古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

2022年07月

 古村治彦です。

 今回は7月16日に発売となった、下條竜夫(げじょうたつお)著『物理学者が解き明かす邪馬台国の謎 卑弥呼の本名は玉姫であり、邪馬台国は太宰府にあった』(秀和システム)をご紹介する。
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物理学者が解き明かす邪馬台国の謎 卑弥呼の本名は玉姫であり、邪馬台国は太宰府にあった

 下條竜夫氏は兵庫県立大学理学研究科准教授を務め、私とは副島隆彦門下の同僚となる。下條氏はこれまでに『物理学者が解き明かす重大事件の真相』『物理学者が解き明かす思考の整理法』という2冊の単著を出している。

 今回のテーマは日本古代史、多くの人々が関心を持っている邪馬台国(やまたいこく)だ。下條氏は邪馬台国の秘密を明らかにしている。物理学者がどのように古代史の謎に挑むか、是非皆さんで確かめていただきたい。是非手に取ってお読みください。

(貼り付けはじめ)

はじめに

●邪馬台国の謎

日本の歴史上の最大の謎は、卑弥呼(ひみこ)と邪馬台国(やまたいこく)である。

 中国の歴史書の『三国志』「東夷伝」の倭人の条(くだり)に卑弥呼と邪馬台国が紹介されている。卑弥呼は「鬼道(きどう)」と呼ばれる怪しげな呪術(じゅじゅつ)を使いながら倭国の女王として祀(まつ)りあげられたと書いてある。なぜ、そんな人物が女王になったのかはわからない。その卑弥呼が住んだ国と書いてあるのが邪馬台国である。ここも謎に包まれている。場所さえ特定できない。

 この本の中で詳しく述べるが、それ以外にも多くの謎がある。卑弥呼など存在しなかったという説もある。三百年以上の間、侃侃諤諤(かんかんがくがく)と議論が続いている。

 この本では私はひとつの事実を仮定して、それをもとに邪馬台国の謎のすべてを解明しようと思う。

 その仮定とは、『三国志』の列伝に登場する五斗米道(ごとべいどう)の教祖である張魯(ちょうろ)という人がいる。その姉妹、張玉蘭(ちょうぎょくらん)こそが卑弥呼であるという事実である。

 この事実自体は文献がないので証明ができない。歴史というのは文字があって、つまり歴史書に記述があってはじめて議論ができる。記述がない場合、歴史にはならない。しかし、この仮定によってあらゆる邪馬台国にまつわる謎がすべて解ける。本当にすべての人が納得のいく形で解けてしまう。

 これは数学で言えば「公理」にあたる。違う公理を用いると、違う数学が生まれる。平行な直線は交わらないというユークリッド幾何学に対して、平行な直線も交わるとしてできた非ユークリッド幾何学が有名だ。同様にある歴史の史実を仮定することで、全く違う歴史像が生まれてくる。

 この本では、まず第1章で邪馬台国の謎を俯瞰(ふかん)する。八つの謎を、過去の文献を参考に見ていく。そして、その後、第2章以下でその八つの謎をすべて解いていく。余計ではあるが、卑弥呼は美人だったことまでも、史実をもとに明らかにしていく。第2章および第3章では卑弥呼とは誰だったのか、そして第4章では、邪馬台国がどこにあったかを詳細に説明する。さらに、第5章では、単なる祈祷師(きとうし)・呪術師(じゅじゅつし)と思われていた卑弥呼が、実は日本の文化の基礎をつくった最重要人物だと考えられることを明らかにする。

●なぜ物理学者が歴史の本を書くのか

 この本は『物理学者が解き明かす重大事件の真相』『物理学者が解き明かす思考の整理法』に続く、私が書いた三冊目の本である。

 私は物理学を専攻し研究する学者である。物理学者がこの手の歴史本にかかわるなら、アイソトープの半減期による年代決定、含有物の元素組成比による制作地決定など、物理学的計測手法のデータを基にした考察を書くのが普通だろう。しかし、この本には、その手の計測結果やデータはほとんど出てこない。したがって、著者が物理学者である理由は特にない。もしかしたら、この本を手にとった方の中に科学的計測がでてこないことにガッカリした人がいるかもしれない。

 ただ、科学=サイエンスに従事するものとして以下のことに挑戦してみたかった。

 まず、科学の伝統的な手法、祖述(先人の学説を受け継いで発展させること)をつかって、日本の歴史に挑戦してみたかった。特に、中国史の専門家の岡田英弘氏の学問を土台として、日本の歴史に挑戦してみたかった。

 日本人は、専門外の人の意見をあまり重く見ない。日本古代史の研究者も中国史を専門とする岡田英弘氏を相手にしない。丸山眞男(まるやままさお)という戦後の政治学者は、専門分野に閉じこもり、他の優れた学説を取り入れない、このような学者の頑(かたく)なな態度を「タコつぼ型という学問に対する日本独自の態度」と表現した。我々は優れた過去の学説に対しては、引用する形できちんと取り上げるべきである。ある優れた学説を受け継ぎ、きちんとその内容と優れた点を説明し、その上に自分の発見した事実を積み重ね、自分の説を展開していく。科学はこれにより進んでいく。同じことを、日本の歴史学でやってみたかった。第5章で詳しく述べる。

 ただし、通常の科学の手法は使えない。科学では、いくつかの実験的事実、観測した事実から、ひとつ、あるいは複数の命題や法則を導いていく。これが王道である。これをcorrespondence theory of truth(真理の対応説)という。歴史は科学ではないが、同様に、古い文献の記述の信頼性から真実を議論する。これはその文献の信頼度で決まり、歴史学者によって徹底的に議論されている。門外漢の私が口を出す余地はない。

 しかし、実はもうひとつ、いくつかの事実関係の「整合性」から真実を求める方法がある。これをcoherence theory of truth(真理の整合説)という。物理学者は基本つかわない、というか嫌われている。しかし、たまにつかうこともある。例えば日本人初のノーベル賞をとった湯川秀樹の中間子論は、当時観測されていなかった新しいボーズ粒子の存在を仮定してできあがっている。この粒子を中間子(メソン)と呼ぶ。中間子を仮定すれば陽子同士の結合が説明でき、素粒子の議論全体が整合する。ただし、この中間子論は、中間子が発見されるまでは物理学者のニールス・ボーアなどに「見つかってもいない粒子を勝手に存在することにするのか」と酷評された。したがって、学問としては異端な方法に分類される。しかし、この事実関係の「整合性」から真実を求める方法、つまり真理の整合説なら、私でも歴史学に対応することができ、新しい知見が生まれる余地がある。第2章から第4章でこの整合性で議論する。

 そして、読者の方々には最後まで読んだ後で、これらのやり方が本当に正しいかどうか判断していただきたい。

 しかし、それでも自分の専門分野以外をやるのは勇気がいる。特に門外漢である日本の古代史に関する本を出版することには抵抗があった。しかし、私の師である副島隆彦先生が紹介してくれたラルフ・ウォルドー・エマソンの次のことばに励はげまされて世に出すことにした。ここに引用しておく。

「自分の考えを信じること、自分にとっての真実はすべての人にとって真実だと信じること」

「私が何かに気づけば、私の子孫も、いずれは全人類もそれに気づくだろう。たとえ私以前には誰ひとり、それに気づいた人がいなかったとしても、私がそれを知覚したことは太陽の存在と同じくらい、揺るぎない事実だからだ」

(ラルフ・ウォルドー・エマソン『自己信頼(Self-Reliance)』より引用)

