古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2020年10月

 古村治彦です。
副島先生新刊書影

金とドルは光芒を放ち 決戦の場へ (単行本)

 今回は、副島隆彦先生の最新刊『金(きん)とドルは 光芒(こうぼう)を放ち決戦の場へ』(祥伝社、2020年11月)をご紹介します。発売は2020年11月1日です。以下にまえがき、目次、あとがきを貼り付けます。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

まえがき

 金(きん)の値段が、私が予測(予言)したとおり、この7月に大きく上昇した。

 私の言うことを聞いて、今年の5月にさらに金を買い増した(あるいは買い直[なお]した)人たちまでは大きな利益を出した。他の人たちのことは知らない。人それぞれがすることだから、千差万別(せんさばんべつ)である。

 人々の金銭欲望はすさまじい。「あのとき(手持ちの金[きん]を)売らないで、ずっと持っていたら今ごろ1億円になっていた」、「副島先生の言うとおり、金を早めに買い戻しておけば儲(もう)かったのに」と、悔やんでいる人たちの話は私の耳に入っている。

 私は一体、こういう欲ボケ人間たちのために、ずっと自分の金融本を23年間も書いてきたのか。きっとそうだ。誰でも分かるとおり、私は〝金買(きんか)え評論家〟であるから、みんなの期待を裏切ってはいけない。ただし、私の本を買って読んでくれる人たちだけの世界のことである。今ごろ急に、初めて私の本に近寄ってきて「金(きん)を買っておけばよかった」と言う人たちのことなんか知らないよ。

 でも私は、今年、降って湧いたコロナ馬鹿(ばか)騒ぎの中で、店のドアをそっと開けて入ると中にお客がたくさんいるレストランのオヤジ(経営者)のような気持ちで、ずっと金融本を書いてきた。朝、シャッターをガラガラと開けながら「今日は何十人、客が来るかなあ」と空の天気を見ながら、その日の仕入れや算段(さんだん)を立てている店主と、まったく気持ちは同じで、もの書き業をやっている。

 この半年間で私が一番大事だと思うのは、4月27日に、日銀・黒田東彦(くろだはるひこ)総裁が、「(市場から、いや本当は日本政府から)国債を無制限に購入する。必要なだけいくらでも買う」(新聞各社が報道)と言い切ったときだ。このことは1章で論じるが、こんな「いくらでも買って、お札(さつ)(現金、日銀券)を渡す。だから、財投債(ざいとうさい)でも大企業の社債でもCP(シーピー)(コマーシャル・ペーパー)でも、いくらでも持ってこい。無利子・無担保で、無制限に買ってやる」と言ったのである。このことの重要性を、ちょっとでも頭のしっかりした人は本気で考えなければいけない。

 日本経済に大変なことが起きている、という自覚がないなら金融や経済のことを考える資格も知能もないということになる。金融や経済の専門家ぶって、偉そうなことを言っているんじゃない! 世界の時流(じりゅう)に乗ってMMT(エムエムティ)(現代金融理論)に嵌()まるしかない若手の経済学者たちへの対応は、本書ではあまりできなかった。だが、彼らの国家社会主義[こっかしゃかいしゅぎ](ムッソリーニ主義)への危険な道を、私は見抜いている。

 CPというのは、例えば三井(みつい)物産や大成(たいせい)建設の本社の資金部が、ガチャンガチャンと、約束手形(プロミサリー・ノート)の用紙1枚に、2000億円とかを打ち込んで、そのまま日銀に持ち込むということだ。ただの約手(やくて)だ。そうしたら無審査で、手数料ただで、2000億円の現金が大企業の口座に振り込まれる、ということだ。民間銀行だったら、日銀に有()る自分の口座に自動的に付け替えられる。これが〝無利子(ゼロ金利)・無担保〟の時代だ。企業財産に抵当権を付けられることがないということなのだ。

 こんな恐ろしく馬鹿げたことを、米、欧、日の先進国の〝ダンゴ3兄弟〟はやっている。それを今や堂々と、恥ずかしげもなくやっている。中堅企業や中小企業であっても、県の財政局に「助けてください。資金繰(しきんぐ)りができない」と言いさえすれば、無利子・無担保で5億円ぐらいはすぐに下()りる。

 私は何も憂国(ゆうこく)の士()ぶって、現世(げんせ)を嘆き悲しんで、悲観して屈原(くつげん)が汨羅(べきら)の淵(ふち)に身を投げた、というようなドラマチックを装(よそお)わない。さっさと行くところまで行けばいい、と冷ややかに見ている。

 たった従業員5人、10人の製造業や流通業にも、無利子・無担保で7000万円の県の融資が下りたようだ。「そのお金で先生。オレは金(きん)を買ったよ。何に使ってもいい(使途[しと]を問わない)と言われたからさ」と聞いて、その社長と私は2人で笑った。世の中こんなもんだ。「まあ、5年で(元本[がんぽん]だけ)返せばいいんだから。その間に金(きん)がグーンと上がれば、我が社は儲かるよ」と言われた。「先生の予言は大丈夫でしょうね」と念を押された。私はギクッとしたが、今さら後(あと)には退()けない。ただ、「法人買()いの場合は、危ないから、急激に値上がりしたところで手放しなさいよ」と忠告した。

 私はこの本で、金(きん)を社長、経営者が、個人ではなく法人(会社、企業)でも買う、という人たち向けにも初めて書く。私が何も威張(いば)っているわけではないと分かるでしょ。

 もうすでに金融評論家たちは全滅していなくなった。金融や経済の本は、もう書店に並んでいない。私には競争相手がいない。自分の客(読者)になってくれる人たち相手に、さらに本当のことをガリガリ書くだけである。

