古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2020年03月

 古村治彦です。

 全世界で新型コロナウイルス感染拡大が深刻化している。日本でも東京都で深刻化の度合いが増し、東京都内の外出自粛要請、他県では東京への外出自粛要請が出された。こんな状況下では、今年アメリカで大統領選挙が実施されるということにはなかなか目が向けられない。現職のドナルド・トランプ大統領と現在の連邦議会は、新型コロナウイルス感染拡大に対して、後手後手に回ったという印象は否めない。しかし、一度やると決めたら、アメリカ流の大量の資金と資源を一気に投入するという形で対策を取る。

 日本では後手後手というのは一緒だが、資金や資源をちまちまと逐次的に投入し、失敗を重ねている。これは太平洋戦争の時と同じ手法であり、この「後手後手ちまちま」は日本の宿痾ということになるだろう。

 民主党予備選挙は4月になるまでない。既にいくつもの州で予備選挙実施費の延期を決定しているところも多い。選挙どころではない、ということだ。さすがに大統領選挙が延期されるということはないだろうが、投票方法は郵便やインターネット利用ということが検討されるだろう。しかし、その前に民主・共和両党の候補者を決める全国大会が予定されている。全国大会が通常通りに開催されるかどうか、もまだ不透明な状況だ。

 本ブログはここ最近の通常通り、民主党予備選挙について紹介する。少し古い記事になって申し訳ないのだが、民主党予備選挙で最有力候補となっているジョー・バイデン陣営の人事の変更が行われた。これまで、陣営を引っ張ってきた、アニタ・ダン、グレッグ・シュルツに代わり、ジェン・オマリー・ディロンという人物が選対の責任者となった。ダン、シュルツは陣営に引き続き残り、アドヴァイザーの仕事を行うということだ。

 ダン、シュルツ、オマリー・ディロンの共通点はバラク・オバマ前大統領の選対を経験し、ホワイトハウスで働いていた経験を持つ、更にはヒラリー・クリントンとの関係が薄いということだ。

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アニタ・ダン
  アニタ・ダン(Anita Dunn、1958年―、62歳)も若い時から民主党の政治家たちの選対本部に参加し、選挙の実務を学んだ。2008年のオバマ前大統領の初めての大統領選挙ではシニアアドヴァイザーを務めた。その後、ホワイトハウスの広報部長を務めた。グレッグ・シュルツ(Greg Schultz、1981年―、39歳)は2008年の大統領選挙では短期間ヒラリー・クリントン陣営で働いた。2012年の時には、オバマ陣営のオハイオ州責任者を務め、オバマ政権第2期には、バイデン副大統領の上級アドヴァイザーを務め、後にオバマ大統領の政治アドヴァイザーとなっている。

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グレッグ・シュルツ
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ジェン・オマリー・ディロン

ジェン・オマリー・ディロン(Jen O'Malley Dillon、1976年―、43歳)は選挙運動のプロである。2000年の大統領選挙で民主党候補だったアル・ゴア陣営で働き、その後も連邦上院議員選挙や大統領選挙で選対スタッフとして働き、経験を積んだ。2008年の大統領選挙ではオバマ陣営で激戦州担当の部長を務めた。その後は民主党全国委員会の上級部長を務め、2012年の大統領選挙では陣営の副責任者を務めた。今回の大統領選挙では、ビトー・オローク前連邦下院議員(テキサス州選出、民主党)の陣営で責任者として働いていた。

 民主党内におけるアフリカ系アメリカ人の影響力に対抗するためにヒスパニック系がバイデンに対して働きかけを行っている。「自分たちヒスパニック系も入れなければ選挙に勝てない」という半分懇請のような脅しのような訴えである。自分たちの存在感が薄れることを懸念しているから起きる訴えだ。

 バイデン陣営がオマリー・ディロンを責任者に迎えたことは大きい。彼女がオバマ系の人材であることもそうだが、テキサス州内に人脈を広げ(その中には当然ヒスパニック系も多く含まれる)、知識を得たということが大きい。これはバイデン陣営が本選挙でトランプ大統領と対峙する際に、テキサス州とフロリダ州で戦い、このどちらかを奪い取ることでトランプを追い落とすという戦略に合致する動きだ。私は今年の大統領選挙本選挙では、中西部の一州、南部の一州でバイデンが勝利すれば、トランプは負けることになると考えている。そのための戦術として、オマリー・ディロンをバイデンは陣営に迎えた。

(貼り付けはじめ)

バイデンはオローク選対の幹部だった人物を新しい選対責任者に起用(Biden appoints former O'Rourke aide as new campaign manager

タル・アクセルロッド筆

2020年3月12日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/487254-biden-appoints-former-orourke-aide-as-new-campaign-manager

民主党予備選挙において先頭走者の位置を固めているジョー・バイデン前副大統領は、自身の選対本部の新しい責任者としてジェン・オマリー・ディロン(Jen O'Malley Dillon)を起用した。バイデンは厳しい戦いとなるであろうトランプ大統領との本選挙に向かって準備をし始めた。

オマリー・ディロンの起用は木曜日に『ワシントン・ポスト』紙が最初に報じ、その後にバイデン選対が事実だと認めた。オマリー・ディロンは民主党の選挙対策の分野では有名な人物である。オマリー・ディロンは2012年のオバマ前大統領の再選の選対で副責任者を務めた。また、オバマ政権第一期の4年間では、民主党全国委員会の執行役員を務めた。

最近では、ビトー・オローク前連邦下院議員(テキサス州選出、民主党)の大統領選挙を手伝ったが、オロークは最終的に選挙戦から撤退した。また、バイデン選対に対しての非公式のアドヴァイザーをしていた。

バイデン選対によって発表された声明の中で、オマリー・ディロンは次のように語った。「バイデンの人格と指導力のもとにまとまっている他の民主党員の多くと同じく、私はこの重要な時期にティームに参加できることに興奮しています。」

オマリー・ディロンは続けて次のように述べている。「バイデン前副大統領は記録的なレヴェルの有権者を投票所に向かわせています。そして、ドナルド・トランプが二期目を迎えないことを確実にするために必要な幅広い連合を形成しています。バイデンを46代目の大統領にする手助けができることは光栄であり、私は仕事を始める準備ができています」。

オマリー・ディロンはアニタ・ダンとグレッグ・シュルツのティームに参加することになる。ダンとシュルツは責任者としてバイデン選対の舵取りをしてきた。

先月のアイオワ州での党員集会での惨敗の後、ダンは選対を立て直した。シュルツはバイデンの出馬の準備に参加し、選対の初期の人事を担当し、代議員獲得に関する戦略を策定した。バイデン選対によると、シュルツは組織に関する計画と献金者と支持者へのアウトリーチといった仕事をこれから行うということだ。

バイデンは次のように語った。「私は、グレッグに対して私たちの選対が今日ある形にしてくれるために指導力を発揮し、献身してくれたことに感謝の意を表します。そして、彼がこれからも私たちの選対と選挙運動に継続して貢献してくれるだろうと確信しています。私はジェンが私たちのティームに彼女の素晴らしい才能と洞察をもたらしてくれるだろうことを楽しみにしています。この秋にドナルド・トランプと戦うための準備するにあたり、ジェンは選対と選挙運動を拡大し、強化させるための財産となってくれるでしょう」。

