古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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2021年11月

 古村治彦です。

 2021年11月25日に『ビッグテック5社を解体せよ』(ジョシュ・ホウリー著、古村治彦訳、徳間書店)が発売になりました。2021年11月29日(月)に産経新聞長官2面の下に広告を掲載していただきました。ありがとうございます。
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ビッグテック5社を解体せよ

 以下に、推薦文、目次、訳者あとがきを掲載します。参考にしていただき、是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

推薦文

 この度(たび)、今のアメリカでビッグテック解体の急先鋒であるジョシュ・ホウリー Josh Hawley の『ビッグテック5社を解体せよ』の邦訳が出ることを、私は心の底から喜ぶ。

 ジョシュ・ホウリーは、1979年生まれで、38歳で上院議員選挙に当選した。私は彼に注目した。彼は一貫してトランプ前大統領に忠実だ。ホウリーはミズーリ州の司法長官を務めた真面目なインテリの大秀才だ。

 彼が書いた本の書評を読むと、その中身が「ビッグテックを解体せよ」 “Break Up Big Tech” だと知った。是非日本でも出版すべきだと考え、この度徳間書店から、私の弟子の古村治彦(ふるむらはるひこ)君に翻訳の話があり古村君が丁寧かつ正確に翻訳した。

本書は、最大手出版社のサイモン&シュスター Simon & Schuster から出版されるはずだった。だがホウリーは今もトランプ派であることを理由にして出版を取り止めた。この決定の裏にはビッグテック5社、特にフェイスブックからの強い「要請」があったとされる。 

その後ホウリーはサイモン&シュスターと和解して、シカゴの老舗の出版社で、保守思想の名門のレグナリー社 Regnery Publishing から、2021年5月に出版された。出版されるとすぐにニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー1位になった(2021年6月)。ビッグテックの一角のアマゾンでもベストセラー入りした。ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙の民主党寄りのリベラル新聞書評では、「内容が不正確」と悪口を書かれた。それを跳ね飛ばしてベストセラー入りを続けたことは痛快だった。

「ビッグテックを解体せよ」の動きは、ドナルド・トランプ前政権が、2020年10月にグーグルを独占禁止法違反で訴えたときから始まった。12月にはフェイスブックを従業員に対する差別的処遇で訴えた。次のバイデン政権も「ビッグテック解体」の動きを受け継ぎ強力に継続している。ビッグテック解体のために3人の若い人間が台頭した。1人目は、FTC(連邦取引委員会 Federal Trade Commission)委員長になったリナ・カーン(Lina Khan 1989年生)女史だ。何とまだ32歳の才媛である。リナ・カーンはイエール大学法科大学院(ラー・スクール)在学中の2017年に、イエール・ラー・レヴュー誌に “Amazon’s Antitrust Paradox” 「アマゾンの反独占のパラドックス」という論文を発表して注目を浴びた。内容は「現在の独占禁止法では、価格の面ばかりが強調されている。安い商品とサーヴィスを売りさえすれば正義(ジャスティス)だ、ということはもはや無い。アマゾンが実際に行っている反競争的な諸行為を取り締まるべきである」と書いた。

FTC(連邦取引委員会)の委員長に抜擢されたリナ・カーン(32歳)。イエール大学法科大学院在学中の2017年に「アマゾンの反独占のパラドックス」という論文を書いて一躍注目された才媛。ビッグテックの独占体制を叩き潰す司令塔である。

2人目は、司法省(ジャスティス・デパートメント)の独占禁止法担当の次官補(assistant attorney general for the antitrust division)に指名(現在、人事承認中)されたジョナサン・カンター(Jonathan Kanter 1973年生。48歳)だ。ジョナサン・カンターは弁護士として長年中小業者の代理人となりグーグルやアップルとの裁判を闘ってきた。司法省は2020年10月にグーグルを独禁法違反で提訴した。2023年から公判が始まる。司法次官補になったカンターがこの責任者を務める。

3人目は、ティム・ウー(Tim Wu 1972年生。49歳)だ。ティム・ウーの父親は中国系の移民で、カナダの名門マクギル大学を卒業し、ハーヴァード大学法科大学院を修了した。その後、いくつかの大学で教鞭を執り、2006年からコロンビア大学法科大学院教授。ティム・ウーは、前述したFTC委員長に就任したリナ・カーンとコロンビア大学で同僚である。ティム・ウーはホワイトハウスの国家経済会議(NEC(エヌイーシー))に入り、テクノロジー競争政策担当の大統領特別補佐官(special assistant to the president for technology and competition policy)に就任した。ウーが2021年7月に出た大統領令(executive order(エグゼクティヴ オーダー))を書いた。ホワイトハウスからビッグテックを八つ裂きにする仕事をする。

これに呼応して、立法府のアメリカ連邦議会から、ビッグテック解体の戦いを進めるのが、本書の著者ジョシュ・ホウリーだ。ホウリーは、上院の司法委員会に所属し、独占禁止法(米ではAnti Trust Act(アンチ トラスト アクト))小委員会に入っている。委員長は、2020年の大統領選挙の民主党予備選挙に出馬した、エイミー・クロウブシャー(Amy Klobuchar 1960年生。61歳)議員(ミネソタ州選出)だ。クロウブシャーはクソ真面目な女性政治家としてアメリカ国民の信頼が厚い。本書『ビッグテック5社を解体せよ』と同時期に、クロウブシャーも『独占禁止』 Antitrust という本を出版した。民主、共和両党の上院議員2人が、同趣旨の本を出すのは、「独占禁止法違反だ」とからかわれて話題になった。2人は対ビッグテックということで強力に協力する。

このようにビッグテック包囲網、ビッグテック解体の準備が着々と進んでいる。特にフェイスブックのマーク・ザッカーバーグに対する攻撃は厳しい。プラットフォーム(巨大窓口)を利用者に無料で使わせて、個人情報を集め、集めた膨大なデータを利用者に断りなくアルゴリズム(コンピュータの計算方法)に当てはめて、個人の嗜好や性格まで分析する。それを広告収入に結び付けて大きな利益を出す。世の中のために何も作らない虚業(きょぎょう)に対する怒りが高まっている。ジョージ・オーウェル(George Orwell 1903~1950年。46歳で没)のディストピア(絶望郷)小説『1984年』に出てくる「ビッグ・ブラザーがあなたを見張っている」をもじった「ビッグテックがあなたを監視している」 ‘Big Tech Is Watching You!’である。

 本書『ビッグテック5社を解体せよ』は、アメリカの独占禁止の歴史から、ビッグテックの危険性についてまでの全体を描いている。現在アメリカで何が起きているかの最新の情報を得ることができる。本書は、アメリカ政治の最新の動きを日本に伝える。私が本書を強力に推薦する所為(ゆえん)である。

 2021年10月

                                    副島隆彦

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ビッグテック5社を解体せよ──目次

推薦文 1

序文 Preface 15

第一部

第一章 独占の復活 The Return of the Monopolies 24

●共和政体の守護者セオドア・ルーズヴェルトの敗北 30

●大企業優先自由主義に支配されてきたアメリカ 41

第二章 泥棒男爵たち The Robber Barons 46

●独占資本家たちによる大企業優先自由主義に導いた「泥棒男爵」 50

●巨大ビジネスの先鞭をつけた鉄道事業 53

●企業家たちは自由な競争より独占を選んだ 65

●市民の自立こそが共和国の源泉 71

第三章 最後の共和主義者 The Last Republican 76

●一部のエリートに支配されない自由を確保するのがアメリカの共和主義 80

●大企業経営者たちに挑んだセオドア・ルーズヴェルト 91

第四章 大企業優 先自由主義の大勝利       

The Triumph of Corporate Liberalism 97

●企業の巨大化を進歩だと考えたウィルソン 99

●ウィルソンが変質させた自由 105

●ウィルソンによって骨抜きにされた独占禁止法 118

第二部

第五章 依存症に苦しむアメリカ Addicting America 126

●インターネット依存症を蔓延させた罪 132

●こうして市民は単なる消費者に変えられた 144

第六章 反社会的メディア Anti-Social Media 158

●SNSの最大の被害者は子供たち 160

●ネットは怒りを増幅させる装置 171

第七章 検閲担当者たち The Censors 184

●ザッカーバーグと議会で直接対決 188

●ニューズキュレイターによって操作されるニューズ 201

●トランプ当選で半狂乱になったグーグル社員がとった行動 206

●地球最大のニューズ配信装置となったビッグテック 212

●リベラル派の教育機関としてのビッグテック 224

第八章 新しい世界秩序 New World Order 227

●グローバル経済から最大の利益を上げる 230

●中国と結びついたビッグテック 237

●独占から利益を引き出す厚かましいやり口 239

●グローバライゼーションの勝者と敗者 249

第九章 不正操作されているワシントン Rigging Washington 253

●書き換えられた通信品位法第230条がビッグテックの楯となった 255

●ワシントンのエリートを使った強力なロビイング活動 261

●エリートの、エリートによる、エリートのための政府 267

第三部

第十章 私たち一人ひとりにできること What Each of Us Can Do 274

●子供たちにスマホを与えない決断 276

第十一章 新しい政治 A New Politics 286

●グーグルとフェイスブックは独占禁止法違反の容疑者 290

●「追跡をするな」という権利を我らに与えよ 300

●人々を依存状態にする機能を廃止させよ 304

●個人に訴訟する権利を与えよ 306

●アメリカの自治のシステムを回復させよ 308

訳者あとがき 310

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訳者あとがき

 本書は、Josh Hawley, The Tyranny of Big TechRegnery Publishing, 2021)の邦訳だ。本書の英語での原題を直訳すれば、「ビッグテックの暴政(ぼうせい)」や「ビッグテックの暴力的支配」となる。しかし、邦題は『ビッグテック5社を解体せよ』とした。それは、著者であるホウリーが実際に使っている言葉であり、本書の内容を簡潔に表していると考えるからだ。

