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 古村治彦です。

 

 今回から2回に分けて、アメリカの恐ろしい外交官であるヴィクトリア・ヌーランドについての記事をご紹介したいと思います。

 

 ヌーランドについては、これまでにもこのブログでもご紹介しましたし、彼女の夫であるロバート・ケーガン(ネオコンに属する評論家)の本を私は訳しました。

 

 ヌーランド女史が怖いのは、民主、共和党のリベラル派(人道主義的介入派)、ネオコンそれぞれと良好な関係を持っており、2016年の米大統領選挙でどちらが勝とうがますますその重要性を増していく可能性が高い点です。

 

 それでは記事をお読みください。

 

==========

 

外交官らしくない外交官(The Undiplomatic Diplomat

 

アメリカ連邦議会内の対ロシア強硬派は、米国務省内の対ウクライナ政策の重要人物ヴィクトリア・ヌーランドを愛している。ヨーロッパ諸国の外交官たちの多くは彼女を嫌っている

 

ジョン・ハドソン(John Hudson)筆

2015年6月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/06/18/the-undiplomatic-diplomat/

 

6月のある暑い火曜日の午後、ジョン・マケイン連邦上院議員は、オバマ政権のウクライナ危機に対する対応について激しく苛立っていた。

 

 アリゾナ州選出のマケイン議員はホワイトハウスが犯したと考えられる間違いのリストを指さしながら、「余りにも恥ずかしく、情けない。怒りを何とか抑えている」と発言した。

 

 ある記者がマケインに「ウクライナ危機への対処を命じるべきアメリカの高級外交官について貴方はどう考えるか?」と質問した時、彼はバラク・オバマ大統領とイギリスのネヴィル・チェンバレン元首相を比較したばかりであった。

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ジョン・マケイン

 

 マケインは一瞬黙り、それから彼の態度は驚くほどに変わった。

 

 マケインは落ち着いた態度になり、「私は彼女の業績を高く評価している。彼女はとても頭が良い」と述べた。マケインは、アメリカのヨーロッパ担当外交官で最も高い地位にあるヴィクトリア・ヌーランドについて語ったのだ。

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ヴィクトリア・ヌーランド

 

 マケインはヌーランドを手放しで賞賛したが、彼以外にも連邦議員の中に彼女を評価する人々は数多くいる。その中には多くの民主党所属の議員たちも含まれる。しかし、世界で一カ所だけ彼女が賞賛されない場所がある。それはヨーロッパだ。ヌーランドの仕事はヨーロッパ諸国と協力で信頼に基づいた関係を築くことであるのだが、そうなっていないのが現状だ。

 

 『フォーリン・ポリシー』誌は、ヨーロッパ諸国の外交官たちに対して数多くのインタヴューを行ってきた。彼らはヌーランドについて、「軽率」「直接的」「強制してくる」「率直」「残忍」更には「外交官らしくない」という言葉を使った。しかし、純粋な外交政策の違いが彼女に対する不満の原因だとも強調した。ヌーランドは、ロシアが支援した反乱を鎮圧するためにウクライナに武器を送ることを支持したが、ホワイトハウスはこれを支持しなかった。

 

 あるヨーロッパの国の外交官は次のように述べた。「彼女は外交官の殆どが使う手法を使わない。彼女はよりイデオロギーを優先して物事に対処する」。

 

 現在、大西洋を挟んでアメリカとヨーロッパ諸国との間の関係は悪化しつつある。ヴィクトリア・ヌーランドはワシントンではスーパースターとして扱われている。一方、ヨーロッパではアメリカで彼女がスーパースターとして扱われるのと同じ理由で批判を受けている。これは大きな皮肉だ。

 

 ヌーランドは米国務省に外交官として入り、キャリアを重ねてきた専門の外交官である。そして、現在、ウクライナ危機に対処する重要なポジションにおり、更にはヨーロッパとユーラシアにある50のアメリカ大使館を統括している。東ウクライナで武力衝突が発生した結果6400名以上が死亡し、冷戦終結以来、米ロ関係が最も不透明になった時期、ロシアの侵攻に対する西側の一致した対応を形成し、それを維持するために、ヌーランドは数カ月の間、大西洋を何度も横断した。

 

 ワシントンにおけるヌーランドの人気の理由は、彼女がロシアを激しく非難し、ヨーロッパ諸国に対してより強硬な姿勢を取るように求める際に使う、攻撃的な激しい言葉遣いにある。