バイデンは一連の勝利によって11月にトランプと対決する民主党候補者の最有力候補になった。バイデンはサウスカロライナ州で30ポイント近くの差をつけて圧勝し、先週のスーパーチューズデーでは14州のうち10州で勝利し、今週はじめのミシガン州で重要な勝利を収めた。バイデンが連勝を収めたことで、多額の献金が流れ込んできており、全国で選挙事務所を設置することができるようになっている。

トランプ大統領は、数百万ドルの寄付金を使って再選に向けた選対と選挙運動を加速させている。

=====

民主党内のヒスパニック系の人々は、サンダースのラティーノ支持獲得戦略はバイデンにとってのロードマップとなると考えている(Hispanic Democrats see Sanders's Latino strategy as road map for Biden

ラファエル・バーナル筆

2020年3月11日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/487137-hispanic-democrats-see-sanderss-latino-strategy-as-road-map-for-biden

連邦議会ヒスパニック系議員連盟(CHC)所属の議員たちはジョー・バイデン前副大統領に対してバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)の成功したアウトリーチ戦略を見習うように主張している。

このような要求は、バイデンがアフリカ系アメリカ人と穏健派、高齢の有権者たちからの支持を受けて南部諸州と中西部諸州で決定的な勝利を収めて民主党予備選挙のトップ走者となった時から出ている。

対して、サンダースはラティーノ系の有権者からの力強い支持を集めている。その結果として、カリフォルニア州とネヴァダ州といった西部諸州で勝利した。

ラティーノ系の人々はサンダース陣営が効果的なアウトリーチ戦略を採用し、選対の最高幹部の中にヒスパニック系の人を置いていることを評価している。そして、こうしたことをバイデンにも真似てもらいたいと考えている。

バイデン支持を表明し、連邦議会ヒスパニック系議員連盟の選挙部門の責任者を務めるトニー・カルデナス連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は次のように述べている。「次のアメリカ大統領、その次、その次、その次を狙う人は誰であっても、投票する権利、どの候補者を支持するかを決めるために情報を知る権利を持つ全てのアメリカ国民を考慮に入れて選挙運動を実施する必要があります。」

カルデナス議員は、サンダース陣営のトップアドヴァイザーであるチャック・ロカに言及しつつ次のように語った。「バーニー・サンダースの選対は、能力の高いラティーノもしくはラティーナを選対の最高幹部に据えた初めての全国レヴェルの選挙組織ということになります。これは選挙運動にとって良い決断となりました。その結果として、バーニー・サンダースはいくつかの州でラティーノ系有権者の支持を受けて良い結果を得ました」。

選挙コンサルタントで、連邦議会ヒスパニック系議員連盟所属の議員たちのためにも働いた経験を持つロカは、サンダース陣営が早い時期から重点州においてラティーノ系有権者の支持獲得のために資源を投入していたことを評価し、そのために予備選挙の初期段階でヴァーモント州選出のサンダース議員が予備選挙でトップに立った事実を強調した。

ロカは本誌に対して次のように述べた。「カルデナス議員は私たちラティーノ系共同体に対して常に政治に関心を持ち、参加するように訴えてきました。私はサンダース陣営の選挙運動に誇りに思っていますが、それはカルデナス議員の訴えに沿ったものだからです。私はただテーブルに座っているだけではなく、人々に会って行動しています」。

ロカの戦略はこれまで長い間ヒスパニック系共同体の指導者たちから出ていた要求に基づいたもので、文化的に有効なヒスパニック系有権者へのメッセージを早い段階から強く打ち出すということだった。ヒスパニック系に関してはこれまでいろいろな選対で軽視されてきた人々であった。

ロカは次のように語っている。「11月にドナルド・トランプを倒すために、十分な資金を投入した、文化的にも有効なラティーノ系の得票獲得作戦を実行する必要があります。民主党が“外に出て投票に行きましょう(GOTV)”作戦を実行する前にラティーノ系への働きかけを始動する必要があるということを私たちは証明したのです。ラティーノは選挙戦で働きかけを待つだけの存在ではなく、自分たちで実際に選挙戦を実行する存在になっていくことでしょう」。

連邦議会ヒスパニック系議員連盟にはカルデナス議員のようなバイデンを支持する穏健派の議員たちがいるし、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)のようなサンダースを支持する進歩主義派の議員たちがいる。こうした人々は共にロカの発言内容に同意している。

オカシオ=コルテス議員は次のように語っている。「歴史的に見て、民主党と民主党関連の組織はラティーノ系の有権者たちへのアウトリーチについて苦闘してきましたが、正しくない方法を採用してきました。その結果として、ラティーノ系への政策も良いものを作り出すことに苦労しています。バイデン前副大統領は民主党内部の伝統的な組織に頼り切っています。そして、支持を勝ち取っています」。

オカシオ=コルテス議員は続けて次のように述べた。「しかしながら、このような伝統的な組織に頼っているのが現状です。これは民主党の強さと弱さの慣性ということです。民主党の弱さの一つはラティーノ系有権者へのアウトリーチです」。

バイデン陣営と緊密な関係を持っているカルデナスは、バイデン陣営は既にサンダース陣営と同様の対ラティーノ系有権者戦略を既に実行しているはずだと述べている。

バイデンは、フロリダ州、アリゾナ州、イリノイ州でのラティーノ系アウトリーチに新しい資源を投下している。バイデン陣営内部の議論に詳しいある人物によると、バイデン陣営はこれら各州内のラティーノ系有権者の間でサンダースと競り合えると考えているということだ。

カルデナスは、ヒスパニック系共同体の指導者たちが長年民主党に対して求めてきた、ヒスパニック系への関与戦略を初めて具体化した有力な大統領選挙候補者となったのがサンダースだと述べた。

カルデナスは次のように述べた。「ある有権者グループに働きかけを行わず、その人たちを後回しにし、選挙の投開票日当日前にこれらの人々にほとんど注意を向けなければ、得票率が低くなりますよね。その候補者グループの中で、そんな候補者もしくはその候補者の主張を受け入れる人の割合はおのずと低くなりますよね」。

カルデナスは続けて次のように語った。「私が今述べたことはこの予備選挙で全ての候補者の陣営が予備選挙開始前に行ったことです。そして、本当に働きかけを行って、ラティーノ系の有権者を動員したのは、バーニー・サンダースだけなんですよ」。

バイデンはラティーノ系に対して働きかけを全くやっていないということはない。

バイデン陣営のラティーノに関するアドヴァイザーであるクリストバル・アレックスは「ラティーノ・ヴィクトリー」から採用された。ラティーノ・ヴィクトリーはヒスパニック系の人々の声を吸い上げ主張する、良く知られた進歩主義的な政治組織である。

ラティーノ・ヴィクトリーは今年2月にバイデン支持を発表した。

バイデンはヴァージニア州とサウスカロライナ州でヒスパニック系有権者からの支持を獲得したが、南部諸州でサンダースがバイデンとの差を詰めることができないようになった。

バイデンは火曜日に予備選挙が実施されるフロリダ州で構造上の優位性を持っている。バイデンはフロリダ州でラティーノ系の重要な支持を集めている。フロリダ州は全米で第3位のヒスパニック系の人口を抱えている。

