古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2022年01月

 古村治彦です。

 現在、アメリカは対ロシア強硬姿勢を強めている。ウクライナを巡り、ロシアとアメリカは対立している。このブログでもご紹介しているが、ウクライナと対ロシア強硬姿勢という言葉が揃えば、出てくるのは「ヴィトリア・ヌーランド」という人名だ。ヌーランドについては、このブログでも何度もご紹介しているし、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で書いている通り、国務省序列第三位の政治担当国務次官を務めている。今回の対ロシア強硬姿勢のエスカレートの裏には、ヴィクトリア・ヌーランドがいる可能性が高い。彼女がシナリオを書いているかもしれない。これは大変危険なことだ。

 さて、以下の論稿にある通り、ウォルト教授はウクライナ問題について、ロシアとの衝突を避けるべきだという立場だ。アメリカ軍を派遣して、現地でロシア軍と衝突ということになれば愚の骨頂だ。ロシアはジョージ・ケナンが指摘したように、被害者意識を持ち、自分たちの国土を守るために、緩衝地帯を作ろうという考えを長年持っている。NATOが拡大して、やがてロシアの国境にまで迫ることを懸念し、嫌悪している。そのために、NATOを拡大させることは得策ではない。NATOを拡大させるならば、「ロシアを敵視しない」ということをロシアに納得させることが必要だが、それは難しい。なぜならば、NATO拡大の裏には、対露強硬姿勢の欧米の勢力がいるからだ。その代表格がヴィクトリア・ヌーランドということになる。

 また、『』の著者であるウォルト教授はイスラエルについても厳しい見方をしている。イランとの核開発合意を復活させること、もしイスラエルがイランに対して、攻撃を加えるという決定を下すのならば、アメリカの支援を期待すべきではない、ということを主張している。ウォルト教授は、核開発合意の破棄は、アメリカ国内のイスラエル・ロビーの力によってなされたものだと見ており、それはアメリカの国益に合致しないと考えている。これこそは、国際関係論におけるリアスとの考え方である。

 「内憂外患」という言葉がある。国内、国外に問題が山積しているという状態を意味する言葉だ。アメリカはまさに内憂外患の状態だ。個別の問題もあるが、アメリカ国内の問題は深刻な分断だ。その不満を逸らすために、外国の問題をフレームアップする。これはいつの時代にも行われてきたことだ。ロシアや中東の問題をことさらに大きくフレームアップするのは、アメリカ国内の問題が大いに深刻だからと言うことができる。

 私の個人的な見方では、ロシアをフレームアップすることで、相対的に中国へのアメリカの敵視が弱まっているように思われる。これが意図されたものだとすると、その設計者はジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官ではないかと思っている。米中の本格的な衝突は、世界のパワー・バランスを大きく変化させ、不安定さをより増大させることになる。それを避けるために、小さな問題をフレームアップしながらも、衝突は避けるという芸当を行おうとしているのではないかと思う。それはそれでリスクの高い行動だが、米露がお互いに「相手は本気で衝突する気がないだろう」と考えているうちは、まだマネイジメントができるかもしれない。しかし、偶発的ということはある。そうなれば、「想定外」のことが起きて、世界は不安定化する。そのことも念のため考慮しておかねばならない。

(貼り付けはじめ)

バイデンの2022年の外交政策やることリスト(Biden’s 2022 Foreign-Policy To-Do List

-アメリカ大統領ジョー・バイデンが今後1年間に準備すべき課題を予見する。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2021年12月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2021/12/28/bidens-2022-foreign-policy-to-do-list/

たとえ彼の政策が気に入らなくても、アメリカ大統領ジョー・バイデンの勇気には感心するはずだ。大統領執務室での最初の日、彼がどのように感じたか想像してみて欲しい。この国は世界規模の新型コロナウイルス感染拡大の渦中にあり、共和党の指導者たちのほとんどがいまだに非難することを拒んでいるクーデター(訳者註:2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件)の失敗を辛うじて乗り切った。2020年にバイデンが打ち負かしたライアー・イン・チーフ(訳者註:コマンダー・イン・チーフのもじり)は、正々堂々と負けたことを認めようとしない(そして今もそうだ)。国は勝ち目のない戦争に陥っており、そこからきれいに抜け出す方法はなかった。民主党は連邦議会でぎりぎりの差をつけて過半数を握っており、個々の連邦上院議員には判断力や誠実さをはるかに超えた影響力が与えられていた。さらに、地球上のすべての生命が依存している生態系は、深刻な異常事態に陥っている。

バイデンが直面した課題と配られたカードの貧弱さを考えれば、バイデンはそれほど悪い結果を出している訳ではない。しかし、外交政策におけるいくつかの真の成功にもかかわらず、2022年も彼に大きな安らぎを与えることはないだろう。新型コロナウイルスは依然として深刻な問題であり、アメリカの敵国はますます活発になり、アメリカの同盟諸国はますます分裂しているように見える。一方、かなりの割合のアメリカ人が、誤ったシナリオとでっち上げられた「事実」に満ちた別世界に住んでいる。

しかし、せっかくのホリデーシーズンなので、まずは明るい話題で、潜在的な火種を一つ取り除いてみよう。台湾問題は今後も米中関係を複雑にするだろうが、あえて言えば、2022年には台湾をめぐる深刻な危機や軍事的対立は起きないだろう。中国政府とアメリカ政府はともに、ここ数カ月、危機の温度を下げるために静かに努力し、エネルギー価格の低下や気候変動への懸念に対処するために積極的に協力している。台湾をめぐる対立は、米中両国のどちらにとっても今一番避けたい問題なのだ。

バイデンの外交チームは引き続き中国との長期的な競争に重点を置くだろうが、この問題に対する超党派のコンセンサスが生まれつつあり、それがアメリカを強化するための効果的な政策に反映されれば助けとなるだろう。(皆さんもご存じの通り:ビルド・バック・ベター法案がそうだ。)それでも、今後12カ月以内に事態が好転することはないだろう。というのも、2022年には、他のいくつかの問題が政権の受信トレイを埋め尽くすことになりそうだからである。

(1)ロシアとウクライナの問題。 西側諸国の一部の悲観論者とは異なり、私はロシアがウクライナ全土を征服するための大規模な侵攻を行うとは考えていない。ウクライナ全土を占領すれば、強力な経済制裁が発動され、NATOは東側諸国を軍事的に強化する(プーティン大統領はこれを望んでいない)だけでなく、モスクワは怒れる4300万人のウクライナ人を統治しなければならなくなるのだ。頑迷固陋なナショナリズムは旧ソ連帝国を崩壊させた原因の一つであり、このような勢力がウクライナを再統合しようとすれば、モスクワには到底負担しきれないほどの出費を強いることになる。

もしロシアが武力行使に踏み切った場合、表向きはウクライナ東部の親ロシア派を「支援」するための、より限定的な侵攻になると思われ、おそらくこれらの地域を守るための緩衝地帯も追加設定されるだろう。これは、プーティンがグルジア(ジョージア)、南オセチア、アブハジアなどで行った「凍結された紛争(frozen conflicts)」と同様であり、予想が異なことかもしれないが、比較的リスクの低い行動を取るというプーティンの傾向と一致するものだ。利害関係が小さくなるため、「限定的な目的」戦略は、欧米の強力で統一された反応を引き起こす可能性が低くなる。その過程で、プーティンがウクライナにどれだけの損害を与えようとするかが大きな問題だ。プーティンは「教訓を与える」(そして欧米に近づきすぎないよう周囲に警告する)誘惑に駆られるかもしれないが、ウクライナを罰することは、欧米の厳しい反応を招くリスクも高めることになる。

バイデンはここで勝ち目のない状況に陥っている。アメリカから遠く離れ、ロシアのすぐ隣にある地域で実際の銃撃戦を起こそうという気はさらさらないし、ウクライナ政府に更に武器を送っても、ロシアの限定的な進出を抑止できるほどパワー・バランスは傾かないだろう。しかし、対露強硬派は、この問題を解決するための外交的取引は、ネヴィル・チェンバレン的な最悪の宥和政策(appeasement)だと非難するだろう。

この魅力のない状況は、NATOの開放的な拡張がイデオロギー的には魅力的だが、戦略的には近視眼的(myopic)であることを思い起こさせる。NATOの拡張は、(1)「広大な平和地帯(vast zone of peace)」を作り出し、(2)ロシア政府が「NATO拡張は脅威ではない」というNATOの保証を容易に受け入れ、(3)NATOが行った、あるいは示唆した約束は決して守る必要がない、と支持者たちは無頓着に考えている。残念だが、この船は出港してしまった。バイデンとNATOが今直面している課題は、ロシアの脅迫に屈したように見せずにウクライナの独立を維持する方法を見つけ出すことだ。2014年当時、ウクライナの中立性について合意に達するのは、簡単とは言い難いが、まだ容易であっただろうが、今日の場合ははるかに困難であろう。

(2)イスラエルとイラン問題。あなたの名前がマイク・ポンペオ元アメリカ国務長官、ジョン・ボルトン元大統領国家安全保障問題担当補佐官ではなく、民主政治体制防衛財団(Foundation for Defense of Democracies)のようなタカ派ロビーで働いていないなら、イランとの共同包括行動計画(Joint Comprehensive Plan of ActionJCPOA)からの離脱というトランプの決断が過去50年間で最も間抜けな外交政策決定の一つであることをおそらく理解していることだろう。そしてこれが意味しているのは以下のようなことだ。イランは現在、トランプが一方的に協定を破棄しなければ保有していたであろう量よりも多くの高濃縮ウランを保有している。さらに多くの高性能遠心分離機が稼働し、より強硬な政府が誕生しているが、これらはトランプとポンペオの無分別な「最大限の圧力(maximum pressure)」作戦の結果だ。バイデンは大統領就任後、共同包括行動計画を復活させると公約したが、イスラエル・ロビーの力を尊重したためにその実現に逡巡してしまい、手遅れになるまで放置する結果となってしまった。

