古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2021年05月

 古村治彦です。
akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

 2021年5月29日に最新刊『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)が発売になりました。5月29日に新宿にある紀伊國屋書店に行きましたところ、3階の政治・社会のアメリカ関係の棚に平積みして置いてありました。他の地域や書店では棚への配置が若干遅れてしまうことがあります。できましたら、6月1日以降に書店にお出かけいただき、手に取ってお読みいただください。
akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru20210529kinokuniya001

 アマゾンでは昨晩、全体で600位台、アメリカのエリアスタディ部門で2位を記録しました。好調なスタートとなりました。電子書籍版も発売スタートとなりました。私の友人、知人数名から「電子書籍版で早速手に入れた」という連絡を貰い、電子書籍が結構普及しているものだと認識することができました。
akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru20210530003

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru20210530004
 アマゾンで「一時的に在庫切れ」という表示が出て慌てました。出版社やアマゾンは何をやっているんだと頭に来ましたが、すぐに「在庫あり」となりました。アマゾンは完全にコンピュータ管理になっていて、アマゾンの倉庫に在庫がなくなり、取次会社の倉庫に注文が入り届けられるまでに表示される定型のフレーズだとそうです。

 全国の書店やアマゾンで「一時的に在庫切れ」となって注文が舞い込む形になればと密かに願っています。是非、手に取ってお読みください。

(終わり)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 ジョー・バイデンはインフラ整備関連法案成立のために動いている。そのために、バイデンの増税に対して支持していないジョー・マンチン連邦上院議員と一対一で会談を持つということになった。また、シェリー・ムーア・キャプト連邦上院議員やその共和党の議員たちとも会談を持つということも発表された。
joebidenjoemanchin001

ジョー・マンチンとジョー・バイデン
 ジョー・マンチン(Joe Manchin、1947年-、73歳)とシェリー・ムーア・キャピトは共にウエストヴァージニア州選出の連邦上院議員だ。マンチンは2010年から、キャピトは2015年から議員を務めている。マンチンは上院ではエネルギー委員会に属している。ウエストヴァージニア州は石炭産業が盛んであり、炭鉱夫たちの労働組合が民主党の支持基盤となっている。ウエストヴァージニア州は民主党の地盤であるが、決してリベラル色が強くはない。きちんと働いてきちんと報酬を得るという価値観を大事にしており、保守的な色合いが強い。マンチンはウエストヴァージニア州議会から政治的キャリアを始めた、叩き上げの政治家だ。州下院、州上院、州務長官、州知事とキャリアを重ねて国政に出てきた。マンチンは民主党の政策に反対し、時には共和党の政策に賛成票を投じるということもある。全米ライフル協会の会員でもある。
donaldtrumpjoemanchin001

ドナルド・トランプとジョー・マンチン
 シェリー・ムーア・キャピト(1953年-、67歳)はジェイ・ロックフェラーの後任として議員に当選した。ロックフェラーは民主党所属だが、キャピトは共和党所属で、共和党が議席を奪った形になっている。父親は1969年から1977年、1985年から1989年まで合計3期12年にわたりウエストヴァージニア州知事を務めたアーチ・ムーアだ。1977年から1985年までの2期8年知事を務めたのがジェイ・ロックフェラーだ。こうして見ると、ムーアは親子でロックフェラーと政敵として縁がある。シェリーはウエストヴァージニア州下院議員、ウエストヴァージニア州選出連邦下院議員を務め、連邦上院議員に当選した。シェリー・ムーアは中道・穏健派の議員である。
shellymoorecapito002

シェリー・ムーア・キャピト
shellymoorecapitojoebiden001
会談を持つバイデンとキャピト
 現在、連邦上院は民主、共和両党が50名ずつで拮抗しており、議長役である副大統領のカマラ・ハリスの投票によって民主党が自分たちの法案を可決できるという状態になっている。日本の政党と違い、アメリカには党議拘束という制度はなく、議員たちはたとえ自党が推進する政策であっても反対をすることがある。また、逆のケースもある。現在、民主党がかろうじて過半数を握っている状態では、民主党内から反対が出ることは民主党、バイデン政権にとっては避けたい状況である。従って、ジョー・マンチンの存在感が増す結果となっている。また、シェリー・ムーア・キャピトは民主党側の主張にも理解を示す共和党議員であり、説得や話し合いをしようとしている。

 インフラ整備にために増税も赤字国債発行も厭わないとバイデンは主張しているが、それがそのまま通るというものではなく、ここから妥協が図られる。
akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

(貼り付けはじめ)

バイデンがマンチンとの一対一の会談を持つ(Biden to go one-on-one with Manchin

モーガン・チャルファント筆

2021年5月10日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/552632-biden-to-go-one-on-one-with-manchin

バイデン大統領は月曜日、ジョン・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出、民主党)と一対一で会談を持ち、インフラ整備関連法案について議論する予定だとホワイトハウスが発表した。議論の中では企業税の税率についての意見の相違についても取り上げられるだろうとも発表された。

バイデンは企業税を21%から28%に引き上げ、それを原資とする2兆3000億ドル(約250兆円)規模のインフラ整備案を提案した。マンチン議員はこの税率引き上げ幅は大き過ぎると述べた。マンチンは企業税の引き上げについて25%までは支持するだろうと述べた。

マンチンはバイデンの政策にかかる予算について懸念を表明している。その中には1兆8000億ドル(約200兆円)の幼児教育と短期大学の拡大や低所得、中間所得の世帯の減税政策も含まれている。

マンチンから支持を得ることは民主党にとって極めて重要だ。民主党が予算に関する交渉プロセスを使いながら法案を可決させるためにはマンチンの支持が必要だ。法案を可決させるためには民主党に所属する議員全員の賛成が必要であるからだ。

先週、バイデンは企業税の引き上げ計画については妥協する余地はあるが、赤字についての懸念のためにインフラ整備の予算を削るという法案は支持しないと述べた。

バイデンは水曜日、記者団に次のように述べた。「私は妥協することについてはやぶさかではない。しかし、私たちが主張していることについて予算をつけないということについては譲歩をしないつもりだ。赤字国債発行で予算をつけるということはしたくない。赤字国債額は全体で既に2兆ドルに達しているのだ」。

