古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2018年05月

 古村治彦です。

 

 北朝鮮問題については「融和」ムードの中にありますが、イランに関してはにわかに情勢が緊迫してきました。アメリカがオバマ大統領時代にイランと結んだ核合意を破棄し、イランに経済制裁を科すということになりそうです。イランはアメリカ以外にもヨーロッパの英独仏とも核合意を結んでおり、この多国間の枠組みからアメリカが離脱するということになりそうです。


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アメリカの離脱に対して、イランは反発し、英独仏は慎重な対応を求め、新たな合意を結ぶことを提案していますが、アメリカもイランもこれには乗らないという状況です。

 

 アメリカ(トランプ大統領)の言い分としては、イランとの核合意では核兵器の廃棄には程遠く、結局イランが核兵器を持つことを容認しているので、現在の合意は意味がない、ということです。アメリカは、イランに対して宥和的な態度(appeasement policy)を改めて、対決姿勢を取り、核兵器放棄まで推し進めるということになります。

 

 ヨーロッパの英独仏は、イランを宥めて戦争を起こさせないということを考えています。現在の情勢で、中東で戦争が起きるとすれば、イランとイスラエル、イランとサウジアラビアとの戦争ということになりますが、イランとこれらの国々の間にはいくつかの国々が存在します。イランとサウジアラビアはペルシア湾を挟んで対峙しています。


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 そうなると、戦争となると、地上軍同士の戦闘ではなく、戦闘機による攻撃や爆撃、ミサイルを撃ち合うということになるでしょう。もしくはお互いの近隣諸国の敵対勢力を使ってのテロ攻撃ということになるでしょう。イランはイスラエルに敵対しているヒズボラを支援し、イスラエルを攻撃させています。

 

 中東ではイスラエル、イラン、サウジアラビアがそれぞれ資金を出して、それぞれの近隣諸国の民兵組織などを支援して、代理戦争状態を作り出して、自国の安全と安定を図っているように見えます。そうした中で、イランが核武装すると、状況が一気に不安定化することになります。

 

 国際関係論の中の理論であるリアリズムで考えると、イランが核武装をしたら、既に核武装しているイスラエルとバランスを取ることが出来るので状況は安定するということになります。ネオリアリズムという理論を打ち立てた大学者ケネス・ウォルツは2012年にイランの核武装を容認する論文を発表しました。国際関係論分野の学者の多くが言ってみれば彼の弟子、孫弟子、曾孫弟子となるので、ウォルツの論文は衝撃を与えました。

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ケネス・ウォルツ(1924-2013年)

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国際政治の理論 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 3)


 しかし、アメリカはイスラエルとは「特別の関係」にあります。このことを指摘したのは、リアリズムの学者であるジョン・J・ミアシャイマーとスティーヴン・M・ウォルトです。彼らの著書『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』は大きな話題となりました。

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イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 1


 バラク・オバマ前政権はイスラエルとの関係が悪く、イスラエルが反対していたのですが、イランとの核合意を締結しました。イスラエルは自国内には800万程度の人口しかなく、国土も狭いのですが、国外のユダヤ人の物心両面からの支援を受けて存続している国です。また、核武装をしているというのが抑止力となっています。ですから、中東各国が核武装することは国家存続の危機と捉えます。

 

 現在のアメリカの外交政策で言えば、イスラエル重視に転換しているので、イランに対しての姿勢が厳しくなります。北朝鮮に対してと同じように、「完全な、検証可能な、逆戻りできない非核化」を求めることになります。この原則をアメリカは敵対する可能性がある国々に圧力をかけて守らせるという姿勢を取ることになります。

 

 北朝鮮とイランの非核化を行った後は、それぞれ中国とロシアに任せてアメリカは退くということになるのだと思います。しかし、この非核化までに道のりが平坦ではなく、両国がアメリカの意向に完全に従って、ほぼ無条件降伏するという形にならない場合には、爆撃や戦闘が行われる可能性があるということになります。

 

 楽観主義だけでは状況を大きく見誤ることもあります。

 

(貼り付けはじめ)

 

●「米、イラン核合意離脱=「最高レベル」の制裁実施へ-北朝鮮や原油取引に影響も」

 

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018050900129&g=prk

 

 【ワシントン時事】トランプ米大統領は8日、ホワイトハウスで演説し、2015年に欧米など主要6カ国とイランが結んだ核合意から離脱すると発表した。合意維持を求めてきた欧州諸国との間に深刻な亀裂が生じかねない。イランは核合意に留まる意向を示したが、米国による制裁復活に今後対決姿勢を強め、中東情勢が緊張する事態に発展する可能性もある。

 

 トランプ氏は演説で、核合意を「一方的でひどい合意だ」と批判。「現在の合意の腐った仕組みでは、イランが核兵器を開発することを阻止できない」と主張した。合意で解除された制裁を再発動し、「最高レベル」の経済制裁をイランに科す方針を示した。追加制裁も検討しているもようだ。

 

 また、トランプ氏は、北朝鮮との核交渉を念頭に「きょうの措置は重大なメッセージだ」と強調した。「欠陥がある」と非難するイラン核合意を否定することで、6月初旬までに開催予定の米朝首脳会談でも「完全な非核化」の実現で妥協しない構えを示す狙いがある。

 