著者のジョシュ・ホウリーについて簡単に紹介する。ホウリーは1979年生まれの41歳。アーカンソー州生まれで生後すぐに父の仕事の関係でミズーリ州に転居した。子供の頃から成績優秀、大いに目立つ存在で、周囲の大人や友人たちは、「ジョシュは将来アメリカ大統領になるに違いない」と噂していたという。

 ホウリーは1998年に西部カリフォルニア州の名門スタンフォード大学に進学した。大学を優秀な成績で卒業し、2003年にアイヴィーリーグの名門イェール大学法科大学院に進学した。在学中は、成績優秀者しかなれない学内誌の編集委員を務めた。2006年に法務博士号を取得し、弁護士(法曹)資格を得て、アメリカ合州国最高裁判所主席判事ジョン・ロバーツの事務官からキャリアを始めた。その後は弁護士事務所に勤務し、ミズーリ大学法科大学院准教授として教鞭(きょうべん)を執った。

2017年からミズーリ州司法長官を務めた。この時期に、ビッグテックの危険性を認識し、2017年11月、グーグルがミズーリ州の消費者保護法と独占禁止法に違反した容疑での捜査を開始した。2018年4月には、フェイスブックとケンブリッジ・アナリティカによるデータ取り扱いに関するスキャンダル(フェイスブックが収集した個人情報をケンブリッジ・アナリティカ2016年の大統領選挙に利用してドナルド・トランプ大統領当選に貢献した)を受け、フェイスブックの捜査を行った。このときに他の州の司法長官たちに一緒に戦おうと呼びかけたが誰も反応しなかった、と彼は本書の中で述懐している。

 2018年の中間選挙でのミズーリ州連邦上院議員選挙で共和党の候補者となり、当時現職だった民主党の候補者を破り、連邦上院議員となった。ホウリーは当時のドナルド・トランプ大統領からの強力な支持を得た。これが初当選の後押しとなった。ホウリーは、連邦上院司法委員会の独占禁止法小委員会に所属し、「ビッグテック解体」に向けた超党派の包囲網の一員として活躍している。委員会では、ビッグテックの経営陣を召喚(しょうかん)し、不正行為などを厳しく追及している。

 本書は大きく分けて三部構成となっている。第一部は第一章から第四章までで構成されている。第一部では、独占monopoly(モノポリー)の出現と繁栄の歴史を詳述している。1870年代から鉄道産業や石油産業を中心に、巨大企業による独占によって、「泥棒男爵」と呼ばれた資本家たち(代表的人物はジョン・P・モルガン)は莫大な富を蓄積した。それと同時に、資本家たちは独占を正当化するために、「大企業優先自由主義corporate liberalism(コーポレイト リベラリズム」というイデオロギーを生み出した。

こうして独占が正当化され、そうした動きに抗うことが難しくなっていく中で、独占に立ち向かったのが、ホウリーが傾倒しているセオドア・ルーズヴェルト大統領(第26代)だった。しかし、彼の闘いは失敗に終わった。

 その後、ウッドロウ・ウィルソン大統領(第28代)が出現し、大企業優先自由主義を称賛し、「個人の自由とは個人的な生活の中に限定される。政治に参加する必要はない。また、物質的な豊かさを保証するのは政府と大企業の役割だ」という考えを定着させた。結果として、経済的に自立し、政治参加する普通の人々が力を持ち、統治する政治体制である共和政治体制が危機に瀕することになった。

 アメリカの共和政治体制が危機に瀕したこの時期と、現代の状況が酷似(こくじ)しているということを著者であるホウリーは私たちに訴えている。彼がビッグテック解体を叫ぶのは、人々に損害を与える独占の解消ということももちろん理由にあるが、現状が続けば共和政治体制 republic(リパブリック)と民主政治体制democracy(デモクラシー)の護持(ごじ)が困難になるという危機感がその根底にある。

第二部は第五章から第九章までで構成されている。第二部では、ビッグテック各社が、雨リカ社会や経済、そしてアメリカの人々一人ひとりに、いかに損害を与えているかを、多くの具体的な事例を挙げて説明している。

「ツイッターやグーグル、フェイスブックは利用者に無料で使わせているが、どうやって利益を出しているのか」、「広告収入が大きいと聞いたことがあるけれど、どうなっているのか」という疑問を皆さん方も持たれたことがあると思う。第二部では、ビッグテックのビジネスのからくりと実態が明らかにされている。多くの方に自分のこととして、驚きといささかの不快感を読み取ってもらえるはずだ。

 ビッグテック、特にソーシャルネットワーク・メディアのプラットフォームplatform(巨大窓口)の最大手フェイスブックのビジネスモデルとは、簡単に言えば、「利用者にプラットフォームを利用させて集めた個人データを断りもなく勝手に使って、より洗練された広告を行うことで、金(かね)に換えている。その副産物として、人々の精神に悪影響を与えている」ということになる。

 ビッグテックの共通のモデルは次の通りだ。あらゆる種類の個人データを膨大に集め、それをアルゴリズムalgorithm(コンピュータの計算方式)に当てはめて、利用者よりも早く、その人が欲するものを導き出して、それに合った内容の投稿や記事、そして広告を表示する。その過程で、既存のマスメディアや小売業者に圧力をかけて記事や商品を提供させる。また、ビッグテック、特にフェイスブックは、個人データとアルゴリズムを使って、選挙の際に有権者の投票行動をコントロールしている。また、ビッグテックのプラットフォームが日常生活の中に浸透していき、人々、特に子供や若者たちの精神に悪影響(自殺やうつ症状の増大など)を与えている実態も詳細に紹介されている。

第三部は、第十章と第十一章で構成されている。第三部では、私たちはビッグテックからの悪影響からいかにして自分たちを守るか、そして、アメリカの共和政治体制と民主政治体制をいかに守るか、修復していくかということが書かれている。ホウリーが家族で行っている取り組みは私たちの参考になる。その内容は、スマホやパソコンを一定の時間を決めて使わないこと、子供たちには携帯機器を使わせないで外で遊んだり、一緒に本を読んだりすること、家族や友人、ご近所との付き合いを大切にすることだ。ホウリーは「これこそがビッグテックとの戦いにとって重要な力になる」と述べている。

 ごく当たり前の簡単なことであり拍子抜けしてしまう。しかし、現代において、この当たり前で簡単なことを実行することが難しい。また、スマホやパソコンに何時間も触らないことも難しい。携帯機器に触らないと不安な気持ちになってしまう人も多いはずだ。これは、ビッグテックのプラットフォームや携帯機器が私たちの生活に深く浸透していることを示す証拠だ。本書の中に使われている表現を使えば、私たちは、体の中に溜まったビッグテックからの影響(毒素)を外に排出するために、断食をしなくてはいけない。

本書の校正作業中、「フェイスブックが社名をメタMetaに変更する」というニューズが飛び込んできた(2021年10月29日)。創業以来最大の逆風が吹き荒れる中で、名称変更と仮想空間へ軸足を移すことで危機(内部告発や広告収入の減少など)を乗り越えたいという意図があるとニューズ記事で解説されている。ホウリーをはじめとする政府や議会で形成された「ビッグテック解体」に向けた超党派の包囲網によって、フェイスブックは苦境に陥っている。

ホウリーは2024年の大統領選挙の共和党候補者予想に名前が挙がる人物だ。ある調査では、ドナルド・トランプ、マイク・ペンスに続いて3位につけるほど、知名度と人気が高まっている。ホウリーは共和党に所属しているが、大企業寄りの主流派・エスタブリッシュメントには与していない、トランプ支持派のポピュリストPopulistであることが分かる。

ポピュリズムPopulismとは悪い意味の言葉ではない。日本では大衆迎合政治などと訳されてマイナスイメージだが、本当はそうではない。機能不全に陥った、腐った中央政治に対しての、草の根の人々からの異議申し立て運動のことだ。彼を押し上げ、ワシントンに送り込んだのは、アメリカのごく普通の人々だ。

 ホウリーは「普通のアメリカ人が力を持ち、政治に参加して、共和国としてのアメリカの運命を決めよう」ということを主張している。ジョシュ・ホウリーはこれから、アメリカ政治で存在感を増していき、やがて大統領になるかもしれない。是非これからも注目していきたい楽しみな人物だ。

最後に師である副島隆彦(そえじまたかひこ)先生には、力強い推薦の言葉をいただいだ。また、本書の翻訳にあたり、徳間書店学芸編集部の力石幸一(ちからいしこういち)氏には大変お世話になった。記して深く感謝申し上げます。

 2021年11月

                           古村治彦(ふるむらはるひこ)

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ジョー・バイデン大統領の支持率の低迷が止まらない。以下に11月に入ってからのバイデン大統領の支持率に関する記事を3本ご紹介する。その原因は経済対策の不満だ。アメリカでは物価高が起こり、人々の生活は苦しくなっている。特にガソリン価格上昇に対して人々の不満が高まっている。11月末の感謝祭と12月のクリスマスはアメリカ国民にとって楽しみな「ホリデーシーズン」だ。家族と過ごすために車や飛行機で大移動ということになるが、燃料費が高くなればそれだけ支出を強いられることになり、不満が高まる。

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ギャロップ社によるバイデン大統領支持率の推移

 下の記事にあるが、新型コロナウイルス感染拡大対策についても、就任当初は支持が高かったものが、今では不支持が支持を上回っている。また、アフガニスタンからの完全撤退に対する人々の不満ということもある。これに関しては、「アメリカ国民の皆さん、気づいて欲しい。アメリカはもはや世界の帝国ではないのですよ。そもそもなぜあなたたちが重税に苦しんでいるのかを考えて下さい」と言いたい。

