古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2020年07月

 古村治彦です。
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ジョン・ボルトン回顧録 (仮)

 大変古い記事であるが、重要な記事をご紹介する。これは2018年に『イスラエル・ロビー』の共著者であるハーヴァード大学のスティーヴン・M・ウォルト教授が書いた記事だ。アメリカ外交政策エスタブリッシュメントはネオコンと人道的介入主義派で占められており、ネオコンのジョン・ボルトンはその主流派の一人である。そして、これら主流派の人々は自分たちの主張が実現されてもたらされた悲惨な結果について反省をしない、そして再び政権に入ることで失敗を繰り返す。これがアメリカの構造的な欠陥だとウォルトは書いている。

 そして、ネオコンと人道的介入主義派をまとめて「チェイニー主義」と名付けている。そして、チェイニー主義がアメリカの構造的な欠陥だと喝破している。チェイニー主義をウォルト教授は次のように描写している。

(貼り付けはじめ)

チェイニー主義とは、「脅威を増幅し、真剣な外交を拒絶し、同盟諸国を負担だと考え、国際機関を軽蔑し、アメリカは強力であり、他国に最後通牒を突き付け、他国が従うことを期待しているものと私は定義している。より言えば、外交政策に関わるより多くの問題を何かを吹き飛ばすことで問題を解決することができると信じることを言うのだ。

(貼り付け終わり)

 トランプ大統領は外交政策エスタブリッシュメント、主流派をこき下ろしていた。しかし、それでもそうした人物たちを起用しなければならない時もある。それでも行き過ぎれば、解任してきた。だから、北朝鮮との戦争は起きなかったし、中国とも決定的な決裂には至っていない。その点でドナルド・トランプ大統領は極めて優秀だ。ヒラリー・クリントンが大統領になっていたら世界は悲惨なことになっていただろう。本格的な戦争と新型コロナウイルス感染拡大が同時並行的に起きていたらアメリカはもたなかっただろう。

 問題はジョー・バイデンもヒラリーとあまり変わらないということだ。彼の政権も「チェイニー政権(チェイニー主義政権)」になってしまう可能性は大きい。下の記事にも名前が出てくるスーザン・ライスが副大統領になればそれは極めて危険なことだ。

(貼り付けはじめ)

ディック・チェイニー政権へようこそ(Welcome to the Dick Cheney Administration

―ジョン・ボルトンに関する問題は彼が少数派の過激な人物(extremist)だということではない、問題は彼が主流派(mainstream)であることだ。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2018年3月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2018/03/23/welcome-to-the-dick-cheney-administration/

もう片方の靴が落ちた。トランプ大統領はレックス・ティラーソン国務長官をツイッター上でのツイート一つで解任するという臆病な手段を取った。この時同時に、ドナルド・トランプは大統領国家安全保障問題担当補佐官のHR・マクマスターを解任し、後任にジョン・ボルトンを選んだ。ボルトンは元米国国連大使で強硬派として知られた人物だ。超タカ派(Uber-hawk)のマイク・ポンぺオはCIA長官であるが、国務長官に就任することになった。そして、CIAに忠誠を誓うジーナ・ハスペルがポンぺオの後任に決まった。ハスペルは、ジョージ・W・ブッシュ政権時に拷問施設を運営し、CIAが行っていたことを記録したヴィデオテープの破棄に同意した。こんな恐ろしいことが他にあるだろうか?

これらの出来事はトランプ政権内の混乱に対する2つの重要な反応だと考えられる。一つ目の解釈としては、今回の人事交代はトランプの政権内から「大人たち」を排除する動きというものだ。大人たちは過去1年間、ツイッター最高司令官(tweeter-in-chief)を何とか制御しようとしてきた。そうした人々を、トランプと同じように世界を見て、「トランプをトランプ」らしく行動させる人々に交代させたのである。こうした見方からすると、新しいティームは、トランプ大統領を制御しようとはせず、2016年の時のトランプに戻そうとするだろう。この時のトランプは、アメリカの外交政策は「完全に隅から隅まで厄災である」と主張し、「アメリカ・ファースト」の実現を訴えた。トランプ大統領自身は、自分で望ましい人物たちを集めてティームを作ると訴えることで、こうした考えを強調してきた。(これは一つの大きな疑問を生起させる。それは、誰が最初のティームの構成員を選んだのか?二番目のティームは?その答えは明白だ)

二つ目の解釈はより人々の警戒心を強め、皆さんの家の裏庭に防空壕を掘らせるようにさせるくらいのものだ。この解釈では、ティラーソンとマクマスターの更迭とボルトン、ポンぺオ、ハスペルの起用はタカ派が力を持つことになることを示す。この人々は、イランの核開発をめぐる合意を破棄し、拷問を復活させ、北朝鮮との戦争を始めるだろう。これはただの「強硬な姿勢」を超えたものだ。ホワイトハウスにボルトンが入ることで戦争を嫌なものだと考えたことがない人物からトランプ大統領は助言を受けることになる。(戦争を嫌なものだと考えないのはもちろん彼が安全な距離まで離れているからだ)

明確にしておきたい。ボルトンはこれまでトランプ大統領が行った選択肢のほとんどと同じもので、厄災となるであろうものだ。ボルトンの外交政策について考え方は原理主義的で、好戦的なものだ。政策の主導者、そして専門家としてのボルトンの経歴はどんなに良く言っても、信頼に足るものではない。ボルトンは自分の過去の誤りから学んでいるようには見えない。そして、マクマスターとティラーソンは、アメリカの国際的な評判と重要な同盟関係に対して、トランプ大統領が与えた損害を何とか限定的にしようと努力したが、ボルトンの外交官としての技能はアメリカの友人たちを攻撃するための新たな方法を見つけることになるだろうと思われる。