共同包括行動計画の下で、イランが核兵器1個を製造するために必要なウランを製造するためにかかる時間(breakout time)は1年以上であった。しかし、それが現在では数週間となっている可能性が高い。このような状況は、アメリカのこれまでの行動の結果である。しかし、アメリカまたはイスラエルがイランの核製造設備に対して軍事行動を起こすという話が再燃しているのは驚くに値しない。爆撃によってイランの核爆弾製造能力を破壊することはできない。せいぜい核爆弾製造を遅らせることができる程度であり、その期間もそこまで長くはない。この方法でイランを攻撃すれば、攻撃に対するより確実な抑止力を持ちたいというイラン側の欲求が強まり、イラン政府内の強硬派の立場が更に強くなり、最終的には核の「隠し持ち(latency)」の段階から、公然とした核武装国になるようにしようと、イラン政府全体が説得される結果に終わるだろう。

トランプの失敗のおかげで、今日の選択肢は魅力的なものではない。今後、イスラエルとアメリカ国内にいるイスラエル支持者たちは、2022年の1年間を使って、イスラエルの予防攻撃(preemptive strike)の可能性をほのめかし、実際にはイスラエルに代わりにアメリカにイランへの対処の負担を負わせようとすることは間違いないだろう。バイデンがそうした声を聞き入れず、「イランと戦争を始めたい国は自力でやるしかなく、アメリカの保護はあてにはできない」と明言することを期待する。このことが意味するのは、たとえバイデンがアジア地域や気候変動、新型コロナウイルス感染拡大に焦点を当て、中東にはあまり時間と関心を割かないようにしたいと思っても、中東を完全に無視することはできないだろう、ということである。

(3)信頼性についての懸念。バイデンはまた、アメリカの信頼性について問題にどう対処するかを考えなければならないが、まずその問題が何であるか、その内容を正確に理解する必要がある。世間で言われているのとは逆に、これはバイデンが意志薄弱であるとか、アフガニスタンの撤退が予想以上に混沌としていた、という問題ではない。私や他の人々が繰り返し主張してきたように、関与(commitments)とは、潜在的な挑戦者たちが、大国が特定の問題や地域を守ることに明確な利益を持ち、攻撃者に大きなコストを課す能力があることを認識したときに、最も信頼できるものになる。利害関係が重要でない場合、あるいは必要な能力が欠けている場合、瀬戸際やそれ以上の場所に行く意思があることを相手に納得させるのははるかに難しい。

今日、アメリカが信頼性の問題を抱えているのは、主に2つの理由がある。第一に、アメリカは過度の関与を行っていることで、安全保障関連対応を全て同時に履行することは困難であるということである。理論的には、この問題を解決するために、自国が攻撃を受ける度に激しく抵抗し、将来の攻撃を阻止することが考えられるが、時間が経つにつれ、この方法は資源と政治的意志を消耗する。このため、現在のアメリカの信頼性は、バイデンが無抵抗だからではなく、国全体が無意味な戦争にうんざりしているからやや低いということになる。そして、戦争に疲れているのは、その信頼性を保つために愚かな戦争をし続けたからでもある。 こうして、誰かがこれらの紛争を終わらせようとするたびに「宥和は駄目だ」と叫んだタカ派は、結局、彼らが解決したいと主張する問題そのものを悪化させることになったのだ。

第二に、今日のアメリカの信頼性は、特定の国際情勢への対応と同様に、国内の分極化と政治的機能不全によって損なわれている。次の大統領が急変して反対方向に向かうかもしれないのに、なぜ他国はアメリカの政策に合わせる必要があるのか。予算編成や新型コロナウイルス感染拡大の管理、必要なインフラ整備に苦労している国と、なぜコストのかかる計画を調整する必要があるのか。物事を効果的に成し遂げるアメリカの基本的な能力に対する信頼が薄れれば、アメリカの信頼性が損なわれるのは必然である。たとえ意志があったとしても、約束を果たすことができると他国を説得することも重要である。

(4)次の人道上の危機。次の人道上の危機がどこで発生するかわからない。アフガニスタンか?ベネズエラか?ミャンマーか?レバノンか?しかし、環境的な圧力、根強い暴力、経済的な崩壊が重なれば、過去の悲劇と頑強な新型コロナウイルス感染拡大に疲弊した国際社会にとって、新たな悲劇を引き起こす可能性がある。このような事態が発生した場合、大統領にとって最も希少な資源である「時間」が直ちに消費されてしまう。もし私がバイデンに助言するならば、予想外の事態に対処するために少し余裕を持っておくように言うだろう。彼はそれを必要とするだろう。

(5)優先順位を決め、それらを守ること。このようなリストを作成していると、エチオピアの内戦拡大、進行中の移民・難民危機、マクロ経済崩壊の可能性、環境災害など、項目を追加するのは容易だ。従って、アメリカの外交政策を担う人々にとって、2022年の最後の課題は、最新の危機に巻き込まれないようにすることであろう。この問題が勃発すれば(上記の第四点を参照のこと)、バイデンと外交政策チームは、現地の従属国、資金力のあるロビー団体、熱心なジャーナリスト、人権活動家、企業利益団体、その他大勢から、今日のホットスポットを大統領の優先リストに加えるよう容赦ない圧力を受けることになるであろう。「アメリカは復活した」ということを証明したいバイデン政権は、こうした圧力に特に弱く、予期せぬ出来事によって政権の軌道が狂う危険性が高くなる。そうなれば、「やりすぎて、そのほとんどを失敗してしまった」最近の政権の長いリストに加わることになる。

ここで、悪いニュースを一つ。2022年を前にして、私は上記のどの問題も、アメリカの将来、そして今世紀の残りの期間におけるアメリカ人の生活にとって、アメリカが国内で直面している課題ほど重要であるとは思えない。私の教え子であるバーバラ・ウォルターのように、内戦が起きる可能性について真剣に研究している人たちは、アメリカの現状と軌道が、数年前までは想像もできなかったような内戦の危険性を現実のものとすると警告を発している。たとえ大規模な暴力事件が起こらないとしても、次々と選挙が争われ、「人々に選ばれた(elected)」政府は民意を代表せず、広く正当性を欠き、政府機関はますます基本的機能を効果的に果たせなくなることは容易に想像がつくだろう。基本的な自由とアメリカ人の生活の質を脅かすだけでなく、このような国内分裂は、効果的な外交政策を行うことをほとんど不可能にし、アメリカの衰退を加速させるだろう。

これまで述べてきた様々な理由から、2022年のバイデンの主な課題は、就任の宣誓をしたときから変わっていない。アメリカが世界の舞台で成功するためには、その民主政治体制の根幹を蝕んでいる党派的狂騒(partisan insanity)を終わらせねばならない。端的に言って、この目標を達成することは、現時点では誰の手にも負えないことかもしれない。更に率直に言えば、この大混乱を止めるには、大規模でかつ困難な憲法改正しかないと私は確信している。しかし、大規模な改革は、現在の政治秩序の反民主的な特徴から利益を得ている共和党を筆頭とするグループから激しい抵抗を受けることは間違いない。

ということで、皆さん、良いお年をお迎えください。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト兼ハーヴァード大学ロバート・レニー・ベルファー記念国際関係論教授

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(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 ジョー・バイデン大統領の支持率が低迷しているということはこのブログでも何度もご紹介した。今年の中間選挙では民主党が連邦上下両院での過半数を失うのではないかという見通しもご紹介している。また、2024年の大統領選挙については「トランプが出馬してくるのではないか、そうなるとバイデンでは勝てない」という考えが広がっている。

ヒラリー・クリントンが色気を出してきて、「自分が読むはずだった2016年大統領選挙の勝利演説」を読むという前代未聞の、錯乱しているとしか思えない行動をし、『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニストであるトーマス・フリードマンは「バイデンが大統領候補となり、副大統領候補には共和党のリズ・チェイニー連邦下院議員がなるべきだ」などと馬鹿なことを言い出している。このこともブログでご紹介した。皆口をそろえて異口同音に、「民主政治体制(デモクラシー)の危機だ」などと言っているが、自分たちがデモクラシーの破壊を行っていることに気付かない。

 それもこれもバイデンの支持率が低迷していることが原因であるが、それでは、どうしてバイデンの支持率が低迷しているのか、ということになるが、それを以下の記事では、「バイデンができないことを過度に約束してしまい、現実にはできていないことばかりで、人々の期待を裏切っている。人々はバイデンについて物足らないと思っている」と分析している。

 ドナルド・トランプ前大統領時代に始まった新型コロナウイルス感染拡大について、すぐに求められるかのような幻想を人々に与えて当選してみたものの、結果は期待外れであった。経済面で言えば、現在アメリカは高いインフレーション率に苦しんでいる。国内での不満を外に逸らすというこれまで多くの国家が採用してきた常套手段をバイデン政権も使い、人々の不満を対ロシアとの戦争直前までの緊張関係に向けさせようとしている。本当にぶつかる前に寸止めで終わらせようとしているのかもしれないが、突発的、偶発的に何かが起きれば、制御不可能な状態になることも考えられる。

 お膝元の民主党内部の対立も激しく、せっかく上下両院で過半数を握っているうちに目玉法案のビルド・バック・ベター法案を可決させたいと思っていたら、民主党内から反対者(ジョー・マンチン連邦上院議員)が出たために、先行きは不透明になっている。バイデンの置かれている状況は厳しさを増すばかりだ。

 2024年まで彼自身の健康状態が持つのかどうかということも含めて、これから注目していかねばならない。

(貼り付けはじめ)

バイデンの過度に約束した問題(The Memo: Biden's overpromising problem

ナイオール・スタンジ筆

2022年1月12日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/589478-the-memo-bidens-overpromising-problem

バイデン大統領が抱える問題は、一つの大きな問題に集約されつつある。それは、彼が実際に達成したこと以上のことを約束してしまったという人々の認識だ。

バーニー・サンダース上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)のような左派が、バイデンはフランクリン・デラノ・ルーズヴェルト以来最も進歩的な大統領になるだろうと予測した時期もあったが、それはとうに過ぎ去ってしまったようだ。