 来年2022年にはアメリカでは中間選挙(mid-term election)がある。これは大統領選挙と大統領選挙の間に行われる、連邦上下両院議員選挙と一部の知事選挙だ。「mid-term」という言葉は、学校で言えば「中間試験」という意味もあり、大統領と大統領を出している政党(与党)にとっての「中間試験」ということになる。今のところ、この中間試験で、バイデン大統領と民主党の成績は良くないということが予想されている。

 そのために、バイデン政権と連邦議会民主党は、大幅な支出法案の可決を目指している。既に1兆2000億ドル(約140兆円)規模のインフラ整備法案は可決した。あとはバイデン大統領が署名をして法律にするという作業が残っている。しかし、市中にお金を流す計画によって物価高がどのように推移するかを見なければならない。インフレ率をどこかで止めねばならないが、そのかじ取りが難しい。

 来年2022年の中間選挙での民主党側の敗北の予想が高まっている。現在連邦上院は50対50(副大統領が議長役となるので民主党が優位)、連邦下院は民主党221対共和党213(欠員1)という状況だ。民主党が上下両院で過半数という現状であるが、それが逆転して、上下両院で共和党が過半数を握るという可能性も高まっている。もしそうなれば、バイデン政権の政策遂行にも影響が出る。そして、2024年の大統領選挙でバイデンの再選という可能性も小さくなっていく。中間選挙まで1年を切っているがこれからが非常に重要ということになっていく。

(貼り付けはじめ)

キュニピアック大学の最新の世論調査によると、バイデンの支持率は36%に下落(Biden's approval dips to 36 percent in new Quinnipiac poll

マックス・グリーンウッド筆

2021年11月18日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/582109-bidens-approval-dips-to-36-percent-in-new-quinnipiac-poll

最新のキュニピアック大学の世論調査によると、バイデン大統領の支持率は36%にまで下落した。2022年の中間選挙に向けて民主党側にとってはトラブルを示している。

世論調査によると、バイデン大統領の支持率の数字は先月の37%から下落している。不支持率は10月の52%から53%に微増した。

バイデンは経済政策と外交政策の対応に関して最悪の評価を受けている。経済政策への支持は34%、外交政策に関しては33%の支持率しかない。回答者の59%が経済政策への対応に不支持を示し、55%が外交政策への対応に不支持を示している。

怪盗者の37%がバイデン大統領は優れた指導者としての技量を持っていると答えたが、57%はそうではないと答えた。ぎりぎり過半数の51%の回答者は大統領が正直ではないと考えており、42%が彼は正直だと考えている。

バイデンが平均的なアメリカ国民を大切に扱っているかということになると、回答者は47%対47%に分裂している。

バイデンの新型コロナウイルス感染拡大に対する対応については、アメリカ国民の45%は彼の仕事ぶりを評価し、50%が評価していない。同様に、41%が気候変動についての仕事ぶりを評価する一方で、48%が評価していない。

キュニピアック大学の全国規模の世論調査の数字は民主党側にとっては憂鬱になるものとなった。民主党は2022年の中間選挙で、現在連邦上下両院で保っている僅差の優位を守るために準備を進めている。

民主党は中間選挙に向けてこれまでにない歴史的な逆風(headwinds)に直面することになるだろうと見られている。しかし、バイデン大統領の下落している支持率は、アメリカ国民が来年の選挙でワシントンでの民主党のコントロールに対して選挙で打撃を与える可能性が高いということを示す更なる証拠となっている。

確かに、2022年の中間選挙に向けてまだ約1年の期間がある。その間にバイデンと民主党は共和党の差を縮める努力ができる。民主党側は最近可決させた1兆ドル規模のインフラ整備法案と、審議が止まっている1兆7500億ドル規模の社会政策と気候変動に関する法案が、民主党側に息をつけるために必要であり、これらによって勢いがつくだろうという希望を持っている。

キュニピアック大学の世論調査では、これらの法案はアメリカ国民の中で人気があるようだ。回答者の57%はインフラ整備法案を支持し、37%は支持しないと答えた。58%がより大規模な支出法案を支持し、38%が支持しないと答えた。

キュニピアック大学の世論調査は11月11日から15日にかけて、1378名の成人、その中には1262名の登録済の有権者が含まれていたが、それらを対象に実施された。1378名の成人に関しては誤差2.6ポイント、1262名の登録済身の有権者に関しては誤差2.8ポイントだ。

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ワシントン・ポストとABCニューズ共同世論調査でバイデンの支持率が低迷(Biden job approval at record low in Washington Post-ABC News poll

マイケル・スクネル筆

2021年11月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/581450-biden-job-approval-at-record-low-in-washington-post-abc-news-poll

最新の世論調査の結果、バイデン大統領の支持率が41%という低率で不振に陥っている。これは、民主党支持者と無党派層の間での不支持が拡大していることが主な理由となっている。

今回の世論調査は、『ワシントン・ポスト』紙とABCニューズによって実施された。アメリカ国民の53%がバイデンの大統領としての仕事ぶりを評価しないと答えた。6%は意見なしと答えた。

バイデン大統領の支持率の数字41%は9月の調査での44%から微減となった。しかし、6月の調査での50%からは大幅な下落となった。今年4月、大統領に就任してからわずか3カ月後の段階では、アメリカ国民のバイデン大統領に対しての支持率は52%だった。

11月の調査では、民主党支持者と無党派層の間でのバイデンの支持率が下がっていることが明らかになった。民主党支持者の80%がバイデン大統領の仕事ぶりを評価していると答えた。この数字は6月の94%から大幅な下落となった。今回の調査では、民主党支持者の16%がバイデン大統領の仕事ぶりを評価しないと超えた。

無党派について言えば、35%がバイデン大統領の仕事ぶりを評価し、58%が評価しないと答えた。

バイデン大統領の下落している支持率は、アメリカ全体で国民が経済的苦境に陥っていること、その中には物価上昇とインフレ率の上昇が含まれているが、それらの結果という可能性が高い。

今回の世論調査では、回答者の39%がバイデン大統領の経済運営を支持すると答え、47%がバイデン大統領の新型コロナウイルス感染拡大対策を支持すると答えた。

しかし、今回の世論調査は、バイデン大統領にとって明るいニューズをいくつか示している。今回の世論調査に応えたアメリカ国民の過半数はバイデン政権の1兆2000億ドル規模の超党派によるインフラ整備パッケージを支持すると答えた。バイデン大統領は月曜日に法案に署名することになる。加えて、1兆7500億ドル規模の再生パッケージについては、民主党側で議論が続いている。

回答者の63%が連邦政府の「道路、橋梁、その他のインフラへの1兆ドルの支出」を支持すると答え、58%が連邦政府の「気候変動に対応し、幼児教育、医療、その他の社会プログラムを創設もしくは拡大するための2兆ドル規模の支出」を支持すると答えた。

今回の世論調査は11月7日から10日にかけて、1001名の成人を対象に電話を通じて実施された。誤差は3.5ポイントだ。

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世論調査:バイデンの支持率が新たに38%の低率を記録(Biden approval rating drops to new low of 38 percent: poll

マイケル・スクネル筆

2021年11月7日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/580460-biden-approval-rating-drops-to-new-low-of-38-percent-poll

日曜日に発表された最新の世論調査の結果によると、バイデン大統領の支持率は下落し続けている。これまでの数週間、連邦議会ではバイデン政権の最重要法案に関しての激しい動きがあり、火曜日にはヴァージニア州での民主党の敗北があるなど、ドラマがあった。

今回の世論調査は『USAトゥデイ』紙とサフォーク大学が共同して先週水曜日から金曜日にかけて実施された。今回の世論調査は民主党がインフラ整備法案を連邦下院で可決させ、社会支出パッケージを前進させる前に実施された。

今回の調査では支持率は38%にまで下落した。これまでの複数の世論調査の結果では支持率は40%台前半を保っていた。

連邦下院は金曜日夜に、最終的に超党派による1兆2000億ドル規模のインフラ整備パッケージを可決した。そして、法案に最終的な承認を得るために、バイデンのデスクに送った。一方、同日に10月の雇用統計が発表され、アメリカ国内では53万1000件の雇用が増加した。これは予想を超える数字となった。

バイデン大統領の支持率は、デルタ変異株が新型コロナウイルス感染拡大防止策の進展を妨げたことや、アフガニスタンからの撤退が超党派の反発を招いたことから、ここ数週間下落傾向にある。

ハーヴァード大学CPAS・ハリス共同世論調査は10月末に実施され、バイデン大統領の支持率が43%に下がっていることが明らかになった。9月の調査から5ポイントの下落となった。

USAトゥディ・サフォーク大学共同世論調査では、回答者の46%が「バイデン大統領は期待よりも仕事ぶりが良くない」と答えた。昨年の選挙でバイデンに投票した人の16%がその中に含まれていた。無党派の44%はバイデン大統領の仕事ぶりは期待外れだったと答えている。

不支持の拡大は、2024年の大統領選挙でのバイデン大統領の再選可能性に大きな影響を与えるようになっている。今回のUSAトゥディ・サフォーク大学共同世論調査では、回答者の64%がバイデン大統領の再選を支持しないと答えた。その中には民主党支持者の28%が含まれていた。

対照的に、回答者の58%はトランプ前大統領が共和党の候補者のトップに来ることを見たくないと答えた。その中には共和党支持者の24%も含まれていた。

今回の世論調査の結果は、ヴァージニア州で民主党が惨敗を喫した後に発表された。ヴァージニア州で共和党は州知事、副知事、州司法長官の全ての座を獲得した。共和党候補者のグレン・ヤンキンが民主党候補者のテリー・マコーリフ元州知事を約6万8000票差つけて破った。今回の知事選挙は来年の中間選挙の前哨戦と見られていた。

