古村治彦です。
今回は、アメリカとイスラエルの関係についての重要な論稿を皆様にご紹介いたします。
現在、アメリカのバラク・オバマ大統領とイスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相との関係は悪化しています。
このことを敷衍していくと、これからの2年弱の期間は、オバマ大統領とイスラエル=安倍首相(その周辺)=ネオコン・人道主義的介入派のトライアングルの戦いということが言えるかと思います。
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オバマはイスラエルの政権交代を求めている(Obama Is Pursuing
Regime Change in Israel)
ネタニヤフのアメリカ議会の演説招聘に怒り、ホワイトハウスは静かにイスラエルの選挙の実施前にネタニヤフ首相を不安定化させようとしている
アーロン・デイヴィッド・ミラー(Aaron David Miller)筆
2015年2月12日
『フォーリン・ポリシー』誌
http://foreignpolicy.com/2015/02/12/obama-is-pursuing-regime-change-in-israel-bibi-netanyahu-elections/?utm_content=bufferfc380&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer
ホワイトハウス、ジョン・ケリー国務長官、政府高官たちは、イスラエル政治と選挙に介入することはないと繰り返し表明してきた。そして、通常の状況であれば、不介入は当然のルールである。
しかし、イスラエルが突然しかも露骨にアメリカ政治に介入してきたらどうだろう?オバマ政権は既にイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に飽き飽きしてしまっており、3月17日に行われるイスラエルの総選挙で新指導者が選ばれることを熱望しており、接戦を演じているネタニヤフのライヴァルを支援するためにイスラエルのアメリカ政治介入を逆に利用しようとしているのだろうか?
ネタニヤフ首相(左)とオバマ大統領
オバマ大統領は政権交代を歓迎するだろう。これまでイランのイスラム教指導者による政治形態を変化させる機会はほぼなかった。しかし、イスラエルに関して言うと、そうではない。アメリカ連邦下院のジョン・ベイナー議長がネタニヤフを連邦上院と下院の合同の場での演説へ招聘した。それを受け入れたことは失敗である。ネタニヤフ首相はオバマ政権にある種のチャンスを与えることになる。そして、ホワイトハウスはこの機会を利用して、ネタニヤフ首相はアメリカ・イスラエル関係に悪影響を与える人物であると明確にすることは間違いない。
ベイナー下院議長(左)
ホワイトハウスは既にオバマ大統領がネタニヤフ首相と会うことはないと明言している。それでもネタニヤフは3月初めに訪米して、アメリカ連邦議会で演説することにこだっている。ネタニヤフ首相にとっての良いニュースとは、オバマ首相と会談して失敗する危険がないということだ。
そこまで良くないニュースは、ホワイトハウスのドアが現職のイスラエル首相に対して閉じられてしまうのはそこまで頻繁には起きないというものだ。ホワイトハウスのジョシュ・アーネスト報道官は、オバマ大統領がネタニヤフ首相と会談しない理由を、イスラエル国内の総選挙が近いためとしている。私は断言する。もしオバマとネタニヤフが友人同士なら、二人は大統領執務室オーヴァルオフィスで抱き合うことだろう。ビル・クリントン元大統領は1996年のイスラエル総選挙に関して、当時のシモン・ペレス首相を助けようとして彼とホワイトハウスで会談を行った。この時もイスラエルの総選挙が近い時期であった。しかし、この時は現職であるシモン・ペレスは敗北した。
オバマ政権は中米イスラエル大使ロン・ダーマーに対する怒りをマスコミに表明するのに時間を無駄にしなかった。ダーマー大使はネタニヤフ氏へのアメリカ連邦議会からの招聘の仕掛け人だ。オバマ政権のある高官は、ダーマーがネタニヤフの政治生命をアメリカ・イスラエル関係よりも重要だと繰り返し発月していたと述べている。ここではっきりさせておこう。ダーマーに対する攻撃はすなわちネタニヤフに対する攻撃である。そのような個人攻撃を政権高官がするのは極めて珍しい。現在、ダーマーは彼の上司と同じく、ワシントンで総スカンを食っている。彼の存在と評価はアメリカ・イスラエル関係の機能不全を象徴している。先週、駐イスラエル米国大使のダン・シャピロはイスラエル政府の複数の高官たちと会談した。その内容な厳しいものであった。シャピロは、「この代償をイスラエルは支払うことになる」と発言したと伝えられている。