副島隆彦

=====

目次

まえがき

1章 目先の目標は、金1gグラム 1万円だ 

金は1グラム8000円近くまで上がった 

日銀は730トンあるはずの金を、手元に持っていない 

2024年に金融体制の大変動が起きる 

金とドルは、4年後の「決戦の場」へ 

ゴールドマン・サックスが受けた打撃 

金は5倍に値上がりする 

円ドル相場の歴史から分かること 

金を売るときの課税はどうなるのか 

今の株価は吊り上げ相場である 

アメリカ(FRBと財務省)も日本(日銀)も資金を無制限供給 

1オンス=2300ドルという予測 

MMT理論と「ベイシック・インカム」が結びついた 

アメリカの世界支配の終わり 

2章「金の取引停止」が迫っている 

これからの金の値段 

「リデノミ」は金にどんな影響を与えるか 

アメリカで金の取引が禁じられた歴史 

ヘッジファンドの主宰者が警告する「金が買えなくなる動き」 

金地金と金貨が足りない 

飛行機で現物を運べば大金が稼げる 

金先物もの市場は崩壊する 

法人で金を買う 

税務署が嫌がることとは 

「客が選別される時代」が始まった 

金きんの代替物としての銀

金貨(コイン)も買う 

もはや不動産は優良なものしか資産にならない 

3章 国に狙われる個人資産 

バフェットはなぜ金鉱山の株を買ったのか 

「中間業者」に金を売る 

財産税が狙う国民の個人資産 

国の標的は小金持ち層(資産家)だ 

世界の中央銀行3つの「資金の動き」が分かる 

米、欧、日で〝資産総額〟は2400兆円! 

金融秩序が破壊される 

「バーゼル・クラブ」の秘密 

4章 次の株価暴落を予言する 

これから株価はどうなるのか 

10年の「輪切り」で日本の株価を考える

金融大変動の〝法則〟が見えてきた 

巨大バブルのあとの30年間、日本はデフレのままである 

HFT(超高速取引)も追いつけない暴落が来る 

「GAFA+M(マイクロソフト」の動き 

ソフトバンクグループの株投資の限界 

MMT理論の源流はミルトン・フリードマンである 

ファシズムの復活 

人類を不幸にした経済学 

5章 国民を一元管理する菅政権 

菅義偉政権はどこへ向かうか 

私が1年前に予言したこと 

日本の首相はアメリカが決める 

首相の背後にいる男 

悪の思想と秘密結社 

国民を一元的に管理して飼い殺しにする政策 

コロナ対策という〝ショック・ドクトリン〟 

世界の動きを読む 

中国はコロナを「迎撃」した 

あとがき 

巻末特集 金融恐慌にも動じない鉱物資源株25

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あとがき

 金(きん)の値段が、今年3月に、1オンス(31・1グラム)1500ドルから、2000ドルまで上がった(P17のグラフ参照)。今は1900ドルぐらいだ。これが1800ドルを割るようなら直ちに買い増し(ヽヽヽヽ)なさい。と言われても、何のことだか分からない人が今も大半だ。

 それなら、日本円で金(きん)の「国内小売(こうり)価格」が1グラム5000円から8000円近くまで行った。今は7200円ぐらいだ(P5のグラフ参照)。これが1グラム7000円(小売)を割るようだったら、急いで買い増ししなさい。

 これなら分かるだろう。ただし、卸売(おろしうり)(業者間[かん]での値段)は、これから1グラム700円を差し引いたものだ。だから、現在は、1グラム6500円である。

 こう書くと、もう分からなくなる。私は今や〝金買(きんか)え評論家〟であるから、どうやって人々に「金の買いどき、売りどき」を説明するか、で苦労してきた。ちょっと難しいことを書くと、もう読者は分からなくなる。わかったふりをして読み飛ばす。それでもP5などのグラフを見ると、それだけで、金(きん)の値動きが一目瞭然で分かる。そのとき私の説得はホントウ(真実)なのだと分かる。ここに私の本を読む効用がある。だから買って読みなさい。ネットでチャラチャラ、金融情報を拾い読みしてもダメです。それだと思考に体系性(システム)を獲得できない。

 私は、今も、一体どこまで分かりやすく書いたら、皆にこの世の大きな真実を分かってもらえるかで、苦心惨憺(さんたん)している。もの書き業の苦しさは、一旦(いったん)世に出たあとは、このことに尽きる。もうプロのもの書きになって36年になるが、今もこのことで嫌(いや)になるほど苦しんでいる。いくつになっても、人生、楽になるということがない。人(ひと)それぞれの苦しみがあるだろう。

 私は、自分の書く本の客(読者)になってくれる人たちのために頑張り続ける。それ以外の目標はない。この世の隠された真実を暴き立て人々に知らせること。これ以外に私にはすることがない。ただし、その真実は、「世の中(世界)の大きな枠組(わくぐ)みの中の真実」を表(おもて)に出すこと、でなければならない。私の苦闘はあと暫(しばら)く続く。

 この本も祥伝社の岡部康彦氏の手を煩(わずら)わせた。社長になった辻浩明氏から「本を書いてくださいよ」と頼まれたのが1997年だったから、今年で23年になる。この本の表紙に「エコノ・グローバリスト・シリーズ23」と打ち込んでいるのは、この本が23冊目であることを示している。頭はまだ大丈夫だが、体のほうにガタが来()始めた。何とかこれを修理しながら、時代に合わせて前に前に進まなければ(マルシオン、マルシオン)ならない。記して感謝します。

2020年10月

副島隆彦

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 アメリカ大統領選挙まであと1週間と迫ってきた。思えば昨年から予備選挙が始まり、多くの紆余曲折(主に民主党側で)があり、いよいよ最後の1週間となった。現在のところ、民主党のジョー・バイデン前副大統領が共和党のドナルド・トランプ大統領をリードしている展開となっている。