バイデン自身が、6ヶ月前に新型コロナウイルス感染拡大を打ち負かす寸前まで来ていると主張したが、これもまた全くの時代錯誤に聞こえるようになってしまった。

マサチューセッツ大学アマースト校・YouGovが火曜日に発表した共同世論調査の結果では、成人の55%がバイデンについて「期待以下だ」と感じているということだった。2021年4月の段階での調査の数字36%から上昇している。

状況が好転する気配は全くない。バイデンが掲げる最優先課題は困難に陥っている。いや、もっと悪い状況になっている。

この数十年の間で最大の社会的セーフティネットの拡充を実現しようとするバイデンの努力は、Build Back Better計画として示されているが、この計画は何とか命脈を保っているという厳しい状況にある。最終的にビルド・バック・ベター法案が通ったとしても、かつて想定されていたものよりはるかに小規模なものになるだろう。

デルタ変異株とオミクロン変異株に出現によって、新型コロナウイルスは打ち負かされつつあるという考えは現在消え去ってしまった。

これまでバイデン政権を擁護する傾向にあった論客たちも、検査やマスクのガイドライン、コミュニケーション戦略に対する行政のアプローチに批判的な見方を示し始めている。火曜日には、アンソニー・ファウチが、「ほぼ全ての人が」いずれコロナウイルスに感染すると予測した。

バイデンは投票権補償法案を守ろうとする動きを見せているが、多くの民主党所属の連邦議員たちは、バイデンが戦う意志を示しているだけで、成功のための現実的な戦略を練っている訳ではないのではと疑っている。

投票券保護活動を行っている活動家たちの多くは、火曜日にアトランタで行われたバイデンの大規模な演説に出席することを拒絶した。拒絶した活動家の中で最も注目されているのは、ジョージア州知事選挙候補者ステイシー・エイブラムスだ。彼女はスケジュールの都合を理由にして欠席した。

民主党の支持層の多くは、気候変動や警察改革など、他の重要な目標もないがしろにされていると感じている。気候変動は活動家が望むほど広範囲に及んでおらず、警察改革については可能性が全くなくなってしまったように見える。

これらを総合すると、進歩主義的な政治家たちと支持者たちは苦悩し、一般国民はバイデンに幻滅している。この結果は驚くにはあたらないだろう。

サンダースは最近の『ガーディアン』紙とのインタビューで、「重要な軌道修正」を呼びかけ、民主党が「労働者階級に背を向けている」と非難した。

今週初め、コーリー・ブッシュ連邦下院議員(モンタナ州選出、民主党)は本誌の取材に対して次のように述べた。「選挙に勝つということは、見栄えを良くすることではない。善良であり正直であることだ。進むべき道は、痛みが存在しないふりをするのではなく、国中で人々が感じている痛みに対処する政策を実際に制定することだ」。

著名な公民権運動家であるジョネッタ・エルジーは、バイデンの投票権に関する取り組みは「確実に遅れている」、もっと前から「最優先事項」として認められるべきだった、と本誌に述べている。

より広い視野で見ると、バイデンは、連邦上院議員時代30年間に特徴的だった穏健な漸進主義に回帰している、とエルジーは評した。これは、2020年の民主党予備選の過程で左派がバイデンを非常に警戒したのと同様だ。

エルジーは、2020年大統領選挙に向けて、バイデンは「実際よりも進歩的であるということを示すある種のパフォーマンス」を行ったと主張した。穏健派のバイデンに戻っただけで、進歩的な政策はその変わり身の完全に道連れになりそうだ、と述べた。

人々が持つそういう感情は、大統領にとって大きな問題だ。

中間選挙まであと10ヶ月となった。バイデンは、支持率が低迷していること、新大統領の政党が最初の中間選挙で議席を失うという強力な歴史的傾向があることを考えると、厳しい逆風に直面している。

そのような運命を避けるために、あるいは民主党の敗北を破滅的でないレベルに抑えるために、バイデンは何とかして一般国民を味方につけ、彼の基盤を活性化させ続ける必要がある。

若者向けの進歩主義的な団体であるサンライズ・ムーヴメントの全国広報担当者ジョン・ポール・メヒアは、「もし民主党が、“私たちは努力しました、もう一度努力するから私たちに投票して下さい”というメッセージで中間選挙に臨んだら、彼らは負けるだろう」と述べた。若者向けの進歩主義的な団体であるサンライズ・ムーヴメントの全国広報担当者であるジョン・ポール・メヒアは、「民主党はこれから、アメリカ国民の多数派に本当に約束を果たすことができることを示す責任がある」と述べた。

ホワイトハウスは、これらの批判に対して精力的に反撃している。

ここ数週間、ホワイトハウスのロン・クレイン首席補佐官やジェン・サキ報道官などの側近の補佐官たちは、バイデンの大統領就任1年目に600万以上の雇用を創出したことを含む経済実績を強調してきた。

バイデン政権擁護派はまた、バイデンの2つの大きな立法成果である、昨年3月に可決された新型コロナウイルス感染救済法案と11月に可決されたインフラ法案は重要だと主張している。

前者は何百万人ものアメリカ人に必要な救済を提供し、後者はここ数十年で最も大規模な投資であり、これらを合わせると約3兆ドル規模にもなる。

しかし、問題はバイデンが何もしていないことではない。彼に投票した人々の多くが、もっと多くのことを望んでおり、その期待を彼自身の言葉で裏切ってしまったことが問題だ。

投票権に関する法案について、このパターン(期待を裏切る)を再現する危険性が高そうだ。

バイデンはアトランタでの演説で、連邦上院のフィリバスター(議事妨害)に対する阻止行動を支持した。また、南北戦争や1950年代から1960年代にかけての人種差別との戦いなど、過去の世代の画期的な闘争と法案をめぐる闘争を比較した。

しかし、民主党の主要な連邦上院議員たちは、阻止行動の可能性は低いと考えられる。ジョー・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出、民主党)とカーステン・シネマ連邦上院議員(アリゾナ州選出、民主党)は、フィリバスター改革への反対から離脱することを示す公のサインは出していない。

投票権法案の進行は混迷を深めている。

「バイデンは交渉まとめ役として立候補したが、これまでのところ、彼がやったことは、自分の計画のために、持っていた影響力を低下させることだけだ」とメヒアは述べている。

中道派の民主党議員たちは、このような批判は不当であり、バイデンが議会のわずかなリードを保っている多数派に関して、数学の法則に逆らうことができるという考えを前提にしていると主張する。

しかし、公平であろうとなかろうと、「バイデンは物足りない」という疑念が忍び寄ることは、政治的に致命的な結果を招きかねない。

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(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 今年2022年はアメリカでは中間選挙(連邦上院の一部・連邦下院の全議席・州知事の一部)が実施される。ジョー・バイデン政権と民主党が過半数を握っている上下両院の仕事ぶりに対する、「中間試験」が実施される。現在のところ、民主党が上下両院で過半数を失う見通しとなっている。バイデン大統領の仕事ぶりに対しては、低い支持率となっている。

 2024年には大統領選挙が実施される。現在のバイデン大統領の低支持率のため、「2024年大統領選挙にバイデンは出られない、バイデンは出るべきではない」という考えが広まっている。そうした中で、2024年の大統領選挙で、「ヒラリー・クリントンが出るべきだ」という声も上がっているようだ。また、「バイデンが出るならば共和党のリズ・チェイニーを副大統領にして超党派の政権を目指すべきだ」「とりあえず民主党と共和党の連合政権を目指すべきだ」という考えが出ている。以下の記事にあるように、『ニューヨーク・タイムズ』紙の著名なコラムニストであるトーマス・フリードマンがこのような考えを述べている。

 二大政党制であるアメリカで、民主党と共和党が連合を組んだら誰と戦うのかということが問題になる。第三党もあるにはあるが、その勢力は吹けば飛ぶようなものだ。民主党と共和党が連合政府となれば実質的には一党独裁と変わらない。トーマス・フリードマンはそこまでおかしくなっているのかと驚くばかりだ。
joebidenlizcheney505

リズ・チェイニーとグータッチをするバイデン
 しかし、トランプ対反トランプということならば戦いになる。ポピュリズム対エスタブリッシュメントとの戦いとも言い換えることができる。しかしそうなれば、現在の民主、共和の二大政党制の枠組みは変更しなければおかしなことになる。「人民の生活が一番党(America First Party)」対「ワシントンのエスタブリッシュメントが一番党(Washington DC First Party)」とでもしなければならない。

 「バイデンでは勝てない」「トランプが再び出てきて勝利してしまう」という恐怖感が、民主党内を支配しているようだ。今年の中間選挙において上下両院で民主党が過半数を失えば、政権運営はますます厳しくなるばかりで、バイデンの年齢も考えると2024年の大統領選挙は別の人でということになるのは自然だ。しかし、副大統領であるカマラ・ハリスの評価も低いままということになると、「ここはやっぱりヒラリーで」という考えが出てくる。しかし、それは時計の針を強引に戻すようなものだ。

 そこで出てくるのが「トランプの当選を阻止する」ということに主眼を置いた、ワシントンDCのエスタブリッシュメント連合である「民主党のバイデン大統領と共和党のリズ・チェイニー副大統領」の超党派政権の発足ということだ。リズ・チェイニーが反トランプの旗頭であることはこのブログでも再三ご紹介した。「民主政治体制を守るため」と言いながら、このような民主政治体制を愚弄するような馬鹿げた考えが出てくるというのは、アメリカの断末魔を聞いているかのようだ。

 そして、ドナルド・トランプ前大統領の影響力の大きさに驚くばかりだ。中間選挙での共和党側議員たちの構成もどうなるのか、という点にも注目していかねばならない。

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ヒラリーが2024年に?戦いということを考えるならば、ヒラリーが民主党側にとって最高の希望ということになるかもしれない(Hillary 2024? Given the competition, she may be the Dems' best hope

ジョー・コンチャ筆

2021年12月15日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/campaign/585843-hillary-2024-given-the-competition-she-may-be-the-dems-best-hope

来たる2024年に行われるホワイトハウスの主の座をめぐるレースは再戦という形になる可能性がある。しかし、私たちは「バイデン対トランプ・ラウンド2」について話しているのではない(なんてことだ)。

そうではなくて、2016年の大統領選挙民主党候補だったヒラリー・クリントンが、80代になるジョー・バイデン大統領が2期目を目指さないことを決めた場合、有力な候補者を探さなければならないが、その選考の過程で興味深い存在となる。このように考えられる理由は何か?IアンドITIPPによる世論調査の結果によると、バイデンに2期目も大統領を務めて欲しいと考える有権者は22%しかいなかった。民主党支持者に限って言えば、バイデン大統領の2期目に向けた出馬を望む有権者はわずか36%で、「他の誰か」と名付けられた、ある大物候補は44%の支持を得て1位になっている。

民主党のベンチは、最近のニューヨーク・ジェッツ並に厳しい状況になっている。カマラ・ハリス副大統領はどうだろうか?USAトゥディ紙の世論調査によると、彼女の支持率は28%だった。アンドリュー・クオモ前ニューヨーク州知事はどうだろうか?彼はもう知事の座から追い落とされ、徹底的に痛めつけられた。ギャビン・ニューサム州知事(カリフォルニア州選出、民主党)はどうだろうか?彼は今年(2021年)初めにリコール選挙の対象となり、民主党が圧倒的に優位なカリフォルニア州で州知事の座から追放されるのを避けるために、多くの時間と資源を選挙対策に費やさなければならなかった。

ピート・ブティジェッジ運輸長官はどうだろうか?40歳になったばかりで、政治家としての経歴における知識と経験不足が指摘されている。バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、民主党)はどうだろうか?エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)はどうだろうか?コーリー・ブッカー連邦上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)はどうだろうか?

