古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2020年08月

 古村治彦です。

 2020年8月28日、安倍晋三内閣総理大臣が辞任の意思を表明した。午後2時過ぎにマスコミ各社がほぼ一斉に「安倍首相辞任へ」「体調の悪化のために国政に迷惑をかけられない」という速報を出した。昨日は元々午後5時に安倍首相による久しぶりの記者会見が予定されていた。この記者会見をめぐっては、体調悪化のことを説明しつつ、新型コロナウイルス感染拡大と経済対策について発言がある、という憶測や、いや首相辞任の発表だという憶測が飛び交っていた。結局、昨日の記者会見は新型コロナウイルス感染拡大対策のパッケージの概要の説明が冒頭にあり、その後、首相辞任の意思表明が行われた。

 安倍首相は17歳の頃に、潰瘍性大腸炎を発症したということだ。現在65歳であるので、約50年間にわたり、この病気と向き合い、対処してきたということになる。その間にはアメリカ留学、神戸製鋼への就職、父安倍晋太郎議員の秘書への転進、父の地盤を受け継いでの国会議員、小泉純一郎内閣での官房長官、首相を二度務めるという経歴だ。この50年の間には大腸の全摘出も検討されたこともあったそうだが、薬剤の劇的な進歩もあり、コントロールをしながら、仕事や社会生活を営むことができたようだ。この点は、レガシーとして日本社会に定着して欲しい。持病がある人でも、通院しながら、仕事や社会生活を積極的に行える社会になって欲しい。これは甘すぎる考えかもしれないが、病気の治療や検査のために、時に休みを取る、もしくは通院のために1週間のうちに半日でも休みが取れる、それが当然のようになって欲しい。

 安倍首相、安倍政権に関して、私は全く支持してこなかった。選挙のたびに安倍首相が退陣するような結果になることを期待したが、結局国政選挙は6連勝という形で終わった。安倍首相を選挙の結果によって退陣に追い込めなかったのは、安倍首相を支持しない人々や野党にとっては敗北である。今回の辞任表明を私は素直に喜ぶことができない。

 安倍首相は昨日の会見で「政治は結果だ」と述べた。その結果であるが、惨憺たるものだ。一言で言えば、アメリカによる属国化がますます深まり、東アジアの平穏を乱す要因が日本ということになり、北方領土が返還される見込みはほぼなくなり、経済を見ると、実質賃金は上がらず、GDPは拡大せず、中国にはますます置いていかれ、ドイツには迫られる、格差は拡大し、少子高齢化に歯止めがかけられなかったということになる。安倍首相は在任中に雇用を生み出したとは述べたが、デフレ脱却には至らなかったと反省の弁を述べた。8年間でできることは限られていると言えばそれまでだが、好転する兆しすら見えなかった。安倍首相は自著のタイトルにした「うつくしい国」を実現したとは思えない。

 安倍首相の長期政権についてはこれから様々な分析がなされるはずだ。功罪様々なことが言われるだろう。私が思う安倍長期政権のレガシーは「忖度」と「私物化」であり、安倍政権が長期にわたって続いたのは、「惰性」であったと思う。「忖度」と「私物化」はセットである。森友学園問題(安倍晋三記念小学校開学問題)、加計学園岡山理科大学獣医学部開設に絡む問題、公文書保存に関する問題、など、権力の私物化とその後始末のために官僚たちに無駄に労力と気遣いを使わせた形になった。なぜそこまでして安倍政権を守らねばならなかったのか、守られることになったのか、政治史を少しでもかじった人なら不思議であっただろう。全く有能ではなく、成果も挙げていない、そんな人物が何度もスキャンダルや危機をうやむやな形ではあったがやり過ごしてきた。自民党内から反対の動きも出ることなく、国民も無関心という状況が続いたこれまでの8年間だった。

 それはやはり、「現状のままで良いや」「安倍首相以外には考えられない」という「惰性」が続いた結果である。そのために、安倍首相も辞め時を逸したという感さえある。安倍政権下では、成果よりも「道半ば」「うまくいっているがまだ全体に行きわたっていない」という言葉が強調され続けた。「やっていてある程度の成果は出ているが、目指している結果には達していない」ということを言い続けた。それならば、安倍政権が続いていくしかない。しかし、安倍政権が続いても、それらの結果を得ることは不可能である。そのために「道半ば」「いまだ遠し」ということになって、だらだらと政権が続いていくことになった。何かしらの成果が出れば、その時点で辞めるというのは日本のこれまでの首相の身の引き方の一つのモデルである。「一内閣で一つの課題」解決ということだ。しかし、安倍首相は、何事もなさなかったが故に、身を引く機会もなかったということになる。

 また、安倍首相を支える人々はそれぞれ65歳の安倍首相よりも年上、70代後半の麻生太郎財務大臣兼副首相であり、二階俊博自民党幹事長、70代前半の菅義偉官房長官である。以前であれば、それぞれの派閥内部で内部闘争が起き、跡目相続や現在の領袖の追い落としがあった。しかし、長期政権を支える、惰性を言い換えた「安定」のために、これらの人々は世代交代の恐れを抱くことなく、権力をふるうことができた。そして、自分たちの派閥を大きくすることに成功した。しかし、結果として、自民党内部にはニューリーダーは育たず、世代交代もうまくいっていない。また、急激に議員数が増えたために、いわゆる入閣適齢期と言われる議員たちが60名もいる状態で、沈滞ムードである。自民党も日本も惰性の中で、ある種の安眠を貪り続け、活気と成長力を失った。

 安倍首相は総理の座からは退くが、国会議員は続けるという意向を示した。キングメイカーとして影響力を残すということが一般的に考えられるが、まだ65歳ということを考えると、再登板ということも視野に入れているのではないかと思う。今回は「政権投げ出し」という批判が起きないように、きちんと病気について説明した。病気が絡むと批判がしにくくなることも狙ってのことだろう。心身ともにボロボロになってどうしようもなくなっての退陣という感じは昨日の会見からは受け取れなかった。余力を持って辞めることで、キングメイカー、上皇として院政を敷く、また、再登板も狙うということもある。自民党内部の世代交代が成功しておらず、人材も育っていない現状もある。

