アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



 古村治彦です。

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 副島隆彦先生の最新刊『日本に恐ろしい大きな戦争(ラージ・ウォー)が迫り来る』(講談社、2015年)を皆様に強くお勧めします。

  


 先日、入手し、さっそく読み始め、読了しました。この本はアメリカ政治情報と分析だけでなく、ヨーロッパ、中東と東アジアの分析まで含まれた広範な内容になっています。2013年から2014年までの世界の動きを概観し、重要な動きを分析し、そこから得た結論がタイトルとなっている「日本に恐ろしい大きな戦争(ラージ・ウォー)が迫り来る」ということになります。「戦争?そんなアホな」と思っておられる方々は、タイトルを見ただけで「与太話」の本だと思って忌避されるかもしれませんが、俗に言う「騙されたと思って」読んでみてください。目からうろこの情報と分析が満載です。

 

 拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)で私が提示した枠組である、共和党の「ネオコン」と民主党の「人道主義的介入派」対「現実主義派」を副島先生も発展させた形で本の中で使っておられたので、私としては、大言壮語をするつもりはありませんが、とても誇らしく思っています。更には、2016年の米大統領選挙の分析でも、私がこのブログでご紹介した「リベラル・リバータリアン連合」を本の中でご紹介いただいています。
 
 


 まだまだ副島先生の足元にも及びませんが、「情報の目利き」だけは少し勘所を掴んだかなと思います。そして、私が重要だと思う情報は、このブログでこれからも適宜皆様にご紹介して参ります。もうすぐしたら、ウェブサイト「副島隆彦の学問道場」内の「今日のぼやき」コーナーで私のアメリカ大統領選挙の現状分析も掲載されると思いますので、そちらもお読みください。

 

※ウェブサイト「副島隆彦の学問道場」のアドレスは以下の通りです。

http://www.snsi.jp/

 

 私が最近、ご紹介したトム・コットン連邦上院議員(アーカンソー州選出、共和党)の危険性についても、あのイランに対する無礼極まりない公開書簡の前に既に本にして紹介されているところから見ても、この本の網羅している情報の確かさ、分析の確かさは証明されていると思います。

 

 ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く(上)(下)』(幾島幸子、村上由見子訳、岩波書店、2011年)の重要性もまたこの本の中で指摘されています。自然災害(天災)と戦争(人災)を使って、人々の思考力と判断力を奪って、権力者たちと公務員たちが自分たちの思い通りの政策を実行しようとする、この汚いやり方に対抗するためには、「そういうことがあるのだ」ということを知り、それをしっかり理解するしかありません。
 

 

 世界は、戦争を回避して大きな厄災を避けようとする指導者たちと戦争をして(一般の人々の不幸と悲劇を無視できる)、自分たちの利益を追い求めようとする指導者たちとの分裂を反映し、この分裂によって動いていることが分かります。日本は残念ながら、後者の方のアホな指導者を持っているという点で、とても不幸な状況にあります。興味深かったのは、ヨーロッパ各国で台頭している「民族的、極右政党」と日本の「ネトウヨ」との越えられない大きな違いです。やはり近代と前近代の違いがそれぞれの特徴に大きく反映しているのだなと納得できました。

 

 国際紛争の6つの段階の表は専門家でもなかなかうまく説明できないし、そもそもあまり区別などしてこなかった部分だと思います。国際法や戦争法の専門家であれば区別に注意を払うでしょうが、歴史学者や政治学者にとっては盲点かもしれません。「①議論、対立(argument)→②軍事衝突(military conflagration, armed conflict)→③事変、紛争(military conflict)→④戦争(warfare)→⑤和平交渉(peace talks)→⑥平和条約。講和条約=戦争終結条約(peace treaty)」のそれぞれの要素はしっかり覚えておかねばなりません。これからこの段階を踏んでいく「現実」(約80年前には日本にもあった「現実」です)を私たちは経験することになるのでしょうから。

 

 何か悲劇的な事件が起きて、悲しんだり、憤ったり、復讐心を持ったりすることは自然なことです。しかし、そうした事件が起きた後に、「いや待てよ、これは何か仕組まれているんじゃないのか」と考えること、副島先生の『余剰の時代』(ベスト親書、2015年)にあった「少し臆病に生きる、疑ってみる」ことが、騙されたり、操られたりしないために重要なのだということ、そして、知識と情報を持つことが何よりも自衛になること、それがこの本の大きなテーマなのだと思います。

 

 私の理解では、ネオコンと人道主義的介入派が「利用」している外国勢力がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相であり、日本の安倍晋三首相です。両者ともに評判が良くないにもかかわらず、総選挙で勝利を収めました。これもまたショック・ドクトリンの成果でもあります。イスラエル国民はイランからの、日本国民は北朝鮮からのミサイルが飛んでくるぞと脅され、「そうならないようにするためには力強いことを言っている指導者を選ぶしかない」ということになってネタニヤフと安倍晋三がそれぞれ指導者に選ばれました。しかし、これが「ショック・ドクトリン」だったらどうでしょう。ネオコンや人道主義的介入派がそれぞれの国の世論を「操った」と考えたらどうでしょう。イスラエルとイラン、日本と北朝鮮をそれぞれ反目させることで誰が利益を得るかを考えるとこのことはすぐに理解できると思います。

 

 世界の不幸と悲劇が私たちの生活に襲い掛かってくることがあっても、慌てず騒がす、粛々と生きていく、この強さを手に入れたい皆様には必読の書だと思います。是非手に取ってお読みいただきたいと思います。

 

(終わり)