 しかし、2020年10月22日の最後の大統領候補者討論会から流れが変わっているように感じられる。トランプ大統領がバイデンを追い上げている。これは世論調査の数字でも出ている。フロリダ州とテキサス州でトランプ大統領が勝利し、最終決戦場は五大湖周辺州という見立ては私の間違っていないと思う。

 そうした中で、「トランプ大統領が再選されれば、次のようなことが勝因として語られるでしょう」ということを紹介する論説があったので紹介する。

 著者のナイオール・スタンジは5つの要素を挙げている。(1)トランプ陣営が積極的な戸別訪問を行っていること(日本風に言えばドブ板選挙)、(2)アフリカ系アメリカ人有権者の中でトランプ支持が増え、バイデンに対しての熱意が盛り上がっていないこと、(3)「社会的望ましさ」に関するバイアス(“social desirability” bias)で、トランプ支持者が世論調査に対して正直に答えていないこと、(4)有権者登録で共和党支持での登録が増えていること、(5)ラティーノ系(ヒスパニック系)有権者の間でのトランプ支持が減っていないこと、この5つの要素だ。

 日本のメディアは、さんざん「バイデン氏が大量リード」と報じてきたのに、ここにきて、いやもしかしたらトランプの大逆転があるかもと本気で心配しているようだ。専門家と呼ばれる人たちも、前回の大統領選挙での手ひどい失敗でよほどの大きなトラウマを抱えているのだろうが「バイデン氏が圧倒的に有利ですが、何が起きるか分かりません」という、素人でも言えるようなことでお茶を濁している。

 神様ではないので誰も未来のことなど分からない。しかし、少なくともバイデン氏圧倒的リードということはないということは言える。

(貼り付けはじめ)

メモ:トランプが逆転できるという5つの理由(The Memo: Five reasons why Trump could upset the odds

ナイオール・スタンジ筆

2020年10月25日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/the-memo/522549-the-memo-five-reasons-why-trump-could-upset-the-odds

トランプ大統領は大統領選挙に向けて厳しい戦いを続けているが、完全に希望が無くなっている訳ではない。

選挙戦期間を通じて、トランプは民主党候補者ジョー・バイデンに対して世論調査の数字で後れを取っている。そして、選挙戦の様相を変化させるための最後の明らかな機会は、ナッシュヴィルで実施された火曜日の討論会であったが、大きなドラマもなく終わった。

トランプ大統領の支持者たちは、2016年のヒラリー・クリントンに対しての勝利のように、もう一回衝撃的な逆転を引き起こすであろういくつかの要素を主張している。2016年の大統領選挙の結果に深く傷ついている民主党幹部たちはトランプ大統領の動向を無視することはできなくなっている。

今年の選挙で再びトランプ大統領が逆転してのサプライズの勝者となる場合、これから挙げる理由が彼の勝利について説明するために理由として引用されることになるだろう。

(1)トランプの地上戦(Trump’s ground game

トランプ選対は伝統的な丁寧な戸別訪問は大きな利益をもたらすと考えている。選対は250万人以上のヴォランティアが参加していると述べている。『ニューズウィーク』誌が指摘しているが、2008年の大統領選挙で当時のバラク・オバマ候補を支援したヴォランティアの数が220万だったが、トランプ陣営のヴォランティアの数はそれを上回っている。

メディアとの電話を通じての記者会見で、トランプ選対の幹部たちは頻繁に自分たちの優位性を示していると考えているデータを引用している。トランプ選対はヴォランティアの人々が9月のある1週間で激戦州において合計50万戸以上を訪問したと述べている。

月曜日、トランプ選対の責任者ビル・ステピエンは記者団に対して、「私たちは本物の、地に足の着いた選挙戦を展開しています」と述べた。

バイデン選対は、自分たちも強力な地上戦のための構造を構築していると主張して、反撃している。しかし、バイデン陣営が戸別訪問への動きが鈍いという批判もできない。この躊躇は新型コロナウイルス感染拡大に対する懸念から来ている。

バイデンのアプローチは結局のところ、認められることになるだろう。ストラティジストの中には、有権者に対して電話、Eメール、SNSで簡単にかつ安全に連絡が取れる時代に戸別訪問にどれだけの効果があるのかを疑問視する人たちが出てきている。

しかし、トランプが勝利すると、地上戦に対しての評価が多く出るだろうと予測される。

(2)アフリカ系アメリカ人有権者の投票(Black turnout

2016年にヒラリー・クリントンが敗北した主要な理由がアフリカ系アメリカ人有権者の投票の減少であった。アメリカ初のアフリカ系アメリカ人大統領となったオバマが選挙に出られないということになってアフリカ系アメリカ人共同体からの投票は減少するだろうということは予想されていた。しかし、デトロイトやミルウォーキーのような中西部北部の大都市でのヒラリーに対するアフリカ系アメリカ人有権者の熱意の低さはそうした予想をはるかに上回る深刻なものだった。

トランプは、共和党の大統領選挙候補者としては例のないほどにアフリカ系アメリカ人有権者に力を入れてきた。トランプ選対はアフリカ系アメリカ人向けのラジオでの宣伝に力を入れている。そして、共和党全国委員会は、アメリカンフットボールのプロリーグNFLのスター選手だったハーシェル・ウォーカーのような有名人の共和党支持者たちを起用している。

トランプ陣営は2016年にアフリカ系アメリカ人有権者からの投票率8%から、2020年は大きく伸ばすことができると本当に信じているのかということを疑っている人たちもいる。しかし、アフリカ系アメリカ人のバイデンへの支持が盛り上がっていないことは重要であると考えられる。

