アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 安倍晋三首相は現在、アメリカ訪問中です。安倍首相の訪米は2015年4月26日から5月2日まで(日本の大型連休「ゴールデン・ウィーク」の前半)の日程です。詳しい日程は明らかにされていませんでしたが、政治情報分析に定評のあるヴェテラン政治評論家歳川隆雄氏がその詳しい日程を記事にしています。以下をご参照ください。

 

(雑誌記事転載貼り付けはじめ)

 

●「歳川隆雄「ニュースの深層」 これが安倍首相訪米日程の詳細と議会演説「ワーストシナリオ」だ」

 

歳川 隆雄

20150425日(土)

『現代メディア』誌

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43048

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43048?page=2

 

安倍晋三首相は昭恵夫人を伴い、426日から53日まで米国を公式訪問する。訪米日程は公表されていないが、その詳細を掴んだので紹介する。

 

●これが安倍首相の訪米日程詳細

 

426日ボストン:J・Fケネディ図書館をキャロライン・ケネディ駐日大使の案内で訪問。ジョン・ケリー国務長官私邸で晩餐会出席。

 

27日ボストン:ボストン・マラソンのテロ現場にて献花。ハーバード大学でスピーチ、学生との質疑応答。マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボ視察(ノーベル賞受賞の利根川進教授が案内)、ワシントンDCへ移動。

 

27日午後ワシントンDC:アーリントン墓地で献花・ホロコースト記念館訪問。

 

28日ワシントンDC:ホワイトハウスで歓迎式典、オバマ大統領と日米首脳会談・共同記者会見、バイデン副大統領、ケリー国務長官との昼食会、オバマ大統領主催の公式晩餐会。

 

29日ワシントンDC:上下両院合同会議で演説。ベイナー下院議長主催のレセプション、有力上院議員との懇談会、笹川平和財団主催のシンポジウム出席・スピーチ、駐米日本大使公邸で日米関係者を招いて夕食会。

 

30日午前ワシントンDC:米科学アカデミー主催の朝食会、サンフランシスコに移動。

 

30日午後サンフランシスコ:米イノベーション企業家ラウンドテーブルとの懇談会、スタンフォード大学ダニエル・オキモト教授主催のシンポジウム出席、シリコンバレー(テスラモーターズなど)視察、グラッドストン研究所訪問(ノーベル賞受賞の山中伸弥教授らと懇談)、ブラウン・カリフォルニア州知事と会談、日米交流に尽力した約100人を招いたレセプション、ロサンゼルスに移動。

 

51日午後ロサンゼルス:日米交流関係者との昼食、日米経済フォーラム出席、在留邦人によるイベント参加、日系人部隊記念碑献花、全米日系人博物館訪問、同行記者団との内政懇談。

 

2日午前ロサンゼルス:交流イベントを検討中、同午後政府専用機で帰国の途へ(帰国は日本時間3日午前)。

 

まず、ファクトから。ワシントンにあるホロコースト記念館は、歴代米大統領が就任してから最初に訪れる場所であり、日本の首相が訪問するのは初めてだ。米国のユダヤ人社会に対する好ましいメッセージとなる。

 

429日米議会演説でのワーストシナリオとは

 

肝心の米議会演説である。安倍首相は英語でスピーチを行う。草稿は、首相のスピーチライターである谷口智彦内閣官房参与が今井尚哉首相秘書官(政務担当)の意見を聞き、準備した。そして安倍首相が朱入れを行ったものだが、未来志向の格調高いモノになったようだ。

 

キーワードは「和解」である。歴史認識問題については、安倍首相の強い意向から「侵略」と「反省」というワーディングは使われるが、「お詫び」という言葉はない。22日のバンドン会議での首相演説と同じ。

 

外務省にとってのワーストシナリオは、チマチョゴリを着た韓国系米国人女性が議会傍聴席から安倍首相演説中にヤジを飛ばして衛視に強制退去されるような事態が出来し、そのシーンをCNNが撮影・放映することである。

 

佐々江賢一郎駐米大使は今、米上下院の要路に対してそのようなことが起こらないよう、特別の配慮を申し入れているが、各上下院議員は“支援者”向けの傍聴パスを1枚持っており、例えば反日・親韓のマイケル・ホンダ下院議員が提供するようであれば、そうした韓国係女性の入館を法的に規制できない。

 

強運の持ち主の安倍首相が演説中の妨害はないだろうと、官邸・外務省関係者は半ば祈るがごとく見守っている。

 

(雑誌記事転載貼り付け終わり)

