古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2021年09月

 古村治彦です。

 昨日2021年9月29日に、自民党総裁選挙の投開票が実施され、岸田文雄衆議院議員が総裁に選出された。現在、地味党と公明党で連立与党を組んでおり、岸田氏が菅義偉首相の次の首相ということになる。

 選挙は9月17日に告示され、立候補者の受付が行われ、河野太郎ワクチン担当大臣、岸田文雄元外相・元総務会長、高市早苗元総務相、野田聖子幹事長代行が立候補した。野田氏は推薦人20名を集めるのに苦労していると報道されていたが

 菅首相が9月3日に総裁選不出馬を表明して以来、総裁選挙の状況は一気に流動化した。岸田氏は菅首相府出馬表明前から、いち早く総裁選挙立候補を表明し、高市氏は、安倍晋三前首相の再登板を求めたが断られたことを受け、「私が出たるわ(関西の出身)」と啖呵を切り、安倍氏の支援も受けて、立候補となった。河野氏は、菅政権を支える現職閣僚、ワクチン担当ということもあり、すぐに出馬を決断という訳にはいかなかったが、若手の議員たちや、小泉進次郎環境相や石破茂元幹事長の支援を受け、「小石河連合」と呼ばれる協力体制を確立し、立候補となった。野田氏はこれまでも何度か総裁選挙立候補を模索したが、推薦人集めができずに断念してきた。今回は二階幹事長率いる二階派から推薦人を「借りる」ことができたという報道もあるが、立候補にこぎつけることができた。

 今回は各派閥が対応に苦慮し、自主投票、ただし決選投票の際にはまとまって行動を同じ候補者に投票するという対応になったところが多かった。自民党の派閥は、「8個師団」時代から、三角大福中時代、ニューリーダー時代を経て、小選挙区制度導入もあり、構造を変化させつつも残っている。現在は、細田派(96名)、麻生派(55名)、竹下派(51名)、二階派(47名)、岸田派(46名)、石破派(16名)、石原派(10名)、無派閥63名という状況だ。派閥とはトップ(領袖)を総裁にするためのものとして始まったが(中間派と呼ばれた小派閥もあったが)、現在はトップが総裁を目指すということも少なくなった。今回も岸田氏のみが派閥を率いる領袖だった。

 河野氏は麻生派のプリンス(次に領袖になると見られている人)だったが、今回の総裁選挙では麻生は全体を率いて戦うということではなく、現在の領袖である麻生氏から立候補の了承は得たが、麻生は全体で河野氏を支えるという雰囲気はなかった。高市氏は、元々は細田派に属していたが既に退会しており、無派閥であり、細田は全体からの支援ということも難しかったが、実質的なオーナーである安倍晋三前首相が高市氏を全面支援した。野田氏は独自の戦いを展開した訳だが、自民党にとっては良い効果もあったと思う。

 総裁選挙の結果は次のようなものとなった。簡単にまとめたので見ていただきたい。

(貼り付けはじめ)

■党員算定票(382票、有効投票数:760075票)は

・河野太郎(335046票、44.08%):地元神奈川県を含む37都道府県で1位

・岸田文雄(219338票、28.86%):地元広島県を含む8県で1位

・高市早苗(147764票、19.44%):地元奈良県で1位(2位は河野)

・野田聖子(57927票、7.62%):地元岐阜県で1位(2位は河野)

↓ドント方式で計算して

・河野太郎:169票、岸田文雄:110票、高市早苗:74票、野田聖子:29票

■国会議員票(380票:本来は382票だが病欠などがあった)は

・河野太郎:86票、岸田文雄:146票、高市早苗:114票、野田聖子:34票

■1回目の投票では

・河野太郎:255票、岸田文雄:256票、高市早苗:188票、野田聖子:63票

■岸田文雄、河野太郎の上位2名による決選投票

・河野太郎:131票(議員票)+39票(党員算定票)=170票

・岸田文雄:249票(議員票)+8票(党員算定表)=257票

(貼り付け終わり)

 全体の印象としては、メディアで騒がれたほどには、河野氏は党員党友票が取れていなかったこと、高市氏は議員票も党員党友票が取れていなかったことだ。インターネットで調査をすれば、支持率で言えば河野氏が断然トップだったし、高市氏を応援するインターネット世論も大きく、「高市氏が2位になるのではないか」という勢いもあった。しかし、インターネットとは曲者だ。私は2000年の「加藤の乱」を思い出す。加藤紘一氏は、自身に寄せられたEメールの束を手にして、小渕恵三首相に戦いを挑み、一敗地にまみれた。インターネットは実像をより大きく見せる効果があるように思う。

 党員党友票の大幅リードで河野氏が1回目の投票で1位になると見られていて、岸田氏、高市氏が2位と3位になると見られ、決選投票になったら「2・3位連合」という話も出ていたが、接戦で岸田氏が1位、河野氏が2位となった。河野氏の敗北が決定的となった。

 河野氏の敗因は、国会議員票の獲得数の少なさに尽きる。また、党員党友票がもっと獲得できるのではないかとも陣営は考えていたのではないか。空中戦の失敗だ。小泉純一郎出現の時のような熱狂がなければ、河野氏の当選は困難だった。そして、人々は、あの時の熱狂を苦々しい記憶として持っている。河野氏のあのドライな、冷たい態度は政治家としては致命的な欠点ということになる。それでこれまで8回も当選してきたのだから、直すことはできないだろうからそのままで進むしかない。

 今回の総裁選挙で私が考えるキーワードは「通産省」と「産業政策」だ。この2つの言葉が並ぶと、チャルマーズ・ジョンソン著『通産省と日本の奇跡: 産業政策の発展1925-1975 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス)』(1982年)を思い出す方も多くおられると思う。私がどうしてそのように考えるに至ったかについて書いていきたい。まず以下の記事をお読みいただきたい。

(貼り付けはじめ)

●「「ガッカリ河野を見切って高市に乗り換え」議員たちの驚きの打算」

9/28() 10:32配信 FRIDAY

https://news.yahoo.co.jp/articles/e5b643d655ed9193bb1c197206c5f7131bf26261

 

予想外の大混戦となった自民党総裁選は、いよいよ929日に「決戦」を迎える。一挙手一投足を追うメディアの世論調査では、発信力の高さに定評がある河野太郎ワクチン担当相のトップは不動だが、「決選投票になれば河野氏ピンチ」というのもコンセンサスである。熾烈さを増す権力闘争の中で、勝敗を分けるとされる態度未定の議員たちの心理は複雑なようで

【画像】今井絵理子議員が「期待の美人秘書」と国会でツーショット!

◆着信に「安倍前総理」

「本人からの電話に驚いた。ここまで力を入れているなんて…」

携帯電話の着信履歴を見返しながら自民党の若手議員が首をひねるのも無理はない。「本人」とは、総裁選の立候補者ではない。河野氏を猛追する高市早苗前総務相を全面支援する安倍晋三前首相からの応援依頼だったからだ。議員間ではしきりに情報交換がされ、態度を決めかねているとされる約2割の議員の元には各方面からの電話が続いている。

情報戦もヒートアップする一方だ。

「もしも裏切り行為があれば、安倍さんが許すことはない」

「岸田文雄前政調会長が決戦投票で勝つのは明白。いま力を貸しておけば、新政権で活用してくれるはず」

前首相から直で電話が来る時代。この時ばかりは若手議員たちは通信手段の発達を恨んだことだろう。

いまも態度を決めかねている議員らの頭の中にあるのは、11月に予定される総選挙だ。安倍前首相からの揺さぶりも効果はあるが、その一方で、

「河野さんが首相になるのを後押しすれば、石破茂元幹事長や小泉進次郎環境相が選挙の時に必ず応援にくる」

「逆に保守色の強い高市氏では、公明党がついていけなくなるから、選挙では不利ではないか」

との算段が頭の中をメリーゴーランドのように駆け巡っているのだ。国民の人気が高い「小石河連合」に加えて、河野氏を支持する菅義偉首相からのにらみは、選挙に弱い態度未定の議員心理を揺さぶる。

だが、当選ムードを漂わせる河野陣営を横目に「ガッカリした」と距離を置き始めたのは自民党中堅議員の1人だ。その理由は、河野氏が総裁選への出馬表明を2日後に控えた98日に経団連を訪れていたことにある。「脱原発」を唱えていた河野氏は、十倉雅和会長と会談し「安全と認められた必要な原発は再稼働させていく」などと、自らの主張を修正したと受け止められたからだ。10日の記者会見でも「安全が確認された原発を当面は再稼働させるのが現実的だ」と明言した。

◆河野包囲網

歯に衣着せぬ発言や突破力が最大のアピールポイントだったはずの河野氏は牙を抜かれつつあるようにも映る。「一部の政治家からは『すべてを電気自動車にすれば良いんだ』とか、『製造業は時代遅れだ』という声を聞くこともあるが、それは違うと思う」。日本自動車工業会の豊田章男会長は9日、踏み込んだ発言で周囲を驚かせたが、河野氏やその周辺が念頭にあるというのがもっぱらの見方だ。

さらに日本貿易会の小林健会長(三菱商事会長)も15日、原発に関して「検討もしないで『イエス・オア・ノー』ということはありえない」として、新増設の検討が必要との見解を示した。対立陣営からは「河野氏が新しい首相になれば、企業とうまくいかないのではないか」との声が伝わる。

河野氏の周辺は、財界をはじめ企業に「河野包囲網」のメッセージを送っているのは、安倍政権時代に首相秘書官を務めた今井尚哉氏であると見ている。岸田氏の勝利に向け指南しているとも報じられる今井氏は、経済産業省時代のネットワークに加えて、安倍氏が勝利してきた過去の総裁選で原動力となった支持団体の重要性を最も知る人物だ。「『職域』がどんどん剥がされているようだ」と河野氏のブレーンに不安はつきない。