こうした人々が選択肢の中に入るのなら、ヒラリーが入らないということがあるだろうか?ヒラリーは現在74歳だ。バイデンに比べれば、まるで若返りの泉に浸かっているようなものだ。そして彼女は、5年経った今でも、実際にドナルド・トランプに負けたことに呆然としている。実際、ヒラリーは自分が負けた理由や、どうせ選挙はトランプとロシアに盗まれたのだ、とずっとぶつぶつと文句を言っている。この敗北を素直に受け入れていない点ではヒラリーとトランプと変わらないようだ。このような発言はトランプにとっては受け入れがたいのだが、ヒラリー(あるいはステイシー・エイブラムス)がやればOKなのだ。不公平な感じであるが、ルールはルールだ。

トランプがホワイトハウスを奪還する可能性について、ヒラリー・クリントンは最近になって次のような警告を発した。「私たちは、これらの嘘や虚偽情報、法の支配や制度を弱体化させる組織的な努力に屈するのか、それとも立ち向かうのか?」。

そうなのだ、これは現実的な可能性を持っているのだ。最近実施された複数の世論調査の結果によると、「2024年の大統領選挙でトランプ対バイデンとなったらどちらを支持するか?」という仮説的な質問について、トランプがバイデンを上回っている。昨年(2020年)のアメリカ大統領選挙で民主党候補者だったジョー・バイデンがアメリカ史上最多の得票数8100万票をかくとくしたことを考えると、この結果は驚くべきものだ。

ヒラリーが2024年大統領選挙に出馬するかもしれない可能性を示すもう一つの兆候は、2016年に読むはずだった勝利演説を読むという彼女の奇妙な決定の形で現れている。これは「マスタークラス」というヴィデオ配信の一部で行われた。それは、読者である皆さん方が今までに見たこともないような、最もぞっとするようなものだった。

元大統領夫人(ファーストレディ)、連邦上院議員、国務長官を務め、民主党大統領選挙候補となった人物が、選挙の敗北演説を読んだ。もちろん、もし私が『ニューヨーク・タイムズ』紙から85%の確率で当選すると言われた選挙で、一度も公職に就いたことのない人物に負けたとしたら、私だって納得して受け入れられないだろう。

しかし、いずれは、5年以上経ったヒラリーが、気品を示すと思う人もいるだろう。謙虚さとある程度の成熟を示すことになるだろうと。そして、もうこのことについて頻繁に話すことはないだろう。

その代わりに、ヒラリーはまだ前面に立っている。5年前に読むはずだった勝利演説を読む敗北候補、それがヒラリーだ。敗北した大統領選挙候補がこんなことをしたことがあるのかと聞かれたら 答えはノーだ。

2016年大統領選挙以来、ヒラリーは、女性差別、性差別、有権者ID法、バーニー・サンダース、前FBI長官ジェームズ・コミー、マット・ラウアー、その他数十の要因とともに、敗因を非難している。(彼女はウィスコンシン州での選挙活動を怠ったことや、“私は彼女と共にある(I'm With Her)”が掴み所のない選挙スローガンであったことは取り上げていない)

ヒラリーの行動は、白昼公の場所で5年間公開セラピーを続けているようなものだ。そして、まともな世界なら、こんな演説を読んだ彼女は失笑されたことだろう。しかし、これはむしろ、クリントンというブランドに対する欲求がまだあるかどうかを確かめるための試運転のように感じられた。

カマラ・ハリスはバイデンのプランBとなるはずだった。彼女は我が国の歴史上初の女性大統領になるよう仕向けられるはずだった。しかし、ハリス副大統領にとってはうまくいっていない。ハリスは既に、世論調査の支持率の数字が低いおかげで、政府高官たちが驚くべき速さで離反している。

ヒラリー・クリントンは、「女性初の大統領」という称号が自分にとって生まれながらの権利であると常に考えていたようだ。そして、ジョー・バイデンが出馬するかどうかにかかわらず、民主党側の人材がいかに哀れであるかを考えると、彼女は、夫があれほど威信を傷つけた米国大統領職を勝ち取るための2度目のチャンスを得ることができるかもしれないのだ。

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ヒラリー・クリントンが2024年大統領選挙でトランプが再び出馬するだろうと予測(Clinton predicts Trump will run again in 2024

マウリーン・ブレスリン筆

2021年12月13日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/media/585518-clinton-predicts-trump-will-run-again-in-2024

元米国国務長官で2016年大統領選挙民主党候補だったヒラリー・クリントンは、トランプ前大統領が2024年にもう一度大統領の座を狙うとの見方を示し、彼が再び当選した場合、アメリカの民主政治体制の「終焉を迎える可能性がある」と述べた。

クリントンは、NBCのテレビ番組「サンデー・トゥデイ」で放送された、NBCのウィリー・ガイストとのインタビューでこのように述べ、更に「私は賭け事はしないのだが、もし賭け事をする人間ならば、現在の時点では、トランプが再出馬すると言うだろう」とも述べた。

ヒラリーは更に「トランプが準備をしているように見える。そして、彼がこれまで起こしたことの責任を取らないとなれば、また同じことを繰り返すことになる」とも述べた。

ヒラリーはまた、共和党がトランプという「煽動政治家(デマゴーグ)」に乗っ取られていると批判し、彼女の元同僚である共和党議員たちが「選挙に通って議員を続けるために、自分たちの信念を壁にかけてしまっている」と述べた。 "オフィスに入るときに背骨を壁に掛けている

ヒラリー・クリントンは、トランプが再び大統領になる場合、それは民主政治体制にとっての重要な「分岐点」となるだろうと予測した。

ヒラリーは次のように述べた。「民主政治体制の終焉になるだろうと考えている。あまり過激なことを言うつもりはないが、今が分岐点になり得ることを理解してもらいたい。もし、トランプ自身や彼のような人物が再び大統領に選ばれ、彼の言いなりになる議会を持ったとしたら、皆さんはそれがアメリカ、私たちの国だなどとは考えないだろう」。

ヒラリーは、2016年の大統領選挙で敗北を喫したことについて「責任と罪悪感を持つ瞬間があった」とも述べた。

ヒラリーは次のように語った。「私は人々に警告を発しようとしていた。これは本当に危険なことなのだと訴えようとした。トランプが同盟を結んでいる人たち、彼らが言っていること、彼がするかもしれないことは本当に危険なのだと。ジム・コミーと大統領選挙の10日前に彼が行った決定がなければ、私は勝利していただろうと今でも考えている」。

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ヒラリー・クリントンが2016年大統領選挙で読むはずだった勝利演説を初めて公の場で読み上げる(Hillary Clinton publicly reads her 2016 victory speech for the first time

2021年12月10日

ロイター通信

https://www.reuters.com/markets/rates-bonds/hillary-clinton-publicly-reads-her-2016-victory-speech-first-time-2021-12-10/

2021年12月10日付(ロイター通信)。ヒラリー・クリントンは、2016年大統領選挙でドナルド・トランプ前米大統領に勝利した場合に行うはずだった勝利演説を初めて公の場で読み上げた。

前米国務長官であり大統領夫人を務めたヒラリーが立ち直り力(レジリエンス、resilience)について行う「マスタークラス」というヴィデオ配信での授業において、勝利演説の一部を朗読したと、ヴィデオ配信「マスタークラス」は木曜日にプレスリリースで発表した。

「この授業では、2016年の大統領選挙に勝っていたら行いたいと思っていた勝利演説を皆さんと共有したいと思います。これを通じて私の最も公的な敗北の1つに正面から向き合おうと思います 」と、「NBCトゥディ」のトークショーのウェブサイトにあるヴィデオのナレーションでクリントンは言った。

ヴィデオ映像で、クリントンが原稿を開き、団結の重要性に触れた演説の抜粋を読み上げた。

「アメリカ国民の皆さん、今日、皆さんは全世界にメッセージを送りました.私たちは、お互いの違いによってのみ定義されることはなく、“私たち対彼ら”という分断の国でもありません。アメリカン・ドリームは全ての人にとって十分な大きさです」と彼女は読んだ。

そして、ヒラリーは、米国初の女性大統領となった彼女の勝利が、「アメリカと世界にとって画期的な出来事であった」と演説の中で指摘した。

勝利演説には、「私は、女性が選挙権を持つ前に生まれた女性に会ったことがあります。なぜ女性が大統領になったことがないのか、理解できない少年少女に会ったこともあります」と書かれている。

演説には、「私の勝利は、全てのアメリカ人、男性、女性、少年、少女の勝利です。なぜなら、私たちの国が再び証明したように、天井がないとき、空は無限大だからです」と書かれている。