 この本から、理科系の人間がどのような思考をして文科系の問題にアプローチしているのかを知っていただけたら幸いです。

令和四年五月

下條竜夫

=====

『物理学者が解き明かす邪馬台国の謎』◆ 目次

はじめに 1

邪馬台国の謎 1

なぜ物理学者が歴史の本を書くのか 3

第1章 邪馬台国の謎 15

「魏志倭人伝」が語る邪馬台国 17

卑弥呼が存在したという形跡は日本にない 19

なぜ卑弥呼は王になれたのか 22

邪馬台国の場所はどこなのか 23

なぜ卑弥呼は豪華な返礼品をもらえたのか 28

なぜ魏の王朝の鏡が日本にあるのか 34

第2章 なぜ卑弥呼は王になれたのか 41

鬼道とは五斗米道という道教の神のことである 43

五斗米道とはどんな宗教か 48

鬼道と鬼神の違い 58

鬼道とは五斗米道の神様=天神のこと 60

卑弥呼は中国五斗米道の始祖、張陵の孫である 62

卑弥呼の本当の名前は玉姫 64

卑弥呼は魏の皇帝と縁戚関係にある 68

なぜ「魏志倭人伝」に詳しい卑弥呼の記述があるのか 77

第3章 『日本書紀』と『古事記』に登場する玉依姫が卑弥呼である 81

玉姫とは神武天皇の母である玉依姫のことである 83

万世一系とは卑弥呼の子孫の物語である 90

卑弥呼は美人だった 95

第4章 邪馬台国があったのは間違いなく太宰府である 99

「魏志倭人伝」が邪馬台国の距離と方角を間違えた理由 101

改ざん前の報告書を推測する 106

「魏志倭人伝」の距離の記述を復元すれば太宰府に到達する 107

玉依姫を主祭神とする竈門神社 112

なぜ天神様が太宰府天満宮に祀られているのか 117

太宰府は九州の交通網の要所にある 123

出雲がなぜ古代の大都市なのか 126

卑弥呼の墓は大おお野の 城じょう市にある 134

なぜ奈良に大和があるのか 137

第5章 日本の文化の礎いしずえをつくった卑弥呼 143

「誠の道」という日本独自の思想 146

二十四節気が明らかにする日本の古代史 155

一月中、七月中、十月中という三つの祝宴 161

道教国家日本 165

日本古代史の真実を暴いた岡田英弘氏 166

おわりに 177

参考文献 180

=====

おわりに

 第1章の冒頭に、最初の謎として卑弥呼のいた形跡、例えば、ゆかりの神社や名が入った遺跡がまったくないのはなぜだろうかと述べた。だが、実際はその逆だった。日本には卑弥呼の軌跡(きせき)がいたるところに溢(あふ)れている。

 卑弥呼=玉依姫を主祭神(しゅさいじん)とする神社は、第2章、第3章で取り上げた京都の河合(かわい)神社、福岡の竈門(かまど)神社以外にもたくさんある。北は宮城県から南は鹿児島県まで、それこそ日本中にたくさんある。また、鬼道とは「天神」のことだと第2章で述べた。福岡の「天神」は九州最大の繁華街である。また、大阪の「天神」橋筋商店街と言えば六百以上の店舗が並ぶ日本一長い商店街のことである。日本は卑弥呼で溢れている。

この本で私が提示したのは、卑弥呼の新しいイメージである。今までは、卑弥呼は、よく言えば呪術師(じゅじゅつし)、悪く言えばただの占い婆さんであった。「王になったのは占いがよく当たるからだろう」という記述を何回か読んだことがある。その程度の認識であった。

しかし、卑弥呼はそういう人物ではない。『三国志』の「張魯伝」にあった「人々に正直であること、偽らないこと、病気になったら自分の過ちを告白すること」を、教えただろう。食べ物に困った人に食事を与えるための義舎もつくっただろう。しかも中国の奥地である漢中あたりから、危険な玄界灘と対馬海峡を渡って倭に来る気概をもっていた。だから、卑弥呼は凛とした美しい人だったと私は思う。

「卑弥呼は聖母マリヤのような人だっただろう」とここにはっきり書いておこう。これは、ただの比喩ではない。古代道教とは、実は東に流れてきたキリスト教なのである。私の先生の副島隆彦氏がそう書いている。第2章に書いてあるように「山上の垂訓」があり、義舎はまるで「修道院」、そして鬼卒は「修道者」のようである。だから、卑弥呼は本当に聖母マリヤのように聖人としてたてまつられていたと思う。そうでなければ、神武天皇の母として日本の歴史書に残ることはなかっただろう。

 もし私のこの見方に賛同してくれる歴史小説家の方がいたら、この本の内容を、ぜひ小説かドラマにしてほしい。「私のアイデアを盗用するな」などと野暮なことは言わない。絶世の美女である張玉蘭が、化外(けがい)の地、倭にわたる。東夷というのは中国皇帝に朝貢する国の呼び名であり、しない国はさらにその先という意味で化外と呼ばれる。そして、苦労して現地にとけこんでいく。姪が王室に嫁いだというので、貢物(みつぎもの)を送ったら、驚くほどの多量の返礼品と王の金印を送ってきた。

 そういう、現実が想像を上回った歴史ドラマだと私は思う。

本書を上梓するにあたっては秀和システムの小笠原豊樹編集長にお世話になりました。御礼申し上げます。また、副島隆彦氏から、岡田英弘氏に関する情報を含め、たくさんのアドバイスをいただきました。ここに感謝いたします。また、この本が書けたのは玉姫様の御加護とお導きの賜物(たまもの)と思っております。謹んで感謝の意を表したいと思います。どうもありがとうございました。

令和四年五月

下條 竜夫

(貼り付け終わり)

(終わり)※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争について、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官が「戦争直前のラインで停戦を行うべき」と述べたことはこのブログでもご紹介した。「これ以上続けると、ウクライナの防衛戦争の枠組みを超えて、ロシアに対する新たな戦争になってしまう」とキッシンジャーは警告を発した。国際関係論分野の「リアリスト」と呼ばれる人たちは早期の停戦を主張している。

 それに対してキッシンジャーに反発する人物が書いた論稿をご紹介する。キッシンジャーについては、米中国交回復を実現したことで、中ソ離間を成功させ、ソ連を弱体化させたという評価がある一方で、親中派として中国がここまで成長する手助けをしたという批判がある。アメリカの最大の貿易相手国として中国は急激な成長を続け、それが結果としてアメリカの首を絞めることになったのは何とも皮肉な結果である。

 下に紹介する論稿の著者ジョセフ・ボスコはキッシンジャー批判派である。そして、ウクライナ戦争に関してはゼレンスキーを全面的に支持して、アメリカはより大きな支援を継続して行うべきだと考えている。こうした「ウクライナ頑張れ、アメリカはどんどん支援しよう(どんどん武器をアメリカ政府が替刃防衛産業も儲かるし)」という人々はきちんと出口を見据えて発言しているのだろうか。現状ではウクライナ軍がロシア軍をウクライナ東部から追い落とすこと、更に2014年にロシアが併合したクリミア半島を奪還することは不可能である。はっきり言って膠着状態であり、ウクライナ東部でロシア軍が状況を有利に進めているが、2月24日の戦争勃発前の状態にできるだけ戻す形での停戦が一番現実的である。

 どんどんやれ、ウクライナにどんどん武器を送れと言っても限界がある。欧米諸国はその限界を迎えつつあるのではないか。ヨーロッパの戦争であり、EU諸国が勇ましいことを述べているが、戦費の半分以上をアメリカに負担してもらって、まさに「口だけ番長」状態である。自分たちも一緒になって戦う気もなく、支援もする気がないのでは、EU諸国の存在意義はないに等しい。これが現代の先進諸国の実態である。そして、話を逸らそうと「次は台湾が危ない」などと言いだす。ロシアを叩き潰せない欧米諸国が中国と真剣に戦うことなどできる訳がない。欧米諸国は「張り子の虎(paper tiger)」だ。

 キッシンジャーに文句を言ってみたところで、現状がどうなるものでもない。現実的に考えて、早期停戦こそがより良い結果ということになる。

(貼り付けはじめ)

バイデンはキッシンジャーからのウクライナについて素早く逃げるようにという助言に従っているのだろうか?(Is Biden following Kissinger’s cut-and-run advice on Ukraine?