ダレン・ソト連邦下院議員(フロリダ州選出、民主党)は次のように語っている。ソト議員はプエルトリコ系としては初めてのフロリダ州選出の連邦議員である。「フロリダ州ではバイデンはラティーノ系の有権者の支持を掴んでいます。今朝発表された最新の各種世論調査の結果が物語っています。もちろん、フロリダ州には独自の状況があります。ヒスパニック系と言っても5つの異なったグループ分けができるほどですから、これらの動きでフロリダ州の選挙の結果は変わるんですよ」。

スーパーチューズデー後にバイデン支持を表明したソト議員は次のように語っている。「バイデンはヴァージニア州と東部のいくつかの州で良い結果を得ました。そしてヒスパニック系有権者からの投票に関してもそうです。サンダースは南西部諸州のヒスパニック系から多大な支持を得ました。これまでの選挙戦を見ていて、バイデンは東部諸州で勝利を収めることができる上昇気流に乗っています」。

カルデナスはバイデン陣営が予備選挙序盤の段階でヒスパニック系に働きかけを行うだけの資金を持っていなかったが、アフリカ系アメリカ人と郊外に住む白人の有権者たちの支持を得た。その結果として民主党予備選挙でトップに立つことができた。

カルデナスは次のように語った。「バイデン選対はサンダース陣営が行った規模での資源を投入しヒスパニック系有権者からの支援を得るということができませんでした。しかし、スーパーチューズデー後にすぐにバイデン陣営に連絡をしました。そして、選対がつかんでいる内容と知っておくべき内容を聞き、説明しました。全米のラティーノ系の有権者に主張を届けることの重要性とそのための資源を投入すべきだという話をしました」。

カルデナスは「もちろん、バイデン選対がラティーノ共同体、アメリカ全土のラティーノ系の有権者とのコミュニケーションに投資をしていないなどと信じる理由は存在しません」とも語っている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 今回は『21世紀の戦争論 昭和史から考える』をご紹介したい。「歴史探偵」半藤一利氏とロシア専門家佐藤優氏の対談である。ロシア(旧ソ連)の行動原理について佐藤氏が述べ、それを半藤氏が昭和史に当てはめて敷衍して解釈していくという流れになっている。
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21世紀の戦争論 昭和史から考える ((文春新書))

 半藤氏にはノモンハン事件やソ連の満州侵入に関する著作もあり、ソ連の行動について自分なりにも調査研究を重ねてきたが、佐藤氏との対談で腑に落ちることが多かったようだ。

 ロシア(旧ソ連)は目的のためには感傷的にも感情的にもならずに人命など考慮に入れることなく、最短距離を突き進む。これを合理的という。ロシア(旧ソ連)の行動、私たち日本人には不可解な行動もそうした合理的な行動であり、目的を持って行なっている。また、ロシア人の行動原理として、「中間地帯・緩衝地帯がなければ大きな不安に襲われるのでそれを確保することに躍起となる」というものがあることを佐藤氏は指摘している。ヨーロッパで言えば東欧諸国、アジアで言えば中国や北朝鮮、アフガニスタンの共産化を目指したのもイデオロギーというよりもロシア人の行動原理が主な理由であるようだ。スターリンとしては北海道北部を独立・傀儡化させ、日本との間に緩衝地帯を作りたいと考えていたが、それは実現しなかった。そのためにスターリンは意趣返しの意味もあり、日本人のシベリヤ抑留を行なったというのが佐藤優氏の見方だ。

 『21世紀の戦争論』の中身を簡単に振り返っておく。

 細菌戦のための人体実験を行なった731部隊について最初に取り上げられている。ロシア(旧ソ連)は終戦直後に関係者たちを尋問し、既に情報を得ている。その最大の情報は731部隊の細菌戦や人体実験について昭和天皇は知っていた、直接指示があったということだ。これは最大の対日カードとして現在まで温存されている。ロシアあるいは中国が731部隊に関する主張を行なう際には日本側に何か要求があるということになる。

 大日本帝国の陸海軍は1905年に終了した日露戦争以降、大きな戦争をせずに過ごすことができた。その期間は約30年だ。20代前半で少尉任官した若者も順調に出世をしていれば、少将や中将になっている頃だ。もちろん陸軍士官学校や海軍兵学校出身者が全員少将以上になれるわけではない。大部分は大佐くらいで退役となる。実戦がないので戦闘で手柄を上げて出世するということは起きない。

こうした状況で少将以上まで出世をするのは徹底して間違いを犯さない官僚的人間と言うことになる。陸軍士官学校や海軍兵学校での成績が良く、陸軍大学校や海軍大学校に進める人たちであり、勉強秀才から冷徹で手続きに瑕疵を残さない官僚と言うことになる。そうした官僚的人間はこれまでの戦略や戦術には強いであろうが、実際に自分たちが決定を下すと言うことになると果たして強いのかというとどうもそうではない。

 官僚的人間ばかりが出世した日中戦争から太平洋戦争の日本の陸海軍の失敗は、官僚的自分たちによる責任を回避できる組織作りの故であったと半藤・佐藤両氏は結論づけている。両者が詳しいノモンハン事件についてみてみれば、見通しの甘さと情報不足のために、現場の日本軍将兵は奮戦したが惨敗。その責任はしかし司令官が取るのではなく、現場指揮官たちが死をもって取ることになった。生き残った現場指揮官クラスは軒並み自決を強要された。作戦の立案と指導に当たった参謀の服部卓四郎や辻政信は一時期左遷されたが、太平洋戦争直前に復活した。失敗を隠蔽し、失敗を教訓としない日本軍は最終的に解体の憂き目に遭った。

 失敗から学ばず、官僚的組織を作り、上層部が責任を回避するというのは現在の日本でも行なわれる組織作りの特徴ということになる。これを繰り返している限り、日本全体は徐々に、ゆっくりとしたカーブを描きながら落ちていく。

(終わり)

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 古村治彦です。

 今回は、副島隆彦先生の最新刊『本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史』(秀和システム、2020年3月26日発売)をご紹介する。これは、アメリカ思想の歴史をユニテリアニズムから読み解くというものだ。

 以下に、まえがき、目次、あとがきを掲載する。

 是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史 フリーメイソン=ユニテリアンは悪魔ではなく正義の秘密結社だった!