 次期自民党総裁、首相選びについては、党員票の比率が高い総裁選挙方式なのか、議員票の比率が高い両院議員総会方式なのか、で割れている。下の記事にあるように、二階幹事長は両院議員総会方式を考慮している

(貼り付けはじめ)

●「自民、後継首相を15日にも選出へ 両院議員総会の方向 石破氏は31日に出馬表明へ」

8/28() 19:58配信 産経新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/8c178f5e2968c38ad65ecba56e4ffc9e201f5367

 自民党は安倍晋三首相(党総裁)の後継を選ぶ総裁選について、手間のかかる党員・党友らの直接投票は行わず、国会議員らの投票で決める両院議員総会で選ぶ方向だ。党幹部は、15日の投開票を軸に調整していることを明らかにした。党内では、首相を一貫して支えてきた菅義偉官房長官の登用を求める声があるほか、知名度の高い石破茂元幹事長は31日に出馬表明する方向だ。首相が本命視してきた岸田文雄政調会長も出馬準備を進めている。

 総裁選の方法は、9月1日の総務会で正式決定する見通しだ。二階俊博幹事長は、今月28日のTBSの番組収録で、「そのときの状況によって緊急の手段を講じていく」と述べ、両院議員総会での選出もあり得るとの見方を示した。

 党則では、総裁が任期中に辞任した場合は、両院議員総会での選出が認められ、選挙人は国会議員と都道府県連の代表3人とされている。任期は前任の期間を引き継ぐ。今回のケースは来年9月までとなる。

 党員投票まで含めた総裁選は、候補者による大規模な全国遊説を行うことが通例で、準備にも一定の時間を要する。逆に、両院議員総会で選ぶ場合は簡素化が可能で、平成20年の総裁選では、福田康夫首相(当時)の辞任表明から麻生太郎新総裁(同)の選出までを約3週間で済ませた。

 ある党幹部は新型コロナウイルス対策も念頭に「党員投票まで含めた総裁選をする余裕はない」と語る。

 後任は、新型コロナ対策に継続性を持たせるため「菅氏をワンポイントリリーフとして登板させればいい」(閣僚経験者)との声がある。岸田氏も、前回の30年総裁選で出馬を見送っただけに、今回は不退転の決意で手を挙げる考えだ。

 ただ、石破派(水月会)幹部は、石破氏が世論調査で高い支持を得ていることから「党員投票も含めた総裁選を行い、堂々と勝った人が首相をやるしかない」と両院議員総会での選出に異論を唱えた。

(貼り付け終わり)

 現在のところ、次期総理総裁の候補者としては、岸田文雄自民党政調会長、石破茂元自民党幹事長、河野太郎防衛大臣の名前が挙がっている。二階氏が主導して両院議員総会方式でということになれば、派閥の意向が大きく影響することになる。現在、自民党の最大派閥は、細田派(実質安倍派)、麻生派、竹下派、二階派、岸田派、石破派、石原派という順番になっている。細田派、麻生派、二階派で岸田氏を擁立して両院議員総会で決めるということが考えられる。石破氏は国民的人気の高さから党員票の割合が高い総裁選挙方式を主張している。麻生氏と二階氏が話しをつけて、両院議員総会で岸田氏選出という形が今のところ考えられる。岸田氏は人と喧嘩をするタイプではなく、派閥の岸田派、宏池会も伝統的に「お公家様集団」と呼ばれるように武闘派は少ない。そうなれば、麻生氏と二階氏の院政ということになる。そうなれば国民的な支持を得られないということになる。そのような古臭い決め方では国民が納得しないだろう。

 安倍首相は記者会見の中で、次の方が決まるまではしっかりとやれるということを述べていた。臨時代行(麻生副総理)を置くことなく、最後までやると明言した(この点から私は安倍首相が余力を持って辞めるという印象を受けた)。また、次期総裁選びについても、時間をかけて制作孫朗をしても大丈夫、その間は私がきちんとやれるという発言もあった。私はこの発言から、安倍首相は麻生氏と二階氏をけん制していると感じた。ポスト安倍の動きにおいて、安倍首相自身が影響力を保持しようとしているとも感じた。

 長期政権となった安倍政権と安倍首相を総括すると、惰性という言葉しかない。その間に日本が酷い状況になったが、「安定」という惰性の裏返しの言葉のために、安倍首相は存在し続けた。全くもって無意味な8年間であった。

(終わり)

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 2020年8月13日、イスラエルとアラブ首相国連邦(UAE)が外交関係樹立に向けて動くことに合意したということをアメリカのドナルド・トランプ大統領がホワイトハウスの大統領執務室で発表した。トランプ大統領の後ろには、ジャレッド・クシュナー(トランプ大統領の娘イヴァンカの夫)上級補佐官、スティーヴン・ミュニーシン財務長官が並んで立っていた。このことから、今回の合意を主導したのは、トランプ政権内の関与政策派(現実主義派、穏健派)だということが分かる。
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 今回の合意で、中東地域に「対話」の必要性が認識されるということが述べられている。中東地域では、2つの大国、サウジアラビアとイランが軸となり、そこにイスラエルが絡んで複雑な様相を呈している。加えて、歴史的な経緯から対話など望むべくもない状況であるが、そこにUAEとイスラエルの外交関係樹立というニュースが飛び込んできた。「イスラエルの存在を認めるのか」「イスラエルとの共存を認めるのか」という根本的な問題はある。しかし、現実的に見て、イスラエルを地上から消し去ることはできない。だが、イスラエルがあまりに傲慢に、かつ自己中心的過ぎるほどの行動を続けていくならば、そのことが存在を危うくしてしまうことは考えられる。

 イスラエルによるヨルダン川西岸地区の一部併合は、今回の合意の中では触れられていない。この併合計画はイスラエルの現実主義的なイスラエル労働党の流れではなく、中道から右派、現在のベンヤミン・ネタニヤフ政権による強行的過ぎる計画で、凍結することになるのではないかと私は考える。ジャレッド・クシュナー上級補佐官は、イスラエルの存立のために強硬な計画を凍結させ、その代償でUAEとの関係樹立を進めたということになるのだろうと思う。