ジョセフ・ボスコ筆

2022年5月31日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/3506286-is-biden-following-kissingers-cut-and-run-advice-on-ukraine/

ウラジミール・プーティンは2005年、「20世紀最大の地政学的惨事」は第一次世界大戦でもなく、第二次世界大戦でもなく、毛沢東の中国支配でもなく、冷戦でもない、と断言した。プーティンの世界観では、冷戦の終結とソヴィエト連邦の解体こそが歴史的悲劇ということになる。しかし、それによってヨーロッパの数多くの国々と3億人近い人々がソ連の専制政治から解放された。

それから3年も経たないうちに、プーティンは第一次世界大戦とヴェルサイユ条約後のアドルフ・ヒトラーの復古主義を再現し、世界史における耐え難い一章と見なしたものを覆した。2008年にNATOがグルジアとウクライナの加盟を支持すると表明した数カ月後、ロシアはグルジアの一部に侵攻し、占領した。

ジョージ・W・ブッシュ(子)政権とNATOが事実上黙認すると、プーティンはソヴィエト連邦の再構築という次の方策を準備した。2009年にバラク・オバマ大統領は米露関係の「リセット」を発表した。そして2012年にはプーティンにアメリカの「柔軟性」の拡大を約束した。2014年、ロシアはウクライナ東部に侵攻し、クリミアを奪取して反撃した。この時も、西側諸国はロシアの侵略を覆すような、あるいは意味のある処罰を与えるようなことは何もしなかった。プーティンは、帝国再興計画の第3段階の準備を開始した。

ロシアが2021年に次のウクライナ侵攻に向けて軍を増強した際、プーティンの全ての動きを予見していた情報機関を持つワシントンは、侵攻が起こるのをただ見ているだけだった。ジョー・バイデン政権は、その正確な予測を自画自賛しながらも、侵略を阻止するためにNATOとともに直接あるいは適時に行動を起こそうとはしなかった。

その代わりにワシントンは、前例のない経済制裁を行うと脅した。国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンは、ロシアの攻撃後に経済制裁が成功すると主張した。ロシアの拡大を防ぐためではなく、単にロシアに経済的コストを課すために必要だと主張した。ジョー・バイデンは後に、経済制裁がプーティンを抑止したり拘束したりするために「決して機能しない」ことは最初から分かっていたと述べた。

一方、バイデンはウクライナ国内におけるNATOによる飛行禁止区域設定を否定し、ウクライナが求める最も緊急に必要とする兵器を保留し続けた。この政策はオバマ政権に端を発し、トランプ大統領の下でわずかながら変更されただけであった。

ウクライナは、西側諸国から送られた限定的な防衛用兵器を見事に、そして勇敢に活用し、また、アメリカの情報提供を受けてロシアの黒海旗艦を沈めた国産対艦ミサイル「ネプチューン」など、ウクライナ独自の武器も開発している。

ウクライナは首都キエフを守り、他の地域でもロシアの攻勢を阻止することに成功したが、兵器の格差と兵力数で圧倒的に有利なロシアは、その犠牲を払ってロシアの戦略的優位性を維持している。

ロシアは、犠牲を伴う勝利ではあったが、最終的に港湾都市マリウポリを奪取し、黒海封鎖を維持した。ロシアはドンバス地方で少しずつ、しかし着実に前進を続けており、ウクライナ東部のウクライナ軍を広く包囲する恐れがある。

ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、ウクライナがロシア軍を都市や軍事施設から遠ざけることを可能にする、より重く、より長距離のシステムを繰り返し要求している。しかし、ジョー・バイデン政権は、プーティンが「挑発的(provocative)」だと感じるかもしれない武器の提供を差し控えるという方針を堅持している。もちろん、修辞的かつ道徳的支援を含むあらゆる形態の西側援助は、プーティンにとって忌まわしいものであり、彼のヒトラーに向かうのと同等の怒りと反感を買うものだ。

プーティンの軍隊がウクライナ東部で容赦なく前進する中、ワシントンやベルリン、パリ、ローマなど一部のNATO諸国は、ウクライナの崩壊とロシアの敗北と屈辱を防ぐために提供できる軍事支援の正確なレヴェルについて、貴重な時間とエネルギーを浪費している。軍備の測定は、膠着状態を作り出し、両当事者に妥協を促し、プーティンの面目を保つために行うものである。

究極の国家安全保障の「リアリスト」であるヘンリー・キッシンジャーは、先週スイスのダヴォスで開かれた世界経済フォーラムでのインターネットを通じたスピーチで、プーティンを融和(accommodation)、もしくは宥和(appeasement)させるケースを示した。

「簡単に乗り越えられないような動揺や緊張が生じる前に、今後2ヶ月の間に交渉を始める必要がある。理想的には、分割線は現状復帰であるべきだ」と述べた。これが意味すると事は2月24日にロシア軍が侵攻する直前に存在したそれぞれが支配した領土ということだ。2014年にロシアがクリミアとウクライナ東部に侵攻する以前の状態のことではない。ロシアの侵攻前の状況に「戻す」ことができないのは、当然のことながら、失われ、破壊された何千人ものウクライナ人の命や、破壊された都市や歴史的な場所である。

キッシンジャーは警告を付け加えた。「それ以上の戦争を追求することは、ウクライナの自由のためではなく、ロシアそのものに対する新たな戦争になる」。キッシンジャーは、ウクライナの自由は分割可能であり、2月24日にロシアに支配されていない地域にのみ適用されると考えているようだ。

更に言えば、ウクライナはロシアそのものを攻撃するつもりを意図も持たず、その必要も存在しない。ウクライナに招かれざるロシア人がいるだけでありそれを追い出すだけのことだ。そして、ヒトラーの場合と同様に、領土の譲歩は、侵略者の基本計画の追求における一時停止を意味するに過ぎない。おそらく、キッシンジャーの交渉を勧める理由の1つは、ウクライナ、グルジア、その他NATOへの加盟を希望する国を永久に排除することであろう。しかし、プーティンは、NATOが最終的に1997年の安全保障状況にまで後退することを望んでいることを示唆している。

キッシンジャーは以前外交的手腕を発揮した。中国共産党の周恩来首相と上海コミュニケを発表した時がそうだ。それ以降、台湾の地位に関する、キッシンジャーの巧妙な言葉遣いのせいで、中国は大胆に行動するようになり、西側を悩ませてきた。そして、中国と台湾、中国とアメリカとの間での紛争はこれまでになく緊迫したものとなった。キッシンジャーは、その後の50年間にわたり、アメリカの歴代政権に対して、北京にとって最も有利な取り決めの解釈に固執することになった。2007年の台湾へ送った警告では、「中国が共産主義支配を放棄することは永遠にない」と述べた。

キッシンジャーはまた、ヴェトナムからの撤退を成功させたことでノーベル平和賞を受賞したが、その際、米連邦議会はアメリカからの資金提供を打ち切り、アメリカの同盟国であった南ヴェトナムは北ヴェトナムの最後の大攻勢に対して無防備な状態となった。ヴェトナムからのアメリカの撤退は台湾の主権と引き換えに潔く行われたものではなかった。米ソのデタント(緊張緩和)もまた、モスクワがラテンアメリカ、中東、アフリカで優位に立ったことで、幻想であることが明らかになった。

バイデンには、ウクライナの英雄的なゼレンスキー大統領の言葉に耳を傾けることをお勧めする。ゼレンスキーは、バイデンが述べた自由と独裁の間で起きている巨大な戦闘の先頭にいる。それは、自由主義的国際秩序に反対するプーティンの「無制限の戦略的パートナー(no-limits strategic partner)」である習近平率いる中国の敵対的意図に対する台湾の自由と安全という、この巨大な戦闘における次の戦いにとって、ワシントンに良い影響を与えることになるであろう。

※ジョセフ・ボスコ:国防長官直属中国担当部長(2005年から2006年)、アジア太平洋地域人道支援・災害援助担当部長(2009年から2010年)。ウラジミール・プーティンがグルジアに侵攻した際には米国防総省に在籍し、アメリカの対応について国防総省内での議論に参加していた。ツイッターアカウント:@BoscoJosephA.

