古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2019年11月

 古村治彦です。
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 民主党予備選挙は、左派のエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)とバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)が目立っている。一方、トップを走っているジョー・バイデン前副大統領は中道穏健派であり、アイオワ州でトップに立っているインディアナ州サウスベンド市長ピート・ブティジェッジもまた中道穏健派に分類されている。

 今回の大統領選挙民主党予備選挙で左派と中道穏健派の争点となっているのは、メディケア・フォ・オールだ。簡単に言うと、国民皆保険制度のために政府がすべてを取り仕切るようにすべきだという左派と、それはあまりにもアメリカの現実から外れているという中道派の争いだ。また、中道派は大学の学費無償化についても懐疑的だ。ブティジエッジは、大学に行かない人も多くいるのに無償化するのは不公平だと述べている。

 「民主党が全体的に左に寄り過ぎだ」「社会主義的すぎる」という批判は根強い。左派・進歩主義派のウォーレンとサンダースの支持率を合わせると35%から40%となる。左派や進歩主義派が過半数を占めている訳ではないが、かなりの支持を集めている。

 「しかしこれでは共和党支持者は仕方がないにしても、支持政党を持たない有権者にとってアピールしない、あまりにも急進的だ。そうなれば現職のトランプ大統領には勝てない」と批判が出ることになる。

トランプ大統領が共和党にしては過激なそして急進的な主張で接戦ながら当選したという事実(保護貿易や国債を発行してでもインフラ整備をやるというのは伝統的な主流派共和党勢力とは相いれない)は忘れられている。トランプ大統領は国内政策の面で左に寄せた。それで民主党を支持していた白人労働者たちの支持を得て当選できた。それならば民主党が大統領選挙で勝利するためには、その人たちからの支持を取り返さなければならない。

そこで民主党中道派であり主流派を代表するバイデンが出たところで勝てるのだろうか、ということになる。民主党内の声ではバイデンは当選可能性(electability)が高いということになる。しかし、彼が人口グループで言えば白人労働者、地域で言えば中西部の各州を取り返すだけのアピール力とパワーがあるのかというと、年齢や失言のことを考えると期待できないということなる。

そこで37歳のピート・ブティジェッジだということになる。ブティジエッジは性的少数者ということもありリベラルな装いができるが、本質は中道穏健派だ。オバマ前大統領も期待の若手ということで支持率を伸ばしつつある。しかし、国政レヴェルでの経験もなく、これからいろいろと批判に晒されていくことになる。そうしたことを乗り越えて、これから民主党の有力政治家となっていくだろうが、今回の大統領選挙には間に合わない。

民主党がホワイトハウスを奪還するのはしばらく先ということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

メモ:中道穏健派が民主党予備選挙のトーンを変化させる(The Memo: Centrists change tone of Democratic race

ニオール・スタンジ筆

2019年11月18日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/471010-the-memo-centrists-change-tone-of-democratic-race

中道左派がアメリカ大統領選挙民主党予備選挙で反撃しつつあるのだろうか?

インディアナ州サウスベンド市長ピート・ブティジェッジはアイオワ州で支持率を伸ばしている。元マサチューセッツ州知事ディヴァル・パトリックが選挙戦に出馬し、大富豪で元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグが出馬を検討中だ。バラク・オバマ前大統領も民主党に対してアメリカの有権者が全面的な変化を求めているという過大な判断をしないようにと警告を発している。

こうした動きは連続して起きており、予備選挙の雰囲気を変えつつある。予備選挙はこれまで進歩主義派のエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)の台頭が大きな話題となっており、またジョー・バイデン前副大統領が主張する中道派の諸政策は民主党の支持基盤の考えから外れているのではないかという疑問を多くの人々が持っていた。

金曜日、ワシントンを訪問したオバマ前大統領は次のように語った。「アメリカはこれまでと同様、革命などよりも改善により関心を抱く国だ。平均的なアメリカ国民は、私たちは現在のシステムを完全に破壊し、作り直す必要があるなどとは考えない」。

オバマ前大統領の介入は直接的なものではなかった。オバマは彼の行った改革が十分ではなく、もっとやれたのではないかと主張する人々には反対しなかったが、ウォーレンやバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、民主党)のような進歩主義派が主張する急進主義よりも漸進主義を支持する発言を行った。

予備選挙の情勢が流動的で、中道派が盛り返しているということを示しているのは、ウォーレンがメディケア・フォ・オール政策の実現を大統領就任後すぐに実行しないということを明確にしたことだ。ウォーレンは大統領に選ばれたら、メディケア・フォ・オールを就任3年目の終わりまでに成立させるつもりだと金曜日に発言した。

専門家たちの多くは、ウォーレンの動きは、「ウォーレンは一般選挙の有権者にとっては急進すぎる立場に立っている」と主張する人々に対する妥協だと思われている。急進的な立場に立っていることは大きな弱点となり、民主党員や支持者は予備選挙で有力なウォーレンがこれでは来年11月にトランプを倒せないと絶望的になっていると考える人たちも多い。

民主党系ストラティジストのジュリー・ロジンスキーは次のように語っている。「国民皆保険よりも自分の現在の医療保険を維持したいという人々が一定数いるということから、ウォーレンの国民皆保険制度の主張で有権者の支持を失うのではないかという懸念を持っている人々を宥めるための一つの方策としてすぐには導入しないと明言したのだと思う」。

ウォーレンとサンダースが、アイオワ州でのブティジェッジの台頭に懸念を持っていることは間違いない。アイオワ州ではリベラル派の活動家たちが党員集会をリードする州である。最近の2回の党員集会は共に激戦となり、2016年の時には最終的に党の指名候補となったヒラリー・クリントンに対してサンダースは肉薄し、2008年の時には当時連邦上院議員だったオバマがヒラリーを倒した。ヒラリーは3位に沈んだ。

『デモイン・レジスター』紙とCNNの共同世論調査の結果が土曜日に発表された。アイオワ州の党員集会参加予定者の25%がブティジェッジを大統領の代位市選択肢として挙げた。ブティジェッジから少し差があって第2位にウォーレンが入り16%、サンダースとバイデンは15%だった。

更に言うと、世論調査の結果からは、党員集会参加予定者たちはウォーレンやサンダースよりもブティジェッジとバイデンをより支持していることが分かる。

有権者の63%がブティジェッジの政治観は「大体正しい」と答え、バイデンに関しては55%がそのように答えた。ウォーレンとサンダースの数字はより低い。それぞれ48%と37%だった。

党員集会参加者の過半数にあたる53%がサンダースの政治観は「リベラルすぎる」と考え、ウォーレンについては38%がそのように考えている。

ブティジェッジはリアルクリアポリティックスが出しているアイオワ州での世論調査の平均でリードしている。

本紙の取材に応じた複数の民主党系ストラティジストは最新の世論調査の結果にとらわれ過ぎてはいけないと懸念を表明している。彼らは予備選挙の情勢が流動的だとしている。また、ブティジェッジはアイオワ州で重点的にテレビCMを放映していると指摘する人たちもいる。

ブティジェッジの台頭に疑念を持つ人々はまた、ブティジェッジはニューハンプシャー州の世論調査で支持率を上昇させているが、それでもトップ3の候補者たちから遠く置いて行かれている状態だと述べている。こうしたことは、民主党内において全国規模で親中道派の流れが起きているという考えに反していることを示している。

匿名のある民主党系ストラティジストは露骨に「アイオワ州でブティジェッジが大量リードしていると言うけど、彼の支持率はたったの25%だ!それで大量リードだなんだというのはジョークでしかないということになる」と述べた。

このストラティジストはまた次のように述べた。「民主党は進歩主義的な政党のままだと私は思う。また党は左側に動いている。しかし、左派に与しないというのならば、自分の主張を擁護できるようにならねばならない」。

進歩主義派の有権者は、メディアがブティジェッジに関心を持つこと、ブルームバーグとパトリックに出馬に関して報道をすることは、やり過ぎだと感じているようだ。

サンダースを支持している民主党系ストラティジストであるジョナサン・タシニは、白人が大多数を占めるアイオワ州での各種世論調査の結果は全国規模の民主党の流れを示しているという考えには「全く動揺しない」と述べている。

そして、タシニは続けて次のように述べた。「アイオワ州におけるこれまでの大統領選挙を振り返ってみれば、エネルギーを投入して世論調査の数字を上げる人々が出てくるのが通例だ。しかし、党員集会の人までにその勢いを維持できるかは分からない」。

また、タシニは左派の候補者たちに対する怒りの力を過小評価しないことが重要だとも述べている。

タシニは「政治献金者、専従党員、議員たちが属している中道穏健派のエスタブリッシュメントは進歩主義派の人々が民主党を指導して欲しくないと思っていることは間違いない。それは、進歩主義派がリードするようになると、エスタブリッシュメントの地位と立場、権力が脅かされると考えているからだ」と述べた。

他のストラティジストと同じくロジンスキーは、結論を出すには早すぎると述べている。

ロジンスキーは、民主党支持の有権者たちがたった一つの最重要の基準に合う候補者を探している、その基準とはトランプを倒せる能力だ、と述べている。

ロジンスキーは中道派の候補者たちを支持するのにイデオロギー上の理由は存在しないと述べた。

彼女は「中道派の支持にはイデオロギーではなく、当選可能性が基礎となっている」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 アメリカは中国のここまでの台頭をどうして許したのか、そして、どうして台頭を許しておいて紛争を起こすのか、ということは不思議だ。日本は高度経済成長の後、アメリカから鼻っ柱を殴りつけられヘナヘナとなってしまった。それどころか、日本の良さをことごとく消される形で、「アメリカ化」が進められている。日本の現状はアメリカの劣化版だ。ただまだ医療保険制度はアメリカよりも進んでいるが(世界の先進国並みであるというだけのことだが)、これもいつまでもつか分からない。
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 中国のここまでの台頭をアメリカ側で許容したのはヘンリー・キッシンジャー元国務長官だと言われている。そのためにアメリカでは彼に対しての恨み言も噴出している。しかし、中国の伸長を受け入れて、中国とうまく付き合いながら、アメリカへのショックを少なくするというリアリストであるキッシンジャーが両国の間をうまく取り持ってきた。