しかし、ホワイトハウスは金曜日、連邦上院が可決した超党派のインフラ整備法案を連邦下院が可決したことで、重要な勝利を得た。

民主党は現在、1兆7500億ドル規模の社会支出法案の可決に注意を向けている。この法案は「より良い復興法案(Build Back Better Act)」と名付けられている。この法案はバイデン政権の最重要法案の2つ目ということになる。この支出法案には、医療プログラムと教育プログラムへの支出拡大と気候変動対策への5億ドルの支出が含まれている。

連邦下院は金曜日、このパッケージについて前進させるためのルールを決定した。しかし、連邦議会予算局が法案の数字的な効果を発表するまでは最終投票を行うことはできない。民主党穏健派は、支持する前提条件としてホワイトハウスによる概算の発表を求めている。

先週、バイデン大統領は不振を示す世論調査の数字について答えた。記者会見の席上、記者たちに向けて次のように述べた。彼は世論調査の数字は上下しやすいものだという見解を示し、「私は支持率の数字のために選挙に立候補したのではない。世論調査の数字を上げたいと思って選挙戦を戦ったことはない」。

USAトゥディ・サフォーク大学共同世論調査は固定電話と携帯電話を使って1000名の登録済有権者を対象に実施された。誤差は3.1ポイントだ。

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 今回は、岸田文雄首相の唱える「新しい資本主義」についての論稿をご紹介する。岸田首相は「新しい資本主義」という言葉を提唱しているが、その本質は「配分(分配、distribution)」にある。簡単に言えば、下がり続けている人々の給料を上げようということだ。安倍政権下で実施されたアベノミクスでの成果としてよく「雇用が増えた」ということが言われる。

雇用が増えたのは素晴らしい。しかし、問題はその質だ。雇用の質、つまり正規か、非正規かということだ。今や日本の雇用の約4割が非正規だ。時給は低く抑えられ、補助や保護はない。そして、悲しいことに低賃金で保護もない仕事を年金額が少ない老人、そして女性たちが担うという構造になっている。こうした状況で、正規雇用であるサラリーマンの給料は上がらない。国民全体で言えば、消費税増税や社会保障負担の増大、最近の円安による物価高など厳しい条件が次々と打ち出されている。

 岸田文雄率いる宏池会を創設したのは池田勇人元首相であり、その源流をたどれば、吉田茂にまで行きつく。「経済成長優先(人々の暮らしを豊かにする)、軽武装、アメリカに頼る」という考え方でやってきた。以前にご紹介した、トバイアス・ハリスの論稿でもここら辺のことが詳しく紹介されている。吉田茂の流れを汲む保守本流(池田勇人と佐藤栄作から始まる)の2つの派閥(現在で言えば宏池会と茂木派)が重視したのは配分である。それによって、日本の奇跡の経済成長の果実が国内に行きわたった。多くの場合、経済成長に伴って、格差も拡大する。しかし、日本の場合は、「格差なき経済的奇跡(economic miracle without inequality)」を実現したのだ。

 それが平成と令和の30年間で台無しにされた。「アメリカ型を導入すれば何でもかんでもうまくいく」という短慮が日本をダメにした。政治改革、構造改革といった、「改革」で日本の重要な部分まで破壊された。それを修復することは既に難しい。岸田首相が目指すのはそうした短慮や勇ましさからの軌道修正だろう。軌道修正が精一杯であろうが、安倍路線からの修正を行うだけでも大したものだ。

 私たちは日本の成功体験であるところの「格差なき経済的奇跡」路線に戻る必要がある。それは何も毎年二桁の経済成長を目指すとかそういうことではない。経済成長の果実を適正に人々に配分する、という当たり前のことを行うだけのことだ。そして、今や先進国となり、内需が主要な経済要素である日本にとっては、人々に適正に果実を配分し、それを使ってお金を回してもらって、「日本経済の血行促進」を行って、日本経済の健康を取り戻すということを行わねばならない。そのきっかけとして政治がある。

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日本の新首相が公約としている「新しい資本主義」はどのようなものか(How Japan's new PM is promising a 'new capitalism'

マリコ・オオイ筆

BBC

2021年11月1日

https://www.bbc.com/news/business-58976987

日本の新首相岸田文雄は国内の富の再分配を「新しい資本主義(new capitalism)」として売り込んでいる。

しかし、SNS上には、この計画が社会主義に近いと指摘する声もあり、中国共産党の主要政策になぞらえて日本の「共同繁栄(common prosperity)」とも呼ばれている。

巨大小売企業アマゾンに対抗する日本の巨大オンライン小売企業である楽天の最高経営責任者である三木谷浩史氏「彼は資本主義の仕組みを理解しているのだろうか?」とツイートした。

三木谷氏は、岸田首相のキャピタルゲイン課税(CGT)の税率引き上げ提案について特に怒りを持っていた。投資で得た利益に対する政府の課税は、「二重課税」と呼ばれている。

議論を巻き起こしている新たな提案に対する不満を表明したのは楽天の経営者三木谷氏だけではなかった。最近の小口の個人投資家からの株式市場への新たな関心の波を一気に消してしまうのではないかと懸念している。

日本では、新首相が誕生すると株価が上昇するのが通例だが、衆議院選挙を控えた10月に岸田氏が登場すると、日経225指数は一気に下落した。

日経225指数が8日連続で下落し、現在では「岸田ショック(Kishida schock)」と呼ばれるほどの下落となった。

これを受けて岸田首相は、キャピタルゲインや配当金に対する課税の変更は当面行わないとし、キャピタルゲイン課税の税率引き上げ提案をすぐに撤回した。

このような恥ずかしい政策転換はさておき、岸田首相の経済政策のスタイルは、前任者である菅義偉氏や安倍晋三氏のアプローチとは明らかに対照的だ。

日本の大手オンライン証券会社は新規個人投資家の参入の波に乗っている。新規口座開設数は過去最高となった。

安倍晋三と菅義偉の2人はアベノミクスを推進した。アベノミクスとは、積極的な金融緩和(aggressive monetary easing)、財政再建(fiscal consolidation)、成長戦略(growth strategy)という、いわゆる「3本の矢(three arrows)」で有名な経済政策だ。この3つのレバーを使って、日本経済を何十年にもわたる低成長から脱却させることが彼らの目的だった。

安倍と菅の2人の指導者の在任期間(tenure)の間に、いくつかの成功がもたらされた。日本の株価は2倍になった。安倍が2012年12月に2度目の首相に就任した時、日経225指数は1万円を下回っていた。今年2月には1990年以降、初めて3万円を記録した。

日経225指数は、日本経済の低迷をもたらした1980年代後半の暴落から回復するのに30年かかっている。

●賃金上昇はペーを維持できず(Salaries not keeping pace

しかしながら、安倍の戦略に対しては、岸田自身を含む厳しい批判者たちが存在した。彼らは、「アベノミクスは日本国内の富裕層を更に富裕にしただけだ」と主張した。彼らは、富がより広く国民に分配されることを望んでいる。

アベノミクスは大々的に報道され、国際的にも注目されてきたが、一般市民はその恩恵をあまり感じてこなかった。アベノミクスによって貧富の差が拡大したと言う人々もいる。所得分配の不平等を測るジニ係数という指標は過去10年間でわずかに縮小しているにもかかわらず、である。

人々がお金を持っていることを実感できない理由の一つは、過去30年間で平均賃金がほとんど伸びていないことである。

●日本の平均賃金(Average Japanese wage

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経済協力開発機構(OECD)のデータによると、日本の平均賃金は過去30年間、アメリカやドイツなどの国に比べて停滞している。

生産性メトリクスも上昇が限定されてきた。一人当たりの経済産出額である日本の一人当たり国内総生産(GDP)は変動しているが現在は1994年と同レヴェルとなっている。

●日本の一人当たりGDPJapan GDP per capita

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国会における初めての所信表明演説の中で、岸田首相は「分配(distribution)」という言葉を12回繰り返した。対照的に、安倍首相は「成長(growth)」という言葉を11回、菅首相は「改革(reform)」という言葉を16回使った。

しかし、経済学者や投資家の中には、岸田首相のアベノミクスに対する厳しい批判は、総選挙に向けて有権者の支持を得るための策略であり、急激な変化はないと考える人もいる。

投資家のアヤ・ムラカミは次のように語った。「岸田首相が彼の経済政策全てを説明したのかどうか疑問に思っている。しかし、彼が高市さんを自民党政策調査会長に、甘利さんを自民党幹事長に起用したことを見て、岸田首相の下でも、アベノミクスは継続されるということを示唆しているということになる」。

高市早苗は安倍晋三元首相の支援を受け、与党自民党総裁選挙に出馬した。一方、甘利明は安倍政権で経済産業大臣を務め、アベノミクスの設計者の一人であった。甘利は、2016年に汚職スキャンダルに巻き込まれたことで、幹事長に起用されたことについて議論が起きた。今週末の選挙で小選挙区の議席を失った後、辞任を申し出たと報じられている。

2012年12月に安倍が首相に就任した時、日経225指数は1万円を下回っていた。今年2月には、1990年以来初めて3万円を記録した。

●勤労者たちへの配分(Delivering for workers

日本がアベノミクスに戻るかどうかはさておき、岸田氏が就任した今、最も差し迫った問題は、「日本の労働者の間で高まっている不満にどう対処するか?」ということである。

近年、日本の上場企業は過去最高の利益を上げていますが、その利益を勤勉な従業員の賃金に還元していないという批判を受けている。

投資家のムラカミは次のように述べた。「日本の経済成長は富を分配するほどには協力ではない。日本経済は海外で利益を上げており、国内ではそうではない。国内で利益を上げられていない現状で、各企業が利益を分配することは難しいということになる」。

