アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



「習近平は団派のようなライバル派閥の人々をわきに追いやることに成功しているのか?」という疑問よりも、もっと重要な疑問は、「習近平が権力を拡大し、絶大な力を持つことは彼自身にとって良いことなのか?」という疑問である。中央全面深化改革領導小組を例に採れば、この機関は共産中国史上最大の高度な意思決定機関だと言える。この機関には4名の中国共産党中央政治局常務委員が参加し、主席と副主席を務めている。それ以外に、10名の中央政治局委員が参加している。中央全面深化改革領導小組は良く練られた構成となっている。これによって、習近平は、経済、行政、社会、文化の各方面の諸改革の将来に向けた道筋を直接監督することができるのである。(Finance.Sina.com[北京]、2014年1月24日;BBC中国語放送、2013年12月30日;ドイチェ・ヴェレ中国語放送、2013年12月30日)また、習近平は意思決定において明確な上意下達の命令系統を、中央全面深化改革領導小組を通じて持つことになるだろうと予測されている。第18期中国共産党中央委員会三中全会において示された文書には、諸改革の秩序だった実行について次のように書かれている。「私たちは、状況全体に責任を持ち、様々な部門を調和させるという党の中核的な機能を発達させねばならない」。習近平は中国共産党の最高機関が改革の様々な側面に責任を持つようにすると決意した。しかし、習近平の決意は、李克強が強調した、経済における官僚の介入の度合いの削減と「市場と社会の創造的な力の促進」を妨げるもののように考えられる。( China News Service、2013年11月17日;Caijing.com[北京]、2013年7月13日)

 

 ここで出てくる疑問は、習近平とつながりがある人々の質と能力はどうなのか、というものだ。習近平は自分の派閥に人を集め結束させることに腐心しているようである。従って、側近たちを昇進させる際に、職業上の能力よりも個人的な忠誠心を重視しているように見える。例えば、昨年陳希が中国共産党中央組織部のナンバー2に任命されたことについて考えてみる。陳希は才能あふれる工学の専門家であり、1990年代前半にはスタンフォード大学の客員研究員をしたこともある、陳希はキャリアの大半を清華大学で過ごした。2000年代の7年間は清華大学党委員会書記を務めた。また国務院教育部と中華科学技術協会に勤務していた経験もある。しかし、陳希は人事と組織に関する経験に欠けている。更に興味深いのは、陳希は沈躍躍(Shen Yueyue、1957年~)と交代して組織部副部長に就任したという事実だ。56歳の沈躍躍は陳希よりも若いだけでなく、人事や人材管理についてより知識を持っているのだ。沈躍躍は胡錦濤前国家主席の派閥に属しており、1998年から2002年にかけて浙江省と安徽省で組織部の幹部を経験している。そして、2003年から2013年まで中国共産党中央組織部副部長を務めたのだ。陳希の昇進は、習近平が大学の同級生に対して、人事の専門家であり、誰を政府内に入れるかの門番役である趙楽際の手助けをして欲しいと望んだ結果だと結論付けるのは難しいことではない。習近平派の利益にそぐわないと思われる人物は中央組織部の推薦を受けられずに昇進が難しくなるということになるのだ。(Radio Free Asia、2013年4月30日;大公報、2013年4月18日)江沢民と胡錦濤の組織哲学と同じく、習近平は 彼の最も信頼する人物を中国共産党中央組織部や中国共産党中央宣伝部のような「重要な機関」に配している。江沢民の時は曽慶紅、胡錦濤の時は李源潮が中国共産党中央組織部長となった。彼ら2人は上司である江沢民と胡錦濤にとって掛け替えのない助言者であった。

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沈躍躍

 

 2013年11月の第18期中国共産党中央委員会三中全会で採択された文書の重要性を説明しつつ、習近平は「改革を包括的に深化させることはシステム工学的に言えば、複雑なことである」と指摘している。彼は次のようにも発言している。「必要なことは、トップがデザインをし、包括的に計画を立て計算することだ」。国営の中国新聞は更に次の世に書いている。「習近平の中央全面深化改革領導小組の主席就任は、この機関が充分な権威を持ち、決定がスムーズにかつ有効に行われるということを担保している。習近平はこのような方法で既得権益からの抵抗と妨害を排除しようとしているのだ」。(中国新聞、2013年12月31日;New Beijing Post、2013年11月14日習近平の正統性を更に強化し、人気を高めるために、習近平と彼の側近たちは、「国家主席は改革の速度を加速させるために権力を掌握しつつある」ということを示していかねばならない。彼らといえども毛沢東流の権力の事故強化スタイルから逃れることはできないのだ。

 

(終わり)