古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2018年12月

 古村治彦です。

 

 2018年12月20日、ジェイムズ・マティス国防長官の辞任が前倒しとなり、在任は年内いっぱいまでとなりました。マティス長官の辞任は、ドナルド・トランプ大統領のシリア政策、具体的には米軍の撤退に反対したことが原因でした。トランプ大統領は正式の後任を置く前に、代行として、パトリック・シャナハン(1962年―)国防副長官を指名しました。このシャナハンもマティスの後任の有力候補として名前が挙がっています。

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パトリック・シャナハンとトランプ
 

シャナハンは1986年にボーイング社に入社し、最後は供給担当の上級副社長を務めました。政府での経験はないというところが不安を持たれているようですが、シャナハンはトランプ大統領が提唱した宇宙軍創設を推進しており、大統領からの信頼も厚いようです。彼自身もコンピューター技術者出身ということもあり、技術に関しては有能ということになるでしょう。

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アヨッテ
 
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トム・コットンとトランプ

 その他にケリー・アヨッテ、トム・コットン、デイヴィッド・マコーミック、ジム・タレントといった名前が挙がっています。アヨッテ、タレントは連邦上院議員の経験者、コットンは現役の連邦上院議員です。それぞれ軍事委員会に所属し、軍事知識が豊富なようです。トム・コットンはハーヴァード大学卒業後、法科大学院に進学し、弁護士資格を取得しました。その後、アメリカ陸軍に入隊し、幹部候補生学校に入学し、士官(最終階級は大尉)としてイラクとアフガニスタンに派遣されました。その後、ネオコンのウィリアム・クリストルに見出されました。そして、2014年の連邦上院議員選挙に当選しました。ネオコン派の議員として、タカ派的言動で知られています。

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デイヴィッド・マコーミックとトランプ
 

 デイヴィッド・マコーミックはヘッジファンドのブリッジウォーター社のCEOですが、ジョージ・W・ブッシュ政権で財務次官を務めた経験を持っています。また、イヴァンカ・トランプ、ジャレッド・クシュナーと個人的に親しい関係にあるようです。

 
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ジム・タレント

 下に掲載した記事が書かれた頃にはシャナハンの代行はまだ発表される前でした。シャナハンが代行に任命されたことで、シャナハンがマティスの後任になる可能性が高まったように考えられます。アヨッテ、コットンといった人たちはトランプ大統領のシリアとアフガニスタンの米軍の縮小に反対を表明しています。主要な政策に反対する人を入れるのかどうかは分かりません。それぞれに一長一短があるので、誰と決め打ちすることは難しいですが、もしこの中から誰かが選ばれた場合に、トランプ大統領の思考法を理解するための手助けになると思われます。

 

(貼り付けはじめ)

 

マティスの後任の有力候補者5名(Five possible successors to Mattis

 

エレン・ミッチェル、レベッカ・キール筆

2018年12月23日

『ザ・ヒル』誌

 https://thehill.com/policy/defense/422560-five-possible-successors-to-mattis

 

トランプ大統領はジェイムズ・マティス国防長官の今週の辞任を受けて公認を決めるのに苦労するかもしれない。

 

マティスは木曜日(20日)に辞任した。最高司令官(大統領)との間で政策をめぐる大きな相違があったことを理由に挙げている。マティスは民主、共和両党から幅広い支持を受け、アメリカの同盟諸国から尊敬を集めていた。マティスの存在のおかげで発足してから2年間、無秩序な政権が何とかやっていくことが出来たが、現在、政権人事のこれまでにない大幅な異動が展開されている。

 

トランプ大統領は2月末までに退役した4つ星の将軍マティスの後任を決めることとなるが、有力候補者として数名の名前が挙がっている。

 

しかし、名前が挙がっている有力候補者たちで大統領と一対一であった人はほぼいない。また、連邦上院において大差で承認を得られるであろう人もほぼいない。現段階での名前が挙がっているのはトランプ大統領以外の人物の推測に基づいた人々である。

 

トランプ大統領によるシリアからのアメリカ軍の撤退という決定とアフガニスタン駐留の米軍の半減を考慮していることについて、連邦上院軍事委員長ジェイムズ・インホフェは次のように語った。「大統領は自分の考えを進んで実行してくれる人物を選ばなければならない。これは難しいと思う。多くの人間はシリアからの撤退決定、アフガニスタン駐留米軍の半減について憤慨していると思う」。

 

マティスの後任の候補者5名を紹介する。

 

●ケリー・アヨッテ(Kelly Ayotte)前連邦上院議員(ニューハンプシャー州選出、共和党)

 

政権に近い匿名の人々はアヨッテがマティスの後継者となると語っている。彼女は、マティスが国防長官に指名される前に、国防長官に指名されると考えられていた。

 

ニューハンプシャー州選出の前連邦上院議員アヨッテは国防に関して豊富なバックグラウンドを持っている。アヨッテは連邦上院議員時代に連邦上院軍事委員会即応小委員会の委員長を務めた。

 

2016年の選挙で彼女は敗れてしまった。2015年のイランとの核開発を巡る合意に関しては激しく反対する共和党議員の一人であった。彼女はイランと北朝鮮に対する経済制裁を強化することを主張した。

 

上院議員退任後すぐに、アヨッテはトランプが大統領になって初めて連邦最高裁判所判事に指名したニール・ゴーサッチのための連邦議会におけるシェルパ、先導役を務めた。アヨッテの名前は、2017年5月にトランプがジェイムズ・コミーFBI長官を解任した際を含む、複数の機会で取り沙汰された。

 

しかし、アヨッテの持つ考えの中にはトランプ大統領の考えと齟齬をきたすものがあるようだ。その中には中東からの米軍撤退に関する考えも含まれている。

 

アヨッテは2011年にオバマ前大統領がイラクから米軍を撤退させたことを激しく批判した。このことは、彼女が、トランプ大統領が望むシリアからの米軍撤退について同様に批判するのではないかということを示している。

 

連邦上院議員在任中、アヨッテは「スリー・アミーゴス」の一員として知られていた。他の二人はトランプを多くの場面で批判した故ジョン・マケイン前連邦上院議員(アリゾナ州選出、共和党)と、ここ数日シリアとアフガニスタンについてトランプ大統領と激しい応酬を展開しているが、基本的には大統領の味方であるリンゼー・グラハム連邦上院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)である。

 

●トム・コットン(Tom Cotton)連邦上院議員(アーカンソー州選出、共和党)

 

ここ数カ月、連邦上院軍事委員会と情報委員会の委員を務めている、トム・コットン連邦上院議員が国防長官、もしくはCIA長官に指名されるのではないかという憶測が流れている。

 

コットンは金曜日に国防長官就任の可能性について質問しようと集まってきた記者たちに何も答えなかった。

 

コットンは陸軍士官としてイラクとアフガニスタンに従軍した経験を持つ。コットンは連邦上院の中で国防タカ派として名前を知られている。また、トランプ大統領による対イラク政策の変更を支持している。

 

現在41歳のコットンが国防長官になると、現代においては最年少の国防長官の一人ということになる。

 

コットンはいくつかの間違いを犯している。2017年2月にマイケル・フリンが国家安全保障問題担当大統領補佐官を辞職した後に、トランプ大統領にH・R・マクマスターを後任に推薦したと報じられている。

 

マクマスターの名前は、コットンによる推薦があるまで、トランプ大統領のレーダーには引っかかっていなかったと言われている。マクマスターはトランプと衝突を繰り返し、トランプの対ロシア、対イラン、対北朝鮮政策に反対し続け、2018年3月に解任された。

 

コットンは、トランプがシリアとアフガニスタンにおける米軍の規模を縮小すると発表したことに対して、激しい批判を行った。これらの問題はマティスの辞任を誘発した。

 

ロビー活動会社「ナヴィゲイター・グローバル」社長アンディ・カイザーは、トランプの政権移行ティームの国家安全保障部門に参加していた。カイザーは、コットンのシリアに対する姿勢が彼の国防長官に就任するチャンスにどのように影響するかどうかははっきりしない、と述べた。

 

カイザーは次のように述べている。「誰が国防長官になるかを推測するのは難しい。ニッキー・ヘイリーはトランプ大統領に批判的であった。それでもヘイリーは米国連大使に指名された。どのコメントが重要でどれが重要でないかを判断するのは難しい。公平に述べて、トム・コットンはトランプ政権に対して好意的であり、トランプ政権が発足してから帰還のうち99%の時期は政権を評価してきたと私は思う。従って、彼にも大いに可能性があると考えている」。

 

しかし、問題を複雑にしているのは、コットンが安泰な連邦上院議員の座を捨てて、国防長官になるかどうかということ、そして、トランプ大統領が、共和党が過半数を占めている連邦上院から議員を引き抜くかどうかということである。

 

●元財務省上級職員のデイヴィッド・マコーミック(David McCormick

 

今年9月、『ワシントン・ポスト』紙はマコーミックがマティスの後任になる可能性があると報じた。この時期、中間選挙(11月6日)後にマティスの辞任があるのではないかという話が出始めていた。

 

マコーミックは陸軍士官学校を卒業後、陸軍士官として湾岸戦争に従軍した。ジョージ・W・ブッシュ(子)政権で、国際問題担当財務次官を務めた。それ以前には産業・安全保障担当商務次官と国家安全保障問題担当次席大統領補佐官(国際経済政策担当)を務めた。

 

マコーミックは現在、世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターの共同CEOを務めている。また、トランプ政権の酷寒安全保障問題担当次席大統領補佐官を務めたディナ・パウエルと婚約している。

 

マコーミックは大統領の娘と義理の息子であり、ホワイトハウスの上級顧問を務めるイヴァンカ・トランプとジャレッド・クシュナーとは社交グループを通じて個人的に大変に親しい関係にある。