(貼り付けはじめ)

  はじめに

 この本を読むと、あなたは、大きく歴史が分かるだろう。ヨーロッパとアメリカのこの500年間の歴史が、鷲づかみするように分かる。

 欧州と米国のこの500年間が、私たち人類(人間)の世界の歴史を引っ張ってきた。私たちは欧米白人の近代文明に引きずられて生きてきた。

 明治(1868年)からこっちの日本の知識層は、ヨーロッパの文物(ぶんぶつ)を取り込むことで必死だった。イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの文学と思想を翻訳し輸入することに疲れ果てるほど全身全霊を打ち込んだ。

 ところが、アメリカの研究をほったらかした。アメリカはヨーロッパの後進国だろ、と軽く見た。そのことが、その後の日本の文化の成長に影を落とした。現在は、これほどに強くアメリカの影響と圧力を受けていながら。テレビのニューズはアメリカの表面を映すだけだ。

 ヨーロッパとアメリカの2つをガシッとつないで、私たちに大きく分からせてくれる本がない。粗(あら)っぽくていいから私たちは、欧と米を結合させて、大きくその全体像で理解したいのである。

 このことに私はずっと不満だった。だから、私はこの本で、まずヨーロッパの恐ろしい国王たちの姿を次々と印象深く描いた。私たちが名前ぐらいは知っている有名な王様と、政治家たち数十人に光(スポット)を当てて、どこまでも分かり易く、「ああ、そういうことだったのか」と読者に思ってもらえることを目指した。

 そして〝チューダー朝の恐ろしい王たち〟から逃げ出して北アメリカに渡って植民(コロナイズ)した、初期のプロテスタントたちを描くことから第1章を始める。

「本当は恐ろしいアメリカの思想と歴史」なのである。冒頭のヨーロッパで断頭される王と王妃の絵、に戻って再度じっくり見てください。ここに凝縮される欧米白人500年の歴史の真実なのである。

 覆(おお)い隠されている事実がたくさんある。だから私たち日本人に大きな「ああ、本当はそういうことだったのか」の真実が伝わらないのだ。私は、一冊の本に書き込めるだけを書いてこの本に載せた。これでもかなり舌足(したた)らずだ。あんまりにも突拍子(とっぴょうし)もないことを、前後の脈絡(コンテクスト)なしで書くと、眉唾(まゆつば)ものだと思われるから、普通に知られている当たり前のことも、そば粉のつなぎのように、各所に入れてある。

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はじめに

第1章 17世紀の王殺し(レジサイド)とピューリタニズムの真実

  イギリスに戻って清教徒革命に参加したピルグリム・ファーザーズがいた

  「リパブリーク」(共和政)とは、王様の首を切り落とせ!ということ

  ユニテリアン=フリーメイソンがアメリカをつくった

  丘の上の町

  メソジストとはどういう宗派(セクト)か

  誰がアメリカ独立革命戦争の資金を出したか

  アメリカに渡ったキリスト教諸派のセクト分析

  「会衆派」がユニテリアンの隠れ蓑

  指導者がいない「会衆派」

  社会福祉の運動になっていったオランダ改革派

  本当はユニテリアンとカルヴァン派の間に激しい闘いがある

  バプテスト系の人たち

  「非戦」思想のメノナイトとクエーカー

  「ペンシルヴァニア・ダッチ」と呼ばれる人々のルーツ

第2章 アメリカ史を西欧近代の全体史から捉える

  全体像で捉える能力がない日本のアメリカ研究

  カルヴァン派とユニテリアンは対立した

  カルヴァン派はユダヤ思想戻り

  ピルグリム・ファーザーズという神話

  現代につながる王政廃止論

  ピューリタンの中心部分がユニテリアン

  アメリカ独立戦争を戦ったのはユニテリアン

  アメリカとフランスのリパブリカン同盟

  啓蒙思想としてはホッブズが一番正直

  「自由」とはユダヤ商人たちの行動

  ヴァイマールはユダヤ商人を入れて繁栄した

  なぜ「近代」がオランダから始まったか

  ゲーテ小論

  偉大な皇帝だったカール5世

  ブルボン朝の初代王、アンリ4世は賢く生き延びた苦労人

  男女の愛への讃歌が民衆に受けた

  「ケンカをやめよう」と言ったモンテーニュとモンテスキュー

第3章 アメリカから世界思想を作ったエマーソン

  すべての世界思想はエマーソンに流れ込み、エマーソンから流れ出した

  環境保護運動、ベジタリアン運動の祖もエマーソン

  エマーソンは過激な奴隷解放論者は容れなかった

  土地唯一課税の理論をつくったヘンリー・ジョージ

  社会主義思想までもユニテリアン=フリーメイソンから生まれた

  アメリカ独立戦争は成功した革命

自己啓発の生みの親までエマーソン

  日本にキリスト教を輸入した人々もユニテリアンだった

  ガンディ(ガンジー)の偉さは、イギリスに抵抗し、かつ日本に組しなかったこと

  チャンドラ・ボースの死の真実

 

第4章 フリーメイソン=ユニテリアンは正義の秘密結社だった

独立軍は弱かった

ユニテリアンとフリーメイソンは表裏一体

ハミルトンとジェファーソンの違い

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あとがき

 この本の最大の発見(のちのちの、私の業績)は、カルヴァン派(長老派)と呼ばれるキリスト教プロテスタントの大きな宗派(セクト)と、ユニテリアンの区別をつけたことだろう。どちらもピューリタンたち(清教徒革命)と言うけれど、どう違うのか。長いこと分からなかった。

 ようやく私は、この大きな謎を解いた。日本人としては初めてで、日本への初理解(初上陸)となる。カルヴァン派のすぐそばに居るのに、もっと先鋭な活動家たちで、革命(革新)運動(すなわち王政廃止論)の中心の者たちが、ユニテリアン派だったのである。つまり、ユニテリアンは、「神の存在を疑う(もう、これまで通り信じるわけにはゆかない)」すなわち、理神論 deism にまで到りついたヨーロッパの過激派たちだったのだ。

私はこの本を途中まで書いてきて、ようやく、この中心に横たわる疑問にはっきりと解答(ソルーション)を出すことができた。この本を書く途中で、私はこの疑問(謎)を佐藤優氏に「カルヴァン派とユニテリアンはどう違うのか」と執拗にぶつけた。彼の助言にも助けられて、それでようやく大きな解(根=こん。答)を得た。

 

 この本全体は、ユニテリアンという、キリスト教の一派なのだが、現在ではそこから追い出されたと言うか、かなり外(はず)れてしまった人々について書いた。ユニテリアンからヨーロッパの社会改善(改革)運動が生まれた。貧しい人々を救(たす)けようという社会福祉活動となり、そして社会主義者(ソシアリスト)の革命家(レヴォルーショナリー)の群れまでが生まれたのだ。マルクスとエンゲルスが「空想的(ユートピアン)」と呼んだ人々だけでなく、カール・マルクスたち過激思想家たち自身が、ユニテリアンから生まれ、派生したのである。

その100年前の、フランス革命の革命指導者(ロベスピエールらルソー主義者)もまた、全員ユニテリアン=フリーメイソンであった。そして、それと完全に同時代のアメリカ独立(革命)戦争(アメリカ建国)の指導者たち、フランクリン、ワシントン、ジェファーソンたちも全員ユニテリアン(フリーメイソンリー)である。そして何と、その150年前の1620年からの「メイフラワー号」のピルグリム・ファーザーズのアメリカへの初上陸の指導者たちも全員、ユニテリアンであった。驚くべき大きな真実である。

時代に先進する人たちを描くことがこの本の中心だ。ユニテリアン Unitarian とは何者か。この改革派知識人、活動家たちの動きが、欧米近代500年間の最先端での動きだったのだ。この「ユニテリアンをなんとか理解する」という太い一本の鉄棒をガツンと欧米の500年に突き刺すことで、欧米近代(モダン)の歴史の大きな真実をついに捜(さぐ)り出した。