しかし、ボルトンの起用は2016年の大統領選挙の段階のトランプの考えに戻るということではないのだ。トランプは選挙期間中に外交政策に関する専門家たちやエスタブリッシュメント全体を攻撃した。トランプはこうした人々は無能で、無責任、アメリカを意味のない戦争に引きずり込むと主張した。しかし、大統領に就任して以来、トランプ大統領は国防予算を増額し、アフガニスタンの米軍を増強し、国防総省とわがままなアメリカの同盟諸国がより多くの場所でより強力な軍隊を使用することを許可し(その結果は失望)、外交政策により軍事偏重の姿勢を取ることでハイリスクな選択をした。これは、ビル・クリントン、ブッシュ(子)、バラク・オバマの各政権で失敗したやり方だ。ボルトンの起用(トランプの外の人事異動と同様)は、「アメリカ・ファースト」に向けた大胆な動きということではない。「アメリカ・ファースト」という言葉は、アメリカの海外での負担を削減し、アメリカの戦略的位置を改善し、アメリカ国民をより安全により豊かにするためのより堅実なそしてより抑制された外交政策を意味するはずだ。

その代り、トランプが知っていたかどうかは分からないが、ボルトン、ポンぺオ、ハスペルを最重要の地位に就けたのは、「チェイニー主義(Cheneyism)」への逆戻りなのである。チェイニー主義とは、「脅威を増幅し、真剣な外交を拒絶し、同盟諸国を負担だと考え、国際機関を軽蔑し、アメリカは強力であり、他国に最後通牒を突き付け、他国が従うことを期待しているものと私は定義している。より言えば、外交政策に関わるより多くの問題を何かを吹き飛ばすことで問題を解決することができると信じることを言うのだ。

いいですか皆さん、チェイニー主義は、アメリカがそれを採用した最後の機会できちんと機能しましたか?トランプ大統領のような洗練された外交政策の専門家は再びチェイニー主義を採用したいと望んでいるのは間違いないところだ。

従って、ボルトン起用の真のレッスンはボルトン自身のことではなく、アメリカの外交政策エスタブリッシュメントについてである。より微妙な地位に野蛮な急進派の人物を就けることの危険性についてこれから数週間、心のこもったそして怒りに満ちた評論を多く読むことになることは間違いない。しかし、単純な事実としては、アメリカの外交政策共同体の中で変わった人物ではないということだ。トランプが左派からメディア・ベンジャミンを、右派からランド・ポールを起用することとは違う。もしくは、チャールズ・W・フリーマン・ジュニアやアンドリュー・バセヴィッチのような経験豊富なそして知識豊富な逆張り主義者を起用することも違う。そうではなくて、ボルトンはタカ派の考えを持っているが、ワシントンにおいて「受け入れ可能な」コンセンサスの中に入っているのである。

ボルトンの考えや経歴を見てみよう。彼はイェール大学とイェール大学法科大学院の卒業生だ。彼はワシントンDCにある著名な法律事務所コンヴィントン・アンド。バーリングで働いた。この事務所ではディーン・アチソンも働いていたことがある。ボルンとは長年、保守系ではあるが主流のアメリカン・エンタープライズ研究所で上級研究員を務めている。彼は曖昧な、粗雑で野蛮な、「急進的な」文章を数多く発表している。その中には『ウォールストリート・ジャーナル』紙、『ニューヨーク・タイムズ』紙、そして『フォーリン・ポリシー』誌も含まれている。ここまで見て、あなたが考える「おかしな」人物にボルトンは当てはまるだろうか?

確かに、ボルトンはイラク戦争を声高に支持していた。しかし、そのことで彼を狂人(weirdo)だと考える人はほとんどいない。確かにボルトンはイラク戦争を声高に支持した。しかし、しかし、だからと言って奇人変人という訳ではない。ボルトンも指摘しているように、そのほか多くの人々も同様であった。ヒラリー・クリントン、ジョー・バイデン、ジェイムズ・スタインバーグ、アン=マリー・スローター、スーザン・ライス、ロバート・ゲイツなどなど数多くの「尊敬すべき」人物たちがイラク戦争に賛成した。これらの人物たち以外にもイラク戦争という厄災を夢見て実現させた天才たちのことも忘れてはいけない。ウイリアム・クリストル、ジェイムズ・ウールジー、ロバート・ケイガン、ブレット・スティーヴンス、マックス・ブート、エリオット・コーエン、デイヴィッド・フラム、ポール・ウォルフォヴィッツなどは今でも外交政策エスタブリッシュメントの中では尊敬を集めている。しかし、こうした人々は、悲惨な戦争を始め、多くの人々を死に至らしめたことについて、自分たちの誤りを認めず、公の場で後悔の念を示したこともない。

トランプ大統領と同様、ボルトンはイランと北朝鮮に対して特に懸念を持っているように見える。しかし、連邦議員の多くとワシントンDCにあるシンクタンクの多くもまた同様である。実際のところ、現在のイランとの核開発をめぐる合意を強く支持している人々は多くいるが、こうした人々はアメリカ政府がイラン政府に対してより強硬な姿勢を取るべきだと考えている。北朝鮮に対して軍事行動を取ることを提案しているワシントンDCにいる人間はボルトンだけではない。結局のところ、ボルトンの前任者である、更迭されたマクマスターが北朝鮮に対する厳しい姿勢を取ることを主張していた。

ボルトンはイスラム教嫌いで知られており、かつ国際機関に対して極めて懐疑的だ。しかし、こうしたことはアメリカの外交政策分野において特殊という訳ではない。彼は軍事力の行使を特に好む傾向があるように見える。しかし、外交政策分野での高名な知識人たちの中で軍事力行使に反対し、それに反対する態度を取りそのように発言する人たちの数はどれほどいるだろうか?私はそのような人物は極めて少ないと言わざるを得ない。それは、ワシントン(アメリカ政府)でトップの仕事に就きたいと狙っているような人物で「ソフトだ」と見られることを望むような人は一人もいない。シリアのバシャール・アル・アサド政権に対して戦略的に見て全く無意味な巡航ミサイル攻撃をトランプ大統領が許可した時、どれだけの数の民主党所属の政治家と共和党所属の政治家が彼に向って拍手を送ったかを読者の皆さんは覚えておられるだろうか?この単純な事実によって次のことを説明することができる。アメリカは10か国以上の国々で様々な種類の戦争を行ってきているが、終わりを想定することなしにまた反対しにくい形で始めている。ボルトンは外交政策共同体のコンセンサスの内部にいる、声が大きいメンバーであるに過ぎない。