ムラカミは自民党政調会長の高市早苗が最近提案した「現金をため込んでいる企業に課税する」という案を支持している。村上は次のように語っている。「現在、東京証券取引所に上場している企業は2500社ありますが、そのうち1割以上の企業が時価総額以上の現金・預金を持っていたり、株式の持ち合いをしていたりしている。これらの企業には、税制を通じて、国内の成長を促進するための投資を奨励すべきだと考える」。

岸田は総理総裁に選出されたとき、「国民の声に耳を傾ける(listen to the voices of the people)」と宣言したが、わずか数週間でキャピタルゲイン税を引き上げるという計画を撤回した。今後、岸田首相が投資家と労働者のどちらの声に耳を傾け、政策の方向性を決めていくのか注目される。

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 本日、2021年11月25日に私が翻訳しましたジョシュ・ホウリー著『ビッグテック5社を解体せよ』(徳間書店)が発売になります。以下に推薦文、目次、訳者あとがきと、ビッグテック各社に関する反独占のバイデン政権の人事についての記事をご紹介します。参考にしていただいて、是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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ビッグテック5社を解体せよ 

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推薦文

この度(たび)、今のアメリカでビッグテック解体の急先鋒であるジョシュ・ホウリー Josh Hawley の『ビッグテック5社を解体せよ』の邦訳が出ることを、私は心の底から喜ぶ。

ジョシュ・ホウリーは、1979年生まれで、38歳で上院議員選挙に当選した。私は彼に注目した。彼は一貫してトランプ前大統領に忠実だ。ホウリーはミズーリ州の司法長官を務めた真面目なインテリの大秀才だ。

彼が書いた本の書評を読むと、その中身が「ビッグテックを解体せよ」 Break Up Big Tech だと知った。是非日本でも出版すべきだと考え、この度徳間書店から、私の弟子の古村治彦(ふるむらはるひこ)君に翻訳の話があり古村君が丁寧かつ正確に翻訳した。

本書は、最大手出版社のサイモン&シュスター Simon & Schuster から出版されるはずだった。だがホウリーは今もトランプ派であることを理由にして出版を取り止めた。この決定の裏にはビッグテック5社、特にフェイスブックからの強い「要請」があったとされる。 

その後ホウリーはサイモン&シュスターと和解して、シカゴの老舗の出版社で、保守思想の名門のレグナリー社 Regnery Publishing から、2021年5月に出版された。出版されるとすぐにニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー1位になった(2021年6月)。ビッグテックの一角のアマゾンでもベストセラー入りした。ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙の民主党寄りのリベラル新聞書評では、「内容が不正確」と悪口を書かれた。それを跳ね飛ばしてベストセラー入りを続けたことは痛快だった。

「ビッグテックを解体せよ」の動きは、ドナルド・トランプ前政権が、2020年10月にグーグルを独占禁止法違反で訴えたときから始まった。12月にはフェイスブックを従業員に対する差別的処遇で訴えた。次のバイデン政権も「ビッグテック解体」の動きを受け継ぎ強力に継続している。ビッグテック解体のために3人の若い人間が台頭した。1人目は、FTC(連邦取引委員会 Federal Trade Commission)委員長になったリナ・カーン(Lina Khan 1989年生)女史だ。何とまだ32歳の才媛である。リナ・カーンはイエール大学法科大学院(ラー・スクール)在学中の2017年に、イエール・ラー・レヴュー誌に Amazons Antitrust Paradox 「アマゾンの反独占のパラドックス」という論文を発表して注目を浴びた。内容は「現在の独占禁止法では、価格の面ばかりが強調されている。安い商品とサーヴィスを売りさえすれば正義(ジャスティス)だ、ということはもはや無い。アマゾンが実際に行っている反競争的な諸行為を取り締まるべきである」と書いた。

FTC(連邦取引委員会)の委員長に抜擢されたリナ・カーン(32歳)。イエール大学法科大学院在学中の2017年に「アマゾンの反独占のパラドックス」という論文を書いて一躍注目された才媛。ビッグテックの独占体制を叩き潰す司令塔である。

2人目は、司法省(ジャスティス・デパートメント)の独占禁止法担当の次官補(assistant attorney general for the antitrust division)に指名(現在、人事承認中)されたジョナサン・カンター(Jonathan Kanter 1973年生。48歳)だ。ジョナサン・カンターは弁護士として長年中小業者の代理人となりグーグルやアップルとの裁判を闘ってきた。司法省は2020年10月にグーグルを独禁法違反で提訴した。2023年から公判が始まる。司法次官補になったカンターがこの責任者を務める。

3人目は、ティム・ウー(Tim Wu 1972年生。49歳)だ。ティム・ウーの父親は中国系の移民で、カナダの名門マクギル大学を卒業し、ハーヴァード大学法科大学院を修了した。その後、いくつかの大学で教鞭を執り、2006年からコロンビア大学法科大学院教授。ティム・ウーは、前述したFTC委員長に就任したリナ・カーンとコロンビア大学で同僚である。ティム・ウーはホワイトハウスの国家経済会議(NEC(エヌイーシー))に入り、テクノロジー競争政策担当の大統領特別補佐官(special assistant to the president for technology and competition policy)に就任した。ウーが2021年7月に出た大統領令(executive order(エグゼクティヴ オーダー))を書いた。ホワイトハウスからビッグテックを八つ裂きにする仕事をする。

これに呼応して、立法府のアメリカ連邦議会から、ビッグテック解体の戦いを進めるのが、本書の著者ジョシュ・ホウリーだ。ホウリーは、上院の司法委員会に所属し、独占禁止法(米ではAnti Trust Act(アンチ トラスト アクト))小委員会に入っている。委員長は、2020年の大統領選挙の民主党予備選挙に出馬した、エイミー・クロウブシャー(Amy Klobuchar 1960年生。61歳)議員(ミネソタ州選出)だ。クロウブシャーはクソ真面目な女性政治家としてアメリカ国民の信頼が厚い。本書『ビッグテック5社を解体せよ』と同時期に、クロウブシャーも『独占禁止』 Antitrust という本を出版した。民主、共和両党の上院議員2人が、同趣旨の本を出すのは、「独占禁止法違反だ」とからかわれて話題になった。2人は対ビッグテックということで強力に協力する。

このようにビッグテック包囲網、ビッグテック解体の準備が着々と進んでいる。特にフェイスブックのマーク・ザッカーバーグに対する攻撃は厳しい。プラットフォーム(巨大窓口)を利用者に無料で使わせて、個人情報を集め、集めた膨大なデータを利用者に断りなくアルゴリズム(コンピュータの計算方法)に当てはめて、個人の嗜好や性格まで分析する。それを広告収入に結び付けて大きな利益を出す。世の中のために何も作らない虚業(きょぎょう)に対する怒りが高まっている。ジョージ・オーウェル(George Orwell 1903~1950年。46歳で没)のディストピア(絶望郷)小説『1984年』に出てくる「ビッグ・ブラザーがあなたを見張っている」をもじった「ビッグテックがあなたを監視している」 Big Tech Is Watching You!’である。 本書『ビッグテック5社を解体せよ』は、アメリカの独占禁止の歴史から、ビッグテックの危険性についてまでの全体を描いている。現在アメリカで何が起きているかの最新の情報を得ることができる。本書は、アメリカ政治の最新の動きを日本に伝える。私が本書を強力に推薦する所為(ゆえん)である。

 2021年10月

                                    副島隆彦

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ビッグテック5社を解体せよ──目次

推薦文 1

序文 Preface 15

第一部

第一章 独占の復活 The Return of the Monopolies 24

●共和政体の守護者セオドア・ルーズヴェルトの敗北 30

●大企業優先自由主義に支配されてきたアメリカ 41

第二章 泥棒男爵たち The Robber Barons 46

●独占資本家たちによる大企業優先自由主義に導いた「泥棒男爵」 50

●巨大ビジネスの先鞭をつけた鉄道事業 53

●企業家たちは自由な競争より独占を選んだ 65

●市民の自立こそが共和国の源泉 71

第三章 最後の共和主義者 The Last Republican 76

●一部のエリートに支配されない自由を確保するのがアメリカの共和主義 80

●大企業経営者たちに挑んだセオドア・ルーズヴェルト 91

第四章 大企業優 先自由主義の大勝利 The Triumph of Corporate Liberalism 97

●企業の巨大化を進歩だと考えたウィルソン 99

●ウィルソンが変質させた自由 105

●ウィルソンによって骨抜きにされた独占禁止法 118

第二部

第五章 依存症に苦しむアメリカ Addicting America 126

●インターネット依存症を蔓延させた罪 132

●こうして市民は単なる消費者に変えられた 144

第六章 反社会的メディア Anti-Social Media 158

●SNSの最大の被害者は子供たち 160

●ネットは怒りを増幅させる装置 171

第七章 検閲担当者たち The Censors 184

●ザッカーバーグと議会で直接対決 188

●ニューズキュレイターによって操作されるニューズ 201

●トランプ当選で半狂乱になったグーグル社員がとった行動 206

●地球最大のニューズ配信装置となったビッグテック 212

●リベラル派の教育機関としてのビッグテック 224

第八章 新しい世界秩序 New World Order 227

●グローバル経済から最大の利益を上げる 230

●中国と結びついたビッグテック 237

●独占から利益を引き出す厚かましいやり口 239

●グローバライゼーションの勝者と敗者 249

第九章 不正操作されているワシントン Rigging Washington 253

●書き換えられた通信品位法第230条がビッグテックの楯となった 255

●ワシントンのエリートを使った強力なロビイング活動 261

●エリートの、エリートによる、エリートのための政府 267

第三部

第十章 私たち一人ひとりにできること What Each of Us Can Do 274

●子供たちにスマホを与えない決断 276

第十一章 新しい政治 A New Politics 286

●グーグルとフェイスブックは独占禁止法違反の容疑者 290

●「追跡をするな」という権利を我らに与えよ 300

●人々を依存状態にする機能を廃止させよ 304

●個人に訴訟する権利を与えよ 306

●アメリカの自治のシステムを回復させよ 308

訳者あとがき 310

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訳者あとがき

本書は、Josh Hawley, The Tyranny of Big TechRegnery Publishing, 2021)の邦訳だ。本書の英語での原題を直訳すれば、「ビッグテックの暴政(ぼうせい)」や「ビッグテックの暴力的支配」となる。しかし、邦題は『ビッグテック5社を解体せよ』とした。それは、著者であるホウリーが実際に使っている言葉であり、本書の内容を簡潔に表していると考えるからだ。