もう一つのジョーカーとしてのカードは、ラップスターのカニエ・ウエストの無謀な立候補である。ウエストは全米で少なくとも12州で候補者登録されている。

アフリカ系アメリカ人有権者の投票の大きな動向に関して言えば、トランプに対して有利な兆候が見られる。

データサイト「ファイヴサーティーエイト」のデータによると、高齢のアフリカ系アメリカ人は民主党支持で堅いが、若い人々はそうではないということである。UCLAネイションスケイプの世論調査によると、18歳から44歳までのアフリカ系アメリカ人有権者のトランプ大統領への支持率は2016年の10%から21%に上昇している。

(3)「恥ずかしがって表に出ない」トランプ支持の有権者たち(The ‘shy’ Trump voter

トランプ大統領支持者たちの中で人気の高い理論として、トランプ大統領はある特殊な問題に直面している、というものだ。その問題とは、「社会的望ましさ」に関するバイアス(“social desirability” bias)と呼ばれるもので、トランプ大統領を支持する有権者たちが世論調査実施者たちに対して自分の考えを隠すというものだ。

この有権者の姿勢についての仮説に関して、証明することもまた否定することも難しい。この仮説に対して懐疑的な人々は、この姿勢が本当ならば、調査対象者がインタヴューを受ける形で実施される世論調査も、オンラインでの世論調査の方がトランプ大統領の支持率の数字は高くなるはずだ、と主張している。そのようなことは起きていない。

トランプ陣営の責任者ステピエンをはじめとする人々の間で好まれている、関連する理論は、2016年にトランプ大統領が勝利したのは、いくつかの重要州の最も人口の少ない地域で多くの人々が投票に行きトランプ大統領に投票したことが理由である、というものだ。

そうした地域に住む人々は世論調査の対象にならないし、メディアの取材対象にもならないことから、この理論についてはそうかもしれないと言える。

世論調査では、トランプ大統領はいくつかの地域で支持を伸ばしているが、バイデンは全国規模といくつかの激戦州での世論調査のほぼ全ての世論調査の数字でリードを保っている。

(4)有権者登録(Voter registration

激戦諸州の有権者登録数はトランプ陣営の強気な姿勢の根拠になっている。

トランプ選対のある関係者は2016年からの変化を強調している。この人物は、2016年と2020年の大統領選挙のそれぞれの最後の4カ月の違いについて、「2016年の時は、民主党支持で登録する人の数が共和党支持を上回っていましたが、今回は共和党支持が上回っています」と述べている。

選挙に関する数字を見ると、2016年8月から11月までのフロリダ州での有権者登録に関しては、民主党側が共和党側を7万8000名以上上回っていた。今年の8月から現在までで見ると、フロリダ州では、共和党側が10万4000名上上回っている。

同様のパターンがペンシルヴァニア州で見られる。2016年の時には民主党側が僅差で上回っていたが、それが今年は共和党側が約7万2000名以上も上回っている状況に変化している。

特定のいくつかの州について、トランプ陣営や支持者の間では別の理論が提唱されている。ネヴァダ州に関しては、トランプ支持者の中には勝利できる可能性がある州だと見られている。この人々は、ネヴァダ州の各労働組合の選挙に向けられる力が減少している、それは新型コロナウイルス感染拡大の期間に観光とカジノ産業への打撃が大きかったからだ、と主張している。

トランプ選対の発表によると、ネヴァダ州全体での民主党支持としての有権者登録の数は1万近く減少している、ということだ。この数字は大統領選挙においては比較的小さい数字と捉えられがちだが、2016年にヒラリー・クリントンがネヴァダ州で勝利を収めたがその差が2万7000票差だったことを考えると、この小さい数字が重要となる。

(5)ラティーノ系からの投票(The Latino vote

トランプ大統領は全国規模でラティーノ系の投票で負けるだろう。しかし、重要なことは、2016年以来、ラティーノ系の人々からの支持が下がっていることを示す兆候はほとんどない、ということだ。トランプ政権の移民政策については激しい議論が巻き起こっているが、ラティーノ系からの支持にはあまり影響が出ていない。

2016年の大統領選挙の出口調査の結果、トランプ大統領はラティーノ系の投票の28%を獲得したことが分かっている。この数字は、2012年の共和党の候補者ミット・ロムニーの獲得した数字よりも高かったことに人々は驚いた。ロムニーは移民政策についてより中道の姿勢を取っていた。

各種世論調査の結果では、トランプ大統領はヒスパニック系の有権者からの支持率はあまり変わっていない。他の人口学的な集団からの支持率が下がっている中で、ヒスパニック系からの支持率はあまり変わっていない。

フロリダ州のラティーノ系の有権者の状況は興味深い。フロリダ州は最大のしかも最重要の激戦州である。

9月にNBCニュース・マリスト大学、キュニピアック大学がそれぞれ実施した世論調査では、フロリダ州在住のラティーノ系有権者の支持率でトランプが僅差でリードしていた。2016年の大統領選挙では、トランプ大統領はラティーノ系からの投票では、ヒラリー・クリントンに27ポイントの差をつけられて敗れた。

キューバ系アメリカ人はフロリダ州において特に重要である。キューバ系アメリカ人共同体では伝統的に社会主義に対する反感がある。バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)やアレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)といった民主党左派の有力政治家たちがより注目されるようになる中で、キューバ系アメリカ人の民主党への支持が下がっていることを示す逸話がいくつも出ている。

火曜日の討論会で、トランプ大統領はサンダースの名前を出した時、バイデンは、トランプ大統領は「別の人と選挙で戦っていると思っているようです。彼はジョー・バイデンと戦っているんですが。私は彼もそして彼が名前を出した人も全てを倒します、なぜなら彼らの考えに全く合意していないからです」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 大変遅くなったが、2回目(予定では3回目の)のアメリカ大統領選挙候補者討論会についての記事をご紹介する。

