古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2017年02月

 古村治彦です。

 

 今回は、塚本幼稚園・森友学園に関するワシントン・ポスト紙の記事を皆様にご紹介します。これまで、ニューヨーク・タイムズ紙、ザ・ガーディアン紙の記事をご紹介しましたが、今回の記事はそれらとまた少し違う視点からの内容になっています。

 

 今回の記事は、今回のスキャンダルが、安倍首相に致命傷になりかねないという視点から書かれています。内容自体はこれまで紹介されたものがほとんどですが(前半は幼稚園の教育内容と差別の件、後半は土地取引の件となっています)、安倍晋三記念小学校という言葉が出てきており、また、土地取引で、8億円値引きされ、更にゴミの除去費用で1億2000万円が政府から学園側に支払われており、実質的に土地がタダで学園に与えられた点を書いてあります。

 

 外側からの目で見ると、事態がよりシンプルにかつ明確に見えてきます。そして、安倍首相にとってはこの問題が命取りになる可能性を秘めているということ分かります。

 

(貼りつけはじめ)

 

日本において、ある学校を巡るスキャンダルが安倍氏に絡みつく危険性が出てきている(In Japan, a scandal over a school threatens to entangle Abe

 

アンナ・フィールド

ワシントン・ポスト

2017年2月27日

https://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/in-japan-a-scandal-over-a-school-threatens-to-entangle-abe/2017/02/27/29486b94-fa1a-11e6-aa1e-5f735ee31334_story.html?utm_term=.8777d9ea980a

 

東京発。日本の首相が彼の任期の中で最大の危機に直面している。後ろ暗い土地取引、隠蔽、「邪悪な」韓国人と中国人についての文章を送った幼稚園を巡る、急激に大きくなりつつあるスキャンダルに絡み付かれている。

 

安倍晋三氏は間違ったことは何もしていないと強く否定し、安倍昭恵夫人は、スキャンダルと批判の中心点となっている新設予定の学校の「名誉校長」を辞任した。しかし、スキャンダルがすぐに終息するという兆候は見られない。

 

上智大学の政治学教授で安倍政権を厳しく批判している中野晃一氏は「多くの疑問が浮上しており、安倍首相はこれらに答える必要があります。安倍氏が直接関与しているかどうかは分かりません。もし関与していないにしても、今回の件で安倍首相は痛手を蒙るでしょう」と述べた。

 

全てはヘイトスピーチに関する地方の小さな話から始まった。

 

大阪府豊中市にある塚本幼稚園(訳者註:正確には大阪市淀川区)が、保護者たちに対して手紙を送り、その中で在日韓国・朝鮮人や日本在住の中国人が「邪悪な考え(wicked ideas)」を持っていると述べ、中国人に対して侮蔑的な言葉を使った。

 

この私立幼稚園の運営する学校法人の理事長である籠池泰典氏は、手紙の送付は事実だと認めた。

 

別の文書では、「日本国内に(韓国人の)精神を受け継いでいるのに見た目は日本人という人々が存在することが問題です」と述べていた。共同通信がある保護者からこの手紙を入手し、内容を報道した。

 

共同通信が入手した2015年の運動会(a sport day)の映像では、ある園児が「日本を悪者にする中国と韓国には心を入れ替えてもらいたいです。私たちは安倍首相を支持します」と述べている。

 

安倍氏は月曜日になって、学校から距離を取ろうと躍起となった。国会での質疑の中で、「自分は教育内容について全く知らない」と述べた。

 

安倍氏は、籠池氏について以前、「私の考えとよく似た考えを持っている人」と述べていた。しかし、月曜日になって、「人種、国籍、宗教」で差別をする人は学校の指導者としてふさわしくないと述べた。

 

安倍氏は、「当然のことですが、私はあのような形で園児に応援されたいとは思いません。また、園児たちがあのようなことを言うのは、園児たちにとって適切ではないと考えます」と述べた。

 

大阪は在日韓国・朝鮮人の割合が特に高い。在日韓国・朝鮮人は、20世紀初めの日本による朝鮮半島の植民地支配が残したものである。

 

塚本幼稚園に通う3歳から5歳の園児たちは、日本国旗の前で国歌を歌い、教育勅語を暗唱する。教育勅語は1890年に制定され、日本人に対して、「皇統を保護し、その繁栄を維持する」ために「国に対して自分自身を勇敢に捧げる」よう求める内容だ。教育勅語は第二次世界大戦で日本が敗北した後、廃止された。この時、日本における天皇の役割は、儀式的なものにまで縮小された。

 

塚本幼稚園はウェブサイトでは、「塚本幼稚園では、日本人としての礼節を尊び、愛国人を育てる」としている。そして、幼稚園はこのウェブサイトを通じて、一連の文書の内容について「誤解」を招いたことを謝罪した。

 

しかし、スキャンダルが本格化したのは、塚本幼稚園を運営する森友学園が「安倍晋三記念小学校(“Shinzo Abe Memorial Elementary School”)」とつけようとした学校の敷地のために購入した土地が大きく値引きされて売られていたことが明らかになってからだ。

 

新設の小学校は今年の4月に開校予定だ。小学校はウェブサイトの中で、「初めてのそして唯一の神道小学校」であることを宣伝し、「日本人としての誇りを持ち、強固な背骨を持つ子供たちを育てる」としている。神道は日本の精霊信仰の宗教で、安倍氏はその信者だ。

 

森友学園は昨年、評価額840万ドルの2エーカーの土地に120万ドルを支払った。この値引きは表向き、土地がゴミや汚染土を含んでいたからだと説明されている。それにもかかわらず、政府は、ごみ処理や清掃のためのコストにかかる費用として、120万ドルを払い戻している。これは、森友学園が支払った額と同額だ。