ロン・ダーマー
ジョー・バイデン副大統領もネタニヤフのワシントン演説に出席しないと見られている。バイデン副大統領は親イスラエルとして知られているが、そのような人物がネタニヤフの演説に出席しないということで、民主党の連邦議員の中にも欠席を表明する人たちが出ている。パトリック・リーヒー(ヴァーモント州選出)連邦上院議員は他の人々と一緒に欠席を表明している。欠席者の数は増えそうな勢いである。バイデン副大統領の欠席は、「イスラエルとアメリカの関係が悪化している」というシグナルをアメリカ側がから送ることを意味し、ホワイトハウスは演説によってネタニヤフに得点を稼がせないようにしているのである。
バイデン副大統領(左)とネタニヤフ首相
オバマ政権高官は誰もネタニヤフと会談を行わない予定だが、彼のライヴァルである労働党党首イザク・ヘルツォグとは会談を行う予定だ。イスラエルのマスコミは、繰り返し、今週末に行われるミュンヘンでの安全保障会議でヘルツォグが非公式にバイデンとケリーと会談すると伝えている。また、この件についてのヘルツォグの発言を報道した。この結果、有権者がネタニヤフではイスラエルにとって最重要の同盟国であるアメリカとの関係をうまく処理できないのではないかという疑念を持つことになれば、それはオバマ政権にとって喜ばしいことだ。当然のことながら、ヘルツォグはこの機会を利用して、アメリカ・イスラエル関係の重要性を訴えている。彼は、イスラエルの安全保障はアメリカとの戦略的信頼に基づいているものであって、両国の指導者が良い関係にあることが重要だと主張している。
イザク・ ヘルツォグ(右)とケリー国務長官
しかし、これはただのコーヒーカップの中の嵐なのか、それとも、選挙結果をネタニヤフ首相に不利にすることはないにしても、ネタニヤフ首相追い落としの一致した行動なのだろうか?ジェイムズ・ベイカー元国務長官は、常々「曲芸師のように乾草の俵の上には乗らない」と発言していた。私はフォーリン・ポリシー誌の読者の殆どもそう考えていると思う。
ジョージ・H・W・ブッシュ(左)とジェイムズ・ベイカー
しかし、それでうまくいくだろうか?
確かに、ベイカーはそうした慎重な態度でいくつかの洞察を得たことだろう。1992年、イツハク・ラビンは僅差でイツハク・シャミルを破った。その理由は、ベイカーとジョージ・H・W・ブッシュ(父)大統領の努力であった。彼らは、イスラエル首相であったシャミルに対して、イスラエルの入植政策に対しての不快感を表明して、入植地に対する住宅ローン保証を与えないと決めた。これがイスラエルの有権者は、シャミルがアメリカとの関係で間違いを犯したと判断するためのシグナルとなった。一方で、ビル・クリントンは1996年の総選挙でネタニヤフと争っていた現職のペレス首相を助けようとしたが、うまくいかなかった。その他の問題であるハマスによるテロ、選挙戦術の失敗、レバノン問題が決定的な要素となり、ペレスは敗北した。
ラビン(左)とシャミル
シモン・ペレス(左)とビル・クリントン
3月17日のイスラエルの総選挙の結果を左右する要素が多くある。そして、バラク・オバマ大統領がこの選挙において重要な要素とはならない。実際、イスラエルにおいては、オバマ大統領はクリントンほどには愛されていない。2014年1月の世論調査によると、イラン問題に関して、20%がオバマ大統領を信頼し、50%強がオバマのイスラエル観を心配しているということだ。とにかく、イスラエル国民はオバマ大統領がホワイトハウスにいるのも後2年くらいであると分かっている。しかし、彼らはまた、アメリカ・イスラエル関係は重要であること、特に中東情勢が激動の時期には重要であることをよく理解している。来たるべき総選挙では、現職のネタニヤフ首相がアメリカとの関係をめちゃくちゃにしたという認識を有権者が持つことは選挙結果に大きな影響を与えることになるだろう。
そして、読者の皆さんはホワイトハウスがその事実に気付いていると信じるべきなのだ。オバマ大統領とケリー国務長官はネタニヤフが政権の座から去り、労働党のヘルツォグとツィッピー・リヴニのコンビが政権の座に付いて欲しいと願っているのだ。そして、オバマとケリーは彼らができることは何でもするだろう。さすがに選挙CMに出ることはできないが、労働党の2人を勝たせるためにそれ以外は何でもやるだろう。
リヴニ
(終わり)
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