アメリカの独立戦争(1776年、独立宣言。建国)、その150年前の アメリカ入植以来の話、そして現在から150年前の エマーソン(マルクスと同時代のアメリカ思想家)を中心に置いた。ヨーロッパ、とくにイギリス、フランス、ドイツをアメリカと連結させた。

日本で初めてここにユニテリアンという中心軸を一本通した。そうすることで大きな理解が、私の脳(頭)の中で出来上がった。岩穴を掘り進むように苦心して書いた。たいした知識もないのに、真っ暗闇の中で、私は自分の筆の鏨(たがね)(掘削道具)で掘って、ガツガツと書き進んだ。すべてを語り尽くさなければ気が済まない。

 それが、果たしてどれぐらいの意味を持つか。なんて、もう言ってられない。私は本当に、恐ろしい重要な真実がたくさん分かってきた。

この本は、人類史の全体像を縦、横、奥行きで立体化させて、つかまえようとしている。

その時、他の国(主要国)はどのように動いたか。その内部の対立はどうだったのか。この相互連関を書き並べる。登場人物は、その時代の王様と権力者たちだ。

彼ら西洋の王様の名前が次々にたくさん出てくると、日本人の読み手は混乱して、「訳(わけ)が分からん。イギリス国王ジョージ3世と言われてもなあ」となる。ここで私も苦しむ。ヨーロッパの王様の名前など、一読したぐらいでは誰も分からない。区別もつかない。だから私は今も苦しい。

それでも、どの国でも、その時の30年間の、一人の国王(権力者)のご乱行と事件の数々は、その国の人々には、自分の人生に関わる大変なことだったのだ。だが、次の時代の人々は、もうそれらを忘れ去る。そして、目の前の自分たちの事件と問題に翻弄され、振り回される。

 私は、ここに、新しい手法(文体=スタイル、あるいは文章の序列=オーダー)を作る技術での、革新(イノヴェイション)を、何としても発見し開発しなければならなかった。これが大変なことだ。

ほんの75年前の敗戦まで、日本人は、心底そして頭のてっぺんから昭和天皇のことを崇高なる現人神(あらひとがみ)であると信じ込んでいたのである。そして、1946年に、裕仁(ひろひと)天皇は、「(私も)人間(です)宣言」をしたのである。人間なんてこんなもので、わずか数十年で、集団的に、どんな思想にでも切り変わってゆく。愚かで弱い生き物なのだ。

 明治天皇絶対体制は、神国(しんこく)日本の伝統から作られたのではない。そうではなくて大英帝国(イギリス)が作ったのだ。自分たちの英国王は、神聖体(ホウリー・ボディ)であり、霊的(れいてき)存在である。そのように英国国教会(アングリカン・チャーチ)を創った(ヘンリー8世が1534年、ローマ・カトリック教会から分裂)時に出来た考え(思想)である。今、イギリスに労働党(レイバー・パーティ)を中心に「王政廃止論」が盛り上がっている。「自分たちのイギリスは、今も王と貴族たちを上に載せている、世界で一番遅れた国だ」とブツブツ言っている。こういう世界最先端の課題も日本人に教えなければ、私の役目は済まないのだ。

 こういう、過去と現在をグサグサと(縦横無尽に)縫い合わせる文体(スタイル)を、私は開発(開拓)しようとして必死なのである。

 一冊の本は、本当に分かりやすく、大きな柱に向かって全体を組み立てなければいけない。「ただの世界史の本」みたいなものを私が書くわけがない。それでは読者が喰いついてくれない。私が中公文庫の『世界の歴史』(30巻)のまとめ直しみたいなことをやっても、無意味だ。簡潔にたった一冊で、大きな流れをスパッと「ああ、そういうことだったのか」と、読み解いてみせることに意味がある。「お前の勝手な考え、思いつきに過ぎない」と言われても構わない。この出版不況のさ中で、出版社と書店がどんどん廃業、倒産、潰(つぶ)れている。大きな火の玉を投げつけなければ、お客様に対して失礼だ。書き手はもっともっと客(本の読者)に奉仕しなければいけない。

 

 最後に。この本もまた、本当にドイツ語とフランス語がスラスラと読めて書ける有能な編集者である小笠原豊樹氏との合作である。大きな思考(思想)の鉄骨は私が組み立てた。細かいあれこれの表記や事実関係の訂正は小笠原氏がやってくれた。この国は、出版社の編集者(エディター)たちの才能と苦心、労力に対してほとんど報いることのない、無惨な国である。

 これらの現実を、精一杯、全身で受け留めることだけして、我慢しながら、歯を喰いしばって、最高級知識を分かり易く知的国民にお裾分けする任務を、私は死ぬまで果たす。

 

 2020年3月5日

 

                                    副島隆彦

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側

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 古村治彦です。

 新型コロナウイルス感染拡大は世界的な規模で危機的状況を作り出している。アメリカ国内も中国や日本を馬鹿にしていたが、今やプロスポーツは中止、選挙も延期などと影響が出ている。有名人が手を洗う動画を投稿し、「皆さん、しっかり手を洗いましょう」という呼びかけを行っている。手洗いうがいに関しては、日本の方が勝っているだろう。

 そうした中で、新型コロナウイルスを「ブーマー・リムーヴァー(boomer remover)」というスラングで呼ぶことがアメリカのインターネット上では流行しているそう。「ブーマー」とは「ベイビー・ブーム世代」、日本で言えば「団塊の世代」だ。戦後すぐ生まれから15年後くらいの間の世代ということになる。1946、47年から1964年くらいまでに生まれた人々であり、年齢で言えば55歳から74歳くらいまでを指す。

 「リムーヴァー」は除去剤という意味だ。ペンキやインク、マニキュアを剥がす液体などがリムーヴァーという。「ブーマー・リムーヴァー」とは「ベイビー・ブーム世代を除去するもの」という意味になる。新型コロナウイルスについてはその特徴として、高齢者になるほど重症化リスク、致死率が高いということが知られている。若者の重症化リスク、致死率が低い。これで「人口が多い高齢者だけを除去する(殺す)ウイルス」ということになる。何とも嫌な言葉である。しかし、現在の先進国が抱える、世代間の不公平感を示す言葉ともなっている。

 私のある知人は、「この新型コロナウイルスって高齢者しか死なないなんて、財務省からしたら最高じゃない?社会保障関連予算がどんどん増える中で年寄りだけが減るんだから。財務省にしたら万歳しながら、“社会保障改善ウイルス”と呼びたいんじゃないの」と冷酷に述べていた。これは、超高齢社会(高齢者が人口に占める割合が3割弱)の中で、税金と社会保障費で約5割の負担が重い中で、高齢者たちはバブルも経験して、逃げ得をしようとしている、という現役世代は不平不満を持っているということを示している。
 下の記事で言えば、ミレニアル世代とは20代中盤から30代後半までの人々、Z世代は18歳から20代中盤を指す。日本で言えば、団塊ジュニア世代は、アメリカで言えばX世代と呼ばれている。

 日本ではメディアの報道もあり、高齢者も新型コロナウイルスの危険性を理解し、行動を抑えている人々が多いように思う。しかし、以下の記事で紹介されているのは、アメリカでは、ベイビー・ブーム世代の高齢者が危険性を理解せず、子供たち世代の説得も聞き入れないで生活を抑制的にしないことで、子供たち世代が苛立っているということだ。ベイビー・ブーム世代の高齢者について「話が通じなくて、知識がない」という認識を持つ若い人たちが多くなっているということも紹介されている。この点は興味深い。