 トランプ氏は17年10月、核合意は米国の国益に見合っておらず、「イランは合意を順守していない」と認定。今年1月には、制裁の再発動は見送る一方、弾道ミサイル開発制限が盛り込まれていないことなど「合意の欠陥」の修正を欧州諸国に求め、今月12日までに修正できなければ離脱すると警告していた。

 

 トランプ氏は今回の離脱発表で「イランの核の脅威に対する包括的な解決策を見いだすために同盟国と協力していく」と強調した。だが、フランスのマクロン大統領らの説得を受け入れずに合意離脱に踏み切った経緯があり、実効性のある措置を講じることができるかは不透明だ。

 

 イラン産原油輸入目的でイラン中央銀行と取引する外国金融機関などへの制裁は核合意で解除されていたが、最大180日間の猶予期間の後に再発動される。日本や欧州の原油輸入に影響を及ぼす可能性がある。(2018/05/09-09:54

 

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●「イスラエル軍がシリアのイラン拠点攻撃=9人死亡、米合意離脱で緊張」

 

5/9() 8:55配信 時事通信

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180509-00000032-jij-m_est

 

 【エルサレム時事】在英のシリア人権監視団によると、イスラエル軍は8日、シリアの首都ダマスカス近郊の武器庫やロケットランチャーをミサイルで攻撃した。

 

 武器庫などはイランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」のものとみられ、少なくとも9人が死亡したという。

 

 トランプ米大統領は攻撃直前、イラン核合意からの離脱を発表し、イランが反発。離脱を支持するイスラエルとイランの間でも緊張が高まっている。

 

 トランプ大統領の発表に先立ち、イスラエル軍は「シリアにおけるイラン軍の変則的活動を確認した」と表明。イランがシリア国内の拠点から、シリアと接するイスラエル北部の占領地ゴラン高原に攻撃を加える恐れがあるとみて、地元当局に避難施設を開放するよう指示した。 

 

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●「イラン核合意」

 

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018050800189&g=tha

 

 イランの核開発をめぐり米国と英独仏、ロシア、中国の主要6カ国が2015年7月、イランと最終合意した「包括的共同行動計画(JCPOA)」。イランによる濃縮ウラン保有や遠心分離機稼働数を大幅に制限し、核兵器開発を一定期間難しくすることが柱で、見返りに欧米がイランに科していた制裁の解除を定めた。16年1月に合意履行が始まった。(ワシントン時事)(2018/05/08-06:34

 

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●「<イラン>核合意修正拒否 仏大統領「新提案」協議要請に」

 

4/30() 22:10配信 毎日新聞

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180430-00000058-mai-int

 

 【パリ賀有勇】フランスのマクロン大統領は4月29日、イランのロウハニ大統領と電話で協議し、2015年のイラン核合意を補う「新たな合意」について協議したい意向を伝えた。核合意の存続に向けてイラン側に直接働きかけた形だが、ロウハニ師は核合意の修正には応じない姿勢を崩さなかった。

 

 仏大統領府の発表によると、電話協議は1時間を超えた。マクロン氏は、現行の核合意を尊重することを確認するとともに、自身がトランプ米大統領に提案した「新たな合意」に盛り込まれた弾道ミサイル開発などに関する項目についても、協議を行いたい意向をロウハニ師に伝えた。

 

 だが、イラン側にとっては、国連安保理常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた6カ国と結んだ現在の核合意よりも不利な条件を受け入れることになる。AFP通信によると、ロウハニ師は「いかなる形であっても交渉しない」と述べて、修正を拒否した。

 

 マクロン氏は24日、合意からの離脱を示唆するトランプ氏と会談し、弾道ミサイル開発への規制▽核開発制限の期間延長▽シリアなど周辺国への影響力行使阻止--を盛り込んだ「新たな合意」を目指すことを提案。ミサイル開発が合意対象に含まれていないことなどに不満を抱くトランプ氏に配慮し、現行の核合意を実質的に修正する内容を示した。

 

 トランプ氏は5月12日を核合意の見直し期限としており、フランスとともに核合意に加わったドイツと英国も「新たな合意」の実現を目指す方針で一致している。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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今の巨大中国は日本が作った


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真実の西郷隆盛

 
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迫りくる大暴落と戦争〝刺激〟経済
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 古村治彦です。

 

 2018年5月7日、北朝鮮の最高指導者である金正恩朝鮮労働党委員長が中国東北部の港町である大連を訪問し、中国の習近平国家主席と会談を持ったという情報が出ています。今年の3月末に続いて第2回目の中朝首脳会談です。

 

 前回は金正恩が電車で20時間以上かけて北京を訪問しましたが、今回は大連まで専用飛行機で行ったようです。今回は習近平が中国海軍の空母の試験航行に立ち会うために大連を訪れ、それに合わせて金正恩が訪問したという形になっているようです。習近平が招待したのだろうと思いますが、詳しいことはまだ分かりません。

 

 前回の金正恩による北京訪問が行われた後、次は習近平が北朝鮮を訪問するだろうと考えられていましたが、今回金正恩が再び中国を訪問するということになりました。

 

 今回は鉄道を使わずに慌ただしく飛行機で訪問したことから何か緊急で話しておかねばならなかったことが発生したのではないかと思います。金正恩が慌てて訪問するくらいですから、議題は米朝首脳会談、核兵器に関することであろうと思います。

 

