古村治彦です。
新型コロナウイルス感染拡大という事態を受け、米中関係は非難合戦の様相を五呈している。ドナルド・トランプ大統領をはじめとする政権幹部たちはウイルス感染拡大を中国の対応のまずさのせいにしている。世界各国で約1000万人が感染し、約50万人が死亡した。感染者数における死亡率は約5%である。今年1月から3月にかけて中国の武漢市を中心に感染が広がった。中国国内の深刻な様子が報道されていたが、現在のところ、中国国内の感染者は約8万3500名、死亡者は4634名だ。アメリカの感染者は約267万名、死亡者は12万名となっている。日本は感染者約18900名、死亡者は971名だ。
アメリカは新型コロナウイルス感染拡大への対応が遅かったということになるだろう。都市部の人口密度や経済活動などの理由はあるだろうが、中国には人口1000万人を超える大都市が5つもある。日本にも東京、大阪、名古屋、横浜など大都市圏が存在する。
下の記事は、新型コロナウイルス感染拡大の中で、大統領選挙の選挙運動が勧められており、共和党の現職ドナルド・トランプ大統領、民主党の内定候補者ジョー・バイデン前副大統領が共に相手を「中国に対して弱腰だ」という批判を行っている。こうした状況では、中国との協力は難しいが、それでも、様々な分野で競争相手となる米中両国であるが、疾病の世界的感染拡大、感染爆発という事態には協力して対処しなければならないと主張している。下の記事の著者であるアルバート・ハントはケネディ・大統領の言葉を引用している。その言葉とは、「ライヴァル同士のパートナーシップ(rival partnership)」だ。
冷戦期、アメリカとソ連は東西両陣営に分かれて鎬を削ったが、徹底的な対決は回避した。これをアメリカの歴史家ジョン・ルイス・ギャディスは「長い平和(Long Peace)」と呼んだ。代理戦争を戦わされた朝鮮半島、ヴェトナム、アフガニスタンの人々にとってはどこが長い平和なのかと怒りを持つであろうが、世界大戦がなかったという意味である。
21世紀の米中関係に関しても新冷戦という言葉が使われ始めている。下の記事でも取り上げられているが、シンクタンクであるブルッキングス研究所所長を務めるジョン・アレン(退役海兵隊大将)は、アメリカは「自由主義的資本主義」のモデルを提示し、中国は「権威主義的資本主義」のモデルを提示して世界にアピールしている、と述べている。これが新しい冷戦の軸ということになるだろう。
ソ連は自国の経済を崩壊させ、消滅した。一方、中国は経済力を急速に伸ばし、それにつれて政治力と軍事力を増強している。経済力での米中逆転は視野に入っている。こうした状況になり、冷たい戦争が覇権交代をめぐる熱い戦争にならないためにも、ライヴァル同士のパートナーシップとアメリカの軟着陸が21世紀中盤の重要な要素となるだろう。
(貼り付けはじめ)
パンデミック下の政治と中国との協力(Pandemic politics and
cooperation with China)
アルバート・ハント筆
2020年5月6日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/opinion/campaign/496354-pandemic-politics-and-cooperation-with-china
アメリカ政治で70年前に激しかった議論が形を少し変えて再び復活している。それは、誰に責任があるのか、もっと端的には「中国を失ったのは誰だ?」というものだ。
それが今では「誰が中国に対してより宥和的か?」だ。
トランプ大統領と、今年の秋にトランプ大統領と戦うことになるジョー・バイデン前副大統領は、お互いに相手が中国の支配者たちに対して下手に出ていると非難する攻撃的なテレビCMを流している。
中国はもう一つの世界の超大国として、経済、政治、軍事の分野での成長もあり、アメリカにとって既に政治上の重大な問題となっている。中国から始まった新型コロナウイルス感染拡大は、中国側の1月にわたる隠蔽もあったが、アメリカ国内では党派性を持った批判合戦のテーマとなっている。
トランプ大統領は数週間にわたり中国の新型コロナウイルス対策を評価し、アメリカの対策の遅れを誰の責任にするのかを探していた。それがここにきて新型コロナウイルスを「中国のウイルス」とレッテル張りをし始めた。ホワイトハウスにいる政権幹部の中には、トランプ大統領を見習って、「カン・フルー(Kung Flu)」と呼んでいる(訳者註:Fluはインフルエンザのこと、カンフー[Kung Fu]にかけている)。トランプ大統領は、アメリカ国内で感染拡大が激しくなるにつれて、攻撃を激化させている。そして、選挙での対抗馬であるバイデンを弱腰だと攻撃している。
民主党の候補者に内定しているバイデンは、アメリカ国内で感染が拡大したのは初期段階でのトランプ大統領の無関心のせいだと非難し、自分が大統領であればより早い段階でより厳しい措置を取ったと主張している。