 社会が危機的状況に陥ると様々な事象が出てくるが、新型コロナウイルス感染拡大とともに「ブーマー・リムーヴァー」という言葉も拡大しているというのは、先進国の行き詰まり感をよく示しているものだと思う。

(貼り付けはじめ)

寒気がするコロナウイルスに関するインターネット上のスラング「ブーマー・リムーヴァー」は、ミレニアル世代の人々をより怖い世代だと考えさせるだけの効果しかない(Morbid ‘boomer remover’ coronavirus meme only makes millennials seem more awful

ハンナ・スパークス筆

2020年3月19日

『ニューヨーク・ポスト』紙

https://nypost.com/2020/03/19/morbid-boomer-remover-coronavirus-meme-only-makes-millennials-seem-more-awful/

コロナウイルスの爆発的流行に対する新しいスラングが出て来ているが、それは嫌な思いをするが、寒気がするほど実態を表している言葉だ。それは、「ブーマー・リムーヴァー(boomer remover)」だ。

この虚無的なキャッチフレーズは、投稿型ソーシャルサイト「レディット(Reddit)」で拡散されて、全てのSNSプラットフォームでも拡散されている。特に知識が豊富なミレニアル世代の人々の間で広がった。こうした人々は、COVID-19ウイルスはベイビー・ブーム世代、もしくは55歳から75歳までの人々に狙いを定めているように見えるという事実を取り上げている。

疾病コントロール・予防センターのデータによると、アメリカ国内ではコロナウイルス感染関連で入院している患者の40%が54歳よりも若い人々であるという事実はある。しかし、今回の疾病がより年齢の高い人々にとってより厳しいものとなるということも事実だ。コロナウイルス関連での死者の80%が65歳以上である。

このような状況の中で、「ブーマー・リムーヴァー」は現在、インターネット上で流行語(trending meme)となっている。

しかし、アメリカ政府の医療関係の役人たちは、感染数の「カーヴを緩やかに」するために全ての年代の人々は家に留まるように求めている。若い人々の多くは、ベイビー・ブーム世代に属する両親や祖父母の世界規模の健康上の危機に対する無気力なアプローチを取るように感じている。

成人した人々からすれば高齢の人々の思慮のない行動が懸念材料となる。

フリードリッヒ・エイジェンシーの出版エージェントをしているルーシー・カールソンは心配しながら次のようにツイッター上で書いている。「糖尿病を持っているベイビー・ブーム世代の親に町中に行かないように止めるために説得するベストなアドヴァイスは何?電話で怒鳴ってしまうのは私の流儀ではないのだけれど」。

別の不満を持っているミレニアル世代のある人は次のようにツイートした。「70歳になるおふくろに、同世代が集まる行為を全部やめるように言う前に、若い人たちがコロナウイルスをブーマー・リム―ヴァ―と呼んでいるようだよ、と言ってやったんだ」。

『ニューヨーカー』誌のマイケル・シュルマン記者はツイッター上に、「ベイビー・ブーム世代の親たちが自分たちよりもコロナウイルスについて真剣に捉えていない」ことを教えて欲しいと投稿したところ、似たような状況にあって苛立っている子供世代から1500以上もの返事が返ってきた。こうした人々の中には、高齢の親戚がフロリダに休暇に行くと言って説得を聞き入れてくれない、いつも通りに教会に行くと言い張る、101歳になる両親に会いに行くのが悪いことなのかと食って掛かるといったエピソードが紹介されている。

ミレニアル世代はまだ家族として高齢者を心配しているところがあるが、Z世代の人々は高齢者に対してより敵対的な態度を取っている。

ツイッターユーザーのBW・カーリンはSNS上の議論を踏まえながら、「中学校の生成をしている親戚がいるのだけど、生徒たちはコロナウイルスを“ブーマー・リムーヴァー”と言っているんだって」とツイッター上に投稿している。

昨年、Z世代とミレニアル世代の人々は、高齢者に対する怒りを「分かったから、ブーマー世代(OK, boomer)」というキャッチフレーズを作ることで表現した。このベイビー・ブーム世代を馬鹿にする否定的な表現は、55歳以上の人々について話が通じず、何も知らないと若い人々が考えていることを示している。

しかし、ブーマー・リムーヴァーというより強い意味を持つ表現は更に先に進んだものと言えるだろう。

この言葉に対して批判的なある人物は次のようにツイートしている。「ハハハ、ブーマー・リムーヴァーか。これにはあなたの家族や愛する人、それに有名人や政治家も含まれる。こうした人々は若い人たちを常に助けてきた。彼らの政治的な考え方は未熟だ」。

別の人物は次のように不満を表明している。「#BoomerRemoverというタグをつけている奴らについて簡単に言うと次のようになる。これまで“ダメ”と言われたこともなく、共感や責任感を教えられたこともない甘やかされた子供ちゃんたちだ。誰も相手なんてしない。どれだけでも甘やかされたいんだろう。そして実際に甘やかされている」。

今週初め、『フィナンシャル・タイムズ』紙のラナ・フォールハー記者はこの流行している言葉の政治的な文脈からの分析を行った。

フォールハーは次のように書いている。「若い人々はコロナウイルスを“ブーマー・リムーヴァー”と呼んでいる。これは現在、社会全体に共感が欠けているということを反映している。しかし、同時に若い世代が年齢の高い世代に対して持っている漠然とした政治的な怒りも反映している」。

しかし、他の人たちはこうした論争を和らげようと努めている。ベイビー・ブーム世代の中には、十代の時に世代間の戦いを戦い抜いた人たちがいる(性的革命、ヴェトナム戦争への抗議活動、ビートルズ)と主張している人々がいる。

ヴィデオ作家ジャック・セイントは次のように書いている。「コロナウイルスを“ブーマー・リムーヴァー”と呼ぶ十代は恐ろしい。しかし、これがどのように誤っているかを教えようとしている人々は、十代がどんな人たちで何を考えているかを知らなければならない」。

結局、高齢者たちのコロナウイルス関連死を笑っている世代は、現在、春休みでフロリダの海岸に集まっている人々なのである。

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 古村治彦です。

 今回は経済学批判の記事を紹介する。『ニューヨーク・タイムズ』紙の編集委員で経済記者として活躍しているビンヤミン・アップルバウムが昨年、著書『経済学者たちの時間:間違った予言者たち、自由市場、社会の分断(The Economists' Hour: False Prophets, Free Markets, and the Fracture of Society)』を出した。この紹介記事の中で、経済学と経済学者たちへの批判を行っている。

 経済学者たちが政策立案や実行に関わるようになり、最高幹部クラスの地位に就くようになったのは20世紀中盤以降のことだった。そして、「自由市場至上主義(市場によって均衡がもたらされて何事もうまくいく)」という宗教的な信念に近い原理を政策に応用するようになった。アップルバウムはその結果が格差の拡大だと述べている。そして、「経済学の発展は格差拡大の主要な理由である(The rise of economics is a primary reason for the rise of inequality.)」とさえ述べている。

