アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 今回は、ウクライナ情勢についての論文を一つご紹介いたします。「民主化」勢力の中身についての情報も含まれています。

 

 こういう情報も必要だと思います。

 

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「確かに、ウクライナ政府には悪い奴らがいる(Yes, There Are Bad Guys in the Ukrainian Government)」

 

キエフにいる評判が芳しくない人々について正直に話す時だ

 

アンドリュー・フォクソール、オレン・ケスラー筆

2014年3月18日

フォーリン・ポリシー誌

http://www.foreignpolicy.com/articles/2014/03/18/yes_there_are_bad_guys_in_the_ukrainian_government

 

 ウラジミール・プーチンは、「ロシアは、ウクライナ南部の国境地帯に住むロシア民族を守るためにクリミアに侵攻した」と主張している。ロシア大統領プーチンが主張しているように、ウクライナは、「ネオナチ、ナチス、反ユダヤ主義者たち」の支配下にある。そして、ウクライナに住むロシア人たちは脅威に晒されている。プーチンの言辞を非難することはたやすい。「プーチンは嘘を突き通しで、同性愛者と小児性愛者を混同し、コサックがパンクロッカーたちに昼日中、公衆の面前で催涙ガスを浴びせ、鞭で打つような国家の元首である」。しかし、西洋諸国の政府と学識経験者たちは、プーチンのウクライナ侵攻のポーズを非難したのは正確であったが、ウクライナ国内のプーチンの敵たちは正しいと推定したのは間違いだ。不都合な真実、それは、キエフの現政府を構成する人々の多くと彼らを権力の座に就けた講義に参加した人々の多くがファシストであるということだ。モスクワとキエフの両方にいる好ましくない人々の影響からウクライナを脱出させたいと西洋諸国の政府が望みなら、2方面の外交的攻勢をかける必要がある。一つはプーチンのプロパガンダに対する攻勢、もう一つはウクライナで勢力を復活させている極右勢力に対する攻勢だ。

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ウラジミール・プーチン
 

ウクライナは、全ウクライナ連合「自由」(スヴォボーダ)の本拠である。スヴォボーダは、現在のヨーロッパで最も影響力を持つ極右運動組織である。党の指導者であるオレーフ・チャフニボークは、「ウクライナは、“モスクワ=ユダヤ・マフィア”によってコントロールされている」と発言したことがある。また、チャフにボークの側近はウクライナ生まれの映画スターであるミラ・キュニスを「薄汚れたユダヤ女」と呼んだ。スヴォボーダの観点からすると、同性愛者は変質者であり、黒人がユーロヴィジョンコンサートでウクライナを代表することはおかしいということになる。スヴォボーダは「ウクライナがウガンダのような国だと視聴者に思われたくない」ので黒人は不適格だと主張した。

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オレーフ・チャフニボーク

 

 スヴォボーダは1990年代に社会国家主義政党として誕生した。これはナチスとして知られる国家社会主義政党の影響を表しているものだ。スヴォボーダのロゴマークは、ファシストが良く使う狼狩り用の道具だった。2004年、党は誰にも反対されない新しい名前「スヴォボーダ(自由)」に改名し、ナチス的なイメージを封印した。それから10年、スヴォボーダはウクライナ政治において躍進してきた。

 

 今日、スヴォボーダは国家機関に多くの人員を送り込んでいる。その中には軍隊も含まれている。その割合は全体の25%であり、ヨーロッパの他国の極右政党に比べてその割は断然大きいものとなっている。ウクライナの副首相、検事総長、議会の副議長はスヴォボーダから送り込まれている。スヴォボーダよりも小さくて、より過激な「右派セクター(Right Sector)」は、国家安全保障会議の副議長にメンバーを送り込んでいる。スヴォボーダは議会では第四党の地位を占めている。そして、スヴォボーダの新鮮な表面は、古い姿とあまり変わらなかった。スヴォボーダ公認で国会に初当選した人の一人は、「ヨーゼフ・ゲッベルス政治研究センター」の創設者であり、ホロコーストを「人類史における最も輝かしい時期」と呼んだ。

