古村治彦です。

 

 ウェブサイト「副島隆彦の学問道場」内の「重たい掲示板」にアルルの男・ヒロシ(中田安彦)研究員が「[1756]安倍晋三が米議会で演説する件」として2015年2月23日に掲載した記事の中で、私が「おかしい」と思った部分があり、それを書いておきたいと思います。それは、中田研究員が貼りつけた共同通信の記事です。それを下に転載貼りつけします。


「重たい掲示板」の投稿記事へは、「こちら」からどうぞ。


(転載貼りつけはじめ)

 

(貼り付け開始)

 

安倍首相、米議会演説へ 池田勇人氏以来54年ぶり 

共同通信 2015年2月22日

 

 

 日米両政府は、安倍晋三首相が4月下旬からの大型連休中の訪米時に米議会で演説を実施する方針を固めた。日本政府関係者が21日明らかにした。1961年に池田勇人首相が下院で演説して以来54年ぶりとなる。日本の首相としては前例がない上下両院合同会議での演説へ最終調整している。先の大戦への反省を踏まえ、戦後一貫して「平和の道を歩んできた」との見解を示し、未来志向の関係を呼び掛ける考えだ。

 

 首相の祖父、岸信介首相も57年に演説している。

 

 安倍首相は演説で、TPPなど経済分野を含めた幅広い両国関係の深化が相互の国益にかなうとアピールするとみられる。

 

2015/02/22 02:00 【共同通信】

(貼り付け終わり)

 

この記事は何処が安倍首相を招請したか書いてないが、共同通信の英語版には次のようにある。

 

(引用開始)

 

According to the government official, U.S. Deputy Secretary of State Antony Blinken proposed, when he called on the prime minister’s office on Feb. 13 during a trip to Japan, that Abe address Congress, and he agreed.

 

Abe also expressed hope to make address Congress during a meeting in Tokyo on Monday with a bipartisan group of U.S. lawmakers led by Rep. Diana DeGette, a Colorado Democrat.

 

(引用終わり)

 

(転載貼りつけ終わり)

 

 古村治彦です。

 

 私が「おかしい」と思ったのは、英語版の方です。前半部を翻訳しますと、「ある政府高官によると、米国務副長官アントニー・ブリンケンが、2015年2月13日の訪日中に首相官邸を訪問し、安倍首相に対して、アメリカ連邦議会(Congress)での演説を提案し、安倍首相も同意した」となります。

 

①アメリカは三権分立(Separation of Power)が徹底している国です。「分立」とありますが、「緊張感を持って、自分の縄張りを犯されないように見張りあっている」状態です。この中で、行政府の国務省の一職員であるブリンケンが、連邦議会のことで何かを言うことありえませんし、あってはいけないことです。これは大変な越権行為です。「公務員が連邦議会のことで云々した」となると、これは大変なことです。それは、アメリカの国家体制である三権分立をないがしろにする行為だからです。

 

②ブリンケンには、国務省派遣で連邦上院外交委員会のスタッフ(その時の委員長は現在のジョー・バイデン副大統領)という経歴もあります。ですから、議会とのパイプがあって、「安倍首相の連邦議会での演説」について、提案があったということも考えられます。しかし、それはあくまで非公式であり、表に出てはいけない話です。それを「米国務副長官のアントニー・ブリンケン」が議会演説を提案した、と共同通信に漏らした「the government official」は、実は大変なことをしでかしているのです。

 

③ブリンケンが安倍首相を訪問したのが2015年2月13日です。その後、2015年2月16日に米議会の超党派議員団が安倍首相と会談しています。英語の記事の後半部にある通り、「安倍首相は月曜日(16日)に、コロラド州選出で民主党所属のダイアナ・デゲット連邦下院議員率いるアメリカの超党派の連邦議員たちと東京で会談し、その中で、連邦議会での演説を希望した」ということです。その時の様子を日経新聞は次のように伝えています。

 

(新聞記事転載貼りつけはじめ)

 

●「首相、米議会演説に意欲 春で調整の訪米時に」

 

日本経済新聞電子版 2015年2月17日

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDE16H05_W5A210C1PP8000/

 

 安倍晋三首相は16日、米議会の超党派議員団と首相官邸で会談し、春の大型連休中で調整している自身の米国訪問時の米議会での演説に意欲を示した。デゲット下院議員が「首相が米議会で演説できるようにしたい」と話し、首相は「できればありがたい」と応じたという。同席者が明らかにした。