バイデンはまた共和党側とも交渉を行い、インフラ整備に関して妥協を引き出そうとしている。こうした努力は今週、重要な局面を迎えている。

ホワイトハウスは、月曜日にバイデンがトム・カーパー連邦上院議員(デラウェア州選出、民主党)と一対一の会談を持つと発表した。カーパー議員は連邦上院環境・公共事業委員会の委員長を務めている。カーパー議員はインフラ整備法案を進めようとしている。

カーパー議員は以前にもデラウェア州選出の連邦上院議員の同僚であるクリス・クーンズ議員(民主党)と一緒にホワイトハウスを訪問し、バイデンと会談を持った。しかし、月曜日のホワイトハウス訪問はマンチンのバイデンが大統領になって初めての会談ということになる。

バイデンは今週から自身のインフラ整備提案について、連邦議員たちとの会談をスタートさせる。バイデンのインフラ整備法案は何らかの形で進めるためには時間の制限に直面している。ホワイトハウスは、バイデン大統領はメモリアルデー(5月31日)までに何らかの「進展」があり、夏までに法案が可決することを望んでいると発表した。これが意味するところは、これからの数週間が法案可決のための道筋を見つける重要な機関となるということだ。

バイデンは水曜日に民主、共和両党の連邦下院、連邦上院の指導部と会談を持つ。シェリー・ムーア・キャピト連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出、共和党)やその他の共和党の議員たちとは木曜日に会談を持つ。そこでの議題は共和党側が議会に提出している、バイデンの提案した案よりも予算規模が小さい5680億ドルのインフラ整備法案である。この法案は、道路や橋といった伝統的な物理的インフラのみを対象にしている。

(貼り付け終わり)
akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001
悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 2021年5月29日に発売となる私の最新刊『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)について、まえがき、目次、あとがきを以下にご紹介します。参考にして、是非手に取ってお読みください。特に本ブログをお読みの方はアメリカ政治に対する関心の高いと考えるので、面白くお読みいただけるものと確信しています。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

まえがき

 ジョー・バイデン政権は「4年越しで成立したヒラリー・クリントン政権であり、第3次オバマ政権」である。そして、「サイバー戦争を推進する」ための政権だ。これは少しも大げさな話ではない。誰でもアクセスできるマスメディアの報道や情報を分析すればこういう結論になる。

 アメリカ国民は2016年の大統領選挙で、海外での戦争を引き起こすことになったであろう、危険なヒラリー・クリントン政権誕生を阻止するという素晴らしい決断を下した。しかし、4年後の2020年、バイデン政権が誕生してしまった。バイデン政権は、発足直後から、好戦的で危険な姿勢を見せている。何故(なぜ)このような危険な姿勢を示しているのか。その理由は極めてシンプルでかつ明確だ。バイデンはお飾りに過ぎず、この政権は実質的にはヒラリー政権であるからだ。だから、4年遅れで世界全体が戦争に向かっているのだ。

 バイデン政権で外交政策の舵取りを行う、アントニー・ブリンケン国務長官は、2021年3月3日、国務長官就任後の初めての演説で、中国を「今世紀における地政学上の最大の試練 the biggest geopolitical test of this century 」と呼び、同盟諸国との連携を強化して、中国と対峙すると述べた。米国側のアントニー・ブリンケン国務長官とジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官、中国側の楊潔篪(ようけっち)中国共産党外交担当政治局員と王毅(おうき)外交担当国務委員兼外交部長(外相)による外交関係のトップ会談が3月18日にアメリカ・アラスカ州アンカレッジで開催された。この会談は非難合戦となった。

ブリンケンは「ルールに基づいた秩序に取り替わるのは勝者が独り占めする世界であり、

はるかに暴力的で不安定な世界であろう。米国は新疆(しんきょう)、香港、台湾、米国に対するサイバー攻撃、同盟国に対する経済的強圧など、中国の行動に対する我々の深い懸念について話し合うだろう」と中国側を非難した。一方、楊潔篪は「米国の人権は最低水準だ。米国では黒人が虐殺されている。米国が世界で民主主義を押し広めるのを止めるべきだ。米国にいる多くの人が米国の民主主義をほとんど信頼していない」とやり返した。中国側は売られた喧嘩ということで仕方なく立ち向かっている。中国メディアではバイデン政権の好戦的な姿勢について戸惑いを交えながら報道している。

 アメリカ国内でアジア系の人々に対する、人種差別を理由とする暴力事件が多発している。アジア系の人々に対する差別感情と憎悪感情の激化は、新型コロナウイルスが中国発であるとされていることに加えて、バイデン政権の攻撃的な対中姿勢が影響している。太平洋戦争開戦前から戦時中にかけて、アメリカ国内で発生した日系人に対する差別や暴力と同様の状況になっている。アメリカ国内は戦争前のような状況だ。

ロシアに対してはバイデン自身がかなり攻撃的な姿勢を見せた。2021年1月26

日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との大統領就任後初めての電話会談で、バイデンはロシアによるアメリカ国内の選挙介入について言及し、「国益を守るために断固とした対応を取る用意がある」と発言した。また、2021年3月17日のABCテレビとのインタヴューの中で、「ロシアのプーチン大統領は人殺しだと思うか」と質問され、「そう思う」と答えた。ロシア側は反発したが、バイデンはこの発言について謝罪も撤回もしていない。

 トランプ大統領時代には、トランプ大統領の発言を微に入り細に入り報道し、徹底的に批判してきたメディアもバイデンの「プーチンは人殺し」発言についてはまったく批判していない。プーチンが殺人者であるかどうか確たる証拠もなく、そもそも裁判での有罪判決も受けていない人物、しかも一国の大統領を殺人者と呼ぶというのは、外交儀礼から見て、大変無礼な話だ。相手を「交渉相手」や「連携相手」としてではなく、「敵」と認識していなければこういうことは言えない。アメリカの主要マスメディアも、中国とロシアを「敵」認定し、その流れに沿う発言や行動ならば、無条件で報道する。その結果、アメリカ国民の中に、そうした報道に踊らされて、中国とロシアに対して敵愾心(てきがいしん)を燃やす者たちが出てきている。