今回の総裁選は、議員票382と党員票382の計764票で争われる。約110万人に上る党員が「国民感覚」に近いのは間違いないが、その内訳を考えれば、総裁選での投票行動は必ずしも「国民感覚に近い」とは言い切れない。

その理由は、業界団体に属している「職域党員」が党員票全体の4割近くに上るためだ。「職域」は全国単位で動くことが可能で、安倍氏の総裁選で党員票の積み増しに大きく貢献したとされる。さらに、この支持団体からの支援を受ける議員たちも、その動向を気にしないわけにはいかなくなる。

世論調査の数字からは「最も総理大臣に近い男」であることは間違いない河野氏だが、総裁選終盤では焦りも見え始めている。26日のフジテレビ番組で「河野氏の陣営が1回目の投票で一部の票を高市氏に回す動きもある」との解説に対して、「ひどいフェイクニュースですよ」「するわけないですよ!冗談はよしてください」と激高する一幕も。

加えて、ジャーナリストの田原総一朗氏からは「河野太郎が出馬会見で『脱原発』も、『女系天皇』も外して、どうしようもなかった。河野に言ったのよ、ガッカリしたと。なんであんなことを言ったのかといえば、そういわなければ麻生さんが出馬を認めなかったんだと」などと、ウッカリ“暴露”されてしまう始末である。

権力闘争よりも新型コロナウイルス対策の方をシッカリしてほしいというのが国民の願いであるが、自民党の若手議員からは、総選挙での応援だけは「シッカリきてくださいよ」との声が漏れる。なんとも空しいものである。

取材・文:小倉健一

イトモス研究所所長

(貼り付け終わり)

 私はこの記事を読みながら、次の文章に目が留まった。引用する。「河野氏の周辺は、財界をはじめ企業に「河野包囲網」のメッセージを送っているのは、安倍政権時代に首相秘書官を務めた今井尚哉氏であると見ている。岸田氏の勝利に向け指南しているとも報じられる今井氏は、経済産業省時代のネットワークに加えて、安倍氏が勝利してきた過去の総裁選で原動力となった支持団体の重要性を最も知る人物だ」。今回の総裁選挙で岸田氏の陣営の指南役として入り、経済界における「河野包囲網」を作り上げたのが、「今井尚哉(いまいたかや、1958年-、63歳)」氏だったというのだ。今井氏は第二次安倍政権時代に政策担当秘書官・内閣総理大臣補佐官(秘書官と兼任)を務めた人物だ。その今井氏が今回、岸田陣営の指南役となったということは違和感があった。これまでの関係で言えば、安倍氏の許で、高市氏の応援に回るのが自然ではないかと私は考えた。それなのに、今井氏が岸田氏支援に回ったのはどうしてか、ということを私は不思議に思った。そこで出てくるキーワードが「通産省(通商産業省、現在の経済産業省、戦前は商工省)」だ。岸田氏と今井氏の周辺は通産省だらけなのだ。

 まず、岸田氏の父親である岸田文武氏(きしだふみたけ、1926-1992年、65歳で没)は1978年(1949年入省)に退官するまで、通産官僚だった。貿易局長、中小企業庁長官を務めた。1963年からはニューヨークに在勤し、息子である文雄は小学校時代の3年間をニューヨークで過ごした。

 今井尚哉氏の叔父には、通産事務次官(1937年商工省入省)を務め、城山三郎の小説『官僚たちの夏(新潮文庫)』(1980年刊行、数年前に渡辺謙主演でドラマ化された)の主人公今井善衛(いまいぜんえい、1913-1996年、83歳で没)、新日鉄社長・経団連会長を務めた今井敬(いまいたかし、1929年-、92歳)がいる。安倍晋三前首相の祖父・岸信介(1896-1987年、90歳で没)元首相は1920年に農商務省に入省し、1925年の分割の際に商工省に所属した。1939年に商工省次官となった。その間には満州国に赴任した。

 上記のように、岸田氏は通産官僚の息子であり、今井氏は叔父が通産官僚で最高位の事務次官を務め、自身も通産省に入省したという経歴を持つ。岸田氏は、東京大学の入学試験で不合格となり、2年の浪人を経て、早稲田大学法学部に入学し、卒業後は日本長期信用銀行に入行した。その頃には父親が既に政治家であったが、政治家を目指してはいなかったそうだ。確かに、これまで歴代の早稲田大学出身の総理大臣は雄弁会出身者が殆どだ。雄弁会は政治家を目指す学生の登竜門であるが(最近はそうでもないようだが)、岸田氏は参加しなかったようだ。早稲田大学にはどうしても早稲田に行きたいという学生ばかりではなく、東大や京大などに不合格になって仕方なく入学してきた学生も多く、雰囲気が違う。愛校心(周囲の迷惑を考えずに早稲田の校歌を歌いまくるのはそうとは言い難いが、これが愛校心溢れる行動とされる)は早稲田大学には薄いようだ。岸田氏のよりどころは、東京の名門・開成高校にある。以下の記事を貼り付ける。

(貼り付けはじめ)

●「岸田新総裁は開成高、早稲田大卒 総裁選を争った4人の出身校と華麗なる同窓生たち 〈dot.〉」

9/29() 15:05配信 AERA dot.

https://news.yahoo.co.jp/articles/65b9672b1bce0cb0f2b91906bd3cfc06ba9043f6

https://news.yahoo.co.jp/articles/65b9672b1bce0cb0f2b91906bd3cfc06ba9043f6?page=2

https://news.yahoo.co.jp/articles/65b9672b1bce0cb0f2b91906bd3cfc06ba9043f6?page=3

 929日、第27代自民党総裁に岸田文雄議員が決定した。

 これで事実上、岸田首相が誕生することになる。9月上旬、菅義偉首相が不出馬を表明してから自民党総裁選挙がはじまり、岸田文雄、河野太郎、野田聖子、高市早苗の4人が立候補。自民党国会議員と党員・党友によって投票が行われ、新しい日本のリーダーが誕生したわけだ。総裁選を争った4人について、出身校とその特徴、同窓生をみてみよう。

【ランキング】国会議員の出身大学ランキング<政党別/女性議員/238ページ>

■岸田文雄氏

 岸田文雄は1957年生まれ。開成高校を卒業して東京大を目指したがかなわず、早稲田大に進んだ。

 開成には永田町・霞が関開成会(永霞会)という同窓会組織がある。同校OBの国会議員、省庁職員が集まる親睦会だ。現在、議員は9人、国家公務員は112省庁で約600人にのぼり、事務次官クラスが10人近くいるといわれている。

 開成OBの国会議員には東京大、官僚経由が多い(カッコ内は出身省庁)。

 上野宏史(経済産業省)

 小林鷹之(財務省)

 鈴木馨祐(財務省)

 城内実(外務省)

 鈴木憲和(農林水産省)

 永霞会事務局長の井上信治議員に「永霞会が開成OBを総理に、と盛り上がることはありますか」とたずねたところ、こう答えてくれた。

「開成から総理が生まれるのはうれしいけど、そのために永霞会を発足させたわけではありません。OBの政治家と官僚が国のために折に触れて協力し合えばいいと考えています」(「週刊朝日」202142日号)

 昨年の総裁選では菅義偉と岸田が争ったが、永霞会の開成OB議員は菅に投票しているという。これは同校OB議員が所属する派閥の事情によるものだった。

■河野太郎氏

 河野太郎は1963年生まれ。慶應義塾中等部、慶應高校から慶應義塾大経済学部に進む。総裁選でタッグを組んだ石破茂は高校から慶應に進み、慶應義塾大法学部というコースをたどった。

 慶應高校出身の国会議員はおよそ30人いるが、2世、3世が多い。父や祖父が大臣経験のある大物議員が並ぶ。(*は首相経験者)

 竹下亘 異母兄は竹下登*(17日に死去)

 福田達夫 祖父は福田赳夫*、父は福田康夫*

 岸信夫 父は安倍晋太郎、祖父は岸信介*で、岸家と養子縁組。兄は安倍晋三*

 石原伸晃、石原宏高 父は石原慎太郎 

 奥野信亮 父は奥野誠亮

 高村正大 父は高村正彦

 中曽根康隆 父は中曽根弘文、祖父は中曽根康弘*

 慶應高校出身の国会議員は「華麗なる一族」を持つ。このうち中曽根康隆の祖父、福田達夫の父と祖父、岸信夫の祖父と兄、竹下の異母兄は首相となった。逆に言えば、首相は親族を慶應高校に入れたがる傾向にあるということか。河野太郎の父、河野洋平、そして祖父・河野一郎も派閥、小グループの領袖であり、首相候補だった。

 だが、不思議なことに慶應高校出身の首相は生まれていない。慶應義塾大からは橋本龍太郎、小泉純一郎などの宰相が輩出したのだが、塾高出身は縁がない。

■野田聖子氏

 野田聖子は1960年生まれ。田園調布雙葉高校を中退してアメリカのハイスクールで学ぶ。田園調布雙葉の3学年下には雅子皇后がいた。同校には各界著名人の子女が通っていることでも知られる。長嶋茂雄の次女でスポーツキャスターの長島三奈、佐田啓二の長女で俳優の中井貴惠などだ。