 

2017年、マコーミックは国防副長官就任の申し入れを拒否した、その理由としてブリッジウォーターでの仕事に満足していること、国防副長官の仕事に自分は適していないことを挙げた、と報じられたことがある。

 

●パトリック・シャナハン(Patrick Shanahan)国防副長官

 

トランプ大統領はマティスの後任を見つけることが出来ない場合、国防副長官の中から選ぶこともある。その場合、ボーイング社の重役であったパトリック・シャナハンは有利な立場にある。

 

国防総省内で2番目の高位の文官は、企業の役員を務めた背景を持つ。1986年にボーイング社に入社し、2017年に国防副長官の指名を受けるまで、ボーイング社の供給チェーン担当上級副社長を務めていた。

 

更に言えば、シャナハンは、実際の戦争と戦闘に関してのアドヴァイスではなく、ビジネスと行政における経験に基づいて、国防総省の改革を主導する役割を担っている。

 

シャナハンは、宇宙軍新設というトランプの計画を支持しているだけでなく、実際に国防総省内で宇宙軍新設計画を推進している。そのために、ホワイトハウスを頻繁に訪問し、トランプ大統領とマイク・ペンス副大統領と会談を持っている。

 

シャナハンがマティスと緊密な関係にあるのかどうかは知られていない。

 

●ジム・タレント(Jim Talent)元連邦上院議員(ミズーリ州選出、共和党)

 

2016年の米大統領選挙直後、トランプの政権移行ティームは国防総省トップにタレントを就けようとした。ミズーリ州選出の連邦上院議員だったタレントは、連邦上院軍事委員会印を務めた経験を持ち、今でも連邦議員たちと太いパイプを持っている。また、ニューヨークでトランプと会談を持った。2015年と2016年、トランプを批判した多くの共和党の政治家たちと異なり、選挙期間中、タレントはトランプを批判しなかった。

 

国防長官決定の過程の中で、タレントを強力に推したのはその当時の大統領首席補佐官レインス・プリーバスであった。しかし、プリーバスは2017年7月にホワイトハウスを去った。今回、タレントは大統領に対して影響を与えることが出来る大物支持者を得ているのかどうかははっきりしていない。

 

タレントは現在、米中経済・安全保障問題検討委員会の委員を務めている。タレントを2019年末までの2年の任期の委員に任命したのは、連邦上院多数党院内総務ミッチ・マコーネル(ケンタッキー州選出、共和党)であった。

 

トランプの政権以降ティームに参加したヘリテージ財産の国防政策担当アナリストであるジェイムズ・カラファノは誰がマティスの後任にふさわしいかと質問され、タレントとジョン・カイル連邦上院議員(アリゾナ州選出、共和党)の名前を挙げた。

 

カラファノは次のように述べている。「ジョン・カイルやジム・タレントのような人物は経験豊富、尊敬を集める連邦上院議員とその経験者で、国家安全保障問題に精通している。連邦議会の中で人々の尊敬を集めている。そのような人々は素晴らしく、国防長官に適格だろう」。

 

2012年の米大統領選挙で共和党候補者となったミット・ロムニーは、タレントを国防長官にすると明言していた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 先月末、第41代アメリカ大統領ジョージ・H・W・ブッシュが94歳で亡くなりました。若い人の中には、第43代アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュの父として認識している人も多いと思います。父ブッシュに関してはネガティヴなイメージが付きまといます。現職大統領で二期目を目指すも落選(ビル・クリントンが勝利)しましたし、何より、日本訪問中に晩さん会で卒倒する姿が報じられたことで、弱いイメージがついてしまいました。

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晩さん会での様子
 

 今回ご紹介する記事は、ジョージ・H・W・ブッシュを正当に評価した内容になっています。父ブッシュは共和党内部やマスコミから「弱虫」、「ヴィジョンもなくただただ慎重すぎる」という非難を浴びていました。湾岸戦争時にイラク軍に占領されたクウェートからイラク軍を撤退させ、そのままイラクに侵攻し、サダム・フセインを追い落とすこともできたはずですが、すぐに停戦しました。父ブッシュ政権に参加していたネオコン派(息子ブッシュの政権では最高幹部クラス)が大きく失望し、激怒しました。父ブッシュの慎重さを長男であるジョージ・Wも父の決断を激しく非難したという報道もなされました。


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父ブッシュと話すオバマ

 拙著『アメリカ政治の秘密』にも書きましたが、ジョージ・H・W・ブッシュを正当に評価していたのは、バラク・オバマ前大統領です。オバマ自身が、自分の目指す外交は、ジョージ・H・W・ブッシュ時代の外交だと述べたこともあります。共和党と民主党で所属政党は違いますが、共和党内のタカ派、ネオコン派よりも、オバマ大統領の方がはるかに父ブッシュを評価していました。アメリカ政治における派閥、グループに関しては、是非拙著『アメリカ政治の秘密』をお読みください。父ブッシュ政権の慎重な姿勢には、ジェイムズ・ベイカー国務長官の存在も大きく影響しました。経済が低調だったこともあり、父ブッシュは現職大統領でありながら、選挙に敗れるという恥辱にまみれました。

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ジェイムズ・ベイカーと父ブッシュ
 

 父ブッシュを破って大統領となったビル・クリントンはたびたび問題を起こし、また、下に掲載した記事にある通り、旧ソ連、ロシアに対して傲慢な態度を取りました。また、これは、妻であるヒラリー・クリントンにも引き継がれているのですが、外国の「民主化」を金科玉条のごとく掲げ、他国に介入するという驕慢さでした。クリントンの後には、息子ブッシュが当選し、アメリカ史上初めての親子での大統領となりましたが、彼の政権はネオコン派に牛耳られ、こちらもテロとの戦いと「民主化」を掲げ、海外で泥沼にはまる結果となりました。ヒラリーたち人道的介入主義派と息子ブッシュ政権内のネオコン派がアメリカの苦境を生み出したと言えます。それに対する反対の波がオバマを大統領に当選させたということになります。そのオバマが尊敬したのが父ブッシュであったということは皮肉であり、かつ当然のことと言えるでしょう。

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バーバラ夫人、父ブッシュ、ミシェル夫人、オバマ
 

 慎重で地味な姿勢はどうしても評価が低くなってしまいます。しかし、それを貫くということは、なかなかできることではありません。ある種の強さがなければできないことです。そういう意味では、ジョージ・H・W・ブッシュは強い人物だと言えるでしょう。そうしたジョージ・HW・ブッシュ元大統領の再評価はアメリカ国内でももっと進むことになるでしょう。

 

(貼り付けはじめ)

 

ジョージ・HW・ブッシュの誤解された大統領時代(George H.W. Bush’s Misunderstood Presidency

―第41代米大統領は思慮深かった。しかしかつては弱腰と嘲笑された。しかし、このような嘲笑を今でも覚えている人は少なくなった。

 

マイケル・ハーシュ筆

2018年12月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2018/12/01/george-h-w-bush-misunderstood-presidency-death/

 

それは1992年1月に起きた。アメリカは冷戦に続き湾岸戦争を勝利した。1か月後の1992年2月にソヴィエト連邦は公式に解体した。しかし、この当時のアメリカでは、勝利の高揚感の雰囲気は全くなかった。勝利の高揚感は後々出てくることになる。アメリカ経済は不況に見舞われ、そのためにブッシュは、10か月後の大統領選挙に敗北し、現職大統領だったにもかかわらず二期目を迎えることが出来なかった。第41代大統領ブッシュ自身は、サダム・フセインに対しては勝利を収めることが出来たがそれだけでは不十分で、経済面でより指導力を発揮しなければならないことを分かっていた。この当時、日本叩きが最高潮に達し、「アメリカの仕事はアメリカ人に」という言葉が時代の雰囲気を表わしていた。ポール・トソンガス連邦上院議員は1992年の選挙で「冷戦が終了し、勝利していたのは日本だった」と訴えた。

 

アメリカ製の自動車は世界中で売れ行きが悪く、特に日本ではそうだった。そこで、ブッシュは自動車会社のビッグ・スリーの代表者を引き連れて東京を訪問した。しかし、目的を達することは出来なかった。これがブッシュ大統領の一期のみの任期の終わりの始まりとなった。今でも人々の記憶に残っているイメージは、失敗に終わった東京における首脳会談で起きた出来事だ。長身の貴族然としたブッシュが公式晩さん会の席上で倒れ、日本の宮澤喜一首相から介抱を受けている姿だ。ブッシュは当日、テニスをプレーして脱水症状を起こしてしまった。そして、夕食会の乾杯で卒倒した。ブッシュの姿はアメリカの消化不良と過労を象徴するものとなった。

 

ジョージ・HW・ブッシュ元大統領は今週金曜日に94歳で亡くなった。ブッシュ元大統領に関しては、上記のような姿で人々に記憶されている。ブッシュ元大統領の時代は、ロナルド・レーガンとビル・クリントンに挟まれた、弱い大統領の奇妙な4年間だった。この4年間は冷戦終結とブッシュ元大統領が命名した「新しい世界秩序」の開始の時代であった。ブッシュ大統領が弱かったという評価は公平なものではない。ブッシュの評価となっている「弱さ」は、最高指導者の賢明な慎重さを示すものであって、このおかげで時代の転換を成功させ、時代の変化の中でもアメリカの優位性と世界の安定を維持することが出来たのだ。

 