 アメリカ大統領選挙に関連しては、今回の合意はあまり大きな影響は与えないだろう。アメリカ国民の関心は完全に内向きになっており、国際関係で言えば、対中脅威論に同調するという程度のことだろう。それでも、今回の合意は大統領選挙で争う、民主党のジョー・バイデンも賛意を示したことでも分かる通り、一歩前進ということになる。

(貼り付けはじめ)

イスラエルとアラブ首長国連邦の外交関係樹立についての5つの論点(5 takeaways from Israel and UAE opening diplomatic ties

ロウラ・ケリー筆

2020年8月13日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/national-security/511944-5-takeaways-from-israel-and-uae-opening-diplomatic-ties

トランプ大統領は、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が正式な国交を樹立すると発表した。これは歴史的な外交上の前進である。

しかし、専門家の間では中東地域の変動に対する影響について意見が分かれている。一部の専門家は、これはイランに対抗するための試みの一環として現実を承認した動きだと主張し、別の専門家たちは長期的な戦略というよりも短期的な政治的目標の反映だと述べている。

一方、批判的な人々は、イスラエルがヨルダン川西岸地区の一部の併合計画を凍結することをアメリカが支持していることについて、トランプ大統領のイスラエルとパレスチナとの間の和平プランの重要な部分を損なうものだとして重大な関心を持っている。

これから中東の外交における今回の新しい進展に関する5つの論点を見ていく。

(1)トランプ大統領は外交政策面からの再選に向けた促進材料を獲得(Trump gets pre-election foreign policy boost

トランプ大統領は大統領選挙まで3カ月を切った段階で、外交政策上の勝利を売り込むことができるようになっている。イスラエルとUAEの関係正常化に向けた動きは、イスラエル・パレスチナ紛争の解決のための、トランプ政権の掲げる「繁栄のための平和(Peace to Prosperity)」枠組みの重要は要素となる。

右派、左派両派に属する多くの人々がこの動きを称賛した。その中には大統領選挙でトランプ大統領と戦う民主党の大統領候補者ジョー・バイデンも含まれている。バイデンは声明の中で、今回の合意は、オバマ政権を含む「これまでの複数の政権の努力」の積み重ねの結果だと主張している。バイデンは、合意の発表を受けて「喜ばしい」と述べた。更に、彼自身と副大統領候補であるカマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は今年の11月に当選した暁には、「この前進の上に更に成果を築き上げるために努力する」と述べた。

イスラエル・パレスチナの和平計画はトランプ大統領の外交政策公約の礎石であり、義理の息子で上級補佐官のジャレッド・クシュナーの2年間の努力の成果である。

UAEは今年1月に和平計画が初めて明らかにされた時に、国際社会とアラブ世界の多くの国々が拒絶を表明する中で、積極的に支持を表明した国の一つだった。

しかし、その支持も、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相が今年6月にヨルダン川西岸地区を併合しようとした際に、ほぼ取り消される事態となった。これはトランプ大統領による計画に基づいたものであった。

木曜日のアメリカ、イスラエル、UAEの間での発表では、併合については議論をしていないと特に言及された。

ワシントンDCにあるシンクタンク「ファウンデーション・フォ・ディフェンス・オブ・デモクラシーズ(FDD)」の研究担当の副所長を務めるジョナサン・シャンザー「今回の発表は、クシュナー・アプローチにとっての決定的な勝利だと考えられます。地域の利益と地域の平和はヨルダン川西岸地区の一部の併合よりも優先されたということなのです」と述べた。

しかし、ワシントンDCにあるシンクタンク「アラブ・センター」の上級部長ハリリ・ジャウシャンは、今回の合意は、アブダビ(UAE政府)からの強力なプッシュによるもので、それはUAE自身がトランプ大統領への支持を促進することで利益を得ようとする動きの一環であると述べている。

「公開の合意はUAEによる公の試みということが言えるでしょう。UAEはトランプ大統領が危機に瀕していると考えており、それを何とかしようと考えたのでしょう。UAEはトランプに大統領の地位にとどまって欲しいと考えているのです」。

(2)UAEによる前進は他のペルシア湾岸諸国とアラブ諸国についての疑問を持たせることになった(A step forward by the UAE raises questions for other Gulf and Arab states

イスラエルと実効的な平和条約を結んでいるのはエジプトとヨルダンだけだ。その他の全てのアラブ諸国は2002年に、パレスチナ紛争と主権を持つパレスチナ国家樹立の話し合いによる解決が実現するまでイスラエルを承認しないことで合意した。

ジャウシャンは、今回の合意は、UAEによるイスラエル不承認という考えを損なうものだと述べている。

ジャウシャンは次のように述べている。「二国共存による解決という死体を埋葬してくれる人を探してきたようなものなのです。誰もそんなことをしてくれそうにありませんでした。これはもう一つの機能不全に陥った考えにも同様なことなのです。そのもう一つの考えとはアラブ諸国がイニシアティヴを取るというものです」。

「ワシントン・インスティテュート・フォ・ニア―・イースト・ポリシー」の上級研究員ガイス・アル=オマリは、UAEによる大胆なステップはしかしながら、他の湾岸諸国とアラブ諸国からすぐに追随者が出ることはないだろうと述べている。

オマリは次のように述べた。「この種の新たな展開は広範囲の準備と裏での根回しを必要とします。UAEはペルシア湾岸諸国の中で最も活発な外交を展開している国でしょう。そして、リスクを取ることを厭いません」。

オマリは続けて次のように述べている。「今回の動きはリスクがあります。パレスチナ人の多く、カタール、トルコ、そしてイランからの攻撃に晒されることもあるでしょう。その他の湾岸諸国は事態がどのように進展するかを様子見するでしょう。より長期で見れば、追随する2国が出るでしょう。それはバーレーンとオマーンでしょう」。

(3)中東地域の政治的なダイナミクスが変化(A shifting political dynamic in Middle East

オマリは、イスラエルとの関係を樹立するというUAEの決定は、アラブ諸国間に存在する緊張関係を深めることになるだろうが、新しい関係を作り出すことはないだろうと述べた。

