ダニエル・シュルマン
講談社
2015-11-25



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 2015年10月21日、ジョー・バイデン副大統領が2016年の米大統領選挙への不出馬を表明しました。これで実質的には、アメリカの大統領選挙は終戦となります。民主党はヒラリー・クリントン前国務長官が、ジュリアン・カステロ・アメリカ住宅都市開発長官を副大統領候補(ランニングメイト)にして、サンダースとの戦いを「演出(やらせ)」しながら予備選を勝ち抜き、大統領候補となります。

 

 

 本選挙では、共和党側はジェブ・ブッシュ前フロリダ州知事が候補者となるでしょうが、共和党は勝つことはできないで、ヒラリーが大統領になります。

 

2017年1月に発足するヒラリー・クリントン政権は、共和党側ネオコン+民主党側人道的介入主義派の超党派連立政権となります。そして、史上稀に見る最悪の凶悪な政権となります。「タカ派的」などという言葉が生易しいほどの軍事介入を世界各地で行うでしょう。

 

バイデンは、不出馬声明をホワイトハウスのローズガーデンでオバマ大統領と奥様のジルを従えて読み上げました。実際に声明を聞くまでバイデンが大統領選挙に出ると思った記者もいたそうです。ローズガーデンで大統領であるオバマが隣に立つというのは、オバマなりのバイデンに対する最大の敬意の表し方で、かつヒラリーを積極的に支持しないという姿勢を明確にしたと言えます。

 

オバマはジョージ・HW・ブッシュ(父)元大統領の現実主義外交政策を目標にしていましたから、ネオコンや人道的介入主義派とは相いれない訳です。ジェブが父親を目指すということになると、オバマは党派を超えてジェブの方に近いことになります。ヒラリーの方が立場としてはずっと遠いということになります。

 

 今回ご紹介する記事には引用されていませんが、私はバイデンの声明の中で、次の一節が最も重要な内容だと思います。

 

(引用はじめ)

 

「私はオバマ大統領がこの国を危機から救い、回復基調に乗せた。そして現在は再び成長させている。彼はリーダーシップを発揮し、指揮を執ってきた。わたしはこのように確信している。私はその一部として役割を果たしてきたことを誇りに思っている。民主党、そして我が国が、オバマ大統領の残した路線から外れたり、それを押しとどめようとしたりすれば、悲劇的な過ちを犯すことになるだろう(I believe that President Obama has led this nation from crisis to recovery, and we're now on the cusp of resurgence. I'm proud to have played a part in that. This party, our nation, will be making a tragic mistake if we walk away or attempt to undo the Obama legacy)」

 

(引用終わり)

 

 ホワイトハウスのローズガーデンでオバマ大統領を傍らにして出たこの発言こそは、バイデンが最も言いたかったことであり、政治キャリアを終わらせるにあたっての「遺言」です。ヒラリーの「人道的介入主義(humanitarian interventionism)」「タカ派(hawkish)」路線の外交政策でアメリカは致命的な間違いを犯すことになる、とバイデンは警告を与えているのです。バイデンは声明読み上げの中で「私は今回の大統領選挙に出馬しないが、私はこれからも発言を続けていく(While I will not be a candidate, I will not be silent)」とも述べていますが、ヒラリーにしてみれば「カエルの面に小便」でしょう。

 

 これでアメリカ大統領選挙の大勢も決まりました。そして、世界の進む方向性も決まりました。後は中国・ロシア・イラン・ヨーロッパ(イギリスを含む)の国々がどれだけ、ヒラリーの暴走に対抗できるかということになります。2017年以降、中東とアジアはきな臭くなるでしょう。

 

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バイデンは米大統領選挙不出馬を表明(Biden says no to White House run

 

ジョーダン・ファビアン筆

2015年10月21日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/administration/257595-biden-to-make-announcement-from-white-house

 

 ジョー・バイデン副大統領は水曜日、2016年の米大統領選挙に出馬しない事を発表した。彼は民主党の予備選挙に出馬し、民主党の最有力候補ヒラリー・クリントンと争うとみられていた。そして、40年にわたる政治生活を終えることを示唆した。

 

 これによって、数か月にわたって続いた、バイデンは出馬するのかどうかということに関しての憶測は終止符を打つことになった。バイデンは、大統領選挙の候補者になる道筋が見えなかったと述べた。彼は、チャンスの窓は「閉じられた」とはっきりと述べた。

 

 「残念なことですが、私たちには時間が足りないと考えます。私が民主党の指名を受けるために選挙戦に勝利するための十分な時間がないのです」

 

 72歳になる副大統領は、ホワイトハウスのローズガーデンにおいて、妻ジルとオバマ大統領を従えて、声明を読み上げた。

 

 バイデンは自身の決断に至るまでの詳細については語らなかったが、ヒラリーの復活によって、バイデン出馬の待望論がしぼんでしまったというのが多くの人々の見方だ。ヒラリーは、共和党側の失言、支持率の上昇、討論会における成功によって息を吹き返した。

 

 バイデンは全米の注目を受けながら声明を読み上げた。そして、今年亡くなった息子ボウ・バイデンから「鼓舞」を受けたと述べた。今回の会見はまるでバイデンの出馬表明の場のようであった。彼はワシントンを「問題解決の糸口」にしたいと強調した。

 

 バイデンは次のように語った。「私たちは不毛な党派対立の政治を止めねばならないと強く思っています。この不毛な対立によってこの国は分裂してしまっています。私たちは不毛な争いを止めることが出来ると私は思います。寛大さに欠け、狭量になっています。これらは長すぎる期間続いてしまったのです」。