亡き母の過酷な幼少期や、過去に戻れるなら勝利のために何を言ったかなどを話す際に、ヒラリーは涙ぐんでしまった。ヒラリーの母ドロシー・ハウエル・ローダムは2011年に92歳で死去した。

ヒラリーは「私の夢は、彼女のところに行き、“私を見て、私の話を聞いて。あなたは生き残り、自分の良い家庭を持ち、3人の子供を持つことができた”と言うことです」と語った。

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バイデンが2024年の大統領選挙でハリスが副大統領候補になると発言(Biden says Harris will be his running mate in 2024

アレックス・ガンギターノ筆

2022年1月19日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/590487-biden-says-harris-will-his-running-mate-in-2024?utm_source=thehill&utm_medium=widgets&utm_campaign=es_recommended_content

バイデン大統領は水曜日、2024年大統領選挙でハリス副大統領が自分の伴走者(副大統領候補)になると明確に述べた。これは彼が出馬することを示している。

バイデンは、ハリスの投票権法案に関する活動に満足しているか、また、彼女が伴走者になることを約束できるかという質問に対して、「両方の質問に対する答えは、はい、そうですとなる」と答えた。

バイデンは、ホワイトハウスでの2回目の単独記者会見で、自分の答えについて追加の説明をしたいかと聞かれ、「その必要はない」と答えた。

「彼女は私の伴走者になる。そして第二に、私が担当させたのだが、彼女は良い仕事をしていると思う」とバイデンは述べ、ハリスが投票権法案について主導していることに言及した。

記者会見のタイミングは、水曜日に投票権に関する法案を推進する連邦上院の民主党議員たちが、投票権に関する法案を可決するためにフィリバスターを変更することを支持するよう同僚に最終的な嘆願を行ったのと一致する。

ハリスは、月曜日のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア・デーを記念して、投票権に関する法案を可決することによって公民権の巨人の遺産を尊重するよう議員に促した。

先週、ハリスは2024年大統領選挙で大統領選挙候補者として出馬するかどうかに関する質問について全く気にしないと述べた。そして、こうした質問は「ワシントンD.C.のような場所でよくある評論やゴシップの一部」とも述べた。

「バイデンは2024年にリズ・チェイニー連邦下院議員(ワイオミング州選出、共和党)を副大統領候補に据えて、超党派の大統領選を行うべきだ」という『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムが発した提案について、NBCのクレイグ・メルヴィンから質問された。ハリスはその記事を読んでいないと述べ、「私はこのような問題についての高級なゴシップには本当に関心がない」と付け加えた。

しかし、ハリスは先月(2021年12月)、『ウォールストリート・ジャーナル』紙の取材に対し、バイデンと2024年の選挙戦について議論したことなどないと述べ、2024年大統領選挙民主党候補指名に関する憶測に拍車をかけた。

バイデンと側近たちはこれまで繰り返し、バイデンが2024年の大統領選挙に、2期目を目指して出馬する計画だと述べてきた。しかし、彼の年齢が79歳であること、そして最近の世論調査での支持率が下落し続けていることから、将来の計画について常に疑義が出ているのが現状だ。

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『ニューヨーク・タイムズ』紙コラムニストが2024年大統領選挙でバイデン・チェイニーのコンビを主張(NYT columnist floats Biden-Cheney ticket in 2024

ドミニク・マストランジェロ筆

2022年1月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/media/589363-nyt-columnist-floats-biden-cheney-ticket-in-2024

『ニューヨーク・タイムズ』紙のあるコラムニストが、2024年大統領選挙で、バイデン大統領が共和党のリズ・チェイニー連邦下院議員(ワイオミング州選出、共和党)と組んで超党派の態勢で大統領選を戦うことを提案している。

コラムニストのトーマス・フリードマンは木曜日のコラムで次のように書いている。「これが民主政治体制への脅威を打ち倒すための民主的な方法である。この方法を採用しないことは、民主政治体制の滅亡につながる道だ。これがかなり実現不可能な内容だということを私はちゃんと分かっている。アメリカは議会制度の柔軟性を持っておらず、また比例代表システムを採用していない。しかしそれでも、私はこの方法を提案する価値があると思う。現状は、前例のないほど民主政治体制の崩壊に近づいているのだ」。

フリードマンは、最近、多様な国民連合政府が発足したイスラエル・パレスチナの舞台を、米国も見習うべきなのかと考えたと書いている。

「2024年にアメリカが必要としているのは、ジョー・バイデンとリズ・チェイニーというチケットなのか?あるいは、ジョー・バイデンとリサ・マコウスキー、カマラ・ハリスとミット・ロムニー、ステイシー・エイブラムスとリズ・チェイニー、エイミー・クロブシャーとリズ・チェイニーか?あるいは他の組み合わせでもいい」とフリードマンは書いている。

チェイニーは、2021年1月6日のアメリカ連邦議会議事堂襲撃事件以降、トランプ前大統領とその同盟者たちを批判する代表的な人物として登場した。チェイニーは、襲撃事件を調査する議会特別委員会で共に務める民主党議員たちと同様に、2020年の大統領選挙の完全性に関してトランプが繰り返した虚偽の主張が襲撃事件を引き起こし、選挙に対する国民の信頼を脅かし続け、政治暴力のリスクを高めていると述べている。

政治学者のスティーブン・レヴィツキーはフリードマンに次のように語った。「民主党とのイスラエル型の連合の一部として、リズ・チェイニーについて話す用意があるべきだ。今、最優先の目標はただ一つ、民主主義体制を守ることだ」。

レヴィツキーは続けて次のように述べた。「普通の選挙と同じように扱えば、我々の民主政治体制はコイントス(coin flip)の確率で生き残ることができる。そのような確率は、私は実行したくありません。これは、普通の「ロバ対ゾウ(共和党対民主党)」の選挙ではないことを、国民とエスタブリッシュメントに伝える必要がある。これは民主政治体制対権威主義支持者の選挙なのだ」。

フリードマンは、バイデンが定期的にフォローしているとされるメディアの人物の一人であると言われている。フリードマンは昨年夏、中東のイスラエル人とパレスチナ人の対立をうまく和らげることができれば、大統領はノーベル平和賞を受賞する可能性があると書いている。

フリードマン氏のコラムは、2024年の大統領選挙にヒラリー・クリントン前国務長官が出馬するという「もっともらしい」シナリオを示唆する『ウォールストリート・ジャーナル』紙の論説が広く共有されたのと同日に掲載された。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 今回は外交政策において「力の均衡(バランス・オブ・パワー、balance of power)」を前提にすることが重要だという内容の論稿を紹介する。著者は以前にもご紹介したスティーヴン・M・ウォルトだ。「力の均衡」について、ウォルトは論稿の中で、以下のように定義している。

(引用貼り付けはじめ)

力の均衡(バランス・オブ・パワー、balance of power)理論(あるいは脅威の均衡[バランス・オブ・スレット、balance of threat]理論)の基本的な論理は単純明快だ。各国が互いの脅威から各国を保護してくれる「世界政府」が存在しないため、各国は征服、強制、またはその他の危機に陥らないよう、独自の資源と戦略に頼らざるを得ないということになる。強力な国家や脅威を与える国家に直面した時、懸念を持つ国は自国の資源をより多く動員するか、同じ危険に直面している他の国家との同盟を模索し、より有利にバランス(均衡)に変えることができる。

(引用貼り付け終わり)

 簡単に言えば、世界各国は自身で脅威に対応せねばならず、そのためには脅威に直面している他国と同盟を組むこともあるということだ。その際に、その他コクトは国家体制などが全く異なってもそれは度外視される。自国の生き残りのため、そんなことは枝葉末節ということになる。その具体例が、第二次世界大戦で、アメリカとイギリスがソ連と組んだことであり、ソ連に対抗するための米中国交回復だ。アメリカは共産主義のソ連や中国とだって手を組むということだ。また、現在で言えば、アメリカは世界に民主政治体制を拡散しようと言いながら、自国に役立つ非民主国家についてはその体制転換を求めない。中東諸国や中央アジア諸国がそうだ。しかし、これらの国々が用済みということになれば、一気に体制転換を迫るということになる。

 アメリカの外交政策立案にはこのような流れがあるが、一方で、他国の体制転換を求める、もしくはイデオロギーの面で潔癖に過ぎるということもある。その具体例は、共和党であればネオコンと呼ばれる一派であり、民主党であれば人道主義的介入主義ということになる。民主政治体制の拡散に重きを置くために、かえって地域の不安定やアメリカ外交の失敗を招くということになったのは、記憶に新しいところだ。アフガニスタン侵攻やイラク戦争の失敗、アラブの春の失敗などが具体例だ。

 日本に引き付けて考えてみれば、何よりも過度な中国脅威論や台湾有事論の跋扈がそうなる。アメリカの一部の強硬派に煽動されて、そのお先棒を担いで、短慮にわっしょいわっしょいと対中強硬論を吐き、「台湾を助けるぞ」と意気込んで、アメリカにはしごを外されて、にっちもさっちもいかなくなるということが目に見える。思慮深く、かつ両方に着くという形でバランスを取ることが重要だ。それが大人の態度でもある。

(貼り付けはじめ)

誰が力の均衡(バランス・オブ・パワー)を恐れているのか?(Who’s Afraid of a Balance of Power?