 また、習近平が中国海軍の空母の試験航行に立ち会うことに合わせての訪問ということも気になります。中国が自国の誇る空母がある大連にまで金正恩を呼び寄せた、それに金正恩が応じて慌ただしく飛行機で駆け付けた、という構図になると、これは、北朝鮮は中国に依存するということを示しているのだろうと思います。中国に屈服し、その保護を受けるということになると思います。

 

 中国は今アメリカと軍事的に衝突することは避けると思います。ですから、北朝鮮を保護しながら、北朝鮮の起こしている問題を解決する、そのために中国がアメリカに何とかとりなしを求めるのではないかと思います。米朝首脳会談では物事は決まらないし、アメリカは北朝鮮と対等な形で話をする気はないでしょう。今の世界でアメリカが対等な形を受け入れるとすればそれは中国だけでしょう。

 

 こうなってくると、中国の意向次第で状況は変化していきます。しかし、中国はアメリカに対して軍事的に何かをすることはできません。そうなれば、アメリカを満足させ、中国も体面を保つためには、北朝鮮の核兵器の完全な、検証可能な、逆行しない核兵器の放棄が求められます。中国は裏で北朝鮮に厳しい要求をし、脅しも行っているでしょう。

 

 それでも、北朝鮮が上記のような核兵器の完全放棄を受け入れるとなったら、「北朝鮮は、中国からの親切な助言と、協力して北朝鮮の防衛にあたるという申し出を受け入れて、核兵器を放棄することにした、その検証と保証は中国が行う」という形で、北朝鮮の体面を保つ形に持って行くでしょう。

 

 そうなればアメリカは北朝鮮を許容するということになるでしょう。アメリカによる北朝鮮攻撃の理由もなくなります。しかし、ここで問題は、アメリカとしては、ひとたび自国の安全保障にとっての脅威となった北朝鮮の核兵器に関しては、アメリカの派遣する人員で完全放棄を確認したいということを言うであろうということです。これを北朝鮮が受け入れられるのかどうかということは分かりません。これが拒絶となれば、米朝間での話し合いはつかないということになります。

 

 北朝鮮は中国による保証を求めてぎりぎりのところまで妥協するでしょう。中国もそれに合わせるでしょうが、問題はアメリカがどう出るかということになります。

 

(貼り付けはじめ)

 

金正恩氏 専用機で中国・大連訪問か=習主席も現地へ

 

5/8() 12:16配信 聯合ニュース

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180508-00000025-yonh-kr

 

【北京聯合ニュース】北朝鮮の最高位級の要人が専用機で中国の遼寧省大連市を訪問したもようだ。さまざまな状況から要人は金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長である可能性が高まっている。

 

 習近平国家主席も中国初の国産空母の試験航行イベントに出席するため大連に向かったとされ、中朝首脳の接触の有無に関心が集まっている。

 

 複数の北朝鮮消息筋によると、北朝鮮の最高位級の要人は7日、専用機で大連空港に到着し、中国側と接触しているという。

 

 米国の中国語サイト「多維新聞」は金委員長の専用機と同一機種の旅客機が大連空港で目撃されたと報じた。

 

 中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」では6日から大連空港と市内で厳重な交通規制が行われているとの書き込みが相次いでいる。

 

 消息筋は「北朝鮮から最高位級とみられる要人が大連に来たとみられる」として、「いろいろな儀典上、金正恩委員長である可能性が高まっている」と述べた。

 

 別の消息筋は「習主席が空母の試験航行出席を翌日に控えた7日に大連を訪問し、金正恩委員長の専用機と推定される北朝鮮の航空機も大連で目撃されたという話が出ている」と伝えた。

 

 中国外務省は大連を訪問した北朝鮮要人に関する聯合ニュースの質問に対し、回答していない。

 

 金委員長が3月末に続き再び訪中したとすれば、大連で中国共産党中央対外連絡部の主管で秘密会談が行われる可能性がある。

 

 米国が米朝首脳会談を控え、非核化だけでなく大量破壊兵器の永久的な放棄まで求めているとされ、対応に追われている北朝鮮が再び「中国カード」を切ったといえる。

 

 米中首脳会談が開催される場合、北朝鮮は中国を味方につけることで米朝交渉でバランスを取り、対等な立場から米国と交渉を行う意思をアピールする狙いとみられる。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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迫りくる大暴落と戦争〝刺激〟経済
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 古村治彦です。

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 今回は映画『マルクス・エンゲルス』の映画評を掲載します。この映画は副島隆彦先生もご覧になって私に「見に行った方がいいよ」と勧めて下さっていますので、上映されている期間内に映画館で観たいと思います。上映されているのは、東京の神田神保町にある岩波ホールです。

 

※岩波ホールの映画『マルクス・エンゲルス』関連ページへはこちらからどうぞ。




 監督のラウル・ペック(Raoul Peck、1953年生まれ)はハイチ生まれで、ドイツやフランス、アメリカでも生活した経験を持つ人物で、『ルムンバの叫び』、『私はあなたのニグロではない』といった映画で評判になった人物だそうです。

 

 この映画は欧米でも注目された映画らしく、アメリカの政治・外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌にも映画評が出ていました。以下に映画評を掲載します。


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 この映画評を予習がてら読んでみました。映画はマルクスがドイツから逃れてロンドンに腰を落ち着けるまでの若い時代(30代)を描いているようです。若い時代のマルクスのやや自堕落な生活が描かれているようです。マルクスといえばいかめしい写真と難しい著作というイメージですが、若い時代の無鉄砲さや情熱がこの映画では描かれているようです。