 キッシンジャーは9月に続いて今週末も中国を訪問した。96歳のキッシンジャーにとってはいくら最高級のファーストクラスでの行き来とは言え、十数時間も飛行機に乗っているのは辛いことだろう。それでも何とか耐えているのは、自分の実入りということはあるだろうが、米中の間で小競り合いは会っても前面衝突まではいかせないという信念があるからだろう。
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 キッシンジャーは訪中で習近平国家主席と王岐山副主席と会談を持った。習主席と王副主席のコンビで中国の舵取りが行われている。キッシンジャーは衝突してはいけないということを中国側に説き、アメリカに帰れば、おそらくドナルド・トランプ大統領か、ジャレッド・クシュナー上級顧問に会って訪中について話をするだろう。現在米中貿易交渉においてアメリカ側で動いているウィルバー・ロス商務長官やロバート・ライトハイザー米国通商代表よりもキッシンジャーの方が格上で、米中両国の首脳クラスに対して細かい話ではなく、大枠の話、グランドデザインを提示できる立場にある。

 米中は対等な交渉を行える関係にある。日本はそれよりも大きくランクが下がる。私たちはそのことを自覚しなければならない。そして、米中の動きを注視しながら、日本の利益はどこにあり、どのようにすれば最大化できるかということを考えねばならない。昔は新年になると、日高義樹ハドソン研究上研究員が司会として出演していたテレビ東京系の番組にキッシンジャーが出てきて、日本の位置の重要性というようなことをお世辞で言ってくれていた。しかし、今やそのような厚遇はない。日本は米中間で行われているビリヤードのボールの1つに過ぎない。両国の思惑に翻弄されるのだが、何の思慮もなく、ただキューで突かれたり、他のボールにぶつかったりするだけでは芸がない。何とか自分たちの意思で動けるようになる、これが重要だ。そのためには現状をしっかり把握する必要がある。

 米中間を取り持つ人物はキッシンジャーが死亡した後は、“チャイニーズ”・ポールソンと呼ばれる、ハンク・ポールソン元財務長官ということになるだろう。しかし、どれだけの影響力を持つのか、キッシンジャー並みに持てるのかということになるとはなはだ心もとない。キッシンジャー亡き後、米中両国は両国の関係の安定装置を組み込んだ形の構造にしなければならない。

(貼り付けはじめ)

習近平主席、キッシンジャー氏と会見 中米の戦略的意思疎通強化を強調

2019/11/23 09:10 (JST)

©新華社

https://this.kiji.is/570764839332054113?fbclid=IwAR23Bjb4CELvVrV7PfJ_ZwXsQnVIpRkEcDJP5Ayo-CLqA3-NU2DHIZjznpg

 【新華社北京1123日】中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席は22日、北京の人民大会堂で米国のキッシンジャー元国務長官と会見した。

 習近平氏は次のように指摘した。現在、中米関係は鍵となる時期を迎え、いくつかの困難と試練に直面している。双方は戦略的な問題について意思疎通を強化し、誤解や誤った判断を防ぎ、相互理解を増進すべきだ。双方は両国人民と世界人民の根本的利益を出発点として、互いに尊重し、小異を残して大同を求め、協力・ウィンウィンを図り、中米関係を正しい方向に前進させなければならない。

 キッシンジャー氏は次のように表明した。この50年間、米中関係には起伏や変化があったが、全体的には一貫して前向きである。現在、時代背景が変わり、米中関係の重要性はさらに際立っている。双方は戦略的意思疎通を強化し、意見の相違を適切に解決する方法を見いだすことに努め、各分野の交流・協力を引き続き展開していく必要がある。これは両国と世界にとって極めて重要である。

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王岐山副主席、米国のキッシンジャー元国務長官と会見

20191124 9:44 発信地:中国 [ 中国 中国・台湾 ]

AFP通信

https://www.afpbb.com/articles/-/3256325

 【1124 Xinhua News】中国の王岐山(Wang Qishan)国家副主席は23日、北京の中南海で米国のヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)元国務長官と会見した。

 王岐山氏は次のように述べた。中米関係は世界的な影響力を持っており、双方の共通点は相違点をはるかに上回っている。協力すれば双方に利益をもたらし、争えばともに傷つく。協力は双方の唯一の正しい選択である。中米双方は習近平(Xi Jinping)主席とドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領が複数回にわたる会談で決めた方向と原則に基づき、より広い視野とより長期的な観点に立ち、両国関係における一連の重大な戦略的問題を客観的かつ理性的に考え、不動心を保ち、困難を克服し、試練に立ち向かい、協調・協力・安定を基調とする中米関係を共同で推進していかなければならない。

 キッシンジャー氏は次のように表明した。米中関係を把握、処理するには幅広い思想と歴史的・哲学的な思考が必要で、対話と意思疎通は両国関係の基礎である。双方が全力を尽くし、両国関係の発展のために創造的で前向きな成果をもたらすことを希望する。(c)Xinhua News/AFPBB News

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習近平中国主席:中国政府は貿易合意を望んでいるが、しかし「反撃」をすることを恐れない(Chinese President Xi: Beijing wants trade deal, but not afraid to 'fight back'

マーティー・ジョンソン筆

2019年11月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/trade/471631-chinas-xi-china-wants-trade-deal-but-not-afraid-to-fight-back

習近平中国国家主席は金曜日、中国は現在もアメリカとの貿易に関する合意のために努力を続けたいが、アメリカに対して「反撃」をすることを恐れはしないと述べた。CNBCが報じた。

習主席はアメリカの経済界代表団に対して次のように述べた。「私たちが常に述べているように、私たちは貿易戦争を始めることは望まないが、それを恐れはしない。必要となれば反撃もするが、貿易戦争にならないように努力を続けたい」。

習主席は続けて「私たちは相互尊重と公平を基にしてフェーズ・ワンの合意に至るように努力したい」と述べた。

アメリカからの代表団の中には元アメリカ政府高官が複数参加しており、代表格としては、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官とハンク・ポールソン元財務長官が挙げられる。

貿易合意をめぐる米中両国のトーンは最近になって肯定的になっているようであるが、「フェーズ・ワン」の貿易協定の詳細については現在も曖昧なままだ。

これまでの18カ月、中国とアメリカは貿易戦争に突入した。両国はそれぞれの製品に対して数十億ドル規模の関税引き上げを複数回実施してきた。.

貿易交渉は進んでいるように見えるが、トランプ大統領は翌月には中国製品1600億ドルぶんに新たな関税を課す予定となっている。

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キッシンジャーは「中国とアメリカは冷戦の途中にある」と懸念を表明(Kissinger warns China, US are in 'foothills of a cold war'

ジョン・バウデン筆

2019年11月21日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/news/471460-kissinger-warns-china-us-are-in-foothills-of-a-cold-war

ヘンリー・キッシンジャー元国務長官は木曜日、世界で1位と2位の経済大国の間で様々な紛争が起き、世界規模で緊張関係を深刻化させている中で、アメリカと中国は冷戦に向かって進んでいると懸念を表明した。

ブルームバーグ・ニュースは、北京のニュー・エコノミー・フォーラムで講演を行い、米中両国は双方の主張と立場の違いを理解するために「努力」することを合意すべきだと主張した、と報じた。

キッシンジャーは次のように述べたと報じられている。「私の考えは以下の通りだ。緊張関係が深刻化している時期には緊張関係の政治的な理由は何かを理解し、双方がその理由を解消するために努力することこそが重要だ。現状は手遅れになりつつある。それは米中両国が冷戦に向かう途中にあるからだ」。

キッシンジャーは更に、アメリカと中国との間で継続されている貿易交渉について言及し、両国経済に大きな影響を与えてきた1年以上続く貿易戦争を終了させるための合意に達するようにすべきだと主張したと報じられている。

キッシンジャーは「貿易交渉は政治に関する議論の小さな始まりに過ぎないということは誰も分かっている。私は貿易交渉が成功して欲しいし、その成功を私は支持している。また、政治に関する議論が実現することを望んでいる」と述べた。96歳になるキッシンジャーは1973年から1977年にかけて国務長官を務めた。

アメリカと中国は2018年半ばごろから知的財産権侵害をはじめとする諸問題をめぐって貿易に関して紛争を起こしている。その結果としてそれ以降の数カ月で数度の関税引き上げと報復的関税引き上げが続いている。

アメリカ政府と中国政府との間の交渉はいまだに包括的な合意に達していない。今年初めには合意に達すると見られていた。

米中両国は南シナ海の領有権争いに関して異なる立場に立っている。中国は南シナ海に人工島を建設しその領有権を主張し、アメリカは南シナ海の様々な航路のパトロールを行っている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。
bakabusubinboudeikirushikanaianata001
馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください


 今回は、藤森かよこ氏の初の単著『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』をご紹介する。藤森氏は桃山学院大学や福山市立大学出教鞭を執った英文学専攻の元大学教授だ。アメリカの作家アイン・ランドの古典的ベストセラーで、アメリカの大学生の必読書と呼ばれる『水源―The Fountainhead』や『利己主義という気概ーエゴイズムを積極的に肯定するー』の翻訳でも知られている。

 今回初の単著は人生論、特に女性向けの人生論になっている。しかし、私のような冴えない中年男性にとってもなるほどと思わせてくれる内容になっている。

 是非お読みください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

 

『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』

 

■長いまえがき

 

●本書の著者は低スペック女子の成れの果てである

 

 本書の著者はブスで馬鹿で貧乏である。ただし、鈴木大介の『最貧困女子』(幻冬舎新書、二〇一四年)に描かれているような貧困は知らない。賃金労働をしなければ食べていけないし、大不況や預金封鎖などの社会的経済的大変動があれば、すぐに食い詰めるという意味での貧乏だ。

 本書の著者はブスだ。顔やスタイルで食っていけないならばブスだ。「繁華街を歩いていてスカウトされたことがない」なら、立派なブスだ。

 本書の著者は馬鹿である。一を聞いて一を知るのが精一杯である。学校の勉強もできなかったし、地頭(じあたま)がいいわけでもない。平々凡々であり、ちょっと努力しなければ、すぐにゴミになる。

 本書の著者には、輝かしき幼年期も青春期も中年期もなかった。すべてが悪戦苦闘だった。本書の著者には、輝かしい老年期もないだろう。死ぬまで悪戦苦闘は続く。

 現代という時代は、ほとんどの人間に敗北感を感じさせる。現代という時代が人間に要求するスペックは高過ぎる。

 無理しないで自然に「ありのままに」生きていけばいい? 「ありのままに」生きていたら、本書の著者はただの廃人だ。

 

●低スペック女子向け自己啓発本がない

 