著者のジョシュ・ホウリーについて簡単に紹介する。ホウリーは1979年生まれの41歳。アーカンソー州生まれで生後すぐに父の仕事の関係でミズーリ州に転居した。子供の頃から成績優秀、大いに目立つ存在で、周囲の大人や友人たちは、「ジョシュは将来アメリカ大統領になるに違いない」と噂していたという。

ホウリーは1998年に西部カリフォルニア州の名門スタンフォード大学に進学した。大学を優秀な成績で卒業し、2003年にアイヴィーリーグの名門イェール大学法科大学院に進学した。在学中は、成績優秀者しかなれない学内誌の編集委員を務めた。2006年に法務博士号を取得し、弁護士(法曹)資格を得て、アメリカ合州国最高裁判所主席判事ジョン・ロバーツの事務官からキャリアを始めた。その後は弁護士事務所に勤務し、ミズーリ大学法科大学院准教授として教鞭(きょうべん)を執った。

2017年からミズーリ州司法長官を務めた。この時期に、ビッグテックの危険性を認識し、2017年11月、グーグルがミズーリ州の消費者保護法と独占禁止法に違反した容疑での捜査を開始した。2018年4月には、フェイスブックとケンブリッジ・アナリティカによるデータ取り扱いに関するスキャンダル(フェイスブックが収集した個人情報をケンブリッジ・アナリティカ2016年の大統領選挙に利用してドナルド・トランプ大統領当選に貢献した)を受け、フェイスブックの捜査を行った。このときに他の州の司法長官たちに一緒に戦おうと呼びかけたが誰も反応しなかった、と彼は本書の中で述懐している。

2018年の中間選挙でのミズーリ州連邦上院議員選挙で共和党の候補者となり、当時現職だった民主党の候補者を破り、連邦上院議員となった。ホウリーは当時のドナルド・トランプ大統領からの強力な支持を得た。これが初当選の後押しとなった。ホウリーは、連邦上院司法委員会の独占禁止法小委員会に所属し、「ビッグテック解体」に向けた超党派の包囲網の一員として活躍している。委員会では、ビッグテックの経営陣を召喚(しょうかん)し、不正行為などを厳しく追及している。

本書は大きく分けて三部構成となっている。第一部は第一章から第四章までで構成されている。第一部では、独占monopoly(モノポリー)の出現と繁栄の歴史を詳述している。1870年代から鉄道産業や石油産業を中心に、巨大企業による独占によって、「泥棒男爵」と呼ばれた資本家たち(代表的人物はジョン・P・モルガン)は莫大な富を蓄積した。それと同時に、資本家たちは独占を正当化するために、「大企業優先自由主義corporate liberalism(コーポレイト リベラリズム」というイデオロギーを生み出した。

こうして独占が正当化され、そうした動きに抗うことが難しくなっていく中で、独占に立ち向かったのが、ホウリーが傾倒しているセオドア・ルーズヴェルト大統領(第26代)だった。しかし、彼の闘いは失敗に終わった。

その後、ウッドロウ・ウィルソン大統領(第28代)が出現し、大企業優先自由主義を称賛し、「個人の自由とは個人的な生活の中に限定される。政治に参加する必要はない。また、物質的な豊かさを保証するのは政府と大企業の役割だ」という考えを定着させた。結果として、経済的に自立し、政治参加する普通の人々が力を持ち、統治する政治体制である共和政治体制が危機に瀕することになった。

アメリカの共和政治体制が危機に瀕したこの時期と、現代の状況が酷似(こくじ)しているということを著者であるホウリーは私たちに訴えている。彼がビッグテック解体を叫ぶのは、人々に損害を与える独占の解消ということももちろん理由にあるが、現状が続けば共和政治体制 republic(リパブリック)と民主政治体制democracy(デモクラシー)の護持(ごじ)が困難になるという危機感がその根底にある。

第二部は第五章から第九章までで構成されている。第二部では、ビッグテック各社が、アメリカ社会や経済、そしてアメリカの人々一人ひとりに、いかに損害を与えているかを、多くの具体的な事例を挙げて説明している。

「ツイッターやグーグル、フェイスブックは利用者に無料で使わせているが、どうやって利益を出しているのか」、「広告収入が大きいと聞いたことがあるけれど、どうなっているのか」という疑問を皆さん方も持たれたことがあると思う。第二部では、ビッグテックのビジネスのからくりと実態が明らかにされている。多くの方に自分のこととして、驚きといささかの不快感を読み取ってもらえるはずだ。

ビッグテック、特にソーシャルネットワーク・メディアのプラットフォームplatform(巨大窓口)の最大手フェイスブックのビジネスモデルとは、簡単に言えば、「利用者にプラットフォームを利用させて集めた個人データを断りもなく勝手に使って、より洗練された広告を行うことで、金(かね)に換えている。その副産物として、人々の精神に悪影響を与えている」ということになる。

ビッグテックの共通のモデルは次の通りだ。あらゆる種類の個人データを膨大に集め、それをアルゴリズムalgorithm(コンピュータの計算方式)に当てはめて、利用者よりも早く、その人が欲するものを導き出して、それに合った内容の投稿や記事、そして広告を表示する。その過程で、既存のマスメディアや小売業者に圧力をかけて記事や商品を提供させる。また、ビッグテック、特にフェイスブックは、個人データとアルゴリズムを使って、選挙の際に有権者の投票行動をコントロールしている。また、ビッグテックのプラットフォームが日常生活の中に浸透していき、人々、特に子供や若者たちの精神に悪影響(自殺やうつ症状の増大など)を与えている実態も詳細に紹介されている。

第三部は、第十章と第十一章で構成されている。第三部では、私たちはビッグテックからの悪影響からいかにして自分たちを守るか、そして、アメリカの共和政治体制と民主政治体制をいかに守るか、修復していくかということが書かれている。ホウリーが家族で行っている取り組みは私たちの参考になる。その内容は、スマホやパソコンを一定の時間を決めて使わないこと、子供たちには携帯機器を使わせないで外で遊んだり、一緒に本を読んだりすること、家族や友人、ご近所との付き合いを大切にすることだ。ホウリーは「これこそがビッグテックとの戦いにとって重要な力になる」と述べている。

 ごく当たり前の簡単なことであり拍子抜けしてしまう。しかし、現代において、この当たり前で簡単なことを実行することが難しい。また、スマホやパソコンに何時間も触らないことも難しい。携帯機器に触らないと不安な気持ちになってしまう人も多いはずだ。これは、ビッグテックのプラットフォームや携帯機器が私たちの生活に深く浸透していることを示す証拠だ。本書の中に使われている表現を使えば、私たちは、体の中に溜まったビッグテックからの影響(毒素)を外に排出するために、断食をしなくてはいけない。

本書の校正作業中、「フェイスブックが社名をメタMetaに変更する」というニューズが飛び込んできた(2021年10月29日)。創業以来最大の逆風が吹き荒れる中で、名称変更と仮想空間へ軸足を移すことで危機(内部告発や広告収入の減少など)を乗り越えたいという意図があるとニューズ記事で解説されている。ホウリーをはじめとする政府や議会で形成された「ビッグテック解体」に向けた超党派の包囲網によって、フェイスブックは苦境に陥っている。

ホウリーは2024年の大統領選挙の共和党候補者予想に名前が挙がる人物だ。ある調査では、ドナルド・トランプ、マイク・ペンスに続いて3位につけるほど、知名度と人気が高まっている。ホウリーは共和党に所属しているが、大企業寄りの主流派・エスタブリッシュメントには与していない、トランプ支持派のポピュリストPopulistであることが分かる。

ポピュリズムPopulismとは悪い意味の言葉ではない。日本では大衆迎合政治などと訳されてマイナスイメージだが、本当はそうではない。機能不全に陥った、腐った中央政治に対しての、草の根の人々からの異議申し立て運動のことだ。彼を押し上げ、ワシントンに送り込んだのは、アメリカのごく普通の人々だ。

 ホウリーは「普通のアメリカ人が力を持ち、政治に参加して、共和国としてのアメリカの運命を決めよう」ということを主張している。ジョシュ・ホウリーはこれから、アメリカ政治で存在感を増していき、やがて大統領になるかもしれない。是非これからも注目していきたい楽しみな人物だ。

最後に師である副島隆彦(そえじまたかひこ)先生には、力強い推薦の言葉をいただいだ。また、本書の翻訳にあたり、徳間書店学芸編集部の力石幸一(ちからいしこういち)氏には大変お世話になった。記して深く感謝申し上げます。

 2021年11月

                           古村治彦(ふるむらはるひこ)

 

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独占禁止とビッグテックについて、バイデンは自身の中道派のルーツに戻らねばならない(On antitrust and big tech, Biden must return to his centrist roots

ダニエル・A・クレイン筆

2021年4月13日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/technology/547921-on-antitrust-and-big-tech-biden-must-return-to-his-centrist-roots