 野田は帰国して上智大学外国語学部比較文化学科に入学する。現在の国際教養学部である。もともと上智大国際部と称していた。同学科は芸能人を多く送り出している。范文雀、ジュディ・オング、南沙織、アグネス・チャン、早見優、西田ひかる、リサ・ステッグマイヤー、クリスタル・ケイ、青山テルマ、はな、川平慈英、デーブ・スペクターなど。キャスターには安藤優子、山口美江、小牧ユカなどもいた。

 なお上智大出身の国会議員には平井卓也、西銘恒三郎、小林史明(以上、自民)、玄葉光一郎、山崎誠、松平浩一、今井雅人(以上、立憲民主)などがいる。同大学からは細川護熙元首相が輩出した。

 野田は1993年に初当選し、1998年には当時、戦後最年少の3710カ月で郵政大臣に就任する。このとき近い将来、初の女性首相誕生かと注目された。それから20年以上経ったが、今回も国のトップにはなれなかった。

■高市早苗氏

 高市早苗は1961年生まれ。野田と学年は一緒である。奈良県立畝傍高校の出身。うねびと読む。その由来について、学校史にこう記載されている。

「『畝傍』(うねび)という校名については、創立以来今日にまで続き、幾多の卒業生にとって無限の郷愁もたらす名称であるが、その由来を示す確かな記録は見当たらない」(畝高七十年史、1967年)

 そっけない。近くに畝傍山、畝傍御陵という古くからの地名があり、ここからとられたのではないかといわれている。

 同校卒業生はなかなかおもしろい。日本郵政初代社長で、三井住友フィナンシャルグループ社長をつとめた西川善文、舞踏家で大森南朋の父である麿赤兒、『試験にでる英単語』で受験界を一世風靡した元日比谷高校教諭の森一郎、中央公論社の社長だった嶋中雄作、元文部科学事務次官の前川喜平の祖父で和敬塾創始者の前川喜作など。多士済々だ。

 高市は大学入試で早稲田大、慶應義塾大に合格したが、親のすすめで神戸大経営学部に入学した。同大学出身の国会議員には山田賢司、繁本護(以上、自民)、吉川元(立憲民主)がいる。

 なお、神戸大経営学部の前身である神戸商業大出身には、宇野宗佑元首相がいた。

 198963日の宇野内閣発足後まもなく参議院選挙が行われるが、リクルート事件、消費税導入、宇野の女性問題報道で支持が得られず、自民党は大敗し、投票日翌日の724日に退陣を表明した。宇野の首相在任期間は69日、日本政治史上4番目の短さだった。

 このころ、高市は松下政経塾を卒塾したばかりで、国政選挙に出る準備をしていた1992年、参議院選挙で落選、1993年、衆議院選挙で初当選した。

 出身高校、大学のカラーと政治家は直接関係ない。だが、高校、大学をどのように過ごしたか、そこで、どのようなことを考え、何を目指したかは、その政治家の国家観を知るうえでヒントになる。そこで受けた教育、出会った恩師や先輩、築き上げた友人の力は大きいからだ。高校や大学で社会と向き合うようになったときのこと、やがて政治家になろうと思ったときのことなど、自身を振り返って語ってもらいたい。

<文中敬称略>(教育ジャーナリスト・小林哲夫)

(貼り付け終わり)

上記の記事にあるように、開成高校出身者たちで、政治家や官僚になっている人たちは、「永田町・霞が関開成会(永霞会)」を結成しているそうだ。岸田氏は東大出身でもなく、官僚出身でもないが、霞が関には強力な人脈を持っていると言えるだろうし、経歴は「党人派」であるが、「官僚派」に近い肌合いを持っているようだ。こうして見ると、今回、今井氏が指南役となって、岸田氏当選に尽力したということもうなずける。

 岸田氏の考えているであろう日本の姿とは、戦後高度経済成長期の「日本型」資本主義での成功例であろう。1960年代から70年代にかけて、日本は毎年10パーセント程度の経済成長率を維持した。このような経済成長が続くと、国内での経済格差が生じ、社会不安が起きるが、それを起こさず、「一億総中流社会」を実現した。英語では、「economic miracle without inequality」ということになる。以下の記事を読んでいただきたい。

(貼り付けはじめ)

●「ポストコロナ政策で岸田氏が議連、安倍・麻生・甘利氏ら参加」

ワールド

2021611日 ロイター編集

https://jp.reuters.com/article/japan-kishida-idJPKCN2DN0GM

 6月11日、自民党の岸田文雄前政調会長が中心となり、ポストコロナ時代の政策を議論する「新たな資本主義を創る議員連盟」が、設立された。写真は東京都で2020年9月撮影(2021年 ロイター/Issei Kato

[東京 11日 ロイター] - 自民党の岸田文雄前政調会長が中心となり、ポストコロナ時代の政策を議論する「新たな資本主義を創る議員連盟」が11日、設立された。安倍晋三前首相と麻生太郎財務相、甘利明党税調会長らも参加した。

安倍前政権発足時に政権の中枢を担った「3A」と称される安倍・麻生・甘利氏は、半導体議連など多数の議連を立ち上げている。

あいさつした麻生氏は、会場を見渡し、「政策を勉強している経済記者でなく、政局記者の顔が見える」と述べた上で、3Aによる議連設立が政局的に受け止められていることに触れ、「そういった話があるから人が集まるんだろうが、いま資本主義について議論するのは良いこと」と指摘した。

岸田氏は「コロナで格差が拡大しており、格差、分配の議論が重要になると確信している」と強調した。安倍氏は「ウォール街の強欲な資本主義でない、資本主義を考えていきたい」と語った。

初回の今回は、渋沢栄一氏の玄孫にあたる渋沢健氏(コモンズ投信会長)が講演した。

(貼り付け終わり)

 安倍晋三や麻生太郎、甘利明の三悪人の「3A」が岸田氏の議連に参加したという内容だが、岸田氏は2021年6月に立ちあげたこの議連の名前は、「新たな資本主義を創る議員連盟」だ。そして、岸田氏は「コロナで格差が拡大しており、格差、分配の議論が重要になると確信している」と発言している。しかし、分配するにも何をするにも必要なのはお金だ。その「お金の稼ぎ方」として、出てくるのが、「産業政策」だ。

 2021年6月4日、岸田氏が議連を立ち上げる1週間前、経産省は、「経済産業政策の新機軸~新たな産業政策への挑戦~」という資料を発表した。資料の内容は、いかのPDFを参照していただきたい。新時代の産業政策を打ち上げたものだ。

※資料は以下のアドレスからどうぞ↓

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sokai/pdf/028_02_00.pdf

 

●「コロナ禍の今、経済産業省が「大きな政府」に大転換した“切実な理由”」

室伏謙一:室伏政策研究室代表・政策コンサルタント

2021.6.19 4:05 ダイアモンド誌

https://diamond.jp/articles/-/274042

https://diamond.jp/articles/-/274042?page=2

https://diamond.jp/articles/-/274042?page=3

経済産業省の産業構造審議会が、「経済産業政策の新機軸」という画期的な方針を打ち出した。新型コロナウィルスの感染拡大による社会経済の世界的な変化を受け、日本が採用すべき「経済産業政策の新規軸」をまとめたものだ。主要国がすでに転換し始めたように、「小さな政府」から「大きな政府」に転換する必要性を訴えている。特に注目されるのが、産業政策における「大規模・長期・計画的」な財政出動を求めていることだ。この「新規軸」が実現しなければ、日本の貧国化は免れないだろう。(室伏政策研究室代表・政策コンサルタント 室伏謙一)

●ウィズコロナ時代において、「政府の役割」は根本的に変わった

 64日、第28回産業構造審議会総会が開催された。

 産業構造審議会は、経済産業省設置法第6条第1項に基づき設置され、第7条第1項各号に掲げる事務をつかさどり、とりわけ「経済産業大臣の諮問に応じて産業構造の改善に関する重要事項その他の民間の経済活力の向上及び対外経済関係の円滑な発展を中心とする経済及び産業の発展に関する重要事項」を調査審議する、経済産業省の重要な審議会の一つである。

 同審議会の総会は、これまでの実績ベースで、概ね年に12回開催され、各年度の経済産業政策の重点事項や今後の経済産業政策の新たな方向性について議論・検討が行われてきており、いわば我が国の経済産業政策の重要な方向性や方向転換がここで決まっていると言ってもいい。

 さて、その重要審議会で今回の議論の対象となったのは、新型コロナウィルスの感染拡大による社会経済の世界的な変化を受けた、今後の経済産業政策の在り方、「経済産業政策の新機軸」である。

 まず、基本的な問題意識として、新型コロナウィルスの感染が世界的に拡大したこの1年間を「ウィズコロナ」と位置付け、ワクチンが行き渡り始めたが、変異株の発生などにより、ウィルスへの対応は継続中であること等から、その後の十数年間をその延長線上とし、昨年1年間の変化も踏まえた、いわゆる「アフターコロナ」ではない目指したい「日常」と、それに向けた経済産業政策の望ましい在り方について議論することとしている。

 同審議会提出資料においては、「ウィズコロナ」の1年の変化や、それ以前からの構造的変化についての多角的な視点からの分析が行われているが、とりわけ重要なのが、政府の役割の変化であろう。その役割とは、経済産業政策と財政政策という二つの点における役割である。

 新型コロナへの対応の中で、世界中で政府の役割が増大し、これまでで最大規模の財政支出をするにまで至っており、米国を筆頭に各国は大規模な財政支出を続けているし、EU諸国も債務残高の対GDPという財政規律を一時停止しているが、そもそもこの十数年における国家と企業の関係を見ていくと、補完関係が強まっているのではないかとしている。