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 今年はマルクス生誕200年ということでもあり、是非この映画を見てみたいと思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

カール・マルクスをセクシーな人物として描くには(How to Make Karl Marx Sexy

―経済哲学は素晴らしい映画にふさわしいテーマとはならない。哲学と経済学を差し引いたら素晴らしい映画にしやすくなる。

 

ティモシー・シェンク筆

2018年3月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2018/03/05/how-to-make-karl-marx-sexy/

 

ある知識人の伝記は映画のテーマとしてふさわしくない。思想家という存在は仕事をきっちりやれば、私生活に関心を持たれることは少ない。彼らの業績の方が興味深いのだ。思想家たちの業績は映画で取り上げ説明するには複雑すぎる。映画監督は、主人公として取り上げた思想家が机の前に座り紙を丸めたり、インスピレーションを受けた時に突然立ち上がり、そして、ノートに一心不乱に何かを書き付けたりするシーンを描くことになるだろう。しかし、こうしたノートは本になって私たちは読むことが出来る。本の主張がよく考えられたものであればあるほど、その内容を映画で表現するのは難しい。

 

新しい映画『ザ・ヤング・カール・マルクス(The Young Karl Marx)』(邦題『マルクス・エンゲルス』)は、マルクス最大の著書『資本論(Capital)』に没頭した年月を描かないことで、この問題を避けることが出来た。映画「マルクス・エンゲルス」は、マルクスが「マルクス主義」を生み出す前の日々をテーマにしている。この期間、マルクスの天才性は彼の仲間たちにとっては自明のことだった。そして、彼は既に重要な著作をいくつか書いていた。しかし、マルクスは学究の道を踏み外し、ジャーナリストとなったが失敗しないように苦闘していた。

 

この苦しい時期、マルクスは大きすぎる自尊心を抱えながら、必ず革命が実現することを確信し続けていた。マルクスの持っていた確信は映画の中で活き活きとした形で描かれており、マルクスと彼の考えは難しいので映画向きではないという懸念も杞憂に終わり、十分に伝わる。当時の服装と過激主義者の生活が良く描かれている。

 

この映画の監督で脚本の共同執筆者ラウル・ペックは、白黒写真に写る顔よりも大きなひげ、革命を主張するサンタクロースというマルクスの一般的なイメージではなく、ギネスバーで議論をしているような無精ひげを生やした明るい20代の若者としてマルクスを描いている。映画の中のマルクスは若くて夜遅くまで酒を飲むことを好み、泥酔した路地裏で吐いてしまい、翌朝早くようやく妻と幼い娘の待つ家にふらふらと帰ってくるような人物だ。

 

マルクスと一緒に酒を飲みながら議論をしていた友人こそがマルクスよりももっと若いフリードリッヒ・エンゲルスだ。映画のタイトルからは除かれているが(訳者註:邦題には入っている)、マルクスの共著者として以上にスクリーンに多くの時間映っている。三番目に重要な登場人物はマルクスの妻イェニーだ。彼女は配偶者の政治的な支持者であり、貴重な対話者として描かれている。そして、愛し合うパートナーとしても描かれている。これについて、「カール・マルクスが出てくるセックスシーンはいつ出てくるんだ?」という疑問を持つ人には朗報だ。

 

マルクスの性生活の結果は素晴らしいものであった。映画の冒頭で長女が生まれ、映画の終わりで次女が生まれた。ブルジョアの生活をする革命志向の家族という複雑な状況が映画の中で素晴らしい場面を作り出している。マルクスは自分の政治信条と優れた才能に確信を持っている。しかし、マルクスは自分が人生において下した決断によって家族に不安定な生活を強いていることも知っていた。マルクスはいくつもの都市を転々としたが、それぞれの市政府はどこもマルクスに対して敵対的で、マルクスを追放した。31歳になってすぐにロンドンに定住するまで、定まった家を見つけることが出来なかった。

 

彼がこんなことになってしまったのは、マルクスが国際規模の過激主義者の共同体に参加したことが一因として挙げられる。19世紀の左翼の萌芽とも言うべき各グループの間の内輪もめはこれまで出たマルクスの伝記の多くで最もつまらない部分となる。マルクスの最悪の著作の原因となっている。しかし、ペックは人間ドラマを持ち込むことでそれらのシーンを面白くした。『ワンダーウーマン』や『ブラック・パンサー』といった映画がヒットする時代、マルクス主義者たちにとっても、彼らが信奉しているイデオロギーを生み出した人物の生活を今見ているのだと感じられる、彼らのための映画が出てきた。

 

過激な人物の人生を映画を魅力的なものにするためにはどのような形式の映画にすべきかということが問題になる。インタヴューの中で、ペックはマルクスをテーマにした映画を作ること自体が挑戦だと述べている。「観客の皆さんは私に芸術家であることを求め、商業的にリスクの高い映画を私のやりたい方法で撮影することを求めているのでしょうか?そうではありませんね。この映画はそこのせめぎあいだけで十分に複雑なものとなりました」。ペックの懸念は理解できる。「バウアー、君にはうんざりだよ、そして、青年ヘーゲル派も!」という言葉を登場人物が語るような映画はヒットしにくい。

 