 

日本共産党に所属する宮本岳志衆議院議員は、国会で「これは、政府がタダで土地をあげたということではないですか?」と質問した。

 

隣りにある少し広い土地は2010年に豊中市が講演を設置するために売却されたが、その値段は1250万ドルだった。学校が支払った金額の10倍だ。

 

現在、財務省は土地取引交渉に関する記録は、取引が成立後に廃棄したと述べている。これに対して、野党第一党の民進党の議員たちは、政府が隠蔽していると非難している。会計検査院(The Board of Audit)が現在、調査中である。

 

安倍氏は、森友学園に対して自分の名前を学校に使わないように頼んだが、寄付金集めの過程で、学園側が安倍氏の依頼を無視したと述べた。

 

安倍氏は先週の国家の委員会で「私が何度も止めるように依頼したのに、そのような形で私の名前が使われたことは極めて残念です」と述べた。安倍氏は更に、自分か妻が何か間違ったことをしていたことが発見されたら、自分は首相も議員も辞職すると述べた。

 

安倍昭恵夫人は、籠池校長の「情熱」を称賛していた。そして、名誉校長を務めた。しかし、先週金曜日になって名誉校長を辞任した。そして、学校のウェブサイトから彼女についての記述は全て削除された。

 

この件で、スキャンダルは人種差別だけでなく、政治的な談合(political collusion)の疑惑にまで広がることになった。

 

学校法人の理事長である籠池氏は、日本会議大阪支部の役員だ。日本会議は、国家主義的な団体で、安倍晋三首相や、与党議員たちの多く、そして、安倍内閣の大臣たちと深いつながりを持っている。

 

日本会議は多くの目標を掲げているが、その中には、「愛国心の醸成」と、第二次世界大戦後に日本を占領したアメリカによって書かれた憲法にかわって、「我が国の真の特性を基盤にした」新しい憲法の制定をすることが含まれている。

 

安倍氏は、強固な保守主義者(arch-conservative)で、日本を再び「美しい国」に(make Japan a “beautiful country” again)したいと望んでいる。安倍氏は、戦後日本に付けられた足枷を緩めるために改憲に向けて邁進している。

 

しかし、日本会議の目標は、日本に戦前の強さを回復させることである。籠池氏は、幼稚園の保護者向けのニュースレターの中で、改憲を主張し、「安倍晋三首相のような偉大な人物から学ぶ」ことを奨励した。

 

複数の専門家は、このスキャンダルが大きくなり続け、安倍氏が現在明らかになっているものよりもより大きな役割を果たしていたことが発見されたら、安倍氏に致命的に大きなダメージを与えることになるだろうと述べている。

 

左派の新聞社である毎日新聞社の記者だった板垣英憲氏は、「今回の疑惑で安倍政権は大きく傷ついており、政権の基盤を揺るがす可能性があります」と述べた。

 

今回のスキャンダルは、地方政治のそして人種差別に関わる問題を含んでいるが、それ以外に、日本の近隣諸国との間で外交的な嵐を巻き起こす可能性を持っている。板垣氏は、「安倍氏首相は今回の疑惑は小さな問題だと考えているかもしれません。しかし、大きなダメージになる可能性を秘めているのです」と述べている。

 

複数の世論調査で、安倍氏は約60%の支持率を記録している。そして、自民党内、そして野党第一党の民進党から彼に挑戦しようという動きはほぼない。しかし、スキャンダルが拡大することで、衆議院の解散と総選挙の実施という彼の計画が遅れる可能性もある。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)














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 古村治彦です。

 

 アメリカのトランプ政権の対北朝鮮に対する対応から、アメリカ外交の二元性、ホワイトハウスと国務省が綱引きをしているのだということを書いてみたいと思います。

 

 安倍首相のアメリカ訪問中、北朝鮮はミサイルを発射しました。これに対して、トランプ大統領と安倍首相は緊急で記者会見を行い、北朝鮮のミサイル発射を非難しました(安倍首相が世界の政治の中で重要な役割を果たしているような姿に見えるように北朝鮮が演出をしてくれたように見えます)。その後、北朝鮮の故金正日氏の長男・金正男氏がマレーシアのクアラルンプール空港で毒殺されるという事件も起きました。

 

 そうした中で、トランプ大統領の北朝鮮に対する態度を示す以下のような記事が出ました。

 

(貼りつけはじめ)

 

●「トランプ氏、対北朝鮮「中国は影響力を」 核増強も表明」

 

ワシントン=峯村健司

20172240908

朝日新聞

http://www.asahi.com/articles/ASK2S254GK2SUHBI00P.html

 

トランプ米大統領は23日、ロイター通信のインタビューに応じ、北朝鮮の新型弾道ミサイル発射について「強い憤りを感じる」と非難し、日本と韓国へのミサイル防衛システムの配備を急ぐ考えを示した。また、米国は核戦力を増強していくことも表明した。

 

    特集:ドナルド・トランプ

 

 トランプ氏は、北朝鮮による核やミサイルを使った挑発行為をやめさせるには、北朝鮮と関係が深い中国の役割が重要であると指摘。「中国は北朝鮮の脅威を簡単に解決できる」と述べ、中国に影響力を行使するよう圧力をかけていく方針を明らかにした。

 

 さらに、米国の核兵器能力について「他国に劣ることはない」と強調。オバマ前政権が2010年にロシアと結んだ戦略核弾頭を1550発以下に減らす新戦略兵器削減条約(新START)について、「米国が結んだまずい協定の一つ」と批判した。