 本書の著者は、ブスで馬鹿で貧乏であり、何をするにも中途半端ではあったけれども、向上心だけは人並みにあった。だから、若い頃から自分の低スペックを何とかしたくて、手当たり次第に自己啓発本を読み漁(あさ)ってきた。

 書物というものは、ただ読むだけでは単なる時間つぶしでしかない。書物に素晴らしい助言や洞察が書かれていたら、それを実践して成果を得なければ意味がない。貧乏なんだから、消費するだけの読書なんかやっていられない。

 しかし、本書の著者は、特に成果はない無意味な読書を長年続けたあげく、とうとう気がついた。

 本を書く人間というのは、もともとスペックが高い。そーいう人の書く本は、自分のスペックの低さに苦しんでいる人間にとっては役に立たない! やっと気がついた。だから本書の著者は馬鹿だ。

 

 しかし、本書の著者は、特に成果はない無意味な読書を長年続けたあげく、とうとう気がついた。

 本を書く人間というのは、もともとスペックが高い。そーいう人の書く本は、自分のスペックの低さに苦しんでいる人間にとっては役に立たない! やっと気がついた。だから本書の著者は馬鹿だ。

 

●たとえば本多静六著『私の財産告白』

 

 貧乏な人が読むべき古典的自己啓発本に、本多静六[ほんだせいろく](一八六六―一九五二)の『私の財産告白』(実業之日本社文庫、二〇一三年)がある。一九五一年(昭和二六年)出版以来、二一世紀の今にいたるまで版を重ねてきた知る人ぞ知る名著だ。

 ちょっと話が長くなる。しばし我慢して読んでください。

『私の財産告白』の著者の本多氏は、苦学のすえに東京農林学校(東京帝国大学農学部の前身)で学んだ。ドイツに留学して林学を学んだ。帰国後は、日比谷公園を始めとして日本中のほとんどの大公園を設計し、「日本の公園の父」と呼ばれた。

 そもそも明治時代になるまで、日本には「公園」というものはなかった。領主の領地と私有地があるだけで、誰でも無料でウロチョロしていい公園は存在しなかった。だから現在にまで残る大きな公園を設計した本多氏の業績はすごい。福岡の大濠(おおほり)公園も名古屋の鶴舞(つるま)公園も本多氏の設計による。

 そのほかに、本多氏は、東京駅丸の内駅前広場の設計をした。関東大震災からの復興

原案も作成した。

 本多氏は、ドイツ留学時代に指導を仰いだドイツ人教授の生きかたに感銘を受けた。

ドイツの一流大学の教授は、ただの専門馬鹿の浮世離れしている学者ではなかった。自

身の自由な学問研究のための金銭管理や資産形成にも怠(おこた)りなかった。

 確かに、いまどきの日本の大学の研究者のように、研究費や科研費(文部科学省と日

本学術振興会が担当する学術研究助成基金助成金や科学研究費補助金のこと)だの民間

の補助金だの寄付だの他人のカネをあてにしていては、真に自由な学問研究はできない。

科研費や補助金の審査に通過しやすい申請書を作成しなくては、科研費も補助金も獲得

できない。

 いくら意義ある研究でも、「大麻の安全性とその有効利用」とか、「疾病(しっぺい)製造装置としての定期集団健康診断」とか「政府崩壊後の社会構築の方法」とか「日本属国脱却法研究」とか「日本支配層とイルミナティの連携」とか「横隔膜(おうかくまく)活用による男性妊娠法研究」というテーマは、おそらく日本学術振興会によって採択(さいたく)されないだろう。

 また審査する研究者の専門分野の存在理由を脅(おびや)かす類の研究テーマも採択されないだろう。「文学は価値があるが文学研究は趣味でしかないので、文学研究に科研費投入は公費横領であることを証明する研究」なんて研究は採択されない。審査するのが文学研究者ならば。

 ところが、さすがに本多氏は慧眼(けいがん)で独立独歩の気概(きがい)ある方だった。ほんとうの研究者になるには、自分の自由になる自分自身の資産を形成することが必要だと考えたのだから。

 で、帰国後は、夫人の協力を得て、「月給四分の一天引き貯金」を実践した。四〇代からは株式投資も始め資産を増やした。山林も購入した。売れる書籍の原稿を毎日一ページ書くことを日課とした。著書は三七〇冊を超えるまでにいたった。

 おかげで、本多氏は海外調査も自費で何度もできた。それも一流ホテルに宿泊した。日本人として堂々と臆することなく威(い)を張るために。公金である科研費を使って海外の学会に出席と言いつつ物見遊山(ものみゆさん)しているような類(たぐい)の現代の日本の大学教授とは、本多氏は志(こころざし)が違った。

 なのに、そこまでして築いた資産を、本多静六氏は東京帝国大学停年時には全額寄付した。本多氏は、かくも非凡な研究者だった。

 本書の著者は本多氏の生き方に感動した。しかし、本多氏の名著は、本書の著者にとっては猫に小判だった。デブ女にピンヒールだった。

 本書の著者は、この名著を何度も読み返した。しかし、月給の二五%預金などできたためしがなかった。こんなに単純なことでさえ実践できなかった。

 いかに名著でも、いかに確実な方法が提案されていても、本書の著者のようなスペックの低い人間には実現不可能なのだ。

 この世に出版物は多い。しかし、ほんとうにスペックの低い人間にとって実践可能な方法は書いてくれていない。

 

●たとえば上野千鶴子著『女たちのサバイバル作戦』

 

 まてよ、本書の著者は女性なのだから、女性の問題を論じた本を読むべきであって、男性が書いたものでは参考にならないのではないか?

 そう思った本書の著者は、女性のための自己啓発書も随分と読んだ。中でも、上野千鶴子氏の著作は一九八〇年代から随分と読んだ。

 厳密に言えば、社会学者である上野氏の著作は女性用自己啓発本ではない。あくまでも社会科学の面から見た女性問題を啓蒙(けいもう)的に分析するものだ。

 しかし、本書の著者にとっては上野氏の著作は自己啓発本だった。女性がこの世界で

遭遇(そうぐう)するであろうさまざまな困難が、より大きな政治や社会や経済の文脈の中で鮮やかに分析されていた。個人の努力では超えることができない問題にぶつかり、自責することしかできなかった女性たちに、上野氏の著述は、より大きな視野を与えてくれた。

 本書の著者は上野氏の御著書を読むと、グジャグジャな脳の中がクリアに整理され頭が良くなったような錯覚を起こしたものだった。

 あなたが何歳であれ、女性としてのあなたが二一世紀の今現在置かれている政治的経済的社会的状況を把握(はあく)したいのならば、上野氏の『女たちのサバイバル作戦』(文春新書、二〇一三年)は必読だ。

『女たちのサバイバル作戦』には、一九八六年の雇用機会均等法の施行(しこう)から現在にいたる女性を取り巻く労働環境の変化と女性間格差拡大の問題が論じられている。決して楽観的にはなれない日本と世界の現在と未来において、女性がどうあるべきかという提言もなされている。

 上野氏は、もちろん政府や企業のすべきことも提言している。女性個人に対しては、経済的には「マルチプル・インカム」をめざすように提言している。要するに、いろんな方法で稼ぎなさいね、ということだ。

 上野氏は、自分自身の中に多様性を取り込むことも提言している。組織に終身雇用されて生きる従来の勝ち組の生き方は誰にとっても不可能になりうるという予測のもとに、さまざまなことをして稼ぎつつサバイバルしていくことを推奨(すいしょう)している。

 同時に、女性間格差を越えて社会構造的に弱者にならざるをえない女性同士の「共助(ともだすけ)」を提唱している。

 とはいえ、本書の著者は、上野氏の著作にいろいろ教えられながらも、「やっぱり私の求めるものとは違うなあ」と思わざるをえなかった。

 たとえば、いろいろなことができるようになってマルチプル・インカムを達成して稼ぐにしろ、「共助け」できる友人ネットワークを構築するにせよ、本書の著者には無理だ。不可能です。

 本書の著者はブスで馬鹿で貧乏だから、いろいろなことができない。何をさせてもうまくできたためしがない。

 それから、ブスで馬鹿で貧乏なので、傷つきやすいことが多く、他人とネットワークなど作れそうもない。面倒くさい。そもそも他人があまり信用できない。

 ブスで馬鹿で貧乏だからこそ、本書の著者は、人間というものが、いかに悪意に満ちたものであり、くだらない位(くらい)取り(自分のほうがここは上だとか、優れているとか、比較品定めすること)ばかりしがちなことを知っている。本書の著者には、そういう人々の悪意や邪気を包み込めるような大きな人間愛はない。

 また上野氏の言う「共助け」とは、相互扶助とか互恵関係だと思われるが、本書の著者は他人に有益な何かを自分が与えることができるとは思えない。

 ともかく、ブスで馬鹿で貧乏だと、ついつい自分自身にも他人にも過大な期待はしなくなる。ましてや政府や行政になど。

 

●たとえば田村麻美著『ブスのマーケティング戦略』

 ならば、もう少し敷居(しきい)の低い田村麻美の『ブスのマーケティング戦略』(文響社、二〇一八年)ならばどうだろうか。

『ブスのマーケティング戦略』は、自分はブスであると早々と小学校時代に自覚した田村氏の青春の記録だ。『ブスのマーケティング戦略』には、自分を商品として査定し、自分が売れるマーケットを模索(もさく)し、豊かな性体験もキャリアも男も子どもも獲得し、ブログが認められ本まで出版する過程が赤裸々に楽しく描かれている。

 この本は実に面白い。無茶苦茶に面白い。これほどに正直で率直な女性用自己啓発本はない! すべての日本の高校は、女子高校生用課題図書として『ブスのマーケティング戦略』を選ぶべきだ。

 が、本書の著者は、この素晴らしい現代日本女性の自己啓発本に対してでさえも引いてしまう。

著者の田村氏は、単なるブス (写真で見る限りそれほどのブスではない)ではない。

非常に頭のいい観察力のある女性だ。実行力も行動力も度胸もある。税理士という立派な国家資格も持っている。高校は埼玉県一番の進学校だ。立教大学経済学部出身で、立教大学大学院の博士課程前期(修士課程のこと)も修了している。二〇一八年現在で早稲田大学のビジネススクールに在籍中だ。MBA(経営学修士号)取得後は、税理士としてばかりでなく経営コンサルタントとしても活躍する予定の方である。

 ブルータス、お前もか。やっぱり、自己啓発本を書くことができる人は高スペックな

のだ。

「自分にうそをつくな! かっこつけるな! 好かれたいんだろう! セックスしたいんだろう! その愛欲・性欲を認め、エネルギーにするんだ!」と堂々と書ける女性は非凡に決まっている。

 本書の著者には、自分を商品として売り出すマーケティング戦略なんて無理だ。そんな分析力も思考力も実行力もない。だって馬鹿だもん。

 

●自分で書くしかないし老後対策も必要

 

 というわけで、この世に出版物は多いが、ほんとうに低スペック女子にとって共感できるし、実践可能な方法は書いてくれていない……と、本書の著者は、あらためて思った。

 本書の著者は、そろそろ自分の人生の果てが先に見えてきた年齢だ。だから、分不相応(ぶんふそうおう)にもこう思うようになった。じゃあ、何につけても中途半端な低スペック女子向き自己啓発本を誰も書いてくれないならば、私が書こうと。遺書のつもりで書いちゃおうと。

 現代日本には、おびただしい数の本が毎日出版されている。そこに本書の著者のような中途半端な馬鹿が書くものを加える意味はない。全くない!