 私は「またトランプ大統領がやりたい放題で、途中でマイクの音を切られて怒って退席するんじゃないか」と考えていた。しかし、これは浅慮であり、短慮だった。トランプ大統領はバイデン前副大統領の発言を遮ることはほぼなく、司会者のクリステン・ウェルカーにも丁寧に接し、感謝の言葉さえ述べた。不良がちょっと良いことをすると、何かとてもよいことをしたように感じられる、あれと同じだ。もしくは、織田信長が舅の斎藤道三と会見するときの様子と同じだ。いつでもどこでも一本調子のバイデンに比べて、これで評価が高くなったと感じた。

 バイデン前副大統領は自分のキャラクターにはない姿を見せようと躍起になっていた。彼は何度も「カモン」を連発していたが、相手を攻撃し、激しい言葉を使う、ああいう姿は彼のキャラクターに合っていない。

 私が驚き、印象に残ったのは、トランプ大統領が何度か、バイデンの発言を聞きながら、うなずいたことだ。反対の意思を示す時は顔の表情を変えたり、首を振ったりしていたので、彼はバイデンの発言内容で考えに合う部分には同意を示していた。バイデンがトランプ大統領の発言内容に同意を示すようなことはなかった。トランプ大統領のうなずきを見ながら、私は、アメリカで今出現している「分裂」について考えざるをえなかった。

 現在のアメリカの分裂は、トランプ大統領が引き起こしたという論調だ。しかし、果たしてそうなのだろうか、と私は疑問を持つ。そもそも分裂が先にあり、その結果としてトランプ大統領が当選したと私は考えている。しかし、もっと言えば、民主党側の党派的な利益と狭量さのために、分裂を演出しているのではないか、と考えるようになった。

 副大統領候補者討論会の最後で、司会者が子供からの「どうして激しくいがみ合うのか」という質問が紹介された。ペンス副大統領は「激しく論戦を戦うのは共にアメリカのことを思ってのことで、終われば仲良くするんですよ」と答えたが、カマラ・ハリスは最後までバイデンの名前を繰り返すだけで、ペンスのような素晴らしい答えをすることはなかった。

 最後の討論会の勝者はトランプ大統領だと私は判定する。そして、選挙までの最後の日々、支持率にどのような影響を与えるかを注意深く見たいと思っている。既に討論会の効果は出始めている。

(貼り付けはじめ)

トランプ・バイデンの最後の討論会の5つのポイント(Five takeaways from the final Trump-Biden debate

ナイオール・スタンジ、ジョナサン・イーズリー筆

2020年10月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/522398-five-takeaways-from-the-final-trump-biden-debate

火曜日の夜、トランプ大統領とジョー・バイデン前副大統領は激しくも統制の取れた討論会でぶつかった。今回の討論会は11月3日の投開票日に向けて、有権者たちに候補者の考えを示す最後の機会を与えることになった。

トランプ大統領は先月末のクリーヴランドでの1回目の討論会で破壊的な姿勢を示したが、共和党関係者は選挙の結果に悪影響を与えるのではないかと懸念を持った。

討論会で何度も衝突があった。候補者たちはお互いに家族、人種、移民について激しい攻撃を行った。

2020年大統領選挙の最後の討論会のポイントについて書いていく。

(1)トランプ大統領はトーンを変えた(Trump changed his tone

トランプ大統領は火曜日夜に最高の態度を見せた。

今月初めの討論会での破壊的なパフォーマンスによって有権者たちの多くはテレビのスイッチを消したことだろう。しかし今回の討論会では、バイデンの発言に割り込むこともほとんどなく、司会者のNBCニュースのクリステン・ウェルカーに対して丁寧に接した。

大統領選挙候補者討論会運営委員会は全く別の結果になるだろうと考えて準備していた。委員会は、一人の候補者が直接受けた質問に対して答えをしている間に別の候補者に割り込まれないようにするため、それぞれの候補者のマイクの音声を着ることができるようにしていた。

トランプ大統領は今回の討論会でバイデンに対してより多くの時間を話させる心づもりだったようだ。トランプ大統領のアドヴァイザーたちが望んだ戦略はバイデンを混乱させるか、失言をさせようというものであった。

しかし、そのようなことは起きなかった。バイデンが明らかに動揺している場面もあったが、力強く反撃をしている場面もあった。国境で不法移民の親と子を強制的に離れ離れにさせるトランプ政権の政策に対しては声を震わせ感情をあらわにし反応した。

しかし、全体を通して、トランプ大統領の前回に比べて穏やかな態度はトランプ大統領に対する評価を上げることに貢献した。

トランプ大統領はより洗練され、良く準備をしているように見えた。彼はまたリラックスしているようにも見えた。それでも、バイデンが長年職業政治家としてワシントンにいたことや刑法改正への支持を取り上げて激しく攻撃した。刑法改正によってアフリカ系アメリカ人の投獄数がかなり増えることになった。

1回目の討論会はトランプ大統領の評価を下げることにあり、共和党の幹部たちは水面下でパニックに陥った。

共和党の連邦議員たちは今回の討論会を受け、自分たちの選挙の結果について少し楽観的になれることだろう。しかし、各種世論調査の結果では、共和党の連邦議員たちは11月3日において大量落選する危険性に直面している。

(2)両候補者がパンチの応酬(Both candidates landed punches

火曜日の夜、候補者それぞれが相手を押し込む場面を作った。それぞれの党を応援している人たちが自分の応援している候補者が明らかに勝利したと主張するのは当然のことだが、どちらに投票するか決めていない有権者にとって、今回の討論会でどちらが明確に勝利したかを決めるのは難しい。

いくつかの両者の違いが際立っている重要な分野において、引き分けであった。

例えば、新型コロナウイルス感染拡大について、バイデンはトランプが責任を取ることに失敗し、アメリカ国内で多くの死者を出したと攻撃した。しかし、トランプ大統領は、いつもに比べてより的を絞った形で防御し、ヨーロッパ諸国の多くが新型コロナウイルス感染拡大を経験していること、そして、バイデンと民主党がより広範囲な閉鎖(シャットダウン)を望んでいると述べた。