 

 トランプ氏はまた、ロシアによる地上発射型の巡航ミサイル配備について、中距離核戦力全廃条約に違反すると非難。ロシアのプーチン大統領と会談の予定はまだないとしながらも、「もし会談すればこの問題を提起する」と述べた。(ワシントン=峯村健司)

 

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 これだけ見ると、トランプ大統領は北朝鮮に対して(と言うよりも中国に対して)、かなり強硬な姿勢を見せているということができます。しかし、一方で、北朝鮮に対しても決して門戸を閉ざしているのではないことを示す以下の記事が出来ました。

 

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North Korean officials are preparing to come to U.S. for talks with former officials

 

By Anna Fifield February 19

Washington Post

https://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/north-korean-officials-are-preparing-to-come-to-us-for-talks-with-former-officials/2017/02/19/3f853c04-f6a8-11e6-9b3e-ed886f4f4825_story.html?utm_term=.a5b0e6e82dd9

 

KUALA LUMPUR, Malaysia — Preparations are underway to bring senior North Korean representatives to the United States for talks with former American officials, the first such meeting in more than five years and a sign that Pyongyang sees a potential opening with the Trump administration.

 

Arranging the talks has become a lot more complicated over the past eight days, with North Korea testing a ballistic missile and the assassination of Kim Jong Un’s half brother in Malaysia, an act that many suspect was ordered by the leader of North Korea. Malaysian police on Sunday named as suspects four North Koreans who left the country on the day of the attack. 

 

Analysts also say they highly doubt that Pyongyang, which has insisted on being recognized as a nuclear state, would be willing to moderate its position on its weapons program. 

 

If the talks do take place, they could offer a glimmer of hope for an already-hostile relationship that has only deteriorated as the Kim government works aggressively to develop a nuclear-tipped missile capable of reaching the continental United States.

 

The planning for the “Track 1.5” talks — with the U.S. side made up of the former officials who usually take part in Track 2 talks, but the North Korean side composed of government officials — is still in a preparatory stage, according to people with knowledge of the arrangements.

 

What we know about the alleged assassination of Kim Jong Nam  Play Video2:09

The older half-brother of North Korean dictator Kim Jong Un was killed in Malaysia in an apparent poisoning attack carried out by two female agents. (The Washington Post)

The State Department has not approved the North Koreans’ visas for the talks, which would take place in New York within the next few weeks.

 

The North Koreans have expressed an interest in engagement, but nothing’s been approved yet,” said one person familiar with the preparations, speaking on the condition of anonymity because they were not authorized to discuss them.

 

Others who have been in touch with North Koreans describe an intense interest in what President Trump might do.

 

If this happens, it would be an interesting signal to the new administration,” one person said of the discussions.

 

The talks would be the clearest indication yet that Kim wants to talk with the Trump administration. “If this happens, I would take it as a very positive sign from both sides,” said another person with knowledge of the arrangements.

 

In recent years, there have been sporadic Track 1.5 talks that have taken place in Kuala Lumpur, Geneva, Berlin and Ulaanbaatar, Mongolia. But these talks have not taken place in the United States since July 2011, before Kim succeeded his father in North Korea.

 

The planned talks are being organized by Donald S. Zagoria of the National Committee on American Foreign Policy, who served as a consultant on Asia during the Carter administration and has organized previous rounds of such talks. Zagoria declined to comment on the preparations.

 

The talks would be run independently of the State Department, where officials have privately questioned the utility of such discussions. But if the administration issued the visas, it would be an implicit seal of approval. And if the discussions go well, they could pave the way for official talks.

 

Choe Son Hui, the director of the U.S. affairs department in North Korea’s Foreign Ministry, is likely to lead the delegation from Pyongyang. She is well known to American officials, having participated in official meetings including the six-party talks on denuclearization, as well as in other Track 1.5 talks.

 

Choe has a direct line to Kim, according to Thae Yong Ho, the North Korean deputy ambassador to London who defected to South Korea last year.

 

Since Trump was elected, there has been a notable change in North Korea’s usually bombastic rhetoric.

 

Pyongyang had been sharply critical of the Obama administration, saying its policy of “strategic patience” — waiting for North Korea to change its nuclear calculations — was “an aggressive and heinous ‘strategic suffocation’ policy” against North Korea.

 

But in its announcement of its missile launch Feb. 12, the North’s state media did not include its usual bluster about needing a deterrent against the United States and its “hostile policies.”

 

In his own statement after the launch, Trump notably did not condemn Pyongyang. The new president has, in fact, said very little about how he plans to deal with North Korea. “North Korea — we’ll take care of it folks, we’re going to take care of it all,” he said at his news conference last week, without elaborating.

 

His administration is conducting a review of North Korea policy. This provides space to broaden the options for dealing with Pyongyang and an opportunity to influence the new president, analysts say. 

 

While some expect him to take a hard-line approach, encouraged by hawkish advisers, others say that Trump, who prides himself on making deals, could be open to dialogue with the North Korean regime.

 

U.S. policy is hanging in the balance,” said Adam Cathcart, an expert on North Korea at the University of Leeds in Britain. 

 

I think the North Koreans ought to be pretty happy, because the Americans have laid off criticizing them too much and have, in fact, been making things quite easy for them,” Cathcart said. “But at some point, they are going to have to decide whether to pick up the cudgel.”

 

For those favoring an even tougher approach to North Korea, recent events have provided plenty of ammunition.