しかし、映画を少しでも見やすいものとするため、歴史上の人物たちである登場人物たちはセリフの中で自分の名前をフルネームで言って自己紹介をし、観客の記憶を呼び起こすためにそれぞれが簡単な自叙伝を語るという形式になっている。ピエール=ジョセフ・プルードンが出てきた時、彼が「所有は窃盗だ」という有名な言葉を言うまでわずか数秒だ。映画の中でミハイル・バクーニンが「無政府万歳!」と叫ぶまで時間がかからない。登場人物たちの特徴もまた観客たちに物語を理解しやすくしている。富裕な繊維製造業者の息子であるエンゲルスがアイルランド出身の労働者たちが歌を歌っている騒がしいパブに向かっているシーンが出てくる。このシーンは映画『タイタニック』でタイタニックの船底近くにケイト・ウィンスレットが下りていくシーンを思い出させる。

 

ある個人の人生に焦点を当てた芸術作品は、歴史的な唯物主義を生み出した傑出した人々への賛辞として適切な形なのかどうかという疑問も出てくる。マルクスは演劇、特にシェークスピアに深く傾倒していたが、「様々な映画様式の興亡は、人間に活動を描くことに適しているのかどうか」ということは、マルクスの信奉者たちの間の終わりのない議論のテーマとなっている。マルクスの読者の中で最も思慮深い読者として社会批評家テオドール・アドルノの名前が挙げられる。アドルノは主流の映画について「写真と小説の不適切な結合」だと批判した。

 

マルクスはチャールズ・ティケンズの作品を高く評価していた。『マルクス・エンゲルス』のような映画が直面しがちな障害はあるが、『マルクス・エンゲルス』はそうした中で成功を収めたという点で小さいながらも勝利を収めたと言える。ペックは人間の深い部分を描くために、層になって重なっているマルクスの神話を次々と剥ぎ取っている。映画の中のマルクスは自分の発見したことに忠実だ。マルクスは平等を熱心に主張したが、生まれながらの懐疑主義者でもあった。思慮深い社会理論家であり、頑固な政治活動家だった。マルクスは「無知が栄えたためし(Ignorance never helped anyone)」と唱えた。これはマルクス全集の題辞に書かれている。

 

映画『マルクス・エンゲルス』は、マルクスの反対者たちが活躍する場面も描いている。プルードンは、若く優秀な友人マルクスに対して、マルティン・ルターのようになるなと忠告した。ルターのように、ある偏狭な教義を取り除くために別の偏狭な教義を持ってくるようなことをするなと述べた。プルードンの忠告は、マルクスの持つ重要性への擁護を示している。マルクスは社会主義の詳細な点について誤解をしているにしても、国際資本主義に関して予言者的な分析ができる人物であった。

 

マルクスに興味を持つ映画の観客たちにとって考えるべき問題がある。ペックは次のように語る。「私が考えたのは、現在の若い人たちに向けた映画を作るということだった」。エンドロールが流れる背景には、マルクスの時代から現代までの1世紀半の歴史が描かれている。その中には、株式が暴落している時のウォール街のトレイダーたちの厳しい表情の写真がふんだんに使われている。

 

マルクスの生きた時代と現代をつなぐために、ペックもまた神話づくりを行っている。映画『マルクス・エンゲルス』は1848年の時点で終わっている。マルクス、エンゲルス、イェニーが出版間際の『共産党宣言』を朗読している場面がラストシーンだ。ラストシーンに出てくる説明文では、『共産党宣言』によってヨーロッパ各地で革命が起きた、また、マルクスは死の直前まで『資本論』の執筆に取り組んでいたと書かれている。しかし、ヨーロッパを席巻した革命を志向するうねりは『共産党宣言』が出版されたからではなかった。『共産党宣言』が恐るべき影響力を発揮したのはそれから数十年後のことだ。マルクスについて言えば、彼は市の5年前に『資本論』執筆を止めた。第二巻と第三巻は遺作として出版された。エンゲルスが彼の友人マルクスが遺した膨大なノートから要点を選び出して何とかまとめることが出来た。マルクスは革命を諦めてはいなかったが、若い時に持っていた自信はそれから数十年して消え去ってしまった。

 
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マルクス・エンゲルス 共産党宣言 (岩波文庫)


マルクスの青年時代に関心を限定することで、ペックは悩ましい事実を無視することが出来た。また、ペックはマルクスの生涯において最も痛みを伴う時期を無視することも出来た。最も悩ましい事件は、家族のお手伝いであったヘレーネ・デムートとの関係であった。デムートは10代の頃からイェニーに仕えていた。映画の中にも少しだけ登場するが、1851年に男の子を出産した。エンゲルスがこの男子の親権を取得し、フリードリッヒと名付けられた。これは彼の実父の名前だ。


映画で描かれるマルクスは、「偽善、愚かさ、暴力的な権威」に対する敵だから魅力があるのではない。しかし、20代という時代が輝いていない人間など存在しないのではないだろうか?この映画でのマルクスは魅力的な反逆者として描かれ、銅像となっているマルクスよりも私たちには身近に感じられる存在になっている。マルクスは歴史と自分自身に失望できるまで生きることができた。マルクスはこの時に若さを失ったのだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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今の巨大中国は日本が作った


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真実の西郷隆盛

 
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迫りくる大暴落と戦争〝刺激〟経済
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 古村治彦です。

 

