ダニエル・シュルマン
講談社
2015-10-28



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 今回は最近起きた与党・自由民主党所属の国会議員たちの発言や書いたものから考えてみたいと思います。

 

 まずは武藤貴也議員(滋賀第四区選出、当選2回、麻生派)です。武藤議員はソーシャル・ネットワーク・サーヴィスの1つであるツイッターで、学生たちの安保法制に反対するデモについて、「彼ら彼女らの主張は『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ」と書いて問題になりました。「戦争に行きたくない=極端な利己主義」と書いている訳です。日本国憲法で戦争を放棄している(個別的自衛権での専守防衛は維持している)ので、日本が戦争を起こすことはないのですが(そうですね?武藤議員)、戦争に行きたくないと声を発することが何か悪いことのように武藤議員は書いています。

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 私は武藤議員が自身のウェブサイト(2015年7月23日付)で、「日本国憲法によって破壊された日本人的価値観」と題し、「憲法の三大原則(国民主権・基本的人権の尊重・平和主義)を批判。戦後の日本はこの三大原理を疑うことなく『至高のもの』として崇めてきた。(略)私はこの三つとも日本精神を破壊するものであり、大きな問題を孕んだ思想だと考えている」と書いていることも大いに問題だと思います。

 

 武藤議員が考える日本精神は彼が述べていることから考えて、「国(政府)のために死ぬことを最高の道徳する精神」だと思われます。そして、この日本精神が日本国憲法の三大原則である「国民主権、基本的人権の尊重、戦争の放棄」によって破壊されたと述べています。憲法は権力を拘束するためにあるもので、これを立憲主義といいます。立憲主義に基づいて公務員にはすべからく憲法遵守義務があります。

 

 政治家も公務員(税金でご飯を食べている)です。武藤議員も公務員です。憲法遵守義務がある公務員が憲法を軽視し、基本的人権を尊重しない発言をするのは、いくら表現の自由があるとは言え、憲法遵守義務違反ではないかと思います。更に言えば、私たちは何も強制して武藤議員に国会議員をさせているのではありませんから、日本国憲法を蔑ろにするおつもりなのなら、国会議員を辞職して、税金でご飯を食べないようにして、いくらでも自説を発表していただきたいと思います。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「自民・武藤貴也議員 「憲法が日本精神を破壊」の暴言で大炎上」

 

日刊ゲンダイ 201583

http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/162357/1

http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/162357/2

 

「マスコミを懲らしめろ」発言の自民党3国会議員といい、“安倍チルドレン”にはホント、ロクな人間がいない。自民党の武藤貴也衆院議員(36=滋賀4区)が、安保法案に反対するデモ活動を行っている学生たちの「SEALDs」を「極端な利己的考え」などとツイッターで批判し、大炎上している。

 

 問題の書き込みは7月30日。武藤議員は「SEALDs」のデモに対し、こうつぶやいたのだ。

 

〈彼ら彼女らの主張は『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考えに基づく〉〈利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ〉

 

 呆れるほど、トンチンカンで低レベルな書き込みだが、仰天書き込みはこれだけじゃない。7月23日のブログでは〈日本国憲法によって破壊された日本人的価値観〉と題し、憲法の三大原則(国民主権・基本的人権の尊重・平和主義)を批判。〈戦後の日本はこの三大原理を疑うことなく『至高のもの』として崇めてきた。(略)私はこの三つとも日本精神を破壊するものであり、大きな問題を孕んだ思想だと考えている〉と持論を展開しているのだ。

 

よく国会議員になれたものだ。どんな人物なのか。

 

「北海道出身で、高校卒業後、5年間のアルバイト生活を経て東京外大に入学。京大大学院在籍中に滋賀県議会会派の地域政党の政策スタッフになり、政治に関わるようになった。この地域政党は当時の嘉田知事を支持し、自民党と対立していたのですが、09年の総選挙に自民党候補で出馬して周囲を呆れさせました。12年の総選挙で初当選し、現在2期目。ちなみに『マスコミ懲らしめ』発言が出た党文化芸術懇話会のメンバーにも名を連ねています」(政治ジャーナリスト)

 

 こんな連中ばかりだから、安保法案は廃案にしないとダメなのだ。

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

 私は武藤氏に関する上に貼りつけた『日刊ゲンダイ』紙の記事を読みながら、はてさて、何かしら既視感があるなと思っていました。そして、考えているうちに思い出したのは、保坂正康著『東條英機と天皇の時代』(ちくま文庫、2005年)のある部分です。


 この部分は、東條英機が首相官邸で女婿の古賀秀正陸軍少佐(終戦時に自刃)と話をしているところです。長くなりますが、以下に引用します。

 

(引用はじめ)

 

「現状はあまりにも法令にしばられているように考えますが、これではいけないのではないでしょうか」

 

(中略)

 

「戦争を遂行している現在、いまの法令が不備だらけのことは判りきっている。たとえば空襲警報下の窃盗を現行法では死刑にできない。これは大きな欠陥だ。たぶん明治の先覚者は日本精神を承知しつつも、欧米法を採りいれたのだろう。帝国大学というのは、この法律を教えているだけにすぎん」

 

 結局のところ、日本精神の継承者は陸軍だけというのであった。古賀が、天皇機関説を批判すると、東條もうなずき、次のように言った。

 