 

バイデンは14分間にわたって続いたスピーチの中でヒラリー・クリントンの名前に言及しなかった。しかし、バイデンは、ヒラリーが共和党の中に敵がいることを誇りに思うと述べたことを批判した。

 

 彼は次のように語った。「ある人々が述べているように、私は共和党に対して話をすることは利敵行為だなどとは思いません。私は、私たち民主党は共和党を敵だと見なすべきではないと考えます。彼らは私たちの反対党ではあります。彼らは私たちの敵ではありません。 国家のために私たちは一緒になって働かねばならないのです」。

 

 側近によると、バイデンは不出馬の決断を今週火曜日の夜にしたということだ。ヒラリーが民主党の大統領選挙最有力候補として勢いを増していることが決断の理由となった。

 

 バイデンはヒラリーに対抗しうる唯一の民主党内の候補になったであろう。ヒラリーはリベラル派のバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)からの追撃を受けている。アイオワ州やニューハンプシャー州のような早い段階で党員集会や予備選挙が行われる州の世論調査ではヒラリーはサンダースに追い上げられている。しかし、ヒラリーを本当に追い詰めることが出来る候補はバイデンだけであっただろう。

 

 数週間前、バイデンは大統領選挙へ出馬する可能性が最も高まった。この時、ヒラリー陣営は、ヒラリーが国務長官在任当時に個人的なEメールを使ってやり取りをしていたことを攻められて苦闘していた。

 

 バイデン出馬が信憑性を帯びてくると、ヒラリー陣営は警戒感を高めた。そして、政策を一気に左派へと転換した。そして、共和党に対する攻撃を強めた。

 

 先週火曜日に行われた民主党の討論会がターニングポイントになった。ヒラリーは討論会で成功し、本選挙での戦いの準備ができているのかという疑いを持っていたが、それを払拭することが出来た。

 

 討論会の後に発表された世論調査の結果では、ヒラリーの支持率は回復していた。バイデンとの一騎打ちを想定した世論調査では、リードを拡大している。民主党の幹部たちはバイデンが出馬する次期を失ったのではないかと考えるようになった。

 

 バイデン副大統領が機会を完全に失ってしまったのは、今週火曜日であった。この日、バイデンはオサマ・ビンラディンを殺害することになった急襲計画に反対したということを否定した。彼のコメントは以前のコメントと矛盾するものであった。彼は、オバマ政権において最も重要な決断の時に、そのようなリスクの高い計画は実行すべきではないと反対したとその当時は述べていた。

 

 大統領選挙への出馬を取り止めると発表したが、バイデンはヒラリーを支持する準備はできていないと述べた。バイデン副大統領は、民主党にとってオバマの残した路線、そしてバイデン自身が残した路線を守ることが何よりも重要だと述べた。

 

 バイデンは次のように述べた。「民主党はオバマ政権の記録を守るだけではダメです。その記録に沿ってこれからも行動すべきです」。

 

 ローズガーデンでの声明発表の後、ヒラリーはバイデンと話したと報道されている。ヒラリーは「バイデンはこれからも民主党内で大きな力を持ち続けるだろう」と述べた。

 

 ヒラリーは声明の中で次のように書いている。「私はバイデンとの歴史が終わったとは思っていない。今日彼が述べたように、これからも彼がやらねばならない仕事は残っている。私が知っているジョーは、これからも最前線に立ち、私たちのために戦い続けてくれるだろう」。

 

 民主党員や支持者たちの大部分はバイデンの決断に安堵したようだ。それは、出馬を表明しても彼が予備選挙に勝つチャンスがあるだろうかと疑念を持っていたからだ。

 

 バイデンが選挙への出馬を表明しても、その段階で彼の銀行口座には選挙資金は1ドルも入っていないということになっただろう。一方、ヒラリーは今年の春に出馬表明をして以来、選挙資金として7700万ドル(約90億円)の政治献金を集めている。

 

 バイデンはサンダースとポピュリスト的な政策や言辞を使って戦うことは難しかっただろうし、ヒラリーと自分を対比してその違いを鮮明にすることに苦労したことだろう。バイデンとヒラリーはオバマ政権の最初の4年間一緒に働いたのだ。

 

 バイデンに出馬によってオバマも厳しい立場に追い込まれていたことだろう。バイデンとヒラリーが戦うことになると、オバマの政治的同盟者であり友人でもある2人が争うことになって、そのただなかに巻き込まれてしまうことになっただろう。

 

 民主党員の中にはバイデンに大統領選挙に出馬するように強く求める人々もいた。彼らは、バイデンの率直な、飾らないスタイルが、お高くとまったヒラリーに対して、対抗馬として十分アピールになると主張した。

 

 バイデンは、ホワイトハウスでの残りの生活において「沈黙を守る」ということはないとはっきりと述べた。そして、彼が重視するのは、がんの治療法を確立するという「壮大な試み」であると述べた。息子をがんで失ってから、このことは自分にとって「大変個人的な」願いと試みになったと述べた。

 

 彼は「私は民主党の立ち位置と私たちが1つの国として必要なことについてできるだけ多くの人々に影響を与えることが出来るように自分の意見をはっきり述べたいと考えている」と語った。

 

 バイデンは彼自身の人生を振り返った。彼は上院の中でも有力な議員となったが、大統領選挙には2度出馬してそれぞれ敗退した。彼は人々が公の仕事をやらせてくれる地位に彼をつけてくれ、そうした名誉を与えてくれたことに感謝すると述べた。

 

 バイデンは「私たち家族は公的な仕事の中で生きる目的を見つけた」と繰り返した。

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23