 バイデン政権は、中国とロシアに対して、このように攻撃的な姿勢を取っている。2016年の大統領選挙直後から、「トランプ大統領が大統領になれば世界で戦争が起きる」「世界大戦勃発の危機だ」などと煽(あお)っていた日米の有識者たちは、2020年の大統領選挙でバイデンを応援したが、バイデン政権のこの好戦的な姿勢について押し黙ったままだ。トランプ政権での4年間で、世界大戦も起きず、アメリカが外国に兵隊を出すということもなかった。トランプ大統領は「アイソレイショニズム」を掲げ、アメリカ軍が関わる大きな戦争は起きなかった。トランプは公約を守った。そのトランプ大統領を追い出してみたら、戦争がやってくる、それに日本が巻き込まれるということを、バイデンを応援した人々は望んでいたのか。バカバカしくて、言う言葉もない。

 バイデン政権の危険はすでに予言されたものであった。2015年3月、私の先生である副島隆彦が『日本に恐ろしい大きな戦争(ラージ・ウォー)が迫り来る』(講談社)という本を出した。2015年3月の時点ではまだドナルド・トランプは大統領選挙に出馬会見をしていない。この時期、共和党側には有力な候補がおらず、「2016年の大統領選挙では民主党のヒラリー・クリントンが当選して、女性初の大統領となる」というのが大方の見方であった。『日本に恐ろしい大きな戦争(ラージ・ウォー)が迫り来る』で副島隆彦は、ヒラリー大統領誕生で、アメリカは大規模な軍事行動を起こし、戦争が起きるだろうという予測を立てていた。トランプ大統領当選というアメリカ国民の英断で、その危険は回避された。しかし、残念ながら、2020年にジョー・バイデンが大統領に当選してしまった。そしてこれは、「4年越しのヒラリー政権」の誕生である。世界の流れが再び戦争に向かって進んでいるということになる。

 私は世界が戦争に向かっていると書いたが、すでに全世界は戦争状態にある。世界中で、新型コロナウイルス感染拡大防止ということで、生活が大きく制限されている。日本国内で官民を挙げて「新型コロナウイルス感染拡大との戦い」という大義名分を掲げ、「これまでの生活を変えましょう、新生活様式(ニュー・ノーマル)を採用しましょう」ということで、マスクをしての外出、夜の外食ができない状況、イヴェントの開催中止や縮小が1年以上も続いている。新たにネオンサインなどの消灯も始まったが、戦時中の灯火管制そのものだ。

 麻生太郎財務大臣兼副総理は、今年の3月に記者たちに対して、「いつまでマスクをしな

くちゃいけないんだ」と逆質問したことが話題になった。自分が政権の枢要を占めているのに、何と能天気で無責任な発言だと呆れる一方、「いつまでマスクをしなくてはいけないんだ」というのは非常に素直かつ正直な感想である。私たち一般国民もまた同じだ。太平洋戦争中の有名なスローガンに「欲しがりません勝つまでは」という言葉があるが、そのような我慢を強いられている。しかし、私たちは、同時にこの我慢を自ら進んで、幾分かは喜んで受け入れている部分がある。

 2020年1月頃から日本でも新型コロナウイルス感染拡大のニュースが出始めた。中国の武漢では大変な状況だということから、やがて横浜港に停泊するクルーズ船内での感染拡大というニュースが連日報道されるようになった。そうしているうちに日本国内でも感染者が出始め、マスクが手に入らない状況となった。この時期、世界保健機関(WHO)や一部の専門家たちは、「マスクは感染防止のためには有効ではない」ということを盛んに述べていた。

 その後、マスクが何とか手に入るようになると、マスクは飛沫防止のためには効果があるということになった。人が密集していればマスクをするのは良いだろうが、人が多くない時間帯に散歩をしたり、ジョギングをしたり、そんな時でもマスクをしなければ、すれ違う人たちから非難の目で見られたり、マスクをしない理由を詰問されたりする光景は異常である。私たちはいつの間にか、自分たちから進んで、何の疑問を感じることなく、不便な生活を自分から選び取るように仕向けられている。私は自分自身の行動を顧(かえり)みて愕然(がくぜん)としている。ここまで個人の生活を自らで圧迫できるのかと情けなくなっている。そして、このような状況は大変恐ろしいものだと考えている。

 1941年からの太平洋戦争では、日本でも生活が統制され、一般国民は苦しい生活を強いられた。女性がスカートをはき、パーマをかけた髪で街を歩くと、「非国民」「贅沢は敵だ」と愛国婦人会の女性たちが糾弾した。現在の自粛警察が飲食店に嫌がらせしたり、マスクをしていない人間に対して糾弾したりすることと同じだ。「ぜいたくは敵だ」「欲しがりません勝つまでは」という戦時中のメンタリティと同じだ。

現在の新型コロナウイルス感染拡大対策での生活の制限は、大きな戦争の準備段階であり、やがて大きな戦争が来た時の生活の制限のための訓練であると私は考えている。

 それでは大きな戦争とは何か。ずばりそれは、アメリカと中国・ロシアの戦争ということになる。そこまで行きつくにはいくつも段階を経なければならないが、すでにその方向に進んでいる。テレビを見てもアメリカからのニュースは連日、アメリカが中国を非難する内容のものばかりだ。アメリカと中国・ロシアの激突の可能性が高まっている。アメリカは太平洋を挟んで中国・ロシアと対峙している。その間に地理的に、また国際関係の点で、日本が存在している。

 アメリカと中露両国がいきなり軍隊を動員していきなり全面的な衝突が起きるということはない。さらに言えば、大規模な軍隊同士が直接ぶつかる、そのような「時代遅れout-of-date(アウト・オブ・デイト) 」の戦争が起きる可能性は低い。戦争が起きるのは、新しい場所、具体的には宇宙やサイバー空間である。

 人間を大量に殺傷し、建造物などを大規模に破壊する武器を大量破壊兵器 Weapons of

Mass Destruction[ウエポンズ・オブ・マス・デストラクション] (WMD)と呼ぶ。細かく言えば、ABC兵器とも言う。Aは核兵器Atomic Bombs 、Bは生物兵器 Biological Weapons 、Cは化学兵器 Chemical Weapons を指す。人類は大量破壊兵器の使用と拡散を制限しようとしてきた。ある国がこれらの兵器を実際に使用すれば、非人道的な行為として大変な非難を浴び、厳しい制裁を科されることになるだろう。これらの兵器を持っていたとしても、現実的に戦争で使うことは難しい。

