アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 少し古い話題となりますが、安倍首相の訪米に関する記事をご紹介します。著者はヘリテージ財団のブルース・クリングナーとブルッキングス研究所のミレヤ・ソレスです。それぞれ共和党系、民主党系で、専門が安全保障・軍事と経済ですので、記事の内容もそれぞれの特徴を反映したものになっています。

 

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安倍晋三首相の訪米は綱渡り(Shinzo Abe’s High-Wire U.S. Visit

 

ブルース・クリングナー筆

2015年4月30日

ヘリテージ財団

http://www.heritage.org/research/commentary/2015/4/shinzo-abes-high-wire-us-visit

 

2015年4月29日、新たな歴史が作られるだろう。日本の指導者が初めてアメリカ連邦上下両院合同の場で演説を行うのだ。アジアにおけるアメリカにとっての重要な同盟国に対するこのような厚遇は長い年月を要してようやく実現した。日本は戦争による破壊から不死鳥のように立ち上がった。このことは日本の政治家と国民にとって安倍首相の訪米と議会演説はその復興を実感する出来事となる。日本は活気ある民主制国家となり、世界第3位の経済規模を誇るまでになった。しかし、安倍首相訪米の興奮の裏で、安倍首相は現在もまだ論争が続いている歴史を巡る諸問題にどの程度うまく対処できるかという懸念も存在する。

 

 安倍首相は議会演説においてよって立つ事実の基盤が存在する。これまでの70年間、日本は責任ある国家の代表例のような存在であった。20世紀に巨大な破壊をもたらした暴力的な軍国主義を避けるために、日本政府は受け身的な外交政策と安全保障政策を採ってきた。日米二国間の同盟は、平和と安定というアジアにおけるアメリカの国益の基盤となってきた。しかし、日本は国防に関してアメリカにより深く依存してきた。

 

 アメリカ政府は長年にわたり日本政府に対して、自国の防衛に関してより大きな役割を果たし、地域や世界の安全保障の懸念に関してより積極的になるように主張してきた。安倍首相は、長年にわたり実行すると約束されてきた日本の安全保障の姿勢に対する見直しを実行することで日本の国全体としての不活発さを乗り越えてきた。

 

 実際のところ、安倍首相の訪米に合わせて、1997年以来初めての同盟ガイドラインの見直しも発表される予定になっている。この見直しの基盤となっているのは、日本がこれまで積み重ねてきた良い行動と日本が安全保障に関する能力を改善されていることだ。

 

 1つの重要な主張は、日本が「集団的自衛権」の実行がある。これは、日本を防衛している、もしくは国連の平和維持活動に関与している諸国の防衛を援助できる能力のことである。アメリカはこうした変化を歓迎している。日本の防衛を担うパートナーであるアメリカとより緊密に動くことが出来る能力を日本が獲得することは、日米両国とアジア太平洋地域にとって利益となる。

 

 しかしながら、日本はトラブルの多い過去を抱えている。近隣諸国は日本の自衛隊のいかなる変化に対しても懸念を持つ。日本政府とアメリカ政府は、アメリカとの同盟に基盤を持ち、日本に駐留する米軍との協調による日本の安全保障上の変化が地域にとって脅威となるものではないということを説明してきた。歴史に根を持つ多くの誤解を解くためにも、より広範な広報外交が必要だ。

 

 演説はアメリカの連邦議員たちに向けて行われるが、聴衆はかなり多いだろう。日本の近隣諸国は注意深く聞くことだろう。従って、安倍首相は近隣諸国の疑念と敵意を緩和する必要がある。彼らは日本が「逆戻りしている」と考えている。彼らは日本が戦時中の行為に対して十分な保証を行っていないと考えている。日本と中韓との緊張関係は堂々巡りであって、時には敵対関係が燃え上がる時期もこれまであったが、最近の状況は悪化してばかりである。

 

 安倍首相の「真の意図」について様々な疑問が出ている。安倍首相は歴代政権が発表してきた日本の戦時中の侵略と女性たちに性的な奴隷労働を強制したこと(婉曲的に「慰安婦」と表現される)を反省する声明を承認している。しかし、安倍首相と政治家たちは、これらの声明の基礎となった証拠に関して疑念を表明している。

 

 しかし、安倍首相はアメリカのお膳立ての中でこれらの問題について言及することはないだろう。そうなのだ。アメリカで彼の演説を聞く人々は過去を認めることを歓迎し、二国間同盟とアメリカが行う日本の防衛を賞賛するだろう。 アメリカ国民は、安倍首相自身が生まれる前に日本が行ったことに関して更なる謝罪を期待しないだろう。実際のところ、彼が更なる謝罪をすることで古い傷を再び開いてしまうことになると見られるだろう。

