ダニエル・シュルマン
講談社
2015-11-25



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




 古村治彦です。

 

 2015年10月13日夜にネヴァダ州ラスヴェガスでCNNFacebookが共同で主催した米民主党大統領選挙予備選挙立候補者たちによる討論会が開催されました。5名の候補者たちが出席しましたが、注目は支持率が1位と2位のヒラリー・クリントン前国務長官とバーニー・サンダース米連邦上院議員でした。

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民主党討論会(左から2人目がサンダース、真ん中がヒラリー)

 

 今回の討論会について、私が尊敬する政治ジャーナリストであるピーター・ベイナートが感想と分析を『ジ・アトランティック』誌に発表しました。

 

 ヒラリーとサンダースの違いを改革志向と革命志向に分けて、ヒラリーの改革志向がサンダースの革命志向を抑えて、有権者たちにアピールしたという分析をしています。ただ、アメリカ社会全体に「更に大きな変革」を求める雰囲気があるのも事実だと思いますので、バーニー・サンダースの勝利はないとしても、彼はこれからも健闘するでしょう。この分析記事の内容は正しいと思いますが、外交政策に関しての言及がなされていないのは今回の記事の足りない部分です。

 私は、ジョー・バイデン副大統領がどこで出馬宣言をするか、をじっと待っています。バイデン副大統領が出てくると、サンダース支持でヒラリーは推せないとする民主党リベラル派とサンダースは過激すぎて推せないという民主党漸進的改革志向の人々の支持を集めて、ヒラリーを追い抜くのではないかと考えています。その際に重要な争点となるのが、外交政策であると思います。

 (※この記事を書いたのは2015年10月15日でした。この日辺りから、各マスコミが急激にバイデン待望論がバイデン待ちくたびれた・出馬不可能論に転換しました。ヒラリーが討論会[シャンシャン株主総会みたいだった]で勝ったから、ヒラリーで行け、という論調になってきました。バイデンの周囲はもうすぐ決断をする、というようなことを言っているが、蕎麦屋の出前でもあるまいし、これ以上はもう待てないということになって、追い込まれて
仕方なく出馬するという形になって、2位になって終わりという感じになりつつあります。)

 

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バーニーとヒラリーが一致しない点(Where Bernie and Hillary Really Disagree

―民主党の有力大統領候補2人は政策では違いはない。しかし、アメリカには少しずつの改革、もしくは革命的な変化、どちらが必要かで意見が異なる

 

ピーター・ベイナート筆

2015年10月14日

『ジ・アトランティック』誌

http://www.theatlantic.com/politics/archive/2015/10/bernie-sanders-hillary-clinton-debate/410449/

 

 昨晩の民主党大統領選挙候補者たちによる討論会における最大の見せ場は終わり近くにやって来た。CNNの討論司会者アンダーソン・クーパーが各候補者たちに「皆さんが大統領に選ばれた場合に、それぞれ第三次オバマ政権と呼ばれないための方策、方向性を一つ教えてください」と尋ねた。バーニー・サンダースは、「私はオバマ大統領と違って、アメリカを、政治革命を通じて、変革する」と答えた。ヒラリー・クリントンは「オバマ大統領と違って、私は女性だ」と答えた。

 

 2人の答えを聞いて、私はクリス・ヘイズの名著『エリートたちの落日(Twilight of the Elites)』を思い出した。ヘイズはこの本の中で、エリートを既存の機構の機能を改善することを望む「既存機構重視者(institutionalists)」と、既存の機構を打ちこわし、新たに再スタートさせることを望む「反乱志向者(insurrectionists)」に区別した。

 

 サンダースは反乱志向者である。この半世紀で最も変革をもたらしたリベラル派の大統領の後を受けて大統領に選ばれることについて尋ねられた時、彼は「アメリカは正しい方向に向かっていないが、それを乗り越えて正しい方向に進まねばならない」と答えた。サンダースはアメリカには「政治革命」が必要だと述べた。彼はまた「アメリカの選挙資金制度は堕落している」とも述べた。

 

 ヒラリーはそのようなことは何も言わなかった。彼女は問題があることは認めながらも、アメリカの中核を形成する経済と政治、それぞれの機構についてはほとんど言及しなかった。金融規制についての2人の答えを比較検討してみよう。サンダースは、「ウォール街では詐欺がビジネスモデルとしてまかり通っている。ウォール街はアメリカ経済とアメリカ国民大多数の生活の破壊に手を貸している。従って、私たちは代金号の解体をしなければならない」と答えた。対照的に、ヒラリーは「ドッド=フランク法は良いスタートとなる。私たちはこの法律をきちんと施行しなければならない。私たちは消費者金融保護局の存在を守らねばならない」と答えた。まとめると、サンダースはシステムを攻撃し、一方、ヒラリーはどのようにシステムを改善するかを説明した、ということになる。

 