誤解しないでもらいたい。私は今回のボルトンの起用を「正常なこと」であると位置づけ、心配するなと述べているのではない。そうではなく、もしボルトンについて懸念を持っているならば、次の疑問を自分自身に問いかけてみるべきだ。それは「政府高官の地位にボルトンのような考えを持つ人物が就くことを許すような政治システムはどのようなものか?」というものだ。このシステムは、この人物を政府高官の地位に就けて、アメリカを悲惨な戦争に駆り立てながら、自身の失敗に対する後悔を示すこともなく、更に次の10年も同じことをより熱を持って主張する。同じ間違いを犯すために2回目のチャンスを得ることができる。

これはただただ最悪なのだ。しかし本当の問題はボルトンではない。本当の問題は、彼のような人物を何度も失敗させて、何度も引き上げてくれるシステムの存在だ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 古い記事になって恐縮だが、新型コロナウイルス感染拡大によってアメリカで変わりそうな5つのポイントについての記事をご紹介する。その5つとは、(1)医療制度(国民皆保険)、(2)郵便投票、(3)移民制度、(4)社会的セーフティーネット、(5)選挙運動である。これらが大きく変容することはないだろう。アメリカは個人主義、自己責任の国であり、国家が介入することを嫌うというのは建国以来の心性だ。「マスクをしない自由や権利は認められるべきだ」「ロックダウンのようなことはすべきではない」という声も大きい。アメリカやブラジルのような国民の大多数がキリスト教徒(プロテスタントとカトリックの違いはあるが)の国々で感染者数が急激に拡大し、中国は初期に感染拡大したが何とか抑えた。それは神は人間の自由を認められたが、自己責任だ、という考えがあるのだろうと思う。

 アメリカでは国民皆保険ということにはなっていない。ここはアメリカでも議論の最前線である。ヨーロッパ諸国や日本のような先進諸国では国民皆保険なのだから、という主張もあるが、国民皆保険は社会主義的で、健康管理は自己責任だという主張もある。私たちは、コーラとハンバーガー、フライドポテト、バケツのような入れ物に入ったアイスクリームを食べて大変に肥満しているアメリカ人の姿を見ている。実際に肥満の数は多い。それで自己責任や自己管理とはとおかしくなるが、自由と自己責任という事をとかく強調しがちだ。しかし、今回の新型コロナウイルスの感染拡大ではさすがに国民皆保険を求める声が少し大きくなったが、大勢を占めるほどではない。

 郵便投票に関しては、不正投票の温床になる危険性が指摘されている。しかし、共和党支持が多い地方では長時間をかけて投票所まで出向かねばならないということもあり、郵便投票の実効性は議論されるべきであろうと思う。日本でも高齢化社会ということで、期日前投票の一環として時期を狭めての郵便投票ということはあり得るのではないかと思う。

 新型コロナウイルスの感染拡大でアメリカは変容しない。それほどに個人主義と自己責任の意識が強い国なのだということが下の記事から読み取れる。

(貼り付けはじめ)

コロナウイルスがアメリカ政治を変化させる5つの事柄(Five ways the coronavirus could change American politics

ナイオール・スタンジ筆

2020年5月2日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/495761-five-ways-the-coronavirus-could-change-american-politics

コロナウイルス危機はアメリカ政治にどのように影響を与えるだろうか?現在の関心は緊急事態に集中していることは当然のことだ。トラッキング・プロジェクトによると、金曜日の夜の時点で、アメリカ国内で100万以上が感染し、5万9000人以上が死亡した、ということだ。

しかし、より長期的な影響を持つ政治に関わる5つの分野についてこれから見ていく。

●国民皆保険(Universal health care

世界各国では医療や衛生に関する危機に対応している。そうした中で私たちに突き付けられているのは、第一世界の国々の中でアメリカだけが国民皆保険制度を持っていないという事実である。

加えて、アメリカのシステムの土台は、全米で数多くの失業者が出ている中で、新たに考え直すことになっている。多くの人々の医療保険は雇用と結びついている。過去6週間で3000万人以上のアメリカ人が新たに失業保険の申請を行った。

危機的状況が人々の医療保険に関する考えを変化させていることを示すいくつかの証拠が出てきている。

アメリカ国内で危機的状況が激しくなった3月中旬にモーニング・コンサルト社が発表した世論調査によると、政府が支給する国民全員に対象にした健康保険への支持が増大している。

この世論調査では、成人の26%が国民皆保険を「強く」支持する、15%が支持すると答えた。

民主党員や支持者の59%が政府による国民皆保険を支持しているが、共和党員や支持者の25%が支持している。今回の危機的状況を受けて、国民皆保険を支持しないと答えた成人は12%に留まった。

バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ-モント州選出、無所属)は国民皆保険の主導者であるが、今回の危機が自身の考えの正しさを証明していると述べている。

予備選挙における選挙運動の停止を発表する前、3月にCNNに寄せた論説の中で、サンダースは、国民皆保険は極めて重要だ、それは国民皆保険によって人々はコストを考えて医療を受けられないということがなくなるからだと主張している。サンダースは「ウイルスによる疾病に対する治療が受けられない人が出てくれば、ウイルス感染は多くの人々に拡大することになる。その結果、共同体全体を危機に晒すことになる」と書いている。