 ではあるが、本書の著者には、老後対策として本なるものを書かねばならないという切羽(せっぱ)詰まった事情もある。本書の著者は、退職後に年金生活者になっても、書籍をやたらに注文する癖を矯正できない。せめて本代くらいは稼がなければ食べてゆけない。

 しかし、アルバイト的なものにせよ雇われての賃金労働はしたくない。本書の著者は、何につけても中途半端でブスで馬鹿で貧乏であるので、非正規雇用で四年間、正規雇用で三一年間の賃金労働をするのにさえも非常に難儀した。

 その楽しくない賃金労働のストレス解消のために収入はほとんど浪費したので、預金額も少ない。

 まだ現役で働いている夫がいるので、将来は夫の年金と夫の預金にたかる予定でいたが、その頼りの夫が二〇一八年秋に大腸がんのステージ3Cと診断された。

 夫の生存率を高めるべくやれるだけのことを本書の著者はするつもりだが、こればかりは神様の領域だ。

 それに加えて、国家財政破綻(はたん)に預金封鎖に新円切り替えで、庶民の預金は没収されるという噂もある。年金破綻もありえるそうだ。

 いや、日本の国家財政破綻説などは、国民から税金をさらに収奪したい人々が流すデマであるという見解もある。

 どちらが正しいのか、本書の著者にわかるわけがない。

 確実に言えることは、本書の著者の老年期も、青春期や中年期と同じく悪戦苦闘になるということだけだ。

 やっぱりね。

  ということで、収入の道を探るべく、本書の著者は本なるものを書くことにした。

 すみません。こんな志(こころざし)の低い理由で本を書くなんて。でも、これが掛け値のない真実です。

 

●本書の著者の紹介

 

 本書の著者の藤森かよこについて紹介する。

 私は一九五三年に愛知県名古屋市に生まれた。日本でテレビ放送が始まった年に生まれた。

 私は、高校生の頃から、「女だからという理由で損をする気はさらさらない」という意味でのフェミニストだった。自分で稼いで、自分で稼いだ金を好きなように自分のために消費して好きに暮らしたいだけだった。

 根が非常に怠惰なので、ほんとうは、好きなように消費できる優雅で気楽な類の家事をしなくていい高級専業主婦になりたかった。

 しかし、高収入の安全確実なエリート男を夫として絶対に獲得できるような家柄に生まれたわけではない。「玉の輿(こし)に乗る」ことができる美貌も持ち合わせていない。

 清貧で誠実な男の専業主婦となり清く正しく美しく慎ましく家事に励む生活をする気は全くなかった。私は清貧にも忍耐にも興味がない。家事はなるべくしたくない。そんな能力も体力もない。

 ならば、自分で働いて稼いで食っていかなきゃ。

 とはいえ、男女同一労働同一賃金の職は、私の若い当時は教員か医師か弁護士か官僚ぐらいしかなかった。当時の私は言語道断(ごんごどうだん)に無知であり、男女同一労働同一賃金の職種を、これら以外に知らなかった。

 これらの職種の中で、何とか私でも就けそうな可能性のある職は教員だった。義務教育の教員は無理だった。子どもには興味がない。保護者と関わるのも真っ平御免だった。残るは高校教員のみ。

 それで大学は地元の南山(なんざん)大学の文学部英文科に入学した。当時の南山大学文学部英文科(今はない)の偏差値は六〇ぐらいだったろうか。愛知県の県立高校の英語教員には南山大学出身者が多かった。私には、地元の国立大学の文学部や教育学部に合格する学力はなかった。

 有名国立大学か慶応大学か早稲田大学に行く以外は上京させないし、浪人も駄目と父に言われていた。大丈夫だよ、受かるはずないから。

 ところが高校の英語教師になるつもりだったのに愛知県立高校教員採用試験に落ちた。高校での教育実習の経験から、私は高校教員の職が勤まりそうもないと察知していた。だから落ちたショックはさほどなかった。

 しかし、ならば、さてどうしようか。

 すると、大学の英語教員になるという案が浮上(ふじょう)した。県立高校の英語教員の採用試験は狭き門だったけれども、大学の英語教員になろうとする人間の数は少ない。ならば狙(ねら)い目だ。

 大学の一般教養課程では英語は必修だ。大学の教員なら、授業があるときだけ出勤す

ればいいはず。毎日午前九時から午後五時まで働かなくていいはず。ラッシュアワーの

電車に乗る必要はないはず。夏休みもあるはず。大学の教員ならば、職場に自分の研究

室があり同僚と顔を付き合わせる必要はないはず。世間話しないですむはず。偏屈でい

いはず。

 ならば大学教員になろうと私は心に決めた。

  一九六〇年代や七〇年代は大学の新設も多かった。英語教員の採用が比較的多かった。

当時は、インターネットによる英語の自学自習システムもなかった。スカイプでの英会

話教育もなかった。英語専門学校へのアウトソーシングなどの外部に英語授業を委託し

て人件費を抑えることもなかった。どこの大学でも教養課程の英語教師を必要としてい

たので、雇用はあった。

 大学の英語教員になるには少なくとも修士号の取得が必要だと知った。だから母校の

大学の大学院文学研究科英米文学専攻(今はない)の修士課程に進学した。

 大学院では、英語教育にも文学研究にも興味はなかったので、研究の真似事をするの

に難儀した。論文なるものを書くのに非常に苦労した。

 論文を書くために買いまくり集めまくった書籍の山を眺めるたびに、「これだけ投資したのだから、絶対に元を取らねばならない!」と自分を励ましながら、どうでもいい論文を書き、どうでもいい研究発表を学会で重ねた。

 博士課程で必要単位を取得した後は非常勤講師を何年か続けながら、いくつかの大学に応募した。落選続き。地元の大学の英語教員は地元の名古屋大学出身者のひとり勝ち。もしくは東京や関西の有名大学出身者が有利。そんなあたりまえのことも知らなかった私であった。

 大学院の英文学の教授は「女の子は消費のための勉強をするべきであって、就職のことなど考えないように」と言った。失せろ、死ね、馬鹿。

 しかし、ソ連のチェルノブイリで原発事故があった一九八六年、私は岐阜市立女子短期大学にめでたく採用された。

 私は最終面接まで残ったふたりのうちのひとりではあったが、実のところ選考委員会は私ではない筑波大学出身の候補者を選ぶことを決めていた。当然だ。ところが、面接前日にその候補者が東京の大学に採用された。で、自動的に私が岐阜市立女子短期大学に採用された。奇跡が起きた!

 このときの喜びは忘れられない。これで健康保険も年金も大丈夫だ!

 私の大学院時代の後輩の女性のひとりは三七歳で自殺している。「年金のこと考えると心配で夜も眠れなくなるんです」と言っていた。私は三三歳で、やっと正規雇用の職に就けた。

 とはいえ公立の女子短大なので待遇は悪かった。名古屋から岐阜まで通うのも大変であった。長くいてもしかたないと私は思った。

 二年後に名古屋市内の金城学院大学短大部に応募して、一九八八年に採用された。ここでの採用は、選考委員にとって、地元で一番の「名古屋大学出身者より馬鹿だから扱い易くおとなしいだろう」と値踏みされてのものだった。どんな思惑(おもわく)からであろうと採用されれば、こちらの勝ちだ。これで年収は二倍になった。

 とはいえ安心はできなかった。当時から短期大学の消滅が予想されていたので、いつまでも短期大学の教員では職を失う恐れがあった。私は、あちこちの四年制大学に応募した。落選続き。やっと、八年後の一九九六年に大阪の桃山学院大学に採用された。四三歳だった。

 桃山学院大学は労働条件も非常によく、かつ学生とも楽しく過ごせた。上司や同僚にもややこしいのは少なかった。非常に非常に多忙だったけれども、充実した日々だった。

 しかし、年齢も五〇代半ばにさしかかると、ファイトが湧(わ)いてこなくなった。競争の激しい関西地域の中堅私立大学での教育サービス労働や、学内での教務関係や入試関係の仕事や、高校への出前授業などの営業活動をするのに疲れてきた。

 二〇〇八年には、すでに教師としてのやる気は消えていた。しかし、五〇代半ばで無職も困る。年金のこともある。

 そんな頃に、二〇一一年度より開設の広島県の福山市立大学に移らないかというお話をいただいた。場所を変えれば、やる気のなさに火がつくかもしれないと私は思った。

 奇しくも、あの三月一一日に大阪から広島県福山市に移動した。しかし、やはり無理だった。やる気もファイトも回復しなかった。健康問題も出てきた。定年退職を一年早め、二〇一七年三月に退職し、今日にいたる。

 これが私の履歴です。

 

●本書の構成

 

 この本は三部構成だ。青春期編、中年期編、老年期編と分かれている。老年期編がもっとも短い。私がまだ老人ビギナーだから、書けることに限りがある。ほんとうは老年期をしっかり経験した死後に書くべきだけれども、それは無理。

 少女時代編はない。子ども時代や幼い少女時代に留意すべきことは書かれていない。この本を読むあなたは、私と同じく、何をしても中途半端でブスで馬鹿で貧乏の低スペック女子だと思う。だから、子ども時代や少女時代に自己啓発本など読むはずない。