ブッシュはよそよそしい、ワスプの典型的な人物として記憶されている。「サタディ・ナイト・ライヴ」でコメディアンのダナ・カーヴィーがブッシュ大統領を風刺した姿そのもの(コントの題名は「そんなに臆病にならないでよ!」)であった。また、私が所属していた雑誌『ニューズウィーク』誌が表紙にブッシュ大統領の姿と共に掲載したタイトル「“弱気の虫”と戦う(Fighting ‘The Wimp Factor)」もまた、ブッシュ大統領が弱い人物であったというイメージを人々に植え付けた。この言葉についてブッシュ家は今でも許していない。父ブッシュは第二次世界大戦の英雄なので、ブッシュ家が許さないのも当然だ。

 

ブッシュは第一次イラク戦争を勝利に導いた大統領として記憶されている。しかし、開戦から100時間で停戦し、アメリカ軍をバグダッドまで進軍させることはなかった。その当時、ブッシュの決断は多くの人々からは屈辱だ、ととらえられた。ブッシュの長男ジョージ・W・ブッシュは、1992年の大統領選挙で敗北した父に対して、過度に慎重すぎたために敗北したのだ、と非難したと報じられたことがある。サダム・フセインは権力を握り続け、父ブッシュはその翌年に自身の決断を正当化するために奔走することになった。父ブッシュは1999年に湾岸戦争に従軍した元兵士たちたちを前にして次のように説明した。「バクダッドまで進攻してイラクを占領すれば、アメリカは占領軍となる。アラブ人の土地でアメリカは孤立する。味方は誰もいないということになる。そうなれば結果は悲惨なものとなっただろう」。

 

もちろん、ブッシュ元大統領の思慮深さは正しかった。ブッシュ(父)大統領の言葉は、この当時、父の下で働いていた息子ジョージ・Wに対しての助言でもあったのだが、ジョージ・Wとアメリカが持ち続けた屈辱感があったために、父ブッシュの助言は聞き入れられることはなかった。ジョージ・W・ブッシュ大統領が、アフガニスタンにおけるアルカイーダ掃討作戦も終了していないうちに、イラクの「民主政体への転換」を目指して、イラクに侵攻し、占領するという決断を行ったことは、アメリカ史上最悪の戦略上の間違いと言っても差し支えないであろう。父ブッシュは息子の決断が史上最悪の間違いとなることを言い当てていたように見える。2003年のイラク侵攻直前の夏に、父ブッシュは『ウォールストリート・ジャーナル』紙に寄稿した論説の中で、ジョージ・Wにイラク侵攻を思いとどまるように主張した。論説の著者は、父ブッシュの大統領時代の国家安全保障問題担当大統領補佐官であり、分身とも言うべきブレント・スコウクロフトであったが、父ブッシュは論説に手を入れて完成稿にしたと多くの人々が考えた。

 

論説は「現在の状況でイラクを攻撃することは、イラクにおけるテロリスト組織を完全に破壊できない限り、私たちが現在取り組んでいる世界規模のテロリストとの戦いを大きな危険に晒すことになるだろう」という言葉で締めくくられている。

 

この言葉はそれから15年間の出来事を的確に示す碑文となった。

 

父ブッシュは今でも保守的なタカ派から疑惑の目を向けられている。冷戦終結に対処するにあたり、「彼は保守的な人物というにはあまりに穏健に過ぎた」というのが彼らの主張である。東ヨーロッパのソ連の影響圏とソ連自体が崩壊するという事態に直面した時、ブッシュとスコウクロフトはまた慎重さを発揮した。レーガン大統領のように華々しく勝利演説を行う時ではなかった。冷戦からの移行を「掌握し管理」しなければならなかった。それには相応の理由があった。崩壊したソ連から独立した各共和国から数千発の核兵器が流出していたのだ。ブッシュは、旧ソ連の民主的な体制への移行を促進するのではなく、スローダウンさせた。そして、ソ連最後の指導者となったミハイル・ゴルバチョフ、民主的に選ばれた彼の後継者ボリス・エリティンと協力して、内戦や危険な大量破壊兵器の拡散を引き起こす無秩序を回避しようと努力した。

 

繰り返すが、タカ派は激怒した。ウクライナでソ連軍の撤退に関する国民投票の準備が進められていた1991年8月1日、ブッシュはウクライナで演説を行い、その中で、「自滅をもたらすナショナリズム」に対して警告を発した。『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニスト、ウィリアム・サファイアはこの演説を「チキン・キエフ」演説と呼んだ。ブッシュは再び、「ヴィジョン」のないただただ慎重すぎる人物というレッテル貼りがなされた。

 

それから数十年が過ぎ、この父ブッシュの行動は、過度な慎重さと言うよりも先見の明の結果であったということが明らかになっている。アメリカの勝利の高揚感が20年続いたが、これはレーガン大統領でもブッシュ大統領でも、共和党所属の大統領が持たしたものではなかった。それは、民主党所属のビル・クリントン大統領のNATOをロシア国境まで拡大するという決断によってもたらされた。クリントン政権は1990年代初頭にロシア政府に対して自由市場に関する横柄な助言を数多く押し付けた。ロシアは「民営化」の時代となった。ロシアの一般国民はこれを「横領化(grabitization)」と呼んだ。民営化の結果は捻じ曲げられ、オリガルヒによる経済支配のドアを開くことになった。NATOの拡大、民主的資本主義のすばらしさを吹聴する単純な「歴史の終わり」メッセージを受けて、ロシア国内ではそれらに対する反発と西側の意図に対する疑義が大きくなっていった。この結果として、ロシア・ナショナリズムの旗の下でウラジミール・プーティンは権力を確固たるものとした。プーティンはロシア・ナショナリズムを利用してクリミア併合とウクライナ東部への侵攻を正当化した。

 

2016年の米大統領選挙への介入を計画した時、プーティンは、これは2014年のウクライナの選挙に対するアメリカの介入に対する報復なのだと考えたに違いない。当時のヴィクトリア・ヌーランド国務次官がウクライナの選挙の候補者たちを操る様子がテープに録音されていた。プーティンは2011年と2012年のロシアの選挙について考えたことだろう。この当時、ヒラリー・クリントン国務長官の下で、アメリカ政府の資金提供を受けた非政府組織が反プーティンのデモを称賛した。

 

アメリカ政府が独善性を弱め、ジョージ・HW・ブッシュに倣いもう少しだけ注意深くあれば、状況はより良い方向に進んでいたことだろう。

 

ジョージ・HW・ブッシュを際立たせているのは、彼の政治における勇敢さであった。いくつかの例外を除いて、彼は政策を政治によって歪めるということを拒絶した。1988年の大統領選挙で、民主党の大統領候補マイケル・デュカキスに対して、ウィリー・ホートンをテーマにした攻撃的CMを流したが、これは 例外的な行動である。このCMの内容は私たちが現在直面し、知りすぎるほど知っているアメリカの人種差別と恐怖心を煽るものであった。父ブッシュはイラクとソ連について、タカ派と勇敢に対峙した。彼の主張とやり方が正しかったことは証明されている。また、国内政策についても彼は圧力をはねのけた。1980年の米大統領選挙の共和党予備選挙で、ブッシュはレーガンに挑戦した。その際、サプライサイド経済学派の減税を行え、それでうまくいくという熱狂的な主張を「ヴードゥー経済学」とこき下ろした。これについても父ブッシュの主張は正しかった。

 

父ブッシュは常に先読みが出来る人であった。父ブッシュは、かつて述べたように、大統領が人々の支持を集めるには「ヴィジョンのように見えるもの」が必要だということを認識していた。彼は、人々が「湾岸戦争では不十分な勝利しか得られていない、サダム・フセインは権力の座に就いたままで、イラク国内のクルド人とシーア派を見捨てた」と言い出すことを分かっていた。父ブッシュは常に彼の決断は間違っていたと後悔していた。 彼は税制に関して中途半端であれば深刻な政治上のトラブルを引き起こすであろうということは分かっていた。そこで、増税はしないと公言した。「私の言うことをよく聞いてください!」と父ブッシュは大見得を切ったが、これを彼は終生悔いていた。しかし、結局造成するという決断を下した。彼は自身が正しいと考えたことを実行しただけのことだ。それは、レーガン時代に積みあがった巨額の財政赤字削減に取り組むことであった。

 

結局のところ、父ブッシュは世界を黒と白に分けるよりも、灰色として見ていたようだ。彼は規律や秩序を重んじる人物であったが、確実性に欠けた人物のように見られてしまった。

 

しかし、実際のところ、世界においては白黒はっきりつけられることは少なく、ほとんどが灰色だ。そんな中でも一つだけ確かなことがある。それは、指導者としてのジョージ・HW・ブッシュの謙虚さと慎重さが現在のワシントンにとって必要なものとなっているということだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 2020年の米大統領選挙について、このブログでも何度か書いていますが、共和党は現職のドナルド・トランプ大統領がいるので、よほどのことがない限り、対抗馬は出ないでしょう。一方、民主党はホワイトハウス奪還を目指しており、「誰がトランプ大統領を倒せるのか」という一点で、様々な名前が出ています。有力だろうという人物だけでも5名以上の名前が出ています。

 

 その中でも、ジョー・バイデン前副大統領とバーニー・サンダース連邦上院議員が知名度の点で大きくリードしています。バイデンはオバマ政権で副大統領を8年間務め、その前は連邦上院議員を36年も務めました。バーニー・サンダースは2016年の米大統領選挙でヒラリー・クリントンを追い詰めたことで知られています。


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ジョー・バイデン 

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バーニー・サンダース

 上位2人に続くのが、新星ビトー・オローク連邦下院議員です。ハンサムな容姿と対立を煽らないスタイルで、人気を集め、今年の中間選挙において、テキサス州の連邦上院議員選挙に出馬しましたが、その様子は日本のニュース番組でも取り上げられるほどでした。現職のテッド・クルーズは追い込まれ、トランプ大統領に助けを求め、何とか当選することが出来ました。