コロナウイルス危機によって国民皆保険に関する意見がこれからも変化し続けていくという保証はない。そして、国民皆保険という考えへの支持が多くなっていくとしても、連邦議会が国民皆保険を立法化するかどうかは疑問である。

トランプ大統領を含む共和党は国民皆保険という考え方に明確に反対している。そして、国民皆保険という考えよりも穏健なオバマ大統領時代に可決した患者保護並びに医療費負担適正化法は国民の間での分裂をもたらしている。3月にNBCニュースと『ウォールストリート・ジャーナル』紙が実施した共同世論調査によると、有権者の42%がオバマケアはより良い考えだったと評価している一方で、35%が悪い考えだったとしている。

●郵便投票(Mail-in voting

コロナウイルス危機は選挙の投票に対するアメリカ人の認識を変化させるだろう。特に東京所に向かうよりも郵便での投票の好ましさが高まっている。

ウイルスが11月まで危険な状況であれば、一定の時間に長い列に並んで投票を待つということに多くの人々が躊躇を覚えるだろう。

アメリカ国内で郵便投票という考えが真剣に考慮されていることを示す兆候は多くある。

先週発表されたAP通信・NORCの共同世論調査によれば、成人の約40%は郵便による投票を支持しているという結果が出た。2018年に比べ、支持率は約2倍になっている。

同じ世論調査で、過半数である56%は、特別な理由がなくても郵便投票が認められるべきだと考えていることも分かった。

全米州議会評議会によると、次の5州では全てのレヴェルの選挙で郵便投票が実施されている。コロラド州、ハワイ州、オレゴン州、ワシントン州、ユタ州である。その他いくつかの州ではいくつかのレヴェルの選挙での郵便による選挙実施が許可されている。また、各個人が望むならば郵便投票を選択することを認められている州もある。

トランプ大統領は郵便投票という考えに懐疑的だ。トランプ大統領はシンプルに「郵便投票では、不正が行われる。郵便投票を認めることはこの国にとって極めて危険だ。なぜならば不正を行う人々が存在するからだ」と主張している。しかし、トランプ大統領自身は今年初めに居住地であるフロリダ州で不在者投票を行うために郵便で投票を行った。

党派を超えて郵便投票に対する懸念は存在する。実際に人々が投票所に行って投票するよりも不正が行われる可能性が高いという懸念が存在する。

しかし、郵便投票を採用している各州では大きな問題は起きていない。そして、コロナウイルス危機において、郵便投票によって多くの人々が投票できるという点は際立っている。

●移民(Immigration

4月20日、トランプ大統領はツイッター上でコロナウイルス危機への対応として、「アメリカ国内への移民を一時的に停止する」と発表した。大統領は大統領令を発令したが、これはそこまで徹底的なものではなかった。大統領令はグリーンカードの発行を少なくとも60日間停止するというものだった。しかし、この命令は多くの例外事項が含まれていた。例えば、既にアメリカ国内に滞在しているグリーンカード申請者のグリーンカード発狂に影響はない。

それでも移民の権利などを主張する人々はこの動きを批判している。トランプ大統領は長年にわたり主張してきた移民問題に対する強硬姿勢を危機を利用して実施していると批判している。

しかし、いくつかの世論調査では、少なくとも現在の時点までは、多くのアメリカ国民がトランプ大統領と考え方を共有していることが分かった。

『ワシントン・ポスト』紙とメリーランド大学の共同世論調査は4月21日から26日まで実施され、「コロナウイルスの感染拡大が続く間アメリカへの移民をほぼ全て」一時的に停止するという考えを65%の成人が支持しているという結果が出た。

この世論調査で、共和党支持者たちは移民の一時的停止を圧倒的に支持しており、賛成83%、反対17%という結果だった。一方、民主党支持者たちは、移民に賛成する人たちが多いと考えられているが、賛否は半々に割れている。賛成49%、反対49%だった。

移民関連団体は、このような世論調査の結果を受けて、危機の間は移民の一時停止は起きるだろうが、アメリカ人のほとんどが移民はアメリカにとって利益となると考えている事実から、停止にまで至るとまでは考えていないと述べている。

しかし、中国から始まり世界に大混乱をもたらしている脅威である危機の本質は、移民だけではなく、移動の自由とグローバライゼーションにまで、様々な考えに影響を与えることになるだろう。

●社会的セーフティーネット(The social safety net

コロナウイルス危機と大規模な経済の破壊はより強力な社会的セーフティーネットの必要性を高めることになるだろうか?

アメリカは数十年に一度の大きなショックを経験しており、それで多くの人々の生活を大きく変化させることになる。

実業家アンドリュー・ヤンは今回の大統領選挙民主党予備選挙の期間中に国民皆ベイシック・インカムという考えを主張した。2020年4月、ヤンはスペインがコロナウイルス対策として国民全員へのベイシック・インカムを採用したことをツイートした。そして「アメリカも見習うべきだ」と述べた。同時期、『ワシントン・ポスト』紙は記事の見出しで、「感染拡大(大流行)は国民全員へのベイシック・インカムという考えを強めるものだ」と書いた。

その他に、今回の危機によって、有給の病気休暇の必要性が高まったと主張する人々もいる。コーリー・ブッカー連邦上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)、カーステン・ギリブランド連邦上院議員(ニューヨーク州選出、民主党)、カマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は今年3月に記者会見を開き、有給の病気休暇制度の導入を訴えた。

失業保険についても疑問が出ている。また、いくつかの州では緊急に支援を必要としている人々への支援を行う社会資本が欠如していることにも疑問が出ている。

しかし、大規模な危機的状況が社会的なインパクトに関する多くのアメリカ人の考えを根本的に変化させるかどうかについて、多くの専門家は懐疑的だ。

ヴァンダービルト大学政治学教授ジョシュア・クリントンはCNBCに出演し、次のように述べた。「少しの変化はあるでしょう。しかし、国家の構造や国家と自分たちの生活との関係についての人々の考えが大きく変化するとは私は考えていません」。