  ほんとうは、人生の競争は生まれたときから始まっている。乳幼児の時期の育てられ方は知能の発達に大きく影響を与える。一〇代の頑張りは充実した二〇代を作る。

 私の場合は、生まれてから三〇歳過ぎるあたりまで無知蒙昧(むちもうまい)であったので、その後にいろいろあがいても、遅れを取り戻すことは無理だった。まあ、しかたない。馬鹿で生まれ育ってしまったのにも何らかの意味はあるのだろう、と思うしかない。だからこそ、見える風景もあるのだろう。知らんけど。

 

●本書は「おすすめ本ガイド」でもある

 

 本書では、読めば有益な書籍もテーマに沿って紹介してある。すべて私が実際に読んで面白いし有益だと思った書籍ばかりだ。

 世に「おすすめ本ガイド」的書籍は多く出版されているけれども、私からすると、著

者の方々が取り上げる本は立派過ぎる。古今東西(ここんとうざい)の古典を並べられても困る。

 大手新聞が年末に知識人に発表させる類の「今年の三冊」なども敷居が高い。誰が読むんだ、あんなマニアックな本。新聞の書評欄も見栄を張っている感じ。読まずに書いている書評もある感じ。

 世評の定まった名著ではなく、気楽に読める類の一般書は「雑本(ざっぽん)」と呼ばれる。「雑本」だからといって内容が薄いとは限らない。有益でないとは限らない。人生を変えてくれる本が古典的名著ではなく、古書店の店先で一〇円や五〇円で売られている「雑本」と呼ばれる類のものであることは、実際に多いのだ(と思う)

 

●基本はひとり

 

 この本を手にしているあなたの立場はいろいろでしょう。独身かもしれない。既婚かもしれない。内縁関係かもしれない。同性愛者かもしれない。子どもがいるかもしれない。子どもがいないかもしれない。養子を育てているかもしれない。

 この本は、女性のさまざまな境遇の違いを敢えて無視している。どう生きるにせよ、あなたが自分で自分の人生に責任を負わねばならないことは同じだ。独身も既婚も子持ちも子なしも関係ない。

 どっちみち死ぬときは、ひとりだ。家族に囲まれてご臨終だろうが、孤独死だろうが、大地震で瓦礫(がれき)につぶされようが、核ミサイルによって蒸発しようが、大差はない。

 死ぬ瞬間に、あなたが自分の人生を肯定できるかどうかがポイントだ。何をするにしても中途半端でブスで馬鹿で貧乏だけれども、この人生ゲームを捨てずに逃げずによくやってきたね! 健気(けなげ)だったね! と自分の頭をナデナデできるかどうかがポイントだ。

 この本には、あなたにとって不快なことも書かれているかもしれない。ブスで馬鹿で貧乏なあなたは、たたでさえ不用心に無思慮に生きるはめになりやすい。そんなあなたが、それなりに世の中を渡っていくための大雑把な指針が、この本には書かれているのだから、耳障(みみざわ)りなはずだ。

 

●前もって書いておく大指針

 

 この「長いまえがき」の最後に、ブスで馬鹿で貧乏なあなたが常に常に留意しておくべきことを書いておく。

 ともかく、現実と幻想をゴッチャにしないこと。これは、現実なのか、自分の思い込みや願望に過ぎないのか、世間に流通している類のほんとうは根拠のないファンタジーでしかないのか、常に考えること。

 一般通念とかその時代の支配的考え方は、所詮はファンタジーであるかもしれないと常に疑うのは、馬鹿なあなたにとっては面倒くさいことだ。でも、あなたは馬鹿で貧乏だからこそ、この種の一般通念に騙されやすい。どうでもいいことに悩みやすい。

 現実とファンタジーを区別するということは、自分にできることとできないことを区別するということでもある。自分はひとかどの人間だとか有能だとか善意の塊(かたまり)とか錯覚しないことだ。

 カネがないとできないことを、カネがないのに、カネの合法的調達もできないのに、しないことだ。これは、個人でも組織でも同じことだ。私たちは政府ではないので、通貨発行権はない。

 こんなことあたりまえだと思いますか? ところが、あなたはブスで馬鹿で貧乏なので、こんなあたりまえのことがわからないし、できない。何とかわかり、できるようになっても、ちょっと油断すれば、元のように脳の中は現実とファンタジーがゴッチャになる。だって馬鹿だもん。

 ただし、時には、自己治癒(ちゆ)活動としてファンタジーの中に逃げ込むことも必要だ。健康にいかに悪くとも、甘い食べ物が必要なときがあるように。現実を直視するエネルギーを取り戻すために、逆説的に現実逃避もしなければならないときがある。

 私も疲れると、現実逃避でアニメの『キングダム』を視聴して、空(から)元気をつける。心が乾燥すると、韓国テレビドラマの傑作の『トッケビ』を視聴して、ロマンチックな優しい気分になる。

 また、現実の状況を超えるためのヴィジョンという積極的ファンタジーも必要だ。こ

の種の積極的ファンタジーは昔から「理想」と呼ばれてきた。

私は、この世に救済(きゅうさい)はないしユートピアも実現しないと思ってる。なのに、人類は匍匐前進(ほふくぜんしん)ながらも「理想」に向かっているとも信じている。矛盾している。矛盾していたっていい。私が矛盾していたって、誰にも迷惑はかからない。

 現実はいつも泥臭くダサくて哀しく矮小で貧乏くさくて意味不明だ。でも大丈夫。馬鹿でもブスでも貧乏でも、きちんと生きていれば、そんな現実を受け入れ愛することができるようになる。疲れたら、ちょっとの間だけファンタジーに逃げ、元気になったら、また現実とおつきあいすればいい。

 では、ゆっくりのんびりじっくり私のつっこみどころ満載(まんさい)の長話を読んでやってください。読んでいる最中にむかついても、最後まで読んでください。

 

二〇一九年夏

藤森かよこ

 

=====

 

■馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。目次

 

長いまえがき …………16

本書の著者は低スペック女子の成れの果てである …………16

低スペック女子向け自己啓発本がない …………17

たとえば本多静六著『私の財産告白』 …………18

たとえば上野千鶴子著『女たちのサバイバル作戦』 …………22

たとえば田村麻美著『ブスのマーケティング戦略』 …………25

自分で書くしかないし老後対策も必要 …………27

本書の著者の紹介 …………29

本書の構成 …………35

本書は「おすすめ本ガイド」でもある …………36

基本はひとり …………37

前もって書いておく大指針 …………38

 

Part 1 苦闘青春期(三七歳まで) …………43

 

1・1 容貌は女の人生を決める …………44

低スペック女子の青春は寂しい…………44

ブスで馬鹿で貧乏だと、もっと貧乏になる …………47

本格的ブスは美容整形手術を受ける …………51

美容整形手術をしたくないか、できない場合 …………53

普通のブスは見にくくない自分を捏造(ねつぞう)する …………54

パッケージ美人でいい …………57

青春期こそ外観改良の費用対効果は高い …………60

 

1・2 仕事について …………62

食える職に就ける勉強をする …………62

苦にならない仕事はみな天職 …………65

意外とちょろい世間 …………68

対人免疫力をつける …………70

 

1・3 自分に正直でいることの効用 …………74

ドタキャン癖 …………74

自分に正直でいるためには練習が必要 …………76

自分に正直でいると自分を受容できる …………78

自分に正直でいるとこの世の欺瞞(ぎまん)に騙(だま)されにくい …………80

 

1・4 セックスについて …………85

ブスで馬鹿で貧乏だと性犯罪にあいやすい …………85

とりあえず男を見たら性犯罪者と思う …………87

世界はまだまだ無法なジャングル …………89

強姦され妊娠した場合の対処 …………91

若い女性は人間嫌いなくらいが妥当 …………97

性交は通過しておく …………98

結婚するなら国語能力のある男性 …………101

 

1・5運のいい人間でいるために …………107

損の貯金と大川小学校事件 …………107

運の良くなる方法あれこれ …………112

ポジティヴ・シンキングは危険 …………115

スピリッチュアル詐欺師に関わらない …………118

 

1・6 学び続けること …………120

国語能力をつける …………120

読むものは何でもいい …………122

心を守る読書 …………124

税金と社会保険について学ぶ …………127

マナー本と手紙サンプル本の効用 …………131

馬鹿に最適な語学学習 …………134

 

Part 2 過労消耗中年期(六五歳まで) …………139

 

2・1 中年の危機 …………140

中年期は苦しい …………140

人生に突然の飛躍や覚醒はない …………144

しのごの言わず賃金労働に勤(いそ)しむ …………148

生活費を十分に稼ぐ夫がいるなら家事と育児に専念すればいい …………149

中年期に見えてくる日本の仕組み …………151

中年期に見えてくる世界の仕組み …………155

ピラミッド社会における中年のあなたが実践すべきこと …………159

 

2・2 若さとの別離としての更年期 …………166

更年期(こうねんき)に関する確認 …………166

更年期障害とは …………168

更年期実例観察―家庭編 …………171

更年期実例観察―職場編 …………174

働く女性は更年期で本格的に男社会の壁を感じる …………175

 

2・3生き直しとしての更年期…………179

女は誰でもふたり分の人生を生きる …………179

更年期は自己の転換変換上昇を模索(もさく)する時期 …………181

私の更年期体験その1 …………182

私の更年期体験その2 …………187

おばさんよ、大志を抱け …………192

 

2・4 依存症について …………196

みんな依存症 …………196

安全弁としてのプチ依存症 …………199

依存症が文化を創ってきた …………202

 

2・5 性欲について …………205

女性が性欲を直視する困難さ―ボーヴォワールの場合 …………205

女性が性欲を直視する困難さ―ハンナ・アーレントの場合 …………207

女性が性欲を直視する困難さ―アイン・ランドの場合 …………209

女性には三人の男性が必要? …………212

『夫のちんぽが入らない』の衝撃 …………213

老年期に入るまでに自分の性欲を消費しておく …………215

四人の男性が必要という説もある …………219

 

2・6 年下の人間との関わり方を学ぶ …………221

現代はヒラメ人間受難時代 …………221

ヒラメになりようがないブスで馬鹿なあなたの強み…………225

他人はみな情報の束(たば)であなたの教師 …………226

 

2・7 お金について …………229

金儲けも貯金も蓄財も特殊な才能が要る …………229

その日暮らしが歴史的には普遍的 …………232

「自分のお金」について考えていれば現実から遊離しない …………234

『となりの億万長者』だけ読めばいい …………237

カネを失くすことは厄落としになる …………241

 