 

On Feb. 12, North Korea tested a ballistic missile for the first time since Trump was elected. The missile appeared to show significant technological advances, with upgraded power and range, and could mark another step in the push toward the capacity to hit Alaska or Washington state.

 

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 この記事は少し古いのですが、2017年2月19日付の『ワシントン・ポスト』紙に掲載されました。北朝鮮外務省のアメリカ担当部長が代表団を連れて、アメリカ訪問を行う準備をしている、というものです。アメリカ側で応対するのは、シンクタンクの幹部で、ジミー・カーター政権で、ホワイトハウスに属する国家安全保障会議、そして国務省で東アジア担当コンサルタントを務めたドナルド・S・ザゴリア(Donald S. Zagoria、88歳)です。ザゴリアは、コロンビア大学で博士号を取得した東アジア専門家で、北朝鮮問題に詳しい人物のようです。

 

 ザゴリアは現在、アメリカ外交政策全国委員会(National Committee on American Foreign Policy、NCAFP)というシンクタンクの上級副会長を務めています。NCAFPの創設者は国際関係論という学問分野でリアリズム(Realism)の泰斗と呼ばれたハンス・J・モーゲンソー(Hans Joachim Morgenthau、1904―1980年)です。ハンス・モーゲンソーの大著『国際政治(Politics Among Nations)』は、国際関係論における古典となり、授業では必ず読みます(日本ではどうかわかりません)。モーゲンソーはイデオロギーを排し、国際関係論を「学問(Science、合理的推論を使いながら、因果関係に基づく法則を発見する行為)」にまで昇華させようと奮闘した学者です。「力(Power)」と「国益(National Interest)」という概念を用いて分析を行う手法を採り、「勢力均衡(Balance of Power)」を主張した人物です。


 古村治彦です。

 

 今回は、イギリスのザ・ガーディアン紙に掲載された、森友学園・塚本幼稚園に関する記事をご紹介します。

 

 前回のニューヨーク・タイムズ紙の記事に比べて短い記事ですが、こちらもよくまとまっています。こちらの記事は、昭恵夫人にスポットライトを当てた内容に担っています。ポイントとしては、昭恵夫人が2015年に塚本幼稚園を訪問して、「夫もこの学園の教育方針を素晴らしいと考えています」と発言したことを紹介している点、そして、昭恵さんがこれまでリベラルな考えを支持する姿勢を示してきたことを紹介している点です。

 

 リベラルなことを発言する人なのに、超国家主義的な教育を行う教育機関を賞賛する、ということに、「変な人」だという印象を読者は持つでしょう。そして、この人は自分の確固とした考えを持つ人ではないということになるでしょう。

 

 戦後70年以上経ちましたが、今でも、第二次世界大戦を扱う番組になると、日本に関する映像は、皇居前で全員が深々とお辞儀するものなどが流されます。欧米の人々にしてみればこの映像はある種の恐怖と怒りの対象となります。ガーディアン紙を読む層は教育が高いそうですから、歴史にも詳しいでしょうし、この記事を「またぞろ、あんなものが蠢動しているのか」という思いを強くすることでしょう。

 

 私たちが選んだと言え、ああいう人を首相にいただいているということはなかなか大変なことです。

 

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安倍晋三首相と妻が超国家主義的学校との関係で追及を受けている(Shinzo Abe and wife under pressure over ties to ultra-nationalist school

―幼稚園が格安の値段で国有地を購入したという報道の後、安倍昭恵夫人と幼稚園のつながりが追及を受けている

 

ジャスティン・マッカリー(東京)

ザ・ガーディアン

2017年2月24日

https://www.theguardian.com/world/2017/feb/24/shinzo-abe-wife-akie-under-pressure-ties-ultra-nationalist-school-japan?CMP=share_btn_tw

 

日本の首相安倍晋三と妻昭恵は、超国家主義的な教育機関から距離を置こうと努めている。この教育機関は現在、人種差別と好意的な取り扱いを含む土地取引のために多くの批判の声を集めている。

 

安倍昭恵夫人と大阪にある私立の幼稚園である森友学園とのつながりが追及されるようになったのは、この幼稚園が4月に開校させようとしている小学校の敷地となる国有地を評価額の7分の1の値段で購入したとメディアが報じてからだ。明恵夫人は、小学校のウェブサイトから彼女の支援のメッセージが消去された直後、金曜日に小学校の名誉校長を辞任した。

 

メッセージの中で、昭恵夫人は、小学校の「道徳教育を通じての国民としての誇りを醸成する」試みを支持した。この試みは、戦前の軍国主義に戻ろうとするものだ。更に、昭恵夫人は、森友学園の籠池泰典理事長の情熱に感銘を受けたとも述べている。

 

この問題は今週の国会での議論でも中心の議題となった。野党議員たちは、この小学校が大変低い値段で土地を購入することが許可された理由を説明するように要求した。

 

安倍晋三首相は、森友学園が小学校の名前を彼の名前を祈念して「安倍晋三記念小学校」にしようとしたが、自分の名前を使うことに反対した、と述べた。それ以降、森友学園は、小学校の名前を「瑞穂の國(“land of rice”)記念小學院」とすると決定した。

 

安倍首相は、議論が起きた後で、昭恵夫人は名誉校長から退くと決めたと述べた。また、夫人は、保護者たちの前で自分の名誉校長の就任が発表された後で、それを受け入れるしかなかった、他に選択肢はなかったとも述べた。

 

安倍首相は国会の委員会で次のように述べた。「このような経緯ではあったが、名誉校長を続けることで生徒と保護者の方々にご迷惑をかけることになるかもしれないと考え、妻は、学園側に辞任すると伝えました。妻が名誉校長としてウェブサイトに掲載されていたことは事実ですが、妻の求めによって、削除されました」