 日本の「失われた30年」を振り返って考えてみても、このアメリカの20世紀中盤からの動きにそっくりだ。政府の役割の縮小と市場原理の導入によって、「日本特有の特徴のある資本主義(Capitalism with Japanese characteristics)」は破壊された。その結果が今日の惨状を生み出している。

 経済学の自由市場原理(free market principles)は宗教のドグマ(教義、dogma)とそっくりだ。また、原理から生み出された政策は非現実的である。たとえば、異次元の金融緩和について考えてみる。「経済が好調(好況、好景気)だと通貨供給量が増える」という事実がある。それをひっくり返して「通貨供給量を増やせば経済が好調になる」と「経済学者の頭」で考えた。そして、現在の日本ではそれを行っている。しかし、好景気になどなっていない。このような演繹的な(deductive)政策に対する、帰納的な(inductive)反撃として起きているのがMMT理論だと私は考える。

 経済学は社会科学の中で最も「科学的」であると言われてきた。しかし、実際には宗教的なドグマに凝り固まって、悲惨な結果をもたらすということを私たちは認識すべき時である。

(貼り付けはじめ)

私たちが取り込まれているゴミを生み出したのは経済学者たちで彼らに責任がある(Blame Economists for the Mess We’re In

―なぜアメリカは私たちには「より多くの富豪とより多くの破産」が必要なのだと考えた人々の話に耳を傾けてしまったのか?

ビンヤミン・アップルバウム(Binyamin Appelbaum)筆

アップルバウム氏は『ニューヨーク・タイムズ』紙編集委員であり、最新刊『経済学者たちの時間:間違った予言者たち、自由市場、社会の分断(The Economists' Hour: False Prophets, Free Markets, and the Fracture of Society)』の著者である。

2019年8月24日

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2019/08/24/opinion/sunday/economics-milton-friedman.html

1950年代前半、ポール・ヴォルカー(Paul Volcker、1927―2019年、92歳で死亡)という名前の若い経済学者はニューヨーク連邦準備銀行の建物の奥にある事務室で計算手として勤務していた。ヴォルカーは決定を下す人々のために数字を高速処理していた。ヴォルカーは妻に対して自分が昇進する機会はほぼないと思うと話していた。中央銀行の最高幹部には銀行家、法律家、アイオワ州の豚農家出身者はいたが、経済学者は一人もいなかった。連邦準備制度理事会議長はウィリアム・マクチェスニー(William McChesney、1906-1998年、91歳で死亡)という名前の株式仲買人出身者だった。マクチェスニーはある時訪問者に対して、自分はワシントンにある連邦準備制度の本部の地下に少数の経済学者を閉じ込めているのだと語った。経済学者たちが本部の建物の中にいるのは、彼らが素晴らしい質問をするからだと語った。そして経済学者たちを地下に閉じ込めておく理由は、「彼らは自分たちの限界を分からない」からだと述べた。

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若き日のポール・ヴォルカー

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ウィリアム・マクチェスニー

 マクチェスニーの経済学者嫌いは20世紀中盤のアメリカのエリート層において共有されていた。フランクリン・デラノ・ルーズヴェルト(Franklin Delano Roosevelt、1882-1945年、63歳で死亡)大統領は、その世代の最重要の経済学者ジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes、1883-1946年、62歳で死亡)を、非現実的な「数学専門家」に過ぎないと非難した。アイゼンハワー(Dwight David Eisenhower、1890-1969年、78歳で死亡)大統領は大統領退任演説の中で、テクノクラートを権力から遠ざけるようにすべきだとアメリカ国民に訴えた。連邦議会が経済学者に諮問することなどほとんどなかった。政府の規制機関は法律家たちが率いていた。裁判所では裁判官たちが経済的な証拠は重要ではないとして退けていた。

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ジョン・メイナード・ケインズ

しかし革命が起きた。第二次世界大戦終結から四半世紀が過ぎ成長が止まる時期になると、経済学者たちは権力の諸機関に入るようになった。経済学者たちは政治家たちに経済を運営するにあたり政府の役割を小さくすることで成長を再び促進させることができるという助言と指導を与えた。経済学者たちはまた不平等(格差)を抑えようとする社会は、低成長という代償を払わねばならないという警告を発した。新しい経済学に属するイギリスのある学者は、世界には「より多くの富裕層とより多くの破産」が必要だ、という発言を残した。

1969年から2008年まで40年間で、経済学者たちは富裕層の課税の引き下げと公共投資の削減に主導的な役割を果たした。経済学者たちは輸送や通信といった社会の主要な諸部門の規制緩和を監督した。経済学者たちは大企業を称賛し、企業の力の集中を擁護した。そして、彼らは労働組合を悪しざまに罵り、最低賃金法のような労働者保護策を反対した。経済学者たちは、規制に価値があるかどうかを評価するために、人間の生命をドルの価値に換算することを政治家たちに訴えた。人間の生命は2019年の段階で1000万ドルである。

経済学者たちの革命は、それまでの多くの様々な革命と同様、行き過ぎた。成長が鈍化し、格差が拡大する中で悲惨な結果をもたらした。経済政策の失敗の最も深刻な結果は、アメリカの平均寿命の減少であろう。富の偏在は健康の格差を生み出した。1980年から2010年の期間、アメリカの豊かな上位20%の平均寿命は伸びた。同じ30年間、アメリカの貧しい怪20%の平均寿命は短くなった。衝撃的なことは、アメリカ国内の貧しい女性と富裕な女性の平均寿命の差が3.9年から13.6年へと拡大したことだ。

格差の拡大は自由主義的民主政治体制の健全性を損ねている。「私たち人間」という概念は消え去りつつある。格差が拡大し続けているこの時代、私たちは共通に持っているものは少なくなっている。その結果、教育や社会資本への公共投資のような長期間にわたる広範囲な繁栄をもたらすために必要な政策への支持を形成することがより難しくなっている。

経済学者たちの多くは20世紀中盤に公共サーヴィスの分野に入り始めた。政治家たちは連邦政府の急速な拡大を統制するために苦闘していた。政府に雇用されている経済学者たちの数は1950年代には約2000名であったが、1970年代末には6000名にまで増えた。経済学者たちが採用されたのは政策実行の正当化のためであったが、すぐに政策目標の形成を始めるようになった。アーサー・F・バーンズ(Arthur Frank Burns、1904-1987年、83歳で死亡)は1970年に連邦準備制度理事会議長になったが、彼は議長になった最初の経済学者になった。その2年後、ジョージ・シュルツ(George Pratt Shultz、1922年―、99歳)は経済学者として財務長官に就任した。1978年、ヴォルカーは連邦準備制度内での昇進を極め、ついに議長に就任した。

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アーサー・F・バーンズ

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ジョージ・シュルツ
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議長時代のヴォルカー

しかし、最も重要な人物はミルトン・フリードマン(Milton Friedman、1912-2006年、94歳で死亡)だった。妖精のようなリバータリアンで、アメリカ政府で地位を得ることを拒絶した。しかし、彼の著作や発言は政治家たちを魅了した。フリードマンはアメリカが抱える諸問題に対して、明快で単純な答えを提示した。それは、政府は関わらない、というものだ。フリードマンは、「官僚たちがサハラ砂漠を管理するようになると、すぐに砂の不足を訴えるようになるだろう」というジョークを飛ばした。