 

 2015年3月、ヌーランドはロシア政府がクリミアと東ウクライナで「恐怖支配」を実行していると糾弾した。その少し前、彼女はアメリカの政府高官では初めて公にロシアによるウクライナに対する攻撃を「侵略」と表現した。彼女は、「ロシアとロシアに操られた分離主義者の操り人形たち」が「言葉にできないほどの酷い暴力」を行使しているので、ロシアのウラジミール・プーティン大統領に対してこれ以上の事態の悪化を招かないように行動するように要求した。連邦議会における証言で、ヌーランドはヨーロッパ諸国との交渉過程を「猫を集めている」ようだと表現した。昨年、駐ウクライナ米大使との電話でのやり取りの録音が暴露され、ヌーランドが「EUのくそったれ(fuck the EU)」と言ったことは広く報道された。

 

 クリス・マーフィー連邦上院議員(コネチカット州選出、民主党)は「彼女は攻撃の手を緩めない。私はヴィクトリアのファンだね」と述べた。彼自身は進歩的な外交政策を標榜している人物である。

 

 ヌーランドの地位は「ヨーロッパ・ユーラシア問題担当国務次官補」という控え目なものだが、ここ数年、ヌーランドはアメリカの外交政策分野において重要人物として大きな役割を果たしてきた。彼女は、共和党のネオコンサヴァティヴ、そして民主党リベラル派と共に仕事をしてきた。ジョージ・W・ブッシュ前大統領の政権では、ディック・チェイニー副大統領の筆頭国家安全保障問題担当次席補佐官を務めた。現在のポジションに就く前は、ヒラリー・クリントン国務長官の下、米国務省報道官を務めた。

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ヒラリー・クリントン


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ヌーランドとディック・チェイニー 

 

 2013年9月に行われたヌーランドの宣誓式においてジョン・ケリー国務長官は次のように発言した。「独特な、いやこれまでにないグループと言える、ディック・チェイニー=ヒラリー・クリントン学校卒業生同窓会の最も重要な卒業生として、彼女は民主党側、そして共和党側両方から信頼を得ている」。

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ヌーランドとジョン・ケリー 


 彼女はヒラリー・クリントンと共和党の有力政治家たちと深いつながりを持っているので、専門家たちの多くは、2016年の米大統領選挙で民主、共和どちらの政党が勝利しても、ヌーランドは更に重要なポジションにつくだろうと予想している。彼女は更に目を離せない重要な外交官になる、という訳だ。

 

* * *

 

 ヴィクトリア・ヌーランドは現在のヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補になって様々な難しい仕事に直面している。

 

 ヌーランドの外交のやり方についてヨーロッパ諸国は不満を持っている。これは明らかであり、どの国も同じ程度不満を感じている。一方で、彼女は大変に難しい課題をこなしている。

 

 ヌーランドは自分よりも地位の高いヨーロッパ諸国の首脳たちと頻繁に会談し、彼らにとって聞きたくないことを平気で口にする。

 

今回くらいの規模の危機の場合、非常に微妙で複雑な仕事が多くなり、それらはヌーランドの上司である、政治問題担当国務次官ウェンディ・シャーマンのところにあげられるのがこれまでの常識であった。しかし、シャーマン自身はイランの核開発を巡る交渉に参加する交渉ティームを率いるという重大な仕事に忙殺されていたために、ヌーランドには通常、次官補では持ちえない影響力が与えられることになった。

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ウェンディ・シャーマン

 

 ヌーランドには大きな自律性が与えられた。その結果、これは公平なことかどうか確かなことは言えないが、彼女はオバマ政権内部のタカ派の人々を動かす原動力になっているという印象を人々に与えることになった。

 

 ヨーロッパに詳しいある議会スタッフは次のように語っている。「ヨーロッパ諸国の政府の多く、そしてロシア政府はヌーランドを嫌っている。しかし、それが理由となって、アメリカ連邦議会の議員たちは彼女を賞賛しているのだ」。

 

 ヨーロッパでは、ウクライナ政府に武器を供与せよと訴えた人物の第一がヌーランドだと見なされている。この主張にはドイツ、ハンガリー、イタリア、ギリシアが反対した。これらの国々は、ウクライナに武器を供与することでロシアとの衝突が拡大することを恐れたのだ。