 朝鮮半島の非核化については、すでに何度もご紹介しました。北朝鮮の求めているのは、在韓米軍の徹底、アメリカが提供する核の傘からの韓国の除外ということです。これらと引き換えに核兵器を放棄するということになります。

 

 中国やロシアにしてみれば、朝鮮半島から米軍がいなくなることは、大きな利益という訳ではないにしても、喜ばしいことになります。日本というアメリカの不沈空母は残りますが、中国が台湾を取り込んでしまえば、アメリカのアジアにおける橋頭堡は日本だけということになります。日本にはアメリカの世界戦略の一環でアメリカ軍が置かれているのに、その費用まで支払わされている哀れな国で、どんどん衰退していく国ということで、対米従属のかわいそうな国ということになります。

 

 ジェイムズ・マティス国防長官と国防総省は在韓米軍の撤退ということは言及せず、韓国防衛の責務を強調しています。その姿勢は外交努力を見守る、というものです。外交の結果を受けて、それに合わせて行動するということです。

 

 トランプ大統領は2016年の大統領選挙で韓国と日本の核武装と韓国からの米軍の撤退を主張したこともあります。従って、在韓米軍の削減や撤退というのは可能性がない話ではないということになります。

 

 しかし、在韓米軍の撤退ということを、アメリカ側が米朝首脳会談の準備の大詰めで公表することには利益があるようには思えません。北朝鮮の核兵器の完全放棄ということの「確約」が得られて、「検証」できて、はじめて「それなら考えてやらんこともない」ということになるものです。ですから、観測気球的に在韓米軍の撤退という話が強になって出てきましたが、これが本当の話なのかどうかは分かりません。

 

 ただ、交渉過程での駆け引きとしてこのような話をぶつけてみるということはあり得ます。相手がどう出るかということを見るために、わざとやってみるということはあるでしょう。米朝首脳会談までおそらく残り1カ月の間で相当な駆け引きが行われることでしょう。

 

(貼り付けはじめ)

 

アメリカは韓国防衛の「鉄の」責務を確認(US affirms 'ironclad' commitment to defend South Korea

 

ルイス・サンチェス筆

2018年4月28日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/policy/international/385347-us-affirms-ironclad-commitment-to-defend-south-korea

 

ジェイムズ・マティス米国防長官は、朝鮮半島の非核化に向けた交渉が進む中でも、アメリカは韓国を防衛するという「鉄のように固い」責務を果たすことを改めて確認した。

 

国防総省は発表した声明の中で、アメリカと韓国は「緊密に協力しながら、国際連合安全保障理事会決議の順守を継続すること、完全な、検証可能な、逆戻りすることのない非核化実現に向けた外交努力を支援することを確認した」と述べた。

 

この新たな確認は、トランプ大統領が韓国の文在寅大統領と電話で会談を持った日に発表された。

 

トランプ大統領は計画中の米朝首脳会談の日時と場所は設定されつつあると述べた。

 

先週金曜日、文在寅大統領と北朝鮮の指導者金正恩委員長は朝鮮半島の非核化に向けて協力し、朝鮮戦争の公式な終戦を共同宣言の中で約束した。

 

南北共同宣言は北朝鮮の重要な変化を示している。北朝鮮は過去、核兵器の廃棄は絶対に行わないと宣言していた。

 

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Secretary Mattis Hosts an Honor Cordom Welcoming Poland Defense Minister Mariusz Blaszczak to the Pentagon

Press Operations

 

Secretary of Defense James N. Mattis; Poland Defense Minister Mariusz Blaszczak

April 27, 2018

 

https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/1505983/secretary-mattis-hosts-an-honor-cordom-welcoming-poland-defense-minister-marius/

 

質問:北朝鮮に関して簡単に質問してもよろしいでしょうか?韓国と北朝鮮が本日、板門店でそのことについて語ったようですが、平和条約が締結される場合、アメリカ軍は朝鮮半島に駐屯する必要がありますか?

 

マティス長官:そうですね、アメリカ軍の朝鮮半島への駐屯は、まず我が国の同盟諸国、そしてもちろん北朝鮮との様々な交渉の中で議論される問題の1つとなります。現段階では、私たちはプロセスに沿って進まねばならず、交渉し、どのような結果になるかについて前提条件や仮定を持たないようにしなくてはなりません。私たち、今は外交官たちが仕事をしている最中です。

 

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●「トランプ氏の在韓米軍削減検討指示 「事実ではない」=韓国大統領府」

 

5/4() 11:30配信 聯合ニュース

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180504-00000015-yonh-kr

 

【ソウル聯合ニュース】韓国青瓦台(大統領府)は4日、トランプ米大統領が国防総省に在韓米軍の削減を検討するよう指示したとの米紙の報道について、「ホワイトハウスのNSC(国家安全保障会議)高官が事実ではないと明らかにした」と説明した。

 

 訪米中の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長(閣僚級)がホワイトハウスの高官との電話で確認したという。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

 

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真実の西郷隆盛
 

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今の巨大中国は日本が作った

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(仮)福澤諭吉 フリーメイソン論

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 古村治彦です。

 

 今回は少し古い記事になりますが、「非核化(denuclearization)」という言葉についての記事をご紹介します。「非核化」という言葉を冷静に受け止めなければ、大きな期待が大きな失望に変わってしまうという可能性があります。

 