 これからの戦争で使われる大量破壊兵器は、これまでと同じく、ABC兵器となるだろうが、その中身が変わる。Aは宇宙で使われる兵器 aerospace weapons 、Bは生物兵器のまま、Cはサイバー空間で使われる兵器 cyber weapons ということになるだろうと私は考えている。技術革新が進み、宇宙空間とサイバー空間での戦争、サイバー戦争 cyber warfare(サイバー・ウォーフェア)ということになるだろう。

 具体的には、AIを使った偽情報拡散、敵国政府機関のコンピュータをハッキングしての情報窃取、民間やインフラの機能不全や機能停止を引き起こす不正操作などが行われる。また、ドローン drone による偵察、監視、爆撃もすでに行われている。2020年7月、2021年4月にそれぞれ別のイランの核開発関連施設が大規模火災と停電に見舞われたが、これは外部からのサイバー攻撃によるものだったとイラン政府は発表している。このように、サイバー攻撃は大きな物理的な被害をもたらすことができるようになっている。通常兵器では不可能かつ多大な犠牲を必要とする攻撃がいとも簡単にできてしまう。SFの中の夢物語が現実のものとなりつつある。

 アメリカ軍も中国人民解放軍もすでに宇宙軍とサイバー軍を創設している。また、本書の第1章で詳しく述べるが、ビッグ・テックと呼ばれる情報技術分野の超巨大企業とアメリカ政府、特に国防総省は結びつきを強め、「新・軍産複合体 Neo Military-Industry Complex 」が形成されつつある。そして、バイデン政権の中枢を占める人物たちがこの新・軍産複合体作りを進めてきている。

 それでは、これから本書の内容について章ごとに簡単に紹介していきたい。

 本書の第1章と第2章では、バイデン政権の顔ぶれの分析を行う。第1章ではバイデン政権で外交、国家安全保障分野を担う人物たちを取り上げている。本章に出てくる人物たちの多くはヒラリー・クリントンとの関係が深いヒラリー派である。この人物たちがビッグ・テックと呼ばれる情報産業の超巨大企業とアメリカ政府・アメリカ軍との関係の橋渡し役をしていることを中心に分析している。

 第2章では、バイデン政権の中でヒラリーと距離がある人物たちについて分析している。新型コロナウイルスと気候変動への対応を契機として、アメリカ国内を「リセット」する動きについて詳述している。

 第3章では、アメリカの2大政党、共和党と民主党について分析している。具体的には、

それぞれ内部にエスタブリッシュメント派とそれに対抗するポピュリズム派が存在している。それぞれが内部でどのように対立しているかについて分析している。

 第4章ではアメリカ全体の分裂について取り上げている。アメリカの著名な知識人たちの業績をもとに、アメリカ国内の分裂について考察する。

 あとがきでは、アメリカの民主政治体制と資本主義に対する不信感の増大とその危険性、

さらにこれからの日本の取るべき行動について私なりの答えを提示した。

 ジョー・バイデン政権について、日本ではあまり分析的な記事や書籍が出ていない。本書を読んでいただく皆さんに有益な情報と分析だと思っていただけたら、これにすぐる喜びはない。