トランプはバイデンについて「彼が言っているのは閉鎖ということだけです」と述べた。

トランプはバイデンに対して、息子ハンター・バイデンとハンターのビジネスについて圧力をかけようとした。しかし、バイデンは何も間違ったことはしていないと否定し、トランプ大統領が税金還付書類を提出していないことに言及し、大統領からの攻撃をかわした。

このパターンは火曜日の討論会で何度も繰り返された。討論会はトランプ大統領の基準ではあるが、極めて真っ当な討論会となった。

共和党と民主党は共に自分たちの候補者たちの最高の瞬間に集中するだろう。ボクシングの言葉で言えば、両者は堅実なジャブを当てたが、ノックアウトパンチは出せなかった。

(3)トランプはバイデン一家を追いかけている(Trump goes after Biden’s family

トランプ大統領はバイデン一家と彼のお金関係にスポットライトが当たるようにさせようとした。これは討論会が始まるずっと前に既に始まっていた。

トランプ大統領は討論会の会場にトニー・ボブリンスキーを特別に招待した。ボブリンスキーは元米海軍大尉で、ハンター・バイデンの海外でのビジネスの会計を管理していた時期がある人物だ。

ボブリンスキーは関係書類をFBIと連邦上院国土安全保障・政府問題委員会に提出するだろうと述べている。これらの書類はバイデンが副大統領としての政治的な影響力を利用して、ハンターの海外とのビジネス契約を締結させたことを示すものだと述べている。

メディアはこの疑惑を注意深く取り扱っている。トランプ選対は、ボブリンスキーが討論会の前にナッシュヴィルで発言ができるように調整することで、メディアが報じざるを得ないようにさせようと試みた。

トランプ大統領はとにかくどんな問題でも良いからバイデン一族に焦点が当たるように仕向けた。

バイデンは疑惑を否定し、外国からのお金は一銭ももらっていないと述べた。更に、彼の息子がやったことは全くもって公正なことであった、疑惑を持ち出しているのはロシアによる欺瞞情報作戦の一環だ、とも述べ、トランプ大統領自身の外国でのビジネスと税金の還付について人々の注意を向けさせようとした。

バイデンはカメラを見つめて「大事なことは、彼の家族や私の家族についてではなく、これをご覧になっている、皆さん自身の家族についてです。中流階級のご家庭ならば、今大変な状況を過ごしておられることと思います」と述べた。

バイデン一家に対する注目は終わっていない。トランプ大統領は11月3日の投開票日までの最後の戦いでバイデン一家についての問題を中心的なテーマにする意向であることは明らかだ。

共和党の幹部の中にはトランプ大統領のハンター・バイデンを手掛かりに攻めるという戦略について疑義を呈している人たちがいる。この人たちは、有権者は、雇用、経済、医療、新型コロナウイルス感染拡大について懸念を持っているのであり、ハンター・バイデンのビジネスについてではない、と主張している。

しかし、トランプ選対は、バイデンの好感度を下げるためにバイデンの性格やキャラクターについての疑問を呈することが必要だと確信しているようだ。各種世論調査では、2016年のヒラリー・クリントンに比べて、バイデンの方が好感度が高いという結果が出ている。

(4)クリステン・ウェルカーは司会者として輝いた(Kristen Welker shone as moderator

今回の選挙期間中の討論会の司会者たちは火曜日の夜まで素晴らしい時間を持てなかった。

フォックス・ニュースのクリス・ウォレスは1回目の討論会でコントロールができなかったと評価された。『USAトゥディ』紙のスーザン・ペイジは副大統領候補討論会で受け身過ぎだったと批判された。C-SPANのスティーヴ・スカリーは予定された2回目の討論会での司会をすることすらできなかった。スカリーは批判を受けたツイートについてハッキングされたものだと嘘をついたことでC-SPANはネットワークへの出演できなくなった。スカリーがネットワークへ出演できなくなったのは、トランプ大統領の新型コロナウイルス陽性が判明した後、討論会が彼とは関係ない理由でキャンセルとなった。

NBCニュースのウェルカーは討論会開催以前の期間、トランプ大統領から攻撃を受けた。

実際、ウェルカーはSNS上で幅広い評価を受けた。最後の討論会の司会ぶりで、ステージ上でもトランプ大統領自身からさえも評価された。

ウェルカーは討論がきちんと続くようにし、候補者たちが数々の政策で考えを述べるようにさせた。しかし、彼女は自身の存在を目立たせようとはせず、討論会のスターになろうとはしなかった。

ウェルカーはスムーズにかつプロフェッショナルなパフォーマンスを行った。大きなプレッシャーがある中で彼女のパフォーマンスは印象的なものであった。

(5)トランプ大統領は十分にやったか?(Did Trump do enough?

トランプ大統領のパフォーマンスは称賛を受けるだろう。特にトランプ大統領が極端に攻撃的な姿勢を見せることで、連邦議員選挙で共和党が議席を減らすだろうという懸念を持っている共和党幹部たちからは称賛を受けている。

しかし、トランプ大統領が大統領選挙の流れを変えるだけのパフォーマンスができたかどうかは疑問である。

トランプ大統領はリアルクリアポリティックスが出している全国規模の世論調査の数字の平均で、バイデンから8ポイントの差をつけられている。また、全ての激戦諸州でもバイデンにリードされている。

ナッシュヴィルでの討論会では、選挙戦を根本的に変化させるような瞬間を見ることはなかった。

より穏やかなかつ人間的な態度を取ったというだけで、トランプ大統領は1回目の討論会に比べて評価が高かった。大統領は末子のバロン君の新型コロナウイルス陽性についても言及した。