2・8 さらに学び続ける …………244

中年期こそ最後のチャンス …………244

読書対象を広げる …………246

地頭(じあたま)だけに頼っている人はいない …………248

フェミニズム運動の恩恵を受けている現代女性 …………250

 

Part 3 匍匐前進老年期(死ぬまで) …………257

 

3・1 日本の現代と近未来は老人受難時代 …………258

馬鹿は中年期の終わりまでには死ねない …………258

長期的に見れば老年期はより充実したものになる …………260

国民の三人にひとりが六五歳以上になる二〇二五年 …………263

長い長い長い老年期 …………266

年金財政破綻への不安 …………269

病院が高齢者のセイフティネットではなくなった …………271

高齢者をターゲットにした犯罪の跋扈(ばっこ)…………275

高齢者のモデルがいない …………280

高齢者差別社会 …………283

高齢者が高齢者を差別する …………285

 

3・2 馬鹿ブス貧乏女の強みが発揮される老年期 …………288

徒手空拳(としゅくうけん)に慣れている …………288

貧乏を怖がらない …………290

老いればみなブスになる …………294

ミステリーゾーンを進むのは慣れている …………296

ひとりでも寂しくない人間になる …………299

蛇足 私の「ひとりでも寂しくない人間でいる方法」 …………303

 

3・3 身体メンテナンス …………306

問題は口腔と歩行 …………306

からだは肛門から舌までの一本の管 …………307

歩行移動能力の保持 …………313

3・4 勉強は死ぬまで死んでもする …………317

学びなおし …………317

読みなおし …………321

次世代に無責任にならないために新しい情報にもアクセスする …………323

 

3・5 人生最後の課題としての死への準備 …………328

終活は断捨離から …………328

高齢者施設はまだまだ発展途上 …………330

高齢者ひとり暮らしへの公的支援を活用する …………333

ひとりで死ぬことはいい、問題は死体の処理だ …………335

死んだら終わりじゃないと思っていい …………338

 

あとがき …………342

紹介文献リスト(紹介順) …………346

 

=====

 

■あとがき

 

 この本は書くのに、五ヶ月かかった。もちろん毎日書いていたわけではない。体力も

能力もないので、数日書いたら、数週間は休むといった調子だ。しかし、まさか五ヶ月

もかかるとは思わなかった。

 

 二〇一九年の二月一二日に、出版コンサルタントの尾崎全紀(おざきまさのり)氏から本を書いてみませんかとお話をいただいた。

 尾崎氏は、私のブログ「アイン・ランドに関係ない藤森かよこのBlog」の記事を読んでくださっていた。尾崎さんとは面識はなくSNS上での知人だった。

 尾崎氏は、サッサとKKベストセラーズの編集者である鈴木康成氏を紹介してくださった。

「私のような低スペック女子の人生論みたいなものなら書けると思う。一ヶ月ぐらいで書けると思う」と、私は尾崎氏に答えた。そうしたら、五ヶ月かかってしまった。

 この五ヶ月の間に参議院議員選挙があった。尾崎氏は「NHKから国民を守る党」から大阪で立候補なさった。「NHKをぶっ壊す!」と言いながら忙しく選挙活動で走り回る尾崎氏の多忙さにつけこんで、私はいったんは提出した原稿を書きなおしさせていただいたりした。

 私は、翻訳はしたことがあるし、論文もそこそこ書いてきた。アメリカ文学関連の共著の本も出版してきた。しかし、書籍一冊分の分量の文章を書くのは初めてであった。六六歳にして初めてであった。

 本一冊分の分量の文章を書くというのは大変なことだった!

 プロの書き手の人が、あれだけいっぱい本を出版できるのは、やはり才能が違うのだ。力量が違うのだ。

 これからは、安易にひと様が書いた本について気軽に論評するのは、やめよう。

 私に声をかけてくださった尾崎氏に感謝します。ありがとうございます。

 KKベストセラーズの編集者の鈴木康成氏に感謝します。ありがとうございます。

 素敵な装幀をしてくださった大谷昌稔(おおたにまさとし)氏とカバーイラストを描いてくださった伊藤ハムスターさんに感謝します。ありがとうございます。

 素晴らしい「警告コメント」を書いてくださったジェーン・スーさんに感謝します。ありがとうございます。

 

 本書を書くことは、私にとっては、自分の人生をふりかえり、残り少なくなった人生をどう生きるかを考えさせる契機となってくれた。

 二〇一八年一〇月に夫が腸閉塞で緊急入院し、大腸がんが見つかって以来、私は不安や疲労のためにストレスが溜まり、体調もすぐれない。

 両親の死は経験し、それなりに愛別離苦(あいべつりく)については考えたことがあった。しかし、配偶者の大病や死の可能性に直面することは、親のそれらに直面することよりも、はるかに苦しく不安なことだ。

 賃金労働生活から解放されて無職の日々をのんびり送っているうちに、私は迂闊にも錯覚してしまっていた。「おじいさんとおばあさんは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ」的日々がずっと続くような気分でいた。

 そんなはずはないのだ、やっぱり。

 

本書を書くという仕事をいただけなかったのならば、私は、その不安や恐怖から距離を置くことができなかったかもしれない。自分の死についても考えることを真剣にしなかったかもしれない。

 本書で書いたように、私は、幸福感と感謝に満ちて死ねると思う。しかし、その前に消耗し尽くさねば。空っぽになるまで自分を使い倒さなければ。ぶっ倒れるまで生き切らなくては。

 私の初めての単著を読んでくださった方々に、この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました!

 

二〇一九年秋

藤森かよこ

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 11月下旬となるとスポーツの話題としてプロ野球選手の契約更改が良く取り上げられる。ストーブリーグとも呼ばれ、活躍した選手は大幅アップ、そうでもなかった選手は減俸となり、中には減俸額を抑えようと何度も交渉をするような選手も出てくる。プロ野球選手が活躍すれば年俸は大幅アップとなる。新聞紙上には倍増だ、3倍だ、4倍だ、という言葉が躍るし、昔イチロー選手が彗星のように登場した時には10倍ということもあった。何とも景気が良い話だ。

 アメリカのトランプ政権が日本政府に対して、日本に駐留する米軍に対する費用(host nation’s support、ホスト・ネイションズ・サポートと言う)を4倍にしろ、現在の約2200億円(年間)を約8800億円にしろと要求しているという報道が出た。プロ野球選手の年俸ではあるまいし、国家予算に関わることで気軽に4倍などという数字を言い出すトランプ政権には驚くばかりだ。

 もっともこれはトランプ流の交渉術なのだろう。高く吹っ掛けておいてそれから金額を下げていく。2倍で合意できれば御の字というところだろう。それ以上で合意できれば儲けもの、4倍を日本側が呑んだら、「あいつらはバカだ」と言って大喜びだろう(トランプは酒もたばこもやらないのでシャンパンで乾杯、とはいかないだろうが)。

 ちなみにホスト・ネイションズ・サポートを「受け入れ国からの支援」ではなく、「思いやり予算」と訳したのは金丸信だ。金丸は、ワーテルローの戦いでナポレオンを破った、初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリーの言葉「偉大なる将軍はただ良いだけではなく、兵士の靴のことまで思いやるものだ」から思いやり予算という言葉を思いついたという話が残っている。日本はウェリントン公爵の立場ではなく、思いやられる方の兵士の立場だと思うが、それを目くらましするための金丸流の言葉遊びと実態隠しの表現が「思いやり予算」だ。実態は米軍が贅沢するためのショバ代、カツアゲ代である。

 日本の防衛予算は対GDP比1%以内を堅持してきた。大体5兆円以内に収まってきたが、第二次安倍政権下では大幅な伸びを示し、5兆円を突破している。GDPが伸びれば防衛予算も伸びるのだが、これから縮小し続ける日本ではGDPも減っていくので、1%以内という数字を堅持すると、防衛予算も減っていかざるを得ない。防衛予算を維持もしくは増加させるには対GDP1%を突破しなければならない。トランプ政権としては日本には、ヨーロッパ先進諸国並みの2%から3%の間にまで増額させたいと考えている。そうなると、アジアの周辺諸国やロシアは日本を警戒するようになる。

 日本の防衛予算と思いやり予算を増額させて、アメリカの軍事産業からの買い付けを増加させて、日本の対米貿易黒字を減らしたいというのがアメリカ政府、そしてトランプ政権の考えだ。日本は防衛装備の9割以上をアメリカら購入している大口の大得意客だ。防衛予算が増額され、思いやり予算が増額となれば、アメリカに貢ぐ金は軽く防衛装備購入と思いやり予算で軽く1兆円を超える規模になるだろう。アメリカ軍にしてみれば死んでも手放したくない夢の国、打ち出の小槌、日本となる。アメリカ軍が外国に駐留して経費の一部でも負担してもらえれば(負担させてやれば)、米軍がアメリカ国内にとどまるよりも安上がりということにもなるようだ。自分の国で養えない軍隊を外国の金で維持するというのは何とも本末転倒であり、ローマ帝国の衰亡でも分かるように、亡国の第一歩と言わざるを得ない。

 韓国も日本と同じく駐留米軍に思いやり予算を支出している。トランプ政権は韓国に対して思いやり予算の5倍増を要求している。米韓は毎年思いやり予算などについて話し合いを持つが、来年度分に関しては交渉が決裂したという報道が出た。韓国政府は何と立派な態度であろうか。米韓同盟は朝鮮戦争で共に共産主義と戦ったということで、対等とまではいかないが、完全に従属的な日米安保体制とは異なるものだ。だから韓国側は言うべきことは言う、という態度に出ることができる。日本側には不可能な態度の取り方だ。

 また、韓国は中国との関係を良好に保つことで、北朝鮮との関係をうまくマネイジメントしている。韓国にとっては北朝鮮に攻撃されないということが重要であるが、その目的のために中国とアメリカをうまく利用している。韓国の経済力は世界トップ10に入るほどのものであり、韓国が北朝鮮から攻撃を受けて経済がダメージを受ければ困るのは米中であり、ロシアということになり、北朝鮮にとっては中露から頭を押さえつけられている格好になる。

 日本は大変守りにくい国だ。昔は海に囲まれており、それが天然の要害ということになったが、戦艦の時代、航空機の時代、ミサイルの時代となっていき、防衛しにくい国になった。防衛予算をいくら増額しても完璧に守り切るということは難しい。それであれば米中韓露の間をうまくマネイジメントして物理的な防衛力に頼らない、経済力と外交力を混合した形で国を守る方策を採らねばならない。