2021年4月

古村治彦 

=====

まえがき 1

第1章 バイデン政権は4年越しで成立した「ヒラリー政権」である 19

●ジョー・バイデン、カマラ・ハリスとヒラリーの深い関係 21

●「人道的介入主義派」と「ネオコン派」について 27

●バイデンの最側近アントニー・ブリンケンが国務長官に抜擢 31

●オバマ政権の若手外交専門家ジェイク・サリヴァンが国家安全保障問題担当大統領補佐官に 36

●国務省高官人事はバランス重視となっている 42

●「凶暴な外交官」ヴィクトリア・ヌーランドが国務次官に起用される 44

●バイデン政権の「核コア」となる人物たちが民間時代に関わった3つの組織 48

●キーパーソンは政権に入らなかったミッシェル・フロノイ元国防次官 52

●「AI技術利用」で中国に負けるな、そのために官民を挙げて総動員だ、という報告書を出したグーグル元CEOエリック・シュミット 61

●ウエストエグゼク・アドヴァイザーズを通じて新・軍産複合体づくり 67

●カート・キャンベル起用は「中国封じ込め」の「クアッド」戦略のため 70

●中国の「真珠の首飾り」戦略はインドを包囲する 74

●「スパイマスター」アヴリル・ヘインズもウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社出身 78

●新・軍産複合体を形成し戦争体制に向かうバイデン政権 83

第2章 ヒラリーとは距離がある「第3次オバマ政権」の人々は「リセット」を目指す85

●「第3次オバマ政権」の色合いもあるバイデン政権 86

●バイデン政権で「降格」人事を受け入れたケリー、ライス、パワー 89

●「環境問題の皇ツァー帝リ 」と呼ばれているジョン・ケリー 91

●ジョン・ケリーは「グレイト・リセット」の推進を主張している 95

●「グレイト・リセット」の危険性を指摘する 101

●「国内政策会議」という聞き慣れない組織 112

●スーザン・ライスとジョン・ケリーの関係 113

●スーザン・ライスの輝かしい経歴に傷がつき、国務長官の芽が消え去ったベンガジ事件 115

●スーザン・ライスが動画配信サーヴィス「ネットフリックス」社の取締役就任 120

●スーザン・ライスはオバマ政権でのエボラ出血熱対応経験を持つ 125

●サマンサ・パワーはヒラリーを「化け物」と呼んで大問題になった過去を持つ 130

●米国国際開発庁(USAID)という「民主化」の尖兵 134

●運輸長官として環境問題にも対応するピート・ブティジェッジ 137

●新型コロナウイルス対策と気候変動問題対応を大義名分にしてのグレイト・リセット 141

第3章 民主党、共和党の既成2大政党内部はエスタブリッシュメント対急進派(ポピュリズム)に分裂143

●2大政党制とポピュリズム 144

●史上最高得票数で当選しながら不人気にあえぐバイデン新大統領 151

●共和党支持者の中で人気が健在のトランプ前大統領 156

●民主、共和両党に共通する内部分裂―― エスタブリッシュメント派対急進派(ポピュリズム派) 159

●連邦議会共和党指導部、特にミッチ・マコーネルに対する苛(いら)立ちが激しくなっている 164

●保守派を代表する政治家と呼ばれるリズ・チェイニーはディック・チェイニーの娘 169

●トランプ攻撃の急先鋒となったリズ・チェイニーへの反発 175

●バーニー・サンダースを「発見」した若者たち 180

●民主党全国委員会による選挙不正のために支持者の不信感が高まる 184

●アレクサンドリア・オカシオ = コルテス当選は全米を驚かせた 186

●農務長官をめぐる人事や最低賃金をめぐる民主党内の攻防 191

●民主、共和両党の急進派の伸びは人々の怒り、ポピュリズムによるものである 194

第4章 トランプがアメリカの分断を生み出したのではない、アメリカの分断がトランプを生み出したのだ 197

●アメリカ人にとって最も大事なことは「統一( union )」である 199

●アメリカが3つに分裂するという最先端の考え 207

●トランプ旋風の先駆けだったパット・ブキャナンの「アメリカ・ファースト!」 214

●「アメリカ・ファースト!」の適切な日本語訳は「アメリカ国民の生活が第一」だ 223

●「第2次南北戦争」か、それとも「永久戦争」か 225

●チャールズ・マレーによるトランプ出現の的確な分析 226

●マレーの言説は多くの激しい批判を受けてきたが皆が言えないことを言ってきた 232

●アメリカの格差を取り上げ注目を集めたロバート・パットナム 235

●サミュエル・ハンチントンは晩年アメリカの変質と分裂を愁うれえていた 240

●アメリカの分断とポピュリズムが生み出したドナルド・トランプ大統領 246

あとがき 250

=====

あとがき

 民主政治体制(デモクラシー)と資本主義(キャピタリズム)に対する懸念と不信感が世界規模で拡大している。私は、日本とアメリカで学び生活をしてきたが、民主政治体制と資本主義に対して疑念を持つことはこれまでなかった。当たり前にあり、かつ素晴らしいものであり、完璧な制度ではないにしても、他の政治体制や経済体制よりははるかに素晴らしいもの、という認識であった。本書を読んでくださった多くの皆さんも同じだと思う。

まえがきで取り上げたが、米中の外交トップ会談の席上、中国共産党外交担当政治局員の楊潔篪(ようけっち)はアメリカ側に対して、「米国の人権は最低水準だ。米国では黒人が虐殺されている。米国が世界で民主主義を押し広めるのを止めるべきだ。米国にいる多くの人が米国の民主主義をほとんど信頼していない」と述べた。駐日本中国大使館は2021年4月2日にツイッター上で、アメリカに対して「国外で民主を喧伝(けんでん)し、国内で人権を蹂躙(じゅうりん)し、米国の分断はここでも顕著だ」とも書いている。

 アメリカ国内では、2020年の大統領選挙で、不正選挙 electoral fraud が行われたの

で、その結果を認めない、受け入れないという人の数は多い。選挙は民主政治体制の根幹であるが、それに対する信頼感が消え去れば、民主政治体制が崩壊する。また、アメリカをはじめとする先進諸国では格差の拡大によって、資本主義に対する不信感も高まっている。アメリカの若い人々、ミレニアル世代で社会主義的政策を支持する割合が高まっている。こうした中で、アメリカ国内の分断はより深刻化している。

 2021年1月に発足したジョー・バイデン政権について、日本では突っ込んだ分析がなされていない。目の前の、日本国内の新型コロナウイルス感染拡大対策と東京オリンピック・パラリンピックにばかり人々の関心が集まっている。それはそれで仕方がないことだ。しかし、アメリカの動きは、日本の行動にも影響を与える。バイデン政権がどのような政権なのかということを知ることは、日本がこれから進む方向や取るべき行動について考える際に、必要不可欠である。

 本書の前半部で書いた通り、バイデン政権は「4年越しのヒラリー政権」「第3次オバマ

政権」である。中露との対決姿勢を鮮明にし、衝突も辞さない構えである。それに中国の周辺に存在する日本を含む同盟諸国を巻き込もうとしている。アメリカ単独で中国と対峙する力は持っていない。アメリカの衰退は明らかになっている。

 この状況において日本はどう行動すべきか。選択肢はほぼない。なぜなら、日本はアメリカの属国 tributary state であって、アメリカの命令通りに行動しなければならないからだ。アメリカが中国封じ込めに周辺の同盟諸国を動員するということになれば、日本は中国との対決の先兵として使われる。米軍が中国軍と直接接触するということは大変なことで、それは最終段階のことである。その前の段階として日本とインドがまず接触(衝突)させられる。

 日本は中国との衝突の衝撃や損害をできるだけ小さくしなければならない。属国などはどうせ使い捨てだ。中国と本気になって衝突して、アメリカが後詰めで助けに来てくれるとは限らない。それどころか、調子に乗って二階に上ったらはしごを外されて降りられなくなった、その間に米中が日本を悪者ということにして手打ちということが起きることも考えられる。『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策Ⅰ・Ⅱ』(スティーヴン・M・ウォルトとの共著、副島隆彦訳、講談社、2007年)で、シカゴ大学教授のジョン・J・ミアシャイマー John J Mearsheimer(1947年―  73歳)は、自著の『大国政治の秘密 The Tragedy of Great Power Politics 』(奥山真司訳、五月書房、2007年)の中で、既存の国際関係を変化させるような新興大国の勃興が起きた際の他国の取るであろう複数の戦略「バランシングbalancing 」「バンドワゴニング bandwagoning 」「バック・パッシング buck-passing 」について説明している。

 バランシングとは、台頭しつつある大国と対峙し、その伸長を抑止する戦略である。そのためには直接的な衝突も辞さない態度を取る。また、自国以外にも脅威を感じている国々を糾合(きゅうごう)することもある。バンドワゴニングとは、台頭している大国に追随する戦略であるが、この戦略はあまり選択されない。それは追随することになった大国に生殺与奪の権を握られてしまうからだ。現在の日本の属国としての惨(みじ)めな姿を見ればそのことが実感できる。バック・パッシングとは、台頭する大国に対して、自分たちが直接対峙することなく、他国に対応させることである。

 現在、アメリカが行おうとしているのは、バック・パッシングだ。日本という属国でありながら、世界第3位の経済力を誇る、使い勝手の良い国である日本に、中国との直接的な衝突は任せるという態度だ。ミアシャイマーは「脅威を受けた側の国は、ほとんどの場合、バランシング(直接均衡)よりもバック・パッシング(責任転嫁)を好む。戦費の支払いを逃れることができるからである」(187ページ)と書いている。アメリカは、日本に負担を強いることで、自分たちに火の粉がかからないように巧妙に立ち回っている。