(貼り付け終わり)

(終わり)※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 安倍晋三元首相の銃撃暗殺事件から約2週間が経過した。岸田文雄首相は安倍元首相の「国葬」を9月に執り行うと発表した。自民党の茂木敏充幹事長は国葬反対の国民の声を「承知していない」と切り捨てた。根拠となる法律もなく、国会で審議を行うこともなく、閣議決定のみで国葬を強行している。そのような強行突破での実施が死者を悼む行事となるのかどうか甚だ疑問だ。

 安倍元首相を銃撃したとして殺人容疑で逮捕された山上徹也容疑者の供述から、自民党と統一教会の関係に人々の関心が集まった。強引な勧誘や実質的な献金強制、それに合同結婚式などが日本で報道されたのは1980年代から90年代にかけてであった。その当時、一家離散の悲劇に苦しむ人々や全財産を失って悲嘆にくれる人々の姿が報道された。現在、「信教の自由で不幸になるのは自己責任だ(自由権)」という一般論を並べ立てながら、統一教会を遠回しに擁護する論調がマスコミ(五大新聞社と五大テレビ局)でも流されていたが、その実態に再び焦点があてられることで少しずつ消えているようだ。

 統一教会の問題点はそのカルト性と政治への接近の2つが挙げられる。カルト性については1980年代からずっと報じられてきた。しかし、実生活では、統一教会と名乗らずに別の名前の団体として人々を勧誘し、最終的には信者にしてしまうということが起きている。私の学生時代には過激派(革マル派)が学生自治会を牛耳っており、立て看板、ビラを通じて、「統一教会、原理研には気をつけろ」という警告を盛んに出していた。私は「革マル派に入るのだって危ないではないか」と思いながら、ビラを流し読んでいた。ただ、当時の報道(1990年代)もあって気を付けるようにはしていた。

 統一教会の政治との関わり、特に自民党との関わりは、「政治の玄人」「政治のプロ」のような人々からの話からの知識として知っていた。「自民党の議員事務所には統一教会系の統一日報が置いてある」「無給のスタッフを各議員事務所に派遣している」「選挙の動員などにも協力している」といったことは聞いていた。また、アメリカの日本研究分野の大物であるリチャード・J・サミュエルズの『マキァヴェッリの子どもたち』という日本とイタリアの19世紀以降の歴代指導者の比較研究では、岸信介、文鮮明、笹川良一の関係について言及されている。

 韓国発祥の統一教会が現在のような巨大な宗教帝国となったのは、日本の資金のおかげである。日本からの資金が全体の7割を占めるということは、日本以外の国々では強引な献金や霊感商法は行っていないということになる。日本の統一教会は集金マシーンとなっている。そこには日本による植民地支配の歴史を絡めての「贖罪意識」を刺激しての集金ということもあるようだ。そして、自民党との大物政治家たちのつながりを誇示することで、統一教会はその「正当性」を人々にアピールしてきた。その代表格が安倍晋三元首相だ。

 山上徹也容疑者のものと思われるツイッターアカウントが発見され(現在は凍結中)、その中で、山上容疑者が安倍晋三元首相を支持する「ネトウヨ」的な書き込みが多くなされていることが明らかにされた。それなのにどうして安倍元首相を銃撃するに至ったのかということであるが、自分の家族を崩壊させた統一教会と安倍元首相との間に緊密な関係があることを知った、最初は教団の最高幹部を狙ったが攻撃が不可能なので安倍元首相に標的を変えたということになっている。ここのところはより緻密な分析が必要であろう。

 統一教会にとって日本と自民党という存在は宗教帝国として拡大していく上で欠くことができない存在となった。結果として、統一教会が自民党に対する影響力を持つまでに至ったということも言われている。しかし、より直接的に言えば、日本人の膏血を絞ることで肥え太った統一教会との関係を清算せずにずっと持ち続けた日本人が日本の国民政党たる資格があるのか、ということだ。彼らが述べる「家族・家庭の重要さ」「国民の生命財産を守る」という言葉は何の意味もなく、空虚なものでしかないということになる。

(貼り付けはじめ)

安倍元首相と日本が文鮮明の統一教会にとっていかに重要な存在になったか(How Abe and Japan became vital to Moon’s Unification Church
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安倍晋三元首相を暗殺した容疑者は、安倍元首相が母親の金銭トラブルの原因とされる宗教団体と関係があったため、恨んでいると警察に語ったとメディアは報じている。(キヨシ・オオタ/ブルームバーグ・ニューズ)

マーク・フィッシャー筆

2022年7月12日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/world/2022/07/12/unification-church-japan-shinzo-abe/

悲嘆にくれる高齢者たちをターゲットにした訪問販売戦術を用いて、そして著名な政治家の育成などで、統一教会は何十年もかけて、日本を最も信頼できる利益の中心地として確立してきたと、故文鮮明牧師の多くの部門を持つ精神的・経済的世界帝国を調査分析する捜査官たちは口々に語る。

今、安倍晋三元首相を暗殺した容疑者は、自身の母親の破産を宗教団体のせいだと考えていると警察に話し、統一教会が犯人の母親が日本支部の会員だったことを確認した後、日本において長い間論争の的になっていた統一教会の役割について再び精査される状況になっている。

日本国内での報道によれば、銃撃の容疑者である山上徹也は、母親が宗教団体に大金を寄付するよう圧力をかけられ、経済的に破綻したと警察に供述しているということだ。

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7月8日の奈良での暗殺現場で、警備員にタックルされる安倍元首相狙撃容疑者の男。(読売新聞社/ロイター経由)。

統一教会の日本支部を運営する田中富広会長は月曜日の記者会見で、山上容疑者の母親は1998年に入信し、その後一時的に退会し、今年になって復帰したと述べた。教会幹部は、母親が団体に献金していたという情報はなく、山上容疑者自身が教会に所属していたという記録もないと述べた。警察はまだその宗教団体名を明らかにしていない。

火曜日、日本のメディアは、奈良の統一教会の建物のファサードから弾痕が発見されたと報じた。日本のテレビ局であるフジニューズネットワークによると、山上容疑者は安倍元首相を撃つ前にそこで銃のテストをしたと捜査当局に語ったという。

統一教会は日本で数十の教会を管理しており、奈良の教会もその一つで、安倍元首相が金曜日に銃撃された場所から数百メートルしか離れていない。

安倍元首相は他の多くの世界的指導者と同様に、統一教会関連のイヴェントに有料スピーカーとして出演していたが、最近では9月にドナルド・トランプ元大統領も出演した番組に出演し、ヴィデオリンクを通じて講演を行った。

トランプ前大統領は文鮮明の未亡人であり、統一教会で「真の母(True Mother)」として知られる韓鶴子が主催した「希望の集会」で、彼女を「偉大な人物」と呼び、「世界中の平和のための彼女の驚くべき仕事」を賞賛した。彼は文鮮明夫妻に感謝の言葉を述べた。「彼らが地球全体に引き起こしたインスピレーションは信じられないほどだ」。 文鮮明は2012年に死去し、それ以来、彼の妻と子供たちは彼のビジネスや他の組織の支配権をめぐって争ってきた。

安倍首相はトランプ大統領が出演した同じ番組で、韓鶴子に「世界の紛争解決、特に朝鮮半島の平和的統一に向けたあなたのたゆまぬ努力に深く感謝する」と表明した。

自らを救世主(messiah、メシア、メサイア)と称する文鮮明は、イエスから地上での活動を継続するよう指示されたと説いた。

その歴史を通して、文鮮明の教会とその関連団体は、世界の政治指導者、有名人、他の宗教の著名な聖職者たちを講演に招くために高額の謝金を支払ってきた。これは、統一協会を有名で尊敬される人物と関連づけることによって信用を勝ち取るための長年のキャンペーンの一部である。

アメリカ国内と世界各地で文鮮明のビジネスと政治的な行動について長年研究してきたラリー・ジリオックスは土曜日に次のように述べた。「彼らは自分たちに正当性を与えてくれる人になら誰にでも金を出す。大きな名前(有名性)は小さな名前を次々と引きつけ、地元のベンチャー企業を助けることができる」。