オマリは次のように述べている。「実質的にイランの影響を受けた国々(シリアとレバノン)、カタール、アフリカ北部の国々を含む一部のアラブ諸国は、アラブ連合におけるUAEの会員資格をはく奪、もしくは凍結することを目指す可能性があります。しかし、UAEはサウジアラビア、エジプト、ヨルダンなどのアラブの大国グループの一部です。これらの国々は同盟関係が崩れることを望まないでしょう。パレスチナ自治政府は、UAEの動きに対する怒りに任せて動くのではなく、UAEのアラブ諸国中の同盟国に反感を持たせないようにすることが重要です」。

FDDのシャンザーは、UAEの動きは、イスラエルとヨルダンの関係を強める可能性があると述べている。ヨルダンはヨルダン川西岸地区の併合が進められれば大きな圧力を感じている。

シャンザーは「UAEがイスラエル国内でのヨルダン川西岸地区の併合についての議論を明確に止めたという事実は、ヨルダンとイスラエルの緊張関係を取りぞくことを意味します」とも述べている。

(4)イランはトランプ大統領、アメリカの同盟諸国の動きによって決断する方向に向かう(Iran drives decisions for Trump, allies

イスラエルとUAEの正式な関係樹立はトランプ政権がイランに対する圧力を強める中で起きた。トランプ政権はオバマ政権下でのイランとの核開発をめぐる合意の最後の部分を破壊しようと圧力をかけている。これはイラン政府に対してアメリカが圧力を強めていることを示すシグナルである。

ワシントン・インスティテュートのオマリは「イランは、イスラエルとUAEの間の利益の転換の真ん中にいます。両国はイランを自国の存在に関わる根本的な脅威と見なしています。今回の動きは対イラン枢軸の形成を促すことになるでしょう」と述べている。

大西洋協議会の「フューチャー・オブ・イラン・イニシアティヴ」のディレクターを務めるバーバラ・スラヴィンは、新たな正式な関係は、外交と対話の力を示すものであり、イラン政府はそのことを認識すべきだと述べている。

スラヴィンは次のように述べている。「イランは今回の合理について非難するでしょう。しかし、テヘランにいるイランの最高指導者層は、イスラエルを承認しないことがいかに時代遅れで、非生産的なことかを考えさせられることになるでしょう。中東地域に存在する全ての国々は、すぐに対話を持つ必要があります。特に長年にわたり敵対してきた国々の間での対話は必要です。つまり、今回のUAEとイスラエルの動きを単に“反イラン的”と形容するのは、地域の和解を更に困難にするでしょう」。

(5)しかし今回の合意は有権者の共感と支持を得られるだろうか?(But will it resonate with voters?

木曜日の発表は、ワシントンの外交政策エスタブリッシュメントから興奮をもって受け入れられた。しかし、大統領選挙に対する影響は最小限度のものとなるだろう。

エモリー大学政治学教授アラン・アブラモビッツは「外交政策は現状ではほぼ注目されていません」と述べた。

有権者たちの関心は新型コロナウイルス感染拡大、経済の危機的状況、ジョージ・フロイド殺害事件から人々の意識が高まった人種に関する正義問題に集まっている。

アブラモビッツは「今回の大統領選挙に関しては、外交政策問題は関心リストのかなり下に位置することになります」と述べた。

UAEとイスラエルの関係強化はトランプ大統領の支持基盤を強めることになるだろう。支持基盤の有権者にとって、トランプ大統領はイスラエルにとって最良の米大統領ということになる。しかし、新型コロナウイルス感染拡大と経済状態について関心を持っている、様子見の有権者たちを動かすことはほとんどないだろう。

共和党系の世論調査専門家であるウィット・アイレスは次のように述べている。「イスラエルと近隣諸国との関係についての問題はそれらに関心を持っている人々にとっては重要なのです。しかし、より多くの人々にとって、本当に関心を持っている問題は新型コロナウイルス感染拡大とその結果としての景気後退なのです。それらに加えて、人種をめぐる不正義と都市部での暴動なのです」。

トランプに対する反対者たちにとって、ヨルダン川西岸地域の併合の凍結は歓迎すべき動きだと考えられるが、トランプ大統領が独自のもしくは卓越した外交技術を持つことを示すものではない。更に言えば、進歩主義派は、併合の凍結は、併合という政策自体が破綻していることをトランプ大統領が認めたということになると考えるだろう。進歩主義派は長年にわたり、併合はパレスチナ側との交渉とアラブ諸国との関係改善いう希望を葬り去るものだと主張してきた。

「イスラエル・ポリシー・フォーラム」の政策部長マイケル・コプロウは次のように述べている。「トランプ政権とネタニヤフ首相は併合を推進してきました。しかし、徐々にではあるが、併合はイスラエルと近隣諸国との間の関係正常化を妨げる障害物だということを認識しつつあります。併合を政策から外すことこそがやらねばならないことなのです」。

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 古村治彦です。

 8月17日から20日にかけてヴァーチャルで民主党全国大会が実施された。党の綱領が決定し、ジョー・バイデン前副大統領を大統領選挙本選挙候補者に、カマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)うぃ副大統領候補者にそれぞれ指名した。共和党全国大会も実施され、ドナルド・トランプ大統領、マイク・ペンス副大統領がそれぞれ党の候補者に指名され、選挙戦が最終盤を迎える。

 民主党全国大会では、様々な人物が演説を行った。バラク・オバマ前大統領、ミシェル・オバマ夫人(前ファーストレディ)、ビル・クリントン元大統領などが演説を行った。そうした中で、民主党進歩主義者を代表するバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州、無所属)も演説を行った。その中で、サンダースはバイデン支持を明確に表明し、自分の支持者たちにバイデンを支持するように訴えた。

 全国大会の慣例として、予備選挙で一定数の代議員を獲得した候補者に対しては推薦の言葉を支持する人物が述べることができ、サンダースはその対象者となり、サンダースを推薦する言葉はアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)が90秒間述べることを許された。

 今回の全国大会については、ラティーノ系(ヒスパニック系)の起用が少なかったという批判が出ていることは既に紹介したが、進歩主義派に対しても冷遇であったと私は感じた。AOCは民主党所属の政治家の中でも特に人気と知名度が高く、行動力もある。全国大会を多くの人々に見てもらいたいと思うならば、AOCにもっと長く自由な発言の機会を与える、そのことを広報する(何時ごろ出ますよと知らせる)、と私は考える。しかし、そんなことはなかった。