●政治運動や選挙運動(Political campaigning

コロナウイルスの政治に対する明確な影響は選挙運動に表れている。

大規模な選挙運動の動員は問題外として、候補者たちと選挙運動の陣営は有権者に考えを届けるための外の方法を考えねばならなくなっている。

民主党の大統領選挙候補者となる可能性が高いジョー・バイデン前副大統領は、デラウェア州にある自宅からのヴィデオメッセージに限定している。通常であればアメリカ政治の中心的な話題となるはずだがそのようにならずに苦闘している。トランプ大統領は記者会見を、実施できない選挙集会の代わりとして利用しているとして批判されている。

民主党全国大会は元々開催予定であった7月中旬から1か月後に既に延期となっている。トランプ大統領は、共和党全国大会は元々予定されていた通りに民主党全国大会の1週間後に開催すべきだと主張している。

今回の危機は、今年の大統領選挙の選挙運動に深刻な影響を与えることは明確だ。

しかし、インターネット上の選挙運動への変化のようなその他の変化が定着し、今後の選挙の基準となると考えることは難しい。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。
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ジョン・ボルトン回顧録 (仮)
 ドナルド・トランプ大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンの回顧録“
The Room Where It Happened”の日本語版は9月に発売される。アメリカでは既に中身の一部が報道され、議論を呼んでいる。トランプ政権側は「国家安全保障上の機密をばらすもの」として批判しているし、トランプ政権を批判する側は「これらの内容は本来は大統領弾劾手続きの時に議会で証言すべきものだったのに、金儲けのために証言を拒んだ」と批判している。

 内容はトランプ大統領が「危なっかしいど素人」で「無能」な人間で、汚い言葉である「頭の先までクソが詰まっている」人物であるということが事細かに書かれている。

ボルトンは、自身のカウンターパートである、谷内正太郎(やちしょうたろう、1944年-)国家安全保障局長・内閣特別顧問とよく会っている。それらのことを正確に記述しているので、本書は2016年以降の安倍政権下での日米関係史の資料ということになる。

特に北朝鮮との非核化をめぐる首脳会談の時期ということもあり、谷内は日本側の懸念をボルトンに伝えている。また、在日米軍の駐留コストの負担増額についても話をしている。また、安倍晋三首相のイラン訪問の前後、谷内はボルトンに対して、安倍首相のイランでの会談で話すべきポイントについても伝えている。ボルトンは、日本は同じ非核化という問題について、北朝鮮に対しては強硬姿勢(現実的な脅威として)、イランに対しては柔軟姿勢(石油のことがあるから)を取っているとしている。

 訳書は脚注や索引を入れれば700ページ近くになるのではないかと思う。それでも何があったのかを知るには興味深い一冊となるだろう。

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ボルトンの暴露によってトランプは嘲りの対象に(Bolton exposé makes Trump figure of mockery

ナイオール・スタンジ筆

2020年6月17日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/503287-the-memo-bolton-expose-makes-trump-figure-of-mockery

ジョン・ボルトンにとって、トランプ大統領に対する最も効果的な武器は単純だが、荒々しいものである。それは嘲りだ。

『ニューヨーク・タイムズ』紙は水曜日午後、前国家安全保障問題担当大統領補佐官の最新刊の内容に詳しく報じた。その他のメディアもすぐにそれに続いた。最新刊の内容に関する詳細な紹介によってすぐに論争が起きた。

ボルトンの説明によると、ある時、トランプ大統領はフィンランドがロシアの一部なのかどうかを質問したことあったそうだ。トランプ大統領はイギリスが核兵器を保有していることを知らなかった。トランプ大統領は、エルトン・ジョンのCD「ロケットマン」にエルトン・ジョンのサインをつけたものを北朝鮮の指導者金正恩に送りつけたいと熱望していた。

トランプ大統領はあまりにも無謀で向こう見ずなので、国務長官だったレックス・ティラーソンと国防長官を務めたジェイムズ・マティスの後見が必要なほどだった、とボルトンは述べている。ボルトンはティラーソンとマティスについて、「大人の枢軸(the axis of adults)」と呼んだとされている。

ボルトンはトランプ大統領を馬鹿者と評したが、これは政治的に言えば、より鋭利なダーツの矢ということになるだろう。この言葉は、ウクライナをめぐる対応をはじめとする弾劾に値するトランプ大統領のその他の行動に対する深刻な批判よりも、政治的に見れば厳しいものとなるだろう。

多くの人々の注意を引きそうなエピソードとして、レックス・ティラーソンの次の国務長官となったマイク・ポンぺオと会談を持った際、ポンぺオはボルトンにある走り書きをしたメモを渡した。そこにはトランプ大統領について、「彼は頭の先まで糞が詰まった奴だ(He is so full of shit)」と書かれていた。

この発言は、かつてのトランプ政権内部にいた人々によって使われ、もしくは暴露される嘲りの山に新しい要素を一つ加えるだけに過ぎない。

ティラーソンはトランプ大統領を「くそったれの馬鹿野郎」と呼んだと言われている。ボブ・ウッドワードの著書『恐怖』では、法律家のジョン・ダウドはトランプ大統領を「くそったれの嘘つき野郎」と考えていたとし、元大統領首席補佐官ジョン・ケリーはトランプ大統領を「愚か者」だと見なしていた、と書かれている。ダウドとケリーはこのような描写を事実ではないと否定している。

トランプ政権内部や外部の支持者たちは、ボルトンの本の信憑性を貶めようと大変な努力をしている。これは、こうした人々がボルトンの本がもたらす危険性について認識していることを示すサインである。

ボルトンの本の出版前審査は論争を巻き起こしている。国家安全保障会議は内容のいくつかの変更を求めている。それは表向き国家安全保障を理由にしている。

ボルトンの弁護士チャック・クーパーは先週、『ウォールストリート・ジャーナル』紙に論説を掲載した。その中でクーパーは、「こうした動きは国家安全保障を口実にしてボルトン市を検閲しようという明白な試み」だと主張した。