具体例を挙げる。1990年代半ば、ジョージ・HW・ブッシュ元大統領やジェラルド・フォード元大統領、コメディアンのビル・コスビー、ソ連のゴルバチョフ元書記長などが、日本とワシントンで開かれた文明性主催の会議で講演を行った。ブッシュは、あの世での愛する人の幸せを保証するために何百万ドルも寄付するよう圧力をかけられたとして、統一教会と文氏が経営するハッピーワールド社を訴えた何千人もの日本人に対して、日本の裁判所が1億5000万ドル以上の賠償金を認めた数ヶ月後に講演を行った。

(ワシントン・ポスト紙が彼の出演について報じた後、ブッシュは当時一般的に8万ドル程度だった講演料を慈善団体に寄付することにした)

学者や政府の調査員たちによる統一教会に関するいくつかの研究によれば、60年代以上にわたり、統一教会とその様々な分派は、アメリカを含む世界各地の事業を助成する収益センターとして日本に依存してきたという。

『ワシントン・タイムズ』紙や他の多くの国でのメディア事業など、文鮮明の最も有名な構想のいくつかが損失を出しても、統一教会は主に「霊的販売(spiritual sales)」と呼ばれるものに基づく強力な収益源を日本部門に期待することができた。

かつて統一教会員で、その後精神衛生カウンセラーになり、破壊的カルトについての本の著者でもあるスティーヴ・ハサンは土曜日次のように述べた。「日本の統一教会員たちは、死亡記事を詳しく調べ上げ、亡くなった人の家族の家のドアをノックして、『亡くなったあなたの愛する人が私たちと通信している。その人は銀行に行って、あなたの愛する人が霊界で昇天できるように統一教会にお金を送ってほしい』と述べた。このような行動をしてきたの

統一教会のルーツは韓国だが、統一教会を研究してきた複数の歴史家の研究によれば、伝統的に教会の富の70%を提供してきたのは日本であったという。日本の元教会幹部はかつてワシントン・ポスト紙に、文鮮明の組織が1970年代半ばから80年代半ばにかけて、日本からアメリカに8億ドルを送金したと語った。

統一協会の元幹部ロン・パケットは1997年にワシントン・ポスト紙に次のように語っている。「文鮮明は韓国と日本からマンハッタン・センター(ニューヨーク市にある教会の主要施設の一つ)に現金の入った袋を何百と送ってきた。そのお金がどこから来るのかと尋ねるといつも答えはただ『お父様から』というものだった。統一教会員たちが使う「お父様」とは文鮮明を意味する。

日本では長年、統一教会信者たち(Unificationists)が高麗人参や、文鮮明が韓国で経営する会社で作られた石塔のミニチュアなどの宗教用品を売る光景をよく目にした。統一教会信者たちは、その商品に霊的な力が宿っていると主張し、日本では集団訴訟に発展し、数百人が示談を勝ち取った。

日本の小政党であるNHK党の黒川敦彦代表は、先月のテレビ放送で、統一教会は「反日カルト」であり、1958年に統一教会が日本に最初に進出したのは安倍首相の祖父である岸信介元首相のせいであると述べた。文鮮明は1975年に日本で最初の新聞を創刊し、その後すぐに彼の特徴である信者の集団結婚を日本に持ち込んだ。

前述のハッサンによると、文鮮明の神学では、彼の母国である韓国は世界を支配する運命にある支配者民族の故郷である「アダム」の国であり、日本は韓国に従属する「イヴ」の国であるという。統一教会では、イヴがサタンと性的関係を持ち、人類を堕落させ、文鮮明が人類を救済するようになったと教えられている。

文鮮明の未亡人である韓鶴子は現在、統一教会の正式な後継団体である「世界平和統一家庭連合(Family Federation for World Peace and Unification)」を統括している。文氏の息子亨進(ヒョンジン、通称:ショーン)が立ち上げた対抗組織も、日本に進出している。ペンシルヴァニア州ニューファンドランドに拠点を置く世界平和統一神殿(World Peace and Unification Sanctuary)は、「鉄の棒の牧師たち(Rod of Iron Ministries)」として知られ、AR-15アサルト銃は「攻撃的な悪魔の世界から身を守るため」の宗教儀式に重要な役割を果たすと説いている。

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2018年2月、ペンシルヴァニア州ニューファンドランドにある世界平和統一聖堂で、装填されていない武器を手にする礼拝者たち。

ヒョンジンの兄クックジン(國進、通称ジャスティン)は教会界で「真の息子(True Son)」と呼ばれ、ペンシルヴァニア州グリーリーに武器製造会社カー・アームズ社(Kahr Arms)を所有し、2010年に父親から日本に派遣され、教会の法的地位を剥奪しようとする動きに反発した。

國進はその年の演説で次のように述べた。「警察が私たちの教会に対してかなり大規模な捜査を行っていたので非常に困難な時期だった。警察は私たちの教会を徹底的に調査した。彼らは私たちの教会のメンバーを逮捕し、私たちの教会を捜索していた。それも1つや2つの場所だけでなく、多くの場所で捜索が行われた」。

演説の中で、國進は、教会が日本人に、亡くなった、愛する人の霊を救うために多額の寄付をするよう圧力をかけていたことを否定した。彼は、日本における教会の大口献金者の多くにインタヴューしたことがあると述べた。國進は「私は彼らに、“何があなたをそんなに寄付する気にさせるのですか”と尋ねた。そして、非常に多くのケースで、兄弟姉妹は、先祖がやってきて、そうするようにと言ったと私に言ってくれたのだ」と述べた。

※東京を拠点とするジュリア・ミオ・イヌマは本記事の作成に貢献した。

※マーク・フィッシャー:上級編集員。様々なテーマを網羅。ワシントン・ポスト紙のエンタープライズエディター、ローカルコラムニスト、ベルリン支局長を経て、メトロ、スタイル、ナショナル、海外デスクで30年にわたり、政治、教育、ポップカルチャーなど、さまざまな分野を取材してきた。 ツイッターアカウント:@mffisher

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(終わり)※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争の先行きはどうなるか、ということに多くの人々が関心を持っていると思う。私もそうだ。私は戦争の早い段階(戦争勃発から1週間後)で、即刻停戦を行うべき、ウクライナが有利に事態を進めているうちに停戦し和平を結ぶべきと訴えた。しかし、そうした声は「正義派(ウクライナはロシアを叩きだすまで戦え、俺は何もしないけど)」の声にかき消された。そして寒い時期から春の陽気を超え、夏の猛暑の時期になってもまだ戦争は続いている。膠着状態になっている。ロシア軍は首都キエフ奪取に失敗したが、ウクライナ東部で有利に状況を展開している。ウクライナ軍の苦戦も報じられるようになった。
avrilhaines519
アヴリル・ヘインズ

そうした中で、アメリカのアヴリル・ヘインズ国家情報長官がウクライナ戦争の「3つのシナリオ」を提示した。その内容な誰でも考えつきそうなものだが、アメリカの情報・諜報機関のトップの発言は千金の重みがある。アメリカ政府の公式の発表と同程度だと考えてもよい。アメリカ政府は「膠着状態で消耗戦が続く」というシナリオが最も可能性が高いと見ている。

 アヴリル・ヘインズ国家情報長官は、CIAFBIなど40近くのアメリカの情報・諜報機関を束ねるトップである。ヘインズが述べた3つのシナリオは、アメリカの情報・諜報機関がシミュレーションを行って得た結果ということになるだろう。これはつまり、「ロシアが戦争初期の目論見通りにキエフを抑えて、ウクライナ政府を転覆させることはできない。だからと言って、ウクライナがロシアを完全に追い出すこともできない」とアメリカ政府が考えているということだ。そして、アメリカ政府は「きちんとした出口(戦争終結)」について、その形を今のところ考えていないか(考えられないか)、正式に発表することを控えているか、ということになる。