「重要産業」や「戦略産業」を国が守り育てる時代へ

 しかも、持続可能な社会を志向し、安全保障、環境、健康、雇用、人権等の社会的課題の解決を重視した投資(財政支出)へ変化するとともに、重要産業や戦略産業を国が守り育てる方向にシフトしてきているとしている。

 具体的には、再エネや充電インフラ等のグリーンインフラや関連研究開発への大規模投資であるが、それのみならず、特に米中の技術覇権対立を背景として、半導体については国産化や輸出管理等の強化へとシフトしている。

また、そうした覇権対立と呼応するかのように、企業の事業活動に関し、人権・奴隷労働の有無、環境への影響等について明らかにすることを法的に義務付ける、人権デュー・デリジェンスの導入が進んできていることにも言及している。

 その趣旨は、一義的には人権侵害や奴隷労働等を行っている事業者と取引をしないようにし、そうしたものを根絶させることであるが、グローバル企業は人権侵害、奴隷同然の労働、環境破壊を公然と行う事業によってコストを大幅に圧縮して莫大な利益を上げているところ、そうしたビジネスモデルを改めさせよう、それによって社会的公正を取り戻し、格差問題の解決にも繋げていこうということであろう。

 つまり、規制の強化によって公正な社会を実現しようということであり、市場重視、民間の自由な経済活動尊重の政策的思考とは隔世の感がある。

 また、同趣旨の事項として、G7蔵相・中央銀行総裁会議の共同声明にも盛り込まれ、議長国のイギリスのスナク蔵相が誇らしげに語っていた、「グローバル企業に対する国際課税の公正性の確保」についても触れられている。

 加えて、「自由貿易のアップグレード」として、これまでのグローバル企業のための、放埒な自由貿易の是正により、公正性や持続可能性、格差是正の確保を目指すことについても言及されている。

●市場原理を克服する「政策の新規軸」が不可欠である

 そして、今後に向けて、政策は何がどう変わるべきかについて次のように提言している。

「既存の市場原理だけでは社会課題解決を実現する産業はなかなか成立しない中で、『価値』を巡る国家間の競争や正統性の再定義があることも鑑み、野心的で共感を呼ぶ『目標』を設定したうえで、緩和だけでなく強化も視野に入れた規制改革や、国内外の情勢変化を踏まえた、大規模・長期・計画的な財政政策を実行し、デジタルを前提に、全く新しい行政手法のあり方を模索しながら取り組み、有志国と連携しつつ、内外一体での産業政策の展開を図る」

 そのうえで、今後に向けた大きな方向性の三本柱として、

1)「経済」×「環境」の好循環~グリーン成長戦略~

2)「経済」×「安保」の同時実現~経済安全保障/レジリエンス~重要技術・産業・インフラを「知る」・「守る」・「育てる」政策

3)「経済」×「分配」=包摂的成長~「人」への投資・「地域」の持続発展~

を掲げている。

 少々総花的であり、大風呂敷を広げた感は否めないが、こうしたことを踏まえて、「『経済産業政策の新機軸』~新たな産業政策への挑戦」と題する資料が提示された。

 その中では、まず、中国や欧米において「大規模な財政支出を伴う強力な産業政策」が展開されていることや、かつては政府が主導的な役割を果たす産業政策が強く批判されていた米国においても、産業政策を支持する「産業政策論」が台頭してきていることを挙げている。

 そして、そうした産業政策を次のように総括した。

「伝統的な産業振興・保護とも、相対的に政府の関与を狭める構造改革アプローチとも異なり、気候変動対策、経済安保、格差是正など、将来の社会・経済課題解決に向けて鍵となる技術分野、戦略的な重要物資、規制・制度などに着目し(ミッション志向)、ガバメントリーチを拡張するというもの」

 そのうえで、日本においても、これまでの産業政策を検証したうえで、「産業政策の新機軸」を確立・実行していくことが求められているのではないか、経産省のみならず、政府全体として、政府の人的資源・政策資源を質と量の両面から精査した上で、速やかに実行に移していくべきなのではないか、としている。

●ようやく日の目を見たスティグリッツの提言

 こうした変化のあり方が、同資料に体系的に一覧表でまとめられている(図1参照)。

 ここで特に注目したいのは、「新機軸」における政策のフレームワークとして、「ミクロ経済政策とマクロ経済政策の一体化(需要と供給の両サイド)」が記載され、これまでの「構造改革アプローチ」においては、供給サイド、サプライサイド向けの政策が中心だったが、その転換を図るべしとしていることだ。

 実はこうした指摘は、平成28年に、伊勢サミットを前に官邸で開かれた国際金融経済分析会合において、経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏が具体的かつ簡潔に行っていた。

それは、およそ次のような内容だった。

「有効需要が欠如している状況でのサプライサイドの改革は失業を増大させる等、有害であるのみならず成長にはつながらないし、供給はそれ自身の需要を創出するわけではないのであるし、実際、需要を弱め、GDPを減らすことになる。サプララサイドの政策は需要と一体で機能するのであり、例えば、技術開発投資、人材育成投資、働きやすい環境の整備(公共交通の充実、育児休暇や傷病休暇等)」

 といった政策が有効といったものである。

 その際には、安倍官邸にはまともに受け入れられなかったようであるが(そもそも理解出来なかったのではないかとの疑いもあるが)、やっとそうした主張・考え方が日の目をみるようになったということであろう。

「大規模・長期・計画的」な財政出動が不可欠

 そして、ここが最も重要であるが、「新機軸」における財政出動を、「大規模・長期・計画的」としている。

 その背景・根拠として、同資料の「マクロ経済政策の新たな見方」において、次の3点を指摘している。

1)低インフレ、低金利においては、財政政策の役割も重要

2)コロナ禍による総需要の急減は、低成長を恒久化する恐れがある(履歴効果)。財政政策によって総需要不足を解消し、マイルドなインフレ(高圧経済)を実現することは、民間投資を促し、長期の成長を実現するためにも必要

3)コロナ対策やマイルドなインフレを実現するための財政支出の拡大は、財政収支を悪化させるが、超低金利下では、そのコストは小さい

 実際、10年ものの日本国債の利回りはずっと低下してきており、近年ではほぼ横ばい状態であり、緊縮財政派がさんざん脅かしてきた「金利の急騰」などは起きていないし、起こる兆しもない。

 つまり、「民間任せ」「市場任せ」ではなく、政府が主体的かつ大きな役割を果たすべく、長期的な視点に立って、大規模な財政支出によって経済産業政策を運営していくべきであるということであり、これまでの「小さな政府」的な発想に基づく政策の否定であり、そこからの大転換である。

 もちろん、この経産省の打ち出した「新規軸」には、強い抵抗も予想される。例えば、直近で閣議決定されることが予定されている「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる「骨太の方針」では、昨年は記載されなかったプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標が、年限は示されないものの、記載される方向であり、「経済産業政策の新機軸」において示された方向性とは相反することになりそうである。

●日本が「成長するか、貧国化するか」の瀬戸際

 しかし、世界的な潮流を見ても、また新型コロナショックという危機への対応という観点に立っても、大規模な財政出動と国の役割の増大・強化への転換は当然のことである。そもそもプライマリーバランスの黒字化などという財政規律や目標を掲げている主要国は日本だけである。

 主要各国が大規模な財政支出と、国が前面に出た経済産業政策を着々と進めていく中で、日本だけがそうしたものに背を向けていれば、日本は成長しないどころか、貧国化への道を着実に進むことになるだけである。

 先にも示したとおり、財政拡大を続けても我が国は何ら問題がないのであるから、日本が先進国だったという話が遠い昔の話として語られることがないよう、政治家を筆頭に、官僚、地方公務員、専門家、事業者、そして国民全体が、財政政策と経済産業政策の両面における国の役割の重要性と拡大について、それを是とし、それを当然とする方向へ早急に転換していくことが求められよう。

 今後の議論のさらなる進展に期待するとともに、「緊縮財政」や「小さな政府」といった、ある種時代遅れな考え方に囚われて、それを狂信的に固守する勢力に足を引っ張られたりすることがないよう、関係各位の尽力を強く希望したい。

(貼り付け終わり)

 日本は政治改革と経済改革で大きく傷ついた。日本国民は、市場原理主義を持ち込めばななんでも解決という単純な議論に熱狂させられ、馬鹿を見た。小泉・竹中路線は誤りだったということだ。「アメリカみたいな国になればよい」で実際になってみたが、悲惨な状況になっている。

 経産省の資料の中に、重要な名前が掲載されている。それは、アメリカのジョー・バイデン大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンの名前だ。ジェイク・サリヴァンについては、拙著『アメリカ政治の秘密 日本人が知らない世界支配の構造』『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で詳しく取り上げてきた。サリヴァンは補佐官就任前に、産業政策の重要性を主張する論文を書いている。アメリカにおいても、産業政策の重要性が増している。

 加えて、現在、世界で最も経済的に成功している中国が採用しているのが産業政策なのである。その源流をたどれば、日本に行きつく訳だが、世界で産業政策の重要性が増している。本家の日本でもそこに戻ろうという動きが出ている。1990年代には、産業政策なんて効果はない、そもそもなかったのだ、という議論があった。日本にそうしたことを紹介し、日本国内で主導したのは竹中平蔵だ。例えば、1993年に出版された、ローラ・タイソン著『誰が誰を叩いているのか―戦略的管理貿易は、アメリカの正しい選択?』の監訳者は竹中平蔵だ。

 「アメリカは中国を模倣して産業政策をやるべきだ」という主張もアメリカも区内で出ているような中で、「日本型」資本主義に戻ろうという岸田氏の当選はその流れに沿ったものであると言える。