 

 日本の首相による米議会での演説が実現すれば1961年の池田勇人首相以来54年ぶりとなる。首相の祖父の岸信介首相も演説したことがある。

 

 首相は議員団との会談で、戦後70年について「戦火を交えた両国は戦後和解して強固な同盟国となり、ともに世界の平和と繁栄に貢献してきた。今後も幅広い分野で緊密に連携したい」と強調した。米側は「首相の訪米の成功を期待している」と語った。

 

(新聞記事転載貼りつけ終わり)

 

 古村治彦です。

 

④超党派議員団は、安倍首相に対して「演説ができるようにしたい」と述べて、安倍首相が「できればありがたい」と応じています。これはまだ正式な招待という訳ではありません。もちろん内々には根回しが済んでいるということもあるでしょうが、正式な招待のためには、連邦下院議長のジョン・ベイナーの親書なり、招待状がなければなりません。また、超党派議員団は別の機会では安倍首相の歴史認識が日米関係にとって懸念となっていると語ったとも伝えられています。以下の記事をお読みください

 

(記事転載貼りつけはじめ)

 

●「日本を訪問中の米議員団、安倍首相の歴史観を危惧「第二次世界大戦をめぐる問題で、日本が逆行しているとみなされないようにすべき」―米紙」

 

Record China 219()1037分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150219-00000029-rcdc-cn

 

日本を訪問中の米議員団、安倍首相の歴史観を危惧「第二次世界大戦をめぐる問題で、日本が逆行しているとみなされないようにすべき」―米紙

 

18日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、日本を訪問中の米国の議員団が、安倍晋三首相の歴史観が日米関係にとって懸念になっていると述べたと報じた。写真は安倍晋三首相。

 

2015218日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、日本を訪問中の米国の議員団が、安倍晋三首相の歴史観が日米関係にとって懸念になっていると述べたと報じた。

 

ウォール・ストリート・ジャーナルが17日に報じたところによると、日本を訪問中の米国の超党派の議員団が、安倍晋三首相の第二次世界大戦に対する歴史観が日米関係にとって大きな懸念になっていると述べた。ダイアナ・デゲット下院議員(民主)は、記者団に対して、「第二次世界大戦終戦70年にあたり、慰安婦問題をはじめ、第二次世界大戦に関連したその他の問題で日本は逆行しているとみなされないようにすることが重要である」と述べた。また、安倍首相の「歴史修正主義」は、日本の近隣諸国との関係を傷つけるものだとの見方を示した。

 

日系のマーク・タカノ議員(民主)は、非常に二極化された米国の政治的環境から見ても、安倍首相の歴史観は超党派の議員の反発を起こす危険性があると警告した。また、ジェームズ・センセンブレナー議員(共和)は、安倍首相と韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の首脳会議がまだ行われていないことに対して懸念を示し、北朝鮮が脅威となる可能性に対して日本、韓国、米国が協力することの重要性について述べたという。(翻訳・編集/蘆田)

 

(記事転載貼りつけ終わり)

 

 古村治彦です。

 

⑤このような状況では、安倍首相の連邦議会での演説が確実に行われるという保証はありません。三権分立の話に戻ると、共同通信の英語版記事では、「2月13日にブリンケンが機械演説を提案し、安倍首相が同意した」とあり、「2月16日に超党派議員団との会見で、安倍首相が議会演説を希望した」とあります。ブリンケンが提案することもおかしいですし、議会演説に関しては、何も正式には決定していないことが分かります。

 

⑥以下の投稿から私が考えたことは、「首相官邸側の高官が共同通信をはじめとするマスコミを使って、議会演説を既成事実化しよう」としているのだということです。3月3日にアメリカ連邦議会で演説するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、オバマ大統領ともバイデン副大統領とも会談できません。「それに比べて、安倍首相はオバマ大統領とも会談でき、議会でも演説できる」という最大限の厚遇で迎えられるのだ」ということに官邸側はしたいのでしょう。しかし、そこで、「ブリンケン米国務副長官からの議会演説の提案」という内容を話してしまいました。これは大きなミスです。

 

中田研究員の投稿を読んで、私が「おかしい」感じた点から考えたことを書きました。

 

(終わり)