-アメリカは国際関係の最も基本的な原則を無視し、自国に不利益を与えている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2017年12月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/12/08/whos-afraid-of-a-balance-of-power/

もし、あなたが大学で国際関係論の入門レヴェルの講義を受け、教師が「力の均衡(balance of power)」について全く触れなかったとしたら、母校に連絡して返金を求めて欲しい。力の均衡という考えは、トゥキディデス(Thucydides)の『ペロポネソス戦争(Peloponnesian War)』、トマス・ホッブズ(Thomas Hobbs)の『リヴァイアサン(Leviathan)』、古代インドの思想家カウティリヤ(Kautilya)の『アルタシャストラ(Arthashastra)』(「政治の科学」)に見ることができ、EH・カー(E.H. Carr)、ハンス・J・モーゲンソー(Hans J. Morgenthau)、ロバート・ギルピン(Robert Gilpin)、ケネス・ウォルツ(Kenneth Waltz)といった現代のリアリストたちの仕事の柱になっている。

しかし、このシンプルな考えは、その長い歴史にもかかわらず、アメリカの外交エリートたちから忘れられがちである。ロシアと中国がなぜ協力するのか、イランと中東のさまざまなパートナーとの間に何があったのかを考えるのではなく、権威主義(authoritarianism)の共有、反射的な反米主義、あるいはその他のイデオロギー的連帯の結果だとエリートたちは考えがちだ。この集団的健忘症(collective amnesia)によって、アメリカの指導者たちが知らず知らずのうちに敵同士を接近させるような行動をとり、敵を引き離す有望な機会を逃すことを助長する。

力の均衡(バランス・オブ・パワー、balance of power)理論(あるいは脅威の均衡[バランス・オブ・スレット、balance of threat]理論)の基本的な論理は単純明快だ。各国が互いの脅威から各国を保護してくれる「世界政府」が存在しないため、各国は征服、強制、またはその他の危機に陥らないよう、独自の資源と戦略に頼らざるを得ないということになる。強力な国家や脅威を与える国家に直面した時、懸念を持つ国は自国の資源をより多く動員するか、同じ危険に直面している他の国家との同盟を模索し、より有利にバランス(均衡)に変えることができる。

極端な例を言えば、均衡を保つための同盟を組むには、以前は敵とみなしていた国や、将来ライバルになると理解していた国とも一緒になって戦う必要が出てくることもある。第二次世界大戦中、アメリカとイギリスはソ連と同盟を結んだが、それは共産主義に対する長期的な懸念よりも、ナチス・ドイツを倒すことが優先されたからである。ウィンストン・チャーチルは、「もしヒトラーが地獄に侵入したら、私は少なくとも悪魔については下院で好意的に言及するだろう」と言い、この論理を完璧に表現した。フランクリン・デラノ・ルーズヴェルトも、第三帝国(Third Reich)を打ち負かすためなら「悪魔と手を握ってもいい(hold hands with the devil)」と、同じような心境を語っている。

言うまでもなく、「力の均衡」の論理は、アメリカの外交政策において重要な役割を果たし、特に安全保障上の懸念が明白な場合には、重要な役割を果たした。冷戦期のアメリカの同盟関係(NATOやアジアにおける二国間同盟のハブ&スポーク・システム)は、ソ連とのバランスを取り、封じ込めるために形成された。同じ動機で、アメリカはアフリカ、ラテンアメリカ、中東などの様々な権威主義政権を支援することになった。同様に、1972年にニクソンが行った対中開放も、ソ連の台頭を懸念し、中国との関係が深まればソ連にとっては不利になるとの認識から始まった。

しかし、その長い歴史と永続的な関連性にもかかわらず、政策立案者や専門家たちは、力の均衡の論理がいかに味方と敵の両方の行動を促すかをしばしば認識できないでいる。この問題の一つは、国家の外交政策は、その外部環境(直面する脅威の数々)よりもむしろその内部特性(指導者の性格、政治や経済のシステム、支配イデオロギーなど)によって形成されると考えるアメリカが持つ共通傾向に由来している。

この観点からすると、アメリカの「自然な」同盟国は、我々と価値観を共有する国である。アメリカが「自由世界のリーダー」であるとか、NATOが自由民主主義国家の「大西洋横断コミュニティ」であるとかいうのは、これらの国々が、世界の秩序がどうあるべきかという共通のビジョンを持っているからこそ、互いに支え合っているということを示唆しているのである。

もちろん、政治的価値の共有は重要ではないということではなく、民主政治体制国家間の同盟は、独裁国家間や民主国家と非民主国家間の同盟よりもいくぶん安定していることを示唆する実証的研究も存在する。しかし、国家の内部構成が敵味方の区別を決定すると仮定すると、いくつかの点で迷いが生じる。

第一に、価値観の共有が強力な求心力であると考えるならば、既存の同盟の中には結束力と耐久性を誇張してしまうものがある。NATOはその典型的な例である。ソ連の崩壊により、その主要な根拠が失われ、同盟に新たな使命を与えるための多大な努力も、繰り返される緊張の高まりを防ぐことはできなかった。NATOのアフガニスタンやリビアでの作戦がうまくいっていれば、事態は変わっていたかもしれない。しかし、そうはならなかった。

確かにウクライナ危機はNATOの緩やかな衰退を一時的に止めたが、このささやかな反転は、NATOをまとめる上で外的脅威(すなわちロシアへの恐怖)が果たす中心的役割を強調しているに過ぎない。「価値観の共有」だけでは、大西洋の両岸に位置する約30カ国の有意義な連合体を維持するには不十分であり、トルコ、ハンガリー、ポーランドがNATOの基盤であるはずの自由主義的価値観を放棄するような状況では、それが顕著となる。

第二に、力の均衡(バランス・オブ・パワー)の政治を忘れてしまうと、他の国家(場合によっては非国家アクターたち)が自分に対して手を組んだときに、驚くことになりがちだ。2003年、ブッシュ政権は、フランス、ドイツ、ロシアが協力して、安保理でイラク侵攻の承認を得ようとしたのを阻止した。この措置は、サダム・フセインを倒すことが、逆に自分たち(フランス、ドイツ、ロシア)を脅かすことになりかねないと考えたからだ(実際、そうなってしまった)。しかし、アメリカの指導者たちは、これらの国々がサダムを排除し、この地域を民主的な路線で変革する機会を握り、利用しようとしない理由を理解できなかった。ブッシュ大統領の国家安全保障問題大統領補佐官を務めたコンドリーザ・ライスが後に認めたように、「単刀直入に言えば次のようになる。我々は単に理解していなかった」ということだ。

アメリカのイラク侵攻後、イランとシリアが手を組んでイラクの反乱軍を支援したときも、アメリカ政府は同様に驚いた。ブッシュ政権の「地域変革(regional transformation)」の努力を失敗させることは、イランとシリアにとっては完全に理にかなっていたにもかかわらず、だ。アメリカのイラク占領が成功すれば、イランとシリアはブッシュの次の標的になっていただろう。彼らは、脅威を受けた国家がするように(力の均衡理論が予測するように)行動しただけだ。もちろん、アメリカ人にはそのような行動を歓迎する理由はないが、それに驚くべきではなかった。

第三に、政治的・思想的な親和性に着目し、共有する脅威の役割を無視することは、敵対者を実際以上に一体化した存在として見ることを助長する。アメリカの政府高官や評論家たちは、敵対する国同士が主に道具的・戦術的な理由で協力していることを認識する代わりに、敵は一連の共通目標への深い関与によって結びつけられているとすぐに思い込んでしまう。以前であれば、アメリカ人は共産主義世界を強固な一枚岩とみなし、どの国の共産主義者も全てがクレムリンの信頼できるエージェントであると誤解していた。この間違いは、中ソ対立を見逃した(あるいは否定した)だけでなく、アメリカの指導者たちは、非共産主義の左翼がソ連に対してシンパシーを持っている可能性が高いと誤解していたのである。ソ連の指導者たちも逆の立場で、アメリカの指導者たちと同じ間違いを犯し、非共産圏の第三世界の社会主義者に取り入ろうとしたが、しばしば裏目に出て失望することになった。

この誤った直感は、残念ながら今日でも、「悪の枢軸(axis of evil)」(イラン、イラク、北朝鮮が同じ統一運動の一部であると示唆した)という言葉や、「イスラムファシズム(Islamofascism)」のような誤解を招く言葉の中に生き続けている。アメリカ政府高官や専門家たちは、過激派を多様な世界観や目的を持った、競争し合う組織として見るのではなく、敵が全て同一の行動指針に基づいて行動しているかのように日常的に発言し行動している。これらのグループは、共通の教義によって強力に結束しているとは言えないし、しばしば深いイデオロギー的分裂や個人的対立に苦しみ、共通する確信よりも必要性から力を合わせているに過ぎない。しかし、全てのテロリストが一つの世界的な運動における忠実な兵士であると仮定すると、彼らは実際よりも怖く見えてしまう。

更に悪いことに、アメリカは過激派の分裂を促す方法を探す代わりに、過激派同士を接近させるような行動や発言をしばしばしている。分かりやすい具体例を挙げれば、イラン、ヒズボラ、イエメンのフーシ、シリアのアサド政権、イラクのサドル運動の間には、ささやかなイデオロギー的共通点があるかもしれないが、これらのグループはそれぞれ独自の利益と課題を抱えており、彼らの協力は、まとまった、あるいは統一したイデオロギー戦線としてよりも、戦略同盟として理解するのが最も適切だろう。サウジアラビアやイスラエルがアメリカにそのようにするように望む、敵対勢力に対して全面的な圧力をかけることは、敵対する全ての国々に、互いに助け合う理由をさらに増やすだけのことだ。

最後に、力の均衡(パワー・バランス)の力学を無視することは、米国の地政学的な最大の利点の一つを無駄にすることだ。西半球で唯一の大国である米国は、同盟国を選択する際に大きな自由度を持ち、その結果、同盟国に対して大きな影響力を持つことができる。地理的な孤立がアメリカに提供する「自由な安全保障」を利用すれば、地域的な対立が発生したときにそれを利用し、遠い地域の国家や非国家主体がアメリカへの関心と支援を求めて競争することを促し、現在アメリカに敵対する諸国の間に楔を打ち込む機会を警戒し続けることができる。このアプローチには、柔軟性、地域情勢に対する高度な理解、他国との「特別な関係」を嫌うこと、そして、意見の異なる国を悪者にしないことが必要だ。

残念ながら、米国は過去数十年間、特に中東において、正反対のことをしてきた。柔軟性を発揮する代わりに、同じ同盟諸国に固執し、相手を安心させることよりも、自分たちが最善と考える行動を取らせることに腐心してきた。エジプト、イスラエル、サウジアラビアとの「特別な関係」を深めてきたが、そうした親密な支援の正当性は弱まってきている。そして、時折の例外を除き、イランや北朝鮮のような敵対国を、脅したり制裁したりすることはあっても、対話することはない存在として扱ってきた。その結果は、残念ながら明白だ。