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ビトー・オローク
 

 サンダースは社会主義者を自認しているので、共和党が優勢な州ではおそらく勝てないので、バイデンの方が候補者としては良いということになります。しかし、問題は年齢で、バイデンも、そしてサンダースも70代後半です。年齢で云々したくありませんが、やはり健康問題や判断力の低下などが懸念されます。そうした中で、オローク待望論も出てきています。しかし、オロークはテキサス州全部が選挙区となる連邦上院議員選挙で負けている点がネックになります。

 

 そうした中で、バイデンの側近たちが、オロークを副大統領候補にして、大統領選挙に出馬するということを考えているようです。バイデンの年齢の問題に関する懸念を、オロークを入れることで薄めようという動きのようです。バイデンが大統領になって万が一職務執行不能状態になったら、オロークが副大統領として職務を代行する、バイデンが自認することになれば、オロークが大統領に昇格するということになります。これは、バイデンの年齢を心配して投票を躊躇する有権者に対して、「バイデンとオロークをセットで見てください、2人で1つと見てもらって、とりあえずトランプ大統領を倒したいのです」と訴えるものであり、オロークと彼の支持者に対しては、「副大統領になれば一気に知名度が上がります。そうなればバイデンの次として民主党の候補者にすんなりなれます、そうすれば遅くとも10年後には大統領になれるでしょう」と訴えるものです。もしかしたら、バイデンは最初から1期だけと決めているかもしれません。

 

 バイデンのこのような動きに対して、オロークがどう対応するのか注目されます。

 

(貼り付けはじめ)

 

バイデンのティームがオロークを副大統領候補にして大統領選挙に出馬することについて議論(Biden team discussed 2020 run with O'Rourke as VP: report

 

タル・アクセルロッド筆

2018年12月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/421506-biden-team-discussed-2020-run-with-orourke-as-vp-report?fbclid=IwAR2WJNsIPo9QblwTYOpNUyWp8bYsFzy7UFT_DiPTtVJne3P8mQFLh7t7Oww

 

ジョー・バイデン前大統領の補佐官だった人々が。バイデンが2020年の大統領選挙に出馬する場合に、彼よりも若い人物を副大統領候補に選ぶというアイディアを提案したと報じられた。その候補者としてビトー・オローク連邦下院議員(テキサス州選出、民主党)の名前が浮上している。

 

AP通信は匿名の人物からの取材をもとにして、金曜日に上記のシナリオを報じた。現在の補佐役と過去の補佐官たちは、バイデンが自身よりも若い人物を副大統領候補とすることで、彼の年齢に対する懸念を和らげることになると議論している。

 

2020年11月の投票日の段階で、バイデンは77歳になっている。もし大統領選挙に勝利すれば、バイデンは史上最高齢の大統領ということになる。バイデンはこの2年の間、トランプを倒すためにもう一度大統領選挙に出馬することを考慮していると述べている。そして、バイデンは民主党内の有力候補者たちと争うことになる。

 

民主党はここ数年若い有権者たち、特に若い女性有権者に向けてアピールしようと努力している。また、有色人種も対象としている。そして、トランプ大統領を倒すための最良の戦略の鍵を若者、女性、有色人種の人々が握っている。トランプ大統領は、前回の大統領選挙で中西部の白人の労働者階級からの支持を勝ち取って当選した。

 

民主党の大統領選挙候補者には数多くの人物が含まれている。その中には、様々な年齢の多くの女性やマイノリティの政治家たちの名前が挙げられている。

 

バイデンが46歳のオロークを副大統領候補に選べば、自分より若い人物とコンビを組むことになるが、白人男性だけのコンビになってしまうことを意味する。

 

本誌からのコメント依頼に対して、バイデンの報道担当はコメントを拒否し、オロークの事務所からは返答はなかった。

 

ロナルド・レーガンは当選時には73歳で最高齢だ。トランプ大統領は当選時は70歳であった。

 

バイデンは数か月以内に大統領選挙に出馬するかどうかを決断すると見られている。

 

オロークは現在2期目の連邦下院議員である。先月、テキサスの連邦上院議員選挙で、現職のテッド・クルーズ連邦上院議員に3ポイント弱の差をつけられ敗北したが、それでも、オローク自身も大統領選挙の候補者として名前が挙がっている。

 

2020年の米大統領選挙の候補者としては早い段階で名前が消えていたが、オロークはテキサス州の連邦上院議員選挙で優位な現職の共和党の候補者テッド・クルーズと予想外の接戦を演じたことで、大統領選挙への出馬を再考していると言われている。そして、民主党支持の有権者と献金者たちとの間で待望論が高まっている。

 

2020年の大統領選挙の民主党予備選挙に出馬するであろうと見られている人々の中には40代や50代の人々が含まれている。その中には、オローク、カマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)、コーリー・ブッカー連邦上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)、クリスティン・ギルブランド連邦上院議員(ニューヨーク州選出、民主党)、エイミー・クロウバッカー連邦上院議員(ミネソタ州選出、民主党)、モンタナ州知事スティーヴ・ブロック、オバマ政権時代の住宅都市開発長官フリアン・カストロが含まれる。

 

その他に、77歳のバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ-モント州選出、無所属)と69歳のエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)も有力な候補者である。

 

バイデンは連邦上院議員を36年勤め、その後、オバマ前大統領の下で副大統領を8年勤めた。民主党の支持基盤の中では人気を保っている。

 

今月モンタナ州で開催されたあるイヴェントで、バイデンは自身について「アメリカ国内で大統領に選ばれるのに最も資格として適した人物」だと述べた。

 

「現在我が国が直面している諸問題は、私が政治家として人生を賭けて取り組んだものばかりだ」。

 

=====

 

バイデンとサンダースがアイオワ州の世論調査でリード(Biden, Sanders lead field in Iowa poll

 

クリス・ミルズ・ロドリゴ筆

2018年12月15日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/421562-biden-sanders-lead-field-in-iowa-poll

 

アイオワ州の党員集会に出席すると答えた有権者たちを対象に行われた世論調査の結果が土曜日に発表された。ジョー・バイデン前副大統領とバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)が2020年の米大統領選挙の民主党候補のレースでリードしている。

 

バイデンは32%の支持を集めトップとなり、サンダースが19%を集めこれに続いている。サンダースは2016年の米大統領選挙民主党予備選挙で第二位となった。

 

世論調査を実施したセルザーアンドコー社の会長J・アン・セルザーは次のように語っている。「アイオワ州で党員集会に出席する人々になじみ深い人物たちに対する温かい歓迎ということになる。しかし、アイオワ州を訪問し始めて間もない、自分たちの未来を決める人々に名前を知ってもらおうとしている新人たちに対しても歓迎の意を示している。」

 

上位2人はヴェテラン政治家であるが、地元紙『デモイン・レジスター』紙・CNN・メディアコム社の共同世論調査の結果では、36%の人々がトランプ大統領を倒すためには、「新人」政治家がふさわしいと答えている。

 

新人待望の声に合うには、待望論が出ているビトー・オローク連邦下院議員(テキサス州選出、民主党)で彼は11%の支持を集めた。オロークは、テッド・クルーズ(共和党)との連邦上院議員を巡る戦いにおいて接戦で敗北を喫した後、大統領選挙の候補者として名前が取りざたされるようになった。

 

オロークは最近の数週間で民主党内の重要人物たちと会談を持っている。その中にはオバマ前大統領と聖職者のアル・シャープトンも含まれている。

 

上位2人以外に5%以上の支持を集めたのは、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)しかいなかった。

 

民主党所属の連邦ジョイン議員であるカマラ・ハリス(カリフォルニア州選出)、コーリー・ブッカー(ニュージャージー州選出)、エイミー・クロウバッカー(ミネソタ州選出)はそれぞれ5%、4%、3%の支持を集めた。マイケル・ブルームバーグ元ニューヨーク市長は3%の支持を集めた。

 

世論調査で名前が出された人物たちの中でバイデンとサンダースは最も高い知名度を誇る。彼らについて何も知らないと答えたのはわずか4%だった。

 

ウォーレンは上位2人に続き、高い知名度を持ち、84%が彼女の地位や立場について知っていると答えた。ウォーレンに続いたのは71%のブルームバーグ、64%のオローク、61%のブッカー、59%のハリスだった。

 

これまでのところ、ここに名前の出ている人物たちで選挙運動を開始すると発表した人はいない。

 

世論調査では、アイオワ州の民主党の党員集会(アイオワ州は米大統領選挙が最初に始まる州だ)に出席すると答えた人々に対して、20名の名前が掲載された名簿を示し、党員集会に出席した場合、誰を支持するかを質問した。2018年12月10日から13日にかけて20445名を対象に調査が実施された。誤差は4.6%だ。

 

アイオワ州での世論調査の結果は、金曜日に発表された全国規模の世論調査の結果とほぼ同じだ。全国規模の世論調査では、バイデンが30%の支持を集めてトップ、サンダースが14%を集めて第2位、3位には9%の支持を集めてオロークが入った。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 2018年も押し詰まってきました。2019年ももうすぐですが、アメリカでは2020年のアメリカ大統領選挙に向けて、いろいろと動き出す時期です。挑戦者側の民主党ではいろいろな人たちの名前が出ては消えている状況です。ヒラリー・クリントンの名前も出てくるほどです。

 

 民主党の大統領選挙に向けて、ヒラリーで敗北したことを受けて、オバマ政権出身者が良いのではないかという話が出ています。バラク・オバマ前大統領、もっと言えば、ミシェル・オバマ夫人が支持を表明した人物が民主党の大統領選挙候補としてふさわしいという話が出ています。しかし、オバマ政権出身者ということになれば、こちらも複数おり、その中でもジョー・バイデン前副大統領とエリック・ホルダー前司法長官が、オバマ夫妻とオバマ政権出身者たちの支持を得やすいということになっています。