 ここまで長々と書いてきたが、岸田氏当選のキーワードは「通産省」と「産業政策」であり、「日本型」資本主義へ返るという動きなのだろうということが私の結論だ。

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 連邦下院は2021年7月1日付で、2021年1月6日に連邦議事堂で起きた襲撃事件について調査を行う特別委員会を設置した。英語では「United States House Select Committee on the January 6 Attack」、決まった訳語はないが、「アメリカ連邦議会1月6日襲撃事件特別委員会」と私は訳す。

 2021年1月6日に連邦上院で、大統領選挙の選挙人による投票結果の承認過程中に、議事堂前に集まっていた人々が進入してきた事件であり、複数の死傷者が出た。私はこの事件は誘導されて起きた事件だと考えている。数日前から人々が集まって騒動が起きるということは明白であり、そのことをFBIなどは掴んでいたが、地元警察や議事堂の警備に伝えていなかった。そのために進入前に阻止できなかった。911事件や真珠湾攻撃と同じ構図だ。

 事件後、連邦議会で調査のための特別委員会の設置を求める声が民主党側から上がった。連邦上院と連邦下院で共同の特別委員会設置が望まれたが、連邦上院ではフィリバスター(filibuster)で設置はできなかった。フィリバスターとは、連邦上院の慣習で、ある法案について審議をしていて、打ち切って採決をしようとする際に、6割以上の議員の賛成が必要となる。連保上院は現在50対50の同数であり、6割の賛成で採決に至ることができなかった。

 一方、6月末に連邦下院では委員会設置についての採決が行われ、民主党議員全員と共和党議員2名の賛成、共和党議員16名の棄権、共和党議員190名の反対で、222対190(定数は435)となり、設置が決定した。

 委員の定数は多数党である民主党が7名、少数党である共和党が6名であるが、共和党側で委員になっているのは、リズ・チェイニー連邦下院議員(ワイオミング州選出、共和党)とアダム・キンジンガー連邦下院議員(イリノイ州選出、共和党)の、委員会設置に賛成した2名だけであり、その他の委員は空席となっている。リズ・チェイニーが副委員長(共和党側のトップ)を務めている。2名ともにトランプに対する攻撃姿勢を明確にしている。

 この異常な事態は、連邦下院少数党(共和党)院内総務ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)が共和党所属の各議員に対して、委員の使命を断るようにと求めたこと、2022年の中間選挙で、トランプ派から対抗馬が出て、選挙で落選させられるのを恐れてのことである。

 このように極めて偏った委員会の構成になっている中で、トランプの側近と元側近たちに対して、委員会に出席し、証言を行うように求める召喚状が出された。これは、トランプ派に対する攻撃である。9月2日にリズ・チェイニーが副委員長に就任してからの動きであることから、このことは明白だ。召喚状を受け取った4名は病気などの理由がない限り、出席しなければならない。しかし、この特別委員会の設立の経緯や構成から、「超党派で正当性を持つものではない」ということを理由にして、出席を拒むことも考えられる。トランプ派と反トランプ派の戦いの一つの前線として、これからの動きが注目される。

(貼り付けはじめ)

1月6日事件調査委員会がトランプの補佐官だったバノンやメドウズに召喚状を送付(Jan. 6 panel subpoenas four ex-Trump aides Bannon, Meadows

レベッカ・ベイッツ筆

2021年9月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/national-security/573743-jan-6-panel-subpoenas-four-ex-trump-aides-bannon-meadows

2021年1月6日の連邦議事堂攻撃を調査する特別委員会は木曜日、トランプ大統領の補佐官だった4名に召喚状を送った。その中にはマーク・メドウズ(Mark Meadows)首席補佐官(Chief of Staff)と戦略担当スティーヴン・バノンが含まれている。

召喚状は、彼ら以外にも、ダン・スカヴィーノ(Dan Scavino)コミュニケーション担当首席補佐官代理(deputy chief of staff for communications)と、クリストファー・ミラー国防長官代理の首席補佐官(chief of staff to then-acting Secretary of Defense)のカッシュ・パテル(Kashyap Patel)に召喚状が送られた。

4名は10月中旬の公聴会での宣誓供述に出席するように求められている。

それぞれの召喚状には、特別委員会がそれぞれの人物に対して、攻撃発生前の出来事への関与を疑ったり、攻撃発生後の対応への関与を疑ったりする根拠が書かれている。

特別委員会はバノンへの召喚状の中で次のように書いている。「貴殿は2021年15日にウィラード・ホテルにおり、連邦議会議員たちに対して翌日の大統領選挙結果承認を阻止するように説得していたこと、1月6日の出来事にも関連していることが確認されている」。

召喚状にはまた次のように書かれている。「貴殿はまた、2020年12月30日に当時のトランプ大統領と連絡を取ったとも言われている。また。その他の日時にも連絡を取った可能性がある。そして、その際に、1月6日の選挙結果承認阻止に向けて、努力をするように促したとされている」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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 2021年9月に入り、ジョー・バイデン大統領の支持率が低下している。各種世論調査で支持率が5割を切り、第一期目の大統領としては低いレヴェルに入った。以下のグラフの通りだ。

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 バイデン政権は新型コロナウイルス感染拡大対策を最優先テーマと掲げている。3月の段階では対策への支持も高かったが、バイデンが事業所などでのワクチン義務化を発表すると、支持は下がった。また、「アメリカを団結させる」というバイデンの公約についても、実現していないと考えている有権者が多いことも分かった。
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 ピュー・リサーチセンターの詳細な調査結果で興味深かったのは、バイデンに「精神的な元気(mentally sharp)」な様子がないと考えている人が6割近くいるということだ。バイデンは史上最高齢でアメリカ大統領に初当選した人物であり、日本で言えば後期高齢者である。自民党所属の麻生太郎副総理兼財務相、二階俊博幹事長と同じ世代であるが、背負っている責任や仕事はけた外れに多い。アメリカ大統領は激務であり、就任して1年もしない段階で既にへばっているということになるだろう。

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 そこで考えられるのは、バイデンが大統領職を一期だけで退くということだ。人気はまだ3年以上も残っているので、途中でギヴアップ(病気などで)ということも考えられる。来年の中間選挙の結果いかんではバイデンの二期目という話はなくなってしまうだろう。普通であれば、副大統領が後継として出てくることが考えられるが、カマラ・ハリスの人気も低い。元々支持率が5割を切っていて、現状はそのままなので、バイデンの支持率急落が目立つが、元々人気がないというところがカマラ・ハリスの根本的な問題だ。

 新型コロナウイルス感染対策とアフガニスタンからの撤退によって、バイデンの支持率は大幅に下がっている。共和党支持者からの支持はほとんどない状況であり、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で指摘したように、「アメリカ国内の分断」は深刻化する一方だ。

(貼り付けはじめ)

ピュー・リサーチセンターの最新の世論調査の結果では、バイデンの支持率は44%に下落(Biden approval sinks to 44 percent in new Pew poll

モーガン・チャルファント筆

2021年9月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/573668-biden-approval-sinks-to-44-percent-in-new-pew-poll

ピュー・リサーチセンターが発表した最新の世論調査の結果によると、アメリカの成人の44%がバイデン大統領の大統領としての仕事ぶりを評価している一方で、53%は評価していないということが分かった。7月から支持率は急落している。

2カ月前のピュー・リサーチセンターの世論調査の結果は、バイデンの仕事ぶりを55%が評価し、43%が評価しないというものだった。バイデンの民主党員や民主党支持者の間での支持率は、7月の88%から75%となり、13ポイントも下落した。共和党員や共和党支持者の間での支持率は17%から9%に下落した。

まとめると、民主、共和両党の選挙で選ばれた政治家たちの支持率は下落している。今回のピュー・リサーチセンターの世論調査は9月13日から19日にかけて実施され、調査対象者は1万371名のアメリカの成人であった。

ピュー・リサーチセンターの調査では、今年4月以降、連邦議会共和党への支持率は5ポイント低下したが、連邦議会民主党への支持率は11ポイントも下落した。

バイデンは、新型コロナウイルスワクチン接種を受けていない何百万人ものアメリカ人の間でコロナウイルスが再流行していることや、アフガニスタンからのアフリカ軍撤退から混乱が起きていることから、大統領としての難しい局面を迎えています。

ホワイトハウスはまた、バイデン大統領の経済政策を議会で可決させるために、連邦議会民主党をまとめようとしているが、政策パッケージの内容や規模、時期をめぐって穏健派と進歩派が対立しているため、困難さが増しているのが現状だ。

今回の世論調査の結果には、バイデンにとって良いニュースもいくつか含まれている。彼の経済提案については多くの人々に支持されており、それは過去の世論調査の結果と変わらない。ピュー・リサーチセンターの今回の世論調査によると、連邦上院が可決した1兆2000億ドル(約132億円)規模の超党派のインフラ整備法案を51%が支持している。反対は20%だ。残りの29%は「分からない、知らない」と答えた。

一方、3兆5000億円(約385億円)規模の経済対策案には49%が賛成し、反対派25%、「分からない、知らない」と答えたのは25%だった。

共和党側はバイデンの税制提案について批判しているが、今回の世論調査では、66%が大企業への増税に賛成し、所得が40万ドル(約4400万円)以上の世帯への増税に61%が賛成している。

個別の問題では、バイデンの新型コロナウイルス対応への支持が3月の65%から最新の四調査では51%に下落している。それでもまだ過半数の支持を得てはいる。経済政策については48%が「ある程度」もしくは「強力に」支持していると答えている。51%が「全く」「それほど」支持していないと答えた。