 

 しかし、日本の近隣諸国、特に韓国と中国は、安倍首相が過去についての修正主義的な考えを反映して訪米中に日中、日韓それぞれの抱える歴史問題に言及しないだろうと考えている。このような解釈は継続中の地域内の緊張を増すだろうし、アメリカの安全保障上の国益を複雑化させるだろう。安倍首相はきわどい状況に直面している。彼の演説は、彼が言ったことと言わなかったことに切り分けられ、詳しく分析されることだろう。

 

 安倍首相は演説の中で戦後70年の日本の積み上げてきた歴史と将来の安全保障上起きるであろう諸問題に対してより大きな役割を担うという日本の意志を強調するであろう。これは適切なことである。しかし、安倍首相はこの機会を捉えて、過去に対する日本の償いを肯定するようにもすべきだ。

 

 安倍首相は、日本の近隣諸国との和解と日本の世界における役割の拡大を望むならば、村山談話や河野談話からのいくつかキーワードを演説の中に含めるべきだ。昨年7月、安倍首相はオーストラリア議会で演説を行った。これがアメリカ連邦議会での演説のモデルとなる。キャンベラの議事堂において、安倍首相は第二次世界大戦中のオーストラリアにとっての痛みを伴う出来事について言及したが、これは賞賛を受け、日豪関係を更に強化することになった。

 

 アメリカは、北東アジアの重要な諸同盟国間の懸念についてうまくバランスを取ろうとしてジレンマに陥っている。昨年のアジア歴訪の旅の中で、バラク・オバマ大統領は日本の戦時中の女性に対する強制的な性的奴隷労働(婉曲的に慰安婦と呼ばれる)を厳しく非難し、アメリカ政府はこれまで日本に対して過去に対する償いを行うように主張してきた。にもかかわらず、韓国のマスコミの中には、アメリカ政府が「日本政府の歴史についての考えを認めている」と糾弾している。

 

 ひとたびは激しい敵意を持つ敵同士であった日本とアメリカの和解は、より困難なそして苦痛の多い違いをつなぐことが出来る希望に満ちた具体例となる。さあ、日本の安倍晋三首相は議会演説を使って過去について語り、将来の協調に関する考えを明らかにすることに期待を持って待とう。

 

(終わり)

 

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安倍・オバマ会談:真に世界的な日米同盟を目指して(Abe-Obama summit: The search for a truly global U.S.-Japanese alliance

 

ミレヤ・ソレス筆

2015年4月27日

ブルッキングス研究所

http://www.brookings.edu/blogs/order-from-chaos/posts/2015/04/27-obama-abe-summit-solis

 

 日米首脳会談に関して言うと、今週の安倍晋三首相のワシントン公式訪問はここ最近の日米関係の歴史の中で最も重大な出来事の1つとなるだろう。安全保障、貿易、歴史に関する和解の分野における実質的なまた象徴的な首脳会談が行われることになる。日米両国は、2つの重要な柱、新防衛ガイドラインと環太平洋経済協力協定(TPP)を通じてのより緊密な経済統合を拡大することで日米同盟を深化させようとしている。より広範に言えば、日米両国は地政学の復活に合わせて、そして国際的な経済システムの風景の変化と気候変動のような国境を越えた挑戦に対処するために、日米同盟を国際化する責任を共有している。

 

 安全保障の面で言えば、安倍首相の訪米に合わせて、作られて以降18年経つが初めて、防衛ガイドラインの見直しが行われる。力の均衡の変化、サイバー上の安全保障のような新しい脅威、日本の安全が脅威に晒されている場合に攻撃を受けている同盟国を助けるための集団的自衛権行使に関する最近の再解釈といった要素が見直しにおいて考慮される。その目的は、日米両国の軍隊がより深い共同運用性を持つことで完全に一致した防衛協力ができるように促進することであり、日本が近隣地域やそれ以外の地域で兵站部分での支援ができる機会を拡大することである。

 

 経済の面で言えば、日米両国は貿易に関するほとんどの障壁を排除することでこれまでにない協力関係の構築を目指している。日米両国の間には二国間の自由貿易協定は存在しない。また、世界で最も活発な経済活動が行われている地域をカヴァーする貿易と投資に関する最新のルールを、更に10カ国を加えて構築することで協力関係を構築しようとしている。その究極的な目標は1980年代の「貿易摩擦」時代に定義された市場アクセスに関して「市場を守らねばならない」とする防衛的な懸念を解消し、より重要なプロジェクトを日米共通で行うことである。そのプロジェクトとは、アジア太平洋地域にとっての野心的な枠組みの創設と経済統合である。