 

 しかし、一枚岩とは言えず、どちらかということになると、遺恨が生じることも考えられます。ですから、オバマ夫妻も簡単には誰を支持するのかということは表明できないということになります。オバマ夫妻はこれからも民主党内で影響力を持つ、うまくいけばキングメイカーになるということを考えているでしょうから、ここで失敗する訳にはいきません。

 

 今年11月の中間選挙で、民主党は連邦下院での過半数、435議席を獲得しました。これを「ブルーウェイヴ(青い波、青色は民主党を示す色)」と喧伝するマスコミもありました。しかし、下に紹介する記事では、話はそう単純にはいかないようです。

 

 下で紹介する記事の分析によると、民主党は左に寄り過ぎたために、左派が優勢な場所では勝利を得られたが、それ以外の場所では、左派出身の候補者は落選したということだそうです。民主党はバーニー・サンダースの台頭を受け、左派の人々を多く擁立したが、選挙区の事情に合わない人たちも出て来て、そういう人たちは落選したということです。

 

 そして、興味深いのは、今回の中間選挙では連邦上院と州知事の一部の選挙も実施されたのですが、有権者の動きが「トランプ政権が嫌いなので、国政では民主党に入れた」のだが、「州知事選挙では、増税を訴えている民主党の候補者に入れない」ということであったという分析がなされていることです。連邦議員には左派を選ぶが(トランプが嫌いだから共和党には入れたくない、民主党は左派の人が候補者だが仕方がないからこの人に入れる)、知事の場合には増税を言わない人に入れる、という動きになったということです。

 

 民主党が左派に寄り過ぎると、左派が優勢な場所ではよいのですが、アメリカ全土ということになると、支持を得られないということになります。しかし、民主党では左派が強い状況ですから、左派の意向が反映されやすいということになります。そうなればアメリカ全土で戦う大統領選挙では民主党に不利ということになります。

 

 民主党の有力候補者であるジョー・バイデンにしてもバーニー・サンダースにしても70代を過ぎており、年齢の点で懸念があります。トランプ大統領の方が年下ということになります。トランプ大統領としてはバイデンやサンダースが出てくれば年齢の点で対抗し、左派が出てくれば儲けものという感じで待っているのだろうと思います。

 

 ビトー・オローク連邦下院議員(テキサス州選出、民主党)の名前も取りざたされていますが、テキサス州の連邦上院議員選挙で現職のテッド・クルーズ連邦上院議員に敗北してしまいました。もし大統領選挙出馬ということになると、自分の出身州で勝てなかった人物が大統領選挙候補としてふさわしいかどうかということも議論になるでしょう。

 

 こうして見ると、2020年に向けた民主党の先行きは厳しいものがあるということになります。

 

(貼り付けはじめ)

 

オバマを中心とする世界は分裂しており、2020年の大統領選挙における候補者が複数存在する(A divided Obama world has options in 2020

 

エイミー・パーネス筆

2018年11月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/414188-a-divided-obama-world-has-options-in-2020

 

2020年のホワイトハウスを目指すレース(大統領選挙)に誰が戻るかとなった時に、オバマを中心とする世界は分裂する。

 

バラク・オバマ前大統領の協力者たちの多くはジョー・バイデン前副大統領に大統領選挙に出馬して欲しい、彼を支援する用意はできていると考えている。

 

その他の人々は、オバマ政権で司法長官を務めたエリック・ホルダーに出馬して欲しいと考えている。ホルダーはオバマ大統領の上級補佐官を務めたヴァレリー・ジャレットと緊密な関係にある。

 

他にはマサチューセッツ前州知事デヴァル・パトリックを支持する人たちもいる。パトリックは、オバマ大統領のストラティジストを務めたデイヴィッド・アクセルロッドと長年にわたり盟友関係にあり、パトリックは大統領選挙出馬に向けてアクセルロッドと話し合った。

 

2020年の大統領選挙に関して、30名ほどの名前が出ている。そうした中で、緊密な関係にあるオバマを中心とする世界の人々が初めて分裂する可能性がある。

 

オバマ大統領の側近だったある人物は「こうした人々は同じ支持基盤で争うので、争いは厳しくなるだろう」と述べた。

 

オバマ大統領時代のホワイトハウス報道官と2012年の大統領選挙でオバマ陣営のスポークスマンを務めたベン・ラボルトは、オバマ派の内部が分裂する可能性があることを認めた。

 

ラボルトは次のように発言している。「今年の民主党の予備選挙に出馬する準備をしている才能ある人物はいる。その人物が出ることで、オバマを中心とする世界の人々にとっては、離散ということになる。民主党員の多くが支持できる人であっても、友人やオバマ政権時代に同僚だった人々からは支持されない、そんなことが初めて起きるかもしれない」。ちなみにラボルト自身は誰を支持するかについて表明することを拒絶した。

 

ラボルトは続けて次のように語っている。「私たちは2度の激しい選挙戦を勝利した経験から知恵を持っており、その知恵で民主党に貢献したいと望んでいる。私たちは選挙戦を通じて候補者たちの支持を強力に拡大させるための知恵と経験を持っている」。

 

オバマは裏側で彼の側近たちを支援し、選挙に出るように促してさえいる。しかし、オバマ自身は、ミシェル・オバマ夫人と同様に、民主党の予備選挙が終盤に差し掛かるまで、公の場で誰を支持するかは明言せず、中立を保つ可能性が高いとオバマ周辺の人々は語っている。

 

しかし、オバマの側近や大口支援者の間では、オバマの支持を得たいという期待は大きくなる一方だ。

 

オバマの側近であるある人物は、全員が、ヴァレリー・ジャレットがどう動くかを見ていると語った。ジャレットはホルダーとホルダーの家族と緊密な関係を保ち続けている。

 

しかし、ジャレットは友人たちに対して、パトリックを支持するかもしれないとも語っている。デイヴィッド・サイマスをはじめとするオバマの補佐官だった人々は、パトリックを支援していると言われている。サイマスはパトリックの許で次席首席補佐官を務め、現在はオバマ財団の最高経営責任者を務めている。

 

民主党所属のあるストラティジストは次のように語っている。「パトリックとホルダーに対して、オバマ政権出身者たちとヴァレリー・ジャレットは親近感を覚え、政界以外にもその魅力が伝わる人物だと考えている節がある。デヴァル・パトリックの政界での人脈はオバマ政権出身者ばかりだ。オバマ政権出身者たちの間で誰が候補者になるかについて終わりのない占いが続くだろう。彼らはオバマの意向が最終的に誰に向くかを知りたいと考えている」。

 

オバマ政権出身者や支援者の間では、バイデン出馬という噂も流れている。大統領選挙の初期段階であるが既にそうした話が出ている。バイデンはオバマ政権に参加していた人々を惹き付けるだろう。なぜならばそれはオバマ政権出身者たちの多くがバイデンを、トランプを倒す可能性を持つ数少ない人物の一人だと考えているからだ。

 

オバマの大統領選挙陣営に参加したある民主党員は次のように語っている。「今名前が出ている3人が選挙に出る場合、誰がオバマの敷いたレールに乗ることが出来るだろうか?私の直感ではバイデンということになる。バイデンはオバマ政権のナンバー2であったし、在任中にオバマ自身に何かあれば大統領職を譲るというくらいに信頼していた人物だ」

 

ジョン・、トミー・ヴェトー、ダン・ファイファー、ジョン・ラヴェットのようなオバマ大統領の補佐官だった人々は、バイデン出馬を注意深く見守っている。彼らは、「ポッド・セイヴ・アメリカ」というポッドキャストとテレビ番組を制作する会社を立ち上げ、成功させている。

 

それでも、バイデン、パトリック、ホルダーはそれぞれ大統領選挙出馬を検討していると言われているが、本当に出馬するかどうかは不明瞭だ。

 

ホルダーは中間選挙で出馬していた候補者たちを支援して回っていた。その中で、今月初めにマスコミの注目を集める発言を行った。ホルダーは、ミッシェル・オバマが提唱して有名になったスローガン「相手が品位も何もない形で攻撃するならば、私たちは品位を高く保とう」を言い換えたことで、マスコミの注目を集めた。

 

ジョージア州である選挙集会に出席した際、ホルダーは「いやいや、相手が品位も何もない形で攻撃してくるならば、私たちは相手を蹴り上げてやる。それが民主党の新しいやり方なのだ」と発言した。

 

ホルダーをよく知っている人々は、ホルダーは融通が利かず、選挙戦でもクソ真面目な話ばかりだった。

 

長年民主党に所属し、ホルダーが司法長官時代には司法省の報道官を務めたブライアン・ファロンは次のように述べている。「民主党員の多くは、エリック・ホルダーがあまり好ましくない話題ばかりを取り上げることに“舌打ち”をしていた。それでもホルダーは悪びれることなく、構造的な人種差別について延々と語った」。

 

ファロン「トランプが政治の世界に出てくるかなり前から、ホルダーは司法長官として、警察による暴力、有権者が投票の際に受ける抑圧、大量収監に厳しく対処するための政策を実施していた。歴代司法長官でホルダーの業績に比肩できる人はほぼいない」。

 

バイデンとパトリックは、全米を廻って選挙の民主党の候補者たちを応援することで、マスコミの注目を集めた。その他の民主党の大物とは異なり、バイデンは民主党優勢州だけではなく、共和阿東優勢州にも積極に出かけて行った。これは、バイデンが今でも白人の労働者階級の有権者の人気を保っていることを示している。

 

バイデン、ホルダー、パトリックの3人は互いに賛辞を送り合う。ホルダーは『バスフィード』誌の取材に対して「私がデヴァル・パトリックと知り合ってしばらく経つ。知り合って数年経つ。彼は知事を二期務めたが、素晴らしい仕事をしたと思う」と述べた。