 アメリカに負担を押しつけられるならば、日本はアメリカに服従する姿勢を派手に見せながら、裏で中国とつながっておく。「面従腹背(めんじゅうふくはい)」と言い表すことができる。大相撲で八百長スキャンダルが起きたが、八百長を仕組んでおくことである。「ここで適当にぶつかりますんで、うまくかわして後は流れで怪我(被害)が少ないようにしましょう」ということを中国と企んでおく。「アジア人のためのアジア」「アジア人同士戦わず」が理想だが、どうしてもぶつからねばならないとなれば裏でつながっておくということが重要だ。

 米中どちらに賭けるかという賭博だと考えるならば、どちらにも賭けておく、それで掛け金の損失を少しでも少なくする。一種の悪賢さが必要だ。世間の評判が悪い自民党幹事長の二階俊博議員は中国とのチャンネルを維持する役割を果たしていると思う。だから、日本国内のアメリカの息のかかったマスコミにバッシングをされてしまう。

 本来、日本は米中どちらにも高く「売りつける」ことができる位置にある。より行動の自由があれば、中国に対しては「アメリカにつくぞ」という姿勢を見せて、アメリカに対しては「中国につくぞ」という姿勢を見せて、より良い条件を引き出すことも可能だ。しかし、悲しいかな、日本は敗戦国であり、アメリカの属国である。そのことを変えることは至難の業だ。だからある程度までアメリカにお付き合いをしなければならないが、裏では中国ともつながっておく。

 そのためにまず現状を認識しておくことだ。「日本は世界に冠たる大国で、アメリカと対

等の同盟関係にあって、日米関係は世界で最重要の同盟だ」などという美辞麗句に惑わされて、調子に乗ってはいけない。「日本が勇ましさを出す時は必ず失敗する」くらいの認識で慎重に行動する。また、「敗戦国ですから、一度皆さんにご迷惑をかけた身ですから謹慎しておきます」という論理も使える。アメリカはそのような論理はもう許してくれないが、それでもこの論理を捨てずに主張することで周辺諸国との協調を図ることができる。

 あまり景気の良い話にならないのは残念であるが、戦争に向かう流れの中で、日本はできるだけ被害や損失を少なくするということを真剣に考えねばならない。

 最後に。本書執筆にあたり、そのきっかけを下さった、師である副島隆彦先生に感謝します。出版を引き受け、先導してくださった秀和システムの小笠原豊樹氏にも心からの感謝を申し上げます。ありがとうございます。

2021年4

古村治彦

(貼り付け終わり)
akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 バイデン政権の国家情報長官(Director of National IntelligenceDNI)にアヴリル・ヘインズが就任した。ヘインズについては、このブログでも再三取り上げている。
avrilhaines101
アヴリル・ヘインズ

ヘインズはオバマ政権第二期目の2013年から2015年まで、中央情報局(Central Intelligence AgencyCIA)の副長官(Deputy Director、長官はジョン・ブレナン)を務め、2015年から2017年までは国家安全保障問題担当次席大統領補佐官(Deputy National Security Advisor、補佐官はスーザン・ライス)を務めた。私の最新刊『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』でも取り上げている。

 ヘインズについては批判も多く出ている。オバマ政権のCIA副長官時代の2015年、連邦上院情報・諜報委員会のコンピューターにCIA職員がハッキングを行ったという事件が起きた。委員会ではCIAが行った拷問についての報告書を作成中だった。その内容を知ろうとしての犯行だった。この行為に対して、ヘインズは処分を行わなかった。また、ドローンを使ったテロ容疑者の殺害にもゴーサインを出したが、その法的根拠をめぐって批判を浴びた。ヘインズは違法行為をいとわない、肝の据わった人物だ。

 ヘインズが対中・対露諜報活動を牽引する役割を果たすことになるだろう。バイデン政権の強硬姿勢の前提となる、情報・諜報を提供する。

(貼り付けはじめ)

連邦議事堂襲撃事件がバイデン政権の「スパイの親玉」の公聴会の質疑の大部分を占めた(Capitol Assault Dominates Hearing for Biden’s Spy Chief

-アヴリル・ヘインズは情報・諜報の分野から政治を遠ざけると公約した。

エイミー・マキノン筆

2021年1月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2021/01/19/avril-haines-spy-chief-cia-hearing-capitol-assault/

アメリカ大統領選挙当選者ジョー・バイデンの大統領就任式の前に、ワシントンでは暴動や襲撃に備えて警備が厳重になっている。そうした中、バイデン政権の国家安全保障ティームの主要メンバーの人事承認のための公聴会が連邦議事堂で火曜日、開催された。

連邦上院情報・諜報特別委員会による公聴会の中で、連邦上院議員たちがアヴリル・ヘインズと質疑応答を行った。ヘインズはバイデンから国家情報長官(director of national intelligence)に指名された。ヘインズに対しては、中国からイランとの核開発をめぐる合意、ソーラーウインズ社が提供したソフトを利用した連邦政府の諸機関に対するハッキング事件などが質問された。ヘインズはまた水責めについて拷問だと主張した。

ヘインズはオバマ政権でCIA副長官を務めた。ヘインズは、「大統領に真実を告げる(speak truth to power)」こと、トランプ政権下で情報・諜報部門が政治の道具にされたがこれを終わらせることを約束した。ヘインズは「我が国の情報・諜報部門の誠実さを守るため、情報・諜報に関する限り、政治が介入する余地はどこにもない、全くないということを強く主張しなければなりません」と述べた。ヘインズの冒頭での発言ではまた、説明責任を果たすために、内部告発者と監察官の存在の重要性を強調した。

国家情報長官はこれまで外国の情報や諜報に集中してきた。しかし、1月6日の連邦議事堂での事件について、今回の公聴会では長い時間が割かれた。ヘインズは、国内で拡大した過激派諸グループの外国とのつながりを調査すること、海外での急進諸グループとの戦いで情報・諜報部門が得た教訓を共有することを約束した。ヘインズはまた、Qアノンの陰謀論による脅威について公的な評価を行うにあたり、FBIと国土安全保障省と協力することも約束した。