 

安倍首相は自分と妻は、森友学園が評価額よりも低い価格で国有地を購入する許可を得ることに関して、いかなる役割もはたしていないと、疑惑を否定した。首相は、もし関与を証明されたら、辞任するとも述べた。

 

森友学園のカリキュラムは園児たちに愛国心を教え込むように作られている。園児たちは皇族たちの写真の前でお辞儀をすること、軍事基地に遠足に行くことが必ず求められる。3歳から5歳の子供たちが毎朝国家を歌い、1890年に出された教育勅語を暗記する。 教育勅語は、天皇への忠誠と国家に対する犠牲を求めている。アメリカの占領当局は、教育勅語が戦前の軍国主義を醸成したと考え、禁止した。

 

籠池氏は日本会議の大阪支部の指導者だ。日本会議は、超保守主義的なロビー団体であり、安倍晋三首相と彼の内閣の大臣10名以上が会員となっている。日本会議は、日本軍の再建を求め、「戦時中、日本は西洋の植民地主義から東アジアを“解放”した」、もしくは、アメリカが作った戦後憲法は、日本という国家の「真の、元々の特性」を弱めるものだと主張している。

 

日本のメディアは最近になって、森友学園が8770平方メートルの国有地を1億3400万円(95万ポンド)で購入したことを報じた。この価格は評価額の14%だ。政府は、値引きの理由として、敷地内の産業廃棄物の除去のコスト分を引いたと主張している。

 

今月初め、塚本幼稚園は、日本に住む中国人、韓国人を誹謗中傷する内容に手紙を保護者に配った。大阪府は、この件で籠池氏に質問を行った。学園側は後に謝罪を行った。

 

籠池氏は土地購入で何も間違ったことはしていないと疑惑を否定した。ラジオ番組に出演しインタヴューを受け、その中で「私は何も悪いことはしていません」と述べた。そして、「非保守的なメディアが、歴史と伝統を大事にする学校を建設するという私たちの計画の破壊を企てているのです」とも述べた。

 

昭恵夫人は短期間名誉校長であったが、彼女と森友学園の関係はそれよりも深いものである。2015年に塚本幼稚園を訪問した際に彼女は保護者に向かって、「私の夫も個々の教育方針は大変に素晴らしいと考えています」と述べた。

 

昭恵夫人は、リベラルな主張を支持する姿勢を見せてきたことで、賞賛を受けてきた。2014年には東京レインボープライドのイヴェントに出席したり、韓国文化が好きだと発言したりしてきた。

 

昭恵夫人は、津波から守るためのコンクリートの堤防を海岸線に建設するという政府の決定にも疑問を呈している。

 

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アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

 

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 古村治彦です。

 

 今回は、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された、塚本幼稚園と森友学園に関する記事をご紹介します。この記事は少し長いですが、今回のスキャンダルの概要を掴むことができます。

 

 記事の内容は、戦後教育に反対する安倍晋三首相を含む右派・保守派が伝統主義的、愛国心教育を進めようとしている中、塚本幼稚園・森友学園はその最先端を進んでいた。そのことで批判もあったが、今回、森友学園が建設中の新設小学校の土地取引を巡り、政府から好意的な扱いを受けたという詳細が明らかになり、本格的なスキャンダルとなった、というものです。

 

 今回の記事では、森友学園が突出しているということではなく、保守派・右派の戦後教育否定の流れの中にあること、戦後教育が平和主義と民主政治体制を基盤としているが、保守派と右派はそれを否定していること、そうした右派・保守派の代表が日本会議であり、それに安倍晋三首相も参加しているということ、森友学園が「世界で最も純粋な国・日本」というナチスまがいの言辞を使っていたことなどが書かれている点が重要です。

 

 読者は、こうした点から、「安倍晋三氏と安倍氏を中心とする勢力は、ネオナチのようであり、歴史修正主義者だ。アメリカが戦後築いた世界体制の根幹をなす諸価値を否定する人々だ」ということになります。安倍氏たちに利用価値があるうちは良いですが、事情が変われば、切り捨てるための大きな理由となります。

 

 安倍首相が1週間前には「私の考えを支援して下さる方」と呼んだ籠池氏を、昨日は「しつこい方」と切り捨てました。そのようなことが安倍氏自身にも降りかかることもあるのです。

 

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偏見と不正手段を巡るスキャンダルの中心にある小学校は、日本のファーストレイディーと関係を持つ(Bigotry and Fraud Scandal at Kindergarten Linked to Japan’s First Lady

 

ジョナサン・ソーブル筆

2017年2月24日

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2017/02/24/world/asia/japan-abe-first-lady-school.html?smid=tw-nytimesworld&smtyp=cur&_r=1

 

東京発。超保守的な教育方針を持つ塚本幼稚園は、現在大きくなりつつある政治スキャンダルの中心にある。この塚本幼稚園では、子供たちは、戦前に生きたこの子供たちの曽祖父母たちが「自分たちも受けた」と思うであろう種類の教育を受けている。

 

子供たちは軍隊式の音楽に合わせて、規律正しく行進をする。子供たちは19世紀の天皇が与えた、愛国的な行動を示した指針を暗唱する。塚本幼稚園によれば、こうした教育の意図は、「世界で最も純粋な国である(the purist nation in the world)」日本に生きる子供たちの中に「愛国心と誇りを醸成する」ことだということだ。

 