 

 ホワイトハウスもまたウクライナに武器供与を行うことに反対であった。それは、アメリカがどんな形でウクライナに援助を与えても、ロシアはウクライナ軍を圧倒する能力を持つ、「エスカレーション支配」と呼ばれる力を持っているからだ。

 

 オバマ政権内部でウクライナへの武器供与を支持したのはヌーランドだけではなかった。しかし、ヨーロッパにおいては、ヌーランドはこの政策の顔的な存在となっている。それは、2月に開かれたミュンヘン安全保障会議で起きたある重要な出来事が原因である。

 

 会議の冒頭、ヌーランドとフィリップ・ブリードラヴ米空軍対象はアメリカ代表団に非公式の、記録に残されないことを前提にしたブリーフィングを行った。代表団には、12名の米連邦議会上下両院の議員たちも参加していた。ヌーランドとブリードラヴは知らなかったのだが、ブリーフィングが行われた部屋には、ドイツの新聞『ビルト』紙の記者が入り込んでおり、内容を記事にした。この記事はドイツ国内では大きな反響を呼んだが、英語メディアはこの記事を取り上げなかった。

 

 記事によると、ヌーランドとブリードラヴは議員たちに対して、ウクライナに防衛のための武器を供与することを支持するように圧力をかけ、ドイツ首相アンゲラ・メルケルとフランス大統領フランシス・オランドがロシアに対して行っていた外交努力をバカにした、ということである。

 

 ブリードラヴは次のように発言したと伝えられている。「私たちはウクライナに対して、ロシアを打ち破れるほど多くの武器を与えることが出来る立場にはありませんし、私たちの目的もウクライナによるロシアの撃破ではありません。しかし、戦場においてプーティンの負担を増大させる必要があります」。

 

 この時の通訳によると、ヌーランドは次のように発言したと言われている。「私たちがプーティンの攻撃システムに対抗するためにウクライナに供与しようとしているものは、“防衛システム”と呼んでいただきたいものですわ」。

 

 あるオバマ政権幹部は、このブリーフィングの報道について疑義を呈したが、実際に部屋にいてブリーフィングを受けた議員の1人、マイク・ポンぺオ連邦下院議員(カンザス州選出、共和党)は、フォーリン・ポリシー誌とのインタヴューで、ビルと紙の記事の内容が正しいと認めた。ポンペオは次のように述べた。「ミュンヘン安全保障会議に出席したのだが、この時、オバマ政権の高官たちは、アメリカ代表団に向かって、ウクライナに対する防衛のための武器供与を明確に主張したのである」。

 

 アメリカ政府高官はフォーリン・ポリシー誌の取材に対して、ミュンヘン安全保障会議の目的は、対ロシア政策について「ヨーロッパを落ち着かせる」以上のものではなかったと述べている。この高官は、ブリーフィングを行った人々は「最終決定は何もなされていない」ことを明らかにしたのであり、「アメリカはウクライナに地上軍を送る可能性があるという、ヨーロッパ諸国で広がっていた噂を打ち消」そうとしたのだと語った。

 

 ニュアンスはどうあれ、ミュンヘン安全保障会議の後、ヨーロッパ諸国は、ヌーランドが彼らの持つ対ロシアにおいてエスカレートしていくのではないかと言う懸念を軽くあしらい、オバマ大統領の考えとは違うことを述べているという印象を強く持つことになった。

 

ドイツの雑誌「ディア・シュピーゲル」誌に掲載されたある記事には次のように書かれていた。「ヌーランドは強硬派で、武器供与を支持した。彼女の上司にあたるオバマ大統領とは違い、彼女自身は何をなすべきかについて明確な考えを持っている」。

 

 ホワイトハスはこの記事に関してコメントすることを拒否した。

 

 ヌーランドが早い段階からウクライナに武器を送るように主張したことについて質問したところ、国務省のジョン・カービー報道官はこれまでにない調子で彼女を擁護した。彼はフォーリン・ポリシー誌の質問に対して次のように答えた。「ケリー国務長官はヌーランド国務次官補に対して大きな敬意を払っている。またアメリカとヨーロッパ諸国との関係における重要な時期、特にウクライナに対する支援が必要になった時、彼女からの助言と彼女の考えを必要とした」。

 

(続く)