グラハム・アリソンはハーヴァード大学の学者で、国防総省に勤務した経験を持ち、米中対決の可能性と危険性についての著作を持っている。アリソンは新型コロナウイルス感染拡大への対処のために、米中両国は両国関係を変化させるべきだと述べている。アリソンは、米中両国は貿易、民主的な価値観、サイバー上と国家の安全保障に関しては、「厳しいライヴァル関係」となるだろうが、同時に、気候変動、テロリズム、そしてとくに感染症対策ではパートナーとなるべきだと主張している。
米中が協力することは現時点では、政治的に無理な状況だ。トランプ陣営、バイデン陣営ともに来るべき大統領選挙本選挙に向けて、これからの6カ月間は中国に対して宥和的な姿勢を取ることはできない。
バイデン前副大統領は、トランプ大統領が中国側の新型コロナウイルスに関する発表を鵜呑みにして「中国に丸め込まれた」と攻撃している。トランプ大統領は3月中旬まで危険性を否定していた。対照的に世界各国は中国がやっと1月中旬になって危険性を認識し、発表した段階で素早く対応した。
トランプ大統領は3月13日の時点までは中国の習近平国家主席は状況に対してうまく対応していると一貫して称賛してきた。また、危険を示す証拠を信用しなかった。
トランプ大統領陣営は現在、反中国攻撃を大統領選挙本選挙の中心的な要素にしていることは明らかだ。トランプ大統領は、バイデンが中国に「強い態度で臨む」ことに失敗し、オバマ政権の対中国融和政策の策定に関わったと攻撃している。
トランプ大統領に対する中国への攻撃は日々激しくなっている。関税引き上げや不手際に対する裁判提起、更に負債の支払いを拒絶などをと脅している。いつものトランプ大統領のように、この一部はブラフである。しかし、中国攻撃はトランプ大統領の選挙に影響を与えるが、失敗に終わる可能性もある。トランプ大統領は危ない橋を渡っている。
トランプ政権は、全ての選択肢を留保している。マイク・ポンぺオ国務長官が対中政策を主導している。ポンぺオ国務長官は中国に対しては、外交官というよりも党派性の強いガンマンのように振舞っている。
アメリカ連邦議会においては、共和党側の対中国攻撃の急先鋒はアーカンソー州選出のトム・コットン連邦上院議員だ。コットン議員は1月末にウイルスの脅威と中国の隠蔽に対して警告を発した。コットン議員は攻撃を止めていない。そして、ウイルスの発生源は武漢の食肉マーケットではなく、中国のある実験ラボから広がって感染拡大を招いたという理論を支持し、中国を批判している。コットン議員はまた、中国に対する法的手段を取ることを許可する法律の制定や中国人学生がアメリカの大学で科学を学ぶことを禁止する措置を提案している。
しかし、コットン議員は感染拡大ではなく、党派性の強い中国叩きに興味を持っているように見える。彼は中国が感染拡大について1カ月にわたり嘘をつき続けてきたと攻撃していた。しかし、2月25日の時点で、コットン議員はトランプ大統領がウイルスへの対処を「最重要事項」としていると発言した。これは極めて間違っている主張だ。
中国国民はアメリカとの争いを恐れていない。中国は、トランプ大統領が自身の失敗に対する言い訳として、「他の人々を非難している」と批判している。中国国内のSNSでの人々の書き込みを見て見ると、歪曲された内容もあるが、明白にアメリカを非難している。中国は感染拡大に見舞われている国々に医療や医療品の提供を行っている。初期段階ではアメリカに対しても支援を行った。
米中関係の悪化が危険を伴う理由は、世界の超大国2か国は感染拡大への対処のようないくつかの極めて重要な分野でお互いに協力しなければならないがそれができなくなる、というものだ。
ブルッキングス研究所所長で退役アメリカ海兵隊大将(four star general)であるジョン・アレンは米中間の緊張関係の深刻化は避けられないと評価している。アレンは次のように述べている。「中国はアメリカとは別のモデルに沿っている。それは、権威主義的資本主義(authoritarian capitalism)である。これは中国の成功もあり、世界のいくつかの国々にアピールしている。私たちは、私たちのより素晴らしいモデルを使って対抗することになるだろう」。しかし、今回の危機において継続的に中傷を続け、対立することは「世界にとっての最大の危機を解決する為のエネルギーの多くを無駄遣いすることだ」とアレンは述べている。
アレンは別の機会では、「中国を解決に向けて要素に入れなければ、今回のコロナウイルスとの戦いで勝利することはできない」とも述べている。医療分野と科学分野でのつながりを断絶することはったくもって合理的ではない。
アレンはまた次のようにも述べている。新型コロナウイルス対処によって米中両国のライヴァル関係や緊張が和らぐことはないが、冷戦期にジョン・F・ケネディ大統領が述べた「ライヴァル同士のパートナーシップ(rival partnership)」という考えを両国は持つべきだ。
(貼り付け終わり)



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