現在、塚本幼稚園と、伝統を重視する支持者たち、その中には安倍晋三首相の妻も含まれる、こうした人々は激しい批判に晒されている。塚本幼稚園は中国人と韓国人に対する偏見(bigotry)を促進し、政府から不法な財政的好意を受け取ったとして批判を受けている。

 

批判の声はどんどん大きくなり、安倍首相率いる保守的な政権は防御に回っている。また、日本において影響力を増大しつつある右翼教育運動の持つ暗黒の側面に対する人々の関心を集めている。

 

今週金曜日、安倍氏は国会で、昭恵夫人が、塚本幼稚園の所有者が建設中の新設小学校の「名誉校長(honorary principal)」を辞任したと述べた。この小学校は、民間の法人である所有者が、法外に値引きされた値段(steep discount)で、政府から購入した土地の上に建っている。今月になって詳細が明らかになってから、この好意的な土地取引に対する批判が起きた。

 

安倍氏は国会において、「私の妻と私は、学校の認可や土地取得に一切関与していません。もし関わっていたのなら、私は政治家の職を辞します」と発言した。

 

安倍氏と保守派の人々は、日本の教育システムはリベラル的な偏見に満ちていると非難している。彼らは、教育現場について、左翼の教師たちが日本の戦争犯罪について「被虐性愛者的、マゾヒスティックな」考えを拡散し、古くからある伝統的な諸価値ではなく、個人主義と平和主義を促進する場所となっていると考えている。

 

東京の学習院大学で教育学を専門にしている佐藤学教授は、「塚本幼稚園は、右派による押し戻しの過激な現象の中にあるのだと思います」と述べた。

 

佐藤教授は「これは、平和主義と民主政治体制(pacifism and democracy)を基礎とする戦後教育システムに対する拒絶です」と述べている。

 

塚本幼稚園では、古い形の愛国主義が表面に押し出されているが、これが時に偏見にまで発展することがある。

 

先週、塚本幼稚園は、ウェブサイト上で、「外国の方々から誤解を受けてしまう可能性がある表現」を含む文章を発表したことについて謝罪を行った。保護者たちは、PTAの会費のようなありふれた問題について、排外主義的な激烈な言辞で返されてきたと批判している。幼稚園の職員たちは、こうした保護者たちを「よこしまな考えを持つ韓国人や中国人」がトラブルを起こそうとしていると激しく述べた。保護者たちは、塚本幼稚園の籠池泰典園長は、幼稚園に韓国人や中国人の血を引く園児を受け入れるように求めた保護者たちを非難したと述べている。

 

籠池氏は保護者に配ったあるお知らせの中で、「問題は、日本人のような外見をしながら、外国人の魂を受け継いでいる人々がいることです」と述べている。

 

安倍氏は自身の政治家としてのキャリアを通じて、日本の教育の改善を最優先課題に挙げている。塚本幼稚園で実施されている伝統主義的な教育のよりソフトなものを主張している。日本のマスコミが入手した新設小学校が初期に出していたパンフレットの中で、籠池氏は、学校の名前を安倍氏にちなんでつけると約束している。籠池氏は後に、違う名前を選択した。この変化について、安倍首相は彼の依頼でこの変化が行われたと述べた。

 

安倍氏は、アジアを支配した時代における悪行について調子を下げる日本の歴史教科書の修正の動きを支持している。安倍首相は、愛国主義を促進する「道徳教育」を公立学校のカリキュラムの一部にするための法律を成立させた。

 

塚本幼稚園は更なる愛国主義的な教育アプローチを採用している。

 

塚本幼稚園が教育勅語を園児たちに暗唱させていることが人々の注目を集めたのが数年前のことだ。教育勅語とは1890年に発表された天皇からの布告であって、戦前の日本の軍国主義的な教育カリキュラムの基礎となり、第二次世界大戦後に廃止された。

 

保守派の人々は教育勅語を伝統的な諸価値を賞賛しているものと考えている。一方、リベラル派は、抑圧的な権威主義時代に逆戻りするものと考えている。教育勅語は、児童や生徒たちに対して、家族を愛すること、「全ての人々に愛情を広げること」、「知識を深め、技芸を上達させること」を奨励しているが、しかし同時に、「天皇に対してより良き、忠実な臣民」となり、求められた時には「自分自身を勇敢に国家に捧げること」も求めている。

 

塚本幼稚園から子供を退園させた5名のお母さんたちにインタヴューを行った。母親たちは異口同音に、塚本幼稚園では排外主義に直面したこと、籠池氏と副園長を務めるその妻から攻撃を受けたことを話してくれた。そうした攻撃には多くの場合、人種的偏見に満ちた言葉が用いられた。彼女たちは匿名にしてくれるようにと言った。それは、実名で声を上げると社会的な攻撃を受けるのではないかと言う恐怖感を持っているからだ。

 

ある母親は、「私たちの家族は韓国が大好きで、よく旅行に行っていました。ある時、息子が担任の先生に韓国旅行の計画について話したのです。先生は“韓国は汚い場所”だと言い、“日本国内のもっと素晴らしい場所に旅行すべき”と息子に言ったのだそうです」と語った。

 

別の母親は、先生たちが彼女の息子に向かって「犬のような臭いがする」と言い、籠池氏はこの母親のことを「反日的な外国人」と呼んだ。この母親は日本人である。

 

籠池氏に接触しようとしたが果たせなかった。塚本幼稚園を運営する学校法人森友学園に電話をかけたところ、女性が応対した。この女性は、自分たちの幼稚園と学校と土地取引に関する日本のマスコミの報道は「不公平」だと述べたが、彼女はそう考える理由を説明しなかった。その後、数度電話をかけたが応答はなかった。

 

