古村治彦です。

 

 今回も、2016年1月22日に発売された『BIS(ビーアイエス)国際決済銀行 隠された歴史』(アダム・レボー著、副島隆彦監訳・解説、古村治彦訳、成甲書房、2016年)の海外での書評を皆様にご紹介します。


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 是非、これらの書評を参考にしていただいて、お買い上げいただけましたら幸いです。宜しくお願い申し上げます。

 

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ニューヨーク・タイムズ紙2013年7月19日

 

http://www.nytimes.com/2013/07/21/books/review/tower-of-basel-by-adam-lebor.html?pagewanted=all

 

「彼らにはある秘密があるのだ:アダム・レボー著『バーゼルの塔』」

 

マイケル・フィアーシュ(Michael Hirsh)筆

 

アダム・レボーは最新刊『バーゼルの塔』で国際決済銀行(BIS)の歴史について書いている。この『バーゼルの塔』は、トム・ストッパードの戯曲『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』に似ているところがある。『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』では、『ハムレット』にほんの少しだけ登場する脇役ローゼンクランツとギルデンスターンが主役になり、『ハムレット』の劇中で起きる重要な出来事は背景の役割を果たしている。レボーは、BISはスイスのバーゼルに本拠を置く「中央銀行のための銀行」という曖昧な存在だと書いている。BISは1930年に創設され、ドイツの第一次世界大戦に関する賠償金支払いをスムーズに進めることをその使命とした。そして、BISは、80年以上にわたって、世界経済において重要ではあるが、秘密の役割を果たしてきた、とレボーは主張している。レボーは、「BISは現在、世界で最も重要な銀行となっている。説明責任を全く果たしていないのに、資金、力、隠然たる影響力の世界的なネットワークの中心に君臨している」と書いている。

 

BISは、大恐慌、第二次世界大戦、欧州通貨同盟の創設といった大きな出来事に関して、その裏面に深く関わった。BISには興味深い、そして秘密の歴史を有している。しかし、実際には、BISは歴史の創造者と言うよりは歴史の目撃者であり、スーパーマンと言うよりはフォレスト・ガンプのような存在なのである。レボーは、本書の副題に、陰謀論で出てきそうな「世界を動かす秘密銀行」とつけている。しかし、現在のBISは、そのような存在ではなく、中央銀行関係者たちの会談場所、クラブのような役割を果たしている。国際金融の世界は、今や世界規模で活動する巨大銀行、連邦準備制度、欧州中央銀行、その他の各国中央銀行によって動かされている。そして、各国中央銀行はBISのメンバーなのである。たいていの場合、各国中央銀行は各国の利益、もしくは地域の利益を最優先にして政策を立案する。

 

このような状況であるからこそ、BISについて詳しく書かれた本が必要なのである。ブタペストを本拠として活躍しているジャーナリスト、アダム・レボーはBISについて大変素晴らしい本を出版した。この本を読むと、金融は非道徳的な面を持っており、BISはそうした非道徳的なことを行ってきたこと、そして、国際的な資本移動に関してBISはより説明責任を果たす必要があることを教えてくれる。ウォール街の金融機関の重役たちがサブプライムローンの証券化を行い、それがもたらした厄災に対する責任を回避している現代にとってBISが教えてくれる教訓は重要なものである。

 

BISは1930年に秘密裏に創設された。そして多くの罪を犯しながら存続してきた。BISは、大恐慌時代のイングランド銀行総裁モンタギュー・ノーマンのアイディアから生まれた。ノーマンはメフィストフェレスのような外見であり、肩マントを着用し、ヴァンダイク髭を蓄えていた。また、2009年にピューリッツァ賞を受賞したライアカット・アハメドの『世界恐慌(上・下) 経済を破綻させた4人の中央銀行総裁』(吉田利子訳、筑摩書房、2013年)にもモンタギュー・ノーマンは出てきて、重要な(そして不幸をもたらす)役割を果たしている。ノーマンは「世界初の国際的な金融機関」として機能する新銀行の創設を望んだ、と書いている。そして続けて次のように書いている。「新銀行は、中央銀行総裁たちの会談場所となる予定であった。そこでは政治家からの要求や鵜の目鷹の目のジャーナルリストたちの詮索から自由になって、銀行家たちは世界金融システムが必要としている秩序と協調をもたらすべく話ができることになっていた」

 