外交政策については、45%が「ある程度」もしくは「強力に」支持すると答え、54%が支持しないと答えた。そして、バイデンがアメリカをより団結させるかという質問には、34%だけが「ある程度」もしくは「強力に」そう考えると答え、66%が躁は考えてないという結果となった。アメリカをより団結させるというのはバイデンの主要な選挙公約の一つだった。

ピュー・リサーチセンターの世論調査は、今週初めのギャロップ社の世論調査に続いて結果発表となった。ギャロップ社の調査でバイデンの支持率は43%となり、これは大統領一期目の支持率としては、同社の歴史で最も低い数字となった。

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ギャロップ社の世論調査で、バイデンの支持率が43%となり、記録的な低さとなった(Biden approval rating drops to record low 43 percent in Gallup polling

セリーヌ・キャストロヌオヴォ筆

2021年9月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/573367-biden-approval-rating-drops-to-record-low-43-percent-in-gallup

水曜日に発表されたギャロップ社の世論調査の結果によると、大統領就任から8カ月経過してのバイデン大統領の支持率は43%に下落した。この数字はギャロップ社が調査を開始して以降、第一期目の大統領の数字としては最低レヴェルとなった。

ギャロップ社の調査は2021年9月1日から17日にかけて実施され、バイデンの大統領としての仕事ぶりに対して、初めて過半数が不支持という結果になった。アメリカの成人の53%が彼の大統領としての仕事ぶりにマイナスの評価をすると答えた。

バイデンの支持率は民主党支持者の間では、今月は90%とこれまで最低の数字となったが、それでも高いレヴェルを維持した。共和党支持者の間での支持率は、今月は6%にとどまった。それでもこれまで最も高い数字となった。

無党派の有権者の間では、バイデン政権発足以来最低の数字となる37%の支持率を記録した。就任して1カ月の数字である61%から大幅の下落を記録した。

最新のギャロップ社の世論調査は、アフガニスタンからのアメリカ軍の撤退の後に実施された。バイデンはアフガニスタンからのアメリカ軍の完全撤退を行おうとした。アフガニスタンはタリバンの急速な権力掌握の中にある。20年前、アメリカ軍はこの軍事力を持ったグループを追い落としたが、彼らは再び権力を掌握した。

バイデンは、アメリカ人とアフガニスタン国内で危険に晒される可能性の高いアフガニスタン人の退避で混乱を起こしたとして、民主、共和両党から批判を受けた。特に、イスラム国のアフガニスタン国内のグループがカブール空港で爆弾による自爆テロを実行し、13名のアメリカ軍将兵と少なくとも169名のアフガニスタンの一般市民が殺害された事件の発生後に批判の声が高まった。

バイデン大統領は8月31日までにアメリカ軍の完全撤退を完了するとした自身の決断は正しかったと擁護し続けている。アフガニスタン国内に残っているアメリカ人とアフガニスタン人の協力者たちの退避の努力は続けられており、外交的手段によってそれらの対比はより安全に実施されるだろうとバイデンは主張している。

ギャロップ社による調査が実施されている期間中、バイデンは複数のワクチンの義務化計画について発表し、いくつかの州の共和党所属の指導者たちによって批判された。100名以上が雇用されている事業所は労働者全員に新型コロナウイルスワクチン接種か毎週の検査を義務付けると発表したが、それに対して批判が起きた。

共和党の政治家たちや経済団体からは義務化は、政府による行き過ぎ(government overreach)だと非難した。また、先週、共和党に属する24州の州司法長官が、被雇用者に対するワクチン義務化を行うならば、バイデンに対して訴訟を提起すると反撃した。

ギャロップ社の世論調査の結果でバイデンへの支持率が低いことが分かったが、先週発表されたキュニピアック大学の世論調査の結果では支持率は42%だった。そして、50%が不支持だった。

加えて、月曜日に発表されたハーヴァード大学CAPS・ハリス社共同世論調査の結果では、アメリカの有権者の間でのバイデンとトランプ副大統領の好感度は同率となった。

水曜日に発表されたギャロップ社の調査は、無作為に抽出された1000名以上のアメリカの成人を対象に実施された。誤差は4ポイントだ。

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最新の世論調査の結果で、バイデンの支持率は42%に下落(Biden approval rating slips to 42 percent in new poll

モニーク・ビールス筆

2021年9月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/572235-biden-approval-rating-slips-to-42-percent-in-new-poll

最新の世論調査の結果、アメリカの成人の半数がバイデンに対して不支持を表明している。バイデンが大統領に就任して以来、初めて、「マイナス領域」に入った。

本日、アメリカの成人を対象に実施した、キュニピアック大学の世論調査の結果が発表された。調査に参加した人の42%がバイデンの大統領としての仕事ぶりを評価し、50%が評価しなかった。

新型コロナウイルス対策については複雑な結果となった。バイデンは幅広いワクチン義務化を課そうとしている中で、対策への支持が48%、不支持が49%となった。

アフガニスタンからのアメリカ軍撤退を受けて、バイデンの外交政策についての支持率は大幅に下がった。

バイデンの外交政策への支持率は34%にとどまり、59%が不支持と答えた。8月の時点では、支持率と不支持率はそれぞれ44%だった。

今回の世論調査の結果によると、6割以上人たちが、アメリカ軍はアフガニスタンに戻らねばならないと答えた。しかし、7割の人たちがアフガニスタンからのアメリカ軍撤退は正しい決定だと考えている。

気候変動対応についてはバイデンの支持・不支持はだいたい半分となっている(支持率は42%、不支持率は44%)となっている。一方で、経済対応についてはマイナスの評価(支持率は42%、不支持率は52%)となっている。

キュニピアック大学は2021年9月10日から13日にかけてアメリカの成人1210名を対象に世論調査を実施した。誤差は2.8ポイントだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 明日、このブログでも詳しく紹介するが、ジョー・バイデン大統領の支持率は下落している。バイデン政権は新型コロナウイルス対策と経済対策という、国内問題への対応に重点を置いていた。更には、国内の分断にも対処するということも公約に掲げていた。支持率が下がっているというのはそれらにうまく対処していないということが原因であると考えられる。

 バイデン政権発足に向けて、バイデン政権が重点を置くであろう5つのポイントというのがあった。それらは、(1)新型コロナウイルス対策、(2)経済、(3)分断の解消、(4)議会との協力、(5)バイデン自身の大統領としてやりたいことの明確化であった。新型コロナウイルス対策はワクチンができてから順調に推移していたが、ワクチン接種義務化の話が出てきて、反対論も多くなっている。経済はコロナの状況に左右されている。分断の解消は進んでいないどころか、深刻化するばかりだ。議会との協力と言っても、民主党内のエスタブリッシュメント派対進歩主義派が影響してうまくいっていない。そして、こうしたこともあって、バイデンの姿には元気がない。

 こうして国内問題でうまくいかない場合の常とう手段、どこの国のどの政権でもやることだが、外国の敵を設定して、国内問題から目を背けさせる。バイデンにとっては中国とロシアがそれにあたる。日本も入らされているクアッド(Quad、アメリカ、日本、インド、オーストラリア)という枠組みとは別にAUKUS(アメリカ、イギリス、オーストラリア)という枠組みが発表された。これはユーラシアを包囲しているということであるが、逆の見方をすれば、イギリスとオーストラリアが境界のポイントとして、アメリカの影響圏がその範囲に限定されているという見方もできる。

 明日の記事とも合わせて今回の記事をお読みいただきたいと思う。

(貼り付けはじめ)

大統領選挙当選者バイデンが直面する5つの最大の挑戦(The five biggest challenges facing President-elect Biden

ナイオール・スタンジ筆

2020年11月29日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/527663-the-five-biggest-challenges-facing-president-elect-biden

大統領選挙当選者ジョー・バイデンは2021年1月20日まで大統領に就任することはないが、彼が直面するであろう困難のほとんどは既に明確になっている。

トランプ大統領に代わって大統領になって取り組まねばならない5つの大きな問題についてこれから見ていく。

(1)新型コロナウイルス感染拡大との戦い(Fighting the pandemic

2020年、新型コロナウイルス感染拡大によって、アメリカ人の生活は急速に変化させられてきた。アメリカ国内で現在までに26万人以上が死亡し、感染者数は1300万以上となっている。

感染者数は、夏の終わりから秋にかけて落ち着いた後、再び急速に増加している。11月末の感謝祭の直前には、全国の1日の死亡者数が2週間前に比べて約60%増加し、1日の新規感染者数も40%以上増加した。

バイデンの公約には、追跡調査の改善と各州知事へマスク着用義務を設定するように求めることが含まれていた。バイデンはまた、科学的な助言にきちんと耳を傾けることを強調した。これは明らかにトランプに対して放ったジャブとなった。トランプはアンソニー・ファウチや他の専門家たちを遠ざけ、効果が証明されていない治療法を色々と発表してきた。

3種類のワクチンの試験結果が良好であることから良いニュースがもたらされる可能性も高い。

しかしながら、国民に幅広くワクチン接種が実行されるには数カ月を要する。

新型コロナウイルスはアメリカにとっての最大の問題だ。この問題の対処を誤れば、バイデンには大きな損失となる。

(2)経済(The economy

新型コロナウイルスは、アメリカ国民の肉体的健康と、経済にも莫大な負担をかけている。

2020年10月の時点でのアメリカ国内の失業率は6.9%だった。9月に比べて、1ポイント下がり、ピークだった2020年4月の失業率は14.7%だったがそれからだいぶ下がった。しかし、新型コロナウイルスが拡大する直前の2020年2月の時点の3.5%の約2倍となっている。

経済学者たちは景気後退の二番底の見通しを持ちそれを懸念している。ワクチンについて希望があっても経済は厳しいという見通しを持っている。

新型コロナウイルスの感染率が上昇すると、より厳しい規制が課されることになる。一部の都市や州では既に規制が強化されており、それが労働者や企業にさらなるダメージを与えることが懸念される。