幼稚園の園長を務めながら、籠池氏は森友学園を率い、また、日本会議大阪支部の支部長を務めている(訳者註:日本会議は籠池氏を役員だとしている)。日本会議は著名な右翼的圧力団体で、安倍氏やその他の影響力を持つ保守派の議員たちが会員として参加している。

 

木曜日に森友学園のウェブサイトから削除されたメッセージの中で、安倍昭恵夫人は、森友学園について、「子供たちの背骨となる基礎を強くします。これはより優れた道徳教育の基礎となります。そして、日本人としての誇りを持たせます」と賞賛した。

 

稲田朋美防衛大臣は、学校法人を賞賛し、籠池氏に対して彼の業績を賞賛する公式の文書を送った。

 

塚本幼稚園はリベラル派の批判を浴びていたが、土地取引が明らかにされて、本格的なスキャンダルの中心となった。この土地取引は昨年行われたが、詳細が明らかになるまで数カ月を要した。

 

財務省は森友学園が土地を取得することを認めた。この土地は空き地で大阪の郊外にあり、近くに飛行場がある。広さは2エーカーだ。政府の記録と国会での職員による証言によると、この土地を1億3400万円、約118万ドルで売却した。

 

土地取引の価格について、財務省は当初、価格を非公開とした。この価格は驚くほどに低いものだった。財務省は以前、土地の価格を9億5600万円と見積もっていた。この数字は実際の価格の7倍だ。比較対象として、隣にある少しだけ広い土地を2010年に豊中市が購入した時、価格は14億円であった。

 

財務省は、森友学園がゴミ撤去をしなければならないのでその分を価格から差し引いたと述べている。処分されていないコンクリートとごみ、ヒ素と鉛がその土地には埋まっていたと述べた。

 

野党政治家たちは財務省に対して土地の値段に関する計算について説明するように求めた。全国日刊紙朝日新聞が今回の事件を最初に報道した。朝日新聞は、籠池氏の「森友学園は、ゴミ撤去に“約1億円”を支出した」と言う発言を引用している。これは、森友学園が受けた値引きの額と矛盾を起こしている。

 

新設小学校は現在、敷地の中で部分的に完成しつつある。

 

奈良学園大学学長で、新設小学校に対して認可を出した審議会の委員長を務めている梶田叡一は、新設小学校に関しての議論と考慮が行われた時、土地取引のことは伝えられなかったと述べた。梶田氏は、日本の古代からの精霊信仰である神道を強調する森友学園のイデオロギーは、学校開設にとっての障害にはならないが、審議会は現在、決定について見直しをしていると述べた。

 

梶田氏は、「不適切なことがあれば、認可は撤回されることもあります。学校法人が神道であっても右派であっても、保護者が望むのなら、私たちは反対しません」と述べた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)







アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22






 
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 古村治彦です。

 

 今回は少し古くなりましたが、トランプの大統領選挙当選直後に書かれたアジアの安全保障に関する論考をご紹介します。

 

 この論文では、アジア各国は、アメリカと中国との間でどちらにも偏り過ぎない態度を取るだろうということを書いています。トランプ当選はアメリカの国際社会における衰退を示す現象、大転換であった訳ですが(オバマ大統領の時に既にそれは見えていましたが)、アジア諸国はそれを敏感に感じ取っているようです。

 

 一方、アメリカの覇権がずっと、ずーっと続かないと、それにくっついて美味しい思いをしている日本のエスタブリッシュメントは、アメリカ一択、「中国は嫌い」という感情先行で、アメリカに日本人が貯めた年金資金と新幹線を差し出すということになっています。また、軍事力を増強し、海外にも出ていけるようにして、アメリカの負担を少しでも軽減して差し上げるということもやっており、アメリカ側すれば、「勝手にいろいろとやってくれてありがとう」ということになります。が、「狡兎死して走狗烹らる」です。

 

 アメリカの忠犬を勝手に気取っていても、アメリカ自体が大転換をしたら、ただの邪魔な存在になってしまうということになります。

 

(貼りつけはじめ)

 

トランプ大統領の下、アジアのアメリカ同盟諸国はより自力での安全保障を考える可能性がある(Under Trump, U.S. Allies in Asia May Look to Themselves for Security

 

ベンジャミン・ソロウェイ筆

2016年11月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/11/11/under-trump-u-s-allies-in-asia-may-look-to-themselves-for-security/

 

長年にわたり、東アジアと東南アジアのアメリカ同盟諸国は密かに、地域の安定と安全保障に関してアメリカ依存から少しずつ脱却する用意をしてきた。バラク・オバマ大統領の外交政策の柱となり、民主党のヒラリー・クリントンが大統領に選ばれた継続されただろう、戦略的なアジアへの「回帰」(“pivot” to Asia)はあったが、アジア諸国の自立に向けた動きは続いた。ヒラリー・クリントンは選挙期間中、環太平洋経済協力協定には反対したが、彼女はアジアへの回帰路線を継続したことだろう。

 

ドナルド・トランプ次期大統領は番狂わせで選挙に当選した。そのために、東アジアと東南アジアのアメリカの外交政策は、ヒラリー当選の場合とは大きく異なることを意味する可能性がある。そして、アジアの同盟諸国の間で既に起きている自立の動きを加速させる可能性がある。

 

リンゼイ・フォードは2015年までオバマ政権の下で4年以上にわたり国防総省の高官たちに助言を行ってきた。リンゼイ・フォードは次のように語った。「アジア諸国は、アメリカの中東での失敗と予算を巡る争いを長年目撃し続けたために、アメリカの指導力は低下していると考え、危険や脅威を避けようと静かに行動している」。