 ある意味では今回の全国大会はしゃんしゃん大会ということになる。しかし、進歩主義派はそれに満足している訳ではない。党の綱領について、「国民皆保険の道筋が不明確」としてAOCの同僚である進歩主義派の連邦下院議員たちが反対票を投じると述べていたように、不満は残っている。

 民主党内部の亀裂の修復への道のりは長くそして険しい。

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サンダースが支持者にバイデン支持を促す:「失敗の代償は想像を絶するものとなる」(Sanders urges supporters to back Biden: 'Price of failure is just too great to imagine"

ジョーデイン・カーニー筆

2020年8月17日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/senate/512451-sanders-urges-supporters-to-back-biden-price-of-failure-is-just-too-great-to

バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)は月曜日夜、予備選挙で自身を支持した支持者たちに対して、ジョー・バイデン前副大統領を支持するように促した。そして、そうしなければ進歩主義的な価値観が11月には危機に瀕することになると警告を発した。

サンダースはヴァーチャルな民主党全国大会に参加し、演説を行った。その中で、トランプ大統領は「私たちを権威主義(authoritarianism)の奈落に続く道の上に導いている」とし、民主党が11月の選挙で敗れれば、「その失敗の代償は想像を絶するものとなる」と述べた。

ヴァーモント州選出の連邦上院議員であるサンダースは、「次の大統領として、私たちはジョー・バイデンを必要としている。ドナルド・トランプが再選されれば、私たちが成し遂げてきた前進の全ては危機に瀕することになるだろう」と述べた。

サンダースは次のように語りかけた。「私の友人の皆さん、私は皆さんに申し上げます。そして、今回の予備選挙でバイデン前副大統領以外の候補者たちを支持した皆さんにも申し上げます。そして、前回の選挙でドナルド・トランプに投票した皆さんにも申し上げます。我が国の民主政治体制の将来がかかっているのです。我が国の経済がどうなるか危機に瀕しているのです。私たちの住む惑星の将来がどうなるか、この選挙にかかっているのです。私たちは一つになり、ドナルド・トランプを倒し、ジョー・バイデンとカマラ・ハリスを私たちの次の大統領と副大統領に選ばねばなりません」。

月曜日夜のサンダースの演説は、今年4月に民主党予備選挙から撤退してすぐにバイデン支持を表明して以降、人々に最も見られる機会になった。

演説中、サンダースは、2016年と2020年の大統領選挙予備選挙で支持者たちがもたらしてくれた数々の勝利について特に言及し、支持者たちは「アメリカを大胆な新しい方向に進めるために団結」し、「その動きは今も継続し、毎日強さを増している」と述べた。

サンダースは特にバイデンが最低時給を15ドルにまで引き上げること、労働組合への支持、気候変動と戦いことを表明したことを強調した。これはここ数年民主党内の進歩主義派が主張してきたことの勝利を示していると述べた。

健康保険に関して合意書に署名ができなかったことについて、サンダースは、彼とバイデンは「国民皆保険実現のための最高の道筋」について合意はできなかったが、バイデンは、「健康保険の範囲を大きく拡大するための計画を用意している」と述べた。

サンダースは次のように述べた。「私たちはより平等な国家を建設しなければなりません。より思いやりにあふれ、より人々を見捨てない、そんな国です。ジョー・バイデンは大統領就任初日からそのための戦いを始めると確信しています」。

しかし、サンダースは約8分間の演説を行った。全国大会の中では最長の演説の部類に入る。サンダースは11月の選挙とトランプとバイデンとの間の選択を、アメリカの将来のための戦いと形容した。

サンダースは次のように述べた。「今回の選挙は我が国の近代史において最重要なこととなるでしょう。私たちはこれまでにないほどの一連の危機に直面していますが、私たちはこれまでにない対応をする必要があります。これまでにない人々の動きは民主政治体制と慎み深さを守るための準備を既にしています。この戦いは、強欲、オリガ―キー(少数独裁政治)、権威主義体制に対する戦いなのです」。

サンダースは更に、「このトランプ政権の下で、権威主義が私たちの国に根を下ろしつつあります」と述べ、バイデンは、「白人優越主義者たちを甘やかすこと、人種差別的な言葉遣い、宗教的な頑迷、女性に対する醜悪な攻撃」を終わらせると主張した。

進歩主義派を代表し激しい言葉遣いで知られるサンダースは、同僚である民主党の政治家たちを攻撃してきた。しかし、その舌鋒をトランプ大統領の数カ月にわたる新型コロナウイルス感染拡大対策に向けた。トランプ大統領は民主、共和両党の人々から新型コロナウイルス対応の遅さを批判されている。これまでに17万人以上のアメリカ国民が死亡し、500万以上の陽性が確認されている。

サンダースは、「ローマが炎に包まれている間、皇帝ネロは遊び惚けいていた。トランプはゴルフをしている」と述べた。

(貼り付け終わり)

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 古村治彦です。

 日本は「戦前」と「戦後」の区別ははっきりとしている。太平洋戦争における敗北がその分岐点だ。日本は敗戦を受け入れ、アメリカ軍を中心とした連合諸国の占領(ほぼアメリカ軍だが)を経験した。1945年の敗戦からは日本にとっては「戦後」だ。一方、アメリカではそのような区別はない、なぜならばそれ以降も幾度も戦争を繰り返しているからだ、という話を聞いた。

確かに冷戦期においては朝鮮戦争とヴェトナム戦争で大きな犠牲を払っている。また、湾岸戦争も2回実施された(1991年と2003年)。日本の「戦後」である75年の間に10年以上は戦争をしているということになる。

 今回ご紹介する論考は、この75年間にアメリカが戦った戦争は、日本との戦争とは大きく異なり、完全勝利もその後の敗戦国の体制転換ももたらさなかった、ということから、マッカーサーが使った「偉大な勝利」はなかった、ということを論じている。アメリカ国民には受け入れがたいほどのコストがのしかかりながら、完全勝利を得ることはできなかった、その子で国民は苦しみ、不満を持ってきたということだ。
unconditonalsurrenderofjapan1945001