消費者態度指数は最近になって下がっている。これはアメリカ人の消費意欲が下がっていることを示している。そのような動きでは経済に対する憂慮は深まるばかりだ。

連邦議会は感染拡大に関連しての新たな経済刺激策を可決することに失敗している。連邦下院議長ナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)と連邦上院少数党(民主党)院内総務チャールズ・シューマー連邦上院議員(ニューヨーク州選出、民主党)を含む民主党側の指導者たちは、連邦上院多数党(共和党)院内総務ミッチ・マコーネル連邦上院議員(ケンタッキー州選出、共和党)よりも支援策を望んでいるが、マコーネルは承認していない。

バイデン大統領には、賃借人と住宅ローン保有者たちへの保護を拡大するというようなことを、大統領令を通じて行うことが可能だ。

経済において1つの明るい点がある。それは、2月末から3月にかけての不振から抜けて、株式市場の状況が良くなっていることだ。

バイデンが経済を再び活性化できれば、政治的に大きな報酬を受け取ることになる。しかし、そのような結果が保証されているということではない。

(3)党派対立の激化(Polarization

バイデンは選挙期間中に、「国家の魂」を回復するということを公約に掲げた。しかし、これは実行するよりも言いっぱなしにすることの方がはるかに容易だ。

アメリカはここ数十年、党派対立の激化が進んできた。それは政治家によってだけ進められたのではなく、ケーブルニュースやSNSといった文化的な力によっても進められた。

そして、トランプが登場した。彼は自分の支持基盤を喜ばせ、批判者たちを怒らせ、不和の火を消すのではなく、火に油を注ぐことに関心を持っているようだった

ここ数週間、トランプは、2020年の大統領選挙で不正が行われたということを示唆する共同謀議理論を主張し、この動きは効果的だった。『エコノミスト』誌・YouGov共同世論調査の最新の結果では、共和党支持者の80%と無党派の45%が、バイデンの勝利は正当性を持たないと確信していると答えた。

バイデンには、中道的なイメージや長年の実績など、国をまとめようとする上での強みがある。

しかし、国家を極端な方向に進める力は簡単には消え去らないだろう。

(4)議会との交渉(Dealing with Congress

バイデンは来年1月の段階で、連邦下院は民主党が過半数を握っているので協力できるということが既に分かっているが、連邦上院に関してはジョージア州での2つの決選投票の結果次第ということになる。

民主党が両議席を獲得するというのが最高のシナリオであるが、それでも連邦上院の議席数は同数となる。連邦上院が同数になった場合の決定投票ができるのは副大統領なので、民主党は事実上、過半数を占めるということになる。しかし、議席数が同数の場合には、バイデン政権にとっては快適な状態とは言えない。

共和党はバイデンと進んで協力するだろうか?どんなに贔屓目で見ても、それは疑問だ。マコーネルはこれまで連邦上院において強硬路線を採用してきた。マコーネルは、オバマ元大統領の一期目の中盤に、「彼を一期だけの大統領にしてやる」と発言したのは良く知られている。オバマ大統領の任期が終わりに近づき、オバマは連邦最高裁判事の候補者にメリック・ガーランドを指名したが、マコーネルは公聴会の開催を阻止した。

バイデンは長年にわたり連邦上院議員を務めたが、これは彼にとって有利な点となる。副大統領として、オバマ大統領の議会への使者としての役割を果たした。彼は、党派を超えて連絡をして話ができることを誇りとしている。

左派に属するバイデンに対する批判者たちは、バイデンの考えは時代遅れで、彼が求めているような気さくな雰囲気は過去のものであると主張している。

バイデン政権の最初の1年間で、誰の主張が正しかったのかがはっきりわかることになるだろう。

(5)大統領としての意義を明確にする(Defining his presidency

バイデンの選挙運動の基本的な主張は極めて明確だった。それは、彼はトランプをホワイトハウスから追い出すための原動力だ、というものだった。

この主張は100%うまく証明された。バイデンはトランプに全国規模で、4ポイント、600万票の差をつけて勝利した。

しかし、バイデン大統領、バイデン政権の具体的な姿を描くことは難しい。その姿は極めて不明瞭だ。ただ、アメリカ国内の士気を高めるという曖昧な希望があるだけだ。

感染対策や経済だけではなく、医療、環境、気候変動などバイデンが前進させることが可能な様々な政策分野が多く存在する。

しかし、バイデンはそれらの糸を織りあげて、大統領として、まとまった意味を持たせることができるだろうか?

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 今年に入り、ミャンマーで国軍がクーデターを起こし、軍事政権の力が強化された。一時は民主化が進むと思われていたが、これではまた昔に逆戻りではないかという失望感が広がった。「せっかく民主化ができたはずなのに」というところだ。

 民主化とは難しいプロセスだ。民主化(democratization)にとって恐らく一番難しい作業は、民主的な制度の確立・強化(consolidation)だ。人々が選挙などの民主的な制度だけが正当性のある制度であると認めること(only game in town)ということにならねばならない。ここがなかなか難しい。特に外国からの介入で行われた民主化は人々の支持を集めにくいために難しくなる。民主化については、拙著『アメリカ政治の秘密 日本人が知らない世界支配の構造』を読んでいただきたい。

 ミャンマーの民主化にとっての最大最高の象徴はアウンサンスーチー女史だ。アウンサンスーチーがまとうイメージは最高のものであり、ノーベル平和賞まで受賞した。更には、2011年にはヒラリー・クリントン国務長官がミャンマーを訪問し、アウンサンスーチーと会談を持ち、2012年にはバラク・オバマ大統領がミャンマーを訪問し、同じくアウンサンスーチーと会談を持った。この頃が彼女にとっての最高の時期であっただろう。 

 その後は、ミャンマーの少数民族ロヒンギャ族に対する弾圧で、ミャンマー国軍を擁護したことで、アウンサンスーチーの評価はがた落ちとなった。彼女また、薄汚れた政治家でしかなかったことが明らかにされた。それと共に、アウンサンスーチーは忘れられた存在となってしまった。

 今年初めのミャンマー国軍によるクーデターは米中の影響権争いの一環であり、ミャンマー国軍は中国側についたということになるだろう。以下に最近の報道記事を貼り付ける。

(貼り付けはじめ)

●「中国、先月ミャンマーに特使派遣 軍トップらと会談」

202191 14:15 

https://www.afpbb.com/articles/-/3364250

91 AFP】中国政府は831日、孫国祥(Sun Guoxiang)アジア問題担当特使が1週間の日程でミャンマーを訪問していたと発表した。同氏の訪問はこれまで公表されておらず、訪問中には軍事政権トップのミン・アウン・フライン(Min Aung Hlaing)国軍総司令官ら幹部たちと協議を行った。

 ミャンマーは今年2月、国軍がクーデターでアウン・サン・スー・チー(Aung San Suu Kyi)国家顧問を拘束し、同氏が率いる国民民主連盟(NLD)から政権を奪取して以来、武力行使による反体制派弾圧が行われるなど政治的混乱に陥っている。

 弾圧を阻止するための国際社会の取り組みは実を結んでいない。欧州連合(EU)は、ミャンマー軍部と同盟関係にあるロシアと中国が、国連安全保障理事会(UN Security Council)でのミャンマーに対する武器禁輸決議の可決を阻止していると非難している。

 在ミャンマー中国大使館の発表によると、孫氏は先月21日から28日までミャンマーを訪問。ミン・アウン・フライン国軍総司令官と会談し、ミャンマーの政治情勢について「意見交換した」。

 孫氏は以前、ミャンマー軍と多数の民族集団間で行われた和平交渉の調整役となった経験がある。中国は、一部の民族集団と同盟関係を築いているとアナリストは指摘している。

 中国は発表で、「社会的安定を回復し、早期に民主的変革を再開しようとするミャンマーの取り組みを支持する」としている。ただし、追放後も自らの政権の正当性を主張するNLDの元閣僚らとの会談については一切触れなかった。

 ミャンマーに多大な影響力を持つ中国は、軍部の行動をクーデターとみなしていない。また、ミャンマーは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路(Belt and Road)」の重要な構成国の一つとなっている。

 中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は昨年ミャンマーを訪問した際、「ミャンマーの国情に合った」発展の道を歩めるよう支援すると約束した。

 中国国営メディアは先月31日、中国南西部からミャンマー経由でインド洋に至る新たな海運・道路・鉄道ルートの貨物の試験輸送が成功したと報じた。(c)AFP

(貼り付け終わり)

 ミャンマーは一帯一路計画でインド洋に向かうために重要な位置にある。一帯一路計画については、米中関係の最前線としての分析は、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で説明している。是非読んでいただきたい。

 ミャンマーのクーデターから分かることは、アメリカの影響圏の衰退と中国の影響圏の拡大、一帯一路計画の足固めが進んでいるということだ。これからは、アメリカの衰退ということを頭に入れて物事を見るようにしなければならない。

(貼り付けはじめ)

誰がミャンマーを失ったのか?(Who Lost Myanmar?