ノーマンの提案を熱心に支持したのがヒャルマー・シャハトであった。シャハトもまた20世紀の金融の世界に出現したファウストのような人物であった。ドイツ帝国銀行総裁シャハトは新銀行をドイツの第一次世界大戦の賠償金の支払い負担の過酷さを緩和する役割を果たすものだと考えた。その後、ナチスが権力を掌握した時、戦勝国側をうまく出し抜いてドイツの賠償金支払いを完全に停止するのにBISが利用できると考えた。1930年代、シャハトは魔法のような手法を用いてドイツの財政を立て直した。これによってアドルフ・ヒトラーは戦争を行うことができるようになった。ずる賢いが、聡明な総統ヒトラーは、彼のために働く銀行家シャハトについて、「生き馬の目を抜く金融の世界でも、知性溢れるアーリア人がユダヤ人よりも優秀であることを示している」と称賛していた。

 

第二次世界大戦が始まった。この時期、BISは最も暗い時代を過ごさねばならなかったし、金融の歴史における最も恥ずべき出来事の一つがこの時期に発生した。スイスが中立であったために、バーゼルは「国際的なオアシス」のような存在となった。しかし、BISは中立などではなく、連合国側に対してよりもナチスに対してより協力的であった。チャールズ・ハイアムの『国際金融同盟―ナチスとアメリカ企業の陰謀』(青木洋一、マルジュ社、2003年)をはじめとする既刊の様々な本で描かれているように、BISの理事たちは、ナチスが占領した国々で略奪したり、強制収容所で殺害された犠牲者たちの遺体から取り出した金歯を溶かしたりして集めた金の売却を手助けした。そして、理事たちは、ドイツ第三帝国が金の売却で現金を得られるようにし、その現金で戦争遂行に必要な天然資源を購入する手助けも行った。BISはドイツを外の世界とつなぐ配水管のような役割を果たした。ドイツ帝国銀行副総裁エミール・プールはBISをドイツ帝国銀行の「唯一機能している海外支店」と評した。プールの友人トーマス・マッキトリックはアメリカ人で、戦時中BISの総裁を務めた。レボーはマッキトリックについて、「戦時中、ドイツ帝国銀行首脳部に経済面の、そして金融上の重要情報を繰り返し提供していた」と書いている。レボーは、マッキトリックが「ヒトラーのために活動したアメリカ人銀行家」と言う役割を果たしたにもかかわらず、それが問題にならなかったと書いている。確かに、マッキトリックは戦後、チェース・ナショナル銀行の副頭取に収まっている。

 

BISは戦時中、道徳に反した行為を行った。これに対して、1944年にアメリカのニューハンプシャー州ブレトンウッズで開催された会議の席上、米財務長官ヘンリー・モーゲンソーとアメリカ代表団を率いていた財務次官ハリー・デクスター・ホワイトはBISの解散と、新設の世界銀行と国際通貨基金による戦後の国際システムの構築を主張した。しかし、ジョン・メイナード・ケインズをはじめとするBISの後援者たちは有力者が多く、彼らの介入によってBISの存続が決まった。

 

BISは、顧客である中央銀行間の金と外貨準備の売買を仲介し、各国の中央銀行に対しての短期融資と資産管理サービスを提供するように設計されていた。しかし、現在、このような業務は必要ではなくなっている。BISはその変化に富んだ歴史や存在理由を2回も喪失するという経験を乗り越えて存続してきた。BISの存在理由はドイツの賠償金支払いとブレトンウッズ体制下での金本位制の維持であったが、これらは消失してしまった。1960年代以降、BISは欧州通貨同盟発足の準備を行ってきた。そして、続いてより重要な欧州通貨機関と欧州中央銀行の創設の準備に取り掛かった。

 

現在、BISは、啓蒙的な役割を果たすようになっている。BISは、銀行業監視のためのバーゼル委員会の開催場所となっている。バーゼル委員会は、国際業務を行う民間銀行が自発的に守る自己資本比率を決定することを目的にしている。そして、BISは金融に関する専門知識をも提供している。BISの経済調査・研究に従事しているスタッフたちは、1990年代後半に発生したアジア通貨危機やそれから10年後のサブプライムローン危機に対して警告を発していた。彼らは先見の明がある予言者のような役割を果たした。BISは2008年に発生した金融危機に向かう数年間に警告を発していた数少ない金融機関の一つであった。しかし、レボーが主張しているように、「BISは問題があることは知っていたが、各国の政策立案者たちが金融危機の発生を防ぐ方策を採る、もしくは衝撃を和らげる方策を採るように説得することはできなかった」のである。実際のところ、BISには動揺はなく、BISはただバーゼル委員会の開催場所でしかない。BISは各国の中央銀行の総裁たちが運営している。そして、BISは大きな影響力を持っている。