 私はアメリカ政府が当初想定したシナリオが狂ってしまっているのだろうと考えている。アメリカは当初、欧米諸国がウクライナに武器を供与し、ロシアに対して制裁を加えればロシアは早々に撤退することになると踏んでいたと思う。しかし、実態はそうではなかった。ロシア経済制裁は中途半端になってしまい、それどころかエネルギー価格や食料価格の高騰を引き起こして、欧米諸国に直撃している。ロシアからのエネルギーに依存してきたヨーロッパ諸国はこれから厳しい状況になるだろう。更にロシア軍が態勢を立て直してウクライナ東部に注力するという決断を下したことで戦争が長期化することになった。西側諸国によるウクライナへの支援は現在も継続中だが、これもいつまで続くか分からない。これは、アメリカの外交的失敗ということになる。アフガニスタンからの撤退に続く、ジョー・バイデン政権の外交面での大失策ということになる。ホワイトハウスのジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官の更迭論もそのうち出てくるだろう。
jakesullivan519
ジェイク・サリヴァン

 現状における最高のシナリオは早期停戦と和平である。しかし、戦争を停めるのは難しい。それは、太平洋戦争末期の日本でもそうだったが、「それでは命を失った英霊は無駄死だったのか」という論が出て「今一度大攻勢をかけて勝利を得て有利な条件で停戦に」という主張が出てくるからだ。しかし、冷静になって、より冷酷になってみれば、これ以上の被害を出さないことが重要だということになる。しかし、冷静になることが、状況の渦の中にいると、難しいということになる。

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戦争に関する3つのシナリオ(Three War Scenarios

-そしてウクライナにおける戦争の結果に影響を与えるだろうもの

デイヴィッド・レオンハート筆

2022年7月6日

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2022/07/06/briefing/ukraine-war-three-scenarios.html

アメリカ国家情報長官アヴリル・ヘインズは最近、ウクライナにおける起きる可能性のある3つのシナリオについて概略を述べた。

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1つ目のシナリオは、ロシアがウクライナ東部において前進を維持することで、ウクライナ国民の戦う意思を挫き、ロシア軍がウクライナの更なる領域を奪取することが可能となるというものだ。この結果は、ウクライナ政府を瓦解させようという最初の試みに失敗したプーティンにとって新たな目標ということになる。

2つ目のシナリオが最も実現可能性が高い。ヘインズは先週ワシントンで行われた公開の会議の席上、ロシアはウクライナ東部を支配するだろうが、それより先には進むことは不可能だろうと述べた。ウクライナ、ロシア両国は膠着状態に陥る。これをヘインズは「消耗戦による苦闘(a grinding struggle)」と呼んだ。

3つ目のシナリオは、ウクライナは東部でロシア軍の前進を阻み、そして反撃を開始することに成功するというものだ。ウクライナは既にいくつかの領域を再奪取している。特にウクライナ南部で領域を再奪取している。そして、軍事専門家の中には、より広範囲における攻勢が間もなく行われるだろうと予想している人たちもいる。

今日のニューズレターでは、この3つのシナリオのうち、どのシナリオが最も可能性が高いかを判断するためのいくつかの疑問を取り上げ、戦争の最新情報を提供する。

●一時的もしくは永続的(Temporary or permanent

流れは決定的に変わっているのか、それともウクライナ軍が更なる成功を収めようとしているのか?

ウクライナ戦争の最新局面について言えば、ロシアはうまくいっている。ドンバス地方と呼ばれるウクライナ東部には、ルハンスクとドネツクの2つの州がある。情報問題を専門とするジェインズ社のアナリストであるトーマス・ブロックによると、ロシアは現在、ルハンスクのほぼ全域とドネツクの約60%を支配しているという。

昨日、ロシア軍はドネツクの都市でウクライナの重要な供給拠点であるバフムト付近で砲撃を強めた。ロシアはルハンスクでも同様の戦術を用い、都市を占領する前にウクライナ軍と市民を排除した。

ニューヨーク・タイムズ紙モスクワ支局長アントン・トロイアノフスキは、「クレムリンは、彼らの全体的な計画は変わっておらず、全てが計画通りに進んでいるというメッセージを送っている」と語っている。アントンは更に、クレムリンの自信の表れとして、ロシアのメディアは最近、占領した領土で住民投票を実施し、正式に併合する計画を報じていると指摘した。

しかし、ウクライナは西側諸国から高性能の兵器が提供されている恩恵を受けている。そして、ウクライナ軍がそれらの兵器をこれまでよりもうまく活用できるようになる日が近いのではないかと考える理由もある。

戦争の初期段階において、アメリカ、EU、その他のウクライナの同盟国は、ジャベリンとして知られる肩撃ちのミサイルシステムのような比較的単純な兵器を送っていた。これらの兵器は、ロシア軍の小集団からウクライナの領土を守るのに役立った。最近では、西側諸国がより強力な大砲、例えばトラックベースのロケットシステム「ハイマース(HIMARS)」を送り、ウクライナが東部で大規模に増強されたロシア軍に耐えられるようにすることを意図している。

私の同僚であるジュリアン・バーンズが指摘するように、ジャベリンの使い方を訓練するのは数時間しかかからない。ハイマース(HIMARS)の訓練には、戦場への輸送と同様、数日から数週間かかる。今後数週間のうちに、ウクライナは増え続けるハイマース(HIMARS)を使ってロシア軍に更なる損害を与えることができるのか、ジュリアンは注視していると述べた。

●ロシア国内での徴兵は無い(No Russian draft

ロシア軍は兵員を消耗しているのだろうか?

最近起こった2つの出来事から不思議に思うことがある。まず、私の同僚であるトーマス・ギボンズネフが最近の戦争分析で説明したように、ロシアは部隊を補充するために、民間企業であるワーグナー・グループのような外部部隊に頼らざるを得なくなったのである。第二に、プーティンはドンバス地方での最近の勝利に関与した部隊のいくつかに休養を命じたが、これはそれらの部隊が疲弊していたことを示唆している。

ジュリアンは次のように語った。「ロシアがドンバスを越えて前進したいのであれば、これまでやりたがらなかった大量動員を行う必要があるというのがアメリカ政府関係者と外部アナリストの共通認識だ。ロシアは徴兵制を実施し、過去に兵役に就いた兵士を呼び戻し、軍隊を再建するために政治的に痛みを伴う措置を取る必要がある。今のところ、プーティンはそうする気がない」。

ロシアは、兵士や武器など、ウクライナよりも多くの資源を持っている。しかし、ロシアの資源には限界がある。特に、プーティンが大量動員のために政治資金を使うことを望まないのであればなおさらである。

この限界は、ウクライナがロシアの東方での獲得物を保持し、反撃と内部の抵抗、更には欧米諸国の経済制裁によって、ロシア軍を徐々に疲弊させるという見通しを生じさせる。その結果、プーティンはウクライナの大部分を残したまま最終的に停戦を受け入れる可能性がある。

ジュリアンは「それは完全な勝利にはならないだろう。それが現実的かもしれない」と述べた。

●戦争神経症(シェル・ショック、Shell shock

しかし、ウクライナの兵力不足は更に加速しているのだろうか?

ウクライナ・ロシア両陣営とも、1日に数百人という高い割合の死傷者を出しているようだ。その結果、ウクライナはほとんど訓練を受けていない部隊にますます頼らざるを得なくなっている。

また、生き残った部隊は精神的なダメージを受ける危険性もある。東部での戦闘方法は、絶え間ない砲撃の応酬で、「シェル・ショック」という言葉を生んだ第一次世界大戦の塹壕戦(trench warfare)に似ていると同僚のトーマスは指摘する。

匿名のウクライナ軍使命感はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対して次のように語っている。「砲撃の最中は、壕の中で砲撃が終わるのを待つしかない。このような砲撃のために精神的にダメージを受ける人もいる。彼らは、何に遭遇しても、心理的に準備ができていないことが判明している」。

ウクライナの未来が不確かであるのと同様に、先週ヘインズが述べた3つのシナリオの概要を説明したときに認めたように、現在の状況は明らかに悲惨である。ヘインズは「要するに、絵はかなり厳しいままだ」と言った。

=====

アメリカのスパイ部門トップがウクライナ国内におけるロシア軍に待ち受けているのは「消耗戦による苦闘」と予測(Top US Spy Sees ‘Grinding Struggle’ Ahead for Russia in Ukraine