トランプ大統領が討論会の後半でバイデンについて、職業政治家として何十年も解決すると人々に約束し続けた問題が残っていることを指摘すれば、バイデンはトランプ大統領に対して感情的になって声を荒げるはずだった。

しかし、バイデンは大きな失言をしなかった。トランプ大統領はバイデンの失言を必要としていた。トランプ大統領が示した能力全てをもってしても、彼の支持率を引き上げることはできると考える理由は存在しない。

討論会終了直後に「クック・ポリティカル・レポート」のチャーリー・クックは次のようにツイートした。「トランプ大統領にとっての良いニュースは何かって?1回目の討論会の時と違って、彼は誰も傷つけなかった。悪いニュース?彼は10ポイントも引き離され、その状況を変えることはできなかった。選挙戦の情勢は変化なしだ」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 私は常々、子供の頃に見たアニメ「トムとジェリー」の言葉で、「仲よく喧嘩しな」ということが米中関係のみならず、外交関係においての基本だと考えている。人間関係でもそうだが、この「仲よく喧嘩する」はなかなか難しい。自分の方が優位に立とうとして、結局、言わなくても良いことを言ってしまい相手を深く傷つけ、関係を壊してしまうということが起きる。これは友人や知人関係だけでなく、家族関係も起きることだ。

 個人間の関係ならば、連絡をしないとか訴訟をするとかその程度で済むが、国同士の関係となると、国交断絶や戦争ということになれば、犠牲となる人間の数は格段に多くなる。従って喧嘩はしても良いが、決定的な断裂を招くようなことはしない、ということが重要になる。中国の歴史書やヨーロッパ近代の外交関係史はそのことを教えてくれている。

 ヘンリー・キッシンジャーが現在の米中関係について、お互いの非難合戦がエスカレートして取り返しがつかないようにするために「制限を設ける」ことを提唱したということだ。キッシンジャーは国際関係史、特にヨーロッパの歴史の専門家であり、第一次世界大戦のような人類史上初の長期にわたる総力戦が勃発した経緯については熟知している。

 そのキッシンジャーが米中関係の悪化に懸念を持っている。米中間の新しい冷戦(new cold war)という言葉も出て来ている。冷戦は米ソ間の共存という方向に進み、一面では「長い平和(long peace)」ということになった。もちろん、朝鮮半島やインドシナ半島の人々は長期にわたり戦争の厄災に苦しんだ。しかし、米ソ間の直接の戦争は起きなかった。

 米中間での新冷戦も米ソ間の冷戦と同様に直接戦争にならなければよいが、代理で戦争をさせられる国はたまったものではない。アメリカはインド、オーストラリア、日本を使って中国を封じ込めようとしている。アメリカは中国と直接対決するのではなく、これらの国々を使って、キャンキャンと吠え掛からせようとしている。

 アメリカが世界で唯一の超大国であり、警察官であるという構造は終わりを告げた。世界に自国のデモクラシーと資本主義を輸出するというおせっかいな正義感も終わりを告げることになる。今回の大統領選挙一つを取ってみても、デモクラシーの総本山、本家家元の国があの体たらくである。そんな国がデモクラシーの自由のと威張ってみても、「欠陥商品を押し売りするんじゃねぇ」と馬鹿にされるのが関の山だ。

 話が散らばってしまって恐縮だが、米中間は「仲よく喧嘩する」ことが重要である。

(貼り付けはじめ)

ヘンリー・キッシンジャーはアメリカと中国に対して世界大戦に向かう脅威やリスクに「制限」をつけるように求める(Henry Kissinger Calls on U.S., China to Set ‘Limits’ on Threats or Risk World War

ザカリー・エヴァンス筆

2020年10月8日

『ナショナル・レヴュー』誌

https://www.nationalreview.com/news/henry-kissinger-calls-on-u-s-china-to-set-limits-on-threats-or-risk-world-war/

ヘンリー・キッシンジャー元国務長官はアメリカと中国に対して、お互いに対しての脅威、もしくは世界大戦に向かうリスクに制限をつけるように求めた。

リチャード・ニクソン大統領の国務長官として、共産主義中国とアメリカとの間の関係構築を行ったことでキッシンジャーは高い評価を受けている。キッシンジャーは、米中両国の関係樹立の理由は中国の北方と西方で国境を接していたソヴィエト連邦に対する戦略的優位性を得るためとしている。

それから中国は世界第2位の経済大国となり、アメリカにとって最大のライヴァル国となった。両国の敵対関係はそもそも新型コロナウイルス感染拡大の初期から厳しくなっていった。現在97歳のキッシンジャーは水曜日、ニューヨークでの経済倶楽部においてヴァーチャルで講義を行い、その中で米中両国は両国間の争いに制限を設ける必要があるという警告を発した。

キッシンジャーは次のように発言している。「我が国の指導者たちと(中国の)指導者たちは脅威にまで進めないように制限について、そして制限をどのような内容にするかについて議論しなければならない。そんなことは全く不可能なことだという人もいるだろうが、もし不可能なままで推移すれば、第一次世界大戦に似た状況に陥ってしまうことになるだろう」。

キッシンジャーは、アメリカの政策立案者たちが「私たちに脅威を与える国が出てこないような経済世界を考えるべきだが、その目的の達成のために、他国が技術的な可能性を拡大することに対峙しその可能性を減らすような様式を採用するようにすべきではない」と説明した。

キッシンジャー元国務長官は過去にアメリカと中国との間の闘争の可能性について警告を発した。2019年11月、新型コロナウイルス感染拡大が起きる前に、キッシンジャーは北京でのある会合で両国は「冷戦の間際にいる」と述べた。

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(終わり)