民主、共和両党の議員たちは、徐々に対決姿勢を示している中国による脅威、テロリズム、特に中東におけるテロリズムとの数十年の苦闘という脅威に対しての懸念を表明した。

情報・諜報に関しての質疑の中で、ヘインズは「中国は敵(adversary)だ」が、気候変動といった問題については協力する余地があるという発言がなされた。「私の人事が承認されたら、私はこの問題について人材や資源が適正に配分されるようにすることを第一にしていきたいと思います」とヘインズは述べた。

連邦上院議員たちは、ヘインズの「ウエストエグゼクト・アドヴァイザーズ」社の在職時の仕事について質問した。この会社は2017年にアントニー・ブリンケンとミッシェル・フロノイによって創設されたコンサルタント会社だ。ブリンケンはバイデンが国務長官に指名した人物だ。フロノイは国防長官の候補者として名前が挙がった人物だ。ヘインズや同社の役員を務めたが、議員たちの中には、同社が顧客リストの提出を拒絶したために、ヘインズの仕事についての関心が高まった。ヘインズはウエスト社在職中に、外国の企業や組織、政府に対してコンサルタント業務を行ったことはないと確言した。しかし、ウエスト社在職中ではない時期に、あるフランスの民間企業の顧問を務めたことは認めた。

ヘインズはまた、『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストだったジャマル・カショギの殺害事件に関する機密指定を受けていない報告書を公開すると約束した。トランプ政権は、2019年に連邦議会が可決した、殺害事件に関する報告書には国家情報長官の決定が必要とする法律を無視した。

ヘインズは公聴会で元国家情報長官ダン・コーツから紹介を受けた。コーツはドナルド・トランプ大統領と、ロシアと北朝鮮に関する情報・諜報に対する評価をめぐり衝突し、2019年に辞任した。コーツは共和党所属の連邦上院議員だった経歴を持つ。コーツはヘインズについて、「次期国家情報長官に必要な能力、適性、経験、リーダーシップの全てを持っている」と述べた。続いて、彼女が政府に入るまでのユニークな経歴について詳しく述べた。柔道を学ぶために日本で1年間過ごしたこと、シカゴ大学で理論物理学を学んだこと、配偶者とはニュージャージー州での飛行機操縦学校で出会ったとことなどが紹介された。その後、ヘインズは書店を開き、弁護士となり、国務省と連邦上院外交委員会の法務担当アドヴァイザーを務めた。その当時の外交委員長がジョー・バイデンだった。

ヘインズの起用は、トランプ政権での国家情報長官起用と対照的なものである。国家情報長官は2001年の911事件の後に、アメリカの18の情報、諜報機関全体を監督する目的で創設されたポストである。トランプは政界における忠実な人物であるリチャード・グレネルとジョン・ラトクリフを情報・諜報専門のトップの大統領補佐官に起用した。連邦上院が承認すれば、ヘインズは初の女性国家情報長官となる。ヘインズの最初の仕事は情報・諜報の各機関の士気を高めることだ。これらの機関はトランプやトランプの支持者たちによって弱体化され、攻撃された。

しかし、政権移行が円滑に進まなかったために、いくつかの問題で情報が与えられていない。ヘインズは、「ソーラーウインズ」社のハッキング被害事件に関して機密情報が与えられていないと述べた。この事件では多くのアメリカ政府機関が被害を受け、捜査当局はロシアが関与していると発表した。

ヘインズは連邦上院国防委員会委員長に内定している、情報・諜報委員会のメンバーであるジャック・リード連邦上院議員に、「このことについて私はもっと多くのことを知らねばなりません」と述べた。

(貼り付け終わり)
akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001
悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 古い記事で恐縮だが、オバマ・バイデン政権における外交政策と安全保障政策は失敗だったとする記事をご紹介する、記事の著者はトランプ支持者であり、バイデンに対して徹底的に批判的だ。その骨子は次の通りだ。「(1)バイデンは上院議員時代に中国のWTO加盟を推進し、中国の経済成長を促し、結果としてアメリカの失業を増やした。(2)上院議員時代にアフガニスタン戦争とイラク戦争に賛成票を投じた。両戦争での米軍の戦死者数7037名、負傷者数5万3117名、浪費された戦費6兆4000億ドル(約704兆円)となった。(3)オバマ・バイデン政権時代にテロリスト組織の数は増加し活動は活発化した。(4)ロシアのクリミア併合を発生させた。(5)リビアで誤った政策(カダフィ大佐の追い落としと殺害)を行ったことでアメリカ外交官が殺害され、リビアは党勢の取れない破綻国家となった。(6)イスラム国の勢いを止められなかった。(7)中国のサイバー上での窃盗行為を許し、盗まれた情報が対アメリカ攻撃に使われた」。

 記事の著者の主張に対しては全ての点で同意できないが、オバマ・バイデン政権の8年間の分析内容はなるほどと思わせるものがある。バイデンはこうした批判もあって、対中、対ロシア強硬姿勢を取っているのだろうと思う。弱腰だと批判されて、今度はその反対の強硬姿勢を取るというのは、馬鹿がやることである。本当に頭が良くて、慎重な人間は常に最悪を想定して、そうしたことにならないように、中間的かつ現実的な態度を取る。

(貼り付けはじめ)

アメリカは、オバマ・バイデン路線の外交政策に戻る準備ができているか?(Is America ready to return to the Obama-Biden foreign policy?

フレッド・ゲドリッチ筆

2020年10月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/522480-is-america-ready-to-return-to-the-obama-biden-foreign-policy

ジョー・バイデンは連邦上院議員と副大統領として、44年もの間、アメリカ政治に関わってきた。この間、バイデンは外交政策と国家安全保障の分野で多くの仕事をしてきた。連邦上院議員として行った複数の重要な採決での投票と副大統領としての仕事ぶりを精査すれば、バイデンが大統領になることに心から賛成するということはできない。賛成するどころではない。バイデンの仕事を調べれば、彼の投票と決断によって、アメリカ経済、アメリカの国家安全保障、国際的な平和と安全には悪影響が及ぼされたのではないかという深刻な疑問がいくつも出てくる。

2008年、民主党大統領選挙候補者バラク・オバマは、バイデン連邦上院議員(デラウェア州選出、民主党)を副大統領候補に選んだ。オバマは、この時点で36年にわたり連邦上院議員を務めていたバイデンを、外交政策についてトップクラスの権威である考えた。確かに、バイデンは12年にわたり、連邦上院外交委員会の幹部委員そして委員長を務めていた。オバマ政権の8年間、オバマ大統領はバイデン副大統領を、重要な安全保障にかかわる諸問題のほとんどで最高責任者に指名した。