・アヴリル・ヘインズは戦闘の長期化が最も起こりうるシナリオと指摘

・「自主的な制裁」のためのアメリカ企業による行動が大きな影響を与えると発言。

エリック・マーティン、ピーター・マーティン筆

2022年6月30日

『ブルームバーグ』誌

https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-06-29/top-us-spy-sees-grinding-struggle-ahead-for-russia-in-ukraine

アメリカのスパイ部門トップが、ウクライナ国内のロシア軍には「消耗戦による苦闘」が待っており、ウラジミール・プーティン大統領の軍隊は少しずつ利益を上げることが出来るが、大きな突破口を見つけることが出来てないと考えていると述べた。

アヴリル・ヘインズ国家情報長官はワシントンで開催された商務省産業安全保障局の年次会議に出席し、アメリカの情報機関が予測する3つのシナリオのうち最も可能性が高いものとして、このシナリオを提示した。

より可能性が低い他のシナリオは、ロシアが突破口を開くか、ウクライナが前線を安定させ、南部で小さな利益を上げるかというものだ。

アメリカの情報機関は、ウクライナ軍を崩壊させながらドンバス東部で利益を上げるというプーティンの短期的目標と、ロシア軍が実際に達成できることの間にギャップがあると考えているとヘインズは指摘する。

ヘインズは軍事的な挫折に直面しても、プーティンの長期的な目的は首尾一貫していると指摘した。ロシアの指導者プーティンは依然としてウクライナの大部分を手に入れ、NATO同盟への加盟を阻止することで同国の「中立化(neutralization)」を達成しようとしているとヘインズは付け加えた。

またヘインズは、ロシアの侵攻に対して、アメリカ企業がどれほどの「自主的な制裁(self-sanction)」をするのか情報機関は予想していなかったとも述べた。

「アメリカ企業による自主的な制裁はロシア経済にかなりの大きな影響を与えた。民間企業が厳しく状況に対処して投資しないことに決定した。これは、今、私たちがより高く評価しようとしている点だ」とヘインズは述べた。

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(終わり)※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 古村治彦です。

 今回はウクライナ戦争の停戦をできるだけ早く実現すべき理由に関する論稿をご紹介する。論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトはリアリズムの観点から、停戦すべき理由(アメリカの利益になるという観点でもある)を次のように挙げている。まず、「今解決できる問題は速やかに解決して、次に発生する問題に備える」ということである。簡単に言えば心配事はできるだけ減らすということだ。これは私たち自身の生活に置き換えてみても分かりやすい。私たち自身も小さなことから大きなことまで様々な問題に直面する。しかも人生において問題は常に降りかかってくる。抱えている問題が多く成れば身動きが取れなくなる。従ってすぐに解決できそうな問題は速やかに解決したほうが良い(これは実は難しいことではあるが)。

 二つ目の理由はウクライナ戦争を速やかに停船させることで、他の同盟諸国やパートナー諸国の防衛を強化することができる。これまでこのブログでもご紹介してきたように、アメリカは資金や物量をウクライナに投入しているが、そのためにアメリカ軍全体で武器が不足していることがある。こうした状態で別の問題が起きた場合にうまく即応できない可能性がある。三つ目の理由は戦争のエスカレートを防ぐことである。現在はウクライナ国内に限定された戦争になっており、当事者はロシアとウクライナだ。しかし、NATOショックが関与を強め、それにロシアが反発することで、予想外の事態(ロシアによるNATO諸国への攻撃、もしくはNATO諸国によるロシア侵攻)が起きる可能性もある。そうなれば、戦争が拡大し、戦争終結の道筋は見えなくなる。限定的な戦争のうちにできるだけ早く停戦すべきということになる。

 四つ目の理由は、アメリカが仲介してロシアとウクライナに働きかけて停戦を実現することで、アメリカの国際的な影響力と地位がより確固としたものとなるということだ。ウォルトはイスラエルとパレスティナの和平にアメリカの歴代政権が失敗したことで、アメリカの中立的な調停者のイメージは損なわれていると指摘している。そして、中国が今回のウクライナ戦争の調停に関与できていないことは中国の国際的な地位の向上にとってはマイナスだともしている。

 五つ目の理由は戦争によって国際的な貿易取引が正常に行われないことでの不利益を排除するということだ。これは私たち自身が日々の生活で感じていることだ。エネルギー価格の上昇から食料品や日用品の値上げラッシュに苦しんでいる。世界各国がインフレーションに見舞われ、人々を苦しめている。停戦することでそれが緩和される。そして、六つ目の理由としては人々の生命や尊厳を尊重することである。戦争によってウクライナとロシア双方で多くの死者が出ている。それも若い人々が最前線で犠牲になっている。戦争自体が今すぐになくなるということはないだろうが、若い人々を犠牲する戦争は回避するということが必要であると私は考える。

 このように停戦すべき理由を整理してもらえると、私たちがウクライナ戦争だけではなく、国際情勢全般を考える時の材料となる。日本の場合について言えば、朝鮮半島有事、中国と台湾の関係について考える際に参考になる。勇ましく戦うことも重要であるが、どのように戦争を終わらせるかということを常に念頭においておかねば、そのタイミングを失い、大きな損失を被ることになる。

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ウクライナ和平合意のためのリアリズム的ケース(The Realist Case for a Ukraine Peace Deal

-紛争解決は頭でっかちの理想主義者だけのものではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年3月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/29/realist-case-ukraine-peace-deal/

最近、戦争が全ての人の口やノートパソコンの画面上にある。私たちは毎日、ウクライナの最新ニュースに目を通し、実在の(あるいは想像上の)専門家たちの意見を読み、地上と空中で、どちらが勝っているのかを見極めようとしている。当然のことながら、楽観的な予測も悲観的な予測も簡単に見つけることができる。

戦闘に注目が集まるのは理解できるが、最終的に重要なのは、紛争がどのように解決されるかである。ロシアの降伏、モスクワの政権交代、ウラジミール・プーティン大統領の戦争犯罪の訴追が唯一受け入れられる結果だと宣言することは、感情的には満足できる結果かもしれないが、そのような結果はあり得ない。また、これらの目標を戦争目標とすることは、戦闘を長引かせ、エスカレートのリスクをさらに高めることになる。

ウクライナのことを考えるなら、これ以上被害が拡大する前に戦争を終わらせることが当面の目標になるはずだ。トーマス・グラハム、ラジャン・メノン、マイケル・オハンロン、アナトール・リーヴェンがこの困難なテーマに思慮深い論文発表を通じて取り組み始めている。彼らは共通して戦争を終わらせることがいかに容易ではないかを認識している。更に最終的な目標は紛争解決であるべきで、単に戦闘を終わらせるだけでなく、後日の再戦の可能性を低くする政治的な取り決めをすることということになる。

「リアリズムを信奉する学者は紛争解決を、現実世界の問題とはかけ離れた、頭でっかちの学者の間で流行っている素朴で理想的な考えに過ぎない」と読者である皆さんは考えるかもしれない。結局のところ、リアリズムは無秩序な政治秩序に組み込まれた競争的傾向を強調するものではないだろうか? しかし、リアリストが紛争を解決することに関心がないと考えるのは間違いである。正しく理解すれば、可能な限り紛争を解決するための厳格なリアリズム的なケースが存在する。それを整理してみたい。

諸大国が進行中の紛争を解決しようとする最も明白な理由は、既存の問題を現在の外交政策優先事項から取り除くということである。リアリストたちは、新たな問題が常に次のコーナーに潜んでいると認識している。今解決できる問題や紛争は全て、新たな危機が発生した時に心配する必要のないものだと考える。