 しかし、にほんがやっていること、やらされていることはアメリカ軍の下請けとなるということだ。アメリカから武器を買わされ、アメリカで訓練を受け、アメリカ軍と共同の司令部を持つ(実態はアメリカ軍の指揮の下に入る)というのは、アメリカ小久保総省が進めるinteroperability(相互運用性)を高めるということであり、2015年の安保法制で自衛隊は世界各地に進出できるようになったことで、アメリカ軍と共に戦うことになる。完全にアメリカ一択の、アメリカの完全な従属国になるという安倍政権の選択は、しかし世界の情勢を見れば何とも馬鹿げた選択だ。リスクヘッジという考え方がゼロなのだ。アメリカと一緒に沈んでいくことを選んでいる。アメリカが沈んでいきつつある証拠は、駐留米軍にかかる経費負担に耐えることができずに、同盟諸国に支払うように求めている態度でも明らかだ。昔は景気が良かったお金持ちが凋落して金をせびって回っているようなものだ。

「沈む船から逃げ出すネズミ」という言葉には肯定的、否定的両方の評価があるが、国際社会で生き抜いていくためには道徳的にはどうであろうと常に逃げ出す準備をしておかねばならない。その準備さえしていないとなると、ネズミ以下の存在ということになる。

(貼り付けはじめ)

トランプ大統領がアメリカ駐屯米軍将兵のための支払いを4倍に増額するように要求(Trump Asks Tokyo to Quadruple Payments for U.S. Troops in Japan

―この動きはトランプ政権のアジア地域の同盟諸国に対して防衛に関して更に予算を割くようにさせようという動きの一環である。韓国に対しても更に支払いをするように求める

ララ・セリグマン、ロビー・グラマー筆

2019年11月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2019/11/15/trump-asks-tokyo-quadruple-payments-us-troops-japan/

アメリカ政府は北朝鮮政府との非核化交渉を刷新しようとしている中で、ドナルド・トランプ大統領は、北東アジア地域の安定に関して依存してきた長年の同盟国日本政府に対して、日本に駐屯するアメリカ軍にかかるコストを補填するために予算を劇的に増額するように要求している。

トランプ政権は日本政府に対して日本に駐屯する5万人以上の米軍将兵の駐屯にかかるコストを相殺するためにこれまでの4倍を支払うように要求している。この問題について詳しい現役と元のアメリカ政府高官たちは本紙の取材に対して一様に語った。最近まで国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンとこちらも最近まで国家安全保障会議アジア担当部長を務めたマット・ポッティンガーが7月の北東アジア訪問時に日本政府高官たちに予算の4倍増額を要求したとアメリカ政府高官たちは述べている。

アメリカ政府がアメリカ軍の駐屯の継続のためにさらに予算を増額するようにアメリカ政府が求めているのは日本だけではない。他のアジア地域の同盟国にも増額を求めている。アメリカ政府高官たちは、7月の訪問の際に、ボルトンとポッティンガーが同様の要求を韓国に対しても行ったことを認めた。韓国には2万8500名の米軍将兵が駐屯しているが、両者は韓国政府に対して予算の5倍増額を求めた。CNNとロイター通信は以前にもトランプ大統領が韓国政府に対して更なる貢献、予算提供を求めたと報じた。

アジア諸国に対して北東アジア地域の米軍の存在を継続するために必要な予算を出すようにトランプ政権が圧力をかけているが、これはアメリカとアジア地域の同盟諸国との間の緊張を高め、中国や北朝鮮のようなライヴァル陣営にアジア諸国を走らせることになると専門家の中には懸念を表明している人たちもいる。

シンクタンクのヘリテージ財団研究員でCIAの分析官を務めた経験を持つブルース・クリングナーは次のように述べている。「このようなアメリカ政府からの要求は金額が過大過ぎるだけではなく、要求の方法のせいもあり、反米主義を引き起こす可能性が高い。もし同盟関係が弱体化し、抑止力と在留米軍の削減ということになったら、北朝鮮、中国、ロシアにとっての利益となる。これらの国々はこうした状況をアメリカの影響力とアメリカらの同盟諸国への支援の減少につながると考える」。

ある現役の政府高官は更に明確に述べている。「アメリカからの過大な要求は同盟関係の価値を全く分かっていないことが原因であり、ロシアと中国とのいわゆる大国間競争にアメリカが集中するためにこれまでのやり方を変更するというトランプ政権の戦略にとって逆効果になる」。

アメリカ政府が日本政府と韓国政府に圧力をかけているというニュースは、トランプ政権が進めている、同盟諸国に対して圧力をかけて防衛のために更なる予算を支出させる動きの一環である。トランプ大統領は長年にわたりヨーロッパ地域の同盟諸国に対して軍事予算を十分に支出していないとして批判してきた。トランプ大統領の努力は実を結びつつある。来年末までにNATO加盟のヨーロッパ諸国とカナダは2016年に比べて1000億ドル以上も軍事予算を増額することになっている。

現在、トランプ大統領は中国の軍事力増強と北朝鮮からの脅威の中での太平洋地域の情勢に関心を向けていると考えられる。日本と韓国は数万名規模の米軍将兵の駐屯にかかるコストのために数億ドル規模の予算を支出している。両国はそれぞれアメリカとの二国間の特別措置協定に基づいて支出をしている。これらの協定はこれまで5年おきに交渉がもたれ内容が決定されてきた。

アジア太平洋政策担当国防次官補ランドール・シュライヴァーはマーク・エスパー国防長官のアジア地域訪問に先立つ今週、「トランプ大統領が世界各地で強調してきたように、同盟諸国はさらなる負担を進んで負わねばならない。これは韓国にだけ限ったことではない」と発言した。

2021年3月に期限を迎える現在の日本との特別措置協定の下では、日本政府は54000名の米軍将兵の駐屯にかかるコストを相殺するために約20億ドルを支出している。日本駐屯の米軍将兵の約半数は沖縄にある米空軍基地に駐屯している。3名の国防総省高官経験者たちは、期限を迎える前に、トランプ大統領は予算の増額、300%増額となるおよそ80億ドルの支出を要求していると認めた。

トランプ大統領は韓国政府に対しても同様の予算増額を求めている。しかし、韓国政府との交渉期限は日本政府とよりも早くやってくる。昨年、韓国との5年の特別措置協定が期限を迎えた際に、トランプ大統領は韓国政府に対して50%の増額を求めた。これまでの特別措置協定に基づき、韓国政府は駐留する2万8500人にかかる経費を相殺するために年間約10億ドルを支出している。その後の拡大交渉で、米韓両政府は、韓国側が前年よりも8%増額した額を支出するが、毎年支出額について交渉するということで合意に達した。

元国防総省関係者の1人は、今年中に韓国との協定が期限を迎えることになるが、トランプ大統領は約50億ドルの予算増額を求めており、これは400%増額となることを認めた。

あるトランプ政権幹部は「トランプ大統領は日本や韓国を含む世界中の同盟諸国が更に貢献することができるし、そうすべきだということを明確に期待している」と述べている。

トランプ政権の高官は続けて次のように述べている。「日韓以外の同盟諸国も近い将来に両国に対するのと同じ要求に直面する可能性が高い。

この幹部は「韓国に対する要求は同盟諸国に対するアメリカの要求に関する新たな型板の第一歩ということになる。最初に韓国に適用され、次に日本、そしてアメリカ軍が駐留するほかの同盟諸国に適用されるだろう」と述べている。

日本政府は軍事協定に関する交渉のために韓国政府よりも多くの時間を持つ。そのため日本政府は韓国政府の動向を注視している。アメリカ政府と韓国政府との間の合意の形が、日本政府とアメリカ政府との交渉の形のひな型となると日本政府は考えているだろう。国防総省の元高官は「日本政府は韓国政府よりも少しは有利な立場に立っている。日本政府は“韓国さん、お先にどうぞ。私はあなたと同じ合意を結ぶようにしますからね”と言うだろう」と語っている。

今年9月の貿易協定の合意文書に署名する中で、日本側は影響力を失うことになった。トランプ大統領と日本の安倍晋三首相が9月25日に署名した合意文書で、日本政府はアメリカ産農産物への関税を引き下げることに合意した。

アメリカ政府が同盟諸国に対して防衛支出の増額を要求し続けている中、日本政府は「負担の分担について創造的な考え」をしようとしている。元国防総省高官によると、その具体例としては、日本にある米軍基地内の新しい施設への予算支出や新たにアメリカの地上配備ミサイルを国内に受け入れるといったことになる。

専門家や元政府高官が指摘しているように、次期特別措置協定に関するアメリカ側との予備交渉において、日本側は防衛予算の大幅増額を強調している。日本政府高官たちは、高額なアメリカ製の軍事装備を購入する決定を下したと述べている。その中にはF-35戦闘機やV-22オスプレイ、ティルトローターが含まれている。また、沖縄の米軍基地再編についてスピードアップを図るために更なる予算支出も決めたとも述べている。

元アメリカ政府高官たちは、日本からの米軍撤退は長期的に見てアメリカにとって大きな財政負担を強いることになると指摘している。もちろん特別措置協定に合意がなされなくてもすぐに米軍撤退ということにはならない。

元外交官で現在は日米関係を専門とする非営利組織の笹川平和財団の非常勤研究員を務めるジェイムズ・ズムワルトは次のように述べている。「アメリカ政府が米軍を日本から撤退させ、アメリカ本国に帰還させたならば、アメリカ国民は更なる税金負担を追うことになるだろう。現在、日本政府は米軍基地勤務の軍属2万40000人の給料と米軍将兵家族の光熱費などを支出しているが、それをアメリカ政府が支払わねばならなくなる」。

日本政府と韓国政府は北東アジア地域におけるアメリカ軍の軍事プロジェクトに多額の予算を支出している。連邦議会調査部の2018年の報告書によると、日本政府は第二次世界大戦後におけるアメリカ軍の海外基地建設に関し、最大規模となる3つの基地建設のコストの50%以上を支払っている。それらは、沖縄の普天間基地の代替基地(辺野古、日本政府は121億ドルの経費の100%を支出)、岩国の海兵隊航空基地(日本政府は48億ドルの経費の94%にあたる45億ドルを支出)、グアムの沖縄から4800人の海兵隊員が移動するための施設(日本政府は経費の36%にあたる31億ドルを支出)だ。