 

ロバート・ウォルフは2008年と2012年にオバマ陣営の選挙資金担当幹部(bundler)を務めた。ウォルフは2020年の大統領選挙の候補者となり得る人物たちと親しい関係にある。ウォルフは2020年の大統領選挙は個人の関係では決まらないだろうと述べた。

 

ウォルフは次のように発言した。「民主党は党として、高度に純化するだろうと考えている。そうした中で、この人だなと私たち民主党員、民主党支持者の考えが一致するように進めることができる人が実際にトランプを倒せる人物なのだろう」。

 

=====

 

民主党はブルーウェイヴ(青い波)でチャンスが潰え、2020年の選挙では厳しい戦いを強いられることになる(Democrats face tough 2020 battle after blowing chance at blue wave

 

クリスティン・テイト筆

2018年11月8日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/campaign/415750-democrats-face-tough-2020-battle-after-blowing-chance-at-blue-wave

 

左派の人々が常々不得意としているのは、期待に応えるということだ。トランプ大統領の就任以降、彼の反対勢力は、中間選挙において連邦議会の共和党を一掃するブルーウェイヴが起きる発生するという期待に賭けていた。しかし、結果は民主党が連邦下院議員選挙でそこそこの勝利を収め、連邦上院では共和党が大きな勝利を収めた。民主党は重要な選挙で、穏健もしくは保守的な選挙区であまりに左派的な候補者を擁立したことで敗北を喫した。最高の結果を得たのは穏健派の民主党の候補者たちであった。一方、強硬な左派の候補者は各選挙で敗北を喫した。

 

左派の人々は、今回の中間選挙が2020年の選挙の前哨戦であり勝利を収めることが出来ると確信していた。多くの点で、民主党はイデオロギー上の純粋性ではなく、中道に進むべき選挙であった。

 

ほぼ全ての世論調査と新聞の論説は、アメリカ全土で民主党の候補者たちが勝利すると予測していた。民主党が圧勝すべき各州において、実際には民主党は後退した。ペンシルヴァニア州のようなラストベルトの一部で勢力を盛り返したが、増進した分はオハイオ州とインディアナ州での敗北で相殺された。

 

民主党は接戦の多くを落としてしまった。その理由は、民主党の候補者たちが主流ではない人々から選ばれたことにある。民主党は根こそぎ勝利を収めようとしたが、左派が優勢ではない各州で期待以下の勝利しか収めることが出来なかった。民主党はニューメキシコ州、ヴァージニア州、コロラド州で印象的な勝利をもぎ取った。しかし、民主党は支持基盤にのみ向けた選挙運動を展開したことで、無党派や穏健派の有権者たちからの支持を得ることが出来なかった。2006年と2008年の選挙では民主党はこうした有権者から支持を得た。いくつかの選挙区では、進歩派のバーニー・サンダースの仲間だと主張してきた候補者たちが勝てるはずの選挙で敗北を喫したのである。

 

フロリダ州は進歩派により過ぎた民主党敗北の顕著な例となった。アンドリュー・ギラムは、『リアルクリアポリティックス』誌の事前調査では平均で3.6%リードしており、全国メディアでは勝利の可能性が高いと報じられていた。しかし、ギラムは接戦ではあったが、1ポイントの差をつけられて敗北した。これは衝撃であった。ギラムはもともと喧伝されていたよりも大した候補者ではなかったということが明らかになった。ギラム敗北の主な原因は何か?ギラムの公約は伝統的に民主、共和両党が伯仲しているフロリダ州の左派にとっては素晴らしいものであった。最大の公約は、州の法人税を41%も引き上げるというものであった。しかし、これによって生み出される10億ドル規模の増税をもってしても、彼の主張した急進的な政策を賄うのには十分ではなかった。ギラムの計画は納税医者に更に毎年26億ドルの負担増を強いるものであった。

 

フロリダ州知事選挙における民主、共和両党の候補者たちについて報道を見れば、ギラムが失った数千、数万の得票について説明できる、それまで見えていなかった問題が見えるようになる。ギラムは世論調査の結果では常にリードしていた。しかし、ある住民投票が人々の投票における優先順位が決まったことで、結果が変わってしまった。フロリダ州では州憲法修正5条について住民投票が行われた。州憲法修正第5条は、増税する場合には州議会で圧倒的多数で可決された場合にのみに限られるとするものだ。この修正第5条は約65%の賛成で成立した。

 

穏健派有権者がひとたびは急進左派に投票した選挙区で、民主党は今回の中間選挙で敗北した。ミズーリ州選出連邦上院議員のクレイリー・マカスキル、モンタナ州選出連邦上院議員のジョン・テスター、インディアナ州選出連邦上院議員ジョー・ドネリーは、前回までの民主党色を薄めた選挙戦ではなく、オバマケアや増税、最高裁判事で反トランプ的な投票を行ったことを前面に打ち出して戦った。3名のうち、生き残ったのはテスターだけだった。

 

民主党は、目立つ選挙区で妥協してしまった。なぜなら民主党は強固な支持基盤の意向を無視できずに、選挙区の特性を無視して、左派過ぎる人物を擁立することを止めることが出来なかった。民主党が選挙区の特性に合った候補者を擁立したところでは、勝利を収めているのだ!ジョー・マンシン連邦上院議員は、ウェストヴァージニア州の前知事という中道派のイメージと連邦最高裁判事人事でブレット・カヴァナーに賛成票を投じたことで、何とか勝利を収めることが出来た。コノー・ラム連邦下院議員はペンシルヴァニア州西部の新たに引き直された第17区で56%を獲得して勝利した。シュレッド・ブラウンはオハイオ州連邦上院議員選挙で二期目の当選を決めた。

 

上記の当選した候補者たちは伝統的な民主党の政治主張とは距離を取っていた。こうした人々の間には2つの共通点がある。第一に彼らは社会主義者ではない。第二に彼らは選挙区で選挙戦を戦うために特性を理解しそこに合った候補者たちである。

 

今年の中間選挙において連邦上院と下院の選挙で民主党は今回選挙独特の現象に直面した。経済は好調なのに、有権者の多く、特に郊外の富裕な人々がドナルド・トランプを激しく嫌っている。都市部の強硬な進歩主義派と全国の穏健派が連合を組むということが勝利をもたらす戦略となった。有権者はトランプを激しく嫌う中で、有権者はワシントンに対して「メッセージを送る」ということと自分たちの財布に直結する州レヴェルの選挙で、州の運営の仕方をどのように行うかということの間で選択を行った。その人物が健康保険を政府が全額支払う制度を支持するから候補者にするというだけでは、一般有権者の支持を獲得することはできない。小さな青い「波」が引いていく中で、民主党に残された課題はより難しいものとなっていくだろう。

 

その顕著な例として、民主党が圧倒的に優位なニューイングランド地方が挙げられる。マサチューセッツ州からはエリザベス・ウォーレン、ロードアイランド州からはシェルドン・ホワイトハウス、ヴァーモント州からはバーニー・サンダースが連邦上院に送られる。この地方の連邦下院議員の当選者はほぼ民主党所属である。しかしながら、州知事選挙では、共和党がヴァーモント州、ニューハンプシャー州、マサチューセッツ州で勝利した。マサチューセッツ州の有権者はウォーレンを当選させながら、それ以上の大差で、共和党所属の現職知事チャーリー・ベイカーを当選させた。ロバート・コンクエストが提唱した政治における3つの法則を思い出させる。それは、「人はすべからく自分に関することでは保守的になる」というものだ。ニューイングランド地方の有権者は全国に反トランプ的な態度を鮮明に示しながら、自分たちの生活圏では州税の税率や手数料率をより低くすることを選択した。これはつまり、「自分たちは嫌だけど、他の地方の人たちには社会主義をどうぞ」という態度なのだ。

 

既に2020年の選挙に向けた動きは始まっている。民主党が連邦上下両院で過半数を獲得し、ホワイトハウスを奪還する機会を手にしたいと考えるならば、中道に向けて動くべきだ。行き過ぎの調査と左派により過ぎた公約によって、民主党は2020年の選挙での勝利の機会を失う可能性も高い。左派と急進左派の間くらいの有権者を狙って、ジョー・バイデンやビトー・オロークを候補者にするならば、民主党がホワイトハウスを奪還する機会も生まれる可能性がある。中間選挙の結果で示されたように、カマラ・ハリスとエリザベス・ウォーレンではアメリカ全土で勝負できない。

 

結局のところ、ドナルド・トランプは現役の大統領であり、その地位を使って自分の考えを人々に広める力を持っている。そして、2018年の中間選挙ではその力を効率よく使ったということになる。

 

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 古村治彦です。

 

 今回はフランシス・フクヤマの最新刊『政治の衰退(上)(下)』をご紹介します。本書は私も翻訳協力という形でお手伝いをいたしました。以下に書評をご紹介します。参考にしていただき、是非お読みください。よろしくお願いいたします。

francisfukuyama005
フランシス・フクヤマ

seijinosuitaijou001
政治の衰退 上 フランス革命から民主主義の未来へ


seijinosuitaige001
政治の衰退 下 フランス革命から民主主義の未来へ


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『政治の衰退(Political Order and Political Decay』書評:フランシス・フクヤマによる圧巻の政治史の第2巻目

―私たちはこれからも自由主義的民主政治体制の存在を信じていくのか、それとも西洋の最後の危機に瀕した欲望を捨て去る時が来たのか、『歴史の終わり』の著者が問いかけている

 

ニック・フレイザー筆

2014年9月28日

『ザ・ガーディアン』紙

http://www.theguardian.com/books/2014/sep/28/francis-fukuyama-political-order-political-decay-review-magisterial-overview

 

冷戦終結直後、日系アメリカ人の若き政治学者が「歴史の終わり(The End of History?)」というタイトルの人々の耳目を引く論稿を発表した。1992年には『歴史の終わり(The End of History and the Last Man)』というタイトルの本として出版された。多くの評者がフクヤマの浩瀚な警句に富んだ主張を、自由主義的資本主義の大勝利から導き出された傲慢で、誤った結論だと解釈した。しかし、フクヤマにはより緻密な考えがある。フクヤマは、民主政治体制が世界規模で導入されている中で私たち自身が何をすべきかを考えることを求めている。私たちは人類として幸福となるのであろうか?私たちは深刻な不満を抱えないだろうと言えるだろうか?自由主義的民主政治体制は何かに取って代わられるだろうか?