 

 2013年11月に最初にウクライナ危機が発生した時、西洋諸国の政府関係者たちは、ウクライナについて何も知らない状況にあった。冷戦終結によって、ソ連を構成していた国々に対する関心が急激に薄れてしまった。ロシア学者で元駐ロシア米大使を務めたマイケル・マクフォールは、ティーム・アメリカには「選手が不足している」と述べている。

 

ウクライナ危機によって、アメリカ側の情報の欠如が露わになった。2013年12月、新ロシア派のヴィクトール・ヤヌコヴィッチ大統領に対する抗議運動が始まった。その直後、アメリカの上院議員ジョン・マケインは、スヴォボーダの綱領に賛意を示し、オレーフ・チャフニボークを支持し、キエフに集まった人々に対して次のようなメッセージを送った。「自由世界は貴方たちと共にある。アメリカは貴方たちともにある」2014年2月、フランスとドイツは、オレーフ・チャフニボーク、その他2人の野党指導者、そしてヤヌコヴィッチとの間で和平協定を結ぶことを監督していた。その直後、ヤヌコヴィッチは抗議運動の圧力のために、ロシアに亡命した。そして、2014年3月初め、アメリカ国務省は、プーチンはウクライナについての誤った主張を行っており、ウクライナ議会には極勢力は存在しないとアメリカ人に向けて発表した。

 

 西洋諸国のマスコミ関係者も同じようなものであった。ロシア政府が資金を提供しているテレビ局であるRTアメリカのキャスターであったリズ・ウォールは、3月5日の生放送中にキャスターを自任すると発表した。彼女は勇敢さを賞賛された。CNNのアンダーソン・クーパーとのインタビューで、ウォールは、自分自身の決断について、「RTアメリカでは、ウクライナの反対勢力にネオナチがいるということを繰り返し放送せねばならず、嫌気がさしていた。そして、私は、このことは非常に危険だと考えた」

 

 それ以降、2014年3月16日にクリミアのロシア併合に関する住民投票が行われるまで、スヴォボーダは忙しさを極めた。スヴォボーダの主要な要求の一つは、全ての政府の業務をウクライナ語のみで行うことを法制化するというものであった。これが実施されると、ロシア語を話すウクライナの人口の3分の1、クリミア地方の人口の60%が排除されてしまうことになる。更には、スヴォボーダは「ファシズムを実施する」行為に刑罰を加えるという法律を廃棄するように求める動きにも出ている。

 

 ウクライナでナチスによる突然の反乱が起きるのだろうか?肯定的なニュースとしては、世論調査の結果が出て、オレーフ・チャフニボークの支持率は5%しかなく、ビタリ・クリチコ(体の大きい、親西洋の元ボクシングチャンピン)と中道右派の元首相ユリア・ティモシェンコにかなり後れを取っている。フランス、ドイツが進めようとした和平協定は、スヴォボーダに対してその力以上の政府の役職を与える結果となってしまったのだ。

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ビタリ・クリチコ

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ユリア・ティモシェンコ

 

 西洋諸国の政府は、少なくとも、スヴォボーダの台頭の共犯となった。短期的に見れば、ウクライナの指導者たちはどのような人たちかについてきちんと調べ、民族的優越ではなく人権の擁護を掲げている人たちだけを支援するようにすべきだ。中長期的に見れば、政府、大学、そしてシンクタンクはロシアとその周辺地域に関する研究に予算を再投入するようにすべきだ。

 

ウラジミール・プーチンのクリミア侵攻は強く非難されねばならない。その正当化の言辞は、4年前のグルジアのアブハジアと南オセチア地方の事実上の併合の時と同じだ。しかし、健全な政策とは、関与しているプレイヤーたちについての健全な分析によってこそ成立する。ロシア政府によって指摘され、西洋諸国も渋々でも認めねばならないポイントは、ヤヌコヴィッチを政権の座から追い出した抗議者たちとキエフの新しい指導者たちの多くがファシストであるということだ。

 

(終わり)