 

 歴史についての和解の面で言えば、第二次世界大戦終結70周年をもうすぐ迎えるこの時期にアメリカ連邦上下両院合同の場で日本の指導者が歴史上初めて演説を行うことになった。演説では、日米両国の関係が憎しみ合う敵から緊密な同盟者へと大きな転換を遂げたことに言及するものと予想される。しかし、戦時中のアジアにおける日本の行為に対する言及は日本の責任感と反省を再確認することになり、それをアメリカ国内と海外の聴衆が認識するだろう。また、日本の積極的平和主義政策にとっての利益となるだろう。

 

今回の日米首脳会談はより深化した日米パートナーシップを構築するために重要だ。日米同盟は、世界情勢が流動的で、伝統的な地政学では間に合わず、国際的な経済統治において機構的な革新が必要な時代に国際的な課題を解決できるようにならねばならない。日米首脳会談によってより重要な進展が生み出されることになるだろう。

 

 そこにはただ1つの問題が存在する。

 

 今回の日米首脳会談がある重要な問題について議論しない可能性が高い。それは、TPPの成功にとって不可欠な日米両国間の市場アクセス交渉について決定的な打開である。これまで、TPP交渉に関しては連邦議会の動きの悪さがネックになっているように思われてきた。しかし、先週、連邦議会が貿易権限促進法(TPA)の可決に向けて大きく前進したが、アメリカと日本の交渉担当者たちは、もっと交渉時間が必要だと述べた。交渉を終え、TPPを妥結するためには、安倍・オバマ会談の後も一定の時間が必要だと述べた。しかし、時間はいくらあっても足りない。TPPの成功はアメリカ大統領選挙の日程に競い合うかのようになっている。

 

 このシナリオは、両国が克服しようとして来たこれまでのパターンを強化するという不幸な結果を生み出す危険がある。アメリカと日本両国は貿易に関する合意を行うよりも防衛協力を強化することの方が楽だということを認識してきた。米と自動車に関するいつも起きる疑念はより深化した経済協力の可能性を狭めてしまう。

 

 このような結果によって、日米両国が、中国の台頭についてより効果的に対処できるようにするための国際的な経済マネイジメントを行うための国際的な同盟を作り上げることが出来ないということになるだろう。アジア投資インフラ銀行(AIIB)が失敗した後、アメリカの海外経済戦略は再出発にとって必要になる。そこには2つの弱点があると指摘されている。1つは国内の機能不全(連邦議会はIMFの統治システム改革を諦め、TPA法案についても動きが遅い。これらがその具体例だ)、もう1つは中国の守勢である。

 

 成功の第一歩目として、メッセージを変える必要がある。オバマ大統領の「もし私たちが貿易に関するルールを書かねば、中国が書くだろう」からTPPは重要なのだ、という発言はよく引用される。この発言内容は正しい。しかし、不完全だ。私たちはTPPの価値を評価に関して本当のことをもっと大きな声で訴える必要がある。TPPは中国やその他のAIPAC加盟諸国を参加させる排他的ではない貿易制度となるとまず公に約束している。また、TPPの締結によって、他の巨大な貿易合意も促進されるだろう。これによって競争を維持するためにより高質のルールが設定されることになる。日本はこうした制度の城の利益を共有しているし、TPPが失敗すればその損失はより大きなものとなる。アメリカにとって皮肉なことは、経済力を刷新せねばならない時期にその指導力に疑問符がついていることだ。日本にとってTPPへの挑戦はより根源的な問題を抱えている。日本経済の復活はTPPの未来とつながっていると見られているからだ。

 

 冷戦後の世界の効果的な国際的な経済戦略にとってアメリカと日本の存在は必要不可欠なものとなるだろう。両国の存在によって、多くの国々がシステムに参加できるようになるし、と様々な面で最高のシステムの構築を促進することができるだろう。そのためには、再出発が必要であり、そのためにはTPPが成功しなければならない。私たちが必要としているのは、簡潔なそして力強い両国の指導者からの声明だ。その声明では「日米両国は貿易に関する両国の違いを既に乗り越えつつある」と発表すべきだ。日米首脳会談の間にそのような声明が出されないとすると、首脳会談はよく言って部分的な成功しか収めなかったということになるだろう。

 

(終わり)