古村治彦です。

 

 今回は、アメリカ大統領選挙に関して、「2016年の米大統領選挙は外交問題が大きなテーマ、争点になるだろう」という内容の記事を皆さんにご紹介します。

 

 アメリカ人は外国のことに無関心だと言われます。これは確かにその通りですが、一般的に普通の人々はどこの国の人でもそこまで外国のことに興味関心を持たないものです。今年2016年は米大統領選挙が行われ、新大統領が誕生します。大統領選挙の争点はほとんどの場合、経済でした。具体的には雇用・失業問題、収入の増加と言ったことがテーマになってきました。外国のことや外交政策が最大の争点になったことはほぼありませんでした(冷戦初期は除く)。

 

 そんなアメリカ人でも、現在の中東やヨーロッパの情勢は他人事ではないようです。それは、彼ら自身の生活にテロ攻撃という形で大きな影響を及ぼすと考えるようになっているからです。

 

 何事も始めるのに遅すぎることはない、という言葉はありますが、アメリカ人が自分たちの国アメリカが外国にやってきたこと、これからやろうとしていることについてやっと目を覚ましたのは良いことかもしれません。

 

しかし、アメリカの対外政策はどちらにしても強硬なものになるということは言えるでしょう。民主党のヒラリーが大統領選挙に勝利して、きれいごとを建前にして、外国に介入していく、ということはすでに既定路線となっています。

 

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問題は外交政策なんだよ、バカ野郎(It’s the Foreign Policy, Stupid

 

大統領選挙はほとんどの場合、経済が争点となる。2016年の場合はその例外となるかもしれない

 

ブルース・ストークス(Bruce Stokes)筆

2016年1月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/01/05/its-the-foreign-policy-stupid/

 

 これまでのアメリカ大統領選挙で、外交政策が重要な問題として取り上げられたことは少ない。多くの場合、「問題は経済なんだよ、バカ野郎(it’s the economy, stupid)」ということで、経済が最重要問題となってきた。しかし、2016年の米大統領選挙は例外となるかもしれない。ホワイトハウスの主を目指すレースが過熱しつつある中で、アメリカ国民は、外交政策、特にテロリズムについて考えるようになっている。そして、有権者の多くは、2016年のアメリカが直面している最重要の問題は、経済ではなく、国家安全保障だと考えている。

 

 2011年12月、2012年の米大統領選挙の直前にピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、55%のアメリカ人たちが、失業、貧困、不平等など、経済に関する不安を最も重要な問題だと考えていた。国防やイラク戦争のような国際問題を最重要だと考えた国民は6%だけだった。2014年12月の時点では、アメリカの抱える問題について、9%の国民が外交政策を挙げ、34%の国民が経済問題を挙げた。しかし、2015年12月の時点では、32%の国民が国際問題を最重要の問題だと捉える一方、23%の国民が経済問題を最重要だと考えるという結果が出た。

 

 アメリカ人が現在の世界で懸念を持つ場合、その多くの部分を占めるのはテロリズムだ。サンベルナルディーノでの銃乱射事件が起きる直前、パリでテロ攻撃により、多くの人々が殺傷された。この時、18%のアメリカ人が、アメリカの直面している問題の中で最も深刻な問題がテロリズムだと考えているという結果が出た。2014年12月の段階では、この数字は1%であった。25%のアメリカ人は2016年にイスラミック・ステイトやイラクとシリアの戦争がアメリカにとって最大の問題となると答えている。

 

 しかし、テロリズムとイスラミック・ステイトは、人々の中で混同されているかもしれない。ロシアにおいて確立されつつある権威主義的政治体制から世界規模の気候変動まで、アメリカの存立にとっての潜在的な国際的脅威のリストについて尋ねられた場合、83%のアメリカ人がイスラミック・ステイトを「大きな脅威」だとして、リストのトップに挙げている。2014年8月の段階で、この数字は67%であった。その他の国際的な問題に関してはこれまでとそんなに変化はしていない。国際的な脅威について考える場合、アメリカ人はテロリズムとイスラミック・ステイトを混同している。

 

約6割(62%)のアメリカ人がイランの核開発プログラムをアメリカの存在にとっての深刻な脅威だと見なしている。そして、ほぼ同じ割合(59%)のアメリカ人が北朝鮮の核開発プログラムに懸念を持っている。興味深いことに、これら2つの懸念は、中国の世界大国としての勃興に対する不安(49%)やイスラエル・パレスチナ紛争(43%)を超えているのだ。

 

 今回の大統領選挙で言えば、外交政策の重要性について共和党支持者と民主党支持者との間で分裂が起きている。共和党支持者の42%、民主党支持者の24%が、アメリカが直面している諸問題の中で国際的な懸念が最も深刻だと答えている。

 

 アメリカの存立にとっての国際的な脅威に関して、同様の党派的分裂が存在する。共和党支持者、民主党支持者両方ともイスラミック・ステイトについて懸念を持っている。しかし、両者には14%の温度差がある。共和党支持者の93%、民主党支持者の79%が懸念を持っている。共和党支持者の約8割(79%)、民主党支持者の約5割(52%)が、イラクの核開発プログラムを深刻な問題だと考えている。イスラエル・パレスチナ紛争と中国の超大国としての台頭に関しては、18%の温度差が存在する。これらの問題の場合、共和党支持者の方が民主党支持者よりも懸念を持っている。

 

 この党派による違いは、テロリズムとイスラミック・ステイトに関してどのように考えるかについての違いを生み出している。

 

 圧倒的な軍事力を使用してテロリズムを抑止するか、もしくは軍事力の使用によって更なるテロ攻撃を生み出す憎悪を作り出すか、について国家は分裂している。しかし、このアメリカ国内の分裂は、深刻な党派分裂を包含している。共和党支持者の72%は軍事力の使用が解決策だと答えている。一方、民主党支持者の66%は、軍事力使用が更なるテロリズムの種となるという懸念を持っていると答えている。

 

 同様に、共和党支持者の75%がイラクとシリアにおける軍事行動について懸念を持っているが、アメリカはイスラム民兵組織を掃討することはできないと答えている。一方、民主党支持者の61%は、アメリカが中東に関与し過ぎることに懸念を持っている。

 

 アメリカの有権者が11月の大統領選挙で投票ブースに入るまでに、テロリズムやイスラミック・ステイトをはじめとする国際問題の懸念が、アメリカ国内で大きな関心を持たれ続けるかどうかは、その時の状況次第だ。その時の状況は誰にも予測できない。景気後退や国内政治のスキャンダルが人々の耳目を再び惹きつけることになる可能性もある。しかし、現在のような危機に瀕した状況の中で、外交政策の分野における「ブラック・スワン」と呼ばれるようなリスクが存在しないなどということはできない。アメリカ国内でのテロ攻撃、シリア、イラク、アフガニスタン、ロシア、中国で状況が悪化することが起きるかもしれない。2016年の米大統領選挙がこれまでの大統領選挙のように、外交政策が最重要のテーマとなっても、驚くには値しない。

 

(終わり)