イランとの核合意はその分かりやすい例となる。この協定が有効であった時、アメリカはイランの核の可能性についてそれほど心配する必要はなく、新たな協定の交渉に多くの時間やエネルギーを割く必要もなかった。イランが合意を遵守している限り(国際原子力機関[IAEA]はそれを査察によって繰り返し証明した)、この問題は後回しにすることができた。しかし、ドナルド・トランプ米大統領(当時)は合意を離脱することで、イランの核開発を再びアメリカの外交政策の最重要課題に位置づけた。トランプの失策によって、アメリカは国益を損なう形で地域の暴力に拍車をかけた。それだけでなく、核合意からの離脱によって、バイデン政権は、イランの核兵器製造に向けた新たな進展を阻止するための新協定の交渉に時間、エネルギー、資金を割くことを余儀なくされたのである。ジョー・バイデン大統領、アントニー・ブリンケン国務長官、ジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官、そして彼らのティームのメンバーたちは、今この問題に一分たりとも時間を費やす必要がなければどんなに良かっただろうかと考えているに違いない。

紛争を解決する二つ目の理由は、地域紛争に巻き込まれている、あるいは巻き込まれる可能性のある同盟諸国や友好国を守ることである。同盟諸国や友好国がより安全であることで、他の面でもその大国を助けることができる。特にアメリカのように、様々な地域に多くのパートナーを持ち、自国の国益について広い定義を採用している大国にとっては、これはウィン・ウィンの関係ということになる。

三つ目に、当然のことながら、紛争を解決することで、望まぬエスカレーションのリスクを減らすことができる。どのような戦争であれ、進行中であれば、第三者が自発的に参戦したり、主要な戦争当事国がより効果的に紛争を処理しようとする際に巻き込まれたりする可能性が常にある。アフリカのコンゴ戦争は、最終的にコンゴ民主共和国に隣接するほぼ全ての国を巻き込んだ。ヴェトナム戦争はラオスやカンボジアに拡大し(特にカンボジアに恐ろしい影響を与えた)、イラン・イラク戦争は外国の石油タンカーへの攻撃につながり、最終的にアメリカなどが軍事的に対応するようになった。戦闘を停止すれば、その問題は一夜にして消滅した。

更に言えば、戦争は勝者にとっても意図せぬ結果をもたらすものだ。1980年代にソヴィエト連邦に対抗してアフガニスタンのムジャヒィデンをアメリカが支援したことは、当時は名案と思われたかもしれないし、ソ連帝国を崩壊させることに有効であったと言うこともできるだろう。しかし、それは1990年代以降、アメリカ人を攻撃するテロ運動の種をまき、最終的にはアメリカを長く悲惨な世界規模の対テロ戦争に駆り立てることになった。そして、40年以上にわたってほぼ絶え間なく続く戦争に耐えてきたアフガニスタンの人々にとって、何のプラスにもならなかったことは確かである。紛争を助長するのではなく、当時、紛争を解決するためにもっと努力すれば、アメリカを含む世界中の全ての人々がより良い生活を送れたかもしれない。

四つ目に、進行中の戦争を止める手助けをすることは、大国がその影響力と、より大きな利益のために働く能力を示す理想的な方法だ。例えば、20世紀の最初の10年間、セオドア・ルーズヴェルト大統領は日露戦争の調停に成功し、世界舞台で新たに影響力を持つアクターとしてアメリカの地位を高めた。70年後、ジミー・カーター大統領はキャンプ・デーヴィッド協定とエジプト・イスラエル和平条約を成功させたが、これも同様の効果をもたらした。一方、クリントン、ブッシュ、オバマの各政権がイスラエルとパレスティナの和平交渉に失敗したことは、アメリカが有能で客観的な調停者であるというイメージを低下させた。

このような観点からすると、ロシアによるウクライナ戦争は、中国の習近平国家主席にとって大きな機会損失であったと振り返る日が来るかもしれない。もし習近平がロシアとウクライナの間を調停し合意を結ばせることができれば、中国はどれほどの威信を手にすることができただろう。21世紀をリードするグローバル・パワーになるという中国の願望が強まるだけでなく、国家主権の原則に対する中国の公約がより強調されることになったはずだ。アメリカやヨーロッパの同盟諸国、ロシアなどの退廃的で衰退した諸大国は、争わなければ意見の相違を処理できないが、中国の世界情勢への取り組みは平和をもたらすことを、この戦争で証明したと北京が周囲に自慢できる機会となったはずだ。この機会を逃した習近平は、過去数年間プーティンを強力に支援したことが悪い賭けであったと認めることができないだけなのだろう。もしそうなら、習近平は戦争を引き起こしたのと同じ自滅的な硬直状態を示していることになる。

五つ目の理由として、紛争や戦争が常態化した世界では、貿易や投資が安全かつ自由に行われなくなることである。ウクライナ戦争が、既に進行していたグローバリゼーションからの後退を加速させている今、何が起きているのかを考えてみていただきたい。私の同僚であるダニ・ロドリックが『ニューヨーク・タイムズ』紙とのインタヴューで語ったように、この戦争は「高度グローバリゼーションの棺桶に釘を打ち込んだ」ということになる。リベラル派はしばしば経済的相互依存(economic interdependence)が平和を促進すると主張し、それを裏付ける証拠もある。しかし、平和が相互依存を促進すると言う方がより正確かもしれない。戦争状態にある国は一般に魅力的な投資先ではなく、国民の生活向上から資源を切り離して戦場に投入せざるを得ない。リアリズムは世界情勢の対立的要素を重視する。それは、世界経済がより統合されることによる物質的利益を軽視するからではなく、その利益を享受するには戦争の少ない世界が必要だと考えるからだ。

最後に決して言い忘れてはならない理由として、紛争を解決することは、人間の苦しみを軽減し、人間の尊厳を高めるので、望ましいことだという点が挙げられる。リアリズム的な外交政策アプローチでは、国家が死活的な利害が絡んでいる時に人間の苦しみや尊厳に関する懸念をしばしば無視したとしても、こうしたことが重要でないとは一言も言っていない。しかし、リアリストたちはこのような状況をパワーポリティクスの悲劇の一部とみなし、それを軽減するための実際的な手段を歓迎する。紛争解決は最も明白な手段の一つである。

これらのポイントは、「どんな代償を払っても平和を」という主張ではない。また、一時的な停戦は民間人を逃がし、人道支援を容易にするが、次の暴力行為までの中断に過ぎない和平を受け入れることを規定しているわけでもない。また、公平を期すために述べれば、紛争を煽り、敵国を罠にはめ、地政学的に強硬な手段を取ることで、別の国がより安全になる場合もある。紛争解決の利点を認めることは、国家に利益がもたされることもあるのだということを否定するものではない。

そして、私がこれまで主張してきたように、アメリカは他のどの大国に比べても、紛争解決によってより大きな利益を得る国である。近年の自業自得の外交的な失敗がありながらも、世界におけるアメリカの地位は極めて良く、これを大きく損ねるのは、国内での誤った政策や党派対立による政治、気候変動、海外での深刻な大きな紛争だけである。強硬で利己的な、自国中心的な視点から見れば、平和は常にアメリカの国益にかなうものである。

ジョージ・W・ブッシュが悲しむべきことを学び、プーティンが今日再び発見するかもしれないように、戦争という鉄のサイコロを振ると、指導者たちが意図も想像もしなかった状況に国家が陥る可能性がある。賢明な指導者たちは、紛争を避け、可能な限り紛争を解決し、必要な場合にのみ、十分に考え、代替案を慎重に検討した上で、かなりの恐怖心をもって紛争に参加しようとするものである。

このことは、ウクライナ戦争にとって何を意味するのだろうか。ロシアが期待していた迅速な勝利が得られなかった今、戦争は当初の目的を全て達成することはできず、理想的とは言えない結果を受け入れなければならないことを主人公たちが理解するまで終わらない、コストのかかる膠着状態となる可能性が高い。ロシアは、従順な衛星国としてのウクライナやモスクワを中心とした「ユーラシア帝国」を手に入れることはできないだろう。ウクライナはクリミアを取り戻すことも、NATOへの完全加盟を得ることもできない。アメリカは、他の国家をNATOに加盟させることをいつかは諦めなければならないだろう。しかし、真の企図は、永続的に共存し、当事者たちが機会を見て覆そうとしないような和平案を考案することだろう。これは非常に困難な課題であり、賢明な人たちがそのような合意がどのようなものであるかを理解しようとするのは、早ければ早いほどよいだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授

(貼り付け終わり)

(終わり)※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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