アメリカ合衆国大統領は、独占禁止法とビッグテックをめぐる激しさを待つ議論に介入できる、限定された権限を持っている。その中でも最も重要なのは、連邦取引委員会(FTC)と司法省反独占局(Justice Department Anti-trust Division)という反独占機関の責任者を指名することだ。バイデン大統領は既にこのオプションを実行している。連邦取引委員会委員長にリナ・カーンを指名し、同様の決定として、国家経済会議(NEC)の反独占の責任者(czar)にコロンビア大学のティム・ウー教授を指名した。

カーンとウーは独占禁止についての賢明な、そして実績を積んだ思想家である。それぞれ取引委員会委員長と大統領特別補佐官に選ばれたのは当然だ。しかし、両者は、反独占に関する新ブランダイス主義派出身であり、このグループについては民主党内部でも議論が起きている。バイデンが自分の政権の反独占政策の運命を新ブランダイス派に結びつけたいと思わないのなら、連邦取引委員会委員長や反独占担当司法次官補など他の重要な人事には、異なる哲学的方向性を持つ人物の起用を検討すべきだろう。

反独占の動きは、ビッグテック各社に対する追加訴訟を提起するかどうかから、法改正の可能性、基本的な目的に至るまで、あらゆることが問われる極めて重要な瞬間に立たされている。概して言えば、反独占に関しては大きく3つのグループが存在する。

一つ目の陣営は、実業界に好意的な保守派と呼びたい。このグループは、現在の反独占に関する諸政策と諸原理はほぼ正しく、反独占に関する劇的な変化は経済効率、消費者の福祉、技術革新、経済的自由、そして世界におけるアメリカの国益に脅威を与えるだろうと考えている。二つ目のグループは、改革志向の中道派と呼びたい。このグループは、反独占の動きは消費者の福祉と経済効率に集中すべきだという点で一つ目のグループに同意している。しかし、改革志向の中道派は、現行の反独占の法執行と法律上の諸原理は、独占と支配的な企業に対してあまりにも許容的だと考えている。改革志向の中道派は、政府や民間の原告が訴訟を起こしやすくすることで、独占禁止法の施行を再び活性化させようとしている。最後に、新ブランダイス主義者陣営は、独占禁止法の執行を再活性化することをやはり望んでいるが、消費者の福祉と経済効率の分離されない追求こそが問題の根っこにあると考えている。アメリカ最高裁判事を務めたルイス・ブランダイスの哲学である、巨大さの呪い(The Curse of Bigness)に従い、新ブランダイス主義者たちは、消費者の利益を明らかに脅かすかどうかにかかわらず、企業の支配に異議を唱えるために反独占の動きを展開したいと考える。

これら3つのグループについて興味深いことは、これらのグループの相違が党派の相違のラインに沿ってはいないということだ。政治的に右派の立場を取る人々の多く(彼ら自身は自分たちを新ブランダイス主義者と呼んではいない)は、社会的そして政治的発信についてのビッグテックの強力な支配を打破することといた社会的そして政治的な目的を達成するために独占禁止法を機動的に使用せよと訴えている。対照的に、政治的に左派の立場に立つ人の中には、ビッグテックと協力関係を持ち、過度に攻撃的に反独占政策を進めるとビッグテック製品に大きく依存している有権者たちからそっぽを向かれるのではないかという懸念を持っている人たちもいる。私は、ビッグテックを排除するとそこに力の空白が生まれて結果としてリベラルな政治観に対して共感を持たない企業がそれを埋めてしまうのではないかという懸念の声を多く耳にしている。

こうした政治的な複雑さを考えると、バイデンが新ブランダイス主義者たちとだけ協力するというのは賢い選択ではないということになる。彼が実業界に好意的な保守派を反独占に関する人事で起用することはないというのは明らかだ(選挙結果というのは影響力を持つ!)。しかし、反独占の動きの中に改革志向の中道派を入れることは考慮すべきだ。この結論を支持する2つの重要な理由が存在する。

一つ目の理由は、原理原則に関わることだ。反独占に関しては軌道修正(course correction)が必要だということは幅広いコンセンサスが得られている。しかし、完全な見直し(wholesale re-thiking)が必要だということは動揺のコンセンサスが得ら得ていると結論付けるのは時期尚早だ。新ブランダイス主義者たちが席を占めているのは明らかだが、改革志向の中道派にも席を与えられるべきだ。

二つ目の理由は現実的なものだ。新ブランダイス主義の立場がより広範な政治的な支持を得られるか全く不透明であり、このグループと政権があまりにも緊密な関係を持つことは政治的なリスクを伴うことになってしまう。ニューディール時代、ルーズヴェルト大統領は、独占禁止や競争、大企業について様々な見解を持つ人々を政権内に配置するという現実的な決断を下した。政治的な風向きや現場での事実の変化に応じて、様々な人々に責任者としての役割を求めた。もしバイデンが新ブランダイス主義者たちと感懐を深めれば、ルーズヴェルトのような選択肢は持てないことになる。

独占禁止に関する大きな決断がこれから待っている。ホワイトハウスは、柔軟に対応できるような形で人事を行うべきである。

※ダニエル・A・クレイン:ミシガン大学フレデリック・ポール・ファース記念講座教授

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 今回は、岸田文雄に関する優れた分析記事をご紹介する。筆者はトバイアス・ハリスで、ハリスはマサチューセッツ工科大学出身で、日本政治研究の泰斗リチャード・サミュエルズの下で勉強した人物だ。ジャパン・ハンドラーズの新世代ということにもなる。

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トバイアス・ハリス
 以下の論稿は、岸田文雄首相就任時に発表されたものだが、非常に優れた分析内容になっている。自民党内のタカ派とハト派、保守傍流と保守本流、安倍晋三と岸田文雄を対照的に描いている。自民党内に派閥(factions)があることは大人であれば誰でも知っているほどの常識であるが、その歴史や総意についてまでは知らないという人が多いだろう。
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 自民党内には保守本流と保守傍流と呼ばれる流れがあり、簡単に言えば、自民党結党時に、吉田茂の流れを汲む自由党系の池田勇人と佐藤栄作が率いる派閥が保守本流、鳩山一郎(のちに河野一郎)と岸信介など日本民主党系の政治家たちが率いた派閥が保守傍流ということになる。池田勇人の派閥が宏池会ということになる。保守本流がハト派、保守傍流がタカ派ということになる。現在の日本政治で言えば、安倍晋三元首相は保守傍流、岸田文雄首相は保守本流ということになる。
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 宏池会は加藤紘一が仕掛けた「加藤の乱」の失敗もあって分裂し、結果として、保守傍流の清和会の天下という状況になった。宏池会は厳しい時代を20年近く過ごすことになった。岸田文雄という次世代のプリンスを守り育てるために、ヴェテランたちが奮闘したということになる。

 簡単に言えば、これから宏池会の復活ということになっていくだろう。宏池会は分裂状態であるが、これを統一して保守傍流である清和会(安倍派)と対校していかねばならない。その際に重要なのは、同じ保守本流である旧田中派・旧竹下派である茂木派(将来は小渕派になる可能性が高い)との協力関係である。そのために、茂木敏充を自民党幹事長に据え、後任の外務大臣に林芳正(宏池会次世代のプリンスに浮上)を起用した意味は大きい。麻生派は河野洋平が作った派閥が源流であり、河野太郎が継承することが既定路線である。これから5年の間の自民党のエースとなるであろう人々は安倍派からは出てこない。福田達夫政調会長が安倍派のプリンスという位置づけになるだろう。しかし、安倍から福田への派閥の禅譲がスムーズに行われるかどうかは不透明だ。

 麻生派も源流をたどれば宏池会である。河野太郎へと派閥が禅譲され、河野派となった後は、安倍派との協力体制が継続するかどうか定かではない。河野太郎が2021年の総裁選挙に出馬した際には安倍晋三は高市早苗を支援した。その点を考えると、河野にとっては岸田の方が総裁選挙で戦った相手とは言いながら、近い関係を築きやすいだろう。

河野太郎は自民党広報本部長に起用されたことで、「降格人事」と評されたが、2021年の総選挙では積極的に日本各地で応援演説を行った。自民党の勝利への貢献は幹事長だった甘利明よりも大きかった。これによって河野太郎は多くの自民党政治家へ「恩を売った」形になり、かつ、足りないと言われていた自民党政治家たちとのコミュニケイションも行われたであろう。河野の広報本部長起用は降格人事ではなく、時宜を得た人事だった。

岸田文雄首相はなかなかの策士である。表面は柔らかく、「頼りない」という印象を述べる人も多い。しかし、保守本流復活と「寛容と忍耐」、日本型資本主義(再分配志向)をこれから行っていくだろう。

(貼り付けはじめ)

岸田文雄の様々な原理原則が試される局面に面している(Fumio Kishida’s Principles Are About to Be Put to the Test

-日本の新しい首相は右派によって支配されている政党の穏健な顔である。

トバイアス・ハリス筆

2021年10月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2021/10/04/fumio-kishida-new-japanese-prime-minister-ldp/

2017年8月、安倍晋三は首相としての二度目の任期の5年目を迎え、下落していた支持率を安定させるために、内閣改造(cabinet reshuffle)を行った。閣僚の交代が複数行われた中で、安倍首相は2012年12月から外相を務めていた岸田文雄を与党自由民主党の政策責任者(訳者註:総務会長)に起用した。

政府と与党との間で政策を調整する総務会長という新しい地位に就いた直後、岸田は、安倍内閣から離れてすぐに、安倍首相と距離を取ろうとするようになった。岸田は次のように発言した。「安倍首相と私は衆議院議員初当選が同じ同期であり、個人的には極めて近い関係にあります。しかしながら、私たちの政治家としての哲学や信念について簡単に申し上げると、安倍首相は保守派(conservative)、敢えて言えばタカ派(hawkish)となります。私はリベラル派(liberal)であり、ハト派(dovish)です」。