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ミルトン・フリードマン

フリードマンは勝利を期待できない戦いで大勝利を収めた。彼はニクソン(Richard Nixon、1913-1994年、81歳で死亡)大統領に助言して1973年に徴兵を終わらせた。フリードマンやその他の経済学者たちは、市場レートに沿った報酬を支払う志願兵だけで構成される軍隊は財政的に実行可能でかつ政治的に人々から受け入られ易いものだった。

ニクソン政権は、ドルと外国通貨の為替レートを市場に決定させるというフリードマンの提案を採用した。また、ニクソン政権は規制に対する制限を正当化するために人間の生命に値段をつけた最初の政権となった。

しかし、市場志向は無党派のテーマであった。連邦所得税の削減はケネディ大統領下で始まった。カーター(Jimmy Carter、1924年―、95歳)大統領は、1977年に民間商業航空に対する監督を行う官僚組織を廃止するために経済学者アルフレッド・カーン(Alfred Kahn、1917-2010年、93歳で死亡)を任命することで、規制緩和時代の扉を開いた。クリントン大統領は、1990年代に経済が上昇する中で連邦政府の支出を抑制した。 クリントン大統領は「大きな政府が終わった時代」を宣言した。

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アルフレッド・カーン

リベラルと保守派の経済学者たちは公共政策における主要な疑問に関する戦いを主導した。しかし、両派の経済学者たちが合意した分野はより重要であった。自然はエントロピー(entropy、均質化)に向かう傾向があるが、経済学者たちは市場が均衡(equilibrium)に向かう傾向にあることに自身を持っていた。経済学者たちは経済政策の重要な目標は国家の生産高のドルの価値を高めることであるということに同意していた。経済学者たちは格差を緩和するための努力に対する辛抱強さをほとんど持っていなかった。カーター政権の経済諮問会議議長を務めたチャールズ・L・シュルツ(Charles Louis Schultze、1924―2016年、91歳で死亡)は1980年代初頭に、「経済学者たちは効率的な政策の実行のために戦うべきだ。たとえその結果が得敵の諸グループの所得が大きく減少することになっても戦うべきだ。効率的な政策を実行することで所得は下がるものであるが」。それから30年ほど経過した2004年、ノーベル経済学賞受賞者ロバート・ルーカス(Robert Lucas、1937年―、82歳)は格差緩和のための努力の復活に警告を発した。「健全な経済を傷つける、最も人々を惹き付けかつ私の意見で最も有害な傾向は、配分に関する疑問に集中することだ」。

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チャールズ・L・シュルツ

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ロバート・ルーカス

格差の拡大に対する説明は宿命論的なものだ。格差問題は資本主義特有の結果である、もしくはグローバライゼーションや技術の進歩といった要素が理由であるという説明がなされている。そうなると格差問題は政治家たちが直接コントロールできないものということになる。しかし、失敗の大部分は私たち自身の中にある。効率を最優先し、富の集中を促進する政策を採用するという私たちの集合的な決定が私たちの失敗である。そうした政策は、機会を均等化し、所得再配分するための政策は否定された。経済学の発展は格差拡大の主要な理由である(The rise of economics is a primary reason for the rise of inequality.)。

私たち自身が問題を生み出しているならば、解決策は私たちの中にあるのは事実だ。

市場は人々が作り出し、人々によって選択された諸目的のためのものだ。そして、人々は規則を変更できる。社会は格差を無視すべきだという経済学者たちによる判断を捨てる時期だ。格差の減少は公共政策にとっての主要な目標であるべきだ。

市場経済は人類の素晴らしい発明の一つであることは確かだ。市場経済は富の創造を行う強力なマシーンである。しかし、社会の質を測定する方法は、社会全体、全ての階層の生活の質を見ることである。トップの生活の質だけを見るのではない。そして、次々と出される研究結果が示しているのは、現在、低い階層に生まれた人々は前の世代に比べて、豊かになる、もしくは社会全体の福祉に貢献する機会を持てないようになっているということだ。それでも現代社会で貧しいと言っても歴史的に見れば豊かではある。

これは苦しんでいる人たちだけにとって悪いことではない。それでも十分に悪いことではあるのだが。これは豊かなアメリカ人にとっても悪いことである。富が少数の人々に握られている現在において、消費総額は減額し、投資も減少しているという研究結果が出ている。各企業と豊かな家庭はどんどんスクルージ・マクダックに似るようになっている。企業と豊かな家庭はスクルージのように、山のようなお金の上に座っているが、生産的な形でお金を使うことができていないのだ。

これまでの半世紀、繁栄の分配に対する頑なな無関心は、自由主義的民主政治体制の存在がナショナリズムに基づいた煽動家たちからの試練に直面している主要な理由である。ロープにいつまで掴まっていられるのか、ロープはどれくらいの重さまで耐えられるのかについて私は全く見通しを持てないままでいる。しかし、私たちが負担を減らせる方法を見つけることができれば、私たちの絆はより長く存続することになるだろうということは分かっている。

=====

ビンヤミン・アップルバウム著『経済学者たちの時間:間違った予言者たち、自由市場、社会の分断(The Economists’ Hour: False Prophets, Free Markets, and the Fracture of Society)』

『パブリッシャーズ・ウィークリー』誌

2019年9月

https://www.publishersweekly.com/978-0-316-51232-9

『ニューヨーク・タイムズ』紙記者アッブルバウムはサブプライムローンに関する報道でジョージ・ポーク賞を受賞した。アップルバウムは、彼が「経済学者たちの時間」と名付けたおおよそ1969年から2008年の時期の公共政策における経済学者たちの重大な影響力を時系列的にまとめた。アップルバウムはアメリカ国内で経済学者たちがどのように重要な地位を占めるように至ったかを詳述している。経済学者たちはワシントンで低い地位にとどまっていたのが、財務長官と連邦準備制度理事会議長のような最高位の役割を果たすようになった。アップルバウムは経済学者たちの繁栄を生み出すという錬金術のような力に対して極めて懐疑的である。特にミルトン・フリードマンやアラン・グリーンスパン(Alan Greenspan、1926年―、93歳)のような自由市場原理を猛進していたが、自由市場原理は大恐慌と収入格差を促進したのだとアップルバウムは主張した。アップルバウムは、世界各国は経済理論を考慮している。しかし、技術者たち(台湾)や国家(中国)が主導する経済の方が経済理論を重視するアメリカ経済よりもうまくいっている。アメリカは市場に対する政府の介入を最小化する政策を採用している。アップルバウムは健康と安全に関する規制、産業に対する規制、反トラスト訴訟に関する自由市場哲学の有害な影響についても詳細に研究している。そして、アップルバウムは自由市場に対する妄信によって少数に富が集中する結果をもたらしたと結論付けた。『経済学者たちの時間』では、経済哲学に関する徹底的に研究された、包括的な、批判的説明がなされている。本書は半世紀にわたり政策を支配してきた経済学哲学を強力に告発している書である。

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アラン・グリーンスパン

(貼り付け終わり)
keizaigakutoiujinruiwohukounishitagakumon001

経済学という人類を不幸にした学問: 人類を不幸にする巨大なインチキ(終わり)
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