読者の皆さんにお知らせ。私は本を書き上げるため、この『フォーリン・ポリシー』誌での職務を短期間休止します。2018年2月にコラムを再開する予定ですが、世界の出来事が私を再び戦いに引きずり込むことがない限り、このコラムを再開します。それまで静かにお待ちいただくよう、よろしくお願いします。皆さんにとって楽しい休暇と平和で豊かな2018年になりますようにお祈りします。

※スティーヴン・M・ウォルトはハーヴァード大学ロバート・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 副島隆彦先生と佐藤優先生の対談『「知の巨人」が暴く 世界の常識はウソばかり』が2022年2月1日にビジネス社から発売になります。以下にまえがき、目次、あとがきを貼り付けます。参考にしていただき、ぜひ手に取ってお読み下さい。

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「知の巨人」が暴く 世界の常識はウソばかり

(貼りつけはじめ)

まえがき

佐藤優

本書の内容自体は読みやすい。そこで屋上屋(おくじょうおく)を架すようなまえがきを書くことは止め、共著者である副島隆彦氏に対する率直な認識を記すことにする。

私は、ほんものの「知の巨人」は副島氏であると昔から思っている。制度化された学問(いわゆる大学や学会での活動)とは別の、在野にこそ真の知性が宿っている場合のほうが多いからだ。

ちなみに副島氏も、ある時期まで制度化された枠組みの中で教育と研究に従事した。1998年から常葉(とこは)大学教育学部の教授を12年間つとめた。常葉大学は、主に静岡県で活躍する人々を養成する伝統ある大学だ。副島氏のもとで学んだ数百名の学生が、現在は教壇に立っていると思う。大学教授時代の話を尋ねても、副島氏は「研究室で学生と一緒にたこ焼きを作っていた」などと、本質をはぐらかす答えをするのであるが、それは副島氏がシャイだからだ。

情熱を込めて教育を行い、学生たちとも親しく交遊していたのだと私は推察している。副島氏の講義から触発された人たちは、現在、社会の中堅として活躍している。

私も2006年から、母校の同志社大学神学部や生命医科学部、学長が塾長をつとめる学部横断的に学生を集めて精鋭教育を行う新島(にいじま)塾などで教育を手伝っているが、悪戦苦闘している。それには大きく分けて2つの原因がある。そして、その2つの原因は緊密に絡み合っているので解きほぐすのが難しい。

 第1は、高校2年から文科系と理科系にクラスが分かれてしまうので、中等教育(中学は前期中等教育で、高校は後期中等教育である)で必要とされる知識が身に付かないまま大学生になっている人がほぼ全員だという、異常な状態だ。

 私は、高校教育の現場がどうなっているかに関心を持ったので、2018〜20年、母校の埼玉県立浦和高校でも教壇に立った。そこで1年終了の時点で、数学に自信がない生徒が文科系クラスを選択しているという安易な進路選択の状況を見て愕然(がくぜん)とした。私が浦高(うらこう)で教えるようになった若干の成果は、自らの知的関心と将来の夢をよく考えて、文科系、理科系を選択する生徒が増えたことだ。

 話を大学生に戻す。文科系の大学生が総じて苦手感を持つのが数学だ。しかし、数学は経済学、経営学はもとより、社会学や文学や神学(たとえば聖書のテキストマイニングに際しては統計知識が必要)においても不可欠になる。

 高校で文科系を選択すると、数IIBまでは履修することになっているが、これは建前に過ぎず数IAの内容ですら怪しい場合も多い。これは学生たちの責任というよりも、このような状況を放置してきた大人たちの責任である。私は自分が教える学生に対しては、数IIIまで独学が難しければ、通信教育を受けるか学習塾に通う形でもいいので、きちんと勉強するように、と指導している。

 理科系の大学生に関しては、一般的に歴史が弱いと見られているが、これは実態に反する。高校レベルでの現代文が理解できているならば(要は論理的な文章を正確に読む訓練ができていること)、歴史書を読めば理解できるので、理科系の学生でも問題はない。

 むしろ、国公立大学を受験する理科系の学生は、暗記する内容が少ないという理由で政治経済と倫理を選択する傾向がある。理科系の学生のほうが政治や哲学については、入試で日本史、世界史を選択した文科系の学生よりも正確な知識を持っている場合もよくある(受験勉強は意外と真の教養につながるのである)。

 理科系の学生が圧倒的に弱いのは英語だ。理科系の場合、最先端の論文のほとんどが英語で書かれている。また論文を書く場合も、英語で書くのが通例だ。しかし、高校段階でも大学の一般教養でも、そのような英語のノウハウを身に付けるような講義は開講されていない。一部の外国語のセンスが良い人以外は、大学の専門課程以降でも英語の習得に、かなりエネルギーと時間を費やしている。

 あるいは英語文献を扱うのを諦(あきら)めて、日本語文献の範囲内で研究を行う学生もいる。これだと、せっかく優れた問題意識と思考力があっても英語の壁に阻(はば)まれて、学生の可能性を十分に活かすことができない。

 副島氏は、代々木ゼミナールで英語の名物教師をつとめていたことがある。実用英語の使い手(特に読む力)として副島氏は一級である。この分野での副島氏の業績を1つだけ挙げるとするならば、ジョン・J・ミアシャイマー/スティーヴン・M・ウォルト『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策1、2』(講談社、2007年刊)の翻訳だ。本書は国際政治を読み解く際の基本書だ。

 副島氏の国際関係観にも、ミアシャイマー流のリアリズムがある。私は外交官時代、ロシアとの関係に次いでイスラエルとの関係が深かった。現下、日本の論壇でもイスラエルの生存権を認めることから、中東問題については論じなくてはならないと考えている。

 ミアシャイマー氏の見解については、同意できる部分とそうでない部分があるが、副島氏が訳さなければ、私がこの本を読むことはなかったと思う。副島氏の翻訳によって、私の視界は以前よりも広くなった。

 さて日本の中等教育の構造的欠陥は、文科系、理科系に知を分断してしまうだけではない。定向進化を遂げてしまった受験産業の副作用として、試験により偏差値でランク付けされることで高校生、大学生の心が疲れてしまっていることだ。その結果、受験競争の勝者を含め、ほとんどの大学生が勉強嫌いになっている。

 副島氏は、ネットで「学問道場」を主宰している。サイバー空間を通じて、再び人々が知に関心を向ける場を作ろうとしている。私はプロテスタント神学という古い学問を基礎としているので、個別に知を伝授するという方法しか思いつかない。

 中世の神学部では教養課程9年、専門課程15 年が標準的な修業年限だった。私は19歳のとき、神学を学び始めたが、自分で神学的思考を操れるようになったのは40代後半になってからだった。大学院修了後は外交官になり、2002年5月に当時吹き荒れた鈴木宗男事件の嵐に巻き込まれ、東京地方検察庁特別捜査部に逮捕され、東京拘置所の独房に512日間勾留されたときも、神学の勉強だけはずっと続けてきた。

 私が神学部と大学院神学研究科で指導した学生で、研究職志望や牧師志望は1人もいなかった。官僚、新聞記者、スポーツ用品メーカーの国際部門などに就職していったが、いずれも、あと20 年は神学の研究を続ける心づもりでいる(裏返して言うと、そういう心構えを持つ学生だけを選んで指導した)。

 人間、一人ひとりの生命は有限だ。自分自身で知についてある程度の感触を摑(つか)んでから、他者にそれを伝達できる期間は20年もなかったという現実を、現在、末期腎不全(じんふぜん)と前立腺(ぜんりつせん)がんのダブルパンチを受けて闘病を余儀なくされている私としては、ひしひしと感じている。

ところで、副島氏には、「農村が都市を包囲していく」という毛沢東(もうたくとう)流の戦略があると私は見ている。だから、地方で日本経済を現実に支えている経営者を、副島氏は大切にしている。私の場合、得意分野が外交で、人脈も永田町(政界)や霞が関(官界)に偏ってしまう。この点でも、私は副島氏から多くを学んでいる。

 実政治に関して、副島氏は岸田文雄(きしだふみお)首相支持の姿勢を明確にしている。

   日本政治への、私、副島隆彦の一番大きな、最大の希望は以下のことだ。

岸田政権を支える岸田首相本人を含めた8人の有力政治家たちがいる。このまだ若い指導者たち(と言っても、もう皆、50歳、60歳台だ)たち8人(80歳台のひともいる)が用心深く団結することで、安倍晋三たちを自民党から追い出すこと。

   これが政権政党である自民党にとっての最大の目標である。普通の国民には理解されないが、この自民党内の党内闘争、派閥抗争こそは、今の日本政治の中心である。

   この反安倍で、お互いの目くばせと無言の表情だけで、じわーっと結集す8人の政治家の名前は今は書かない。

   自分たちの粘り腰のいかにも日本人らしい慎重さで、自分たちのボロと弱点を露出することなく用意周到に準備する。そして愚劣極まりない、しかし手ごわい安倍晋三 の勢力を、計画的にお山の大将に祭り上げる作戦で孤立させて、やがて自民党から追放すること。これが今年1年の日本政治の最大の見せ場となる。

   反安倍で考えを同じくする有力政治家8人が結集することで、安倍集団を自民党内で孤立させ、のたうち回らさせる。そして安倍たちが自ら暴走、激発することで、実に稚拙で大人げない集団だ、ということが国民に丸見えになるので、彼ら60人ぐらいを自民党から追放する。何故なら安倍党は、すでに特殊な政治宗教団体に純化しているから、自民党と相容(あいい)れないのである。

   それでは自民党の大分裂になる。とてもそんなことは起きない、と考えるのが普通の人々だろう。

   私、副島隆彦は、自分が持つ予言者(プレディクター)の能力で、これから起きることを予想、予言する。世界情勢が一段と厳しくなれば、その影響が日本にも必ず押し寄せる。

   それは、日本政治の担当責任者たちへの圧迫となって必ず表れる。それは、支配政党内の政治抗争となって浮かび上がる。これが日本政治を待ち構える、今年最大のドラマであり、国家スケジュールである。

             (2022年1月2日 副島隆彦の学問道場「今日のぼやき」)