 1945年9月2日に東京湾のアメリカ戦艦「ミズーリ号」(現在はパールハーバーに展示されている)の艦上での降伏文書調印式が実施された。この時の写真や映像は残っており、今でもテレビで放映されたり、雑誌に掲載されていたりする。しかし、これ以降、このような完全な勝利による、敗戦国側がおずおずと儀式に出てきて降伏文書に調印するというような戦争をアメリカは経験していない。言われてみれば、アメリカ側が得意の絶頂になって、勝利を見せつけるということができたのは、太平洋戦争が最後だ。

 このような完全勝利(日本の無条件降伏)ならば、アメリカ国民もある程度の犠牲やコストを甘受しただろう。しかし、その後はこのような完全勝利を得られるどころか、コストに結果が伴わないということが続いている。しかし、無敵アメリカ軍、という印象や日本の降伏と民主化という「幻影」に縛られている。イラク戦争が一応の終結を見た後に、ポール・ブレマー連合国暫定当局(CPA)代表をダグラス・マッカーサーと比べる記事や日本の民主化についての記事がアメリカでも多く出たが、とても成功したとは言えない。

 大成功を収めた後ほど怖い、という処世訓がある。アメリカの場合はこの庶民の私たちが持つ処世訓通りの75年間を過ごしてきたことになる。

(貼り付けはじめ)

日本の無条件降伏がもたらした危険な幻想(The Dangerous Illusion of Japan’s Unconditional Surrender

-これまでの数十年間、アメリカの外交政策は第二次世界大戦を終わらせた方法によって、かえってよくない方向に捻じ曲げられてきた

マーク・ガリッキオ筆

2020年8月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/08/13/vj-day-the-dangerous-illusion-of-japans-unconditional-surrender/

1945年8月15日の夜明けを迎える少し前、国営放送は日本国民に対してその日のうちに天皇からのメッセージがあるので注意するように求める放送を行った。日本全国で、人々は不安の中で、初めて耳にする「玉音(the jeweled voice)」を待った。ほとんどの国民は、天皇が最後まで戦い抜くことを求めるメッセージを発するものと考えていた。国民が耳にしたのは、甲高い、早口の古い日本語で書かれたメッセージであって、国民の多くには理解できなかった。玉音放送の後に解説者が出てきて、天皇は降伏に同意したと説明し、そこでやっと国民は戦争が確かに終わったことを知った。

このニュースがワシントンに達した時、すぐにお祝いが始まった。しかし、戦争を終結させるための正式な儀式は9月2日の日曜日まで待たねばならなかった。日本の正式な敗北はアメリカ海軍戦艦ミズーリ号の艦上で発効した。降伏文書は連合国と日本の代表者によって署名された。この文書は大日本帝国大本営と日本の管理下にある全ての武装勢力が無条件降伏(unconditional surrender)することを宣言した。降伏文書には、天皇と日本政府の権威はアメリカのダグラス・マッカーサー大将の指揮下に入り、全ての文官と軍人はマッカーサーに従うように命じた。調印式の最後に、マッカーサーはマイクの前に立ち、世界中の聴衆に向かって来示を通じ得ての演説を始めた。現在では有名になっている演説は次のように始まった。「本日、銃は静まった。大規模な悲劇は終わった。大きな勝利が勝ち取られた(A great victory has been won)」。

日本の降伏後、日本の非武装化、経済、政治、社会のそれぞれの機構の改革、新憲法の制定、中国と東南アジアに展開していた戦闘では敗れていなかった日本軍の降伏と言ったことが続いた。これらすべては天皇に対するアメリカの影響力によって実行されたものだ。天皇は日本軍に無条件降伏を命令した。飛行機が上空を飛び交い、米第三艦隊所属の200以上の艦船が東京湾を埋め尽くす中で、アメリカの力が全ての場所で誇示された。アメリカ人が戦争における完全な勝利の中にいて、征服した敵に対して自分たちの意思を押し付けることができるということがこの時をもって最後になるなど、この時に参加していた人々は誰も知らなかった。東京湾における軍事力の誇示は日本国民を畏怖させる意図で実施された。しかし、それだけではなく、軍事力によって達成できるものについての誤った印象を増進させることにもなった。

19世紀以降、社会的な発達と技術的な発達によって、戦争は高いコストがつくものとなった。軍事力を通じて国家目的を達成することは政治的に受け入れがたいほどのコストが発生するリスクが大きくなった。近代戦争において国民が総動員されることは、交戦諸国に対して大きなプレッシャーとなり、勝利国であっても極限での犠牲が大きくなってしまうことになった。アメリカが日本と戦争状態に入った時、アメリカの戦略家たちは、日本本土を孤立させ、幸福を促すために、主に海軍力を使うことでそうした運命に陥らないようにすることを望んだ。この目的のために最初に必要なことは日本帝国海軍の艦隊を壊滅することだった。1945年春までに、アメリカ空軍による日本の諸都市への繰り返しの爆撃によって日本の絶望状態が進んだ。それにもかかわらず、日本政府はアメリカ側が受け入れられる条件を出すことを拒絶した。戦争は継続した。

1945年8月までに、アメリカ陸軍は、太平洋戦争において最も厳しい戦いを経験の少ない新兵が補充された、疲れ切った師団で戦うための準備を行っていた。苛立ちを募らせた国民と批判的な政治指導者たちは、日本の無条件降伏と同義とされた勝利が受け入れ可能なコストで達成されるのかどうか疑問を持った。2発の原子爆弾とソヴィエトの対日参戦はそのような議論を終わらせ、誰も想像しなかった素早い決定がなされた。運命の突然の逆転は、後の世代が、日本の抵抗とアメリカ国内の分裂のためにアメリカの戦略がどれほど混乱したかが分からなくなってしまった。また東京湾上での降伏文書調印儀式は、後の世代に、「戦争の終わりはこうであらねばならない」、そして「これは再現できることなのだ」という考えを植え付けた。