-政権発足後初めての大きな危機に直面し、バイデン政権は10年前とほぼ同じメンバーが集まってアメリカ外交の失敗に対峙しなければならない。

マイケル・ハーシュ筆

2021年2月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2021/02/02/myanmar-coup-us-failure-biden/

ヒラリー・クリントンにとって、2011年のアウンサンスーチーとの会談は国務長官としての職業上の大勝利と個人としての喜びの最高潮の瞬間だった。

当時、米国務長官だったヒラリー・クリントンはミャンマーの首都ヤンゴンを訪問し、ヒラリー自身が「鼓舞してくれる存在」と呼んだ女性の隣に座った。この訪問は、長く孤立状態にあったミャンマーをはじめとする中国の周辺諸国と中国との間を分裂させようとするアメリカのより広範な戦略の一部であった。この戦略はオバマ政権のアジアへの「ピヴォット」の一環であった。国務長官在任中、ヒラリー・クリントンは厳しい調子の演説や「ソフト」な外交以上の成果を上げられなかったが、ミャンマーとの関係改善は珍しく外交上の勝利となった。それから1年後、バラク・オバマは現職のアメリカ大統領として初めてミャンマーを訪問した。その表向きの目的は民主政治を促進することであったが、実際には、ミャンマーをアメリカの影響圏(sphere of influence)に置くというものだった。

10年後、この戦略は消え去った。ノーベル平和賞を受賞した民主活動家アウンサンスーチーはヒラリーを迎え、その後は国家の運営にも参画したが、現在は囚われの身に再び戻ってしまった。それは月曜日にミャンマーの軍部が再びクーデターを起こしたからだ。ミャンマーでは民主政治体制が確立していない。外交面でも進捗はほとんど見られない。アウンサンスーチーとアメリカ政府はすっかり疎遠になってしまっていた。アウンサンスーチーの逮捕の1週間前、バイデン政権は彼女が逮捕されてしまうのではないかという懸念から、アウンサンスーチーに連絡を取ろうとして失敗してしまった。

アメリカの戦略が失敗すれば、アウンサンスーチーの評価も下がってしまうのは当然だ。西側諸国の多くの人々は彼女の釈放を求めているが、アウンサンスーチーはかつてのようなヒロインでもないし、人権保護にとってのスターでもない。アウンサンスーチーは、マイノリティのロヒンギャ族のイスラム教に対するミャンマー国軍の虐殺について、冷血な態度で同意を与えた。これによって世界中で持たれていた彼女のイメージは悪化した。民主化運動家の中からはノルウェー政府に対して彼女へ授与されたノーベル平和賞のはく奪を求める嘆願書が届けられたほどだった。かつては海外からミャンマーへの人権保護の圧力の力を一身に集めていたアウンサンスーチーも、国際的に孤立している状況となった。

今回のクーデターによってミャンマーは30年前に戻ってしまったようだ。今回のクーデターによってもたらされた、21世紀における苦い教訓は、民主政治体制確立の難しさと権威主義(authoritarianism)の権力掌握、そしてこれら2つの間を橋渡しする外交の限界ということであった。

アメリカを含む西洋諸国のほとんどはミャンマーの軍事行動を非難した。中国をはじめとする権威主義体制国家のほとんどは非難しなかった。中国政府は長年にわたり、東南アジアにおける従属国(client states)づくりを進めるアメリカの政策に抵抗してきた。中国政府はクーデターを「内閣改造(cabinet reshuffle)」と呼んだ。先月、中国政府の外交官トップである王毅外交部長はミャンマーを訪問し、アウンサンスーチーの難敵である軍最高司令官ミン・アウン・フライン(Min Aung Hlaing)と会談を持った。ミン・アウン・フラインは今週、ミャンマーの支配者となった。

ジョー・バイデン米大統領の外交政策ティームはミャンマーの挑戦についてよく知っている。なぜならティームのメンバーの多くはミャンマーの挑戦が始まった時点で政府に入っていたからだ。国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めるジェイク・サリヴァンは2011年当時、ヒラリー・クリントン国務長官の次席補佐官を務めた。また、国務省政策企画本部長を務めた。バイデン政権で国家安全保障会議のメンバーに入ったカート・キャンベルはヒラリー・クリントン国務長官の下で、国務省のアジア政策担当のトップを務めた。そして、新しい戦略を統合する重要な役割を果たした。

しかし、10年前の状況とは異なり、バイデン政権の外交政策ティームは、トランプがバイデンの大統領選挙での大勝利を貶めようと試みたことについての奇妙な反響に対応しなければならなくなっている。アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(National League for DemocracyNLD)は、2020年の選挙で、2015年の選挙よりも、より多くの議席を獲得した。その後、ミャンマー軍部はトランプと同様、証拠を提示することなく、選挙不正を宣言した。そして、ミャンマー軍部はアウンサンスーチーを逮捕した。

善かれ悪しかれ、2011年とは異なり、現在のアメリカにアウンサンスーチーが持つアピール力に匹敵する力はない。ミャンマーが民主政治体制への移行を始めた時、ミャンマー国内でのアウンサンスーチーの高い人気は軍事政権(military junta)にとって長期的な脅威であった。アメリカの外交官たちはこのことに気付いており、経済制裁の解除には、自由で公正な選挙の実施を条件に入れようとした。アウンサンスーチーもそうであったと報道されているが、ヒラリー・クリントンも軍事政権側と良好な関係を築こうという熱意を持っており、国連主導の戦争犯罪捜査の要求を取り下げ、即座に援助を提供し、軍事政権による選挙管理を容認した。

アメリカのミャンマーへの関与のペースと範囲はアウンサンスーチーによって動かされてきたということになる。2011年のBBCとのインタヴューの中で、ヒラリー・クリントンは、譲歩し過ぎではないかと質問された。それに対して、ヒラリーは、アメリカ政府はアウンサンスーチーの同意に依存していると答え、「アウンサンスーチーの観点からすると、政治プロセスを検証することが重要だということになる」と述べた。

オバマ政権内で経済制裁緩和について白熱した議論が数度にわたり行われたが、制裁は継続した。2016年にオバマはミャンマーに対する制裁の終了を約束した、また、「ビルマの人々がビジネスの方法と統治の方法を新しくすることで褒章を得ることができるのだと確信するように行動することは正しいことなのだ」と宣言した。アウンサンスーチーは制裁解除を認めた。アウンサンスーチーは 「私たちを経済面で苦しめてきた制裁全てを解除する時期が来たと私たちは考えている」と述べ、これによって、ミャンマーがアメリカの示す民主政治体制に向けたロードマップ通りに進まないにしても、外国企業はミャンマーに投資が可能となるとした。2015年に彼女が率いる国民民主連盟が総選挙で勝利を収めた後(それでも国会の議席の4分の1は軍部のために確保されていたが)、大統領就任は拒絶された。その理由は彼女が外国人と結婚し、子供たちが外国籍だったことだ。

バイデン政権はサイクル全体を再びスタートさせる準備ができているようになっている。ホワイトハウス報道官ジェン・サキは制裁の緩和を「元に戻す」と発言している。これはつまり、新しい制裁が実施されることを示唆している。しかし、バイデン政権は最初に、軍部による政権掌握をクーデターと呼ぶことについて一時しのぎを行った、と報道された。

また、以前の方法が実行された実績があるからと言って、その古い方法が再び効果を発揮するかどうかは明確ではない。アメリカと複数の西洋諸国は数十年にわたりミャンマーに制裁を科してきたが、民主政治体制に向けてほとんど進んでいないのが現状だ。オバマ政権のアプローチを擁護している人々は次のように主張している。バイデン政権の外交ティームの中にはがオバマ政権の外交ティームに参加した人物たちがいるのは事実だが、トランプ政権下の4年間で、世界中野独裁者の力が強まり、外交がより困難になっているのが現状であり、アウンサンスーチーが権力を民主的な方法で獲得しようとする努力がより見えにくくなっている。

しかし、アウンサンスーチーが過去そうであったように、解決策になるのかどうか明確ではない。ミャンマーの専門家の中には、彼女のミャンマー国内での人気は確かであるが、彼女自身が自分の政治的な強さを過大評価し、軍事政権、特に新しい支配者ミン・アウン・フラインに対して過大な要求をしているようだと考えている人々がいる。

ジョージ・ワシントン大学のミャンマー専門家クリスティナ・フィンクは「アウンサンスーチーが軍事政権とある程度の妥協をしていればクーデターを避けることができただろうと私は考えている」と語っている。ミン・アウン・フラインを軍最高司令官、もしくは名目上の大統領に留まることを認めていれば、クーデターは起きなかっただろうということだ。フィンクは「しかし、NLDは交渉をしたいとは考えなかった」と述べている。

他の専門家たちは、アウンサンスーチーは良い結果を得られない無謀な戦いを挑んだと述べている。ロバート・リーバーマンはコーネル大学物理学教授で、映画監督、2011年に「人々はそれをミャンマーと呼ぶ:カーテンを開ける」という映画を撮影した。また、NLDの指導者たちに幅広くインタヴューを行った。リーバーマンは次のように語った。「人々はアウンサンスーチーについて実際の彼女とは違う、あるイメージを常に持っている。彼女はいつも“私は政治家で、それ以上のものではない”と語っている。彼女には選択肢がない。常に細い綱を綱渡りで渡っている。軍部と世界との間でバランスを保っているのだ」。

アウンサンスーチーが2019年に国連国際司法裁判所の証人喚問でロヒンギャ族に対するミャンマー国軍の残虐行為を隠蔽しようとした後、世界中がアウンサンスーチーを玉座に据えておくことを止めてしまったのだ。

新しい軍事政権(junta)は現在、かつては祭り上げられていた反対運動の支援者だった人々からの批判が少ないことと、トランプ政権下で4年間にわたり世界の権威主義的政府が力をつけることを奨励されてきたという居心地の良さに期待をかけている。バイデン政権の外交ティームはかつて、ミャンマーの頭の固い将軍たちを懐柔しようとした。しかし、かつてに比べて、ミャンマーに変革をもたらすための道具の数は少なくなっている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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