 私は、岸田政権の本質がいまだ何であるかよく理解できないでいる。安倍晋三(あべしんぞう)氏に関しては、現実主義的な北方領土交渉を行ったことを高く評価している。他方、現在、自民党内で世代交代をめぐる暗闘が繰り広げられているという認識を副島氏と共有している。副島氏は、自らを予言者(プレディクター)であると規定するが、国際情勢の変動が日本の支配エリートの分断をもたらすのは必然的現象なのだ。

 最後に私と副島氏の思想に関する共通認識について触れておく。それは若き日のカール・マルクス、フリードリヒ・エンゲルスに共通している。

 

   思想の歴史が証明していることは、精神的生産が物質的生産とともに変化するということでなくて、なんであろうか?あらゆる時代の支配的な思想は、いつでも支配階級の思想にすぎなかった。

(カール・マルクス/フリードリヒ・エンゲルス『共産党宣言』プログレス出版所、モスクワ、1971年、69頁)

 本書で批判の対象となっているのは、米中ロの地政学、戦後日本のリベラリズム、日本共産党のスターリン主義などを含め、現代の「支配的な思想」である。こういう思想が普及することによって、利益を得る集団があるということだ。私と副島氏は、1848年にマルクスとエンゲルスが行った作業を、2022年の日本で少しだけ形を変えて行っているにすぎないのである。

 本書を上梓するにあたっては、編集者でライターの水波康氏、(株)ビジネス社の大森

勇輝氏にたいへんにお世話になりました。どうもありがとうございます。

2022年1月12 日、入院中の都内某大学病院の病室にて

佐藤優

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『「知の巨人」が暴く 世界の常識はウソばかり』  もくじ

まえがき 佐藤優 3

第1章 世界の新潮流を読む

●低成長・マルクス主義の時代

時代の最先端思想は帝国から流れてくる 22

人間の欲望自体を縮小させるという発想 26

デフォルトとなった価値相対主義 29

●マイルドヤンキーが日本の主流

「ヤンキーの虎」が日本の新潮流 36

日本のボリシェヴィキはマイルドヤンキー 38

第2章 戦後リベラルの正体

●構造改革派の思想と田辺元の敗北

「佐高信の正体」と構造改革派 44

構造改革派の思想を生んだ久野収 49

田辺元と「悪魔の京大講義」 54

●日本共産党の正体

日本共産党は、なぜ危険なのか 61

批判されるべき「貧乏人平等主義」 68

日本共産党の暴力革命必然論 70

スパイだった野坂参三――日本共産党最大の事件 79

一国共産主義へと導いた宮本顕治の達観 86

●新左翼とは何だったのか

70年代は殺し合いの内ゲバ時代 94

東大闘争――過激派たちの末路 99

新左翼の誕生とセクトの分裂 102

ソ連から流れた左翼陣営へのカネ 105

繰り返すべきでない新左翼運動の悲劇 108

第3章 米中ロの世界戦略と日本の未来

●アメリカの敗北で起爆するイスラム革命

日本政府のアフガン政策は間違っていなかった 112

インテリジェンス分析の弱さがアメリカ敗北の一因 118.

ロシアが懸念する中央アジア・フェルガナ盆地 123

●宗教対立と戦略なきバイデン政権

ローマ教皇のイラク訪問が意味するもの 131

綱渡り状態が続くイスラエルの内政 135

●中国の台湾侵攻と日本の未来

中国は台湾に侵攻できない 139

日本は中国とケンカすべきではない 144

実現の可能性がある北方領土の二島返還 149

日本は属国のままか、あるいは帝国になれるのか 152

国家を破綻させる「革命」の恐ろしさ 156

欲望の肯定が生み出した中国の巨大な成長 160

平均賃金で韓国に抜かれた日本の最重要課題 165

第4章 ディープ・ステイトの闇

●ディープ・ステイトとは何か

ディープ・ステイトの成り立ちと日本での実態 170

MMT理論とコロナ給付金で崩壊する日本 175

イベント屋と化したディープ・ステイト 180

●世界を支配する闇の真実

ヒトラーはイギリスのスパイだった! 183

ヒトラー暗殺未遂事件が生んだ真の悲劇 186

第5章 間違いだらけの世界の超常識

●世界はデイズム(理神論)に向かっている

この世は物質と霊魂でできている 194

ヘーゲルとマルクスの間違いとは何か 202

●学問の最先端を理解する

形而上学がすべての学問の土台 209

西洋の学問の最上位は神学である 215

「我思う」から「考える葦」、そしてスピノザへ 219

人類を悲惨な状況に追い込んだルソーの絶対平等思想 223.

ドストエフスキーが見抜いた資本主義の本質 229

ポストモダン、構造主義が消えた必然 235

●佐藤優と副島隆彦の生き方哲学

人間には特権的な地位がある 239

キリスト教がいまだに強い真の理由 242.

あとがき 副島隆彦 246

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あとがき

副島隆彦

佐藤優氏との対談本は、これで7冊目である。この本の書名は「知の巨人うんぬん」となっている。私は、知の巨人という奇妙な、気色の悪い言葉を嫌悪(けんお)する。ところが、何とこれが書名になってしまった。知の巨人というコトバは、出版業界の宣伝文句として、文藝春秋のライター上がりの立花隆(たちばなたかし)に奉(たてまつ)られた 冠(かんむり)言葉だ。立花隆は、CIA(米中央情報局)の手先となって、愛国政治家の田中角栄を謀略政治言論で突き殺した当人である。

 この対談本の相手の佐藤優は知の巨人であろうが、私はそうではない。私は九州の田舎から出て来て何とか言論人になろうと、貧乏の中で何のコネもなく自力で這(は)い上がって来た人間だ。だから私は、この世の全ての特権階級、言論お公家(くげ)さま集団が大嫌いである。

 私は、世の中で隠されている諸真実を本に書いて暴き立てることで、出版業界で何とか徒食(としょく)して来た。私は自他共に認める〝真実暴きの言論人〞である。

 佐藤氏は、まえがきで私が静岡の私大で12年間教えたことを、私に何か人生戦略が有るかのように書いてくれている。そんなものは、ありません。私は、年収1000万円の収入が欲しかったから大学教師をしていただけだ。私のアメリカ政治研究の能力を評価してくれた政治家が、推薦してくれた。その前の13年間の予備校講師も、ゴハンを食べる(生活費を稼ぐ)ための必要でやっていたのであって他に理由はない。

 私は、世の中のごく普通の人々の悲しみと苦しみが分かる人間である。私は、権力者や支配者層の人間たちと闘い続けるから、彼らに同調しないし、身を売らない。

 佐藤優は、ロシア語とドイツ語から、宗教(神学)と思想の両方を刻苦勉励して習得した。私は英語しかできない。佐藤優は、日本では稀有な世界基準 world values(ワールド・ヴァリューズ)で、高等知識を取り扱うことができる稀有な思想家である。だから、私は佐藤優と話が合う。互いの知能(インテレクト)を理解し合っている。こういう本物の知識人は、今の日本にあまりいなくなった。昔は少しいた。今の日本の知識人(学者)階級の知能低下は目に余る。ヒドいの一語に尽きる。

 本書のP213でアリストテレスの主要な著作の meta-physica(メタ・フィジカ)と physica(フィジカ)(物理学 ×自然学ではない)の区別を論じた。メタフィジカの「メタ」meta-は、普通言われているような物質世界(フィジカ)の「上」とか「前」とか「後(あと)」ではない。Meta-は「下」である。フィジカの下に有る土台のことだ。

  このことで、私は佐藤氏と一致した。メタ meta-は、この現実の世界 physica(フィジカ)の下に有って、それを支える基礎、土台のことである。このことを2人で確定した。

 meta-physicaを、明治の初めに×「形而上学(けいじじょうがく)」(形あるものの上[うえ]にある学問)と訳した。このことの大間違いが、本書ではっきりした。これは、日本における西洋学問の輸入、移植の際の欠陥、大(だい)誤り、大失敗の指摘と訂正ののろしとなるだろう。

 私が、この30年間抱えてきた学問研究上の疑問の苦悩を佐藤優に一つ一つ問いかけて、

「そうですよ」「そうですよ」と頷(うなず)き(合意)をもらえたことが大きい。日本国におけるヨーロッパ近代学問(これがscience [サイエンス]。P217の表)の受容上の数々の大誤りが、本書で訂正されていった。このことは、日本における学問と思想の大きな前進である。

  私は、「ウィキペディア」を強く疑っている。インターネット上に開かれて、誰でも、どこからでも、自由(フリー)に読める百科事典(エンサイクロペディア)を名乗っている。現代の新たな人類の知識(知能)の管理組織である。その危険性に私は、警鐘を鳴らしてきた。アマゾン、グーグル、アップルら米 big tech(ビッグテック)の危険性と同じだ。だが、今のところ誰も私の主張を聞いてくれない。

 ウィキペディア Wikipediaの、あの膨大な文章は一体、誰が、どんな組織で書いているのか分からない。ウィキペディアンたちがボランティアで書いてます、は人々を欺(あざむ)く謀略言論である。書き手は名無しのゴンベエだ。文章責任(文責[ぶんせき])が全く明らかでない。公共の知のふりをした闇に隠れた支配組織だ。

 ウィキペディアは、80 年前(1938年)にイギリスの大(だい)SF作家のH(エイチ)・G(ジー)・ウェルズがぶち上げた world brain(ワールド・ブレイン)「世界頭脳」というアイデアを元(もと)にしている。この世界頭脳は、世界中のどんな貧しい人々も、ただちに習得できる公共知の提供の構想だった。

 ところが、この世界頭脳(ワールド・ブレイン)は危険である。人類を上から支配する目に見えないビッグ・ブラザー big brotherの片割れである。その現在の姿がウィキペディアである。それなのに、日本の出版業界と知識人層は疑うことも知らず、このウィキペディアにべったりと依存している。だから、出版業界が衰退しジリ貧になるのだ。

 佐藤優と、次の対談本では、これらの問題を話し合いたい。

佐藤優氏が、まえがきで献辞を書いたので私は繰り返さない。

2022年1月

副島隆彦

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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