 

現在においても、BISは、理事会のメンバーとなっている18の中央銀行よりも情報公開が遅れている状態だ。BISの資産は差し押さえられることはない。民間銀行の自己資本比率の決定過程は曖昧である。そして、多くの批評家が述べているように、BISが行う勧告の内容は甘すぎるものだ。BISは国際機関を創設することは容易なことであるが、廃止することは困難という事実を示している。レボーは、結論として、「BISは21世紀を通じて信頼を醸成するだろう。しかし、BISの存在にとって信頼など必要なものではないのだが」と書いている。

 

(終わり)

 

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ウォールストリート・ジャーナル紙 2013年6月24日

 

http://online.wsj.com/article/SB10001424127887324577904578555670685396736.html

 

「本棚:テクノクラートたちのクラブハウス(A Clubhouse for Technocrats)」

 

国際決済銀行(Bank for International Settlements)は、中央銀行関係者たちのために用意された議論の場という存在以上に、ある種の非民主的な倫理を体現した存在である。

 

フィリップ・デルヴェス・ブロウトン(Philip Delves Broughton)筆

 

中央銀行総裁たちに対しては、聡明で影響力はあるが、説明責任を果たしていないという批判がなされる。彼らはワシントン、ロンドン、そしてフランクフルトから出てくると、名言を口にし、頭の良さを私たちに示す。彼らのやることを調査することはできない。その結果、彼らのやることは魔法のように感じられる。ただ投票するしかできない有権者たちが、中央銀行の総裁たちが駆使する魔法を理解できるだろうか?そんなことは放っておくのがより良いことだと多くの人たちは考えるだろう。

 

アダム・レボーの新刊『バーゼルの塔:世界を動かす秘密銀行の隠された歴史』は、彼ら金融界の神官たちに対する挑戦というような内容になっている。レボーは、彼ら中央銀行総裁たちは 彼らは民主政体が最も恐れなければならない存在である。彼らは金融分野におけるルールを利用する暴君たちである。彼らは文民が統制する軍隊や議会がコントロールできる存在などよりも危険なのである。

 

国際決済銀行は、その何の面白味もない名前とは裏腹に、特別な存在であり、強力な野獣のような存在である。BISは1930年に創設された。ドイツが賠償金支払いの負担を何とか軽減しようと努力していた時、ヨーロッパ各国の中央銀行総裁たちが集まって協議して創設が決定されたのである。長年にわたり、BISはバーゼル駅の近くのホテルであった小さな建物に本部を置いていた。世界中の中央銀行の総裁たちは毎月BISに集まり、BISが提供する素晴らしい雰囲気の中で、最新の問題について私的に話し合い、夕食を楽しむ。BISは中央銀行の総裁たちのクラブハウスなのだ。

 

しかし、BISはただのクラブハウス以上の存在である。BISには600名の職員がおり、彼らはスイスに居住している限りにおいて外交特権を享受している。BISは中央銀行間の取引の決済を行う清算機関であり、同時に融資も行うし、資産管理に関するサービスも提供する。BISはまた研究機関でもあり、BISのアイディアからユーロが実現し、銀行業に対する規制も生み出された。BISの銀行業監視バーゼル委員会には法的な強制力は存在しないが、道徳的、そして知的な権威によって民間銀行の資本と流動性に関して必要な条件を設定している。BISは年間10億ドル以上の売り上げを記録している。この売り上げには税金がかからない。そして、彼らは株主である各国の中央銀行に配当を支払っている。

 

これこそが権力者共同謀議論を信奉する人々(陰謀論者とも呼ぶ)の抱く夢なのだ。

 

レボーが述べているように、BISは、「世界を最もうまく運営できるのはテクノクラートだ」という考えを象徴している存在だ。BISを政治家に任せてしまえば自分たちの権威づけのために利用するだろうし、そもそも一般の人々はBISになど興味を持たない。そこで、経済学の博士号を持っていて、何でもよく知っている人々に、秘密のうちに仕事をさせることになる。これがBISの現実なのだ。『バーゼルの塔』の説得力のある書籍だ。それは、彼がBISに対して異議申し立てを行うことを目的にして書いているからだ。この本からは、レボーがアイダホの片田舎の小さな家でこの本の原稿を書いていて、彼の子供を誘拐するために国連やゴールドマンサックスの職員がその家に侵入してくるのを待っている、そんなある種の気迫が感じられる。