火曜日、司法省は著作についてボルトンに対して民事訴訟を提起した。本のタイトルは『それが起きたその部屋』だ。訴訟提起過程で、司法省は本に対して大いなる宣伝をすることになってしまった。6月23日に発売されることになっているが、水曜日午後の時点で、アマゾンでベストセラーランキング第1位にランク付けされている。

勿論のことだが、ボルトンは反トランプ「ルネサンス」にとっての英雄ではない。タカ派の外交政策専門家であるボルトンが最初に全国的な注目を集めたのは、ジョージ・W・ブッシュ元大統領政権の時代だ。ボルトンはイラク戦争を主導した。

2005年、ブッシュ大統領(当時)がボルトンを米国国連大使に指名した時、連邦上院から人事承認を得られなかった。そこで連邦議会休会中に任命するということになった。

ボルトンがトランプ政権に参加したのは2018年4月からだったが、北朝鮮、イラン。アフガニスタンといった諸問題について、とランプ大統領よりも、より強硬なアプローチを好んだ。

2人の姿勢の違いは、9月になって決定的な争いへとつながった。ボルトンは、自分は辞任したのだと述べたが、トランプ大統領は、ボルトンを更迭したと述べた。

トランプの後援者たちはボルトンが本を書いた同期について疑義を呈することで、ボルトンの重要性を低めようとしている。「アメリカを再び偉大に(MAGA)」陣営とリベラル派が合意している点というのは大変に珍しいケースである。

民主党員の多くとその他のトランプへの批判者たちはボルトンを攻撃している。批判者たちは、ボルトンが今年初めの大統領弾劾の時期に証言を抵抗したが、それは本で金儲けをするためだった。一説にはボルトンは本の出版契約の段階で200万ドル(約2億①000万円)を手にしたと言われている。

ジム・ジョーダン連邦下院議員(オハイオ州選出、共和党)は連邦議員の中でも特にトランプを強力に支持している人物だ。ジョーダン議員は水曜日、ボルトンには「嫌らしい下心」を持っていると嘲った、とCNNの記者はツイートで報じた。

2016年大統領選挙でトランプ陣営に参加したジェイソン・ミラーは、2020年の選挙でも上級顧問として参加している。ミラーはハッシュタグ「#BookDealBolton」を使おうと呼びかけ、ボルトンは「アメリカの国家安全保障よりも本を売ることにしか関心を持っていない」と述べた。

ワシントンの共和党関係者たちも嫌悪感を示している。

過去の共和党の政権に参加したある人物は、ボルトンの本の詳細が表に出始めた先週本紙の取材に対して、元国家安全保障問題担当大統領補佐官ボルトンは「復讐」と「政権内部のゴシップ晴らし」をしたいだけだと述べた。

こうした見方への支持は、連邦下院情報・諜報委員会委員長アダム・シフ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)からも出ている。シフ議員は大統領弾劾手続きを進めた人物だ。

シフは、ボルトンが議会での証言に抵抗したことと、ボルトンのスタッフたちが証言に応じた「勇気」と対照させた。

シフは「ボルトンは作家ではあるかもしれないが、愛国者では断じてない」と批判した。

いずれにせよ、ボルトンに対する批判のいくつかはトランプ大統領への弾劾の時期に生まれた疑問をまた抱かせる。

大統領に対する弾劾はウクライナ問題に集中した。トランプ大統領は東ヨーロッパに対する米連邦議会が決めた援助についてそれを行うためにはジョーバイデンに対する捜査を行うように求めたのは明らかだ。しかし、ボルトンは同様の試みが中国に対して行われていたと主張している。

ボルトンは2019年6月のG20サミットについて書いている。この会議の席上、トランプは中国国家主席習近平に対して、2020年の大統領選挙で勝利できるように助けて欲しいと依頼した、としている。

『ワシントン・ポスト』紙によると、ボルトンは次のように書いている。「トランプ大統領は、選挙の結果において、農民の重要性と中国が大豆と小麦の購入量を増加することの重要性を強調した。私はトランプ大統領の発した言葉を正確に転載しようとしたが、政府による出版前の審査プロセスはそれを許可しなかった」。

多くのメディアはこの問題を中心に報道することになるだろう。

しかし、こうした描写への関心が高まっている中で、ボルトンの「トランプ大統領はど素人であり、無能力」という描写が人々の記憶に最も刻まれる点となるだろう。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

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ノモンハン 責任なき戦い (講談社現代新書)

 個人的なことから書くのは申し訳ないが、戦争関連の書籍を読むとき、なかなか手が伸びないのがノモンハン事件とミッドウェー海戦に関わる書籍だ。どちらも日本という国と日本人が持つ短所を象徴するように思えてならないからだ。

 『ノモンハン 責任なき戦い』も買ってはみたがなかなか読もうという気持ちにならなかった。それは連隊長クラスから下に対する過酷な措置と上位者の無責任な態度に気分が悪くなるということが分かっており、躊躇してしまったからだ。

 本のタイトルにある通り、「責任なき戦い」は日本軍の宿痾であり、これは現在の日本でもその通りだ。森友学園問題について近畿財務局に勤務するノンキャリアの官僚の自殺ということも起きた。約80年前に起きたノモンハン事件(ハルハ河の戦い)の後の連隊長位への自殺強要とつながる。また、この「責任なき戦い」はインパール作戦の悲劇をも生み出している。

 ノモンハンはモンゴルと満州国の国境地帯にあるハルハ河付近にあり、ロシア側ではノモンハン事件をハルハ河の戦いと呼んでいる。1939年にここでソ連・モンゴル軍と日本の大部隊が戦い、日本側の敗北に終わった。死傷者数はソ連側が約2万5000、日本側が約2万だった。この点で「日本側が勝った」という評価もあるようだが、ソ連の圧倒的な物量と機械化の前に、白兵突撃を主戦法とする日本は徒に犠牲を増やしていった。

