古村治彦です。

 

 今回は、昨年末に発表された、戦時中の韓国人慰安婦問題に関する合意に関する、ヘリテージ財団のブルース・クリングナー研究員の論説をご紹介します。

 

 目新しさのない、一般的な解説記事ですが、ヘリテージ財団とクリングナー研究員については今年もしっかり観察しておかねばならないと考え、論説をご紹介することにしました。

 

 世界情勢が不安定さを増している中、今回の日韓合意も世界と絡めて見る、言い換えると、アメリカの国益と絡めて見る必要があります。そうすると、今回の合意は、対中国、対北朝鮮という要素が大きいことが分かります。

 

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韓国と日本が「慰安婦問題」問題を解決(South Korea and Japan Resolve ‘Comfort Women’ Issue

 

ブルース・クリングナー(Bruce Klingner)筆

2015年12月28日

『ザ・デイリー・シグナル』誌

http://dailysignal.com/2015/12/28/south-korea-and-japan-resolve-comfort-women-issue/

 

月曜日、韓国と日本は長年にわたり、両国の間を引き裂いてきたいくつかの問題の解決に合意した。これは記念碑的な出来事だ。これらの諸問題は1910年から1945年まで続いた日本の朝鮮半島支配の結果として生まれたものだ。

 

 両国を最も感情的にしてきた複雑な問題として、「慰安婦」と呼ばれる制度例となることを強制された女性たちの存在がある。

 

 日本側は、この問題は、賠償を含めて、1965年に結ばれた、日韓の国交正常化のための日韓基本条約とそれ以降の複数回の謝罪声明で解決済みだと主張してきた。韓国側は、解決のためには更なる手段が必要だと主張してきた。

 

 韓国外相と岸田文雄・日本外相は、最終合意に向けて韓国の首都ソウルで会談した。合意内容の骨子は以下の通りである。

 

・日本政府は10億円(約830万ドル)を賠償として支払う。

・安倍晋三総理大臣は慰安婦に対して謝罪と反省を表明する。

・韓国政府は、市民団体に対して、ソウルの日本大使館近くに設置してある慰安婦の銅像の撤去を市民団体に要請する。

・日韓両国は、双方を批判しないことを約束し、今回の解決が「最終的で、覆されることのない」ものだと確認する。

 

 会談後の記者会見で日本の岸田外相は、日本は、女性たちを強制的に奴隷的労働に従事させたことに関して「責任を痛感」する、こうした強制的な労働によって「被害者となった女性たちの尊厳を傷つけることになった」と述べた。岸田外相は安倍首相が反省の意を表明し、「心からの謝罪」をし、今回の合理を誠実に履行することで、被害女性たちの尊厳を回復することに貢献したいと述べた、と語った。

 

憎しみの醸成

 

 日韓関係は、長年にわたり、度重なる緊張によって憎しみの醸成が行われ、常に良好な関係とは言い難い状態にあった。従軍慰安婦問題は、1990年代に生存者たちが初めて自分たちの苦難の物語を口にし始めてから、20世紀の日本による朝鮮半島支配に対する怒りの象徴となった。

 

 韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は、慰安婦問題を二国間の抱える諸問題のよう点であるとし、安倍首相との首脳会談を拒否した。そのために、慰安婦問題はこれまで以上に日韓両国にとって重要さを増した。しかし、安倍首相と朴大統領は2015年に両国関係を改善し、年末までに慰安婦問題の解決することを目指すと明言していた。

 

 今回の合意は、日韓両国の相互信頼を構築し、日韓関係を改善するために、慰安婦問題を解決するための効果的な基盤を提供するものだ。

 

●アメリカにとって日韓の合意が意味するもの

 

 アメリカは、アジアにおける同盟諸国が歴史における相違点を乗り越え、現在の北朝鮮と中国の脅威に対応することが出来ることになる今回の合意を歓迎するだろう。アメリカ政府は、歴史問題についての日韓両国の非妥協的な態度に苛立っていた。

 

 日韓関係の改善を阻害する要因を取り除くことで、悪化する北朝鮮の核の脅威を抑止するために、アメリカ、日本、韓国の間の軍事的な協力関係を増進することになる。2012年6月、韓国政府は日本政府との間で軍事情報共有に関する合意を拒絶した。この合意は、北朝鮮のミサイル攻撃に対しての三カ国の防衛体制を改善することに貢献するはずであった。

 

 今回の日韓合意によって、韓国は、安全保障に関する同盟諸国との合意を復活させることになるだろう。そして、自国の弾道ミサイル防衛システムを同盟諸国とつなげることによって、より包括的で効果的なものとすることが出来る。

 

今回の合意は、安倍首相と朴大統領の外交上の粘り強さと勇気がもたらした成功である。これによって両国間の克服しがたい相違を乗り越えることが出来た。しかし、合意がなされたことで、日韓両国の指導者はそれぞれの国のナショナリスト的な要素を押し返さねばならなくなっている。

 

 日本帝国陸軍の戦時中の残虐行為への関与を否定している日本の極右グループは、今回の日韓合意を骨抜きにしようとしている。韓国の非政府組織は日本側の反省の意を評価せず、日本側の更なる譲歩を求めている。

 

 韓国の市民団体が日本大使館前に設置した慰安婦の銅像を撤去する、もしくは将来の抗議運動を止める、といったことを拒否する場合、日本は合意内容を履行しないこともあり得る。また、戦時中の日本の行為に対する法的責任に関する解釈の違いでまた更なる困難が出てくることもあるだろう。

 

※ブルース・クリングナー:ヘリテージ財団付属アジア研究センター北東アジア担当上級研究員。CIAと国防情報エージェンシーの情報畑で20年勤務した。

 

(終わり)