ね飛ばすだけの力があった。

 

 この映画が公開されてヒットしなかっただろうし、興行収入も低かったんじゃないかと思う。舞台はほぼ家の中だけだし、俳優陣は豪華だったけど、そんなにお金がかかっていなかったことは素人でも分かるから、赤字になることはなかっただろう。

 

 このような不思議な映画が出てくるところに、日本映画全体が持っている力があるのではないかと思う。日本映画はつまらない、面白くないと言われていて、映画に疎いので、「そんなものなのかな」と思っていた。しかし、面白い作品があるではないかという気持ちにさせられた。こうした映画を生み出せるのだから、全体として日本映画は調子は悪いのかもしれないが、死んでいる訳ではないと思う。

 


(終わり)





 
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 古村治彦です。

 

 今回は、大統領選挙が終わる直前に発表されたある論稿をご紹介します。この論稿で著者のジャッド・グレッグは、共和党のドナルド・トランプ、民主党のヒラリー・クリントンがアメリカの統治形態の基礎を攻撃したと主張しています。トランプは選挙システムを、ヒラリーはFBIをそれぞれ激しく批判しました。

 

 著者のグレッグは、候補者2人が当選を目指して選挙システムとFBIを激しく攻撃したために、それらに対するアメリカ国民の信頼が薄らぎ、アメリカの統治システムに対する信頼が揺らぐのではないかと心配しています。

 

 アメリカの有権者は、一部には彼らの主張を真に受けてしまう人たちもいるでしょうが、大部分は、「選挙のためのレトリックだ」と分かっている人たちでしょう。それでも、今回、アメリカの民意は、「ワシントンの大掃除をする」「共和党、民主党関係なく、ワシントンのインサイダー、エスタブリッシュメントをやっつける」ということになりました。これまで共和党に投票しなかった、白人の大学教育を受けていない男性労働者たち(南部では歴史的な経緯から民主党支持、北部では組合に加入していることからずっと民主党支持)がトランプに投票し、民主党側では、党のエスタブリッシュメントに失望した、バーニー・サンダース支持者とオバマを地滑り的勝利で当選に導いたオバマ・コアリッションが不活発だったために、トランプを押し上げ、ヒラリーを引きずりおろす格好になりました。

 

 一部には選挙人制度についての批判も出ていますが、選挙人制度には、小さな州の存在感を確保し、各州の独立性を守るという、反連邦主義的なアメリカの伝統にも則っているという面もあります。トランプが言っている「汚れきった沼から泥水を抜いて綺麗にする」ということが民意であり、それを今回アメリカの民主政治制度がすくい上げたのだということができます。

 

(貼り付けはじめ)

 

ジャッド・グレッグ:傷つけられるデモクラシー(Judd Gregg: Damaging democracy

 

ジャッド・グレッグ筆

2016年11月7日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/opinion/judd-gregg/304610-judd-gregg-damaging-democracy

 

私たちの憲法を基盤にした民主政治体制の強さは、人々の信頼に依っている。

 

リンカーン大統領は、彼独自の明確さと意識をもって、アメリカの民主政治体制の真髄を「人々の、人々による、人々のための統治」と述べた。

 

しかし、政府は自分たちがその一部を形成しているのだ、政府は私たちの生活のためにあるのだという信頼を人々が失ってしまえば、民主政治体制は存続の危機に直面する。

 

このアメリカで、そのようなことが起きるなどとは、かつては創造できなかった。しかし、今回の大統領選挙の残り数週間、民主政治体制の危機が起きる可能性が感じられてしまう状況であった。ありがたいことに、この状況も火曜日には終わる。

 

ヒラリー・クリントン、ドナルド・トランプの両候補とも、彼らがなすべき、人々の信頼を強めるという義務を放棄し、政府の諸機関を攻撃することに終始した。

 

ドナルド・トランプが私たちに語ったことは、彼が同意できないものは全て汚れていて、正しくない、ということだった。彼の攻撃対象リストのトップに来るのは、選挙システムだ。

 