 何度もご紹介しましたが、北朝鮮の言う「朝鮮半島の非核化(denuclearization on the Korean Peninsula)」とは「北朝鮮が核兵器を廃棄する条件は、韓国からの駐留アメリカ軍の撤退と核の傘から韓国を外すこと」です。一方、アメリカ側の考えは、「北朝鮮がまず核兵器を完全に放棄、それも、完全な、検証可能な、逆戻りできない(complete, verifiable, and irreversible)核廃棄を行うこと、話はそれから」ということです。

 

 金正恩は自分の持つ核兵器を最大限「高く」売りつけたい、ドナルド・トランプ大統領はできるだけ「値切り」たい、できれば「無料(ただ)」で良い結果を得たい、ということを考えて、駆け引きを行っているでしょう。

 

 金正恩はアメリカだけではなく、中国とロシアにも体制保障をしてもらって、保険を何重にも掛けたいところです。アメリカだけの体制保障では、いざというときに簡単に裏切られてしまいます。ですから、今中国に恭順の姿勢を示し、韓国も取り込んで、中韓を味方に引き入れて、それをバックにアメリカとの交渉に臨もうとしています。

 

 しかし、問題は、米朝間の「非核化」の定義の大きな相違です。アメリカの主張する非核化は北朝鮮の一方的な降伏を意味するもので、これでは金正恩も納得できないでしょう。アメリカとしては在韓米軍の撤退というのは自分たちの持つ選択肢の一つということで交渉に臨めますが、交渉の前提条件が「北朝鮮の一方的な核兵器の廃棄」で、「それが出来たと確認出来たら、何か話をしてやる、経済援助などは中国と日本の担当だ」という態度です。

 

 アメリカとしては、アメリカ領土を攻撃できる大量破壊兵器を北朝鮮が持っているということは国家安全保障上の脅威ですから、この問題の対処でいい加減な妥協はできません。こうなると、米朝首脳会談までの下交渉では相当厳しいやり取りが行われているものと思われます。アメリカ側は正式に国務長官となったマイク・ポンぺオが指揮を執っているので、厳しい態度で交渉を行っているでしょう。

 

 北朝鮮の核兵器問題と米朝首脳会談に関してはまだまだ楽観を許さない状況です。

 

(貼り付けはじめ)

 

北朝鮮の「非核化」の定義はトランプの定義とは大きく異なる(North Korea’s definition of ‘denuclearization’ is very different from Trump’s

 

アンナ・フィフィールド筆

2018年4月9日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/north-koreas-definition-ofdenuclearization-is-very-different-from-trumps/2018/04/09/55bf9c06-3bc8-11e8-912d-16c9e9b37800_story.html?utm_term=.a35acd131ad8

 

ソウル発。ホワイトハウスは現在、トランプ大統領と北朝鮮の指導者である金正恩委員長との非核化(denuclearization)を巡る首脳会談に向けて準備を加速させている。米朝首脳会談は来月開催されると考えられている(訳者註:期限は6月上旬まで)。しかし、「非核化(denuclearization)」は何を意味するのか?

 

答えは誰にこの質問をするのかで変わってくる。ワシントンにいる人に質問すれば、3月末にトランプ大統領がツイートしたように、「朝鮮半島の非核化」は、金正恩委員長が核兵器とミサイルを放棄し、国際機関の調査官たちが、金正恩政権が核兵器の放棄という約束を調査することを許容する、ということと答える。

 

北朝鮮政府に対して質問すれば、上記の意味とは全く異なる答えをする。北朝鮮の意味する非核化は、核兵器の廃棄に向けた相互のステップというものだ。これには、アメリカが韓国と日本に与えている核の傘を引き上げることも含まれている。

 

非核化という言葉の定義には違いがあり、この違いのために米朝首脳会談が始まる前に警鐘が鳴らされる可能性がある。

 

核拡散問題の専門家であるMITのヴァイピン・ナランは「金正恩は彼が築いた核兵器の王国の門の鍵を渡すであろうという非現実的な期待を持って交渉に入るのは危険だ。金正恩は鍵を渡すことはないだろう」。

 

「金正恩は、少なくとも、アメリカが韓国との軍事同盟を放棄することに合意するときに限り、核兵器とミサイルを放棄するだろう」ナランは述べた。アメリカと韓国の軍事同盟は1950年から1953年にかけて発生した朝鮮戦争の時以来のものだ。金正恩委員長は、アメリカの韓国と日本に対する「拡大された抑止力(extended deterrence)」を終わらせることも主張する可能性がある。

 

金正恩は、韓国と日本に「拡大された抑止力」への関与をアメリカが止めることを求めるだろう。「拡大された抑止力」は、アジアにおける同盟諸国が北朝鮮からの攻撃にさらされた場合に、核兵器で報復攻撃を行うというものだ。

 

北朝鮮は長年にわたり、韓国におけるアメリカの軍事的プレゼンスを、北朝鮮崩壊を目的とする「敵視政策」の一部だと考えてきた。金一族が北朝鮮の全体主義的な支配を維持し続ける試みとして、北朝鮮は朝鮮戦争に関して国民に教え続けており、その記憶は鮮明なままだ。朝鮮戦争時、アメリカは北朝鮮国土の大部分を爆撃し、焦土と化した。

 

ナランは次のように述べている。「米朝首脳会談が最悪の失敗に終わる場合、それはトランプ大統領が朝鮮半島の非核化は金正恩が一方的に核兵器を放棄するという誤った考えを持って会談に臨んだ時だ」。