アメリカの次なる戦争は、時期と場所だけが太平洋戦争のパターンにそっくりなものとして出てきた。朝鮮戦争は奇襲攻撃から始まった。この奇襲攻撃によって、アメリカと同盟軍は後退を余儀なくされ、国連による攻勢によって体勢を立て直すに至った。仁川(インチョン)の二正面による上陸作戦の成功は、マッカーサーが第二次世界大戦において行ったニューギニア北部で行った飛び石作戦を思い出させるものとなった。この成功によって、北朝鮮への侵攻と完全勝利への期待が高まった。中国人民解放軍の介入によってこれらの希望は打ち砕かれた。そして、国連は長期にわたる、徐々に人々からの支持を失っていった戦争を戦うことになった。そして、戦争目的は限定的なものとなった。朝鮮戦争においては、アメリカの戦艦の艦上で敵の降伏を受け入れるということもできないものとなった。戦争は板門店のテントの中で、厳しい停戦交渉の末に実現した。

アメリカがヴェトナムに直接介入する時までに、戦闘における核兵器の使用は不可能だという戦略的分析が既になされていた。特にアジアにおいてはそうだとされていた。広島で核兵器が使用されてからの10年間、アメリカの戦略家たちは、アジア地域における核兵器の使用について、使用してしまうと、地域に住む人々に対して「地域の人々の声明についてアメリカ人は無関心なのだ」という認識を与えてしまうという結論を出した。核抑止力の短所を埋めるために、アメリカの軍事思想家たちは、許容できるコストで勝利を生み出すための最善の方法として、機動性と戦術的な空軍力使用を強調する制限戦争という戦略を主張した。アメリカは限定的な目的を設定した。それは非共産主義のヴェトナムの防衛であった。朝鮮半島における中国の介入がまた繰り返されることを恐れて、政府高官たちは、北ヴェトナムに対する地上戦を排除したが、敵の戦争継続能力を破壊することを究極の戦争目的とする軍事戦略を採用した。アメリカは個々の戦闘では常に勝利したが、戦争の勝利は朝鮮戦争の時よりも曖昧なものとなった。

結果は異なっているが、日本との戦争、朝鮮戦争、そしてヴェトナム戦争の間には共通点も見られる。その一つは、アメリカ軍に対して多大な死傷者を強いる一方で、敵は想像を絶する損失に苦しむことを自ら進んで行ったというものだ。もう一つは、アメリカ国民、特にビジネス界と政界の指導者たちが長期戦に伴う犠牲を受け入れ難く考えていたことだ。

歴史的に見て戦争は優柔不断の方向に引きずられてしまうということの証拠としてこれらの共通点を見ることができる。その代わりに、軍事専門家たちは、朝鮮戦争とヴェトナム戦争は、アメリカ人が限定戦争には向いていないことだけを証明したと結論付けた。その救済策はパウエル・ドクトリン(Powell Doctrine)だった。これは1990年代初めのアメリカ軍統合参謀本部議長の名前にちなんでつけられた。この新しい考え方は、二度とヴェトナム戦争のようなことが起きないためとするものだった。その内容は、アメリカはこれから勝てる戦争しか戦わないというものだった。コリン・パウエルはこの考えを1991年に実行に移した。1991年、アメリカと同盟諸国はイラク軍からクウェートを解放した。「砂漠の嵐」作戦は、サダム・フセインをイラクに押し戻すことに成功した。しかし、その目的が達成された後、パウエルはそのままイラクに侵攻すれば、ヴェトナム戦争の時同じ泥沼にはまるのではないかという恐怖感を持った。そこで、攻撃を停止した。軍事上の成功に対する祝意は、失望に変わった。それはサダム・フセインが権力の地位にとどまったことで、アメリカ人には不完全な勝利ということになり、不満が残った。

それから10年後、デジタル革命とそれに付随する武器の進歩によって、新しい世代のアメリカの政治指導者たちは、軍事面での革命を実現したのだと考えるようになった。戦争の新方式の主導者たちは、いわゆる「戦場の全方位における優越(full-spectrum dominance of the battlefield)」を確信しており、これによってアメリカはより低いコストで大きな勝利を得ることができると考えた。軍事に関する革命についての最初のテストは、パールハーバー奇襲攻撃を思い出させることになる911事件のテロリスト攻撃の後に実行された。

911事件の首謀者たちを標的とする限定的な攻撃によって対応する代わりに、アメリカは拡大されたテロリズムに対する世界規模の戦争に乗り出した。第一段階は2001年10月に「不朽の自由」作戦として、アフガニスタンへの侵攻で始まった。第二段階は、「イラクの自由」作戦として2003年3月に始まった。両作戦は共に、中東地域への民主政治体制の拡散のためのより大規模な戦役の計画が実現されたものだった。

2002年10月、ジョージ・W・ブッシュ政権はイラク侵攻を真剣に検討した。軍事面の計画立案者たちは日本占領をイラク侵攻についてのガイドと考えていた。ドイツとは逆に、日本は最も望ましいモデルであった。それは、日本は占領期間中に分裂することなく、統一を保ち、アメリカが非西洋国に民主政治体制を植え付け育てることができることを証明したということが理由であった。しかし、イラクは日本のようにはいかなかった。少なくともブッシュ政権が想像したようにはいかなかった。

2003年4月1日、アメリカのイラク侵攻が始まって2週間後、ドナルド・ラムズフェルド国防長官はイラクの政権の無条件降伏を求めると宣言した。2007年8月、アメリカ軍はイラクでまだ戦闘を続けていた。戦闘が長引くようになり、ブッシュ大統領は、自分の父親たちの世代が獲得した勝利と同様の勝利で「テロとの戦争」は勝利するだろうと語りかけた。対外戦争従軍復員軍人会の会合に出席し、ブッシュはたとえ話から演説を始めた。ブッシュは演説を次のように始めた。「ある良く晴れた日の朝、数千のアメリカ人が奇襲攻撃で殺害され、私たちを世界中に進出させることになる、戦争に私たちの国は入ることになりました」。

ブッシュは続けて次のように述べた。「私が述べている敵とはアルカイーダのことではありません。奇襲攻撃は911事件のことではありません。帝国はオサマ・ビン・ラディンが夢想する急進的なカリフが統治する帝国のことではありません。私が述べているのは、1940年代の日本帝国による戦争マシーン、日本帝国によるパールハーバーへの奇襲、日本帝国による東アジア地域への帝国の拡大、ということです。」中東地域での民主政治体制の拡散という試みと努力を無駄だとする批判者たちを非難するために、ブッシュは、聴衆たちに対して、日本の民主化については当時の専門家たちも疑念を持っていたことに注意するようにと述べた。