 東京にある参謀本部は日中戦争解決に集中するために、ただの平原を争うための戦争はしたくなかった。一方、満洲に駐留する関東軍はソ連や満州がこれまでに数度国境を侵犯してきたこと(国境は確定しておらず、関東軍が勝手にここまでが国境と決めていた)に憤激し、「無敵」関東軍が鎧袖一触、ソ連軍を蹴散らしてやると息巻いていた。

 中央は不拡大、出先は功に逸るという図式は他の国の軍隊でも歴史上多く見られた。しかし、問題は日本軍の場合、独断専行の伝統もあり、出先が中央や上位機関の統制に服さないという特徴がある。中央にしっかりした人物がいれば統制できるのであるが、出先の強硬派と先輩・後輩、以前の上司・部下の関係で「甘い」人物や「面倒くさがり」の人物がいれば、出先の意見がいつの間にか通ってしまうという結果になる。ノモンハンがまさにそうであった。

 日本軍は自己催眠にかかったように、自分たちが「無敵」と思い込むと、戦争の準部を怠る傾向にある。敵の情報をあらゆる手段を尽くして集めることをせず、奇跡的にもたらされた敵の情報を過小評価し、自軍に不利な情報を提供した人物を「軟弱」と罵った。ノモンハンでも駐ソ駐在武官がシベリア鉄道で日本に帰還する途中、昼夜兼行でソ連軍の動きを観察し、大規模動員が行われている情報を掴んでいたのだが、「そんなはずははい」の一言でこの情報を切って捨てた。

 そして、いざ戦いとなると、ソ連軍の圧倒的な物量と優れた武器の前になす術がなくなる。得意の白兵突撃や夜襲切込みでは大砲や高速戦車に対抗することはできない。戦車の装甲は銃弾を跳ね飛ばすことはできるが、人間の体はいくら気合や魂が入っていても、銃弾を跳ね飛ばすことはできない。

 日本軍の主力で戦ったのは第二十三師団だった。この師団は結成間もなく、訓練がまだ十分ではなかった。師団長の小松原道太郎中将は情報畑が長く(駐露駐在武官やハルピン特務機関長など)、実戦経験は少ない人物であった。また、小松原にはソ連側のスパイであったという説もある。関東軍の中でも「あの人は戦うタイプの人ではないし、二十三師団はまだ訓練ができていないから、別の精鋭師団を派遣する」ということになっていたが、関東軍司令官の植田謙吉大将は、ノモンハン付近は第二十三師団の担当地域であり、後退させるのは気の毒だということで、二十三師団が主力ということになった。そして、8割近い損耗率で敗退ということになった。

 ノモンハン停戦後、関東軍の人事は総入れ替えとなった。上層部は予備役編入(現役から引退)、参謀の服部卓四郎や辻政信は左遷、となったが、現場の連隊長クラス以下には過酷な「措置」が待っていた。部隊がほぼ全滅に瀕しても陣地を守り、最後の最後に転進した連隊の連隊長には「自決強要」がなされた。小松原師団長は責任を部下の撤退に押し付け、「私の師団が壊滅したのは、あいつのせいだ」と憤っていたという。二十三師団捜索隊を指揮した井置栄一中佐はフイ高地を守っていたが、800名の舞台が全滅に瀕し、転進したことの責任を問われ、小松原によって自決を強要された。また、捕虜交換で帰還した者たちは敵前逃亡ということで、将校以上は自決強要、下士官は軍法会議で有罪となった。

 井置中佐の遺族は事件後に井置の死亡の様子を陸軍に問い合わせたが、答えはなかった。しかし事件後のある深夜、軍服姿の小松原中将が井置の自宅を訪れ、仏前に手を合わせて涙を流していたという。

 これはこの本に書いていないが、師団長は天皇から親補される。この点は重要だ。皇居で天皇から直接親補状が手渡される。これはインパールでもあったことだが、師団長を罰するとか解任するということになると、「このような不明な人物を師団長に任命した天皇の責任」ということになり、師団長クラスは実質的に責任を問われないという構図になっていた。それでも、通常であれば、師団長クラスであれば、「私が全責任を負うので部下は免責をお願いしたい」ということで、師団長自身が自決するということが、日本軍のあるべき「将器」の姿である。しかし、小松原にはその覚悟もなかったようだ。

 何かを決定すればそのことに責任が生じる。それは軍隊に限らない。責任者という地位にはそれだけの重みとかつ待遇がなされる。本書『ノモンハン 責任なき戦い』には責任者の地位にあった人物たちの発言が掲載されているが、概して「他人事」であり、「俺だけが悪い訳ではない、あいつもこいつも悪かった」という無反省があふれている。そして、「下のものにはより過酷に、上のものにはより穏やかに」という日本の宿痾がつまっている。これを読めば、80年前のノモンハン事件は決して昔のことではないし、ノモンハン事件のような失敗を日本は二度と繰り返さないということはとても言えないという暗澹たる気持ちになる。

(終わり)

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 古村治彦です。

 ラッパーのカニエ・ウエストが何度目かの大統領選挙出馬表明をツイッター上で行った。「vision2020」というハッシュタグが付いていたので、出るならば今年の大統領選挙に出るということになるという推測が成り立つ。

 出馬できればバイデンからアフリカ系アメリカ人票を削り取ることができるが、これからでは各州での立候補に必要な手続きに間に合わず、立候補できても数が少なくなるということだ。人々の注目を集めるということが今回のツイートの意図だということになる。

 そもそもカニエ・ウエストは妻のキム・カンダーシアンと共にドナルド・トランプ大統領を熱心に支持してきた。今回の出馬が本気だとしても、トランプ大統領の邪魔をするのではなく、各種世論調査でトランプ大統領をリードしているバイデンの票を削りたいという意図があるだろう。