 

アジア・ソサエティ政策研究所のアジア地域安全保障担当部長を務めるフォードは、火曜日の投開票日の後、声明を発表しその中で、「トランプ新政権がこうした恐怖心を払拭するために迅速に行動しなければ、アジア諸国の動きを加速させることになる」と述べている。

 

選挙戦期間中、トランプは、日本と韓国に対して、アメリカとの安全保障に関する協力関係にかかるコストをより多く負担するように求めると発言したり、アメリカの同盟諸国に核兵器を拡散させるというアイデアを発表したりしていた。東シナ海、南シナ海での紛争が激化し、北朝鮮が核兵器を開発し続けている状況で、オバマ大統領は大統領から退任しようとしている。本誌は、フォードに対して、東アジアと東南アジアのアメリカ同盟諸国が何を期待しているのかについて語ってもらった。

 

今回のインタヴューはEメールのやり取りを通じて行われた。要約と編集を加えている。

 

本誌:地域のアメリカの存在が薄くなっていくことに対して、アジアの同盟諸国がそれに備えていることの最も明白な具体例は何か?

 

リンゼイ・フォード:アジア諸国がアメリカ衰退の危険を回避しようとしていることの明確な証拠は、東南アジア諸国連合に参加している諸国が時に関与している、慎重なバランスを取る動きだ。これは、アメリカと中国の間で、経済的なつながりと軍事的な投資の面で、多様化を図ろうとする行動だ。最近のフィリピンのドゥテルテ大統領とマレーシアのナジブ首相の訪中はその具体例だ。私たちは南シナ海におけるバランスを取る動きも目撃している。アセアン諸国はアメリカ、中国双方にあまりにも近づき過ぎないように注意しながら行動している。

 

本誌:トランプはこうした恐怖感を和らげるためにどうするだろうか?

 

リンゼイ・フォード:トランプ次期大統領になっても、核の傘というアメリカの拡大した抑止力による関与は揺るがないであろう。日本や韓国のような国々が独自に核開発能力を持つべきだというトランプの初期の発言はアジアの同盟諸国を驚かせた。彼はこの初期の発言から後退するところを公に見せたいとは思わないだろうが、彼は核拡散が誰にとっても最善の利益とはならないこと、アメリカは核攻撃や挑発から同盟諸国を防衛するために投資することを明確にする必要がある。

 

本誌:日本やフィリピンのようなアメリカのパートナーは自国の軍事力を増大させようとしている。このような試みはどのように促進されるだろうか?

 

リンゼイ・フォード:安倍首相の下、日本は、第二次世界大戦が終結してから初めて、より「普通の」軍事大国になろうとして少しずつつま先を水の中に入れつつある。日本は慎重に「自衛」の意味の再定義を進め、軍事力に見当たった役割を果たそうとしてきている。この変化はこれからも促進されるであろうが、この変化にあたって、日本はアメリカの安全保障の傘に依存すべきではなく、自力で立つということを確信しなければならない。私たちは、日本が伝統的に堅持してきた国内総生産1%以内という制限を超えて国防費を増大させていくことを目撃していくことだろう。安倍政権が日本国憲法9条のより根本的な再解釈や変更を進めることを目撃するかもしれない。それに合わせて、自衛隊により「攻撃的な」能力を構築することも考えられる。このような事態の進展は韓国や中国といった近隣諸国に懸念を持たせることになるだろう。そして、中韓両国の軍事予算や姿勢に影響を与える可能性がある。

 

本誌:TPPの崩壊は安全保障に影響を与えるか?

 

リンゼイ・フォード:安全保障の観点から、TPPの崩壊の最大の影響は、アジア地域におけるアメリカの信頼性の喪失ということになるだろう。TPPとシリア問題の事後処理でアメリカが失敗していると同盟諸国やパートナーが見做し、アメリカは約束を守らないという結論に達したら、彼らは、アメリカの安全保障に対する関与と指導力を信頼しなくなるだろう。その結果、アジア地域の同盟諸国の間で、国際安全報賞状の問題、ISや北朝鮮の野心の抑制といった問題に対する対処で、支援のための連合をアメリカが中心となって形成することが難しくなる。

 

本誌:ここしばらくの大統領たちは北朝鮮との間にある外交に関する諸問題に対処することに失敗してきた。トランプのアプローチがどのようになるか、その手掛かりが存在するか?

 

リンゼイ・フォード:現在のアジアの安全保障において、北朝鮮の状況に対処することは最大の問題となっている。そして、次期大統領はすぐにこの問題に対する対処法を発表する必要がある。ドナルド・トランプが既に対北朝鮮計画を策定していることを示す兆候はほとんどない。また、彼自身がこれまで行われた対北朝鮮政策の失敗について理解しているとも考えられない。北朝鮮問題についての簡潔な声明の中で、トランプは中国に対して単に「北朝鮮についてはあなたたちの問題だ」と言うだろうことを示唆している。中国に任せてしまうというアプローチは失敗してしまうだろう。これからの数か月、北朝鮮問題や他の問題で、トランプが創造的な、全く新しい考えを思いつくことに期待するしかない。

 

本誌:台湾はトランプ大統領の下でリスクが増大するだろうか?

 

リンゼイ・フォード:トランプ大統領の下で、台湾がどのようになるかを予想するのには少し早すぎると思う。台湾はこれまで、アメリカ連邦議会内部で超党派の強力な支援を受けてきた。しかし、アジアの残りの地域のように、台湾も新政権について分析するための時間と、物事がどのように動くかの雰囲気を探る必要だ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)









アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

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