岸田は安倍とはこれからも緊密に協力していくことになるだろうと述べたが、それからの1年は2018年の自民党総裁選挙に出馬するかどうかを熟考する期間に充てた。これにより、自民党内で最もリベラルな派閥である宏池会のリーダー岸田と保守派の安倍が対決することになった。最終的には、岸田は総裁選挙には出馬せず、宏池会は安倍の再選を支持すると述べたことで、支援者たちを失望させた。

しかしながら、先週、岸田の順番が最終的にやって来た。岸田は、菅義偉首相に再選を諦めるように働きかけることに成功し、9月29日の総裁選挙では人気の高かった河野太郎を破り、圧倒的な強さで首相に就任した。10月4日には正式に首相に指名され、宏池会出身の首相は1993年以来のこととなった。

岸田はひとたび安倍に対抗して総裁選挙に出馬することを考えたが、彼の指導者としての成功は主要な問題について保守的な立場を取ることでもたらされた。日本の軍事力の増強、中国に対する強硬姿勢、憲法改正についてそうであった。これらが彼の勝利に貢献した。この変化は、岸田首相が元首相安倍晋三、麻生太郎の保守的な同盟者たちを自民党執行部と内閣の重要な地位に就けることで強化されるだろう。

このような妥協を、単なるご都合主義だと片付けてしまいたくなる。しかし、岸田の成功は、冷戦終結後からの自民党の右傾化に対して、自民党の穏健派がどのように折り合いをつけてきたかを物語っているのである。

冷戦期間中、自民党は、反共産主義(anti-communism)を中心とした党であり、分裂していた。自民党は2つのグループの事実上の停戦状態の産物であった。1つ目のグループは、いわゆる平和憲法を発布し、米国との不平等な安全保障同盟を受け入れ、ささやかな再軍備を支持した戦後の支配的な吉田茂首相の追随者たちであった。2つ目のグループは、吉田派に対する右派の批判者たちであった。その中には安倍晋三の祖父岸信介も含まれていた。岸は日本の再軍備を望み、より自律的な外交政策を追求した。

これら2つのグループに、後に田中角栄首相が糾合した3つ目のグループが加わった。このグループは、日本の経済的奇跡の果実を開発が進んでいない地方に再分配することに注力した。これらのグループは、時折は休戦をしながら激しく争った。

1990年代初頭で、こうした不安定な平和は崩れた。反共産主義はこれらのグループを結び付けるのりの役割を果たせなくなってしまった。政府高官や大物議員たちの汚職スキャンダルや「失われた10年」と呼ばれる経済停滞の始まりにより、党の信用は失墜し、自民党内からも改革を求める声が出てきた。その結果、自民党は分裂し、1993年には自民党の分派と伝統的な左翼野党を含む連立政権に一時的に敗北してしまった。

この混乱をきっかけとして、自民党右派が自民党の主導権の掌握を目指した。冷戦時代に「反主流派(anti-mainstream)」と呼ばれていた右派は、1990年代に登場した新進気鋭の政治家を中心に、日本を強くするための施策や国威発揚などを訴えて力を蓄えていった。

自民党右派は世紀を変わり目で優位を得た。それ以降、自民党右派は自民党を支配してきた。その締めくくりとして、安倍晋三は2012年から2020年まで首相を務め、「史上最長記録を残した。ひとたびは主流派から疎外された右派は主流派となった。そして、穏健派とリベラル派のライヴァルたちが反主流派となった。自民党内で何とか生き残っている状態になった。

岸田のキャリアは、彼が生まれ育った自民党内のリベラル派の長期的な衰退と完全に一致している。岸田は1957年に東京に生まれた。岸田家は広島で長い歴史を誇る一族だ。岸田文雄は岸田文武の長男として生まれた。岸田文武は強力な通商産業省の官僚だった。広島という土地は岸田の政治的アイデンティティにとって極めて重要だ。広島は日本の反軍国主義のシンボル的な拠点であるだけではなく、自民党のリベラル志向の中心地でもある。自民党リベラル派の派閥宏池会の創設者池田勇人は広島県の出身だった。

池田は1960年に首相に就任した。岸信介がアメリカとの新しい安全保障条約締結に邁進し、結果として激しい抗議活動が起き、彼の政権は崩壊した。その後を受けたのが池田だ。池田は、「寛容と忍耐(tolerance and patience)」 の政治を追求し、広範な経済成長に集中することで反応した。これらが池田率いる派閥宏池会の基盤の諸原理となった。

岸田家が自民党リベラル派の伝統に引き寄せられたのは、岸田文雄の父文武が官僚を辞めて政界に転じた1978年のことだった。文武は国会議員になるために広島から立候補した。彼は宏池会のメンバーだった。その他の経験も岸田の、公正さ、公平、平和を強調するリベラリズムへの傾倒を促すことになった。岸田文雄は、父文武が1960年代半ばにアメリカに派遣されたので、彼もアメリカに渡り、ニューヨーク市の公立小学校に入学して人種差別を経験した。父文武が1992年に死去し、岸田文雄は、父の出身地と所属派閥から、選挙に出馬し、宏池会に所属することは当然の成り行きであった。

1993年に岸田は衆議院議員に初当選したが、これは宮澤喜一政権の終焉と共に起きた。宮澤喜一は岸田にとって父方の親戚にあたる。そして、宮沢は岸田が首相になるまで、宏池会出身の最後の首相となった。

その間の数十年間、派閥は何度も衰退し、分裂した。その中には、2000年に、宏池会の指導者が不人気な右派の首相である森喜朗を追い落とそうとしたが、失敗に終わったことも含まれている。岸田は若手代議士としてこの反乱を支持した。派閥が崩壊し、指導者が影響力を失うのを目の当たりにして、右翼の台頭に直接立ち向かうことが不幸な結果を招くことを学んだ。

その代わりに、岸田はスポットライトから外れて経験と専門性を静かに獲得した。一方、岸田と同期当選の安倍は自民党の最高権力レヴェルを争った。岸田は自民党内の下級の職務を経て、2007年の第一次安倍政権の末期に初入閣を果たした。その間に、リベラル派の議員たちと一緒に分裂した宏池会の再結集に取り組んだ。

この期間中、岸田は、保守右派が支配する自民党の中で、リベラル派が果たすべき役割を明確にしようとしていた。岸田にとって、自民党内のリベラリズムは根本的に政治スタイルについてのもので、政策についてではなかった。岸田は彼自身の派閥宏池会の歴史を踏まえた上で、どのような役割を果たすことができるかというビジョンを示している。

第一に、岸田は、自分の政治上の先輩たちが何よりもリアリストであったと主張した。岸田は2015年の国会討論の中で、次のように述べた。「このグループの人々の特性の一つは、戦後政治の中で、特定のイデオロギーや主義主張にとらわれず、極めて現実的に物事を考え、リアリズムに基づいて政策を立案したことだ」。宏池会が主張してきた軽武装の日本が米国と同盟を結び、軍事力よりも経済成長への投資を優先させるという政策は、特定の状況への対応であり、永遠の真実ではないということだ。適切な政策は時間の経過とともに変化し、変化すべきだということになる。

第二に、岸田は、自民党のリベラル派はバランスを取る勢力となるべきだと主張した。例えば、2005年に彼の支持者に宛てた新年の書簡の中で、岸田は「強力な指導力、アメリカ中心の外交、そしてタカ派を新たに協調していること」といった自民党右派の政策だと言及している。しかし、「それぞれの意義を否定するものではないが、バランスが大切だと考えている」と注意を促している。岸田は、自民党保守派が政治的な現実を見失わないようにするためには、自民党リベラル派が必要だと考えていた。

最後に、岸田によると、日本の指導者たちは謙虚に行動しなければならないということだ。自分たちの権力を濫用しないように気を付け、考えが違う人々の考えを受け入れるべきで、一般の人々の同意を取り付けるようにしなければならない。自民党総裁選挙の選挙運動の期間中、彼は、全ては「聞くこと」に尽きると主張した。「人の話に耳を傾けることが、信頼の原点だと思う。私は他の誰よりも菊能力が持っていると考える」と語った。岸田の信念は安倍とは対照的だ。例えば、安倍首相は政策に反対されると、「なぜ自分のやり方が最も良いのか、もう一度説明しなければならない」と強調するが、それとは対照的だ。

最終的に、岸田はこれらの原則なくして日本が直面する深刻な課題を克服することはできないと考えている。岸田は2020年に次のように書いている。「私たちの未来には、想像を絶するような混乱と国家的危機が待ち受けている。そういう時代だからこそ、徹底したリアリズムとバランス感覚が強く求められる。それには、国民の協力が不可欠だ。そして、政治への信頼を回復することなしに、国民に協力を求めることはできない」。

岸田にとって、これらの信念は、自民党右派と争うのではなく、右派と協力する方法を見つけることを正当化するものだった。しかし、安倍政権の外務大臣として政権内に穏健さをもたらしたことと、岸田自身が首相になることには、まったく別の課題がある。強固な保守派が率いる政権内における釣り合いを取るリベラル派という立場ではなくなり、岸田は今でも右派が支配している自民党の穏健派の顔となっている。

これによって、岸田の持つ諸原理が試されることになる。彼は、謙虚な政治スタイルへの志向と、保守派の同盟者たちからの要求との間で板挟みになる可能性がある。国防費、憲法改正、中台関係のバランスなど、いずれにしても、国民や自民党右派を政権から遠ざける可能性のある重大な決断を迫られることになるだろう。その時、自民党リベラル派が冷戦時代の名残なのか、それとも激動の未来に向けて日本を導く重要な役割を担っているのかを、岸田は示すことになるだろう。

※トバイアス・ハリスはセンター・フォ・アメリカン・プログレス上級研究員。『因襲破壊者-安倍晋三と新しい日本(The Iconoclast: Shinzo Abe and the New Japan)』の著者。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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