 「憲法学者は憲法論を杓子定規にいうけれど、輔弼の責任とは簡にして明だ。よいことは天子様の御徳に帰すべきであり、悪いことはすべて大臣など輔弼者の責任になると考えるだけでいい」

 

 むろん身内の会話だから、これをもって東條の政治感覚を判断することはできない。しかし東條がこのていどの雑駁な感覚であったことは記憶されていい。このとき東條は、天皇の赤子とはいえ国民のなかには不届き者もいるといわれると、「お上が一億国民を視られることは一視同仁である。悪い子供ほどかわいいものと思う。これを直すのが、日本の法律のいき方だ」とも答えた。(474-475ページ)

 

(引用終わり)

 

 日本精神という言葉の前に、近代的な統治システムである内閣の長たる東條英機が法律を全く無視する発言をし、陸軍だけが日本精神を保持している素晴らしい組織(結局精神力の優越のために日本を大敗北に叩き込んだ)だと述べています。日本精神という言葉は法律や憲法を軽視するために70年以上前から、東條英機首相から武藤貴也議員に至るまで連綿と使われてきたのだということが分かります。「日本精神を体現している自分たちは正しいことをやっていて、そのために邪魔になる法律や憲法などという存在は無視する」という法治国家にはあり得ない態度が出てくるのです。

 

 東條英機が馬鹿にした法律を教えるところが帝国大学です。今も旧帝国大学といえば、エリート難関大学で、特に東京大学法学部は文系学部最高峰であり、エリート国家公務員を目指す若者たちにとっては登竜門です。ここでは東條英機に馬鹿にされるほどに法律についてきちんと教えているのかと思っていたが、豈はからんや、さにあらず、ということを暴露してくれたのが礒崎陽輔参議院議員(大分県選挙区、当選2回、細田[安倍]派)・安倍晋三内閣総理大臣国家安全保障問題担当補佐官(2012年から)です。

 

 あれ、おかしいなと思ったのは、礒崎陽輔氏がツイッター上で書いた以下の発言です。

 

 izoakiyousukerikkenshugi001

 

 東京大学法学部を卒業し、当時の自治省に入省された方が立憲主義を知らない?、そんな人が首相補佐官になっている?と思ってびっくりしたものです。そして、以下の発言、「法的安定性は関係ない」です。

 

 isozakiyousuke002
 

 「法律の解釈(憲法に合うか合わないかを考えることで)で国が守れるか!」と大見得を切って、法的安定性なんぞどうでもいいんだ、とりあえず四の五の言わずに安保法制を成立させるんだ、ということを仰っている訳です。東條英機が法律しか教えないと言って馬鹿にした帝国大学の後身である東京大学法学部出身者がついに憲法を蔑ろにするようになりました。これは、なんということでしょうか。

 

 そして、2015年8月3日、参議院平和安全法制特別委員会に参考人として出席を求められ、下げたくもない頭を下げて、嵐が過ぎるのを待つことになりました。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「<法的安定性発言>礒崎補佐官が謝罪…辞任は否定 参院特委」

 

毎日新聞 83()1314分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150803-00000029-mai-pol

 

 参院平和安全法制特別委員会は3日午後、安全保障関連法案に関して「法的安定性は関係ない」などと述べた礒崎陽輔首相補佐官に対する参考人質疑を行った。礒崎氏は冒頭、「軽率な発言により特別委の審議に多大な迷惑をかけた。国民、与野党に心からおわびする」と謝罪した。法的安定性を否定する考えはなかったとする一方、「大きな誤解を与えた」と発言を取り消し、首相補佐官の職務を継続する意向を示した。野党側は礒崎氏の辞任を求める。【高橋克哉、青木純】

 

 礒崎氏はまた、法案成立時期について「9月中旬までに終わらせたい」と述べたことについても「極めて不適切であった」と陳謝した。鴻池祥肇委員長は礒崎氏の法案成立時期を巡る発言を「いかがかと思う」と注意した。

 

 その後、民主党の福山哲郎氏が野党を代表して15分間の質疑を行った。福山氏が辞任を求めたのに対し、礒崎氏は「決して法的安定性の全体を否定したのではなく、国際情勢の変化を強調したかったためにそうなった」と釈明した。

 

 安倍晋三首相は3日の礒崎氏の説明で、礒崎氏続投への理解を得たい考えだ。だが、与党内には、野党の反発が強まれば法案審議が滞り、採決にも影響するとの懸念がある。

 

 礒崎氏は7月26日の大分市での講演で「(武力行使は日本を守るための)必要最小限度との解釈は変えていない。だから、集団的自衛権でもわが国を守るためなら良いのではないかと提案している」と述べたうえで、「法的安定性は関係ない」と発言。9月中旬までの法案成立にも言及した。

 

 参院議員の礒崎氏は、2012年12月の第2次安倍内閣発足時に首相補佐官に就任した。

 

 ◇「迷惑をかけた」…首相、与党に

 

 安倍晋三首相は3日昼の政府与党連絡会議で「与党に迷惑をかけ申し訳ない。もとより法的安定性は重要な考えの柱だ」と陳謝した。

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

(終わり)

 

 礒崎陽輔参議院議員(自民党)は、「法的安定性で国が守れるか」と大見得を切りました。私はこう申し上げたいと思います。「ええ、少なくとも貴方のような立憲主義を知らなかったあほ政治家からは国を守れると思いますよ」。

 

(終わり)







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オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23