ブッシュ大統領が演説をした時までに、アメリカ国民は既に中東での十字軍遠征に対する熱意を失っていた。1945年夏のアメリカ国民と同様、アメリカ国民は怒りに任せて始めた戦争についてすでに過去のこととして関心を失い、国内問題に関心を集めるようになっていた。ほとんどのアメリカ国民にとって、中東での完全勝利の代償はその価値を超えるものとなっていた。

アメリカ人が日本との戦争終結75周年を記念する際、2発の原子爆弾とソヴィエトの参戦によって日本の無条件降伏は促されたということを思い起こすことになるだろう。偉大な勝利が勝ち取られた。短い間、ほんの短い間、アメリカは歴史の法則から自由になった。そして、国民が受け入れられるコストで勝利を得ようと苦闘する他の国々の運命からも免れた。そのような瞬間は二度と戻ってこない。また、そのようなことが実現できると期待すべきではないのである。

※マーク・ガリッキオ:ヴィラノヴァ大学歴史学教授。『無条件:第二次世界大戦における日本の降伏(Unconditional: The Japanese Surrender in World War II)』著者

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 民主党全国大会が新型コロナウイルス感染拡大を考慮してオンラインで開催され、党の綱領が採択されるとともに、11月の大統領選挙の候補者としてジョー・バイデン前副大統領、副大統領候補にカマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)が指名された。

 民主党の課題は党内融和である。具体的には、民主党主流派・エスタブリッシュメントと、進歩主義派との間の対立を緩和することである。しかし、ここにきて、「ラティーノ系(ヒスパニック系)がないがしろにされている」という不満が出ている。ヒスパニック系とは、スペイン語を話す人々を指すが、中南米からの移民ではポルトガル語やフランス語を話す人たちもおり、そうした人々を含める言葉がラティーノ(女性系はラティーナ)となる。
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フリアン・カストロ
 オバマ政権で、30代の若さで住宅・都市開発長官を務めたフリアン・カストロ(元テキサス州サンアントニオ市長でもある)が民主党内に多様性が反映されていないという批判を行った。カストロは2016年の大統領選挙では、民主党の大統領候補となったヒラリー・クリントンが副大統領候補に指名することを考慮した人物であり、また、今回の大統領選挙の民主党予備選挙にも出馬していた。民主党にとっては期待の、40代の若手のホープである。
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全国大会でのアレクサンドリア・オカシオ=コルテス

 しかし、カストロは今回の民主党全国大会で演説の機会を与えられなかった。また、ラティーノ系は3名しか演説の機会を与えられなかった。進歩主義派で、若者に絶大な人気を誇るアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)は、儀礼的なサンダース推薦の演説を僅か90秒間やらされただけだった。AOCが5分でも話すということであれば、視聴者数は増えただろうが、よほど民主党主流派から嫌われているようだ。

 バイデンは民主党予備選挙で序盤低調であったが、2月末のサウスカロライナ州で息を吹き返した。これはアフリカ系アメリカ人有権者の圧倒的な支持があったためであるが、そのために、アフリカ系アメリカ人に偏重するのではないかと声が、他の非白人マイノリティグループが出ていた。ヒスパニック系からは「副大統領候補はヒスパニック系から出して欲しい」という声も出ていたが、インド系とジャマイカ系の移民の子女であるハリスに決まった。ヒスパニック系はマイノリティでは最大の人口を誇るが、このような動きに対して疎外感を感じている可能性もある。そして、そこから不満が出るということになる。

 今回の選挙のことだけでなく、長期的に民主党がどう動いていくのかということは注目される。

(貼り付けはじめ)

フリアン・カストロが「バイデンが勝利してもラティーノ系からの支持は減る」と警告(Julian Castro warns Democrats they could lose Latino support even if Biden wins

レベッカ・クレア―筆

2020年8月18日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/512466-julian-castro-warns-democrats-they-could-lose-latino-support-even-if-biden

前住宅・都市開発長官フリアン・カストロは最新のインタヴューの中で、民主党は、党の大統領選挙候補に内定しているジョー・バイデンが11月の選挙で勝利を収めたとしても、ラティーノ系有権者の間での支持を失うだろうと警告を発した。

カストロは今年1月に民主党予備選挙から撤退した。カスロトは火曜日に発表された「アクシオス・オン・HBO」のインタヴューの中で次のように述べた。「私たちは戦闘には勝てるが、戦争には負けるだろうと考えています。11月、私たちは勝利を収めることができるでしょうが、民主党に対するラティーノ系の支持は減ってしまう可能性が高いのです」。

ラティーノ系は、今年の選挙における、非白人系で最大の有権者グループとなる。しかし、カスロトは、ラティーノ系共同体は頻繁に「無視され」、「後回しにされて」いると述べた。

カストロは続けて次のように述べた。「これは民主党だけのことではないのです。あら油面でそうなのです。アメリカ社会、メディア、ハリウッド、多くの職業でそうなのです。ラティーノ共同体に対する古ぼけたイメージが残っているのです。悪印象をつけられているのです。特にドナルド・トランプ時代はそうなのです。疎外されているのです」。

カストロの発言は、民主党全国大会開催中に公にされた。2020年大統領選挙において、カストロは唯一のラティーノ系の候補者だった。それにもかかわらず、一人で登壇して演説を行うように依頼されなかった。

ラティーナ(ラティーノの女性形)の連邦議員として有名なアレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)は、火曜日夜に民主党全国大会で演説を行う予定だが、割り当てられている時間は1分間しかない。225名の代議員から請願が出されている。この請願では、「オカシオ=コルテス議員と彼女が代表している有権者への尊敬を示すために、彼女に十分な時間を与える」ように求めている。西岸には「オカシオ=コルテス議員は全国大会で登壇が予定されている、わずか3名のラティーノ系の演説者の1人だ」とも書かれている。

火曜日朝の時点で、請願には6673名の署名がなされている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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