 ウエストの出馬宣言に対して、テスラ社CEOのイーロン・マスクが即座に反応し、支持を表明した。また、この数日前には、マスクとウエストが一緒に写った写真を、ウエストがツイッター上に投稿している。イーロン・マスクは中国で厚遇されている。テスラは中国で業績を伸ばしている。

(貼り付けはじめ)

●「テスラCEO、中国の重要性を強調 トランプ氏に一線」

2019/8/29 13:52

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49143660Z20C19A8FFE000/

【上海=松田直樹、多部田俊輔】中国上海市で29日開幕した世界人工知能(AI)大会に米電気自動車(EV)大手、テスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏が登壇し、「中国は大きな進歩を遂げた。環境面でも世界をリードしている」と中国市場の重要性を強調した。トランプ米大統領の「米国内への生産移管も含めて中国の代替先を探し始めるよう命じる」との呼びかけに一線を画した格好だ。

マスクCEOは中国ネット大手、アリババ集団の馬雲(ジャック・マー)会長との対談で、中国市場などに関する自らの考えを明らかにした。上海市で建設中の新工場について「ギガファクトリーを上海に建設することに興奮している」と語った。中国の自動車市場については「世界のEVの製造の半分を中国が占めている」と評価した。

AI大会ではマスク氏のほか、米マイクロソフト幹部も登壇して演説した。米アマゾン・ドット・コム傘下のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が参加してAIを使ったクラウドサービスなどを展示したほか、IBMAIなどの新技術を出展。米中摩擦が激化する中でも、米国の主要企業が中国を重要市場と位置づけていることが浮き彫りとなった。

テスラは上海市郊外の新工場を年内にも本格稼働させる。外資企業としては初めて、単独出資による国内生産が始まる。既に新工場のオフィスでは同社の従業員が勤務を開始している。

まずは既存車種に比べて安価な主力の小型セダン「モデル3」を量産し、2020年に発売を予定している小型の多目的スポーツ車(SUV)「モデルY」を追加する。モデルYは既存の高級SUV「モデルX」の半値程度で、中国市場を開拓する戦略車として位置づける。

テスラの足元の中国での販売は好調だ。1916月の販売台数は約21千台で前年同期の2倍超に増えた。

(貼り付け終わり)

 マスクはトランプ大統領と対立しているように見えるが、二人はビジネスマンであり、「カネを儲けることが正しいこと」という信念は共通している。世界中どこででも金儲けができるならそれは正しいこと、ということになる。マスクにとって、トランプ大統領とバイデンを比べた場合、中国に対して激しい言葉遣いはするが決定的な対立はしないトランプ大統領の方が望ましいということになる。バイデンの場合、対外政策が不透明で、民主党の人道的介入主義派、ヒラリー派が対外政策を乗っ取る可能性が高い。バイデンの副大統領候補にスーザン・ライスの名前が急に出てきたのもその危険性を示す兆候だ。

 マスクはそもそもカニエ・ウエストの友人であるが、トランプ大統領が望ましいという点でも共通している。だから、ウエストの大統領選挙出馬に即座に支持を表明した。荒唐無稽と切って捨てるのは感嘆だが、その裏にある意図も考えてみるのは重要だ。

(貼り付けはじめ)

カニエが大統領選挙出馬とツイート(Kanye tweets he's running for president

ブルック・シーペル筆

2020年7月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/blogs/in-the-know/in-the-know/505893-kanye-tweets-hes-running-for-president

土曜日、カニエ・ウエスト大統領とファースト・レディのキム・カンダーシアンという将来の可能性が少し実現に近づいた。ラッパーのカニエ・ウエストは今年の大統領選挙に出馬するとツイートした。

7月4日に独立記念日のツイートで、43歳になるミュージシャンでありファッションデザイナーであるウエストは大統領選挙に出馬すると述べ、ハッシュタグ「2020 vision」を使用した。このハッシュタグを使うことは、今年の秋の選挙に参戦するということを彼が計画していることを示していることが明らかだ。

ウエストは「神を信頼し、私たちのヴィジョンをまとめ、私たちの未来を構築することで、アメリカの前提を認識しなければならない。私はアメリカ合衆国大統領選挙に出馬する」と書いた。

「スペースX」創始者イーロン・マスクはこのウエストのツイートに即座に反応した。「私は全幅の支持を君に与える!」。

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ウエストは過去にも大統領選挙に出馬すると表明した。ウエストはマスクと彼自身の写真を最近アップした。写真のキャプションは、「友達の家に行った時、お互いオレンジ色の服を着る」というものだった。

20200702kanyewestealonmusktweets002

ウエストはこれまで何度もトランプ大統領への支持を表明し、今年4月には今年の秋の選挙ではトランプ大統領に投票すると示唆した。

ウエストは次のように語った。「みんな俺が誰に投票しようとしているか分かっている。俺の周りの奴らのいうことなんて聞かないさ。奴らは俺のキャリアが終わると言っている。だけど、いいか、俺は言うことは聞かない。なぜなら、俺は今ここにいてキャリアが終わっていないからだ」。

ウエストは2018年10月に大統領執務室を訪問したことで知られている。この時、赤い「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」帽子をかぶり、トランプ大統領とポーズを取りながら、「俺はここにいるこの人が大好きなんだ」と述べた。

ウエストの妻であるリアリティTVのスター、キム・カンダーシアンは刑法司法改革を推進する活動家としてホワイトハウスを訪問した。

もしウエストが出馬するとなると、ゲームに遅れて参加ということになる。共和党、民主党の両党の全国大会の開催は翌月に迫っている。全国大会で両党は大統領選挙本選挙の候補者をそれぞれ正式に発表することになる。

今年の選挙にウエストが真剣に出馬する計画を持っているのか、そして必要な公式の書類を提出しているのかどうかは明確になっていない。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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