 人種と犯罪に関する諸問題についても同じことが言える。サンダースはアメリカの刑法システムは「壊れて」おり、「機構的な人種差別」によって運用が恣意的になっていると述べた。ヒラリーは、「オバマ大統領が警察に関して任命したコミッショナーによる提言を採用する。そして、私たちはこれらの問題にこれからも関心を持ちつづけなければならない」と述べた。

 

 ヒラリーは連邦上院議員時代に愛国者法に賛成票を投じたことについて尋ねられ、この法律は価値のある「プロセス」を生み出したが、ブッシュ政権はこうした「プロセス」を逸脱し始めたのだ、と答えた。そして、「市民の自由、プライバシー、そして安全のバランスが回復される必要がある」と述べた。サンダースは競合する価値観のバランスを取るとか、プロセスを正しい方向に戻すなどとは発言しなかった。アンダーソン・クーパーに「大統領になった場合、アメリカ国家安全保障局による調査プログラムを閉鎖しますか?」と質問され、サンダースは「もちろん、当然のことだ」と答えた。

 

 討論会はこうした調子で進んでいった。サンダースは資本主義に代わって民主的社会主義を採用することを主張した。ヒラリーは「資本主義が暴れ狂わないように、資本主義の行き過ぎを抑える」べきだと主張した。サンダースは、たとえアメリカの経済関係の官庁の最高幹部たちが銀行の救済をしなければ「完全なメルトダウン」に陥ると警告する場合でも、自分が大統領になったら銀行の救済策は実行しないと述べた。ヒラリーは基本的に自身に貼られた「インサイダー」というレッテルを受け入れ、「私はそうした場合にどのように対処すべきかを知っている」と力強く述べた。

 

 ヘイズのエリートの分類が討論会での候補者たちの発言を比較する検討することだけに有効な手段だという訳ではない。彼の分類はそれぞれの長所と短所を比較する場合に有効だ。サンダースの反乱志向は彼の政治的アピールにとって極めて重要だ。進歩主義者たちは、彼の政策がヒラリーの政策よりも左翼的であることだけで彼を支持しているのではない。進歩主義者たちは、サンダースがアメリカの政治的、経済的システムが堕落しているとはっきりと主張していること、そしてこの堕落したシステムのルールで戦うことを拒否していることで彼を支持しているのだ。例えば、サンダースはスーパーPACによる資金集めを拒否している。そうしたことから、「社会主義者」であることは、リベラル派の間で評判を落とすことにつながっていないのだ。多くの人々にとって、「社会主義」が意味するところは、既存の秩序を壊し、それよりもより良いものを建設するということなのだ。

 

 しかし、サンダースの反乱志向が彼の成功のカギとなる場合、それが彼の成功を押しとどめてしまう可能性もある。リベラル派の多くは経済的不平等に怒りを持っているが、民主党自体のムードは、共和党に比べて、反乱志向が少ない。共和党の候補者たちは定期的にジョン・ベイナー米連邦下院議長を非難し、それが大きな喝采を受けている。民主党の候補者たちの中でナンシー・ペロシ前米連邦下院議長を攻撃する人物がいたら、リベラル派はその人物をバカだと思うだろう。そして、民主党員たちや支持者たちは今でもバラク・オバマを心の底から支持しているのだ。

 

 だから、討論会の間、ヒラリーはオバマを賞賛した。民主党員や支持者たちは、「アメリカはいくつかの大きな問題を抱えている。それらは根本的に間違っている。それらの問題に対して民主党の政治家たちは物事がより良くなるように努力している」と考えている。この事実を踏まえてヒラリーは討論会でオバマを賞賛したのだ。民主党員と支持者たちは、オバマ政権下、物事はより良い方向に進んでいると確信している。2008年の大統領選挙でヒラリーがオバマに勝てなかった理由の1つは、ジョージ・W・ブッシュの後、彼女は大きな変革をもたらすことが出来ると有権者たちを納得させられなかったことだ。しかし現在のところ、彼女は民主党員の多くの支持を受けて大統領の座に最も近い位置にいる。それは、彼女がシステムの内側にいる人物であり、既存の機構を変革することを主張していて、それが有権者たちにアピールしているからなのだ。

 

 バーニー・サンダースが民主党の大統領選挙候補者に選ばれるとすれば、それは民主党の予備選挙に参加する候補者たちの過半数がアメリカと民主党を大きく変革することを望む場合だ。これは共和党側のドナルド・トランプにも言えることだ。昨晩のパフォーマンスを見ていると、ヒラリー・クリントンは、民主党員と支持者たちに革命的な変革は必要ではないということを納得させることが出来たと言える。共和党側ではジェブ・ブッシュがそれを目指しているが、いまだに果たせていない。

 

※ピーター・ベイナート:『ジ・アトランティック』誌と『ナショナル・ジャーナル』誌の客員編集員。ニューヨーク市立大学ジャーナリズム・政治学専攻の准教授、ニュー・アメリカ・ファウンデーション上級研究員を務める。

 

(終わり)





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オーヴィル・シェル
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2014-05-23