 

実際、アメリカ政府は北朝鮮がはじめに核兵器の放棄が交渉に入るための「不条理な前提条件」だとしていることについて、2016年中盤頃には、それは行わないと主張していた。アメリカらかの核兵器廃棄要求に対して、北朝鮮は5つの条件を提示した。その中で、北朝鮮は、アメリカに対して、韓国領内からアメリカの核兵器を発射しないことを明言することを求めた。

 

北朝鮮は5つの条件を取り下げるとは述べていない。今月末の南北首脳会談に向けて文在寅大統領に助言を行っている韓国の専門家たちの中には、これら5つの条件を求めることは非現実的だと金正恩は分かっていると述べている。

 

専門家たちは、金正恩はその他の妥協的な条件を求める可能性があるとしている。東国大学の北朝鮮研究の教授で文大統領に助言を行っているコウ・ユファンは、北朝鮮は韓国駐留の米軍の規模の縮小を求める可能性があると述べた。

 

アメリカは約28000名の将兵を韓国に駐留させている。韓国の首都ソウルの南に巨大な基地を置いている。この基地は北朝鮮の通常の火力兵器の射程距離外にある。

 

米国防総省は毎年実施している韓国軍との共同訓練を、2月に開催された冬季五輪後まで延期することに同意した。

 

しかし、実施された訓練は例年に比べて規模が小さいものとなった。フォール・イーグルと呼ばれた実地訓練には11500名の米軍の将兵が参加した。昨年の訓練には15000名の将兵が参加したので、参加人数は減少した。双竜上陸作戦用軍事演習は前回2週間に渡り行われたが、今年は1週間だけとなり、先日の日曜日に終了した。

 

こうしたことは4月27日に開催される南北首脳会談に向けた環境作りを目的としている。南北首脳会談は南北の境界線にある「平和の家」で行われる南北首脳会談の翌月には米朝首脳会談が開催される見通しだ。

 

韓国の専門家たちは、アメリカ政府関係者の多くは首脳会談に関して誤った前提を持っているかもしれないと述べている。

 

トランプはこれまで、金正恩が突然外国との交渉に関心を示しだしたのは、金正恩に対するアメリカの「最大限の圧力」の成果だと述べてきた。

 

米朝間で話し合いが成立すると見ている専門家から話し合いが決裂し、米軍が侵攻すると見ている専門家まで存在する。彼らは「トランプの発言には正しい部分もある」と述べている。しかし、完全に正しい訳ではないとも述べている。

 

34歳になる金正恩はこれまでの6年間あまり大きな期待をされてこなかったが、彼は元在、これまでにないほどの大きな自信を感じている。

 

ソウルにある梨花女子大学で北朝鮮研究学を専門にしているキム・ソクヒャン教授は南北首脳会談に関して韓国大統領の助言者を務めている。キムは次のように語っている。「金正恩は、国内は安定していると安心しているように見える。核兵器を所有しているので、自分は世界の指導者の一人として遇される資格があると感じている」。

 

キム教授は金正恩が北京で習近平国家主席と会談した後に、「金正恩は準備をしている。彼の夢は実現しつつある」と述べた。

 

専門家たちは、金正恩が会談を行っているのは、アメリカ主導の経済制裁によって北朝鮮経済に大きな打撃を与えることに対して懸念を持っているということは疑いないところだと述べている。

 

慶南大学大学院の北朝鮮研究の専門家リム・ウルチョルは、トランプが自身の対北朝鮮姿勢を示す言葉として頻繁に使っている言葉を使い、「最大限の圧力は効果を上げつつある」と述べている。

 

ソウルにある延世大学の国際関係論教授ジョン・デルリーは「最大限の圧力」というよりも、「最適の圧力」という言葉が近いだろうと述べている。

 

デルリーは、核兵器を開発しながら経済発展も目指すという「2つの政策を同時に遂行」するという金正恩の野心について言及し、「圧力は現実のもので、その力は増大しつつある。圧力によって金正恩の野心は邪魔をされている」と述べた。

 

デルリーは「金正恩は彼の計画の最初の半分を成し遂げた。彼は彼が現在実行していることをこれからも継続できるという自信を持っている」と述べた。

 

昨年11月、北朝鮮は最後のミサイル実験を行った。この際、北朝鮮は新たに「巨大な弾頭を装着」できる大陸間弾道ミサイルを新たに構築し、これによって「ロケット武器システムの開発が完了した」と宣言した。

 

デルリーは、アメリカは金正恩が交渉に乗ってくるように自信を持たせるべきで、追い詰められたと感じさせるべきではないと述べている。「金正恩を交渉の場に出させる」とデルリーは述べた。

 

リムは、北朝鮮の指導者である金正恩は核兵器の開発に成功したと宣言しているが、自身を持ち、「同時に2つの政策を推進する」という姿勢のうち、経済面での発展を進める準備を進めようとしている、と述べた。

 

リムは「金正恩は核兵器を持っていると判断しているために交渉のテーブルに出る決心をした。アメリカは金正恩と交渉を行うことに関心を持つようになるだろう」と述べた。

金正恩が交渉で合意を成立させるに足る自信を持っているのかどうかはこれからも注視し続ける必要がある。 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

 

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真実の西郷隆盛

 

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今の巨大中国は日本が作った

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(仮)福澤諭吉 フリーメイソン論

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