人々が攻勢に実施されているという確信を持つことができる選挙がなければ、民主政治体制を備えているとは言えない。トランプは繰り返し繰り返し、選挙は公正さを欠いていると批判した。

 

「選挙は公正さを欠いている」ということを繰り返し述べることで、トランプは、民主政治体制にとって不可欠な価値を攻撃している。この価値とは、「投票した私の一票はきちんと数えられる、選挙は正当性を持っている」と人々が確信を持つことだ。トランプはこの民主政治体制にとって中核的な価値を傷つけている。

 

ヒラリー・クリントンは彼女自身の失敗と弱点を隠すために、私たちの民主政治体制において重要な機関である連邦政府の法執行機関を攻撃している。

 

FBIは、J・エドガー・フーヴァーが引退して以降、最悪の時期を過ごすことになったことだろう。しかし、これまでの数十年間、FBIはアメリカ国内で第一の法執行機関であり続けてきた。

 

FBIは党派に偏らない、我が国の法律に関する公正な執行者、我が国の守護者という評判を確立してきた。FBI長官にはこれまで誠実さを持つ才能あふれる人々が就任してきた。

 

ヒラリー・クリントンが私的なEメールサーヴァーを使用して国家安全保障を損なったのは、ヒラリー自身の間違いであって、FBIの間違いではなかった。

 

FBIとFBI指導部は、彼らの基本的な義務を果たすために捜査二十舌以上のことはないというのが事実だ。FBIは、いかなる人物も法の上にはいないこと、我が国の安全保障には妥協など許されないことを明確に示してくれた。

 

ヒラリーと彼女の側近たちは、ジェイムズ・コミーFBI長官を激しく批判した。

 

コミー長官は、新たな数千通のEメールが発見されたことを公表しなければならなかった。そうしなければ、彼は事実を隠蔽し、捜査を捻じ曲げたとして訴追されることになっただろう。

 

コミー長官はFBIの捜査過程における誠実さを維持するために適切な行動を行った。ヒラリーは適切な行動を取らなかった。

 

ヒラリーとヒラリーの支持者たちのFBIとFBI長官に対する攻撃は、FBIの信頼性を損なうこと、FBIが独立した、公正な機関ではないと人々に信じさせることを目的としていた。

 

彼らのこうした攻撃は、日曜日にコミー長官が新たに発見されたEメールの中に、彼が7月に出した「ヒラリー・クリントンは訴追されるべきではない」という結論をクスがエス材料は発見されなかったと発表したことで和らぐことになるだろう。しかし、たとえそうなっても、彼らが既に傷つけた大きな傷を癒すことにはならない。

 

ヒラリー・クリントンと彼女の支持者たちによる自己利益中心で、機会主義的な攻撃は、彼らの政治的な利益のために大変重要な政府機関の信頼性を犠牲にするものである。これは今までにはなかった破壊的な行動であった。その苦い影響はこれからもずっと続くだろう。

 

 

この偉大な国の大統領になろうとする人々が我が国の統治形態に対する信頼性を維持することが個人的な利益よりも重要なのだということを理解することがこれほどになっているのは今の時期を置いてない。

 

これは、統治している人々が彼らの失敗について説明責任を果たさなくてもよいということを言っているのではない。そうではなく、そういう時こそ説明責任を果たすべきだと言いたいのだ。

 

しかし、今回の選挙に出馬した主要政党の両候補はリーダーシップを持っていることを示さなかった。それどころか、彼らのアプローチは、ポピュリスト的無秩序(アナーキー)の坂道を登る第一歩であった。

 

火曜日に、今回の選挙は終わる。しかし、選挙がもたらしたダメージや傷は消えないだろう。

 

選挙に勝つのがどちらであれ、これまでのアプローチを根本的に変え、自分の仕事は我が国の統治形態を守ることであるということを認識する必要がある。

 

※ジャッド・グレッグ(共和党):元ニューハンプシャー州知事、元連邦上院議員(ニューハンプシャー州選出、3期)。連邦上院予算委員会幹部委員、委員長、連邦上院議員歳出委員会外交関連計画歳出小委員会幹部委員も歴任した。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)







 
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