 

 安倍首相はボストン、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルスを巡り、帰国する予定になっています。東海岸から西海岸へとアメリカを横断する旅ですが、一点気になったのは、ニューヨークを訪問しないことです。ボストンはアメリカの古都(比べるべくもないですが日本で言えば京都や奈良)ですが、経済や政治の中心とは言えず、歴史と学術の街です。2014年4月にボストン・マラソンで爆弾テロ事件が起き、多くの人々が犠牲になったことは今でも鮮明に記憶されています。それでも「世界」の中心はニューヨークですが、それでも安倍首相訪米はニューヨークではなく、ボストンが選ばれました。

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 ボストンでは、ジョン・F・ケネディ大統領を記念する博物館を訪問しました。案内は安倍首相に同行して帰国した、ケネディ大統領の長女キャロライン・ケネディ駐日アメリカ大使。その後、ジョン・ケリー国務長官の私邸で夕食会が行われました。ジョン・ケリーの家系はユダヤ教からカトリックに改宗しており、母親はフォーブス家の一族です。また、ケリーはケネディ大統領が上院議員の時に選挙ヴォランティアをするなど、ケネディ家とも若い時から親しい関係にあり、2番目の奥様はケチャップで有名なハインツの未亡人ということで、おカネにも全く不自由していません。

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 アメリカの政界で言えば、ケネディ家は民主党系の王朝(共和党系の王朝はブッシュ家)であり、ボストンはその都であると言えるでしょう。訪米して真っ先にボストンを訪問したことは、言わば、「臣従」の儀式とも言えるでしょう。しかし、現在のケネディ家にはすぐに大統領になるとか、アメリカ政界や民主党の中心になるような人物はいません。

 

 それでは誰に臣従する儀式かと言うと、ヒラリーに対する臣従です。それなら、彼女が地盤にしているニューヨークに行くべきですが、今、ニューヨークに行ってもヒラリーには会えません。彼女は大統領選挙への出馬を表明して、アイオワ州を回っている最中だからです。そこで、ヒラリーをバックアップすると決めたキャロラインが現在の当主を務めるケネディ家の都ボストンを訪問することになったのだと考えられます。

 

 安倍首相のボストン訪問はケネディ大統領トリビュート・ツアーということになります。ケネディ大統領の博物館を訪問し、キャロライン・ケネディから案内を受け、夜はケネディ大統領が若い時から関係があったケリー国務長官から話を聞き、ケネディ大統領の名前が付けられたハーヴァード大学ケネディ記念行政学・政治学大学院(ケネディスクール、Kスクール)でスピーチをし、学生たちとの質疑応答を行いました。ケネディスクールについては、拙著『ハーヴァード大学の秘密』(PHP研究所、2014年)を是非お読みください。

 

 私は『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)で書きましたが、ケネディ大統領は私たち日本人が持つ清新で若々しく素晴らしいイメージとは全く別のせいじかでありました。「強いアメリカ」を標榜し、アメリカによる世界支配を実行しようとしたのはケネディ大統領です。ケネディ大統領の前任者ドワイト・アイゼンハワー大統領とは全く別の路線にアメリカを向けたのです。その一環としてアメリカによる日本官吏が本格化しました。

 

 また、強固な反共政策を実行し、キューバ革命を転覆させようとして失敗したピッグス湾事件、ドミノ理論に基づいた共産主義拡大阻止のためのヴェトナムへの介入、キューバ危機などすべてケネディ大統領時代に起きた出来事です。私は、現在の共和党のネオコン(元々民主党にいた人々が失望して共和党に移った)と民主党の人道主義的介入派の源流はケネディ大統領だと書きました。私は、はつらつとした青年大統領ケネディのイメージは表向きで、彼の実態はそれほど「危険」な人物であったと今は考えています。

 

 安倍首相がケネディ大統領トリビュート・ツアーをボストンで行ったことは、現在のネオコンと人道主義的介入派を満足させたことでしょう。そして、安倍晋三首相は、アメリカの世界戦略において使える人物ということになりました。「強いアメリカ」の維持のために日本を犠牲に供する人物、安倍晋三ということになります。日本がアメリカの下請けとして、経済だけではなく、軍事(人の血)の面でも貢献できるようにしている、より具体的には中国との衝突や自衛隊をアメリカ軍の参加に入れて利用できることへの道を開いたとして評価しているでしょう。それを具体的に示すためのボストン訪問となりました。

 

 しかし、日本にとっては、これから困難な道が待っていることを示しています。

 

(終わり)