 

レボーはBISの創設から欧州統一通貨ユーロの導入で果たした役割、その結果としてもたらされた現在のヨーロッパ経済の混乱を一つの線で結んでいる。また、BISがドイツ第三帝国と行った非難すべき取引についても多くのページを割いて書いている。レボーは、BISは金融の分野で重要な役割を果たしてきたが非道徳的であり、この非道徳性は大変に危険だと考えているようだ。

 

BISが背負っている恥ずべき原罪、それは、BISがドイツ第三帝国を他国と区別なく取り扱ったことだ。1939年、ナチス・ドイツはプラハに侵攻した。その直後、BISはチェコスロヴァキアの保有していた金をベルリンに移すことを手助けした。第二次世界大戦中、BISの幹部たちはナチスとIGファルベンのような企業群と深い関係を維持していた。IGファルベンのような企業群はナチスに協力し、ホロコーストが効率的に実行される手助けをした。BISの理事を務め、ナチス政権下でドイツ帝国銀行副総裁を務めたエミール・プールは、BISのことを「ドイツ帝国銀行の唯一の海外支店」と評した。

 

戦後、BISは、ハンナ・アーレントが「机上の殺人者たち」と呼んだドイツの銀行家と産業資本家たちのために経歴や評価のロンダリングサービスを提供した。彼らは、経済的に統合された新生ヨーロッパの柱石として再び表舞台に登場した。1946年までBIS総裁を務めたアメリカ人のトーマス・マッキトリックは、IGファルベンの重役たちが逮捕され起訴されて有罪になっても、短い刑期になるように行動した。ナチス政権下、ナチスと深い協力関係にあったIGファルベンのCEOだったヘルマン・シュミッツはその恩恵を受けた一人だ。シュミッツは戦後、ドイツ銀行の取締役となった。カール・ブレッシングは1930年代、BISに勤務していた。そして戦時中、ドイツのコンチネンタル石油の財務担当取締役を務めていた。コンチネンタル石油は、ドイツ第三帝国の強制収容所の収容者たちの重労働を頻繁に利用した企業の一つである。戦後、ブレッシングは逮捕され投獄されたのだが、国際銀行業の分野の古い友人たちの助けもあって、ドイツ連邦銀行総裁として表舞台に復帰した。

 

「不愉快な、そして人々が話したがらない真実は、戦後ヨーロッパ経済に関するナチスの考えていた計画と実際のヨーロッパにおける通貨と経済統合計画が全く同じ内容だということだ。BISはこの2つをつなぐ糸のようなものだ」とレボーは書いている。

 

レボーは、BISの非道徳的、非民主的な思考様式はいまだに残っていると書いている。レボーは、BISとBISに所属している経済学者やエコノミストたちは「国家主権の消失」についての知的な土台とモデルを提示した。その結実がユーロ導入であった。レボーは次のように書いている。「ヨーロッパ統合プロジェクトとBISの使命両方にとって重要なのは、現在行われている決定、政策、行動が『技術的で非政治的』なもので、一般の人々は何も懸念する必要なないという主張である。しかし、実際のところ、その反対が本当のところだ。選挙で選ばれない人間たちが運営する国家を超える機関に国家主権を明け渡すこと以上に政治的な動きというものは存在しない。バーゼルにある秘密主義で説明責任を負わない銀行によって、国家を超える機関が必要とする財政に関するメカニズムが調整され、運営されるようになった」

 

同じことが金融危機についてでも言える。BISは、発表した2007年から2008年にかけての年度の年次報告書において、過度のレバレッジの危険性に対して警告を発した。しかし、BISは金融危機を阻止することはできず、発生後の状況を少しでも改善することしかできなかった。BISがより民主的な機関であれば、義務を放棄したことについてきちんと説明責任を果たしたことだろう。しかし、BISは説明責任を果たすことなく、特権的な権力を有する、官僚にとって理想郷のような存在なのである。私たちは、各国の中央銀行を通じてではあるが、BISの顧客なのである。しかし、BISに私たちの意見を反映させる手段は存在しない。現在、ギリシアの失業者たちは自分たちの家具を燃やして暖を取っているような状況だ。一方、民間銀行は大きな利益を上げ、中央銀行の総裁たちは緊縮財政を私たちに押し付けながら、自分たちはバーゼルで豪華な食事を楽しんでいる。これは醜い状況だ。そして、レボーはこうした状況をうまく描写して、私たちに伝えている。

 

(終わり)

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