 

フクヤマはネオコンの帝国主義的なプロジェクトを支持するという間違いを犯した。その後、米軍によるイラク侵攻が行われた後、フクヤマは彼が一度は支持した人々を非難する内容の短い書籍を発表した。フクヤマはオバマを支持した。そして、民主政治制度の名においてオバマの敵によって構成された連邦議会の失敗について雄弁に批判した。そして、フクヤマは最終的に彼の人生を賭けた仕事を素晴らしい形で終えることが出来た。彼は世界の政治機構の発展を2冊の本にまとめた。それらの中には叡智と事実が凝縮され、掲載されている。

 

第二巻は19世紀から現在までを取り上げている。しかし、フクヤマの野心的な計画を理解するためには第一巻『政治秩序の起源:人類以前からフランス革命まで』(2011年)を読むべきだ。第一巻は、動物と家族を基盤とした狩猟集団から始まる。それから点在する部族へと続く。そして秩序だった国家が世界で初めて中国に出現した。それからアテネとローマに飛ぶ。機能する官僚制を備えた本物の国家が出現する。カトリック教会は法典の面で予期せぬ革新者となった。デンマーク、イギリス、その後にアメリカ、日本、ドイツといった国々で人々の生活は困難さが減り、寿命も延びていった。現在でも戦争、飢饉、崩壊などが起きているが、人類のおかれている状況の改善は続いている。

 

フクヤマは人々を惹き付け、人口に膾炙する言葉を生み出す才能を持つ。彼は民主政治体制の発展を「デンマークになる」という言葉で表現している。デンマークの特徴として、17世紀に議会が創設される前に存在した財産法、他人には干渉しない複数的な倫理に基づいて運営される議会といったものが挙げられる。フクヤマは、「デンマーク」という言葉を穏健な性質、良好な司法システム、信頼できる議会制民主政治体制、「歴史の終わり」の健全な結末の比喩として使っている。現実の場所として、そして比喩として、デンマークは完璧な成功例ということになる。

 

『政治の衰退』は、一巻目(『政治の起源』)に比べて、良い読み物とは言えない。これは題材のせいだ。この題材は物語にするには、より複雑で、人々の共感を得にくいものだ。19世紀にトクヴィルが行ったように、フクヤマは民主政治体制の特徴を考察している。フクヤマは私たちに対して、私たちの住む世界は改善可能かどうかではなく、存続可能なのかどうかを自問自答するように求めている。

 

現代に近づけば近づくほど、存続可能な世界という単純なことが難しくなっていく。秩序だった方法で前進する代わりに、人類は意識もうろうとした疲れ切ったマラソン走者のように進んできた。人類はフラフラとあちらこちらへ進み、それは時に矛盾を含むものであった。民主政治体制、法律、社会流動性といったレッテルが貼られるものであったが、それらはつまずき、失敗するものであった。そして、どこにも人類のためのゴールラインは設定されていない。

 

本書にはいくつか手抜かりといえる部分がある。近代インドの描写がそうだし、中東に関する記述はおざなりだ。しかし、全体としては素晴らしい出来である。アルゼンチンと日本の近代性についての素晴らしい描写がある。また、イギリス、フランス、ドイツの公務の比較を取り扱った章を読んで私は、こんなつまらないテーマを面白く読ませることが出来るのはどうしてだろうかと不思議に思うほどであった。

 

アメリカ人のほとんどはアメリカ例外主義(American exceptionalism)に敬意を払っている。しかし、フクヤマはそうではない。連邦政府などなくてもアメリカ人は繁栄を作れる、もしくは連邦政府がない方が幸せだ考える人は、本書の中で50ページにわたってち密に描かれているアメリカの鉄道と森林保護の部分を読むべきだ。アメリカの民主政治体制の「拒否権政治システム」(フクヤマが生み出したもう一つの素晴らしい言葉)は、紛れもない事実だ。

 

フクヤマが「世襲主義の復活」は、大富豪や有力な人々が自分たちだけの利益を追求するために民主的な正規機構に適用されている。大富豪と大企業による独占はアメリカ史上、現代が最も大きくなっている。政治における変化なしに、アメリカが衰退に直面していることは明確だ。しかし、フクヤマは、そのような変化がどのようにして起きるかについては何も分からないと率直に述べている。

 

機能する司法システムがなければ民主政治体制は存在しえない。市民が最低限関与していると感じられる国家の創設は重要である。そうした国家の創設には時間がかかり、困難な事業である。効率性のような近代性の一側面を選択する場合、その他の側面を捨てることになる。日本とドイツの近代的な官僚制国家は専制国家に転換したがこれは困難な事業ではなかった。野党や反対勢力が動員できない状態では市民社会は存在できない。フクヤマはこのことを認めている。しかし同時にフクヤマは私たちに対して、ここ数十年の間にいかに自由が過大評価されてきたかを考えるように仕向けている。

 

自由主義的民主政治体制の大義の存在を信じるべきだろうか?それとも西洋諸国が世界を作り替えようとして、これまで行ってきた、多くの無駄になった努力を見て、こうした考えを放擲する時期なのだろうか?フクヤマの著作は、弱い立場の人々を守る良い政府と法律は望ましいことではあり、良い政府と法律を求める熱意は政治的な活動がある場所であればどこでも見られるものであり、その熱意は驚くほどに長期にわたり存続するということを私たちに考えさせる。

 

人類全体がデンマークに到達できるかどうかは明確ではない。私たちは到達しようと努力するだろうが、成功の保証はない。衰退は拡散しやすく、その結末は恐ろしいものである。フクヤマの素晴らしい著作二巻を読むことで、私たちは政治が衰退するなどという警告を受けたことなどないとは言えなくなってしまう。フクヤマの著作を読むことで、政治の向かう先は不確実なのだという思いにとらわれるが、そのように考えることこそが許容されるべきであり、かつ、世界を見る上で健全な方法ということになる。

 

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フランシス・フクヤマが教えるアジアの発展に関する3つのレッスン(3 Lessons for Asian Development from Francis Fukuyama

―フランシス・フクヤマの最新作は、アジアの政治発展に関するいくつかの重要なレッスンを教える

 

『ザ・ディプロマット』誌

2014年10月3日

http://thediplomat.com/2014/10/3-lessons-for-asian-development-from-francis-fukuyama/

 

 政治学者フランシス・フクヤマの新著『政治秩序と政治腐敗:産業革命から民主政治体制のグローバル化』は、いかなる書評でもその微妙な部分を捉えることができない傑作である。今回の著作はフランス革命までの政治上の発展を取り上げた前作に引き続き、近現代の政治上の発展を取り上げている。言い換えるならば、フクヤマの今回の著作は、近代国家の成功にとっての必要条件と成功する近代国家の特徴を取り上げている。今回の著作は、政治理論、人類学、歴史、政治機構の特徴についての広範な知識を含んでいる。フクヤマの主張の要旨に関心を持っている人たちは主要な新聞が掲載している書評を読めばよい。しかしながら、現代の政治上の諸問題を巨視的な視点から理解したいと真剣に考えている人たちにとっては、今回の著作は一読する価値がある。本誌の読者のために、私は、フクヤマのアジアに関する考察から3つの興味深い点をご紹介したいと思う。

 

第一に、表面上は無秩序で汚職にまみれた民主政治体制が実は、社会流動に関しては、ある程度人々に利益を与えているということだ。フクヤマは、19世紀のアメリカは、現在の発展途上諸国と同様に、様々な親分子分関係のネットワークによって構成されていたと指摘している。貧困層や移民グループは投票と引き換えに有望な政治家を当選させ、力をつけさせて、支持者たちに地位や利益を与える政治マシーンを構築した。政治マシーンは、貧困層や移民グループを政治システムに取り込み、孤立しがちなこうした人々が公共財やサーヴィスを利用できるようにした。こうしたシステムはインドが採用していることを思い出す。過去20年のインドの政治システムは、民族、地域、カーストを基盤とした諸政党の乱立が特徴である。インドではそうした諸政党の影響力が大きく、汚職や「投票銀行」のような現象が起きている。しかし同時に、諸政党の力は、インド政治において無視されている少数民族やカーストの低い人々が政府の地位に就いたり、公共財やサーヴィスを利用したりすることに貢献している。インドの国家や官僚は機能していないということを考えると、少数民族や低いカーストの人々は国家サーヴィスによって救済されるということはない。フクヤマは、インドにおける汚職ということを考える際に興味深い、新しい視点を私たちに提供している。

 