アメリカ国民の多くは、オバマとバイデンが、ジョージ・W・ブッシュ政権とブッシュ政権を疲弊させたアフガニスタンとイラクでの戦争から、変化をもたらすだろう、この変化は好ましものとなるだろうと確信していた。オバマとバイデンは、世界の解決困難な諸問題の解決のために、国連や他の国際機関の利用を更に進める意向を示した。

オバマ政権で国防長官を務めたロバート・ゲイツは、バイデンの安全保障問題での判断について深刻な疑問をいくつも提示した。2014年にゲイツは『責務:戦時の長官として(Duty: Memoirs of a Secretary at War)』を出版した。その中で、ゲイツは「この4年間、彼(バイデン)はほぼすべての外交政策と国家安全保障問題で間違いを犯してきたし、現在もまた犯している」と書いている。

2000年、バイデンは、中国との貿易関係を正常化し、2001年の世界貿易機関への中国の加盟を促すというクリントン大統領の政策を支持し、それらに賛成票を投じた。中国の経済成長によって、約6万のアメリカの工場が閉鎖となった。

経済政策研究所(The Economic Policy Institute)は これらの決定によって、アメリカの370万件の雇用が失われ、それらのほとんど製造業部門における雇用だったと報告している。

2001年と2002年、バイデンはアフガニスタン戦争とイラク戦争に対して賛成票を投じた。この両戦争によってアメリカ軍将兵は7037名が戦死し、5万3117名が負傷した。2001年9月11日の同時多発テロ後の複数の戦争によって、アメリカの納税者の納めた税金6兆4000億ドル(約704兆円)が浪費された。アフガニスタン戦争でのアメリカ軍の死傷者の84%(2万3113名の内の1万9350名)はオバマ・バイデン政権の時期に発生した。一方、イラク戦争でのアメリカ軍の死傷者の95%(3万7041名の内の3万5182名)はブッシュ・チェイニー政権の時期に発生した。トランプ・ペンス政権では、全死傷者数の1%が発生した。同時多発事件以降の戦争で約80万の戦闘員と非戦闘員が亡くなった。約6000万人が居住地から立ち退かねばならなかった。アフガニスタン戦争とイラク戦争の初期段階では、アメリカ国民の多くは支持していたが、やがて人々は両戦争に疲れてしまった。

オバマ・バイデン政権の8年間の後に世界はどのようになったか?

経済学研究所と平和研究所の平和指数が示しているは、全体像としての評価である。平和指数によると、世界全体の平和はここ10年の間で減退し、テロリズムの発生はこれまでで最も高い程度になっており、ここ25年の中で戦闘において死亡した人の数は高くなっている。難民の総数はここ60年の中で最も高くなっている。

米国務省の報告書によると、2009年にオバマ、バイデンが政権の座に就いて以降、外国のテロリスト組織の数は34%増加している。そのうちの75%はイスラム教徒が国民の大多数を占める国々で活動を行っている。

フリーダム・ハウスの報告書によると、2016年の段階で、10年連続で、世界の自由度が下がっている。そして、報道の自由度は12年の間で最も低い程度になっている。世界に住む73億人のうち、40%だけが自由な生活を送っており、13%のみが報道の自由の中で生きているということになる。

オバマ政権の国家情報長官だったジェイムズ・クラッパーは、2016年のアメリカ諜報分野国際規模危機アセスメントでの報告の中で、世界の状況は深刻さを増しているということを認めた。

●オバマ・バイデン政権による外交政策上の重要な厄災は何であったか?

オバマ・バイデン政権は対ロシア政策を変更したが(2009年から2014年までの時期)、それは逆効果であった。2014年にロシアはウクライナからクリミアを奪い、自国に併合した。また、2015年にシリア内戦が発生し、ロシアはシリア国内でロシア軍の空軍基地と海軍基地を獲得する長期にわたる合意を取り付けることに成功した。

オバマ政権はリビア国内で誤った冒険的な政策を行った。それは厄災となった。ベンガジでは4名のアメリカの外交官が殺害され、リビアは破綻国家(failed state)となった。イラクから状況が落ち着く前に、早過ぎる米軍の撤退を行ったために、イラク国内に安全保障上の空白を生み出してしまい、結果としてイスラム国テロリスト・グループを拡大させ、2011年からはイラクとシリア国内において国土の獲得と人々へのテロ行為を許すことになってしまった。

2013年にマンディアント者が発表した報告書はオバマ政権の中国に対する弱腰によって、アメリカの宇宙、エネルギー、衛星、テレコミュニケーション関連技術が盗み出され、そうした情報を、経済、軍事、政治の各分野における妨害活動や戦争に利用されてしまっている、と指摘している。十分な安全対策を施すことに失敗したために、中国のハッカーたちは2015年にアメリカ合衆国人事局の複数のコンピューターに侵入し、2200万人以上のアメリカ人の個人データにアクセスすることに成功した。

トランプ大統領は任期の4年間、「アメリカ・ファースト」路線の外交政策を推進してきた。トランプ政権は、中国のサイバー上の窃盗と不公正な貿易方法に対峙した。また、ロシアからの攻撃から守るために東欧の同盟諸国との関係を強化し、ロシアの不履行を利用にして中距離核戦力全廃条約の一時停止を行った。イランとの核合意を放棄し、イラン革命防衛隊のテロリストたちの指導者を殺害した。イスラム国のカリフを殺害し、テロリストの指導者も殺害した。アラブの二カ国とイスラエルとの間の和平という、歴史的な中東における和平合意の実現に向けて動き出した。また、アフガニスタンとイラクからほぼ全ての米軍の将兵を撤退させるプロセスを開始した。

ジョー・バイデンはアメリカ国民に対して、オバマ政権のグローバリスト的外交政策に戻ることを示している。これらの政策の結果は、自由の後退、テロリズムの激化、終わりのない戦争、数万に及ぶアメリカ国内の工場の閉鎖、数百万人のアメリカ国民の失業ということになった。アメリカ国民がこれらの諸政策に戻りたいかどうかを決めるのは有権者次第ということになる。

フレッド・ゲドリッチ(Fred Gedrich)は外交政策と国家安全保障のアナリストであり、米国務省と米国防総省に勤務した経験を持つ。

(貼り付け終わり)
akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