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 古村治彦です。

 五大湖は東側からオンタリオ湖、エリー湖、ヒューロン湖、ミシガン湖、スペリオル湖から成り立っている。この五大湖周辺に接しているのは、東側からニューヨーク州、ペンシルヴァニア州、オハイオ州、ミシガン州、インディアナ州、イリノイ州、ウィスコンシン州、ミネソタ州である。これらの州はアメリカの勃興期に製鉄業や石油採掘業、自動車製造業で大きく発展した。シカゴ、デトロイト、クリーヴランドなどの工業で発達した大都市が存在する。
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 これまでの歴史では、五大湖周辺州は工業地帯ということもあり、労働組合の活動が盛んで、民主党が優位であった。2016年の大統領選挙ではそのこともあり、民主党候補のヒラリー・クリントンが勝利すると見られていたが、僅差で共和党候補のドナルド・トランプが勝利した。このことが大番狂わせの原因となった。

 労働組合に参加していた白人労働者たちが、一向に良くならない生活と雇用環境に業を煮やし、民主党支持を止め、「雇用を取り戻すために保護貿易を行う」と訴えたトランプに投票したという分析がなされている。保護貿易といえば、1980年代に日米間の貿易摩擦で、民主党所属のリチャード・ゲッパート連邦下院議員の激しい日本叩きが思い出される。2010年代以降、その亡霊が姿を現したのだ。ちなみに、現在のトランプは共和党所属だが、2010年代半ばまでずっと民主党員であった。

 共和党候補であるトランプが、民主党が主張していた保護貿易を訴えて当選したというところから、共和党内部にはトランプ大統領への嫌悪感がある。また、大統領選挙と合わせて実施される連邦上院議員選挙と連邦下院議員選挙では現在のところ、民主党が有利である。大統領選挙と同時に実施される連邦議員選挙の場合には、大統領選挙の情勢が大きく影響すると言われ(これをdown ballotと言う)、トランプが大統領に再選されても、共和党の連邦議員数が減れば、トランプの責任ということになり、彼の影響力は大きく減退する。

 トランプがフロリダ州とテキサス州で勝利をすればの話だが、五大湖周辺州は今回の大統領選挙の最終決戦場となる。現在のところ、各種世論調査の結果では、五大湖周辺州ではバイデンが有利という結果が出ている。ミシガン州とウィスコンシン州ではバイデンのリード差が広がっているが、オハイオ州とペンシルヴァニア州では両者の差は小さい。オハイオ州とペンシルヴァニア州でトランプが勝利ということになれば結果は大接戦ということになる。オハイオ州とペンシルヴァニア州の選挙人数は38名であり、ここをトランプが取ればトランプ大統領の再選が近づく。

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世論調査:トランプがミシガン州。ペンシルヴァニア州、ウィスコンシン州で追いかける展開に(Trump trailing in Michigan, Pennsylvania and Wisconsin: poll

ジョセフ・チョイ筆

2020年10月11日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/520534-great-lakes-poll-shows-trump-trailing-in-michigan-pennsylvania-and

最新の世論調査によると、トランプ大統領は3つの激戦州(スイング・ステイト)であるミシガン州、ペンシルヴァニア州、ウィスコンシン州で民主党の大統領選挙候補者ジョー・バイデンを追う展開になっている。

ボールドウィン大学がオークランド大学とオハイオ・ノーザン大学と共同して行った世論調査の結果を金曜日に発表した。それによると、ミシガン州ではバイデンの支持率が50%、トランプの支持率が43%で7ポイントのリード、ペンシルヴァニア州ではバイデンの支持率が50%、トランプの支持率が45%で5ポイントのリード、ウィスコンシン州ではバイデンの支持率が49%、トランプの支持率が43%で約7ポイントのリードとなっている。

トランプ大統領はオハイオ州では僅差でリードしている。支持率はトランプ大統領が47%、バイデンが45%だった。しかしその差は誤差の範囲内であった。

2016年の大統領選挙ではトランプがこれら4州全てで勝利した。

最新の世論調査では、調査に応じた人々の過半数が1回目の大統領選挙候補者討論会を視聴し、バイデンがより良いパフォーマンスを行ったと答えた。51%がバイデン前副大統領の方がより良いパフォーマンスをしたと答え、32%が勝利者だったと答えた。

有権者の多くは、1回目の討論会では頻繁に繰り返される割り込みと個人攻撃によって酷くイラついたと答えた。しかし、トランプ支持の有権者たちのほとんどは討論会を見たことを理由にトランプへ投票する気持ちが「全く変わらない」と答えた。

世論調査担当者たちは、有権者たちは勝利が発表されるまでに全ての投票が集計されるようにすべきだと答えた。全ての投票が集計される前にトランプ大統領が勝利を主張しても、投票集計の正確性について信頼を持てないと有権者の過半数が述べている。トランプ大統領は来月の選挙で負けて平和的な政権移行に協力することを拒絶し続けている。

今回の世論調査の結果は、『ワシントン・ポスト』紙とABCニュースによる全国規模の世論調査の結果が出る数日前に発表された。ワシントン・ポスト紙とABCニュースの世論調査の結果では、バイデンがトランプに12ポイントのリードをしている。有権者の53%がバイデンを支持し、41%がトランプを支持した。

今回の五大湖周辺州での各種世論調査は9月30日から10月8日にかけて4166名を対象に実施された。これら4つの州での世論調査の誤差は約3ポイントである。

最新の世論調査のデータを見て、共和党の最高幹部たちは連邦上院で共和党が過半数を維持できるかどうか懸念を持っている。幹部たちはトランプ大統領の支持率を見て、これが各州レベルの選挙にマイナスの影響を与えることになるだろうと恐怖感を持っている。カンザス州やサウスカロライナ州のような伝統的に共和党優位の各州で民主党の候補者たちが大きなリードをつけている。共和党側は現在、連邦上院の23の議席を防衛しようとしている。

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