第二に、国家の効率性の方が、汚職よりも大きな問題なのだという事実を私たちが認めつつあるということを挙げたい。民主政治体制であろうと独裁体制であろうと、効率性の高い、強力な国家は、政府の型にかかわらず、法とサーヴィスを実行している。これが効率性の低い国家にはできないのだ。汚職指数によれば、インドは中国よりも少しだけ汚職の度合いが高く、ロシアよりも汚職の度合いがかなり低いということになる。しかし、こうした国々の間に存在する相違点は、汚職の酷さや政治システムにではなく、国家の強さに存在する。中国の官僚たちは定数を削減されても、それでも彼らは政府の政策を効率よく実行するだろう。これはインドではできないことだ。フクヤマが本書の中で引用しているところによれば、インドの地方で教える教師のうちの48パーセントは学校に出てこないのだそうだ。そんなことが中国で起きることなど想像できない。中国が民主政治体制になってもそんなことは起きないだろう。中国系の人々が大多数を占める台湾やシンガポールのような国々でも質の高いサーヴィスが提供されている。これが国家の強さの証拠となる。

 

最後に、良い知らせとして、効率的な、能力に基づいた公務員制度を確立することで非効率な国家から脱することが出来るということが挙げられる。しかし、悪い知らせはそれを実行するのは東アジア以外では難しいことであるということだ。フクヤマは韓国や日本のような東アジア諸国は、儒教の影響がありながらも、質の高い統治を人々に提供してきたという。日本のような国は政府の権威が社会全体までいきわたるという強力な伝統を持ちながら(この伝統はオスマン帝国よりも強かった)、急速な近代化に成功した。近代化のためには、独裁的な政府を確立するだけでは不十分だ。非効率な政府を持つ独裁政治の下では、そのようなシステムや派閥を通じて、汚職がはびこり、親分子分関係が生み出されるだけで終わってしまう。同様の理由で、強力な官僚制度を持つ民主政治体制を確立することもまた不十分ということになる。インドは巨大な官僚機構を持つ。しかし、あまりにも多くのルールや法令が存在し、その一部しか実際には運用されない。これによって、官僚たちが自分の友人や家族を優遇するために、ルールや法令の恣意的な運用という事態が引き起こされてしまうのだ。

 

イギリスやプロシアのような非アジア諸国は有効に機能する官僚制度を確立することが出来た。その成功の理由は、似たような背景を持つ教育を受けた少数の人々から構成されるグループが存在したことが挙げられる。イギリスやロシアが有効に機能する官僚制を確立したのは民主政治体制に移行する前のことで、国家機構が親分子分関係に依存し、人々に配分することを至上命題する政治家たちに掌握される前に、官僚たちが国家機構を掌握したのである。しかしながら、既に民主政治体制を採用しているインドのような国々にとって参考にすべき最高のモデルは、アメリカを真似るということである。アメリカは20世紀を通じて効率のよい統治制度を確立したがその方法を真似るべきだ。アメリカは、新しい機構を運営するために、やる気のあるテクノクラートたちを動員することが出来た。更に言えば、セオドア・ルーズヴェルトやフランクリン・デラノ・ルーズヴェルトのような強力な大統領の下では、政府は親分子分関係ネットワークの影響を脱し、新しい気候を構築することが出来た。インドのように既に民主体制を採用している国々は、儒教の影響を受けている中国よりもアメリカの成功例を参考にした方が良いのである。

 

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政治秩序の利益はいかにして減少していくのか(How the benefits of political order are slowly eroding

 

2014年9月27日

『エコノミスト』誌

http://www.economist.com/news/books-and-arts/21620053-how-benefits-political-order-are-slowly-eroding-end-harmony

 

知識人の世界で良く起こりがちなことは、有名になった知識人が著作などを通じて、知識の質を下げてしまうということだ。言い換えると、作者がより有名であればあるほど、この作者は大ぶろしきを広げたがるというものだ。スーパースターとなった学者たちは、著書を宣伝するツアーで図書館のような地味な場所には見向きもしない。著名なジャーナリストたちは、地道で丹念な取材からではなく、上流階級や著名人たちとの夕食会を通じて情報を得るようになる。スピーチばかりがうんざりするほど繰り返され、本が出過ぎるために真剣に思考をするための時間はほぼ残されないということになる。

 

フランシス・フクヤマはこのようなありがちな出来事の例外である。これは素晴らしいことだ。フクヤマは、1992年の『歴史の終わり』の発表で、世界的な名声を得た。 また、2000年代初頭には、自身が大きな影響を受けたネオコンサヴァティヴ運動に反対する動きを見せ、それによって更なる称賛を得た。しかし、ここ10年で彼の名声を高めたのは、彼が「政治秩序」と呼ぶものの歴史研究をまとめた記念碑的な著作である。このシリーズの第一巻「政治秩序の起源」の中で、フクヤマは人類出現以前から18世紀末までを取り上げている。シリーズ最終巻となる第二巻では現代までを取り上げている。シリーズ二巻の著作には学ぶべき多くのことが含まれている。

 

知的エネルギーの爆発をもたらしたのは、フクヤマがひとたびは祝福した自由主義革命の

中途半端な成功(失敗)である。『歴史の終わり』でフクヤマは、 市場と民主政治体制が唯一の成功の方程式において重要な構成要素であると主張した。しかし、過去20年、私たちが目にしたのは、より抑圧された状況である。中国は国家資本主義と権威主義を混合したシステムを採用している。ロシアと中東諸国のほとんどで民主化は失敗に終わった。フクヤマは、彼が想像したよりも歴史がより複雑に進んでいる理由を、政治機構の質に求めている。機能する国家がなければ、民主政治体制も市場も繁栄することはできない。しかし、そのような国家は、民主政治体制や自由市場に頼らずとも、近代性の価値の多くを生み出すことが出来る。

 

国家建設は難事だ。フクヤマは、ヨーロッパとアメリカはこの難事業の実施において世界を長い間牽引してきたと主張している。欧米諸国は中世以来の強力な法典を受け継いできた。欧米諸国は19世紀に実力に基づく公務員制度を導入した。欧米諸国の多くは、機能的な国家システムを構築した後に、大衆の参政権を導入した。「歴史の終わり」について語っていた人物フクヤマが今では「デンマークになること」について語っているのである。

 

フクヤマは、機能する国家を構築したデンマークの成功と2つのタイプの失敗を比較している。一つ目の失敗は、南米諸国で起きたように、社会変化についていけない政治機能の失敗である。1980年代の短期間で続いた一連の改革の後、ブラジル政府は一流の官庁と情実の習慣の入り混じったものとなった。第二の失敗は、機構全体の失敗である。アラブの春の失敗は、本質的に政府の能力の失敗である。エジプトでは、イスラム同胞団が、選挙で勝利することと全権力を掌握することの違いを理解しておらず、結果として、エジプトの中間層は権威主義的政治に躊躇しながらも、権威主義的政治に再び支持を与えることになった。

 

しかし、これは単純な西洋対それ以外、先進諸国対発展途上諸国という物語ではない。フクヤマは、南ヨーロッパは北ヨーロッパよりも大分遅れていると主張している。ギリシアとイタリアは現在でも情実に基づいて雇用が行われている。しかし、フクヤマがもっと関心を持っているのは東アジアについてである。中国は能力の高い国家機構を備えている。筆記試験によって選抜された優秀な公僕たちが国家機構を担い、国家機関は巨大な帝国で起きる様々な出来事を監視する力を備えている。フクヤマは、私たちが現在目撃している、中国で起きていることは、1世紀に及ぶ崩壊の後に起きた伝統の復活である、と主張している。中国共産党は、西洋の持つ民主政治体制と法の支配の伝統がもたらす利益なしに、能力の高い国家機構を作り出すことが出来るという中国の歴史に立ち戻っているのだ。

 

本書にはいささか不満に思うところもある。フクヤマは読者に対して自身の知識を見せつけ過ぎており、国家と外国の諸機構について書かれた本書の最初の2つの部は長すぎる。その次の2つの部は民主政治体制と政治的後退について書かれているが、これらは反対に短すぎる。しかし、そんなことよりも2つの点がフクヤマのより大きな失敗を構成している。

 

第一点は、彼の知性の質である。フクヤマは、読者が読み進めるのを止め考えるような洞察を数多く本の中に散りばめている。アメリカは、本家イギリスが打ち捨てた、ヘンリー八世治下のイギリスの特徴を長年にわたり保持した。フクヤマは、アメリカが慣習法の権威を重視し、地方自治の伝統を保持し、主権が国家機関で分割され、民兵組織が利用されてきたと述べている。アフリカ諸国では国家建設が不首尾に終わったが、これは、アフリカ大陸が世界で最も人口密集度が低いことが理由の一つとして挙げられる。アフリカ大陸では、ヨーロッパが1500年に到達していた人口密集度に1975年になって到達した。

 

第二点は、現在のアメリカ政治の状況に対する彼の絶望である。フクヤマは、アメリカを近代的な民主国家と存在させている政治機構は、衰え始めていると主張している。権力分立は常に停滞を生み出す可能性を秘めている。しかし、2つの大きな変化によって、この可能性が現実化する方向に進んでいる。政党はイデオロギー上の違いに沿って、分極化し、党派性を強め、利益団体は大きな力を持ち、気に入らない政策に対しては拒否権を行使するような状況だ。アメリカは「拒否権政治体制」へと退化しつつある。こうなると、不法移民や生活水準の低下といったアメリカが抱える深刻な諸問題を解決することはほぼ不可能ということになる。更に言えば、アメリカでは、フクヤマが「ネオ家父長制」社会と呼ぶものが出現しつつある。それはいくつかの名家が有権者の一部をコントロールし、政治の世界のインサイダーが人々に利益を提供する代わりに権力を得るというものだ。

 

フクヤマがこの浩瀚な著書の中で訴えた中心的なメッセージは、人々を沸き立たせた『歴史の終わり』の中で書いた中心的なメッセージと同様に憂鬱なものである。最初はゆっくりと、しかし、だんだん政治の衰退は政治秩序がもたらした大いなる財産を減少させていくことになる。その大いなる財産とは、安定し、繁栄し、人々が協調して生活する社会である。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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