韓国政府はハンフリーズ基地の増設費用の93%にあたる100億ドルを支出する。

日本政府も防衛装備の90%以上をアメリカ企業から購入する。連邦議会調査部の資料によると、日本政府はロッキード・マーティン社のF-35戦闘機とボーイング社のKC-46タンカーを購入する。

国防総省元高官は「これは日韓両政府にとって計算の合わない、過大な支出ということにはならない」と述べた。

同盟諸国から駐留米軍のコストを相殺するために更なる予算を分捕ろうというトランプ政権の計画に沿った動きは今回が初めてのことではない。今年3月、トランプ政権は同盟諸国に対して駐留米軍の経費全額を支出することを望んでいるという報道が出て、その後は更に50%をプラスした支出を望んでいるという報道が出た。当時の国防長官代理パトリック・シャナハンは連邦議員たちに対して、トランプ政権は「コスト・プラス・50」計画を進めることはなく、こうした報道は誤ったものだと述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 今回は映画『独立愚連隊』『独立愚連隊西へ』の感想を書きたい。両作品ともに岡本喜八監督の代表作だ。60年も前の映画だが、色褪せない傑作だ。『独立愚連隊』は謎解き、『独立愚連隊西へ』は冒険活劇という要素が大きいが、随所に戦争は虚しい、戦争という異常な状態では人間の生命や尊厳は簡単に失われる、そして、人間の生き死にはほんの些細なことが分かれ目となる、ということが描かれている。
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独立愚連隊

 『独立愚連隊』は戦争末期の中国戦線が舞台だ。従軍記者・荒木が取材で将軍廟という町を訪問する。この町に駐屯している大隊が更に敵との最前線に孤立気味に設置している警戒拠点・独立第90小哨を守る分隊、通称「独立愚連隊」を取材するためだ。この独立愚連隊ははみ出し者を集めて作った分隊で、いわば捨て石的な存在として全滅しても仕方がないとされている。この分隊に派遣されていた見習士官・大久保の不審死について荒木は取材を始める。

 この従軍記者・荒木は実は、大久保見習士官の兄で、以前は優秀な軍曹だったのだが、北京の軍病院に入院中に弟の死を知り、脱走して真相究明と敵討ちのために、将軍廟、そして独立第90小哨にやってきた。殺害された大久保士官は大隊で行われていた不正を上層部に訴えようとして殺害された。殺害したのは、大隊を牛耳っていた副官の橋本中尉と彼の配下の下士官だった。彼らは大隊を牛耳るために大隊長も町を取り囲む城壁から突き落として精神に変調をきたさせるということまでやっていた。

 中国軍(中国共産党人民解放軍)の圧力が強まる中で、将軍廟から大隊が撤退となり、独立愚連隊がしんがりを務めることになった。撤退する軍の最後方を守るしんがり(殿軍)はいつの時代も全滅の危険に晒される。そうした中で、大隊が敵と戦闘中に行方不明になっていた軍旗が旗手と共に戻ってきたので、これを守りながら、撤退します。そして、大隊が撤退後に将軍廟を守る。

独立愚連隊は隠れて敵をやり過ごそうとしましたが、ちょっとしたミスで見つかってしまい、戦闘となり、独立愚連隊は数で大幅に勝る敵に圧倒され全滅。しかし、従軍記者・荒木は負傷しつつも生き残り、途中で知り合った馬賊に誘われ、彼らと共に去っていく。この話には従軍記者・荒木と元従軍看護婦の慰安婦・トミとの悲恋も絡む。

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独立愚連隊西へ 
 『独立愚連隊西へ』は『独立愚連隊』の続編です。設定などは大きく変わっている。ここで出てくるのはやっぱりはみ出し者部隊である独立愚連隊。今回の独立愚連隊は、各部隊で戦死と認定された後に帰ってきた兵士たちで構成されている。一度戦死と認定されて、宙ぶらりん状態になった兵士たち。各部隊をたらいまわしにされ、捨て石のような扱いになっているのに、戦死者を出さずにいる不思議な部隊だ。

 この独立愚連隊が新たに配属されることになった大隊では、ある小隊が敵の襲撃を受け、軍旗が行方不明となった。そこで捜索隊を出したのだが、この捜索隊も全滅となった。敵である中国軍も日本軍の意気と権威を下げるために、軍旗を入手しようと動き出す。そうした中で、派遣早々の独立愚連隊が軍旗捜索隊として出動することになった。

 独立愚連隊は途中で中国軍の襲撃を受ける。中国軍には日本軍の元中尉と従軍看護婦がいたのだが、独立愚連隊が2人を連れて捜索を続けることになった。そして小隊の全滅地点の近くで、旗手を発見した。旗手は中国人女性の世話を受けながら捜索隊を待っていた。2人の未来を祝福しつつ、正式には自決ということにして、独立愚連隊は無事に軍旗を入手した。途中で敵からの襲撃を受けながら、何とか無事に帰還を果たしたのだが、独立愚連隊にはまた転属命令が出た。彼らはまたどこかへと去っていく。

 この2つの映画で重要なポイントは「軍旗」だ。軍旗は連隊創設時に天皇から直接与えられた連隊を象徴する旗だ。連隊旗手に選ばれるのはその連隊に所属する少尉だが、士官学校を優秀な成績で卒業した将来有望な人物が選ばれた。実際、大将・中将クラスまで昇進した人物たちには連隊旗手を務めたという経歴が多い。そこから数年勤務して陸軍大学を受験し、合格し、卒業後には陸軍省(軍政)か参謀本部(軍令)の中枢を担うことになった。

 天皇から直接下賜された軍旗は天皇の分身とも言うべき存在であり、何よりも、何を議席にしても守らねばならないものだった。そのために何人将兵が死のうと関係ないという存在だった。連隊が全滅に瀕した際には、軍旗を焼いて(奉焼)、敵の手に渡らないようにした。「独立愚連隊西へ」の冒頭シーンで軍旗を持った小隊が敵に襲われるシーンがあるが、軍旗を掲げている兵士を監督である岡本喜八が演じている。岡本喜八は軍隊経験があり、陸軍における軍旗の存在の重さとたかが旗を天皇の分身として滑稽なまでに守ろうとするフェティシズムのくだらなさ、前近代性をよく分かっていた。

 「独立愚連隊」では現役兵の下士官が補充兵を鍛えるシーンが出てくる。現役兵は感嘆に言えば徴兵されてトレーニングを受けてそのまま戦地に派遣された若い兵隊たちで、補充兵とは徴兵期間を終えて社会に戻り、予備役となっていたところに召集されたおじさんの兵隊のことだ。体力や戦闘力で言えば若い現役兵が圧倒しているのは当然のことだが、補充兵は既に家族と職業を確立しており、昔の言葉で言えば弱兵であった。また、徴兵検査の結果は健康状態や知能の面から甲乙と分けられていたが、戦争が激化していく中でどんどん兵士に不適格な人々も戦地に送られることになった。

 軍隊生活は「階級」がものをいう世界ではあったが、「星の数よりもメンコの数」という言葉もあった。「独立愚連隊」でもこの言葉が出てくる。「メンコ」とは「飯盒」の隠語だ。「階級よりも年数の方が重要だ」という意味になる。徴兵期間で兵隊たちの昇進のスピードは異なる。2年間の徴兵期間に上等兵まで昇進できれば鼻高々で故郷に戻れた。しかし、何か問題を起こした場合には二等兵のまま、もしくは一等兵ということになる。そこで、先輩後輩の間で階級的に逆転が起きる。この「星の数よりもメンコの数」は階級社会である軍隊において年功序列の要素が非公式には存在したことを示す。

 上等兵まで昇進するような人物はそのまま志願して下士官となって軍隊に奉職するケースもあった。軍曹や曹長となれば軍隊に生き字引であり、下級将校よりも実権を握るほどであった。現在の日本の官僚組織ではキャリア組とノンキャリア組という区別があるが、下士官はノンキャリア組ということになる。

日本の軍隊における有名な隠語には「員数をつける」というものがある。これは窃盗のことだ。武器から日用品まで軍から支給されるので、紛失や数が合わないというのは大変な失態となる。そうした場合に、内務班(分隊、10名程度のグループ)では、他の内務班からかっぱらってきて数を合わせるということが横行した。内務班では新兵1人に古参兵1人がペアとなる。新兵は古参兵を「戦友殿」と呼ぶ。軍隊では連隊長は父、小隊長は母、戦友殿は兄という形で、家族的な集団作りが目指されていた。もちろん厳しい私的制裁が横行してとても家族的な雰囲気という訳にはいかなかったが、戦友殿が新兵に時に親切を行うことで絆が生まれることも多かった。ある新兵がへまをした場合には、戦友殿が何とか「員数を合わせる」ということが多かった。

 岡本喜八監督がアメリカ映画から影響を受けたのではないかという描写について私なりに述べたい。それはまず、中国人民解放軍の人海戦術イメージだ。映画の中では、中国軍はとにかく大量の兵士で人海戦術を用いて攻めてくる。こういうことが日中戦争の間にあったのかどうかははなはだ疑問だ。アメリカ映画でのアジアにおける戦争の描き方は無個性なアジア人の兵士たちが命を顧みずに大量に攻めてくる、というものだ。朝鮮戦争ものやヴェトナム戦争ものはそのように見える。岡本監督もその影響を受けているのではないかと私は思う。

次に銃を墓標代わりに地面に刺しているシーン。日本軍が用いた三八銃には菊の御紋がついている。銃を破損したり、紛失したりしたら大変な罰が与えられた。それが怖くて自殺したものがいたほどだった。そのような銃を地面に刺して墓標代わりにするということはあり得ない。銃を墓標代わりに地面に刺すというのはアメリカ映画の影響だと私は思う。しかし、これによって戦争の虚しさ、ニヒルな感じは良く表現されてはいるのだが。

この2つの作品「独立愚連隊」「独立愚連隊西へ」は共にエンターテインメントとして見ることもできるが、多少なりとも旧日本軍に関する知識を持ってみるとまた違ったことが見えてくる。戦争賛美ではありえないし、戦争を楽しいものとのしても描いてはいない。登場人物たちが笑うシーンは出てくるが、それは諦めと絶望的な状況を笑うくらいでなければやりきれないということでのことだ。

是非これら2つの作品を見てもらいたい。

(終わり)

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