ダニエル・シュルマン
講談社
2015-07-29

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12






 

 古村治彦です。

 

 昨日夜、橋下徹大阪市長・維新の党最高顧問と安倍晋三首相が都内で3時間にもわたり会談を行いました。恐らく食事を挟んでのことでしょうが、それでも現職総理がこれだけの時間を割くというのは、それだけ橋下氏を重視しているということがよく分かります。この会談には松井一郎大阪府知事・維新の党顧問と菅義偉官房長官も同席していたということです。また、この会談の前、橋下氏は、維新の党代表の松野頼久代議士、同党幹事長の柿沢未途代議士とも会談しました。会談後、経験が浅くお調子者の柿沢幹事長は、「自民党でも、民主党でもない維新の党の立場を明確にする」旨の発言を行いました。

 

 与党でも、野党でもない、「ゆ党」と揶揄される立場は大変危険なものです。「是々非々」「現実的な対応」と口で言うのは簡単ですが、どっちつかずの姿勢では支持を拡大することはできません。野党の中では共産党はやや孤高を守る姿勢を見せますが、それでも野党協力が必要な場面では協力しますし、自民党、特に現在の自民党と妥協することはありません。維新の党もまた「独自の立場」を標榜している訳ですが、実態は自民党の追従性力、別働隊になっています。ですから、維新の党を「野党」だと考えると混乱するので、あれは「自民党の別動隊で、野党を攪乱するために存在する」と考えればすっきりしますし、判断を間違うこともありません。

 

 維新の党の野党陣営攪乱方法は、「民主党との協力から野党再編」という甘言を弄することです。このような甘い言葉で民主党をふらつかせておいて、打撃を与えようとしている訳です。ただ、維新の党には前回の選挙で、小沢一郎代議士の指導を受けた、民主党、生活の党出身の代議士たちが加入しました。彼らが幹事長室の役員となり、野党再編(野党再建)への道筋が開けるかと思えました。私が前書きましたように、その結果として、維新の党は大阪ウイング、東京ウイング非小沢系、東京ウイング小沢系に分裂しています。そして、東京ウイング小沢系の力をそれ以外の2つのグループが抑えにかかっているように見えます。橋下氏が上京してきたことはそれを象徴しています。

 

 歴史を学び、それを通して現在の状況を見ると理解しやすくなります。ある物事を別の物事に引きつけて理解することをアナロジー(analogy)と言います。このアナロジーについては、副島隆彦・佐藤優著『崩れゆく世界 生き延びる知恵』(日本文芸社、2015年5月)を是非お読みください。このアナロジーを使うには、知識と経験が必要です。安易にアナロジーを使うと、間違った場合にはとても間抜けになります。


 私は現在の政治状況と1930年代のそれとを比べてみたいと思います。そのために私が勉強したのは、坂野潤治氏の著作です。このブログでもご紹介しましたので、是非お読みください。1930年代、日本の政党政治は終末を迎えていました。そうした状況下、立憲政友会、立憲民政党の2大政党と新興勢力の合法的無産政党である社会大衆党が存在していました。社会大衆党は戦前に行われた最後2回の総選挙で勢力を伸張させていました。彼らは労働者の待遇改善や今で言うところの過大な格差の是正を訴えていました。一方、二大政党、特に民政党は格差の是正には冷淡でした。一方、対外政策を見てみると、民政党は国家財政に過大な負担となる戦争に反対でしたが、社会大衆党は対外戦争を支持しました。

 


 無産政党である社会大衆党が対外戦争を支持したのは、彼らが軍部の訴えた「広義国防論」に惹きつけられたからです。この広義国防論は全ての活動を国防に結び付けるものでしたが、生産の場面で言えば、労働者の待遇改善を図ることで、生産性を向上させるというもので、社会大衆党としては、格差是正に冷淡な二大政党などよりも、軍部、特に統制派と呼ばれた永田鉄山らとの方が話をしやすかったのです。また、革新官僚と呼ばれる国家統制を目指す官僚たちも同調しました。その当時のことを簡単にまとめると、軍部や革新官僚と同調した社会大衆党は格差是正を目指しながら、対外戦争支持、民政党は格差是正には冷淡でしたが、対外戦争には反対(その象徴が幣原協調外交)でした。

 

 現在の状況を置き換えると、派遣法改正と安保法制がキーファクターになると思います。それでいくと、1930年代の格差是正に冷淡で、対外戦争支持という姿勢に立つのが、自民党、そして維新の党となります。維新の党は自民党とは別の立場を取ると言いますが、憲法改正や一部議員の安全保障に対する考え方を見れば、自民党と大差はありません。公明党は支持基盤が創価学会であり、これまで平和や格差の問題に取り組んできた実績がありながら、自民党に引きずられているように見えます。「公明党が与党にいるからブレーキ役を果たしている」というのも一面では正しいと思いますが、安倍首相と官邸、一部の自民党議員たちはそうしたブレーキを無視するほど傲岸不遜です。

 

 こうして考えると、「格差是正、対外戦争反対」の勢力が出てこなければなりません。野党である4党、民主、共産、社民、生活がその勢力となります。今は小異と恩讐を捨てて大同に付く時期であり、それは選挙協力や合同を通じて議席を増やす方向に進むです。

 

 この時に維新の党が民主党に近づくかのような言辞を弄してこうした野党協力を攪乱することになるので、「維新の党は野党ではない」ということを明確にしておく必要があります。戦前も他国(フランスなど)では反ファシスト統一戦線が形成されましたが、日本ではそれができませんでした。それは社会大衆党がファシスト勢力(軍部と革新官僚)と結びついていたからです。こうして日本でファシズム化が進み、15年戦争を経て、無残な敗戦を迎えることになりました。現在の日本がそうした状況にならないためにも、野党協力からの野党再建を進め、そのための攪乱要因(要員)に惑わされないようにすることが何よりも大切だと考えます。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「安倍首相、橋下徹氏と会談 安保法案で協力要請か」

 

朝日新聞 20156142242

http://www.asahi.com/articles/ASH6G7D17H6GUTFK001.html

 

 安倍晋三首相と維新の党の橋下徹最高顧問(大阪市長)が14日夜、東京都内で約3時間会談した。首相は橋下氏に対し、今国会の最重要法案の一つである安全保障関連法案への協力を要請したとみられる。菅義偉官房長官と維新の松井一郎顧問(大阪府知事)も同席した。

 

 維新は安保関連法案への対案を今国会に提出する方針を決めており、与党との修正協議に発展する可能性がある。安倍首相としては、法案への世論の反対が根強いことから、維新を修正協議に引き込んで賛成を得ることで、与党だけで採決に踏み切って批判を浴びるのを避けたい考えだ。

 

 首相と橋下氏の会談は、5月の「大阪都構想」の住民投票で反対多数となった結果を受け、橋下氏が政界引退を表明してから初めて。橋下氏は、首相と菅氏が大阪都構想へのエールを送ったことに対して謝意を伝えたとみられる。

 

 橋下氏と松井氏は首相と菅氏との会談に先立ち、維新の松野頼久代表と柿沢未途幹事長と都内で会った。柿沢氏は会談後、記者団に「自民党でも、民主党でもない、維新の党の立ち位置を大切にしようと確認した」と語った。

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23